説明

ジメチルケテンのフリーデル−クラフツカチオン重合によるポリジメチルケテンの合成方法

【課題】ジメチルケテンをフリーデル−クラフツカチオン重合でポリジメチルケテンにする方法。
【解決手段】開始剤(I)と触媒(Κ)と共触媒(CoK)とを含むカチオン触媒系を使用する。共触媒(CoK)は触媒(K)と開始剤(I)との反応で生じる対アニオンの重合の活性中心を出す試薬であり、電子求引基によって電子が除去された二重結合が存在する。この共触媒はo−クロラニル(3,4,5,6−テトラクロロ−1,2−ベンゾキノン)、p−クロラニル(2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン)、ニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、テトラシアノエチレン等の錯化剤の群の中から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコモノマーとしてのジメチルケテン(以下、DMK)からポリジメチルケテン(以下、PDMK)のポリマーを合成する方法に関するものである。
このポリマーは開始剤、触媒および共触媒を用いたカチオン触媒重合プロセスで合成される。
本発明はさらに、上記方法で得られるポリマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジメチルケテンの極めて高い反応性は互いに隣接した炭素−炭素および炭素−酸素の2つの二重結合に起因する。
これらの二重結合のいずれかを選択的に開いて、モノマー単位(A)を規則的重合させてβ−ケトン構造を有するポリマー(PolyA)にするか、モノマー単位(B)を規則的重合させてポリビニルアセタール型構造を有するポリマー(PolyB)にするか、2つの単位(A)と(B)を交互に加えてビニル性ポリエステル(PolyAB)にするのが有利である。
【0003】
【化1】

【0004】
DMKの最初の重合方法は下記文献に記載されている。
【非特許文献1】H. Staudinger (1925年)
【0005】
彼は触媒としてのトリメチルアミンの存在下で−80℃〜0℃の温度で重合している。得られた生成物は3つのモノマー単位(A)と2つのモノマー単位(B)とを含む非晶質で非結晶性の環式トリマー化合物であると記載している。
下記文献には−80℃〜−20℃の温度で[化2]に示す触媒を用いて単位(A)と単位(B)を重合して得られる結晶ポリマーが開示されている:
【特許文献1】英国特許第893,308号公報
【0006】
【化2】

【0007】
上記文献を改良した方法は下記文献に記載されている:
【特許文献2】英国特許第893,308号公報
【0008】
この文献には比誘電率が高い溶媒中でAlBr3またはAlCl2Etの存在下で合成することによって93重量%以上のβ−ケトン単位を含むPDMKが得られることが記載されている。用いる溶媒はニトロベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、1,1,1,2−テトラ−クロロエタンおよび1,1−ジクロロエチレンである。
【0009】
ジメチルケテン(DMK)のカチオン重合分野で、開始剤(initiateur, amorceur)(I)や共触媒(CoK)を使用したものは報告されていない。一般に用いられる触媒はルイス酸を溶媒または溶媒混合液中に単独で懸濁したものである。ルイス酸を極性溶媒か、少なくとも一種が極性溶媒である混合液に溶かす場合もある。
【0010】
触媒としてルイス酸のみを用いるこれらの方法ではβ−ケトンが高い選択性で得られるが、工業的に運転するには合成収率が極端に低い(収率<65%)。その理由はこの系では下記の2つ系の連鎖開始反応が重なるためである:
(1)痕跡量の水とルイス酸(DMKのカチオン重合の真の開始剤である酸性プロトンを放出する)との反応による連鎖開始反応
(2)BIE(二元イオノゲン平衡)機構によって反対電荷の2つのイオン単体を発生させるルイス酸の自己解離による連鎖開始反応。この場合、トリマー生成の原因の一つである双生イオンが発生する。極性溶媒の使用は電荷を分離し、トリマーの生成を制限するために必須であるが、これらの極性溶媒(ニトロベンゼン、ニトロ誘導体、クロロホルム)は毒性があるためポリマーの大量生産は制限される。この反応には2つの問題すなわちDMKの毒性の問題と爆発性の過酸化物を生じ易いという問題があることに注意が必要。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、DMK重合の運転条件を選択することによって、上記溶媒の危険がない通常の安価な溶媒の存在下で極めて高い収率(>65%)でβ−ケトン構造のポリマーを選択的に生成する重合を行うことができるということを見い出した。
【0012】
本発明では効率および再現性を高くするために触媒を使用溶媒に溶解したカチオン触媒を使用する。
本発明はさらに、上記の有毒過酸化物生成の問題を解決し、低分子量の鎖を生じさせ、効率を低下させる移動反応の問題を解決し、PDMKを安全に製造できるようにした。
これらのパラメータによってPDMKを大量生産することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の対象は、開始剤(I)と触媒(Κ)と共触媒(CoK)とを含むカチオン触媒系にある。
【0014】
本発明の一実施例の触媒系では、共触媒(CoK)が触媒(K)と開始剤(I)との反応で生じる対アニオンから重合の活性中心を出す試薬である。
本発明の一実施例の触媒系では、共触媒(CoK)が電子求引基によって電子が取り去られた少なくとも1つの二重結合を有する分子である。その例としてはo−クロラニル(3,4,5,6−テトラクロロ−1,2−ベンゾキノン)、p−クロラニル(2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン)、ニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、テトラシアノエチレン、ジフルオロニトロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンおよびオクタフルオロトルエンの分子を挙げることができる。
【0015】
本発明の一実施例の触媒系では、触媒(K)が元素の周期表のIB、IIBおよびA、IIIBおよびIIIA、IVBおよびIVA、VBおよびVA並びにVIIIB族に属する元素(M)を含む。
本発明の一実施例の触媒系では、元素(M)がB、Ti、Sn、Al、Hf、Zn、Be、Sb、Ga、In、Zr、V、AsおよびBiのからなる群の中から選択される元素である。
【0016】
本発明の一実施例の触媒系では、上記の元素MがIIIA族に属する場合には触媒(K)が一般式RnMX3-nのルイス酸であり、元素MがVA、IVAおよびIVB族に属する場合には触媒(K)が一般式MX4のルイス酸であり、元素MがVB族に属する場合には触媒(K)が一般式MX5のルイス酸である。
ここで、
Rはトリフルオロメチルスルホネート、1〜12個の炭素原子を有するアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリールまたはシクロアルキル型の炭化水素基およびアルコキシ基からなる群の中から選択される一価の基であり、
XはF、Cl、BrおよびIの群の中から選択されるハロゲン原子であり、
nは0〜3の整数である。
【0017】
本発明の一実施例の触媒系では、触媒がTiCl4、ZrCl4、SnCl4、VCl4、SbF5、AlCl3、AlBr3、BF3、BCl3、FeCl3、EtAlC12、Et1.5AlC11.5、Et2AlCl、AlMe3およびAlEt3からなる群の中から選択される。
【0018】
本発明の一実施例の触媒系では、開始剤(I)を一官能性分子(I1)、二官能性分子(I2)、一つまたは複数のハロゲン原子で置換された分子(I3)またはブレーンステッド酸(I4)にすることができる。
【0019】
本発明の別の対象は、上記の触媒系を用いることを特徴とするC3〜C10モノマーのカチオン重合方法にある。
【0020】
本発明方法の一実施例では、モノマーはジメチルケテン、イソブチレン、ブタ−1−エン、4−メチルペンタ−1−エン、オクタ−1−エン、2−メチルブタ−1−エン、3−メチルブタ−1−エン、2−メチルブタ−2−エン、スチレン、α−メチルスチレンまたはp−メチルスチレン等のアルキル基で置換されたスチレン、p−クロロスチレン等のハロゲンで置換されたスチレン、プロピレン、イソペンテン、一般的なビニルモノマー、特にビニルエーテル、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ヘキサジエン等の共役ジエンを有するジオレフィンまたはシクロジオレフィン、ミルセン、6,6−ジメチルフルベン、ピペリレン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンまたはビニルノルボルネン、および、β−ピネンからなる群の中から選択される。
【0021】
本発明のさらに別の対象は、上記方法で得られるポリマーにある。
本発明のさらに別の対象は、上記触媒系の使用にある。
【発明の効果】
【0022】
本発明の利点としては下記を挙げることができる:
(1)本発明触媒系は重合前または重合系中でDMK重合中にルイス酸のみを使用した場合に生じるトリマーの生成を防止できる。すなわち、重合を開始させる化学種が中性の末端を生じ、それがトリマーの中間体である双生イオンの生成を防止する。従って、上記の極性溶媒とは対照的に多量に使用でき、トリマーを生成しない毒性のない非極性溶媒中または中程度の極性の溶媒中でプロセスを実行できる。
【0023】
(2)本発明触媒系では開始剤の種類を選択することによって鎖端の種類を制御でき、従って、カチオン重合では反応性がないがポリマーの改質に後で使用できる官能基を鎖端に導入できる。さらに、2以上の官能基を有する開始剤を用いることによって分岐または星型のポリマーを生成することもできる。
【0024】
(3)触媒系(I+K+CoK)の共触媒(CoK)を用いることによって触媒(K)を溶かすことができる(一般に、ルイス酸を極性が低い溶媒に溶かすことは、極性が弱い可溶性媒体でも、触媒(K)としてのルイス酸が約1Mの高濃度でも難しい)。例えば、共触媒が存在しない場合のジクロロメタンへのAlCl3の溶解度は1.5×10-3M未満である。さらに、本発明触媒系は高い触媒活性を示し、従って、触媒の使用量を少なくすることができる。事実、対アニオンからの活性中心(オキソカルベニウム)の放出によって反応速度の上昇がみられる。さらに、対アニオンの捕捉によって移動反応も減少する。その結果、高分子量の鎖が得られ、収率が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のカチオン触媒系は開始剤(I)と触媒(Κ)と共触媒(CoK)とを含む。
本発明のカチオン触媒系はDMKの重合に限定されるものではない。この触媒系で重合できるその他のモノマーとしては例えばイソブチレン、ブタ−1−エン、4−メチルペンタ−1−エン、オクタ−1−エン、2−メチルブタ−1−エン、3−メチルブタ−1−エン、2−メチルブタ−2−エン、スチレン、α−メチルスチレンまたはp−メチルスチレン等のアルキル基で置換されたスチレン、p−クロロスチレン等のハロゲンで置換されたスチレン、プロピレン、イソペンテン、一般的なビニルモノマー、特にビニルエーテル、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ヘキサジエン等の共役ジエンを有するジオレフィンまたはシクロジオレフィン、ミルセン、6,6−ジメチルフルベン、ピペリレン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンまたはビニルノルボルネンおよびβ−ピネンが挙げられる。
【0026】
重合を行う溶媒も重要な役目をする。溶媒は電荷の分離を促進するだけでなく、溶媒に対するケージを形成してモノマーの接近を妨げることなしに成長中の鎖を溶媒和化して沈殿を遅くしなければならない。極性溶媒がその高い比誘電率によってイオン対の解離を促進し、反応性のある自由なイオンの比率を増加させた場合には、活性中心が優先的に溶媒和化し、モノマーの接近を妨げ、変換が制限される。一般に、DMKによる活性中心の溶媒和化を邪魔するものがあってはならない。非極性溶媒または中程度の極性をもつ溶媒中ではDMKが成長中の鎖を優先的に溶媒和化し、溶媒によって移動反応が促進されるのが好ましい。この反応を制限して高分子量を得るためには錯化剤を用いることができる。
【0027】
従って、飽和または不飽和の脂肪族または脂環式および置換されていてもよい炭化水素型の溶媒中で重合を行うことができる。反応もこの形式の溶媒混合液中で行うことができる。例としてはヘキサン、ヘプタン、トルエン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンまたはプロピルシクロヘキサン等の炭化水素、塩化メチレン、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、塩化ペンチルまたは塩化ヘキシル等の塩化アルキル(一次および二次ハロゲン化アルキル)、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム(場合によっては塩素原子の代わりに臭素原子を有するこれらの化合物)、ニトロメタン、ニトロエタンおよびニトロプロパン等の非芳香族のニトロ化炭化水素が挙げられる。しかし、一般には非毒性かつ無公害性の溶媒が好ましい。
【0028】
開始剤(I)はオレフィンのカチオン重合用フリーデル−クラフツ型組成物に入る通常の開始剤の中から選択され、下記の(I1)(I2)(I3)および(I4)の開始剤にすることができる:
【0029】
(I1)一官能性開始剤
単一の官能基を有し、下記の化学式を有することができる:
1−CO−X、R1−COO−R2およびR1−O−R2
(ここで、R1およびR2基は水素原子、アルキル/アリール基、例えばCH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33CまたはC65および置換された芳香族環の中から選択され、R1およびR2基は互いに同一でも異なっていてもよく、Xはハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)である)
【0030】
(I2)二官能性開始剤
2つの官能基を有し、下記化学式を有することができる:
1−CO−R−CO−X2またはR1−O−CO−R−CO−O−R2
(ここで、R基はアルキル/アリール基、例えばCH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33CまたはC65および置換された芳香族環の中から選択され、R1およびR2基は水素原子、アルキル/アリール基、例えばCH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33CまたはC65および置換された芳香族環の中から選択され、R1およびR2基は互いに同一でも異なっていてもよく、X1およびX2基はF、Cl、BrおよびIの中から選択され、互いに同一でも異なっていてもよい)
【0031】
(I3)下記I3A〜I3Cの一般式のハロゲン化誘導体
【化3】

【0032】
(ここで、Xはハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)であり、R1は1〜8個の炭素原子を有するアルキル基および2〜8個の炭素原子を有するアルケニル基からなる群の中から選択され、R2は4〜200個の炭素原子を有するアルキル基、2〜8個の炭素原子を有するアルケニル、フェニル、フェニルアルキル(アルキル位置がラジカル)、アルキルフェニル(フェニル位置がラジカル)および3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群の中から選択され、R3は1〜8個の炭素原子を有するアルキル基および2〜8個の炭素原子を有するアルケニルおよびフェニルアルキル(アルキルラジカル)からなる群の中から選択され、R1、R2、R3はアダマンチルまたはボルニルにすることもでき、Xは第三級炭素位置にある)
【化4】

【0033】
(ここで、Xはハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)であり、R5は1〜8個の炭素原子を有するアルキル基および2〜8個の炭素原子を有するアルケニル基からなる群の中から選択され、R6は1〜8個の炭素原子を有するアルキル基および2〜8個の炭素原子を有するアルケニルまたはフェニルアルキル(アルキルラジカル)からなる群の中から選択され、R4はフェニレン、ビフェニレン、α,ω−ジフェニルアルカンおよび−(CH2n−基(ここで、nは1〜10の整数)からなる群の中から選択される)
【化5】

【0034】
(ここで、X、R1、R3、R4、R5およびR6は上記定義のもの)
(I4)プロトン酸
例えばCF3SO3H、H2SO4、HClO4、HBr、HClおよびHl。
【0035】
開始剤(I)の例としては2−アセチルオキシ−2−フェニルプロパン等の炭化水素酸のクミルエステル、2−メトキシ−2−フェニルプロパンまたは1,4−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン等のアルキルクミルエーテル、ハロゲン化クミル、特に2−クロロ−2−フェニルプロパン、(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンまたは1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン等の塩素化誘導体、脂肪族ハロゲン化物、特に2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン(TMPCl)、2−ブロモ−2,4,4−トリメチルペンタン(TMPBr)または2,6−ジクロロ−2,4,4,6−テトラメチルヘプタン等の塩素化誘導体、1,4−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼンまたは2,6−ジヒドロキシ−2,4,4,6−テトラメチルヘプタン、1−クロロアダマンタン、1−クロロボルナン、5−(t−ブチル)−1,3−ジ(1−クロロ−1−メチルエチレン)ベンゼン等のヒドロキシ脂肪族炭化水素またはヒドロキシクミルおよびこれらの類似化合物が挙げられる。
【0036】
触媒(K)はルイス酸であり、好ましくは強ルイス酸(例えば、AlCl3、AlBr3、EtAlCl2、BF3、BCl3、SbF5またはSiCl4)であり、元素Mの種類に応じて主として下記一般式のケトン構造になる:
RnMX3-n、MX4またはMXy
(ここで、
Mは元素の周期表のIB、IIBおよびA、IIIBおよびIIIA、IVBおよびIVA、VBおよびVA、およびVIIIB族に属する元素であり、例としてはB、Ti、Sn、Al、Hf、Zn、Be、Sb、Ga、In、Zr、V、AsまたはBiの元素が挙げられる。下記族のMが好ましい:
IIIA (化学式RnMX3-n
VAおよびVB (化学式MXy
IVAおよびIVB(化学式MX4
【0037】
Rはトリフルオロメチルスルホネート、1〜12個の炭素原子を有するアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリールまたはシクロアルキル型の炭化水素基およびアルコキシ基、例えば以下の基:CH3、CH3CH2、(CH32CH、(CH33CまたはC65、置換された芳香族環、OCH3、OC25またはOC37からなる群の中から選択される一価の基であり、「アリールアルキル」および「アルキルアリール」とは脂肪族と芳香族とが結合した構造を有する基を意味し、ラジカルは前者ではアルキル位置に、後者ではアリール位置にあり、
XはF、Cl、BrまたはIからなる群の中から選択されるハロゲン、好ましくはClであり、
nは0〜3の整数であり、
yは3〜5の整数である)
【0038】
例としては、下記が挙げられる:TiCl4、ZrCl4、SnCl4、VCl4、SbF5、AlCl3、AlBr3、BF3、BCl3、FeCl3、EtAlCl2(EADC)、Et1.5AlCl1.5(EASC)、Et2AlCl(DEAC)、AlMe3およびAlEt3
【0039】
ルイス酸をクレー、ゼオライト、シリカまたはシリカ/アルミナに担持させてもよい。そうすることで担持された触媒を反応終了時に回収し、再循環させることができる。
本発明のカチオン重合系に特に好ましいルイス酸はAlCl3、AlBr3、EADC、EASC、DEAC、BF3およびTiCl4である。
【0040】
共触媒(CoK)は触媒(K)と開始剤(I)との反応で生成した対アニオンから重合の活性中心を出す試薬である。重合の活性中心へのアクセスはこのCoKの作用でより容易になる。共触媒は触媒と開始剤との反応で生じる対アニオンを錯体化し、重合の活性中心を放出する錯化剤である。例としてはo−クロラニル(3,4,5,6−テトラクロロ−1,2−ベンゾキノン)、p−クロラニル(2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン)、ニトロベンゼン、トリニトロベンゼンまたはテトラシアノエチレンが挙げられる。
【0041】
上記の触媒作用の主役に加えてカチオン触媒作用の分野で当業者に周知の移動剤および/または連鎖制限剤を用いても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【実施例】
【0042】
DMKの重合でポリジメチルケテン(PDMK)を作るために重合反応器を[表1]に示す重合温度に冷却する。気体のDMKはn−アルカンまたは芳香族化合物等の中性洗浄溶媒を用いて(吸収/脱着で)精製する。次に、DMKの気体を重合溶媒に吸収させる。
KとIとCoKとの混合物は、DMKの重合溶媒への吸収前または後に重合溶媒中でその場で調製するか、溶液に調製した後にDMKの重合溶媒への吸収前または後に重合反応器に加える。反応温度が上がるとエステル官能基の生成が促進され、ケトン官能基の生成が犠牲になるので、反応中に反応温度が上昇しないように注意することが重要である。化学的選択性を良くする(モノマー(A)すなわちケトン官能基を生成させる)のに理想的な温度範囲は−30℃〜−50℃である。周囲温度で重合しても極めて良い結果が得られるが、この場合にはモノマー濃度を下げるのが好ましい。本発明の重合反応は化学的選択性が≧95mol%になる。
【0043】
反応終了後に未反応のDMKをエタノールで中和した後、反応器の内容物を濾過する。PDMKを回収、洗浄した後、減圧下に100℃で1時間乾燥する。得られたポリマーは白色で、主成分としてβ−ケトン構造を有する(FTIRで測定)。本発明のカチオン触媒を用いた重合方法は溶媒と未反応のモノマーとを再使用しながら連続的に行うことができる。
【0044】
[表1]に示す運転条件に応じて[表1]に示す結果が得られる。実施例1、2、3、4は本発明によるものであり、比較例1および2は本発明ではない。
[表1]から分かるように、比較例1および2では触媒の量が多い。すなわち、比較例1および2ではKのモルに対してDMKのモルはそれぞれ17倍および100倍であり、実施例1および2ではKのモルに対してDMKのモルは1687倍および210倍である。さらに、重合時間が長い(比較例2は180分、実施例1および2は120分、実施例4は60分)。
【0045】
本発明方法は、比較例1および2の運転条件とは対照的に、触媒の効率をより良くすることができ、はるかに多量のPDMKを合成できる。
【0046】
実施例3では、ポリスチレン当量で、重量平均分子量(Mw)が300,000g/mol、数平均分子量(Mn)が125,000g/molで、多分散性指数(PI=Mw/Mn)は2.4である。従って、従来技術の重合とは対照的に、本発明の重合方法では鎖の全長にわたってより高い均一性を得ることができる。
比較例2では、ポリスチレン当量で、Mw=525,000g/mol、Mn=57,000g/mol、PI=9.4である。
【0047】
重合の選択性を調べるために、ポリマー中のエステル単位とケトン単位の比をフーリエ変換赤外分光法(FTIR)で測定した。この2つの単位の比は1388cm-1の帯域(ケトン官能基に特有の帯域)の光学濃度(OD2)に対する1740cm-1の帯域(エステル官能基に特有の帯域)の光学濃度(OD1)の比で評価した。この測定は2つのロット間を比較するもので、各単位の比を直接測定するものではない。指標として、エステル/ケトン比が0.2の場合、PDMK中の13C核磁気共鳴で得られるスペクトルではエステル単位は検出されない(解像限界、5%以下)。実施例1、実施例2、実施例3では洗浄後のOD1/OD2比が0.19以下であり、比較例2ではOD1/OD2比が0.2である。実施例4(低温で重合を開始し、生長反応は周囲温度で行った)では洗浄後のOD1/OD2比は0.3である。従って、温度が化学的な選択性の制御に重大な影響を与える。すなわち、低温で制御された運転条件下で操作することによって洗浄後のFTIRスペクトル中にエステル帯域のないPDMKを得ることができる。
【0048】
実施例4と同じ操作を行ったが、触媒の配合物にo−クロラニルを加えなかった比較例も実施した。この場合には重合時間が延び(100分)、重合収率が極端に低下(16%)した。この実験によって錯化剤の活性化剤としての役目が確認できる。
また、実施例4の操作を2−イオド−2−メチルプロパンを用いて行った。この場合にも実施例4と極めてよく似た結果になった。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】触媒(K)としてAlBr3を、開始剤(I)としてt−塩化ブチルを、共触媒(CoK)としてo−クロラニルを用いたカチオン重合の開始段階を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開始剤(I)と触媒(Κ)と共触媒(CoK)とから成るカチオン触媒系。
【請求項2】
共触媒(CoK)が、触媒(K)と開始剤(I)との反応で生成する対アニオンから重合の活性中心を出す試薬である請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
共触媒(CoK)が電子求引基によって電子が除去された少なくとも1つの二重結合を有する分子である請求項2に記載の触媒系。
【請求項4】
共触媒(CoK)がo−クロラニル(3,4,5,6−テトラクロロ−1,2−ベンゾキノン)、p−クロラニル(2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン)、ニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、テトラシアノエチレン、ジフルオロニトロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンおよびオクタフルオロトルエンからなる錯化剤の群の中から選択される請求項3に記載の触媒系。
【請求項5】
触媒(K)が元素の周期表のIB、IIBおよびIIA、IIIBおよびIIIA、IVBおよびIVA、VBおよびVA並びにVIIIB族に属する元素(M)を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項6】
元素(M)がB、Ti、Sn、Al、Hf、Zn、Be、Sb、Ga、In、Zr、V、AsおよびBiからなる群の中から選択される元素である請求項5に記載の触媒系。
【請求項7】
元素MがIIIA族に属する場合には触媒(K)が一般式RnMX3-nのルイス酸であり、元素MがVA、IVAおよびIVB族に属する場合には触媒(K)が一般式MX4のルイス酸であり、元素MがVB族に属する場合には触媒(K)が一般式MX5のルイス酸である請求項5または6に記載の触媒系:
(ここで、
Rはトリフルオロメチルスルホネート、1〜12個の炭素原子を有するアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリールまたはシクロアルキル型の炭化水素基およびアルコキシ基からなる群の中から選択される一価の基であり、
XはF、Cl、BrおよびIの群の中から選択されるハロゲン原子であり、
nは0〜3の整数である)
【請求項8】
触媒がTiC14、ZrC14、SnC14、VC14、SbF5、AlCl3、A1Br3、BF3、BCl3、FeCl3、EtA1C12、Et1.5A1C11.5、Et2A1C1、AiMe3およびA1Et3からなる群の中から選択される請求項5〜7のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項9】
開始剤(I)が一官能性分子(I1)、二官能性分子(I2)、一つまたは複数のハロゲン原子で置換された分子(I3)またはブレーンステッド酸(I4)である請求項1〜8のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒系を用いることを特徴とするC3〜C10モノマーのカチオン重合方法。
【請求項11】
上記モノマーがジメチルケテン、イソブチレン、ブタ−1−エン、4−メチルペンタ−1−エン、オクタ−1−エン、2−メチルブタ−1−エン、3−メチルブタ−1−エン、2−メチルブタ−2−エン、スチレン、α−メチルスチレンまたはp−メチルスチレン等のアルキル基で置換されたスチレン、p−クロロスチレン等のハロゲンで置換されたスチレン、プロピレン、イソペンテン、一般的なビニルモノマー、特にビニルエーテル、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ヘキサジエン等の共役ジエンを有するジオレフィンまたはシクロジオレフィン、ミルセン、6,6−ジメチルフルベン、ピペリレン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンまたはビニルノルボルネンおよびβ−ピネンからなる群の中から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の方法によって得られるポリマー。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒系の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−505658(P2006−505658A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550723(P2004−550723)
【出願日】平成15年11月3日(2003.11.3)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003266
【国際公開番号】WO2004/044030
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(591004685)アルケマ (112)
【Fターム(参考)】