ジヒドロネペタラクトンを含んでなる昆虫忌避組成物
ジヒドロネペタラクトン、ネペタ・カタリアのようなキャットニップ(ネペタ種(Nepeta spp.))の精油の副天然成分が有効な昆虫忌避化合物として特定された。ジヒドロネペタラクトンの合成は、ネペタラクトン、キャットニップ精油の主成分の水素化によって達成されてもよい。芳香性をも有するこの化合物は、その昆虫忌避性のために商業的に使用され得る。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本件出願は、あらゆる目的のためにその一部として全体を援用される、2003年5月19日出願の米国特許出願第10/392,455号の一部継続である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、昆虫忌避性の分野、および一般に忌避物質としてジヒドロネペタラクトン立体異性体使用に関する。
【背景技術】
【0003】
忌避物質は一般に、昆虫が別のやり方で昆虫許容性食餌源または生息場所から忌避される、またはそれらを拒絶することを引き起こす。米国での昆虫忌避剤販売の少なくとも85%は、それらの第一の活性成分としてN,N−ジエチル−m−トルアミド(DEET)を含有する昆虫忌避剤向けである。さらに、コンシューマー・リポーツ(Consumer Reports)試験は、最高濃度のDEET入り製品が蚊に対して最も長く持続することを示した。有効な忌避剤ではあるが、DEETは不快な臭気を有し、皮膚に脂っぽい感じを与える。さらに、それはEPA(環境保護庁)によって米国での使用について最近になって再登録されたが、特に子供に塗布された時に、その安全性に関して懸念が提起された(非特許文献1)。幾つかの研究は、高濃度のDEETが幾つかの個体でアレルギー反応または毒性反応を引き起こす恐れがあることを提言してきた。DEETに関連した他の不利な点には、1)それは合成化学物質である、すなわち、それは天然源から誘導されていない、2)それは活性の限定スペクトルを示す−それは、例えば、黒足ダニまたは鹿ダニに対して望まれるほど有効でない(非特許文献2)、3)DEETは多くのプラスチックおよび塗装表面を溶解するまたは傷つける、および4)DEETは、局所製剤で典型的に使用される幾つかの不活性成分を可塑化するかもしれず、それはより低いユーザーの容認につながることが含まれる。
【0004】
上の制限の結果として、忌避活性を持ったDEETを含まない製品は消費者の支持を見いだしつつある。具体的には、天然物を含有する組成物に対する需要は増えつつある。新たな候補忌避剤は特性の望ましいバランスを有するべきであり、好ましくはDEETの正の特性に達するまたはそれを超える、および/またはその負の特性に苦しまないであろう(非特許文献3)。DEETの潜在的な代替品は望ましくはさらにまた、優れた忌避性、高い残留活性ならびにヒト(またはペット)および環境への低い毒性の組み合わせを示すべきである。さらに、天然植物原料から得ることができる、またはそれから合成することができる、かつ、使用に快い忌避化合物に対する需要は増えつつある。DEETに取って代わるいかなる候補も刺す昆虫、木喰虫、有害昆虫、家庭害虫などを含むが、それらに限定されない、ヒトによって有害であると考えられる多種多様な昆虫に対して忌避性を示すべきである。
【0005】
多くの植物種は昆虫忌避および芳香化学物質の天然源として使用される精油(芳香油)を生産する[非特許文献4]。昆虫に対するその一般忌避性について知られるシトロネラ油は、イネ科植物シムボポゴン・ウィンテリアヌス(Cymbopogon winterianus)およびシー.ナーダス(C.nardus)から得られる。芳香化学物質の源として使用される植物の例には、メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis)(メリッサ)、ペリラ・フルテセンス(シソ)、ポソステモン・キャブリン(Posostemon cablin)(パチョリ)および様々なラバンデュラ種(ラベンダー)が挙げられる。価値のある油を生産する植物のこれらの例のすべてがシソ科植物(ラミアセアエ(Lamiaceae))族のメンバーである。属ネペタ(Nepeta)の植物(キャットニップ(catmint))もまたこの族のメンバーであり、商業の副品目である精油を生産する。この油は、イリドイドとして知られるモノテルペノイド化合物[非特許文献5]、より具体的にはメチルシクロペンタノイド・ネペタラクトン[非特許文献6]および誘導体の類に非常に富んでいる。
【0006】
イリドイド・モノテルペノイドは、様々な昆虫種に対する有効な忌避剤であることが長い間知られてきた(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。キャットニップ油(主としてネペタラクトン)の忌避性の研究は、それが短期曝露では多数の昆虫種を忌避するが、多数の他の種を忌避しないことを示した(非特許文献11)。
【0007】
特許文献1は、二環式イリドイドラクトン(例えば、イリドミルメシン(iridomyrmecin))を含有する組成物の昆虫忌避剤を開示している。さらに、特許文献2は、DEETとの増強昆虫忌避混合物でのこれらの二環式イリドイドラクトン組成物の使用を開示している。特許文献3は、カットニップ植物エヌ.カタリア(N.cataria)から誘導されたネペタラクトンを含んでなる昆虫忌避剤、および昆虫忌避剤としてのネペタラクトン立体異性体の特異な効能を開示している。
【0008】
ジヒドロネペタラクトン(DHN)、ネペタラクトンから誘導されたイリドイド・モノテルペノイドの類(図1に示される)を含有する組成物は、殺虫効果を提供することが知られている。例えば、アリ・イリドミルメックス・ニチダス(Iridomyrmex nitidus)の肛門腺からの分泌物の組成物の研究は、イソジヒドロネペタラクトンがイソイリドミルメシンと共にかなりの量で存在することを示した(非特許文献12)。イソイリドミルメシンは良好な「ノックダウン」殺虫活性を有することがその時点で知られていた。
【0009】
非特許文献13は、アリの昆虫忌避性分泌物中のジヒドロネペタラクトンの存在を開示しているが、化合物イリドジアールが主な忌避成分であると言われている。
【0010】
非特許文献14は、ジヒドロネペタラクトンが25秒間にわたってアリに対して気相で有効な忌避性を示すことを開示している。より長い時間は研究されなかった。純粋なジヒドロネペタラクトンからの蒸気への25秒曝露後に、おおよそ50〜60%のモノモリウム・デストラクター(Monomorium destructor)アリが餌をとるのを止めた。忌避効果の継続時間に関しては何の指標も与えられなかった。
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,663,346号明細書
【特許文献2】米国特許第4,869,896号明細書
【特許文献3】米国特許第6,524,605号明細書
【非特許文献1】ブリアソウリス、ジー.(Briassoulis,G.)、ナルリオグロー、エム.(Narlioglou,M.)、ハッチス、ティー.(Hatzis,T.)著、ヒトおよび実験毒性学(Human & Experimental Toxicology)、20(1)(2001)、8−14ページ
【非特許文献2】シュレック、シー.イー.(Schreck,C.E.)、フィッシュ、ディー.(Fish,D.)およびマックガバーン、ティー.ピー.(McGovern,T.P.)著、米国蚊制御協会誌(Journal of the American Mosquito Control Association)、11(1)(1995),136−140ページ
【非特許文献3】ホロン、ティー.(Hollon,T.)著、科学者(The Scientist)、(2003)、2003年6月16日、25−26ページ
【非特許文献4】ヘイ、アール.ケー.エム.(Hay,R.K.M.)、ウォーターマン、ピー.ジー.(Waterman,P.G.)編、「揮発性油作物:それらの生物学、化学および生産(Volatile Oil Crops:their biology,chemistry and production)」中のヘイ、アール.ケー.エム.、スブボダ、ケー.ピー.(Svoboda,K.P.)著、「植物学(Botany)」、ロングマン・グループ英国社(Longman Group UK Limited)、1993年
【非特許文献5】イノウエ、エッチ.(Inouye,H.)著、イリドイド.植物生化学における方法(Iridoids.Methods in Plant Biochemistry)、7(1991)、99−143ページ
【非特許文献6】クラーク、エル.ジェー.(Clark,L.J.)ら著、植物雑誌(The Plant Journal)、11(1997)、1387−1393ページ
【非特許文献7】アイスナー、ティー.(Eisner,T.)著、科学(Science)、146(1964)、1318−1320ページ
【非特許文献8】アイスナー、ティー.著、科学、148(1965)、966−968ページ
【非特許文献9】ペーターソン、シー.(Peterson,C.)およびコーツ、ジェー.(Coats,J.)著、殺虫剤展望(Pesticide Outlook)、12(2001)、154−158ページ
【非特許文献10】ペーターソン、シー.ら著、米国化学会論文の抄録(Abstracts of Papers American Chemical Society)、222(1−2)(2001)、アグロ(AGRO)73
【非特許文献11】アイスナー、ティー.著、科学、146(1964)、1318−1320ページ
【非特許文献12】カヴィル、ジー.ダブリュ.ケー.(Cavill,G.W.K.)およびディー.ヴイ.クラーク(D.V. Clark)著、J. Insect Physiol.、13(1967)、131−135ページ
【非特許文献13】カヴィルら著、テトラヘドロン(Tetrahedron)、38(1982)、1931−1938ページ
【非特許文献14】ジェフソン、エム.(Jefson,M.)ら著、化学生態学雑誌(J.Chemical Ecology)、9(1983)、159−180ページ
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態は、下の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物であるそれを含む昆虫忌避組成物である。
【0013】
【化1】
【0014】
本発明の別の実施形態は、ヒト、動物または無生物ホストに塗布された時に昆虫を忌避する組成物であって、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含む組成物である。
【0015】
本発明のさらなる実施形態は、ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ、木喰虫、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ、コクヌストモドキおよびビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、ならびにゾウムシよりなる群から選択される1つもしくはそれ以上の昆虫を忌避する組成物であって、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含む組成物である。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態は、N,N−ジエチル−m−トルアミドのそれと統計的に区別できない平均完全保護時間を有する組成物であって、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含む組成物である。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態は、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を約0.001%〜約80重量の量で含む昆虫忌避組成物である。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態は、組成物または物品として提供すること、または上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、もしくはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を組成物もしくは製品中へ組み入れることによる、昆虫忌避組成物または昆虫忌避製品の製造方法である。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態は、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を物品中へ組み入れることによる、物品の昆虫忌避効果を与える、増大させるまたは高める方法である。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態は、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物に昆虫を曝露することによる、ヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避する方法である。忌避される昆虫は、例えば、蚊、サシバエおよびダニの1つもしくはそれ以上であるかもしれない。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態は、ヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避するための上の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物の使用である。忌避される昆虫は、例えば、蚊、サシバエおよびダニの1つもしくはそれ以上であるかもしれない。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態は、SrCO3ではない触媒担体上に担持されたパラジウムの存在下に次のスキーム
【0023】
【化2】
【0024】
に従って式(XV)のネペタラクトンを水素化することによる式(XVI)のジヒドロネペタラクトンの製造方法である。
【0025】
本願特許出願人らは、ジヒドロネペタラクトンが先行技術組成物に特有な不利な特性なしに新たなクラスの有効な昆虫忌避化合物としてうまく機能することを見いだした。昆虫忌避剤として使用された時に、DHNは、昆虫食餌源または生存条件を誘引しないようにするまたは嫌なものにすることによって、植物およびヒトをはじめとする動物への、または製品への損傷を防ぐ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
ネペタラクトンは下の一般式を有する化合物である。
【0027】
【化3】
【0028】
4つの不斉中心が上に示されたような炭素4、4a、7および7aでネペタラクトンのメチルシクロペンタノイド骨格内に存在し、(7S)−ネペタラクトンは幾つかの植物および昆虫によって生産される。
【0029】
ジヒドロネペタラクトンは、属ネペタの幾つかのシソ科植物の精油の副成分として公知である(レニエ、エフ.イー.(Regnier,F.E.)ら著、Phytochemistry、6(1967)、1281−1289ページ;デプーター、エッチ.エル.(DePooter,H.L.)ら著、Flavour and Fragrance Journal、3(1988)、155−159ページ;ハンドジエバ、エヌ.ヴィー.((Handjieva,N.V.)およびエス.エス.ポポフ(S.S.Popov)著、J.Essential Oil Res.、8(1996)、639−643ページ)。ジヒドロネペタラクトンは式1
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、1,5、6および9は分子の4つの不斉中心を示し、示される構造はジヒドロネペタラクトンのすべての立体異性体を包含することを意図される)
で明示される。(7S)−ネペタラクトンから誘導されるかもしれないジヒドロネペタラクトン立体異性体の構造は下に示される。
【0032】
【化5】
【0033】
「ジヒドロネペタラクトン」(DHN)は、特に特定の異性体または混合物が明記されない限り、任意のおよびすべてのジヒドロネペタラクトン立体異性体ならびにそれらの混合物を包含すると理解されるであろう。ジヒドロネペタラクトンがネペタラクトンの天然由来源から製造される場合、立体異性体のモル濃度での幾つかの変形が予期される。しかしながら、天然由来源からの製造が好ましい製造方法である。
【0034】
レニエら、前掲非特許文献は、属ネペタ(キャットニップ)の植物の精油から単離されたネペタラクトンの接触水素化によるネペタラクトンからのDHNの製造を開示している。ジヒドロネペタラクトンの好ましいおよび便利な一合成方法は、このように、属ネペタ(キャットニップ)の植物から様々な方法によって単離された精油から比較的純粋な形で得られるネペタラクトンの水素化による。酸化白金および炭酸ストロンチウムに担持されたパラジウムのような触媒は24〜90%収率でジヒドロネペタラクトンを与える(レニエら、前掲非特許文献)。特に好ましい方法は、あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を援用される、2003年4月2日に出願された、米国特許出願第10/405,444号明細書に記載されている。精油の単離方法は当該技術でよく知られており、油抽出のための方法論の例には、水蒸気蒸留、有機溶剤抽出、マイクロ波支援有機溶剤抽出、超臨界流体抽出、機械抽出およびアンフルラージュ(脂肪への初期冷抽出、引き続く有機溶剤抽出)が挙げられる(がそれらに限定されない)。
【0035】
異なるネペタ種から単離された精油が異なる割合のネペタラクトンの各天然由来立体異性体を有することはよく知られている(レニエら、前掲非特許文献;デプーターら、前掲非特許文献;ハンドジエバら、前掲非特許文献)。このように、任意のネペタ種に由来する油から製造されたDHNは、必然的にその立体異性体の混合物であり、当該混合物の構成は、それが由来するネペタの特定種に依存するであろう。
【0036】
本明細書で上述されたように、4つの不斉中心が示されるような炭素4、4a、7および7aでネペタラクトンのメチルシクロペンタノイド骨格内に存在する。
【0037】
【化6】
【0038】
合計8ペアのジヒドロネペタラクトン・エナンチオマーがネペタラクトンの水素化後に可能である。これらのうち、これまで記載された天然由来立体異性体は(9S)−ジヒドロネペタラクトンである。本発明に従って好ましい忌避物質には、ジヒドロネペタラクトンの可能な立体異性体の任意のまたはすべてのものの混合物が含まれる。より好ましい忌避物質には、(9S)−ジヒドロネペタラクトンの混合物が含まれる。(7S)−ネペタラクトンから誘導された(9S)−ジヒドロネペタラクトン立体異性体が最も好ましい。これには、図1に例示されるような、シス,トランス−ネペタラクトン、シス,シス−ネペタラクトン、トランス,シス−ネペタラクトン、およびトランス,トランス−ネペタラクトンとして一般に知られる化合物が含まれる。N.カタリアによって生産される主な立体異性体(シス,トランスおよびトランス,シス)が好ましい。
【0039】
水素化反応が完了すると、異性体生成物の生じた混合物は、それぞれの高度に精製されたペアのジヒドロネペタラクトン・ジアステレオマーをもたらすために通常の方法(例えば、分取液体クロマトグラフィー)によって分離されてもよい。これは、特定の昆虫に対して最も有効であることが分かるように様々な異なるジアステレオマーの使用を可能にする。植物からある特定のネペタラクトン異性体を単離して水素化によってその相当するペアのジアステレオマーに変換することが好ましい。
【0040】
異なるネペタ種間のネペタラクトン立体異性体含量の変動に加えて、種内変動もまた存在することが知られている。所与の種の植物は、それらの成長の条件または収穫時の成長段階に依存して異なる組成の油を生産するかもしれない。実際に成長条件または収穫時の成長段階とは無関係な油組成の変動がネペタ・レイスモサ(Nepeta racemosa)で見いだされた(クラーク、エル.ジェー.ら、前掲非特許文献)。異なる油組成を示す単一種の植物はケモタイプと称される。ネペタ・レイスモサには、異なるネペタラクトン立体異性体の割合に際立った相違を示すケモタイプが存在する。従って、特定のジヒドロネペタラクトン・エナンチオマーの好ましい製造方法は、特定のネペタラクトン立体異性体を含有することが知られているネペタ・ケモタイプからの油の水素化である。
【0041】
本発明の組成物によって忌避されるような昆虫には、成熟状態で(非成熟昆虫状態には、幼虫およびサナギが含まれる)、頭部、胸部、および腹部、3対の脚、ならびにしばしば(しかし必ずとは限らない)2対の膜質翼への身体の分割によって特徴づけられる無脊椎動物の大集団の任意のメンバーが含まれる。この定義には、それ故、様々な刺す昆虫(例えば、アリ、ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ)、木喰虫(例えば、シロアリ)、有害昆虫(例えば、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ)、および家庭害虫(例えば、コクヌストモドキおよびビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、ゾウムシ)が含まれるが、それらに限定されない。一実施形態では、例えば、本発明のDHN組成物は、上述のもののような、かつまた、刺す昆虫、木喰虫、有害昆虫、および家庭害虫、最も具体的には蚊、サシバエ、および鹿ダニのようなダニを含む広いスペクトルの一般害虫に対して有効な昆虫忌避剤である。
【0042】
さらなる実施形態では、本発明のDHN組成物は、ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ、木喰虫、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ、コクヌストモドキおよびビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、およびゾウムシよりなる群のメンバーの任意の1つもしくはそれ以上を忌避するのに有効である。しかしながら、忌避される昆虫はまた、このパラグラフの第1文章のリストで述べられたような全体群から任意の1つもしくはそれ以上のメンバーを削除することによって形成される前述のものの亜群から選択される1つもしくはそれ以上のものであってもよい。結果として、忌避される昆虫は、かかる場合には、上のリストに述べられるような全体群から形成されてもよい任意のサイズの任意の亜群から選択されるものであってもよいだけでなく、亜群を形成するために全体群から削除されたメンバーを排除してもよい。上のリスト中の全体群から様々なメンバーを削除することによって形成される亜群は、さらに、忌避される昆虫が全体群のすべての他のメンバーを排除するように全体群の個々のメンバーであってもよい。
【0043】
ホストは、昆虫によって影響を受ける任意の植物または動物である。典型的には、ホストは、昆虫許容性食餌源または昆虫許容性生息場所であると考えられる。ホストは、動物(限定なしにペットおよび/または他の家畜を含む)、ヒト、植物または、昆虫によって影響を受ける任意の無生物物品を包含する、いわゆる「昆虫感受性物品」であり得る。無生物物品としては、建築物、家具などが含まれてもよい。
【0044】
本発明のさらなる実施形態では、DHNは、昆虫が物品上に着陸(landing)するのを阻止するか、物品を取り囲む空気を占有するのを阻止するかのどちらかの目的で昆虫忌避物品を製造するために昆虫感受性物品のようなホスト中へ組み入れられる。物品が本発明のDHN組成物での処理前にある程度の昆虫忌避性を既に示すかも知れないそれらの場合がこの実施形態で考えられる。かかる場合には、物品の昆虫忌避性は本発明のDHN組成物の塗布によって高められるであろうと考えられる。
【0045】
昆虫忌避剤は昆虫をホストから阻止する任意の配合物または組成物である。かかる用法は長期の有益な効果を示すもの、および/または昆虫挙動への観察可能な効果がある前に非常に高い表面濃度を必要とするものと比べて非常に短命の効果を有する化合物の何の区別もしないことが理解されるであろう。
【0046】
用語「昆虫忌避剤」は、このように、全く処理なしと比較した時に、昆虫からのホスト保護を与える配合物または組成物を示す。「保護」は、望ましくは昆虫の数の統計的に有意の減少をもたらし、例えば、ヒトをはじめとする処理された動物、および処理された無生物表面に対する昆虫挙動が観察される試験で平均完全保護時間(「CPT」)を測定することによって実用的に求められるかもしれない。平均CPTは、処理表面への最初の着陸、プロービングまたは突刺し(刺す昆虫のケースで)または爬行(ダニまたはツツガムシ類のような爬行昆虫のケースで)前の時間が観察される試験の繰り返しに関して時間の平均長さを意味する[例えば、米国EPA予防、農薬および毒性物質局(US EPA Office of Prevention,Pesticides and Toxic Substances)製品性能試験ガイドラインOPPTS810.3700;およびフラジン、エム.エス.(Fradin,M.S.)、デイ、ジェー.エフ.(Day,J.F.)著、ニューイングランド医薬雑誌(New England Journal of Medicine)、347(2002)、13−18ページを参照されたい]。本発明の模範的な一実施形態では、本明細書の昆虫忌避組成物は、DEETのそれと統計的に区別できない平均CPTを有する。DHN組成物およびDEETのそれぞれの平均CPT性能のこの状態が統計的に区別できないことが示される試験では、用いられる試験条件(活性成分の量をはじめとする)は勿論同一でなければならず、または、同一でない場合、記載される条件の存在を記録する目的で結果の利用を妨げない程度にのみ異ならなければならない。
【0047】
上記のように、DHNは性能の点で好都合にもDEETに匹敵した。さらに、DHNは有利なことに、植物に由来する天然由来ネペタラクトンから製造されるが、DEET、および多くの他の昆虫忌避剤は天然源から製造されない−有効な忌避剤を選ぶ時に重要な消費者考慮事項。天然源からの製造はまた低い生産コストの可能性も提供する。
【0048】
DHNが有効な昆虫忌避性を示しながらDEETの臭気より優れてかなりの改善を提供することは本発明の特に驚くべき態様である。本発明のDHN配合物および組成物は快い芳香を有する。DHN物質の芳香特徴は、例えば、組成物中の1つもしくはそれ以上の他の成分により寄与される嗅覚反応を利用するまたは和らげることによって、昆虫忌避組成物または物品の全体的な嗅覚成分を与える、変更する、増やすまたは高める時にそれらを役立つようにする。具体的には、本発明のDHN組成物は、最終忌避組成物または物品の調合物中の他の成分によって寄与される臭気をマスクするか緩和するかのどちらかのために、および/または特徴的な香気または芳香を与えることによって製品の消費者アピールを高めるために利用されてもよい。
【0049】
DHNまたは任意の昆虫忌避剤の有効性はそれが塗布されているホスト表面上の活性成分の表面濃度に依存することが理解されるであろう。しかしながら、当該技術で昆虫忌避性を示すことが知られている多くの化合物は比較的濃縮した形でのみそうである。例えば、6.25〜25%の忌避剤濃度の使用を開示している米国特許第4,416,881号明細書でのマックガバーン(McGovern)らを参照されたい。当該技術を代表する他の状況では、1%よりはるかに下のDEETの濃度は有効な表面濃度を達成するために繰り返し塗布を必要とすること、さらに30%より上の濃度は、無駄が多い、および望ましくない副次効果の発生に資するの両方である過剰の表面濃度をもたらすことがしばしば見いだされる。本発明のさらなる利点は、従って、DHNがDEETについて用いられるものに類似の濃度で有効な昆虫忌避性を提供するだけでなく、DHNがニートDHN(すなわち、本明細書の組成物は、必要ならば、100重量%DHNを含有してもよい)以下の、およびニートDHNを含む濃度で用いられてもよいことである。DHNにおける有効な忌避性の特性は、広範囲のレベルの濃度にわたるDHN活性成分の経済的な利用について多くの選択肢を提供する。
【0050】
本発明の一実施形態では、DHNは、ホスト植物または動物への、好ましくはヒト皮膚への塗布に好適な組成物中へ有効量で組み入れられる。好適な組成物は、DHNおよび媒体、好ましくはイソプロピルアルコールのようなアルコール、当該技術で公知であるような例えば多数のスキンクリームなどのローション、またはシリカ質粘土を含む。好ましくは、DHNは約0.1重量%〜30重量%、好ましくは約0.5重量%〜20重量%、最も好ましくは約1重量%〜15重量%の濃度で本発明の昆虫忌避組成物中に存在する。
【0051】
昆虫忌避剤が有効であるためには、ホスト皮膚または処理された物品からの活性成分の蒸発速度は、標的昆虫への所望の効果を有する蒸気密度を提供するために十分に高いものでなければならない。しかしながら、バランスが蒸発速度と昆虫忌避効果の所望の継続期間との間に見つけられなければならない−蒸発速度が高すぎると、表面上の昆虫忌避剤を激減させ、効能の損失をもたらすであろう。周囲温度、処理された表面の温度、および空気移動の存在または欠如のような、多くの外因性因子が蒸発速度に影響を及ぼす。本発明の組成物は、少なくとも最低の有効蒸発速度の皮膚表面蒸発速度を有し、好ましくは少なくとも最低の有効蒸発速度の皮膚表面蒸発速度を少なくとも5時間有する。
【0052】
ほとんどのケースで、皮膚中へのおよび皮膚を通っての浸透は、皮膚表面からの化合物損失の望ましくないモードである。例えば、昆虫忌避剤はヒト皮膚中へ吸収され、一方で潜在的な毒性を懸念させ、かつ、忌避剤の吸収量を昆虫忌避活性から明らかに除去することが知られている。同様な考慮が昆虫忌避物品についても行われなければならない。
【0053】
DHNは典型的な使用条件下で有効な昆虫忌避性を提供するが、その蒸発速度を下げることが幾つかの状況下では望ましいかもしれない。そう望まれる場合には様々な戦略がDHNの蒸発速度を下げるために用いられてもよい。例えば、一方法は、DHNをポリマーまたは他の不活性成分と組み合わせて、DHNを、それが蒸発できる前に混合物によってその表面へ移行させることである。しかしながら、その結果が、ホストの皮膚表面に塗布できるまたは昆虫忌避物品の表面上に存在するDHNの濃度の希釈であり、こうして調合物の全体効能を下げることである場合、これは、選択される蒸発戦略の要素に入れなければならない。あるいはまた、活性成分は、ホストの皮膚表面または昆虫忌避物品からの損失の速度を制御するためにマイクロカプセル化される。さらに別の代替案では、皮膚表面または昆虫忌避物品上でゆっくり分解して活性成分を放出する前駆体分子が製造されてもよい。
【0054】
例えば、活性成分の放出は、例えば、ちょうど空気が風船内に捕らえられているように活性成分が皮膚滋養タンパク質内にカプセル化されている(取り囲まれている)、サブミクロンカプセル化によってもよい。タンパク質は、例えば、20%濃度で使用されてもよい。忌避剤の塗布は、水系ローションか、スプレー塗布のための水かのどちらか中に懸濁されているこれらのタンパク質カプセルの多くを含有する。皮膚との接触後に、タンパク質カプセルは破壊してカプセル化されたジヒドロネペタラクトンを放出し始める。本プロセスは、各微細なカプセルが使い尽くされ、次に皮膚に接触してその活性成分を放出する新たなカプセルによって相次いで置き換えられるので継続する。本プロセスは1塗布について24時間以下を要するかもしれない。タンパク質の皮膚への付着は非常に有効であるので、これらの方式は汗(発汗)、および水に対して非常に抵抗性がある。塗布された時それらは乾燥し、何のべとつきもなく快適である。このシステムは非常に有効な保護をもたらすが、それは、衣類がタンパク質を放出する能力を持たないので、皮膚上で使用された時に有効であるに過ぎない。代替システムはポリマーを使用して忌避剤をカプセル化し、それは早期蒸発を遅くし、もっと後の蒸発に利用可能なより多くのジヒドロネペタラクトンを残す。このシステムはしばしば、匹敵する非カプセル化製品よりも25%〜50%だけ忌避剤の有効性の長さを延ばすことができるが、しばしばポリマーの存在のために脂っぽく感じる。別の代替案では、相乗剤が組成物中のジヒドロネペタラクトンの蒸発を促進し続けるために使用される。
【0055】
本発明では、上に開示されたジヒドロネペタラクトンのための様々なキャリアまたは希釈剤を使用することができる。キャリアは、調合物が忌避分子の有効な濃度に調節されることを可能にする。ヒトまたは動物皮膚に好適な局所昆虫忌避剤を調合する時、好ましくは、忌避分子は、皮膚科学的に許容できるキャリア中で混合される。キャリアは撥水性をさらに提供し、皮膚刺激を防ぎ、および/または皮膚を和らげるおよび皮膚の調子を整えるかもしれない。昆虫忌避剤の任意の調合のためにキャリアを選択する場合に考慮すべき因子には、商業的な入手可能性、コスト、撥水性、蒸発速度、臭気、および安定性が含まれる。幾つかのキャリアはそれ自体撥性を有することができる。さらに、キャリアは好ましくはまた、環境に有害でないものであるべきである。
【0056】
昆虫忌避製品を調合するための当該技術で公知の、1つもしくはそれ以上の商業的に入手可能な有機および無機液体、固体、または半固体のキャリアまたはキャリア調合物は本発明に好適である。例えばキャリアには、シリコーン、ペトロラタム、またはラノリンが含まれてもよい。
【0057】
有機液体キャリアの例には、液体脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカンおよびそれらの類似体)ならびに液体芳香族炭化水素が挙げられる。他の液体炭化水素の例には、石油の分別蒸留によって得られる灯油をはじめとする、石炭の蒸留ならびに様々なタイプおよびグレードの石油化学素材の蒸留によって生産されるオイルが挙げられる。他の石油オイルには、農業スプレーオイル(例えば、石油の蒸留での中間留分よりなる、わずかに揮発性であるに過ぎない、いわゆる軽いおよび中程度スプレーオイル)と一般に言われるものが含まれる。かかるオイルは通常高度に精製されており、微量の不飽和化合物を含有するに過ぎないかもしれない。さらに、かかるオイルは一般にパラフィン油であり、従って水および乳化剤で乳化させる、より低い濃度に希釈する、およびスプレーとして使用することができる。パラフィン油のような、木材パルプのスルフェート消化から得られるトール油を同様に使用することができる。他の有機液体キャリアには、アルファ−ピネン、ジペンテン、テルピネオールなどのような液体テルペン炭化水素およびテルペンアルコールが含まれ得る。
【0058】
他のキャリアには、脂肪族および芳香族アルコール、エステル、アルデヒド、ケトン、鉱油、高級アルコール、微粉状の有機および無機固体材料が含まれる。上述の液体炭化水素に加えて、キャリアは、ジヒドロネペタラクトン化合物を最終用途向けに水中に分散させ、および水で希釈させるために使用することができる通常の乳化剤を含有することができる。
【0059】
脂肪族一価アルコールには、メチル、エチル、ノルマル−プロピル、イソプロピル、ノルマル−ブチル、第二ブチル、および第三ブチルアルコールが含まれる。好適なアルコールには、グリコール(エチレンおよびプロピレングリコールのような)およびピナコールが含まれる。好適な多価アルコールには、グリセロール、アラビトール、エリスリトール、ソルビトールなどが含まれる。最後に、好適な環式アルコールには、シクロペンチルおよびシクロヘキシルアルコールが含まれる。
【0060】
さらに、通常のまたはいわゆる「安定剤」(例えば、第三ブチルスルフィニルジメチルジチオカーボネート)を、本発明の組成物を含んでなるキャリアと併せて、またはキャリアの成分として使用することができる。
【0061】
本発明の組成物に使用することができる固体キャリアには、微粉状の有機および無機固体材料が含まれる。好適な微粉状の固体無機キャリアには、シリカ・エアロゲルならびに沈澱および溶融シリカのような合成製造されたシリカ質材料だけでなく、合成および天然粘土、ベントナイト、アタパルジャイト、フラー土、珪藻土、カオリン、雲母、タルク、微粉状の石英などのようなシリカ質鉱物が含まれる。微粉状の固体有機材料の例には、セルロース、おがくず、合成有機ポリマーなどが挙げられる。半固体またはコロイド状キャリアの例には、本発明の範囲内で有効な忌避性を与えるための、ワックス状固体、ゲル(ワセリンのような)、ラノリンなど、および半固体キャリア製品を提供することができる周知の液体および固体物質の混合物が挙げられる。
【0062】
ジヒドロネペタラクトンを含有する本発明の昆虫忌避組成物はまた、増粘剤、緩衝剤、キレート剤、防腐剤、香料、酸化防止剤、ゲル化剤、安定剤、界面活性剤、エモリエント、着色剤、アロエ、ワックス、他の浸透エンハンサーおよびそれらの混合物、ならびに治療的にまたは美容上活性な試剤のような、パーソナルケア製品調合物の技術で公知の補助剤を含有してもよい。
【0063】
本発明の組成物で有用な、治療的にまたは美容上活性な成分は、殺菌剤、日焼け止め剤、日光遮断剤、ビタミン、なめし剤、植物抽出物、抗炎症剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、レチノイド、アルファ−ヒドロキシ酸、エモリエント、消毒剤、抗生物質、抗菌剤または抗ヒスタミン剤を含み、所望の治療的なまたは美容上の結果を達成するために有効な量で存在してもよい。
【0064】
本発明の組成物はまた、ベンジル、安息香酸ベンジル、2,3,4,5−ビス(ブチル−2−エン)テトラヒドロフルフラール、ブトキシポリプロピレングリコール、N−ブチルアセトアニリド、6,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−1,4−ピロン−2−カルボン酸ノルマル−ブチル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジブチル、コハク酸ジ−ノルマル−ブチル、N,N−ジエチル−メタ−トルアミド、炭酸ジメチル、フタル酸ジメチル、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、イソシンコメロン酸ジ−ノルマル−プロピル、2−フェニルシクロヘキサノール、p−メンタン−3,8−ジオール、およびノルマル−プロピルN,N−ジエチルスクシナメートよりなるものに含まれるもののような、非ジヒドロネペタラクトン昆虫忌避剤とブレンドされてもよい。
【0065】
本発明のDHN組成物は、任意の特定用途の要件を満たすために任意の数の上記補助剤を含んでもよい。各成分の具体的な割合は、用途の要件によって同様に決定されるであろう。しかしながら、本発明の組成物は好ましくは少なくとも約0.001重量%DHN、または約0.001%〜約80重量%DHN、または約0.01%〜約30重量%のDHN、または約0.1%〜約30重量%のDHN、好ましくは約0.5%〜約20重量%、最も好ましくは約1%〜約15重量%を含んでなるべきである。一般に、本忌避剤の組成物は、長時間(好ましくは、少なくとも数時間)にわたってホストから昆虫を忌避するのに有効であるために十分な量の活性昆虫忌避物質を含有するべきである。
【0066】
ジヒドロネペタラクトンは、個々のジアステレオマーもしくは様々なジアステレオマーの混合物の形で、または他の昆虫忌避剤と組み合わせて本発明で利用されてもよい。DHNは、ニートをはじめとする、特定のニーズに好適な任意の濃度レベルで用いられてもよい。しかしながら、本発明に従った昆虫忌避組成物または忌避物品中のDHNの量は一般に約80重量%を超えないであろうと考えられる。
【0067】
本発明の組成物は、使用の好ましい方法に依存して、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ゲル、フィルムまたはスプレーのようなものをはじめとする様々な形で製品を配送するために調合され、包装されてもよい。キャリアは、圧縮ガスを用いてジヒドロネペタラクトンを空気中へ分散させるように構成されたエアロゾル組成物であってもよい。
【0068】
局所昆虫忌避物品の望ましい特性には、低毒性、水浸または発汗による損失に対する抵抗性、低臭気もしくは臭気なしまたは少なくとも快い香り、塗布の容易さ、およびホスト皮膚上での乾燥した粘着性なし表面フィルムの速い形成が含まれる。これらの特性を得るために、局所昆虫忌避物品のための調合物は、かかる動物の皮膚、毛皮または羽を、動物ホストから昆虫を忌避するために有効な量の忌避物品と接触させることによって昆虫感染動物(例えば、ノミ持ちイヌ、シラミ持ち家禽、ダニ持ち雌牛、およびヒト)が本発明の昆虫忌避組成物で処理されるのを可能にするべきである。このように、物品を空気中へ分散させるまたは組成物を液体ミストもしくは細かいダストとして分散させることは、忌避組成物が所望のホスト表面上に落ちることを可能にするであろう。同様に、ホスト上への液体/半固体/固体忌避物品の直接散布は、ホストの表面を有効量の忌避組成物と接触させる有効な方法である。
【0069】
特にDHNに関連した快い芳香のために、本発明のさらなる実施形態は、有効な程度の忌避性をそれに与えるために最初には昆虫忌避性と関係がない製品中へのDHNの組み入れである。かかる製品には、コロン、ローション、スプレー、クリーム、ゲル、軟膏、バスまたはシャワーゲル、発泡製品(例えば、シェービングフォーム)、メーキャップ、デオドラント、シャンプー、ヘアスプレー/ヘアリンス、および個人用石鹸組成物(例えば、ハンドソープおよびバス/シャワーソープ)が含まれる。
【0070】
DHNがその中への組み入れによって昆虫による攻撃を受けやすい様々な物品で有効な昆虫忌避性を提供するそれらの実施形態が本発明でさらに考えられる。典型的な実施形態では、物品は野外であるが、そうである必要はない。考えられる物品の中には、空気清浄剤、ろうそく、様々な芳香品、繊維、シート、繊維製品、紙、ペイント、インク、粘土、木材、家具(例えば、テラスおよびデッキ)、カーペット、衛生用品、プラスチック、ポリマーなどが含まれるが、それらに限定されない。
【0071】
一実施形態では、ジヒドロネペタラクトンは、成形性、蒸発速度の低下、および制御された放出を提供するためにポリマーと組み合わせられる。かかるポリマーは生分解性であってもよい。好適なポリマーには、例えば米国特許第4,496,467号明細書、同第4,469,613号明細書および同第4,548,764号明細書に開示されているように、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、生分解性の熱可塑性ポリウレタン、生分解性エチレンポリマー、およびポリ(イプシロン−カプロラクトン)ホモポリマーならびにそれらを含有する組成物が含まれるがそれらに限定されない。好ましい生分解性ポリマーには、デュポン(DuPont)バイオマックス(Biomax)(登録商標)生分解性ポリエステルおよびポリ−L−ラクチドが含まれる。
【0072】
本発明はまた、パラジウム触媒が使用されるDHNの製造方法を含む。用語「触媒」は、本明細書で用いるところでは、化学反応の速度に影響を及ぼす(が反応平衡に影響を及ぼさない)、かつ、化学的に変化せずに本方法から出てくる物質を意味する。
【0073】
式(XVI)のジヒドロネペタラクトンの製造方法は、SrCO3ではない触媒担体上に担持されたパラジウムの存在下に次のスキーム
【0074】
【化7】
【0075】
に従って式(XV)のネペタラクトンを水素化することを含む。
【0076】
用語「助触媒」は、本明細書で用いるところでは、触媒の物理的または化学的機能を高めるために添加される化合物である。化学助触媒は一般に触媒の活性を増大させ、触媒成分の化学的処理の任意の工程中に触媒中へ組み入れられてもよい。化学助触媒は一般に触媒剤の物理的または化学的機能を高めるが、望ましくない副反応を抑制するためにも添加することができる。「金属助触媒」は、触媒の物理的または化学的機能を高めるために添加される金属化合物を意味する。
【0077】
ネペタラクトンの水素化は、好適な活性金属水素化触媒の存在下に達成される。一般に水素化に許容できる溶媒、触媒、装置、および手順は、オウグスチン(Augustine)著、「合成化学者のための不均一触媒作用(Heterogeneous Catalysis for the Synthetic Chemist)」、ニューヨーク州ニューヨーク(New York,N.Y.)、マーセル・デッカー(Marcel Decker)、1996年に見いだすことができる。主成分としてイリジウム、パラジウム、ロジウム、ニッケル、ルテニウム、白金、レニウム、それらのコンパウンド、それらの組み合わせ物、およびそれらの担持バージョンを含有するものをはじめとする(限定なしに)、多くの水素化触媒が有効である。
【0078】
本発明の方法で使用される金属触媒は、担持触媒としてまたは非担持触媒として使用されてもよい。担持触媒は、活性触媒剤が吹き付け、浸漬または物理的混合によって担体材料上に沈積され、引き続いて乾燥、焼成、および必要ならば、還元または酸化のような方法によって活性化されたものである。担体としてしばしば使用される材料は、触媒の単位重量当たり活性サイトの高い濃度を提供することができる高い総表面積(外部および内部)の多孔質固体である。触媒担体は触媒剤の機能を高めるかもしれないし、担持触媒は、活性金属触媒がより効率的に使用されるので一般に好ましい。触媒担体材料上に担持されていない触媒は非担持触媒である。
【0079】
触媒担体は、シリカ、アルミナ、チタニアのような酸化物、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および炭素を含むがそれらに限定されない、任意の固体の不活性物質であることができる。触媒担体は、粉末、顆粒、ペレットなどの形状にあることができる。本発明の好ましい担体材料は、炭素、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、チタニア−アルミナ、チタニア−シリカ、バリウム、カルシウム、それらのコンパウンド、およびそれらの組み合わせ物よりなる群から選択される。好適な担体には、炭素、SiO2、CaCO3、BaSO4およびAl2O3が含まれる。さらに、担持触媒金属は同じ担持材料または異なる担持材料を有してもよい。
【0080】
本発明の一実施形態では、より好ましい担体は炭素である。さらに好ましい担体は、100〜200m2/gより大きい表面積を有するもの、特に炭素である。さらに好ましい担体は、少なくとも300m2/gの表面積を有するもの、特に炭素である。
【0081】
本発明で使用されてもよい商業的に入手可能な炭素には、次の商標で販売されるものが含まれる:バメバイ・アンド・ストクリッフェ(Bameby & Sutcliffe)TM、ダーコ(Darco)TM、ヌチャー(Nuchar)TM、コロンビア(Columbia)JXNTM、コロンビアLCKTM、カルゴン(Calgon)PCBTM、カルゴンBPLTM、ウェストヴァコ(Westvaco)TM、ノリット(Norit)TMおよびバーナビー・チェニー(Barnaby Cheny)NBTM。炭素はまた、カルシカット(Calsicat)C、シブニット(Sibunit)C、またはカルゴンC(登録商標センタウアー(Centaur)(登録商標)で商業的に入手可能な)のような商業的に入手可能な炭素であることができる。
【0082】
触媒金属と担体システムとの好ましい組み合わせには、ESCAT#142触媒(エンゲルハルト(Englehart))でのようなパラジウム−炭素が含まれる。
【0083】
担体上の触媒の重量パーセントは決定的に重要ではないが、金属の重量パーセントが高ければ高いほど、反応がより速いことは理解されるであろう。担持触媒での金属の好ましい含量範囲は、担持触媒の全体(触媒重量プラス担体重量)の約0.1重量%〜約20重量%である。より好ましい触媒金属含量範囲は、担持触媒の全体の約1重量%〜約10重量%である。さらなる好ましい触媒金属含量範囲は、担持触媒の全体の約3重量%〜約7重量%である。
【0084】
場合により、金属助触媒が本発明の方法で触媒金属と共に使用されてもよい。好適な金属助触媒には、1)周期表の1および2族からのそれらの元素、2)錫、銅、金、銀、およびそれらの組み合わせ物、ならびに3)より少ない量での周期表の8族金属の組み合わせ物が含まれる。
【0085】
温度、溶媒、触媒、圧力および混合速度はすべて、水素化に影響を及ぼすパラメーターである。これらのパラメーター間の関係は、本方法の反応で所望の転化率、反応速度、および選択率を達成するために調節されてもよい。
【0086】
本発明の枠内で、好ましい温度は約25℃〜250℃、より好ましくは約50℃〜約150℃、最も好ましくは約50℃〜100℃である。水素圧は好ましくは約0.1〜約20MPa、より好ましくは約0.3〜10MPa、最も好ましくは約0.3〜4MPaである。反応はニートでまたは溶媒の存在下で行われてもよい。有用な溶媒には、炭化水素、エーテル、およびアルコールのような水素化の技術で公知のものが含まれる。アルコール、特にメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、およびペンタノールのような低級アルカノールが最も好ましい。反応が好ましい実施形態に従って実施される場合、少なくとも70%の範囲の選択率が達成可能であり、ここで少なくとも85%の選択率が典型的である。選択率は、転化物質が水素化反応に関与する出発原料の一部分である場合、ジヒドロネペタラクトンである転化物質の重量パーセントである。
【0087】
本発明の方法は、バッチ、順次バッチ(すなわち、一連のバッチ反応器)で、または連続プロセスに通例用いられる装置の任意のもので連続モードで実施されてもよい(例えば、エッチ.エス.フォグラー(H.S.Fogler)著、「初歩的化学反応工学(Elementary Chemical Reaction Engineering)」、プレンティス−ホール社(Prentice−Hall,Inc)、米国ニュージャージー州を参照されたい)。反応の生成物として形成される復水は、かかる分離に通例用いられる分離方法によって除去される。
【0088】
水素化反応が完了すると、ジヒドロネペタラクトン異性体生成物の生じた混合物は、それぞれの高度に精製されたペアのジヒドロネペタラクトン・エナンチオマーをもたらすために、例えば、蒸留によって、結晶化によって、または分取液体クロマトグラフィーによってなど、通常の方法によって分離されてもよい。不斉クロマトグラフィーがエナンチオマーを分離するために用いられてもよい。
【0089】
本発明は次の具体的な実施形態によってさらに説明されるが、それらに限定されない。
【実施例】
【0090】
次の実施例では、略記「w/v」は、100mLの溶液当たりの活性成分のグラム単位の重量を意味する。
【0091】
用いられる他の省略形は次の通りである:「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「m/z」を質量(m)対電荷(z)比を意味し、「ppm」は百万当たりの部を意味し、「モル%」はモル基準で表される百分率を意味し、「Hz」はヘルツ(1/秒)を意味し、そして「psig」は平方インチ当たりポンド・ゲージを意味する。
【0092】
実施例1
ネペタ・カタリア(Nepeta cataria)の油の分別水蒸気蒸留によるネペタの調製
キャットニップ・ネペタ・カタリアからの草本材料の水蒸気蒸留によって調製された、商業的に入手可能なキャットニップ油のサンプルを入手した(ベルジェ、米国、ニュージャージー州ブルームフィールド(Berje,Bloomfield,NJ,USA))。受領したままの油の組み合わせガスクロマトグラフィー−質量分光測定(GC−MS)は、主成分がネペタラクトン立体異性体(図1)であることを示した。しかしながら、購入したままでは、油は高度に汚染された天然物であり、抽出物を精製ネペタラクトンへ精製することが望ましい。我々は、ネペタラクトンより高いおよび低い沸点の異物を除去するために分別蒸留した。
【0093】
このようにネペタラクトン留分を受領したままの油の分別蒸留によって調製した(2Lポット;0.24インチSS充填材での12インチ×1インチ充填塔;可変還流ヘッド;約2mmHg、留分を80℃〜99℃で集めて)。図2Aは、ネペタ・カタリア精油の市販サンプルの分別蒸留によって調製したネペタラクトンに富む留分のGC−MSトータルイオンクロマトグラムを示す。用いた条件は、カラムHP5−MS、25m×0.2mm;オーブン:120℃、2分、15℃/分、210℃、5分;He:1mL/分でであった。m/z166のピークがネペタラクトンである;標識のないピークは副セスキテルペノイド異物に対応する。
【0094】
図3Aに、図2Aの主ピーク(6.03分、ネペタラクトン)の質量スペクトルを示す。油および精製物質の1Hおよび13C NMR分析もまた実施し、13Cデータを示す(図4)。文献に報告された4つの可能な立体異性体についての13C化学シフトを、サンプルについてとられたスペクトルと比較した。3つの立体異性体を検出し、その量をカルボニル領域に基づいて約170ppmと定量化した。元の油および富化物質の両方についての化学シフトを表1に提供する。ネペタラクトンの各炭素原子は、図4に示すように、同定される。
【0095】
【表1】
【0096】
この分析は、油中に、ネペタラクトンが次の割合:80.2モル%シス、トランス−ネペタラクトン、17.7モル%トランス,シス−ネペタラクトンおよび2.1モル%シス、シス−ネペタラクトンで存在することを示した。データは、精製物質中のネペタラクトンの割合が84.5モル%シス、トランス−ネペタラクトン、14.3モル%トランス,シス−ネペタラクトンおよび1.2モル%シス、シス−ネペタラクトンであることを示した。この精製留分のGC−MS分析は、それが、微量のセスキテルペノイド・カリオフィレンおよびフムレン(データは示されていない)に同伴されて、主にこれらのネペタラクトン(m/z 166)よりなることを示した。
【0097】
実施例2
ジヒドロネペタラクトンの製造
実施例1に記載したように調製したキャットニップ油の蒸留ネペタラクトン留分107gをエタノール(200mL)に溶解し、触媒としての12.7gの2%Pd/SrCO3(アルドリッチ(Aldrich)41,461−1)と共にフィッシャー−ポーター(Fisher−Porter)ボトルに入れた。チューブを2回排気し、H2で再び満たし、次に30psigにH2を装入した。室温で48時間撹拌後に、チューブをガス抜きし、内容物をセライト(Celite)上で濾過して触媒を除去した。溶媒を減圧下に除去し、透明な油をもたらした。
【0098】
GC−MS分析(カラムHP5−MS、25m×0.2mm;オーブン:120℃、2分、15℃/分、210℃、5分;He:1mL/分で)をこの物質に関して行った。トータルイオンクロマトグラムを図2Bに示す。この分析は、主成分(65.43面積%;Rt 7.08分)がm/z 168のジヒドロネペタラクトン異性体を表すことを示し、この成分の質量スペクトルを図3Bに示す。このスペクトルは、ジヒドロネペタラクトンに特徴的なm/z 113のイオンを含有する(ジェフソン、エム.(Jefson,M.)ら、前掲非特許文献)。出発原料中に存在する3つのネペタラクトンから誘導されるかもしれない残りのジヒドロネペタラクトン・ジアステレオマーを表す5つの追加ピークもまたクロマトグラムに表示された。これらはRt 5.41分、6.8面積%、m/z 168;Rt 5.93分、1.2面積%、m/z 168;Rt 6.52分、4.88面積%、m/z 168;Rt 6.76分、13.8面積%、m/z 168およびRt 7.13分、1.25面積%、m/z 168に現れた。何の残りのネペタラクトンもGC−MSによって検出されなかった。
【0099】
1H、13Cおよび一連の2D NMR分析もまた行った。13C NMRスペクトル(図5)のカルボニル領域は、それらの1つが他の4つより多い量(約75%)で、少なくとも5つのスピン系を示した。非常に少ない残りのネペタラクトンが検出された。
【0100】
観察された異なるNOE交差ピークの結合定数および強度の分析に基づいて、物質の主成分の立体化学は、式2のジヒドロネペタラクトン(9S,5S,1R,6R)−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オン)であると決定された。
【0101】
【化8】
【0102】
メチル基(i)とプロトン(d)との間の距離は、メチル基(j)とプロトン(e)との間の距離より長く、観察値はシス−トランス立体化学配置と一致する。
【0103】
立体異性体イソジヒドロネペタラクトン(9S,5R,1R,6R)−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オン)(式3)は、13C化学シフトによって同様に同定され、3.6%で存在する。
【0104】
【化9】
【0105】
このようにGC−MSおよびNMRデータは、ネペタラクトン立体異性体の混合物の水素化が、予期されるように、相当するジヒドロネペタラクトンジアステレオマーをもたらしたことを示す。シス,トランス−ネペタラクトン(出発原料の84.5モル%)から誘導されたジアステレオマーのペア(式2および式3)が水素化後の混合物の78.6%で、主ジヒドロネペタラクトンであった。
【0106】
実施例3
ジヒドロネペタラクトン混合物の忌避性試験
実施例2に従って製造したDHN(「mDHN」と称される)を、雌ネッタイシマカ(アエーデス・アエギプチ(Aedes aegypti))に対するその忌避効果について評価した。
【0107】
おおよそ250匹の雌ネッタイシマカを、それぞれがバウンドルッチェ(Baudruche)(動物腸)膜によってカバーされた5つの容器を含有するチャンバー中へ導入した。容器を、クエン酸ナトリウム(凝固を防ぐための)とATP(26mLの血液当たり72mgのATP二ナトリウム塩)とを含有するウシ血液で満たし、37℃に加熱した。表2に示す試験検体の1つを含有する、容量25μLのイソプロピルアルコールを各膜に塗布した。
【0108】
【表2】
【0109】
5分後に、4日齢の雌蚊をチャンバーに加えた。各処理について膜をプローブする蚊の数を20分にわたって2分間隔で記録した。各データは、3つの繰り返し実験の平均値を表す。
【0110】
表3は、雌ネッタイシマカが各処理された膜を最初にプローブする前に要した時間の量を示す。括弧内の数は、3つの繰り返しに付いての平均の標準誤差(SEM)である。
【0111】
【表3】
【0112】
蚊は4.6分以内で未処理対照容器をプローブし始めた。5%濃度でジヒドロネペタラクトンは、DEET(1%w/vでの)についての12分と比較して、蚊がおおよそ19分間「最初のプローブ」をするのを妨げることが分かった。より低い濃度(1%および2.5%w/v)のジヒドロネペタラクトンは、それぞれ、平均8および9.3分間最初のプローブを妨げた。
【0113】
ジヒドロネペタラクトンで処理された膜上への雌ネッタイシマカによる着陸/プルーブ密度の分布を経時的に分析し、図6にグラフで示す。実験の経過中に各膜上への許されたプローブの総数を測定し、その結果を表4にまとめる。5%濃度でのDHNは、20分間蚊プローブをほとんど排除することが分かり、たった1つのプローブが全体20分試験時間にわたって記録されたに過ぎなかったが、DEET(1%w/v)は平均4.55匹の蚊が着陸するのを許した。再び、より低い濃度のDHN(1%および2.5%w/v)は(未処理対照と比較して)忌避性を示すが、正の対照(1%w/vでのDEET)より低いレベルで忌避性を示すことが分かった。
【0114】
【表4】
【0115】
再び、データは、1%DEETに対してかなり増加した忌避性は5%(w/v)でようやく観察されたが、試験されたすべての濃度でジヒドロネペタラクトンが忌避性であったことを示す。
【0116】
実施例4
トランス,シス−ネペタラクトンからのジヒドロネペタラクトンの製造
多くの植物を、キャットニップ・ネペタ・ラセモサ(Nepeta racemosa)の種子(チルターン・シーズ(Chiltern Seeds)、英国カムブリア州(Cumbria,UK))から育てた。個々の植物から摘み取った葉ペアを酢酸エチルに浸漬し、2時間後に溶媒を除去し、抽出物をガスクロマトグラフィーによって分析した。それらの油中にトランス,シス−ネペタラクトンを主に生産する植物をこうして特定し(クラーク、エル.ジェー.(Clark,L.J.)ら、前掲非特許文献)、そして成熟まで育てた。これらの植物からの葉材料を収穫し、凍結乾燥し、酢酸エチル中へ抽出し、抽出液を濃縮した。ネペタラクトンを濃縮した抽出物からヘキサン/酢酸エチル(9:1)でのシリカゲル・クロマトグラフィー、引き続き同じ溶媒混合物を用いるシリカ上での分取薄層クロマトグラフィーによって精製した。溶媒の除去およびヘキサンへの再溶解後に、トランス,シス−ネペタラクトンをドライアイス上で結晶化させた。GC−MSならびにNMR(1Hおよび13C)分析は、結晶物質の同一性をトランス,シス−ネペタラクトンと確認した。13C化学シフト(図7)を、表1の化学シフトと比較して、表5に示す。
【0117】
【表5】
【0118】
このように調製したトランス,シス−ネペタラクトンの水素化を、ESCAT#142触媒(エンゲルハルト(Englehart))を用いてエタノール中50℃で4時間実施した。GC−MSならびにNMR(1Hおよび13C)は、トランス,シス−ネペタラクトンが、1つが著しい過剰で、相当するジヒドロネペタラクトン立体異性体に定量的に変換されたことを確認した。主ジアステレオマーのNMR分析:1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.97(d,3H,J=6.28Hz),0.98(d,3H,J=6.94Hz),1.24(m,2H),1.74(m,1H),1.77(m,2H),1.99(m,2H),2.12(dd,1H,J=6.86および13.2Hz),2.51(m,1H),3.78(tr,1H,J=11.1Hz),4.33(dd,1H,J=5.73および11.32Hz);13C(500MHz,CDCl3):δ 15.43,18.09,27.95,30.81,31.58,35.70,42.51,51.40,76.18,172.03。13C NMRスペクトル(図8)は、この主ジアステレオマーが製造物の約93.7%を構成することを示した。ラクトン酸素へのメチレン、メチル基を有する立体メチン炭素、メチル基それ自体および橋頭メチンについて観察されたカップリングに基づいて、該ジアステレオマーがたぶん式4の(1S,9S,5R,6R)−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンであると結論される。
【0119】
【化10】
【0120】
観察されたカップリングの大きさは、カープラス(Karplus)方程式によれば上の構造でビシナル炭素原子上のプロトン間の二面角と一致する(ロバート エム.シルバースタイン(Robert M.Silverstein)、ジー.クレイトン バスラー(G.Clayton Bassler)およびテレンス シー.モリル(Terence C.Morill)著、「有機化合物の分光学的同定(Spectrophotometric Identification of Organic Compounds)」、第4版、1981年、208−210ページ参照)。
【0121】
実施例5
トランス,シス−ネペタラクトンの水素化によって製造したジヒドロネペタラクトンの忌避性試験
実施例4で製造したジヒドロネペタラクトン、式4を、実施例3に記載したように本質的にネッタイシマカに対する忌避性について試験した。実験計画を表6にまとめ、示されるすべてのデータは5つの繰り返し実験からである。
【0122】
【表6】
【0123】
表7は、雌ネッタイシマカが各膜を最初にプローブする前に要した時間の量に関してDHN濃度の影響を示す。
【0124】
【表7】
【0125】
1%濃度でのジヒドロネペタラクトンは蚊の「最初のプロービング」をおおよそ16分間妨げることを分かった。同じ濃度でのDEETは、14.8分の最初のプローブまでの平均時間を示した。より低い濃度のジヒドロネペタラクトン(0.5および0.2%w/v)は、それぞれ、平均9.6および8.4分間最初のプロービングを妨げることが分かった。
【0126】
ジヒドロネペタラクトンで処理した膜上への雌ネッタイシマカによるプローブ密度の分布を、図9にグラフで示すように、経時的に分析した。実験の経過中に各膜上への許されたプローブの総数を測定し、その結果を表8にまとめる。1.0%濃度でのDHNは、10分間蚊プロービングを完全に排除することが分かったが、DEET(1%w/v)は6分までに蚊がプロービングを開始するのを許した。再び、より低い濃度のジヒドロネペタラクトン(0.5および0.2%w/v)は、(未処理対照と比較して)忌避性を示すが、正の対照(1%w/vでのDEET)より低いレベルで忌避性を示すことが分かった。
【0127】
【表8】
【0128】
百分率忌避性は、次の方程式
%忌避性=100−[(T/C)×100]
(ここで、
T=時間txで当該繰り返しのために処理した容器をプローブする蚊の平均数
C=時間txでIPA対照容器をプローブする蚊の平均数)
を用いて各観察時間に各忌避剤処理について計算した。
【0129】
得られた百分率を次に逆正弦変換し、ANOVA(分散分析)を、全5つの繰り返しから計算した忌避性を用いて行った。平均値の多重比較を、スチューデント−ニューマン−クールズ(Student−Newman−Keuls)試験を用いて行った。ANOVAからの平均逆正弦値を次に百分率へ変換し直した。結果を表9に示す。
【0130】
【表9】
【0131】
1%DHNは忌避性の点で第一級に格付けされ、1%DEETとは統計的に区別できなかった。
【0132】
実施例6
サシバエ(ストモキス・カルシトランス(Stomoxys calcitrans))に対するジヒドロネペタラクトンの忌避性試験
トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導された、「実験サンプル#1」と称されるDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物(実験サンプル#2と称される;mDHN)を、本質的に実施例3に記載されるように、ストモキス・カルシトランスに対する忌避性について試験した。ここで使用するDHNは、それが市販油(ベルジェ、ニュージャージー州)から結晶化したトランス,シス−ネペタラクトンの水素化(Pd/SrCO3触媒を用いる)により誘導された点で、実施例4で製造したものとは異なった。これらの実験では、追加の正の対照化合物、すなわち、タカサゴ・インターナショナル社(Takasago International Corp.)(米国)、ニュージャージー州ロックライ(Rockleigh,NJ)から入手したp−メンタン−3.8−ジオール(PMD)を含めた。実験計画を表10にまとめ、示されるすべてのデータは5つの繰り返し実験の平均値である。
【0133】
【表10】
【0134】
これらの試験で、「最初の着陸」までの正確な時間は、幾らかの着陸が各試験変数についての5つの繰り返しの3つもしくはそれ以上で2分の最初の曝露期間前に起こったので、測定することができなかった。
【0135】
ジヒドロネペタラクトンで処理した膜上へのサシバエによる着陸密度の分布を、図10にグラフで示すように経時的に分析した。実験の経過中に各膜上への許された着陸の総数を測定し、その結果を表11にまとめる。着陸は該昆虫の試験容器への曝露時に始まり、約5分後にピークに達するように思われ、その後時間と共に徐々に減少した。概して、1%濃度のジヒドロネペタラクトンで処理した膜上への着陸の数は、未処理(IPA)膜について観察されるものよりかなり少なく、DEET(1%w/v)で観察されるものと同等であった。p−メンタン−3,8−ジオール(PMD)は、実験の経過中ずっとジヒドロネペタラクトンかDEETかのどちらかよりも着陸を防ぐ点であまり有効ではなかったし、幾らかの初期忌避性を観察することができたが、この化合物は6分後に無効になった。再び、このデータは、1%ジヒドロネペタラクトンが1%DEETと同等の忌避活性を示したことを示す。
【0136】
【表11】
【0137】
百分率忌避性および統計分析を実施例5に記載したように実施し、結果を表12に示す。
【0138】
【表12】
【0139】
mDHN、DEETおよびDHNは統計的に同等にうまく機能し、43.2〜55.5%忌避性を提供し、IPAと比較した時にたったの4.7%忌避性を与えるPMDより統計的に良好であった。
【0140】
実施例7
ハマダラカ(アノフェレス・アルビマヌス(Anopheles albimanus))に対するジヒドロネペタラクトンの忌避性試験
トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導された、「実験サンプル#1」と称されるDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物(実験サンプル#2と称される;mDHN)を、本質的に実施例3に記載されるように、100匹の非給餌の成熟雌ネッタイシマカに対する忌避性について試験した。ここで使用するDHNは、それが市販油(ベルジェ、ニュージャージー州ブルームフィールド)から結晶化したトランス,シス−ネペタラクトンの水素化(Pd/SrCO3触媒を用いる)により誘導された点で、実施例4で製造したものとは異なった。PMDを再びさらなる対照として含めた。実験計画を表13にまとめ、示されるすべてのデータは5つの繰り返し実験の平均値である。
【0141】
【表13】
【0142】
これらの試験で、「最初のプルービング」までの正確な時間は、幾らかのプルーブが各試験変数についての5つの繰り返しの2つもしくはそれ以上で2分の最初の曝露期間前に起こったので、測定することができなかった。ジヒドロネペタラクトンで処理した膜上へのハマダラカによるプルーブ密度の分布を、図11にグラフで示すように経時的に分析した。プルービングは該昆虫の試験容器への曝露時に始まり、その後時間と共に徐々に増加した。概して、1%濃度のジヒドロネペタラクトンで処理した膜上へのプローブの数は、実験中ずっと未処理(IPA)膜について観察されるものよりかなり少なかった。
【0143】
実験の経過中に各膜上への許されたプローブの総数を測定し、その結果を表14にまとめる。データは、1%ジヒドロネペタラクトンがA.アルビマヌスに対して同等濃度のDEETかPMDかのどちらかと比較してより高い忌避活性を示したことを示す。
【0144】
【表14】
【0145】
百分率忌避性および統計分析を実施例5に記載したように実施し、結果を表15に示す。
【0146】
【表15】
【0147】
mDHNはDEETよりも統計的に優れ、46.1%忌避性を提供した。DHNはmDHNと統計的に同等であるが、またDEETとも統計的に同等であり、32.9%忌避性を提供した。それぞれ13.3%および11.5%忌避性を提供したDEETおよびPMDは、効能の点で統計的に同等であった。
【0148】
実施例8
鹿ダニ、イクソデス・スカプラリス(Ixodes scapularis)に対するジヒドロネペタラクトンの忌避性
実施例7でのように調製した、トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物を、DEETを正の対照として試験に含めて、I.スカプラリスに対する忌避性について試験した。
【0149】
各化合物(イソプロパノール中30%(w/v))の25μL容量を、6人の男性ヒトボランティアの左前腕上に引かれた4cm直径円内に塗布した。各ボランティアは、2つの忌避剤をこの前腕上の2つの円内に個別に塗布され、他の腕上に引かれた単一の4cm直径円を、ダニ誘引についての対照として機能を果たすように未処理のまました。鹿ダニ、イクソデス・スカプラリスの実験室育ちの非給餌幼虫を、綿棒(Q−チップ(tip)(登録商標))で未処理円の1mm内に持ってきた。通常の探索挙動が観察された場合、および/または昆虫が未処理区域上へ這って行った場合、それを適格であると見なし、次に処理区域に提供した。60秒以内に処理区域を探索したまたはその区域上へ這って行った適格ダニは忌避されなかったとして記録した。60秒以内に処理区域を探索しなかったもしくは探索するのを止めたおよび/または処理区域から退却した適格ダニは忌避されたとして記録した。さらに、処理区域上へ這って行ったが追加の60秒以内に離れた適格ダニは忌避されたとして記録した。
【0150】
各ボランティアは、5つの適格ダニを各処理された円におおよそ1時間おきに提供された。曝露を、5つの提供されたダニの任意の群からの3つが「誘引された」と考えられるまで続けた。最初の忌避されなかったダニを最初の誘引されたダニと定義し、それに第2の誘引されたダニが同じまたは次の曝露期間内に続いた。最初の確認された誘引ダニの時間を、完全な忌避性が当該ボランティアについて「壊れた」時間であると考えた。
【0151】
【表16】
【0152】
データ(表16)は、DEETが鹿ダニ、イクソデス・スカプラリスからの124分の平均完全保護時間を提供したが、DHNが同様に109分間、そしてmDHN(DHNの混合ジアステレオマー)85分間有効であったことを示す。このように、DHNおよびmDHNの両方が鹿ダニを忌避することは明らかである。保護時間のANOVAを行い、それはDHN、mDHNおよびDEETがこれらのダニに対するそれらの忌避性の点で統計的に区別できないことを示した。
【0153】
実施例9
ヒト被験者に塗布されたジヒドロネペタラクトンの蚊アノフェレス・アルビマヌスに対する忌避性
実施例7でのように調製した、トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物を、成人ボランティアを用いて、DEETを正の対照として試験に含めて、A.アルビマヌスに対する忌避性について試験した。2つの対辺のそれぞれ上に2つの袖付き入口部がある試験ケージ(2×2×2フィート)を、中心にハンドレスト付きで使用した。側面および上面を遮断し、底部に観察を容易にするための鏡を装備した。血液食餌を以前に受けたことがなかった、かつ、使用前24時間10%蔗糖のそれらの通常食餌を取り上げられてきた200の成熟した雌蚊を試験ケージ中へ放った。各ボランティアは、ケージ中への挿入の30秒以内に彼らの未処理前腕上に10匹の昆虫着陸を有することによって誘引物として予め適格とされた。
【0154】
各化合物(イソプロパノール中5%か10%(w/v)かのどちらか)の1.0mL容量を、腕の残りの部分を昆虫にアクセスできないようにして、6人の男性ヒトボランティアの前腕上250cm2区域に塗布した。各ボランティアは、異なる忌避剤を各前腕上へ個別に塗布された。塗布された忌避剤を30分間乾燥させた後、前腕を30分間間隔で5分間試験ケージ中へ入れ、各曝露期間中にプローブするまたは刺す蚊の数を記録した。忌避性の機能停止を、各ボランティア上の各忌避剤について記録した。機能停止は、最初の確認された刺しが起こった時と定義し、最初の確認された刺しは、同じ曝露期間内か次の曝露期間内かのいずれかに第2の刺しが続く刺しと定義した。データを平均完全保護時間として表17に示す。データは、DHNおよびmDHNの両方がかなりの期間(例えば、10%(w/v)ではそれぞれ、3.5時間および5時間)刺しからの完全保護を与え、同じ濃度でDEETによって与えられるものに匹敵したことを示す。
【0155】
データをANOVAを用いて分析し、これは、5%および10%mDHN溶液がそれぞれ、効能の点で5%および10%DEETと統計的に区別できないことを示した。DHNの5%および10%溶液は、mDHNの相当する溶液と統計的に等しいけれども、より少ない保護時間を提供した。
【0156】
【表17】
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】天然由来イリドイド(メチルシクロペンタノイド)ネペタラクトンの化学構造を示す。
【図2】商業的に入手可能なキャットニップ油から蒸留されたネペタラクトンに富む留分(A)の、水素化によってこの留分から製造された物質(B)のそれと共に、組み合わせたガスクロマトグラフィー/質量分光測定(GC−MS)分析からのトータルイオンクロマトグラムを示す。
【図3】図2でGC−MS分析によって同定されたネペタラクトンに富む留分(A)および水素化物質(B)の主成分の質量スペクトルを示す。
【図4】商業的に入手可能なキャットニップ油の蒸留されたネペタラクトンに富む留分について行われた13C NMR分析を示す。
【図5】商業的に入手可能なキャットニップ油の蒸留されたネペタラクトンに富む留分の水素化によって製造されたジヒドロネペタラクトンの分析から得られた13C NMRスペクトルを示す。
【図6】インビトロ忌避性試験での雌ネッタイシマカに対する様々な忌避剤の試験中の、経時的なプローブ密度の分布を示す。
【図7】トランス,シス−ネペタラクトンの13C NMR分析を示す。
【図8】トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたジヒドロネペタラクトンの13C NMR分析を示す。
【図9】インビトロ忌避性試験での雌ネッタイシマカに対するトランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたジヒドロネペタラクトンの試験中の、経時的なプローブ密度の分布を示す。
【図10】インビトロ忌避性試験でのサシバエ(ストモキス・カルシトランス)に対する様々な忌避剤の試験中の、経時的な着陸密度の分布を示す。
【図11】インビトロ忌避性試験での雌ハマダラカ(アノフェレス・アルビマヌス)に対する様々な忌避剤の試験中の、経時的なプローブ密度の分布を示す。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本件出願は、あらゆる目的のためにその一部として全体を援用される、2003年5月19日出願の米国特許出願第10/392,455号の一部継続である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、昆虫忌避性の分野、および一般に忌避物質としてジヒドロネペタラクトン立体異性体使用に関する。
【背景技術】
【0003】
忌避物質は一般に、昆虫が別のやり方で昆虫許容性食餌源または生息場所から忌避される、またはそれらを拒絶することを引き起こす。米国での昆虫忌避剤販売の少なくとも85%は、それらの第一の活性成分としてN,N−ジエチル−m−トルアミド(DEET)を含有する昆虫忌避剤向けである。さらに、コンシューマー・リポーツ(Consumer Reports)試験は、最高濃度のDEET入り製品が蚊に対して最も長く持続することを示した。有効な忌避剤ではあるが、DEETは不快な臭気を有し、皮膚に脂っぽい感じを与える。さらに、それはEPA(環境保護庁)によって米国での使用について最近になって再登録されたが、特に子供に塗布された時に、その安全性に関して懸念が提起された(非特許文献1)。幾つかの研究は、高濃度のDEETが幾つかの個体でアレルギー反応または毒性反応を引き起こす恐れがあることを提言してきた。DEETに関連した他の不利な点には、1)それは合成化学物質である、すなわち、それは天然源から誘導されていない、2)それは活性の限定スペクトルを示す−それは、例えば、黒足ダニまたは鹿ダニに対して望まれるほど有効でない(非特許文献2)、3)DEETは多くのプラスチックおよび塗装表面を溶解するまたは傷つける、および4)DEETは、局所製剤で典型的に使用される幾つかの不活性成分を可塑化するかもしれず、それはより低いユーザーの容認につながることが含まれる。
【0004】
上の制限の結果として、忌避活性を持ったDEETを含まない製品は消費者の支持を見いだしつつある。具体的には、天然物を含有する組成物に対する需要は増えつつある。新たな候補忌避剤は特性の望ましいバランスを有するべきであり、好ましくはDEETの正の特性に達するまたはそれを超える、および/またはその負の特性に苦しまないであろう(非特許文献3)。DEETの潜在的な代替品は望ましくはさらにまた、優れた忌避性、高い残留活性ならびにヒト(またはペット)および環境への低い毒性の組み合わせを示すべきである。さらに、天然植物原料から得ることができる、またはそれから合成することができる、かつ、使用に快い忌避化合物に対する需要は増えつつある。DEETに取って代わるいかなる候補も刺す昆虫、木喰虫、有害昆虫、家庭害虫などを含むが、それらに限定されない、ヒトによって有害であると考えられる多種多様な昆虫に対して忌避性を示すべきである。
【0005】
多くの植物種は昆虫忌避および芳香化学物質の天然源として使用される精油(芳香油)を生産する[非特許文献4]。昆虫に対するその一般忌避性について知られるシトロネラ油は、イネ科植物シムボポゴン・ウィンテリアヌス(Cymbopogon winterianus)およびシー.ナーダス(C.nardus)から得られる。芳香化学物質の源として使用される植物の例には、メリッサ・オフィシナリス(Melissa officinalis)(メリッサ)、ペリラ・フルテセンス(シソ)、ポソステモン・キャブリン(Posostemon cablin)(パチョリ)および様々なラバンデュラ種(ラベンダー)が挙げられる。価値のある油を生産する植物のこれらの例のすべてがシソ科植物(ラミアセアエ(Lamiaceae))族のメンバーである。属ネペタ(Nepeta)の植物(キャットニップ(catmint))もまたこの族のメンバーであり、商業の副品目である精油を生産する。この油は、イリドイドとして知られるモノテルペノイド化合物[非特許文献5]、より具体的にはメチルシクロペンタノイド・ネペタラクトン[非特許文献6]および誘導体の類に非常に富んでいる。
【0006】
イリドイド・モノテルペノイドは、様々な昆虫種に対する有効な忌避剤であることが長い間知られてきた(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。キャットニップ油(主としてネペタラクトン)の忌避性の研究は、それが短期曝露では多数の昆虫種を忌避するが、多数の他の種を忌避しないことを示した(非特許文献11)。
【0007】
特許文献1は、二環式イリドイドラクトン(例えば、イリドミルメシン(iridomyrmecin))を含有する組成物の昆虫忌避剤を開示している。さらに、特許文献2は、DEETとの増強昆虫忌避混合物でのこれらの二環式イリドイドラクトン組成物の使用を開示している。特許文献3は、カットニップ植物エヌ.カタリア(N.cataria)から誘導されたネペタラクトンを含んでなる昆虫忌避剤、および昆虫忌避剤としてのネペタラクトン立体異性体の特異な効能を開示している。
【0008】
ジヒドロネペタラクトン(DHN)、ネペタラクトンから誘導されたイリドイド・モノテルペノイドの類(図1に示される)を含有する組成物は、殺虫効果を提供することが知られている。例えば、アリ・イリドミルメックス・ニチダス(Iridomyrmex nitidus)の肛門腺からの分泌物の組成物の研究は、イソジヒドロネペタラクトンがイソイリドミルメシンと共にかなりの量で存在することを示した(非特許文献12)。イソイリドミルメシンは良好な「ノックダウン」殺虫活性を有することがその時点で知られていた。
【0009】
非特許文献13は、アリの昆虫忌避性分泌物中のジヒドロネペタラクトンの存在を開示しているが、化合物イリドジアールが主な忌避成分であると言われている。
【0010】
非特許文献14は、ジヒドロネペタラクトンが25秒間にわたってアリに対して気相で有効な忌避性を示すことを開示している。より長い時間は研究されなかった。純粋なジヒドロネペタラクトンからの蒸気への25秒曝露後に、おおよそ50〜60%のモノモリウム・デストラクター(Monomorium destructor)アリが餌をとるのを止めた。忌避効果の継続時間に関しては何の指標も与えられなかった。
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,663,346号明細書
【特許文献2】米国特許第4,869,896号明細書
【特許文献3】米国特許第6,524,605号明細書
【非特許文献1】ブリアソウリス、ジー.(Briassoulis,G.)、ナルリオグロー、エム.(Narlioglou,M.)、ハッチス、ティー.(Hatzis,T.)著、ヒトおよび実験毒性学(Human & Experimental Toxicology)、20(1)(2001)、8−14ページ
【非特許文献2】シュレック、シー.イー.(Schreck,C.E.)、フィッシュ、ディー.(Fish,D.)およびマックガバーン、ティー.ピー.(McGovern,T.P.)著、米国蚊制御協会誌(Journal of the American Mosquito Control Association)、11(1)(1995),136−140ページ
【非特許文献3】ホロン、ティー.(Hollon,T.)著、科学者(The Scientist)、(2003)、2003年6月16日、25−26ページ
【非特許文献4】ヘイ、アール.ケー.エム.(Hay,R.K.M.)、ウォーターマン、ピー.ジー.(Waterman,P.G.)編、「揮発性油作物:それらの生物学、化学および生産(Volatile Oil Crops:their biology,chemistry and production)」中のヘイ、アール.ケー.エム.、スブボダ、ケー.ピー.(Svoboda,K.P.)著、「植物学(Botany)」、ロングマン・グループ英国社(Longman Group UK Limited)、1993年
【非特許文献5】イノウエ、エッチ.(Inouye,H.)著、イリドイド.植物生化学における方法(Iridoids.Methods in Plant Biochemistry)、7(1991)、99−143ページ
【非特許文献6】クラーク、エル.ジェー.(Clark,L.J.)ら著、植物雑誌(The Plant Journal)、11(1997)、1387−1393ページ
【非特許文献7】アイスナー、ティー.(Eisner,T.)著、科学(Science)、146(1964)、1318−1320ページ
【非特許文献8】アイスナー、ティー.著、科学、148(1965)、966−968ページ
【非特許文献9】ペーターソン、シー.(Peterson,C.)およびコーツ、ジェー.(Coats,J.)著、殺虫剤展望(Pesticide Outlook)、12(2001)、154−158ページ
【非特許文献10】ペーターソン、シー.ら著、米国化学会論文の抄録(Abstracts of Papers American Chemical Society)、222(1−2)(2001)、アグロ(AGRO)73
【非特許文献11】アイスナー、ティー.著、科学、146(1964)、1318−1320ページ
【非特許文献12】カヴィル、ジー.ダブリュ.ケー.(Cavill,G.W.K.)およびディー.ヴイ.クラーク(D.V. Clark)著、J. Insect Physiol.、13(1967)、131−135ページ
【非特許文献13】カヴィルら著、テトラヘドロン(Tetrahedron)、38(1982)、1931−1938ページ
【非特許文献14】ジェフソン、エム.(Jefson,M.)ら著、化学生態学雑誌(J.Chemical Ecology)、9(1983)、159−180ページ
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態は、下の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物であるそれを含む昆虫忌避組成物である。
【0013】
【化1】
【0014】
本発明の別の実施形態は、ヒト、動物または無生物ホストに塗布された時に昆虫を忌避する組成物であって、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含む組成物である。
【0015】
本発明のさらなる実施形態は、ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ、木喰虫、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ、コクヌストモドキおよびビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、ならびにゾウムシよりなる群から選択される1つもしくはそれ以上の昆虫を忌避する組成物であって、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含む組成物である。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態は、N,N−ジエチル−m−トルアミドのそれと統計的に区別できない平均完全保護時間を有する組成物であって、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含む組成物である。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態は、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を約0.001%〜約80重量の量で含む昆虫忌避組成物である。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態は、組成物または物品として提供すること、または上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、もしくはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を組成物もしくは製品中へ組み入れることによる、昆虫忌避組成物または昆虫忌避製品の製造方法である。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態は、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を物品中へ組み入れることによる、物品の昆虫忌避効果を与える、増大させるまたは高める方法である。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態は、上述の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物に昆虫を曝露することによる、ヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避する方法である。忌避される昆虫は、例えば、蚊、サシバエおよびダニの1つもしくはそれ以上であるかもしれない。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態は、ヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避するための上の一般式で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物の使用である。忌避される昆虫は、例えば、蚊、サシバエおよびダニの1つもしくはそれ以上であるかもしれない。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態は、SrCO3ではない触媒担体上に担持されたパラジウムの存在下に次のスキーム
【0023】
【化2】
【0024】
に従って式(XV)のネペタラクトンを水素化することによる式(XVI)のジヒドロネペタラクトンの製造方法である。
【0025】
本願特許出願人らは、ジヒドロネペタラクトンが先行技術組成物に特有な不利な特性なしに新たなクラスの有効な昆虫忌避化合物としてうまく機能することを見いだした。昆虫忌避剤として使用された時に、DHNは、昆虫食餌源または生存条件を誘引しないようにするまたは嫌なものにすることによって、植物およびヒトをはじめとする動物への、または製品への損傷を防ぐ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
ネペタラクトンは下の一般式を有する化合物である。
【0027】
【化3】
【0028】
4つの不斉中心が上に示されたような炭素4、4a、7および7aでネペタラクトンのメチルシクロペンタノイド骨格内に存在し、(7S)−ネペタラクトンは幾つかの植物および昆虫によって生産される。
【0029】
ジヒドロネペタラクトンは、属ネペタの幾つかのシソ科植物の精油の副成分として公知である(レニエ、エフ.イー.(Regnier,F.E.)ら著、Phytochemistry、6(1967)、1281−1289ページ;デプーター、エッチ.エル.(DePooter,H.L.)ら著、Flavour and Fragrance Journal、3(1988)、155−159ページ;ハンドジエバ、エヌ.ヴィー.((Handjieva,N.V.)およびエス.エス.ポポフ(S.S.Popov)著、J.Essential Oil Res.、8(1996)、639−643ページ)。ジヒドロネペタラクトンは式1
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、1,5、6および9は分子の4つの不斉中心を示し、示される構造はジヒドロネペタラクトンのすべての立体異性体を包含することを意図される)
で明示される。(7S)−ネペタラクトンから誘導されるかもしれないジヒドロネペタラクトン立体異性体の構造は下に示される。
【0032】
【化5】
【0033】
「ジヒドロネペタラクトン」(DHN)は、特に特定の異性体または混合物が明記されない限り、任意のおよびすべてのジヒドロネペタラクトン立体異性体ならびにそれらの混合物を包含すると理解されるであろう。ジヒドロネペタラクトンがネペタラクトンの天然由来源から製造される場合、立体異性体のモル濃度での幾つかの変形が予期される。しかしながら、天然由来源からの製造が好ましい製造方法である。
【0034】
レニエら、前掲非特許文献は、属ネペタ(キャットニップ)の植物の精油から単離されたネペタラクトンの接触水素化によるネペタラクトンからのDHNの製造を開示している。ジヒドロネペタラクトンの好ましいおよび便利な一合成方法は、このように、属ネペタ(キャットニップ)の植物から様々な方法によって単離された精油から比較的純粋な形で得られるネペタラクトンの水素化による。酸化白金および炭酸ストロンチウムに担持されたパラジウムのような触媒は24〜90%収率でジヒドロネペタラクトンを与える(レニエら、前掲非特許文献)。特に好ましい方法は、あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を援用される、2003年4月2日に出願された、米国特許出願第10/405,444号明細書に記載されている。精油の単離方法は当該技術でよく知られており、油抽出のための方法論の例には、水蒸気蒸留、有機溶剤抽出、マイクロ波支援有機溶剤抽出、超臨界流体抽出、機械抽出およびアンフルラージュ(脂肪への初期冷抽出、引き続く有機溶剤抽出)が挙げられる(がそれらに限定されない)。
【0035】
異なるネペタ種から単離された精油が異なる割合のネペタラクトンの各天然由来立体異性体を有することはよく知られている(レニエら、前掲非特許文献;デプーターら、前掲非特許文献;ハンドジエバら、前掲非特許文献)。このように、任意のネペタ種に由来する油から製造されたDHNは、必然的にその立体異性体の混合物であり、当該混合物の構成は、それが由来するネペタの特定種に依存するであろう。
【0036】
本明細書で上述されたように、4つの不斉中心が示されるような炭素4、4a、7および7aでネペタラクトンのメチルシクロペンタノイド骨格内に存在する。
【0037】
【化6】
【0038】
合計8ペアのジヒドロネペタラクトン・エナンチオマーがネペタラクトンの水素化後に可能である。これらのうち、これまで記載された天然由来立体異性体は(9S)−ジヒドロネペタラクトンである。本発明に従って好ましい忌避物質には、ジヒドロネペタラクトンの可能な立体異性体の任意のまたはすべてのものの混合物が含まれる。より好ましい忌避物質には、(9S)−ジヒドロネペタラクトンの混合物が含まれる。(7S)−ネペタラクトンから誘導された(9S)−ジヒドロネペタラクトン立体異性体が最も好ましい。これには、図1に例示されるような、シス,トランス−ネペタラクトン、シス,シス−ネペタラクトン、トランス,シス−ネペタラクトン、およびトランス,トランス−ネペタラクトンとして一般に知られる化合物が含まれる。N.カタリアによって生産される主な立体異性体(シス,トランスおよびトランス,シス)が好ましい。
【0039】
水素化反応が完了すると、異性体生成物の生じた混合物は、それぞれの高度に精製されたペアのジヒドロネペタラクトン・ジアステレオマーをもたらすために通常の方法(例えば、分取液体クロマトグラフィー)によって分離されてもよい。これは、特定の昆虫に対して最も有効であることが分かるように様々な異なるジアステレオマーの使用を可能にする。植物からある特定のネペタラクトン異性体を単離して水素化によってその相当するペアのジアステレオマーに変換することが好ましい。
【0040】
異なるネペタ種間のネペタラクトン立体異性体含量の変動に加えて、種内変動もまた存在することが知られている。所与の種の植物は、それらの成長の条件または収穫時の成長段階に依存して異なる組成の油を生産するかもしれない。実際に成長条件または収穫時の成長段階とは無関係な油組成の変動がネペタ・レイスモサ(Nepeta racemosa)で見いだされた(クラーク、エル.ジェー.ら、前掲非特許文献)。異なる油組成を示す単一種の植物はケモタイプと称される。ネペタ・レイスモサには、異なるネペタラクトン立体異性体の割合に際立った相違を示すケモタイプが存在する。従って、特定のジヒドロネペタラクトン・エナンチオマーの好ましい製造方法は、特定のネペタラクトン立体異性体を含有することが知られているネペタ・ケモタイプからの油の水素化である。
【0041】
本発明の組成物によって忌避されるような昆虫には、成熟状態で(非成熟昆虫状態には、幼虫およびサナギが含まれる)、頭部、胸部、および腹部、3対の脚、ならびにしばしば(しかし必ずとは限らない)2対の膜質翼への身体の分割によって特徴づけられる無脊椎動物の大集団の任意のメンバーが含まれる。この定義には、それ故、様々な刺す昆虫(例えば、アリ、ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ)、木喰虫(例えば、シロアリ)、有害昆虫(例えば、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ)、および家庭害虫(例えば、コクヌストモドキおよびビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、ゾウムシ)が含まれるが、それらに限定されない。一実施形態では、例えば、本発明のDHN組成物は、上述のもののような、かつまた、刺す昆虫、木喰虫、有害昆虫、および家庭害虫、最も具体的には蚊、サシバエ、および鹿ダニのようなダニを含む広いスペクトルの一般害虫に対して有効な昆虫忌避剤である。
【0042】
さらなる実施形態では、本発明のDHN組成物は、ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ、木喰虫、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ、コクヌストモドキおよびビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、およびゾウムシよりなる群のメンバーの任意の1つもしくはそれ以上を忌避するのに有効である。しかしながら、忌避される昆虫はまた、このパラグラフの第1文章のリストで述べられたような全体群から任意の1つもしくはそれ以上のメンバーを削除することによって形成される前述のものの亜群から選択される1つもしくはそれ以上のものであってもよい。結果として、忌避される昆虫は、かかる場合には、上のリストに述べられるような全体群から形成されてもよい任意のサイズの任意の亜群から選択されるものであってもよいだけでなく、亜群を形成するために全体群から削除されたメンバーを排除してもよい。上のリスト中の全体群から様々なメンバーを削除することによって形成される亜群は、さらに、忌避される昆虫が全体群のすべての他のメンバーを排除するように全体群の個々のメンバーであってもよい。
【0043】
ホストは、昆虫によって影響を受ける任意の植物または動物である。典型的には、ホストは、昆虫許容性食餌源または昆虫許容性生息場所であると考えられる。ホストは、動物(限定なしにペットおよび/または他の家畜を含む)、ヒト、植物または、昆虫によって影響を受ける任意の無生物物品を包含する、いわゆる「昆虫感受性物品」であり得る。無生物物品としては、建築物、家具などが含まれてもよい。
【0044】
本発明のさらなる実施形態では、DHNは、昆虫が物品上に着陸(landing)するのを阻止するか、物品を取り囲む空気を占有するのを阻止するかのどちらかの目的で昆虫忌避物品を製造するために昆虫感受性物品のようなホスト中へ組み入れられる。物品が本発明のDHN組成物での処理前にある程度の昆虫忌避性を既に示すかも知れないそれらの場合がこの実施形態で考えられる。かかる場合には、物品の昆虫忌避性は本発明のDHN組成物の塗布によって高められるであろうと考えられる。
【0045】
昆虫忌避剤は昆虫をホストから阻止する任意の配合物または組成物である。かかる用法は長期の有益な効果を示すもの、および/または昆虫挙動への観察可能な効果がある前に非常に高い表面濃度を必要とするものと比べて非常に短命の効果を有する化合物の何の区別もしないことが理解されるであろう。
【0046】
用語「昆虫忌避剤」は、このように、全く処理なしと比較した時に、昆虫からのホスト保護を与える配合物または組成物を示す。「保護」は、望ましくは昆虫の数の統計的に有意の減少をもたらし、例えば、ヒトをはじめとする処理された動物、および処理された無生物表面に対する昆虫挙動が観察される試験で平均完全保護時間(「CPT」)を測定することによって実用的に求められるかもしれない。平均CPTは、処理表面への最初の着陸、プロービングまたは突刺し(刺す昆虫のケースで)または爬行(ダニまたはツツガムシ類のような爬行昆虫のケースで)前の時間が観察される試験の繰り返しに関して時間の平均長さを意味する[例えば、米国EPA予防、農薬および毒性物質局(US EPA Office of Prevention,Pesticides and Toxic Substances)製品性能試験ガイドラインOPPTS810.3700;およびフラジン、エム.エス.(Fradin,M.S.)、デイ、ジェー.エフ.(Day,J.F.)著、ニューイングランド医薬雑誌(New England Journal of Medicine)、347(2002)、13−18ページを参照されたい]。本発明の模範的な一実施形態では、本明細書の昆虫忌避組成物は、DEETのそれと統計的に区別できない平均CPTを有する。DHN組成物およびDEETのそれぞれの平均CPT性能のこの状態が統計的に区別できないことが示される試験では、用いられる試験条件(活性成分の量をはじめとする)は勿論同一でなければならず、または、同一でない場合、記載される条件の存在を記録する目的で結果の利用を妨げない程度にのみ異ならなければならない。
【0047】
上記のように、DHNは性能の点で好都合にもDEETに匹敵した。さらに、DHNは有利なことに、植物に由来する天然由来ネペタラクトンから製造されるが、DEET、および多くの他の昆虫忌避剤は天然源から製造されない−有効な忌避剤を選ぶ時に重要な消費者考慮事項。天然源からの製造はまた低い生産コストの可能性も提供する。
【0048】
DHNが有効な昆虫忌避性を示しながらDEETの臭気より優れてかなりの改善を提供することは本発明の特に驚くべき態様である。本発明のDHN配合物および組成物は快い芳香を有する。DHN物質の芳香特徴は、例えば、組成物中の1つもしくはそれ以上の他の成分により寄与される嗅覚反応を利用するまたは和らげることによって、昆虫忌避組成物または物品の全体的な嗅覚成分を与える、変更する、増やすまたは高める時にそれらを役立つようにする。具体的には、本発明のDHN組成物は、最終忌避組成物または物品の調合物中の他の成分によって寄与される臭気をマスクするか緩和するかのどちらかのために、および/または特徴的な香気または芳香を与えることによって製品の消費者アピールを高めるために利用されてもよい。
【0049】
DHNまたは任意の昆虫忌避剤の有効性はそれが塗布されているホスト表面上の活性成分の表面濃度に依存することが理解されるであろう。しかしながら、当該技術で昆虫忌避性を示すことが知られている多くの化合物は比較的濃縮した形でのみそうである。例えば、6.25〜25%の忌避剤濃度の使用を開示している米国特許第4,416,881号明細書でのマックガバーン(McGovern)らを参照されたい。当該技術を代表する他の状況では、1%よりはるかに下のDEETの濃度は有効な表面濃度を達成するために繰り返し塗布を必要とすること、さらに30%より上の濃度は、無駄が多い、および望ましくない副次効果の発生に資するの両方である過剰の表面濃度をもたらすことがしばしば見いだされる。本発明のさらなる利点は、従って、DHNがDEETについて用いられるものに類似の濃度で有効な昆虫忌避性を提供するだけでなく、DHNがニートDHN(すなわち、本明細書の組成物は、必要ならば、100重量%DHNを含有してもよい)以下の、およびニートDHNを含む濃度で用いられてもよいことである。DHNにおける有効な忌避性の特性は、広範囲のレベルの濃度にわたるDHN活性成分の経済的な利用について多くの選択肢を提供する。
【0050】
本発明の一実施形態では、DHNは、ホスト植物または動物への、好ましくはヒト皮膚への塗布に好適な組成物中へ有効量で組み入れられる。好適な組成物は、DHNおよび媒体、好ましくはイソプロピルアルコールのようなアルコール、当該技術で公知であるような例えば多数のスキンクリームなどのローション、またはシリカ質粘土を含む。好ましくは、DHNは約0.1重量%〜30重量%、好ましくは約0.5重量%〜20重量%、最も好ましくは約1重量%〜15重量%の濃度で本発明の昆虫忌避組成物中に存在する。
【0051】
昆虫忌避剤が有効であるためには、ホスト皮膚または処理された物品からの活性成分の蒸発速度は、標的昆虫への所望の効果を有する蒸気密度を提供するために十分に高いものでなければならない。しかしながら、バランスが蒸発速度と昆虫忌避効果の所望の継続期間との間に見つけられなければならない−蒸発速度が高すぎると、表面上の昆虫忌避剤を激減させ、効能の損失をもたらすであろう。周囲温度、処理された表面の温度、および空気移動の存在または欠如のような、多くの外因性因子が蒸発速度に影響を及ぼす。本発明の組成物は、少なくとも最低の有効蒸発速度の皮膚表面蒸発速度を有し、好ましくは少なくとも最低の有効蒸発速度の皮膚表面蒸発速度を少なくとも5時間有する。
【0052】
ほとんどのケースで、皮膚中へのおよび皮膚を通っての浸透は、皮膚表面からの化合物損失の望ましくないモードである。例えば、昆虫忌避剤はヒト皮膚中へ吸収され、一方で潜在的な毒性を懸念させ、かつ、忌避剤の吸収量を昆虫忌避活性から明らかに除去することが知られている。同様な考慮が昆虫忌避物品についても行われなければならない。
【0053】
DHNは典型的な使用条件下で有効な昆虫忌避性を提供するが、その蒸発速度を下げることが幾つかの状況下では望ましいかもしれない。そう望まれる場合には様々な戦略がDHNの蒸発速度を下げるために用いられてもよい。例えば、一方法は、DHNをポリマーまたは他の不活性成分と組み合わせて、DHNを、それが蒸発できる前に混合物によってその表面へ移行させることである。しかしながら、その結果が、ホストの皮膚表面に塗布できるまたは昆虫忌避物品の表面上に存在するDHNの濃度の希釈であり、こうして調合物の全体効能を下げることである場合、これは、選択される蒸発戦略の要素に入れなければならない。あるいはまた、活性成分は、ホストの皮膚表面または昆虫忌避物品からの損失の速度を制御するためにマイクロカプセル化される。さらに別の代替案では、皮膚表面または昆虫忌避物品上でゆっくり分解して活性成分を放出する前駆体分子が製造されてもよい。
【0054】
例えば、活性成分の放出は、例えば、ちょうど空気が風船内に捕らえられているように活性成分が皮膚滋養タンパク質内にカプセル化されている(取り囲まれている)、サブミクロンカプセル化によってもよい。タンパク質は、例えば、20%濃度で使用されてもよい。忌避剤の塗布は、水系ローションか、スプレー塗布のための水かのどちらか中に懸濁されているこれらのタンパク質カプセルの多くを含有する。皮膚との接触後に、タンパク質カプセルは破壊してカプセル化されたジヒドロネペタラクトンを放出し始める。本プロセスは、各微細なカプセルが使い尽くされ、次に皮膚に接触してその活性成分を放出する新たなカプセルによって相次いで置き換えられるので継続する。本プロセスは1塗布について24時間以下を要するかもしれない。タンパク質の皮膚への付着は非常に有効であるので、これらの方式は汗(発汗)、および水に対して非常に抵抗性がある。塗布された時それらは乾燥し、何のべとつきもなく快適である。このシステムは非常に有効な保護をもたらすが、それは、衣類がタンパク質を放出する能力を持たないので、皮膚上で使用された時に有効であるに過ぎない。代替システムはポリマーを使用して忌避剤をカプセル化し、それは早期蒸発を遅くし、もっと後の蒸発に利用可能なより多くのジヒドロネペタラクトンを残す。このシステムはしばしば、匹敵する非カプセル化製品よりも25%〜50%だけ忌避剤の有効性の長さを延ばすことができるが、しばしばポリマーの存在のために脂っぽく感じる。別の代替案では、相乗剤が組成物中のジヒドロネペタラクトンの蒸発を促進し続けるために使用される。
【0055】
本発明では、上に開示されたジヒドロネペタラクトンのための様々なキャリアまたは希釈剤を使用することができる。キャリアは、調合物が忌避分子の有効な濃度に調節されることを可能にする。ヒトまたは動物皮膚に好適な局所昆虫忌避剤を調合する時、好ましくは、忌避分子は、皮膚科学的に許容できるキャリア中で混合される。キャリアは撥水性をさらに提供し、皮膚刺激を防ぎ、および/または皮膚を和らげるおよび皮膚の調子を整えるかもしれない。昆虫忌避剤の任意の調合のためにキャリアを選択する場合に考慮すべき因子には、商業的な入手可能性、コスト、撥水性、蒸発速度、臭気、および安定性が含まれる。幾つかのキャリアはそれ自体撥性を有することができる。さらに、キャリアは好ましくはまた、環境に有害でないものであるべきである。
【0056】
昆虫忌避製品を調合するための当該技術で公知の、1つもしくはそれ以上の商業的に入手可能な有機および無機液体、固体、または半固体のキャリアまたはキャリア調合物は本発明に好適である。例えばキャリアには、シリコーン、ペトロラタム、またはラノリンが含まれてもよい。
【0057】
有機液体キャリアの例には、液体脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカンおよびそれらの類似体)ならびに液体芳香族炭化水素が挙げられる。他の液体炭化水素の例には、石油の分別蒸留によって得られる灯油をはじめとする、石炭の蒸留ならびに様々なタイプおよびグレードの石油化学素材の蒸留によって生産されるオイルが挙げられる。他の石油オイルには、農業スプレーオイル(例えば、石油の蒸留での中間留分よりなる、わずかに揮発性であるに過ぎない、いわゆる軽いおよび中程度スプレーオイル)と一般に言われるものが含まれる。かかるオイルは通常高度に精製されており、微量の不飽和化合物を含有するに過ぎないかもしれない。さらに、かかるオイルは一般にパラフィン油であり、従って水および乳化剤で乳化させる、より低い濃度に希釈する、およびスプレーとして使用することができる。パラフィン油のような、木材パルプのスルフェート消化から得られるトール油を同様に使用することができる。他の有機液体キャリアには、アルファ−ピネン、ジペンテン、テルピネオールなどのような液体テルペン炭化水素およびテルペンアルコールが含まれ得る。
【0058】
他のキャリアには、脂肪族および芳香族アルコール、エステル、アルデヒド、ケトン、鉱油、高級アルコール、微粉状の有機および無機固体材料が含まれる。上述の液体炭化水素に加えて、キャリアは、ジヒドロネペタラクトン化合物を最終用途向けに水中に分散させ、および水で希釈させるために使用することができる通常の乳化剤を含有することができる。
【0059】
脂肪族一価アルコールには、メチル、エチル、ノルマル−プロピル、イソプロピル、ノルマル−ブチル、第二ブチル、および第三ブチルアルコールが含まれる。好適なアルコールには、グリコール(エチレンおよびプロピレングリコールのような)およびピナコールが含まれる。好適な多価アルコールには、グリセロール、アラビトール、エリスリトール、ソルビトールなどが含まれる。最後に、好適な環式アルコールには、シクロペンチルおよびシクロヘキシルアルコールが含まれる。
【0060】
さらに、通常のまたはいわゆる「安定剤」(例えば、第三ブチルスルフィニルジメチルジチオカーボネート)を、本発明の組成物を含んでなるキャリアと併せて、またはキャリアの成分として使用することができる。
【0061】
本発明の組成物に使用することができる固体キャリアには、微粉状の有機および無機固体材料が含まれる。好適な微粉状の固体無機キャリアには、シリカ・エアロゲルならびに沈澱および溶融シリカのような合成製造されたシリカ質材料だけでなく、合成および天然粘土、ベントナイト、アタパルジャイト、フラー土、珪藻土、カオリン、雲母、タルク、微粉状の石英などのようなシリカ質鉱物が含まれる。微粉状の固体有機材料の例には、セルロース、おがくず、合成有機ポリマーなどが挙げられる。半固体またはコロイド状キャリアの例には、本発明の範囲内で有効な忌避性を与えるための、ワックス状固体、ゲル(ワセリンのような)、ラノリンなど、および半固体キャリア製品を提供することができる周知の液体および固体物質の混合物が挙げられる。
【0062】
ジヒドロネペタラクトンを含有する本発明の昆虫忌避組成物はまた、増粘剤、緩衝剤、キレート剤、防腐剤、香料、酸化防止剤、ゲル化剤、安定剤、界面活性剤、エモリエント、着色剤、アロエ、ワックス、他の浸透エンハンサーおよびそれらの混合物、ならびに治療的にまたは美容上活性な試剤のような、パーソナルケア製品調合物の技術で公知の補助剤を含有してもよい。
【0063】
本発明の組成物で有用な、治療的にまたは美容上活性な成分は、殺菌剤、日焼け止め剤、日光遮断剤、ビタミン、なめし剤、植物抽出物、抗炎症剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、レチノイド、アルファ−ヒドロキシ酸、エモリエント、消毒剤、抗生物質、抗菌剤または抗ヒスタミン剤を含み、所望の治療的なまたは美容上の結果を達成するために有効な量で存在してもよい。
【0064】
本発明の組成物はまた、ベンジル、安息香酸ベンジル、2,3,4,5−ビス(ブチル−2−エン)テトラヒドロフルフラール、ブトキシポリプロピレングリコール、N−ブチルアセトアニリド、6,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−1,4−ピロン−2−カルボン酸ノルマル−ブチル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジブチル、コハク酸ジ−ノルマル−ブチル、N,N−ジエチル−メタ−トルアミド、炭酸ジメチル、フタル酸ジメチル、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、イソシンコメロン酸ジ−ノルマル−プロピル、2−フェニルシクロヘキサノール、p−メンタン−3,8−ジオール、およびノルマル−プロピルN,N−ジエチルスクシナメートよりなるものに含まれるもののような、非ジヒドロネペタラクトン昆虫忌避剤とブレンドされてもよい。
【0065】
本発明のDHN組成物は、任意の特定用途の要件を満たすために任意の数の上記補助剤を含んでもよい。各成分の具体的な割合は、用途の要件によって同様に決定されるであろう。しかしながら、本発明の組成物は好ましくは少なくとも約0.001重量%DHN、または約0.001%〜約80重量%DHN、または約0.01%〜約30重量%のDHN、または約0.1%〜約30重量%のDHN、好ましくは約0.5%〜約20重量%、最も好ましくは約1%〜約15重量%を含んでなるべきである。一般に、本忌避剤の組成物は、長時間(好ましくは、少なくとも数時間)にわたってホストから昆虫を忌避するのに有効であるために十分な量の活性昆虫忌避物質を含有するべきである。
【0066】
ジヒドロネペタラクトンは、個々のジアステレオマーもしくは様々なジアステレオマーの混合物の形で、または他の昆虫忌避剤と組み合わせて本発明で利用されてもよい。DHNは、ニートをはじめとする、特定のニーズに好適な任意の濃度レベルで用いられてもよい。しかしながら、本発明に従った昆虫忌避組成物または忌避物品中のDHNの量は一般に約80重量%を超えないであろうと考えられる。
【0067】
本発明の組成物は、使用の好ましい方法に依存して、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ゲル、フィルムまたはスプレーのようなものをはじめとする様々な形で製品を配送するために調合され、包装されてもよい。キャリアは、圧縮ガスを用いてジヒドロネペタラクトンを空気中へ分散させるように構成されたエアロゾル組成物であってもよい。
【0068】
局所昆虫忌避物品の望ましい特性には、低毒性、水浸または発汗による損失に対する抵抗性、低臭気もしくは臭気なしまたは少なくとも快い香り、塗布の容易さ、およびホスト皮膚上での乾燥した粘着性なし表面フィルムの速い形成が含まれる。これらの特性を得るために、局所昆虫忌避物品のための調合物は、かかる動物の皮膚、毛皮または羽を、動物ホストから昆虫を忌避するために有効な量の忌避物品と接触させることによって昆虫感染動物(例えば、ノミ持ちイヌ、シラミ持ち家禽、ダニ持ち雌牛、およびヒト)が本発明の昆虫忌避組成物で処理されるのを可能にするべきである。このように、物品を空気中へ分散させるまたは組成物を液体ミストもしくは細かいダストとして分散させることは、忌避組成物が所望のホスト表面上に落ちることを可能にするであろう。同様に、ホスト上への液体/半固体/固体忌避物品の直接散布は、ホストの表面を有効量の忌避組成物と接触させる有効な方法である。
【0069】
特にDHNに関連した快い芳香のために、本発明のさらなる実施形態は、有効な程度の忌避性をそれに与えるために最初には昆虫忌避性と関係がない製品中へのDHNの組み入れである。かかる製品には、コロン、ローション、スプレー、クリーム、ゲル、軟膏、バスまたはシャワーゲル、発泡製品(例えば、シェービングフォーム)、メーキャップ、デオドラント、シャンプー、ヘアスプレー/ヘアリンス、および個人用石鹸組成物(例えば、ハンドソープおよびバス/シャワーソープ)が含まれる。
【0070】
DHNがその中への組み入れによって昆虫による攻撃を受けやすい様々な物品で有効な昆虫忌避性を提供するそれらの実施形態が本発明でさらに考えられる。典型的な実施形態では、物品は野外であるが、そうである必要はない。考えられる物品の中には、空気清浄剤、ろうそく、様々な芳香品、繊維、シート、繊維製品、紙、ペイント、インク、粘土、木材、家具(例えば、テラスおよびデッキ)、カーペット、衛生用品、プラスチック、ポリマーなどが含まれるが、それらに限定されない。
【0071】
一実施形態では、ジヒドロネペタラクトンは、成形性、蒸発速度の低下、および制御された放出を提供するためにポリマーと組み合わせられる。かかるポリマーは生分解性であってもよい。好適なポリマーには、例えば米国特許第4,496,467号明細書、同第4,469,613号明細書および同第4,548,764号明細書に開示されているように、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、生分解性の熱可塑性ポリウレタン、生分解性エチレンポリマー、およびポリ(イプシロン−カプロラクトン)ホモポリマーならびにそれらを含有する組成物が含まれるがそれらに限定されない。好ましい生分解性ポリマーには、デュポン(DuPont)バイオマックス(Biomax)(登録商標)生分解性ポリエステルおよびポリ−L−ラクチドが含まれる。
【0072】
本発明はまた、パラジウム触媒が使用されるDHNの製造方法を含む。用語「触媒」は、本明細書で用いるところでは、化学反応の速度に影響を及ぼす(が反応平衡に影響を及ぼさない)、かつ、化学的に変化せずに本方法から出てくる物質を意味する。
【0073】
式(XVI)のジヒドロネペタラクトンの製造方法は、SrCO3ではない触媒担体上に担持されたパラジウムの存在下に次のスキーム
【0074】
【化7】
【0075】
に従って式(XV)のネペタラクトンを水素化することを含む。
【0076】
用語「助触媒」は、本明細書で用いるところでは、触媒の物理的または化学的機能を高めるために添加される化合物である。化学助触媒は一般に触媒の活性を増大させ、触媒成分の化学的処理の任意の工程中に触媒中へ組み入れられてもよい。化学助触媒は一般に触媒剤の物理的または化学的機能を高めるが、望ましくない副反応を抑制するためにも添加することができる。「金属助触媒」は、触媒の物理的または化学的機能を高めるために添加される金属化合物を意味する。
【0077】
ネペタラクトンの水素化は、好適な活性金属水素化触媒の存在下に達成される。一般に水素化に許容できる溶媒、触媒、装置、および手順は、オウグスチン(Augustine)著、「合成化学者のための不均一触媒作用(Heterogeneous Catalysis for the Synthetic Chemist)」、ニューヨーク州ニューヨーク(New York,N.Y.)、マーセル・デッカー(Marcel Decker)、1996年に見いだすことができる。主成分としてイリジウム、パラジウム、ロジウム、ニッケル、ルテニウム、白金、レニウム、それらのコンパウンド、それらの組み合わせ物、およびそれらの担持バージョンを含有するものをはじめとする(限定なしに)、多くの水素化触媒が有効である。
【0078】
本発明の方法で使用される金属触媒は、担持触媒としてまたは非担持触媒として使用されてもよい。担持触媒は、活性触媒剤が吹き付け、浸漬または物理的混合によって担体材料上に沈積され、引き続いて乾燥、焼成、および必要ならば、還元または酸化のような方法によって活性化されたものである。担体としてしばしば使用される材料は、触媒の単位重量当たり活性サイトの高い濃度を提供することができる高い総表面積(外部および内部)の多孔質固体である。触媒担体は触媒剤の機能を高めるかもしれないし、担持触媒は、活性金属触媒がより効率的に使用されるので一般に好ましい。触媒担体材料上に担持されていない触媒は非担持触媒である。
【0079】
触媒担体は、シリカ、アルミナ、チタニアのような酸化物、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および炭素を含むがそれらに限定されない、任意の固体の不活性物質であることができる。触媒担体は、粉末、顆粒、ペレットなどの形状にあることができる。本発明の好ましい担体材料は、炭素、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、チタニア−アルミナ、チタニア−シリカ、バリウム、カルシウム、それらのコンパウンド、およびそれらの組み合わせ物よりなる群から選択される。好適な担体には、炭素、SiO2、CaCO3、BaSO4およびAl2O3が含まれる。さらに、担持触媒金属は同じ担持材料または異なる担持材料を有してもよい。
【0080】
本発明の一実施形態では、より好ましい担体は炭素である。さらに好ましい担体は、100〜200m2/gより大きい表面積を有するもの、特に炭素である。さらに好ましい担体は、少なくとも300m2/gの表面積を有するもの、特に炭素である。
【0081】
本発明で使用されてもよい商業的に入手可能な炭素には、次の商標で販売されるものが含まれる:バメバイ・アンド・ストクリッフェ(Bameby & Sutcliffe)TM、ダーコ(Darco)TM、ヌチャー(Nuchar)TM、コロンビア(Columbia)JXNTM、コロンビアLCKTM、カルゴン(Calgon)PCBTM、カルゴンBPLTM、ウェストヴァコ(Westvaco)TM、ノリット(Norit)TMおよびバーナビー・チェニー(Barnaby Cheny)NBTM。炭素はまた、カルシカット(Calsicat)C、シブニット(Sibunit)C、またはカルゴンC(登録商標センタウアー(Centaur)(登録商標)で商業的に入手可能な)のような商業的に入手可能な炭素であることができる。
【0082】
触媒金属と担体システムとの好ましい組み合わせには、ESCAT#142触媒(エンゲルハルト(Englehart))でのようなパラジウム−炭素が含まれる。
【0083】
担体上の触媒の重量パーセントは決定的に重要ではないが、金属の重量パーセントが高ければ高いほど、反応がより速いことは理解されるであろう。担持触媒での金属の好ましい含量範囲は、担持触媒の全体(触媒重量プラス担体重量)の約0.1重量%〜約20重量%である。より好ましい触媒金属含量範囲は、担持触媒の全体の約1重量%〜約10重量%である。さらなる好ましい触媒金属含量範囲は、担持触媒の全体の約3重量%〜約7重量%である。
【0084】
場合により、金属助触媒が本発明の方法で触媒金属と共に使用されてもよい。好適な金属助触媒には、1)周期表の1および2族からのそれらの元素、2)錫、銅、金、銀、およびそれらの組み合わせ物、ならびに3)より少ない量での周期表の8族金属の組み合わせ物が含まれる。
【0085】
温度、溶媒、触媒、圧力および混合速度はすべて、水素化に影響を及ぼすパラメーターである。これらのパラメーター間の関係は、本方法の反応で所望の転化率、反応速度、および選択率を達成するために調節されてもよい。
【0086】
本発明の枠内で、好ましい温度は約25℃〜250℃、より好ましくは約50℃〜約150℃、最も好ましくは約50℃〜100℃である。水素圧は好ましくは約0.1〜約20MPa、より好ましくは約0.3〜10MPa、最も好ましくは約0.3〜4MPaである。反応はニートでまたは溶媒の存在下で行われてもよい。有用な溶媒には、炭化水素、エーテル、およびアルコールのような水素化の技術で公知のものが含まれる。アルコール、特にメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、およびペンタノールのような低級アルカノールが最も好ましい。反応が好ましい実施形態に従って実施される場合、少なくとも70%の範囲の選択率が達成可能であり、ここで少なくとも85%の選択率が典型的である。選択率は、転化物質が水素化反応に関与する出発原料の一部分である場合、ジヒドロネペタラクトンである転化物質の重量パーセントである。
【0087】
本発明の方法は、バッチ、順次バッチ(すなわち、一連のバッチ反応器)で、または連続プロセスに通例用いられる装置の任意のもので連続モードで実施されてもよい(例えば、エッチ.エス.フォグラー(H.S.Fogler)著、「初歩的化学反応工学(Elementary Chemical Reaction Engineering)」、プレンティス−ホール社(Prentice−Hall,Inc)、米国ニュージャージー州を参照されたい)。反応の生成物として形成される復水は、かかる分離に通例用いられる分離方法によって除去される。
【0088】
水素化反応が完了すると、ジヒドロネペタラクトン異性体生成物の生じた混合物は、それぞれの高度に精製されたペアのジヒドロネペタラクトン・エナンチオマーをもたらすために、例えば、蒸留によって、結晶化によって、または分取液体クロマトグラフィーによってなど、通常の方法によって分離されてもよい。不斉クロマトグラフィーがエナンチオマーを分離するために用いられてもよい。
【0089】
本発明は次の具体的な実施形態によってさらに説明されるが、それらに限定されない。
【実施例】
【0090】
次の実施例では、略記「w/v」は、100mLの溶液当たりの活性成分のグラム単位の重量を意味する。
【0091】
用いられる他の省略形は次の通りである:「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「m/z」を質量(m)対電荷(z)比を意味し、「ppm」は百万当たりの部を意味し、「モル%」はモル基準で表される百分率を意味し、「Hz」はヘルツ(1/秒)を意味し、そして「psig」は平方インチ当たりポンド・ゲージを意味する。
【0092】
実施例1
ネペタ・カタリア(Nepeta cataria)の油の分別水蒸気蒸留によるネペタの調製
キャットニップ・ネペタ・カタリアからの草本材料の水蒸気蒸留によって調製された、商業的に入手可能なキャットニップ油のサンプルを入手した(ベルジェ、米国、ニュージャージー州ブルームフィールド(Berje,Bloomfield,NJ,USA))。受領したままの油の組み合わせガスクロマトグラフィー−質量分光測定(GC−MS)は、主成分がネペタラクトン立体異性体(図1)であることを示した。しかしながら、購入したままでは、油は高度に汚染された天然物であり、抽出物を精製ネペタラクトンへ精製することが望ましい。我々は、ネペタラクトンより高いおよび低い沸点の異物を除去するために分別蒸留した。
【0093】
このようにネペタラクトン留分を受領したままの油の分別蒸留によって調製した(2Lポット;0.24インチSS充填材での12インチ×1インチ充填塔;可変還流ヘッド;約2mmHg、留分を80℃〜99℃で集めて)。図2Aは、ネペタ・カタリア精油の市販サンプルの分別蒸留によって調製したネペタラクトンに富む留分のGC−MSトータルイオンクロマトグラムを示す。用いた条件は、カラムHP5−MS、25m×0.2mm;オーブン:120℃、2分、15℃/分、210℃、5分;He:1mL/分でであった。m/z166のピークがネペタラクトンである;標識のないピークは副セスキテルペノイド異物に対応する。
【0094】
図3Aに、図2Aの主ピーク(6.03分、ネペタラクトン)の質量スペクトルを示す。油および精製物質の1Hおよび13C NMR分析もまた実施し、13Cデータを示す(図4)。文献に報告された4つの可能な立体異性体についての13C化学シフトを、サンプルについてとられたスペクトルと比較した。3つの立体異性体を検出し、その量をカルボニル領域に基づいて約170ppmと定量化した。元の油および富化物質の両方についての化学シフトを表1に提供する。ネペタラクトンの各炭素原子は、図4に示すように、同定される。
【0095】
【表1】
【0096】
この分析は、油中に、ネペタラクトンが次の割合:80.2モル%シス、トランス−ネペタラクトン、17.7モル%トランス,シス−ネペタラクトンおよび2.1モル%シス、シス−ネペタラクトンで存在することを示した。データは、精製物質中のネペタラクトンの割合が84.5モル%シス、トランス−ネペタラクトン、14.3モル%トランス,シス−ネペタラクトンおよび1.2モル%シス、シス−ネペタラクトンであることを示した。この精製留分のGC−MS分析は、それが、微量のセスキテルペノイド・カリオフィレンおよびフムレン(データは示されていない)に同伴されて、主にこれらのネペタラクトン(m/z 166)よりなることを示した。
【0097】
実施例2
ジヒドロネペタラクトンの製造
実施例1に記載したように調製したキャットニップ油の蒸留ネペタラクトン留分107gをエタノール(200mL)に溶解し、触媒としての12.7gの2%Pd/SrCO3(アルドリッチ(Aldrich)41,461−1)と共にフィッシャー−ポーター(Fisher−Porter)ボトルに入れた。チューブを2回排気し、H2で再び満たし、次に30psigにH2を装入した。室温で48時間撹拌後に、チューブをガス抜きし、内容物をセライト(Celite)上で濾過して触媒を除去した。溶媒を減圧下に除去し、透明な油をもたらした。
【0098】
GC−MS分析(カラムHP5−MS、25m×0.2mm;オーブン:120℃、2分、15℃/分、210℃、5分;He:1mL/分で)をこの物質に関して行った。トータルイオンクロマトグラムを図2Bに示す。この分析は、主成分(65.43面積%;Rt 7.08分)がm/z 168のジヒドロネペタラクトン異性体を表すことを示し、この成分の質量スペクトルを図3Bに示す。このスペクトルは、ジヒドロネペタラクトンに特徴的なm/z 113のイオンを含有する(ジェフソン、エム.(Jefson,M.)ら、前掲非特許文献)。出発原料中に存在する3つのネペタラクトンから誘導されるかもしれない残りのジヒドロネペタラクトン・ジアステレオマーを表す5つの追加ピークもまたクロマトグラムに表示された。これらはRt 5.41分、6.8面積%、m/z 168;Rt 5.93分、1.2面積%、m/z 168;Rt 6.52分、4.88面積%、m/z 168;Rt 6.76分、13.8面積%、m/z 168およびRt 7.13分、1.25面積%、m/z 168に現れた。何の残りのネペタラクトンもGC−MSによって検出されなかった。
【0099】
1H、13Cおよび一連の2D NMR分析もまた行った。13C NMRスペクトル(図5)のカルボニル領域は、それらの1つが他の4つより多い量(約75%)で、少なくとも5つのスピン系を示した。非常に少ない残りのネペタラクトンが検出された。
【0100】
観察された異なるNOE交差ピークの結合定数および強度の分析に基づいて、物質の主成分の立体化学は、式2のジヒドロネペタラクトン(9S,5S,1R,6R)−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オン)であると決定された。
【0101】
【化8】
【0102】
メチル基(i)とプロトン(d)との間の距離は、メチル基(j)とプロトン(e)との間の距離より長く、観察値はシス−トランス立体化学配置と一致する。
【0103】
立体異性体イソジヒドロネペタラクトン(9S,5R,1R,6R)−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オン)(式3)は、13C化学シフトによって同様に同定され、3.6%で存在する。
【0104】
【化9】
【0105】
このようにGC−MSおよびNMRデータは、ネペタラクトン立体異性体の混合物の水素化が、予期されるように、相当するジヒドロネペタラクトンジアステレオマーをもたらしたことを示す。シス,トランス−ネペタラクトン(出発原料の84.5モル%)から誘導されたジアステレオマーのペア(式2および式3)が水素化後の混合物の78.6%で、主ジヒドロネペタラクトンであった。
【0106】
実施例3
ジヒドロネペタラクトン混合物の忌避性試験
実施例2に従って製造したDHN(「mDHN」と称される)を、雌ネッタイシマカ(アエーデス・アエギプチ(Aedes aegypti))に対するその忌避効果について評価した。
【0107】
おおよそ250匹の雌ネッタイシマカを、それぞれがバウンドルッチェ(Baudruche)(動物腸)膜によってカバーされた5つの容器を含有するチャンバー中へ導入した。容器を、クエン酸ナトリウム(凝固を防ぐための)とATP(26mLの血液当たり72mgのATP二ナトリウム塩)とを含有するウシ血液で満たし、37℃に加熱した。表2に示す試験検体の1つを含有する、容量25μLのイソプロピルアルコールを各膜に塗布した。
【0108】
【表2】
【0109】
5分後に、4日齢の雌蚊をチャンバーに加えた。各処理について膜をプローブする蚊の数を20分にわたって2分間隔で記録した。各データは、3つの繰り返し実験の平均値を表す。
【0110】
表3は、雌ネッタイシマカが各処理された膜を最初にプローブする前に要した時間の量を示す。括弧内の数は、3つの繰り返しに付いての平均の標準誤差(SEM)である。
【0111】
【表3】
【0112】
蚊は4.6分以内で未処理対照容器をプローブし始めた。5%濃度でジヒドロネペタラクトンは、DEET(1%w/vでの)についての12分と比較して、蚊がおおよそ19分間「最初のプローブ」をするのを妨げることが分かった。より低い濃度(1%および2.5%w/v)のジヒドロネペタラクトンは、それぞれ、平均8および9.3分間最初のプローブを妨げた。
【0113】
ジヒドロネペタラクトンで処理された膜上への雌ネッタイシマカによる着陸/プルーブ密度の分布を経時的に分析し、図6にグラフで示す。実験の経過中に各膜上への許されたプローブの総数を測定し、その結果を表4にまとめる。5%濃度でのDHNは、20分間蚊プローブをほとんど排除することが分かり、たった1つのプローブが全体20分試験時間にわたって記録されたに過ぎなかったが、DEET(1%w/v)は平均4.55匹の蚊が着陸するのを許した。再び、より低い濃度のDHN(1%および2.5%w/v)は(未処理対照と比較して)忌避性を示すが、正の対照(1%w/vでのDEET)より低いレベルで忌避性を示すことが分かった。
【0114】
【表4】
【0115】
再び、データは、1%DEETに対してかなり増加した忌避性は5%(w/v)でようやく観察されたが、試験されたすべての濃度でジヒドロネペタラクトンが忌避性であったことを示す。
【0116】
実施例4
トランス,シス−ネペタラクトンからのジヒドロネペタラクトンの製造
多くの植物を、キャットニップ・ネペタ・ラセモサ(Nepeta racemosa)の種子(チルターン・シーズ(Chiltern Seeds)、英国カムブリア州(Cumbria,UK))から育てた。個々の植物から摘み取った葉ペアを酢酸エチルに浸漬し、2時間後に溶媒を除去し、抽出物をガスクロマトグラフィーによって分析した。それらの油中にトランス,シス−ネペタラクトンを主に生産する植物をこうして特定し(クラーク、エル.ジェー.(Clark,L.J.)ら、前掲非特許文献)、そして成熟まで育てた。これらの植物からの葉材料を収穫し、凍結乾燥し、酢酸エチル中へ抽出し、抽出液を濃縮した。ネペタラクトンを濃縮した抽出物からヘキサン/酢酸エチル(9:1)でのシリカゲル・クロマトグラフィー、引き続き同じ溶媒混合物を用いるシリカ上での分取薄層クロマトグラフィーによって精製した。溶媒の除去およびヘキサンへの再溶解後に、トランス,シス−ネペタラクトンをドライアイス上で結晶化させた。GC−MSならびにNMR(1Hおよび13C)分析は、結晶物質の同一性をトランス,シス−ネペタラクトンと確認した。13C化学シフト(図7)を、表1の化学シフトと比較して、表5に示す。
【0117】
【表5】
【0118】
このように調製したトランス,シス−ネペタラクトンの水素化を、ESCAT#142触媒(エンゲルハルト(Englehart))を用いてエタノール中50℃で4時間実施した。GC−MSならびにNMR(1Hおよび13C)は、トランス,シス−ネペタラクトンが、1つが著しい過剰で、相当するジヒドロネペタラクトン立体異性体に定量的に変換されたことを確認した。主ジアステレオマーのNMR分析:1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.97(d,3H,J=6.28Hz),0.98(d,3H,J=6.94Hz),1.24(m,2H),1.74(m,1H),1.77(m,2H),1.99(m,2H),2.12(dd,1H,J=6.86および13.2Hz),2.51(m,1H),3.78(tr,1H,J=11.1Hz),4.33(dd,1H,J=5.73および11.32Hz);13C(500MHz,CDCl3):δ 15.43,18.09,27.95,30.81,31.58,35.70,42.51,51.40,76.18,172.03。13C NMRスペクトル(図8)は、この主ジアステレオマーが製造物の約93.7%を構成することを示した。ラクトン酸素へのメチレン、メチル基を有する立体メチン炭素、メチル基それ自体および橋頭メチンについて観察されたカップリングに基づいて、該ジアステレオマーがたぶん式4の(1S,9S,5R,6R)−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンであると結論される。
【0119】
【化10】
【0120】
観察されたカップリングの大きさは、カープラス(Karplus)方程式によれば上の構造でビシナル炭素原子上のプロトン間の二面角と一致する(ロバート エム.シルバースタイン(Robert M.Silverstein)、ジー.クレイトン バスラー(G.Clayton Bassler)およびテレンス シー.モリル(Terence C.Morill)著、「有機化合物の分光学的同定(Spectrophotometric Identification of Organic Compounds)」、第4版、1981年、208−210ページ参照)。
【0121】
実施例5
トランス,シス−ネペタラクトンの水素化によって製造したジヒドロネペタラクトンの忌避性試験
実施例4で製造したジヒドロネペタラクトン、式4を、実施例3に記載したように本質的にネッタイシマカに対する忌避性について試験した。実験計画を表6にまとめ、示されるすべてのデータは5つの繰り返し実験からである。
【0122】
【表6】
【0123】
表7は、雌ネッタイシマカが各膜を最初にプローブする前に要した時間の量に関してDHN濃度の影響を示す。
【0124】
【表7】
【0125】
1%濃度でのジヒドロネペタラクトンは蚊の「最初のプロービング」をおおよそ16分間妨げることを分かった。同じ濃度でのDEETは、14.8分の最初のプローブまでの平均時間を示した。より低い濃度のジヒドロネペタラクトン(0.5および0.2%w/v)は、それぞれ、平均9.6および8.4分間最初のプロービングを妨げることが分かった。
【0126】
ジヒドロネペタラクトンで処理した膜上への雌ネッタイシマカによるプローブ密度の分布を、図9にグラフで示すように、経時的に分析した。実験の経過中に各膜上への許されたプローブの総数を測定し、その結果を表8にまとめる。1.0%濃度でのDHNは、10分間蚊プロービングを完全に排除することが分かったが、DEET(1%w/v)は6分までに蚊がプロービングを開始するのを許した。再び、より低い濃度のジヒドロネペタラクトン(0.5および0.2%w/v)は、(未処理対照と比較して)忌避性を示すが、正の対照(1%w/vでのDEET)より低いレベルで忌避性を示すことが分かった。
【0127】
【表8】
【0128】
百分率忌避性は、次の方程式
%忌避性=100−[(T/C)×100]
(ここで、
T=時間txで当該繰り返しのために処理した容器をプローブする蚊の平均数
C=時間txでIPA対照容器をプローブする蚊の平均数)
を用いて各観察時間に各忌避剤処理について計算した。
【0129】
得られた百分率を次に逆正弦変換し、ANOVA(分散分析)を、全5つの繰り返しから計算した忌避性を用いて行った。平均値の多重比較を、スチューデント−ニューマン−クールズ(Student−Newman−Keuls)試験を用いて行った。ANOVAからの平均逆正弦値を次に百分率へ変換し直した。結果を表9に示す。
【0130】
【表9】
【0131】
1%DHNは忌避性の点で第一級に格付けされ、1%DEETとは統計的に区別できなかった。
【0132】
実施例6
サシバエ(ストモキス・カルシトランス(Stomoxys calcitrans))に対するジヒドロネペタラクトンの忌避性試験
トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導された、「実験サンプル#1」と称されるDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物(実験サンプル#2と称される;mDHN)を、本質的に実施例3に記載されるように、ストモキス・カルシトランスに対する忌避性について試験した。ここで使用するDHNは、それが市販油(ベルジェ、ニュージャージー州)から結晶化したトランス,シス−ネペタラクトンの水素化(Pd/SrCO3触媒を用いる)により誘導された点で、実施例4で製造したものとは異なった。これらの実験では、追加の正の対照化合物、すなわち、タカサゴ・インターナショナル社(Takasago International Corp.)(米国)、ニュージャージー州ロックライ(Rockleigh,NJ)から入手したp−メンタン−3.8−ジオール(PMD)を含めた。実験計画を表10にまとめ、示されるすべてのデータは5つの繰り返し実験の平均値である。
【0133】
【表10】
【0134】
これらの試験で、「最初の着陸」までの正確な時間は、幾らかの着陸が各試験変数についての5つの繰り返しの3つもしくはそれ以上で2分の最初の曝露期間前に起こったので、測定することができなかった。
【0135】
ジヒドロネペタラクトンで処理した膜上へのサシバエによる着陸密度の分布を、図10にグラフで示すように経時的に分析した。実験の経過中に各膜上への許された着陸の総数を測定し、その結果を表11にまとめる。着陸は該昆虫の試験容器への曝露時に始まり、約5分後にピークに達するように思われ、その後時間と共に徐々に減少した。概して、1%濃度のジヒドロネペタラクトンで処理した膜上への着陸の数は、未処理(IPA)膜について観察されるものよりかなり少なく、DEET(1%w/v)で観察されるものと同等であった。p−メンタン−3,8−ジオール(PMD)は、実験の経過中ずっとジヒドロネペタラクトンかDEETかのどちらかよりも着陸を防ぐ点であまり有効ではなかったし、幾らかの初期忌避性を観察することができたが、この化合物は6分後に無効になった。再び、このデータは、1%ジヒドロネペタラクトンが1%DEETと同等の忌避活性を示したことを示す。
【0136】
【表11】
【0137】
百分率忌避性および統計分析を実施例5に記載したように実施し、結果を表12に示す。
【0138】
【表12】
【0139】
mDHN、DEETおよびDHNは統計的に同等にうまく機能し、43.2〜55.5%忌避性を提供し、IPAと比較した時にたったの4.7%忌避性を与えるPMDより統計的に良好であった。
【0140】
実施例7
ハマダラカ(アノフェレス・アルビマヌス(Anopheles albimanus))に対するジヒドロネペタラクトンの忌避性試験
トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導された、「実験サンプル#1」と称されるDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物(実験サンプル#2と称される;mDHN)を、本質的に実施例3に記載されるように、100匹の非給餌の成熟雌ネッタイシマカに対する忌避性について試験した。ここで使用するDHNは、それが市販油(ベルジェ、ニュージャージー州ブルームフィールド)から結晶化したトランス,シス−ネペタラクトンの水素化(Pd/SrCO3触媒を用いる)により誘導された点で、実施例4で製造したものとは異なった。PMDを再びさらなる対照として含めた。実験計画を表13にまとめ、示されるすべてのデータは5つの繰り返し実験の平均値である。
【0141】
【表13】
【0142】
これらの試験で、「最初のプルービング」までの正確な時間は、幾らかのプルーブが各試験変数についての5つの繰り返しの2つもしくはそれ以上で2分の最初の曝露期間前に起こったので、測定することができなかった。ジヒドロネペタラクトンで処理した膜上へのハマダラカによるプルーブ密度の分布を、図11にグラフで示すように経時的に分析した。プルービングは該昆虫の試験容器への曝露時に始まり、その後時間と共に徐々に増加した。概して、1%濃度のジヒドロネペタラクトンで処理した膜上へのプローブの数は、実験中ずっと未処理(IPA)膜について観察されるものよりかなり少なかった。
【0143】
実験の経過中に各膜上への許されたプローブの総数を測定し、その結果を表14にまとめる。データは、1%ジヒドロネペタラクトンがA.アルビマヌスに対して同等濃度のDEETかPMDかのどちらかと比較してより高い忌避活性を示したことを示す。
【0144】
【表14】
【0145】
百分率忌避性および統計分析を実施例5に記載したように実施し、結果を表15に示す。
【0146】
【表15】
【0147】
mDHNはDEETよりも統計的に優れ、46.1%忌避性を提供した。DHNはmDHNと統計的に同等であるが、またDEETとも統計的に同等であり、32.9%忌避性を提供した。それぞれ13.3%および11.5%忌避性を提供したDEETおよびPMDは、効能の点で統計的に同等であった。
【0148】
実施例8
鹿ダニ、イクソデス・スカプラリス(Ixodes scapularis)に対するジヒドロネペタラクトンの忌避性
実施例7でのように調製した、トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物を、DEETを正の対照として試験に含めて、I.スカプラリスに対する忌避性について試験した。
【0149】
各化合物(イソプロパノール中30%(w/v))の25μL容量を、6人の男性ヒトボランティアの左前腕上に引かれた4cm直径円内に塗布した。各ボランティアは、2つの忌避剤をこの前腕上の2つの円内に個別に塗布され、他の腕上に引かれた単一の4cm直径円を、ダニ誘引についての対照として機能を果たすように未処理のまました。鹿ダニ、イクソデス・スカプラリスの実験室育ちの非給餌幼虫を、綿棒(Q−チップ(tip)(登録商標))で未処理円の1mm内に持ってきた。通常の探索挙動が観察された場合、および/または昆虫が未処理区域上へ這って行った場合、それを適格であると見なし、次に処理区域に提供した。60秒以内に処理区域を探索したまたはその区域上へ這って行った適格ダニは忌避されなかったとして記録した。60秒以内に処理区域を探索しなかったもしくは探索するのを止めたおよび/または処理区域から退却した適格ダニは忌避されたとして記録した。さらに、処理区域上へ這って行ったが追加の60秒以内に離れた適格ダニは忌避されたとして記録した。
【0150】
各ボランティアは、5つの適格ダニを各処理された円におおよそ1時間おきに提供された。曝露を、5つの提供されたダニの任意の群からの3つが「誘引された」と考えられるまで続けた。最初の忌避されなかったダニを最初の誘引されたダニと定義し、それに第2の誘引されたダニが同じまたは次の曝露期間内に続いた。最初の確認された誘引ダニの時間を、完全な忌避性が当該ボランティアについて「壊れた」時間であると考えた。
【0151】
【表16】
【0152】
データ(表16)は、DEETが鹿ダニ、イクソデス・スカプラリスからの124分の平均完全保護時間を提供したが、DHNが同様に109分間、そしてmDHN(DHNの混合ジアステレオマー)85分間有効であったことを示す。このように、DHNおよびmDHNの両方が鹿ダニを忌避することは明らかである。保護時間のANOVAを行い、それはDHN、mDHNおよびDEETがこれらのダニに対するそれらの忌避性の点で統計的に区別できないことを示した。
【0153】
実施例9
ヒト被験者に塗布されたジヒドロネペタラクトンの蚊アノフェレス・アルビマヌスに対する忌避性
実施例7でのように調製した、トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたDHN(主に1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンよりなる;式4)、および実施例2に従って製造したジヒドロネペタラクトンの混合物を、成人ボランティアを用いて、DEETを正の対照として試験に含めて、A.アルビマヌスに対する忌避性について試験した。2つの対辺のそれぞれ上に2つの袖付き入口部がある試験ケージ(2×2×2フィート)を、中心にハンドレスト付きで使用した。側面および上面を遮断し、底部に観察を容易にするための鏡を装備した。血液食餌を以前に受けたことがなかった、かつ、使用前24時間10%蔗糖のそれらの通常食餌を取り上げられてきた200の成熟した雌蚊を試験ケージ中へ放った。各ボランティアは、ケージ中への挿入の30秒以内に彼らの未処理前腕上に10匹の昆虫着陸を有することによって誘引物として予め適格とされた。
【0154】
各化合物(イソプロパノール中5%か10%(w/v)かのどちらか)の1.0mL容量を、腕の残りの部分を昆虫にアクセスできないようにして、6人の男性ヒトボランティアの前腕上250cm2区域に塗布した。各ボランティアは、異なる忌避剤を各前腕上へ個別に塗布された。塗布された忌避剤を30分間乾燥させた後、前腕を30分間間隔で5分間試験ケージ中へ入れ、各曝露期間中にプローブするまたは刺す蚊の数を記録した。忌避性の機能停止を、各ボランティア上の各忌避剤について記録した。機能停止は、最初の確認された刺しが起こった時と定義し、最初の確認された刺しは、同じ曝露期間内か次の曝露期間内かのいずれかに第2の刺しが続く刺しと定義した。データを平均完全保護時間として表17に示す。データは、DHNおよびmDHNの両方がかなりの期間(例えば、10%(w/v)ではそれぞれ、3.5時間および5時間)刺しからの完全保護を与え、同じ濃度でDEETによって与えられるものに匹敵したことを示す。
【0155】
データをANOVAを用いて分析し、これは、5%および10%mDHN溶液がそれぞれ、効能の点で5%および10%DEETと統計的に区別できないことを示した。DHNの5%および10%溶液は、mDHNの相当する溶液と統計的に等しいけれども、より少ない保護時間を提供した。
【0156】
【表17】
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】天然由来イリドイド(メチルシクロペンタノイド)ネペタラクトンの化学構造を示す。
【図2】商業的に入手可能なキャットニップ油から蒸留されたネペタラクトンに富む留分(A)の、水素化によってこの留分から製造された物質(B)のそれと共に、組み合わせたガスクロマトグラフィー/質量分光測定(GC−MS)分析からのトータルイオンクロマトグラムを示す。
【図3】図2でGC−MS分析によって同定されたネペタラクトンに富む留分(A)および水素化物質(B)の主成分の質量スペクトルを示す。
【図4】商業的に入手可能なキャットニップ油の蒸留されたネペタラクトンに富む留分について行われた13C NMR分析を示す。
【図5】商業的に入手可能なキャットニップ油の蒸留されたネペタラクトンに富む留分の水素化によって製造されたジヒドロネペタラクトンの分析から得られた13C NMRスペクトルを示す。
【図6】インビトロ忌避性試験での雌ネッタイシマカに対する様々な忌避剤の試験中の、経時的なプローブ密度の分布を示す。
【図7】トランス,シス−ネペタラクトンの13C NMR分析を示す。
【図8】トランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたジヒドロネペタラクトンの13C NMR分析を示す。
【図9】インビトロ忌避性試験での雌ネッタイシマカに対するトランス,シス−ネペタラクトンの水素化により誘導されたジヒドロネペタラクトンの試験中の、経時的なプローブ密度の分布を示す。
【図10】インビトロ忌避性試験でのサシバエ(ストモキス・カルシトランス)に対する様々な忌避剤の試験中の、経時的な着陸密度の分布を示す。
【図11】インビトロ忌避性試験での雌ハマダラカ(アノフェレス・アルビマヌス)に対する様々な忌避剤の試験中の、経時的なプローブ密度の分布を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト、動物または無生物ホストに塗布された時に昆虫を忌避する組成物であって、一般式
【化1】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含んでなる組成物。
【請求項2】
ジヒドロネペタラクトン立体異性体が(7S)−ネペタラクトンから誘導された(9S)−ジヒドロネペタラクトン立体異性体である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンを含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ジヒドロネペタラクトンを組成物の総重量の約0.001%〜約80重量%の量で含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ジヒドロネペタラクトンを組成物の総重量の約0.01%〜約30重量%の量で含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
補助剤、キャリアおよびジヒドロネペタラクトンではない昆虫忌避化合物よりなる群のメンバーの1つもしくはそれ以上を含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
補助剤が増粘剤、緩衝剤、キレート剤、防腐剤、芳香剤、酸化防止剤、ゲル化剤、安定剤、界面活性剤、エモリエント、着色剤、アロエ、ワックス、および治療的にまたは美容上活性な成分よりなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
キャリアがシリコーン、ペトロラタム、ラノリン、液体炭化水素、農業スプレーオイル、パラフィン油、トール油、液体テルペン炭化水素およびテルペンアルコール、脂肪族および芳香族アルコール、エステル、アルデヒド、ケトン、鉱油、高級アルコール、微粉状の有機および無機固体材料よりなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
キャリアがジヒドロネペタラクトンを圧縮ガスによって大気中へ分散させるように適合させられたエアロゾル組成物を含んでなる請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
非ヒドロネペタラクトン昆虫忌避剤がベンジル、安息香酸ベンジル、2,3,4,5−ビス(ブチル−2−エン)テトラヒドロフルフラール、ブトキシポリプロピレングリコール、N−ブチルアセトアニリド、6,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−1,4−ピロン−2−カルボン酸ノルマル−ブチル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジブチル、コハク酸ジ−ノルマル−ブチル、N,N−ジエチル−メタ−トルアミド、炭酸ジメチル、フタル酸ジメチル、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、イソシンコメロン酸ジ−ノルマル−プロピル、2−フェニルシクロヘキサノール、p−メンタン−3,8−ジオール、およびノルマル−プロピルN,N−ジエチルスクシナメートよりなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
刺す昆虫、木喰虫、有害昆虫、および家庭害虫を含んでなる昆虫を忌避する請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
蚊、サシバエおよびダニの1つもしくはそれ以上を忌避する請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
コロン、ローション、スプレー、クリーム、ゲル、軟膏、バスまたはシャワーゲル、発泡製品、メークアップ、デオドラント、シャンプー、ヘアスプレーもしくはリンスまたは個人用石鹸の形態にある請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
昆虫忌避製品の形態にある請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
空気清浄剤、ろうそく、芳香品、繊維、シート、クロス、紙、ペイント、インク、粘土、木材、家具、カーペット、衛生用品、プラスチック、およびポリマーよりなる群から選択される請求項14に記載の物品。
【請求項16】
ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ、木喰虫、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ、コクヌストモドキ、ビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、およびゾウムシよりなる群から選択される1つもしくはそれ以上の昆虫を忌避する組成物であって、
一般式
【化2】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含んでなる組成物。
【請求項17】
N,N−ジエチル−m−トルアミドのそれと統計的に区別できない平均完全保護時間を有する組成物であって、一般式
【化3】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含んでなる組成物。
【請求項18】
一般式
【化4】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物に昆虫を曝露することを含んでなるヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避する方法。
【請求項19】
ヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避するための一般式
【化5】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物の使用。
【請求項20】
SrCO3ではない触媒担体に担持されたパラジウムの存在下に次のスキーム
【化6】
に従って式(XV)のネペタラクトンを水素化することを含んでなる式(XVI)のジヒドロネペタラクトンの製造方法。
【請求項21】
触媒担体が炭素、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、チタニア−アルミナ、チタニア−シリカ、バリウム、カルシウム、それらのコンパウンド、およびそれらの組み合わせ物よりなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
触媒担体が炭素である請求項20に記載の方法。
【請求項23】
パラジウム含量が約0.1〜約20%である請求項20に記載の方法。
【請求項24】
金属助触媒の存在下に達成される請求項20に記載の方法。
【請求項25】
約25℃〜約250℃の温度および約0.1MPa〜約20MPaの圧力で行われる請求項20に記載の方法。
【請求項1】
ヒト、動物または無生物ホストに塗布された時に昆虫を忌避する組成物であって、一般式
【化1】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含んでなる組成物。
【請求項2】
ジヒドロネペタラクトン立体異性体が(7S)−ネペタラクトンから誘導された(9S)−ジヒドロネペタラクトン立体異性体である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1S,9S,5R,6R−5,9−ジメチル−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−2−オンを含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ジヒドロネペタラクトンを組成物の総重量の約0.001%〜約80重量%の量で含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ジヒドロネペタラクトンを組成物の総重量の約0.01%〜約30重量%の量で含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
補助剤、キャリアおよびジヒドロネペタラクトンではない昆虫忌避化合物よりなる群のメンバーの1つもしくはそれ以上を含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
補助剤が増粘剤、緩衝剤、キレート剤、防腐剤、芳香剤、酸化防止剤、ゲル化剤、安定剤、界面活性剤、エモリエント、着色剤、アロエ、ワックス、および治療的にまたは美容上活性な成分よりなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
キャリアがシリコーン、ペトロラタム、ラノリン、液体炭化水素、農業スプレーオイル、パラフィン油、トール油、液体テルペン炭化水素およびテルペンアルコール、脂肪族および芳香族アルコール、エステル、アルデヒド、ケトン、鉱油、高級アルコール、微粉状の有機および無機固体材料よりなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
キャリアがジヒドロネペタラクトンを圧縮ガスによって大気中へ分散させるように適合させられたエアロゾル組成物を含んでなる請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
非ヒドロネペタラクトン昆虫忌避剤がベンジル、安息香酸ベンジル、2,3,4,5−ビス(ブチル−2−エン)テトラヒドロフルフラール、ブトキシポリプロピレングリコール、N−ブチルアセトアニリド、6,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−1,4−ピロン−2−カルボン酸ノルマル−ブチル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジブチル、コハク酸ジ−ノルマル−ブチル、N,N−ジエチル−メタ−トルアミド、炭酸ジメチル、フタル酸ジメチル、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、イソシンコメロン酸ジ−ノルマル−プロピル、2−フェニルシクロヘキサノール、p−メンタン−3,8−ジオール、およびノルマル−プロピルN,N−ジエチルスクシナメートよりなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
刺す昆虫、木喰虫、有害昆虫、および家庭害虫を含んでなる昆虫を忌避する請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
蚊、サシバエおよびダニの1つもしくはそれ以上を忌避する請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
コロン、ローション、スプレー、クリーム、ゲル、軟膏、バスまたはシャワーゲル、発泡製品、メークアップ、デオドラント、シャンプー、ヘアスプレーもしくはリンスまたは個人用石鹸の形態にある請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
昆虫忌避製品の形態にある請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
空気清浄剤、ろうそく、芳香品、繊維、シート、クロス、紙、ペイント、インク、粘土、木材、家具、カーペット、衛生用品、プラスチック、およびポリマーよりなる群から選択される請求項14に記載の物品。
【請求項16】
ハチ、ブヨ、ツツガムシ類、ノミ、緑頭ブヨ、蚊、サシバエ、ダニ、カリバチ、木喰虫、イエバエ、コックローチ、シラミ、ゴキブリ、ワラジムシ、コクヌストモドキ、ビーンビートル、チリダニ、ガ、セイヨウシミ、およびゾウムシよりなる群から選択される1つもしくはそれ以上の昆虫を忌避する組成物であって、
一般式
【化2】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含んでなる組成物。
【請求項17】
N,N−ジエチル−m−トルアミドのそれと統計的に区別できない平均完全保護時間を有する組成物であって、一般式
【化3】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物を含んでなる組成物。
【請求項18】
一般式
【化4】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物に昆虫を曝露することを含んでなるヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避する方法。
【請求項19】
ヒト、動物または無生物ホストから昆虫を忌避するための一般式
【化5】
で表される、ジヒドロネペタラクトン、またはジヒドロネペタラクトン立体異性体の混合物の使用。
【請求項20】
SrCO3ではない触媒担体に担持されたパラジウムの存在下に次のスキーム
【化6】
に従って式(XV)のネペタラクトンを水素化することを含んでなる式(XVI)のジヒドロネペタラクトンの製造方法。
【請求項21】
触媒担体が炭素、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、チタニア−アルミナ、チタニア−シリカ、バリウム、カルシウム、それらのコンパウンド、およびそれらの組み合わせ物よりなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
触媒担体が炭素である請求項20に記載の方法。
【請求項23】
パラジウム含量が約0.1〜約20%である請求項20に記載の方法。
【請求項24】
金属助触媒の存在下に達成される請求項20に記載の方法。
【請求項25】
約25℃〜約250℃の温度および約0.1MPa〜約20MPaの圧力で行われる請求項20に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−521240(P2007−521240A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509534(P2005−509534)
【出願日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/029344
【国際公開番号】WO2005/034626
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/029344
【国際公開番号】WO2005/034626
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】
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