説明

スイッチアジャスタのナットの回り止め金具

【課題】 スイッチアジャスタのナットの回り止め金具の形状を均一化し、軌道回路の短絡事故を防止する。
【解決手段】 中央にプレート部2を、その両端に二又部1,1を有している。二又部1は、スイッチアジャスタのロッドねじ部にねじ込まれたナットを挟んでその自由回転を阻止する部分であり、プレート部2は、両二又部1,1をつなぎ、スイッチアジャスタの腕金具に保持させる部分である。二又部1とプレート部2とは、プレート部2を挟んで一枚の鋼板の打ち抜き及び折り曲げ加工により一体に形成されたものである。また、枕木上の床板と向き合う面、少なくともトングレールのふく進によって床板のヒータ部に接触するおそれがある二又部を含めた全体に絶縁コーティングの塗膜4が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転てつ装置におけるスイッチアジャスタのナットの回り止め金具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路のポイントは、図3に示すように基本レール12、トングレール13、転てつ棒(タイバー)14、床板15などで構成され、転換装置(図示略)によって基準線側及び分岐線側にそれぞれ転換できる構造になっている。ポイントは、常時開通している方向を定位といい、その反対方向を反位という。
【0003】
転換装置は、トングレール13を転換し、基本レール12に密着させる装置であり、また密着状態のトングレール13を、その位置に保持する装置を鎖錠装置(図示略)という。転てつ装置の役目は、ポイントのトングレール13を定位から反位へ、また、反位から定位へ移動(転換)させ、転換終了時に、トングレール13の状態を照査、確認をしてその状態のまま維持(鎖錠)することである。
【0004】
ポイントの転換には、電気転てつ機、スイッチアジャスタ、エスケープクランク、転てつ減摩器などが使用され、ポイントの鎖錠には、電気転てつ機、フロントロッド、ロックロッド、転てつ鎖錠器などが使用されるが、スイッチアジャスタ以外の機器は、本願発明の構成に直接関係がないのでそれらの説明を省略する。
【0005】
図4において、スイッチアジャスタ16は、転換機(電気転てつ機、エスケープクランクなど)から伝達されるストロークを、ポイントストロークに変え、ポイントを転換し、トングレール13を基本レール12に密着させるためのものである。ポイントストロークをSP、転換機のストロークをSM、スイッチアジャスタの間隙をDとすると、SM=SP+Dの関係があり、その間隙Dの範囲で密着調整ができるようになっている。
【0006】
従来のスイッチアジャスタ16の構成を図5に示す。図5において、スイッチアジャスタ16は、ロッド17と、筒ナット18及びナット19と、これらの締付ナット20a、20bと、腕金具21と、回り止め金具22との組み合わせである。
【0007】
筒ナット18は、締付ナット20aで固定してロッド17のロッドねじ部23にねじ込まれ、転てつ棒(タイバー)14(図4参照)に固定された腕金具21の軸筒24内に差し込まれ、ナット19は、腕金具21の一端から、隙間Dの間隔を置き、締付ナット20bで固定してロッドねじ部23にねじ込まれたものである。
【0008】
回り止め金具22は、対の二又部25間に筒ナット18と、ナット19をそれぞれはさみ、両ナット18、19の自由回転を阻止して腕金具21に取り付けられるものであり、従来の回り止め金具22の二又部25には、断面コ形の鋼板を用い、対の二又部25を一枚のプレート26の両端に溶接し、このプレート26を腕金具21に保持させていた。
【0009】
この回り止め金具22を組立てるに際しては、断面コ形の長尺の鋼板を準備してこれを所定の長さに切り出して2個の二又部25を用意し、両二又部25、25を一定間隔で並べ、両二又部25、25を一枚のプレート26の両端に丸リベット及び溶接(図示略)で一体に固定することによって組立られていた。このように組立てられた回り止め金具22は、腕金具21に固定された突子27をプレート26の板面に開口した小孔28内に挿しこみ、突子27に挿入した割りピン(図示略)によって腕金具21に取り付けられるのである。
【0010】
したがって、回り止め金具22を製作するには、まず、二又部25を得るために、断面コ形の長尺の鋼板部材からの切り出し、二又部25をプレート26に取り付けるに際しては、腕金具21に対する関係位置を正確に定めてリベット止めをしなければならず、その製作には厄介な手数を必要とし、また組立てられた個々の回り止め金具22をそれぞれ比較してみると、必ずしも形状が均一にならず、二又部25の長短やプレート26に対する二又部の取付位置にずれが生じ、場合によっては不良品の発生は避けられなかった。
【0011】
そして、従来のスイッチアジャスタの回り止め金具についての今一つの問題は絶縁の問題である。すなわち、ポイントのトングレールは、そのレールが長手方向の先端側に進出してくる現象(ふく進という)が生じる。トングレールにふく進が生じると、ポイントのトングレールを摺動させるための前記床板15(図3参照)のヒータ部に回り止め金具が接触するという事態が生じるのである。
【0012】
従来の回り止め金具においては、鋼板に錆止め並びに一回の塗装が施されていたものの、電気的な絶縁処理が施されていなかったため、床板のヒータ部に回り止め金具の鋼板が接触すると、回り止め金具を通してレールに電流が流れ、軌道回路が短絡し、信号異常となるおそれがあった。
【非特許文献1】(社)日本鉄道電気技術協会 「転てつ装置」 平成4年5月10日 P9〜P21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
解決しようとする問題点は、従来のスイッチアジャスタに用いられていた回り止め金具は、製作、組立が厄介であり、またトングレールのふく進による軌道回路が短絡の危険があったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるスイッチアジャスタのナットの回り止め金具においては、個々の回り止め金具についての組立の手数をなくして形状を均一化し、また、トングレールのふく進による軌道回路の短絡事故発生のおそれをなくしたことを最大の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるスイッチアジャスタのナットの回り止め金具は、一枚の鋼板から回り止め金具本体形状の切り出し並びに曲げ加工によって、断面コ形の二又部を形成するものであり、二又部は、プレス加工によって予め定められた形状に仕上がるため、回り止め金具の一個一個についてのカバー部の取り付け位置の調整の手数は一切不要となる。また、一体成形のため小型軽量化が可能となる。さらに、製造された回り止め金具の形状は一定のため、製造された全ての回り止め金具について均一に絶縁処理を施すことができ、品質の安定化を図り、トングレールのふく進による軌道回路の短絡防止の安全性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
回り止め金具の形状を均一化し、また、トングレールのふく進に軌道回路の短絡事故を防止するという目的を、一枚の鋼板の打ち抜きならびに曲げ加工により回り止め金具を構成し、トングレールのふく進によって床板のヒータ部に接触するおそれがある二又部の特定の部分を含んで絶縁膜を塗布することによって実現した。
【実施例1】
【0017】
図1(a)は、本発明によるスイッチアジャスタのナットの回り止め金具の斜視図、(b)は(a)のa矢視図、図2(a)は本発明の回り止め金具をスイッチアジャスタの腕金具に取り付けた状態を示す平面図、(b)は同側面図である。図1において、本発明による回り止め金具7は、一枚の鋼板の打ち抜き及び折り曲げ加工により両端に対を成す二又部1,1と、両二又部1,1を連結するプレート部2とを一体に形成したものである。なお、スイッチアジャスタについては、構成上の変更はないので、本発明においても図5と同一の構成部分については、同一の番号を付してその説明を省略する。
【0018】
二又部1は、プレート部2の板面の延長上で板面を同方向に折曲して形成された立上り部分1a、1aの対を有している。両立上り部分1aの対は、その間に、スイッチアジャスタのロッドねじ部にねじ込まれたナットを挟んでその自由回転を阻止する部分であり、プレート部2は、両二又部1,1をつなぎ、腕金具に保持させる部分であり、プレート部2の板面には腕金具の板面中央に突出させた突子をはめ込む小孔3が開口されている。本発明においては、回り止め金具7の少なくとも表面一部に、絶縁コーティングの塗膜4を施したものである。
【0019】
この実施例において、絶縁コーティングの塗膜4は、回り止め金具7の鋼板の全表面に設けているが、実際には、枕木上の床板と向き合う面、特にトングレールのふく進によって床板のヒータ部に接触するおそれがある二又部1の立上り部分1aの正面および底を含む特定の部分に絶縁コーティングの塗膜4を施しておけば十分である。しかし、回り止め金具7の鋼板の全表面に全面に絶縁コーティングの塗膜4を形成することによって、不測の事態に対しても軌道回路の短絡を阻止することができる。
【0020】
すなわち、回り止め金具7の鋼板表面全体にはまず、第1層として錆止め塗装5を施し、その上に、第2層として錆止め塗装5の面を覆って絶縁コーティングの塗膜4を塗装し、その上にさらに第3層として表面塗装6を施している。なお、表面塗装6は暗色でよいが、絶縁コーティングの塗膜4には、表面塗装6の色彩とは明らかに異なる色彩の塗料、例えば表面塗装6を黒色としたときに、絶縁コーティングの塗膜4には白色のような目立つ色彩の塗料を用いる。また、絶縁コーティングの塗膜4の厚みは、多少の衝撃を受けてもはがれない程度の厚みを確保しておくことが必要である。この実施例においては、粉体塗装による絶縁コーティングの塗膜4を70μmの厚さに形成した。
【0021】
図2において、回り止め金具のプレート部2の下面を、腕金具21の軸筒24の上面にあてがい、ロッドねじ部23にねじ込まれたナット(ナット19、筒ナット18及び締付ナット20a、20b)を両端の二又部1の両立上り部分1a、1a間に挟み、プレート部2の板面中央の小孔3内に腕金具21の突子27を挿し込み、プレート部2の板面上に突出する突子27の軸端に割りピンP(図5では図示略)を挿し込んで、その脱落を防止する。
【0022】
本発明において、二又部1は、プレート部2の鋼板の両端延長上で互いに向き合わせに折曲した立上り部分1a、1aによって構成され、二又部1と、プレート部2とは一枚の鋼板の折り曲げによって形成するため、両者間には段差がなく、二又部1,1は、両者の中心線を通ってプレート部2につながれ、プレート部2は、腕金具21の軸筒24上に支えられる。
【0023】
このため、二又部1は、プレート部2と同じ高さに支えられ、二又部1,1間に挟まれたナット18、20a及びナット19、20bの上方には十分な空間が確保され、ポイント転換時にスイッチアジャスタ16がスライドしても、各ナットは、二又部に接触しないため、スイッチアジャスタや回り止め金具の磨耗、損傷を防ぐことができる。
【0024】
本発明の回り止め金具においては、両端の二又部1の両立上り部分1a、1a間でそれぞれ筒ナット18、ナット19及び締付ナット20a、20bを挟み、その自由回転を阻止する。また、トングレールのふく進により、万一回り止め金具が床板のヒータ部に接触したときでも、回り止め金具に施した絶縁コーティングの塗膜4によって絶縁性は確保され、軌道回路の短絡は防止される。
【0025】
しかも、衝突によって表面塗装6の暗色の塗膜が剥離したときには、白色に着色した絶縁コーティングの塗膜4が表面に露出するため、絶縁コーティングの塗膜4に白色の塗料を使用したときには、絶縁コーティングの塗膜4に白色が表面に現れて回り止め金具7が床板のヒータ部に衝突したことが、直ちに判別できる。
【0026】
なお、絶縁コーティングの塗膜4には、一定以上の厚み、粉体塗装によるときには70μm以上の膜厚を確保しておくことによって、回り止め金具7が床板のヒータ部などに衝突しても絶縁コーティングの塗膜4がはがれて鋼板が表面に露出することはない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
スイッチアジャスタのナットの回り止め金具の形状を均一化し、併せてトングレールのふく進による軌道回路の短絡事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は、本発明によるスイッチアジャスタのナットの回り止め金具の一実施例を示す斜視図、(b)は(a)のa矢視図である。
【図2】(a)は、本発明による回り止め金具をスイッチアジャスタの腕金具に取り付けた状態を示す平面図、(b)は同側面図である。
【図3】ポイントの構成を示す図である。
【図4】スイッチアジャスタによる基本レールとトングレールとの密着調整の要領を示す図である。
【図5】スイッチアジャスタの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 二又部
1a 立上り部分
2 プレート部
3 小孔
4 絶縁コーティングの塗膜
5 錆止め塗装
6 表面塗装
7 回り止め金具
12 基本レール
13 トングレール
14 転てつ棒
15 床板
16 スイッチアジャスタ
17 ロッド
18 筒ナット
19 ナット
20a、20b 締付ナット
21 腕金具
23 ロッドねじ部
24 軸筒
27 突子
P 割りピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央にプレート部を、その両端に二又部を有するスイッチアジャスタのナットの回り止め金具であって、
プレート部および二又部は、一枚の鋼板の打ち抜き及び折り曲げ加工により一体に形成されたものであり、
プレート部は、両二又部をつなぎ、スイッチアジャスタの腕金具に保持させる部分であり、
二又部は、プレート部分の板面の延長上で板面を同方向に折曲して形成された立上り部分の対を有し、
両立上り部分の対は、その間にスイッチアジャスタのロッドねじ部にねじ込まれたナットを挟んでその自由回転を阻止する部分であり、
枕木上の床板と向き合う面、少なくともトングレールのふく進によって床板のヒータ部に接触するおそれがある二又部の部分を含んで絶縁コーティングの塗膜が施されていることを特徴とするスイッチアジャスタのナットの回り止め金具。
【請求項2】
回り止め金具の鋼板表面全体には、第1層として錆止め塗装が施され、第2層として、二又部の正面立上り部分を含めて回り止め金具の鋼板表面の錆止め塗装の全面には、粉体塗装による絶縁コーティングの塗膜が塗装され、その上の表面全面には、第3層として表面塗装が施されたものであり、
絶縁コーティングの塗膜には、表面塗装の色彩とは明らかに異なる色彩の塗料が用いられ、表面塗装が剥離したときに、絶縁コーティングの塗膜の色彩を表面に露出させてその色の違いから回り止め金具が床板のヒータ部に衝突したことを表示するようになっているものであることを特徴とする請求項1に記載のスイッチアジャスタのナットの回り止め金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−215727(P2009−215727A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57927(P2008−57927)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000144348)株式会社三工社 (48)
【Fターム(参考)】