説明

ジルコニアゾル及びその製造方法

【課題】 経時安定性に優れ、かつ、他の原材料と混合・複合化が不可欠となる、光学用フィルムや金属表面処理剤等の用途において好適に用いることが出来る、安定化されているジルコニアゾル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
リン酸イオン、アンモニウムイオン及びヒドロキシルイオンを含有することを特徴とするジルコニアゾル。好ましくは、pHが5以上、リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比が0.01以上及びジルコニアゾル中のジルコニア粒子の平均粒子径が100nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニアゾル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアは機能性材料の有用な原材料である。耐火物、セラミックコンデンサ、酸素センサー、圧電体、固体酸化物型燃料電池、固体超強酸、触媒、封止剤、ブレーキ、吸着材、塗料、研磨剤、バインダー、光学材料、コーティング剤、屈折率調整材、金属表面処理剤、その他多種多様の機能性材料として使用されている。
【0003】
ジルコニア、アルミナ、シリカをはじめとする、金属酸化物ゾルの多くは、粒子間の静電気的反発を利用する事で凝集を制御し100nm以下の平均粒子径を実現するものである。金属酸化物ゾルは、他の金属酸化物ゾル、金属塩、金属塩水溶液、樹脂成分、溶剤、添加剤と混合され機能性材料として用いられてきた。したがって、機能性材料として好適に用いる為には、様々な原材料との混合・複合化が不可欠である。しかしながら、従来から知られているジルコニアゾルの多くはpH5未満の酸性および弱酸性のジルコニアゾルであり、塩基性の化合物を混合、複合化することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特許第2900358号公報
【特許文献2】 特許第3278475号公報
【0005】
特許文献1には、「分散安定剤としてヒドロキシル基を持つ水溶性有機酸及びヒドロキシル基を少なくとも2個持つ水溶性有機化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有し、pH10〜14であることを特徴とするジルコニアゾル」及び「分散安定剤がジルコニアに対し重量比で少なくとも5%であるジルコニアゾル」が記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載されるジルコニアゾルは、pHが10〜14と強塩基性を示すことから、酸性〜中性を示す原材料と混合すると中和反応により他原材料の沈澱、ゲル化を生じる為に好ましくない。また、低温での熱処理においては、有機酸を用いる為に炭素の残留により機能性の低下を招く恐れがある。
【0006】
特許文献2には、「3価クロムイオン、6価クロムイオン、および分散安定剤を含有し、3未満のpHを有する酸性クロム化合物水溶液中に、少なくとも1種の塩基性化合物を存在させることにより得られる3価クロム化合物ゾルを含み、かつ3〜10のpHを有することを特徴とする3価クロム化合物ゾル」が記載され、より詳細には、「塩基性化合物が、アンモニア、アンモニア水、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムから選ばれる」こと及び「分散安定剤が、リン酸、無水クロム酸、フッ酸、硼フッ化水素酸、硅フッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸、ギ酸、酢酸、アクリル酸、ポリアクリル酸、マレイン酸、ポリマレイン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、および芳香族カルボン酸から選ばれた少なくとも1種からなる」ことが記載されている。
しかしながら、ジルコニアゾルの安定化については何ら記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記欠点を解決したもので、本発明の目的は、経時安定性に優れ、かつ、他の原材料と混合・複合化が不可欠となる、光学用フィルムや金属表面処理剤等の用途において好適に用いることが出来る、リン酸イオン、アンモニウムイオン及びヒドロキシルイオンを含有し、安定化されているジルコニアゾル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の問題点について鋭意研究を重ねた結果、特定の条件下においてジルコニアゾルに、リン酸及びリン酸化合物の1種以上を加えた後、塩基性物質を添加することにより、上記目的を達成する事を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)リン酸イオン、アンモニウムイオン及びヒドロキシルイオンを含有することを特徴とするジルコニアゾル。
(2)pHが5以上であることを特徴とする前記(1)記載のジルコニアゾル。
(3)リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比が0.01以上であることを特徴とする前記(1)又は前記(2)記載のジルコニアゾル。
(4)ジルコニアゾル中のジルコニア粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする前記(1)〜前記(3)記載のジルコニアゾル。
(5)ジルコニアゾルに、リン酸及びリン酸化合物の1種以上を加えた後、塩基性物質を添加することを特徴とするジルコニアゾルの製造方法。
(6)前記塩基性物質が、アンモニア、アンモニア水、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよびこれらの化合物から選ばれる1種以上であることを特徴とする前記(5)記載のジルコニアゾルの製造方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安価で簡便な方法で、経時安定性を持ち、pH5以上、好ましくは7〜9のジルコニアゾルが得られる為、各種用途に使用できる。
特に、分散安定性に優れ、様々な原材料と混合、複合化できることから、光学用フィルムや金属表面処理剤等の用途において好適に用いることが出来る
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のジルコニアゾル及びその製造方法について詳細に説明する。
なお、本発明において、平均粒子径とは動的光散乱法で測定した粒子径分布の累積頻度が50体積%となる粒子径を言う。
【0011】
1.ジルコニアゾル
先ず、本発明のジルコニアゾルは、リン酸イオン、アンモニウムイオン及びヒドロキシルイオンを含有することを特徴とするが、別の表現では、「リン酸及びリン酸化合物の1種以上と塩基性物質を含有する」とも記載できる(「リン酸及びリン酸化合物」及び「塩基性物質」の詳細については、2.ジルコニアゾルの製造方法のところで、詳細に記載してある)。
本発明のジルコニアゾルの最大の特徴は、このようにリン酸イオンとアンモニウムイオンの対イオンであるヒドロキシルイオンにより、安定化されたジルコニアゾルにある。リン酸イオンは、ジルコニアに配位・吸着し、ヒドロキシイオンと対となり、ジルコニアゾル中のジルコニア粒子の静電気的反発に寄与していると考えられる。
なお、本発明において、「安定化された」とは、「室温で1週間静置後も、沈殿、ゲル化は確認されない」ことを意味する。
次に、本発明のジルコニアゾルのpHは5以上で、上限は特に限定されるものではないが、通常、10程度であり、好ましいpHの範囲は7〜9である。
pHが5未満では、安定化に寄与すると考えられる、リン酸イオン、アンモニウムイオンの減少により、ジルコニアゾルの安定性が低下し、増粘、ゲル化する恐れがある為、好ましくない。
【0012】
そして、本発明のジルコニアゾルのリン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比は0.01以上であり、上限は特に限定されるものではないが、通常、0.5程度であり、好ましいリン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比は0.03〜0.1、さらに好ましくは、0.05〜0.07である。
0.01未満では、pH調整を行なう際、ジルコニアゾルの安定化が不足する為に、ジルコニアの沈殿物を生じ、0.5を超えると、過剰のリン酸、リン酸化合物を中和するに為に、大量の塩基性物質を使用する為、好ましくない。また、これ以上のリン酸、リン酸化合物を添加してもゾルの安定性への量的効果は乏しく経済的ではない。
【0013】
本発明のジルコニアゾル中のジルコニア平均粒径は、100nm以下、好ましくは10〜80nmである。平均粒径が100nmを超えると静電気的反発により分散されているジルコニア粒子が沈降してしまい、ゾル中のジルコニア粒子の均一性に欠ける。さらに、他の原材料と混合する場合も偏析が生じ、材料の機能性低下を招く恐れがあるので好ましくない。
又、ジルコニアゾル中のジルコニア(ZrO換算)濃度は、特に限定されないが、通常、5〜50%(本発明において、「%」とは質量%を意味する。以下、同様である。)である。5%未満では、ジルコニア含有率が低く、他原材料と混合する場合に、希釈されてしまう。又、50%を超えるとジルコニアゾルの経時安定性に欠けるので、好ましくない。
【0014】
2.ジルコニアゾルの製造方法
以下、本発明のジルコニアゾルの製造方法について詳細に記載する。
本発明の製造方法は、ジルコニアゾルに、リン酸及びリン酸化合物の1種以上を加えた後、塩基性物質を添加することを特徴とするが、リン酸及びリン酸化合物の1種以上と塩基性物質を交互に添加する、等の別法も考えられ、本発明の目的に反しない範囲内で、これらも本発明の範囲内に入ることは自明のことである。
【0015】
以下、代表的な製造方法の具体例について説明する。
先ず、公知の方法で製造されたジルコニアゾルを用い、ジルコニアゾルを純水等にて希釈し、ついでリン酸及びリン酸化合物の1種以上を添加後、塩基性物質を添加し、ろ過により、目的のpHになるまで、精製・濃縮を行う。
先ず、本発明で用いる出発原料であるジルコニアゾルは、特に限定されるものでなく、公知の方法で製造されたものを用いることが出来る。すなわち、ジルコニウム塩水溶液を加熱、加水分解することにより得られたもの(加水分解法)、ジルコニウム塩水溶液にアルカリを加えてジルコニウム水酸化物としこれを解膠したもの(解膠法)、ジルコニウム水酸化物に酸およびアルカリを加えた後オートクレーブ等を用いて水熱処理することにより得られるもの(水熱合成法)及び金属アルコキシド法で得られたもの等が例示される。
又、ジルコニアゾル中のジルコニア(ZrO換算)濃度は、特に限定されないが、通常、5〜50%である。
なお、ジルコニアゾル中のジルコニア平均粒径は、100nm以下、好ましくは10〜80nmである。
【0016】
そして、本発明のジルコニアゾルを製造する際には、公知の方法で製造されたジルコニアゾルを純水等で希釈してから用いることが好ましい。希釈の程度はジルコニアゾル中のジルコニア(ZrO換算)濃度により変わるので特に限定されるものではないが、例えば、ZrO濃度が約20%程度の場合で約5倍程度の重量になる程度に希釈すれば良い。
【0017】
次に、本発明で用いるリン酸及びリン酸化合物としては、特に限定されず、リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、オキシ塩化リン酸、ピロリン酸、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが例示され、これらのリン酸及びリン酸化合物を1種又は2種以上を混合して用いることができるが、ジルコニアゾル表面への配位、吸着および他の金属元素を含まないことから、リン酸、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウムが好ましい。
なお、リン酸及びリン酸化合物の添加量(モル比)は、特に限定されるものでないが、ジルコニアゾル中のジルコニアに対して、リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比=0.15〜1.0であり、好ましくは、0.20〜0.75である。0.15未満では、ジルコニアゾルの安定性が低下し塩基性物質を添加した際に、沈澱が生じる為に、好ましくない。又、1.0を超えてリン酸及びリン酸化合物を添加しても量的効果は乏しく、ろ過により過剰のリン酸及びリン酸化合物を除去する為に、大量の水が必要であり、好ましくない。
【0018】
次に、塩基性物質としては、特に限定されるものではなく、アンモニア、アンモニア水、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が例示されるが、ジルコニアゾル中に他の金属元素の残存及びリン酸イオン(PO2−)の過剰添加を避ける為にも、アンモニア、アンモニア水、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムが好ましい。なお、これらの塩基性物質を1種又は2種以上を混合して用いることができる。
また、塩基性物質の添加量としては、pHを10以上になるまで、添加すればよく、添加する塩基性物質の濃度は特に限定されない。
なお、pHが10未満では、過剰のリン酸イオン、およびジルコニアゾルに含有する、アニオン(塩素イオン、硝酸イオン等)をろ過等により効率よく、系外に排出することができず、ジルコニアゾル中に不純物イオンとして残存する可能性があるので好ましくない。
【0019】
ろ過としては、ジルコニアゾル中の過剰のリン酸イオンを除去できるものであれば、特に限定されないが、精密ろ過膜を用いた精密ろ過、限外ろ過膜を用いた限外ろ過及び逆浸透膜を用いた逆浸透ろ過が、ゾルへの熱的エネルギーが加わらず(熱的エネルギーによるゾルの変性および三次元網目構造の発達によるゲル化)ジルコニア濃度を高く保ちつつ、ろ過ができる為、作業効率が高く、経済的であることから、好ましい。
なお、ろ過による精製・濃縮は、本発明のジルコニアゾルのpHが5以上、好ましくは7〜9、そして、リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比が0.01以上、好ましくは0.03〜0.1となるように行う。
この結果、リン酸イオン、アンモニウムイオン及びヒドロキシルイオンを含有し、安定化されているジルコニアゾルを製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
ジルコニアの平均粒径が15nmであり、解膠法で作製されたpH=1.0のジルコニアゾル104.2g(ZrOとして10g含有)を純水にて、200gに希釈した。次に、希釈されたジルコニアゾルに、85%リン酸溶液2.3gを添加混合し、25%アンモニア水にて、pHが10.0になるまで、アンモニア水を添加した。この時のアンモニア水添加量は、9.0gであった。その後、分画分子量:6000の限外ろ過膜を用いて、pH8.1まで精製・濃縮を繰り返すことにより、ジルコニアゾルを得た。
ジルコニアゾルの平均粒子径は、15nm、リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比は、0.074であり、室温で1週間静置後も、沈殿、ゲル化は確認されなかった。
【実施例2】
【0022】
ジルコニアの平均粒子径が15nmであり、解膠法で作製されたpH=1.0のジルコニアゾル104.2g(ZrOとして10g含有)を純水にて、200gに希釈した。次に、希釈されたジルコニアゾルにリン酸二アンモニウムを5.0g添加し、25%アンモニア水にて、pHを10.0になるまで、アンモニア水を添加した。この時のアンモニア水添加量は、6.2gであった。その後、実施例1と同様の手順でpH7.8まで精製・濃縮を繰り返すことによりジルコニアゾルを得た。
ジルコニアゾルの平均粒子径は、13nm、リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比は、0.069であり、実施例1同様に室温で1週間静置後も、沈殿、ゲル化は確認されなかった。
【実施例3】
【0023】
ジルコニアの平均粒子径が80nmであり、解膠法で作製されたpH=3.2のジルコニアゾル49.7g(ZrOとして10g含有)純水にて、200gに希釈した。次に、希釈されたジルコニアゾルにリン酸一アンモニウムを、5.0g添加し、25%アンモニア水にて、pHを10.0になるまで、アンモニア水を添加した。この時のアンモニア水添加量は、11.5gであった。その後、実施例1と同様の手順で、pH7.6まで精製・濃縮を繰り返すことによりジルコニアゾルを得た。
ジルコニアゾルの平均粒子径は、84nm、リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比は、0.09であり、実施例1同様に室温で1週間静置後も、沈殿、ゲル化は確認されなかった。
【比較例1】
【0024】
ジルコニアの平均粒子径が15nmであり、解膠法で作製されたpH=1.0のジルコニアゾル104.2g(ZrOとして10g含有)を純水にて、200gに希釈した。次に、希釈されたジルコニアゾルに25%アンモニア水にて、pHを10.0になるまで、アンモニア水を添加した。この時のアンモニア水量は、4.8gであった。しかしながら、アンモニア水添加後に沈澱が確認され、ジルコニアゾルは得られなかった。
【比較例2】
【0025】
実施例1の85%リン酸、2.3gを25%硫酸、6.0gに変更し、25%アンモニア水にて、pHを10.0になるまで、アンモニア水を添加した。この時のアンモニア水添加量は、9.7であった。しかしながら、アンモニア水添加後に沈澱が確認され、ジルコニアゾルは得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオン、アンモニウムイオン及びヒドロキシルイオンを含有することを特徴とするジルコニアゾル。
【請求項2】
pHが5以上であることを特徴とする請求項1記載のジルコニアゾル。
【請求項3】
リン酸イオン(PO2−)/ZrOのモル比が0.01以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のジルコニアゾル。
【請求項4】
ジルコニアゾル中のジルコニア粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3記載のジルコニアゾル。
【請求項5】
ジルコニアゾルに、リン酸及びリン酸化合物の1種以上を加えた後、塩基性物質を添加することを特徴とするジルコニアゾルの製造方法。
【請求項6】
前記塩基性物質が、アンモニア、アンモニア水、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよびこれらの化合物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5記載のジルコニアゾルの製造方法。