説明

スカムの発生抑制方法

【課題】河川におけるスカムの発生を抑制する。
【解決手段】粒子径が0.75mm以下の、分散状態にある硬焼酸化マグネシウム粉末を含むスカム発生抑制剤を河川に散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川のスカムの発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や下水処理施設の普及により、河川への屎尿の流入量は年々減少している。しかし、現在でも降雨時には雨水吐から、多量の屎尿が河川に流入することがある。河川に流入した屎尿は、河水の流速が緩やかな場所で沈降し、底部に堆積して極めて軟弱な汚泥を形成する。そして、汚泥中の硫酸塩還元菌やメタン生成菌などの嫌気性細菌の活動が、春から秋にかけて河川の水温の上昇と共に活発化すると、汚泥中から硫化水素ガスやメタンガスなどのガスが発生し、これらのガスと共に汚泥の一部がスカム(浮遊汚泥)として水面に浮上して、河川周辺地域への悪臭の原因となる。
【0003】
汚泥が堆積している河川の底質を改善する方法として、河川に酸化マグネシウム粉末や水酸化マグネシウム粉末などの苦土系粉粒体を主成分とする粒状物を散布して、河川の底質を弱アルカリ性に改質する方法が知られている。河川の底質を弱アルカリ性に改質すると、嫌気性細菌の活動が抑制され、好気性細菌の活動が活発になり、汚泥の分解が促進するという効果がある。
【0004】
特許文献1には、河川などの閉鎖性水域用の底質改善剤として、粒子径が5〜100μmで、比重が2.2g/cm3以下の苦土系粉粒体から形成された水中にて投入後自己崩壊する粒状物からなる底質改善剤が開示されている。この特許文献1によれば、上記の底質改善剤は、水中に投入後自己崩壊し、分散して、溶解することによって、河川などの閉鎖性水域の底質を弱アルカリ性に維持するとされている。
【0005】
特許文献2には、同じく河川などの閉鎖性水域用の底質改善剤として、1000℃以上の温度で加熱し、焼結させた合成焼結マグネシアクリンカーからなる難崩壊性の底質改善剤が開示されている。この特許文献2では、底質改善剤は、1mm以上の大きさであることが好ましいとされており、その理由として、粒子径が大きい方が沈みやすく、また底質がヘドロ状の場合にはヘドロ内部に埋没しやすいため底質の改善効果が向上する旨の記載がある。
【特許文献1】特開平8−19774号公報
【特許文献2】特開平9−187775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1や特許文献2に開示されている苦土系粉粒体の粒状物は、河川などの閉鎖性水域の底質を弱アルカリ性に改質するための改善剤として有用である。
しかしながら、本発明者の検討によると、苦土系粉粒体の粒状物からなる従来の底質改善剤を河川に散布しても、スカムの発生を抑制することは難しいことが判明した。これは、スカムが発生するような軟弱な汚泥が堆積している河川では、苦土系粉粒体の粒状物の大部分が汚泥の下部にまで速やかに沈降して、汚泥の下部は弱アルカリ性に改質されるが、汚泥の上部は弱アルカリ性に改質されずに嫌気性細菌の活動が継続するためであると考えられる。
従って、本発明の目的は、屎尿が軟弱な汚泥として堆積しているような河川において、スカムの発生を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粒子径が0.75mm以下の、分散状態にある硬焼酸化マグネシウム粉末を含むスカム発生抑制剤にある。ここで、粒子径が0.75mm以下であるとは、硬焼酸化マグネシウム粉末が目開き0.75mmの篩を全通することをいう。
【0008】
本発明のスカム発生抑制剤の好ましい態様は、次の通りである。
(1)硬焼酸化マグネシウム粉末の平均粒子径が、0.03〜0.5mmの範囲にある。
(2)硬焼酸化マグネシウム粉末の嵩密度が、3.1g/cm3以上である。
【0009】
本発明はさらに、上記本発明のスカム発生抑制剤を、河川表面1m2あたり0.1〜10kgの範囲の量にて散布することからなる河川のスカム発生抑制方法にもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスカム発生抑制剤を、屎尿が軟弱な汚泥として堆積している河川に散布することによって、スカムの発生を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のスカム発生抑制剤は、硬焼酸化マグネシウム粉末からなる。硬焼酸化マグネシウム粉末は、マグネサイト粉末又は水酸化マグネシウム粉末などのマグネシウム源粉末を1600℃以上の温度で焼成することにより生成する酸化マグネシウム粉末である。この硬焼酸化マグネシウム粉末は、軽焼酸化マグネシウム粉末(焼成温度:800〜900℃)と比較して、反応性が低く、嵩密度が大きいという特性がある。本発明にて使用する硬焼酸化マグネシウム粉末は、嵩密度が通常は3.1g/cm3以上であり、好ましくは3.2〜3.6g/cm3の範囲にある。
【0012】
本発明にて使用する硬焼酸化マグネシウム粉末は、粒子径が0.75mm以下の微粉末である。硬焼酸化マグネシウム粉末の平均粒子径は、0.03〜0.5mmの範囲にあることが好ましい。本発明では、この硬焼酸化マグネシウム粉末を分散状態、すなわち粒状物を成形していない粉末の状態で使用する。但し、本発明のスカム発生抑制剤は、30質量%以内であれば、粒子径が0.75mmより大きい粒子が含まれていてもよい。
【0013】
本発明にて使用する硬焼酸化マグネシウム粉末は、純度が95質量%以上であることが好ましく、96〜99質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0014】
本発明においてスカム発生抑制剤として使用する硬焼酸化マグネシウム粉末は、マグネサイト粉末又は水酸化マグネシウム粉末などのマグネシウム源粉末を1600℃以上の温度、好ましくは1700〜2100℃の温度で焼成することによって生成する硬焼酸化マグネシウム粉末を篩などの公知の分級装置を用いて分級することによって製造することができる。マグネシウム源粉末としては、海水に石灰乳などのアルカリを投入して調製した水酸化マグネシウムスラリーを洗浄、ろ過、乾燥する方法(海水法)によって得られる水酸化マグネシウム粉末を用いることが好ましい。マグネシウム源粉末を焼成して硬焼酸化マグネシウム粉末とするに際しては、生成する硬焼酸化マグネシウム粉末が過度に粗大な焼結体を形成しないように、予めマグネシウム源粉末を1〜20mmの粒状物に成形して焼成することが好ましい。
【0015】
本発明においてスカム発生抑制剤として使用する硬焼酸化マグネシウム粉末は、水との反応性が低く、かつ粒子径が小さい。このため、本発明のスカム発生抑制剤は、河川に散布すると、凝集粒子を殆ど形成しないで、均一に分散した状態で河川底部の汚泥の表層部にまで沈降する。汚泥の表層部に到達したスカム発生抑制剤は、汚泥を少しずつ弱アルカリ性に改質しながら緩やかに汚泥の内部を沈降して、汚泥全体を弱アルカリ性に改質する。すなわち、汚泥全体が弱アルカリ性に改質されることによって、汚泥全体において嫌気性細菌の活動が抑制され、硫化水素ガスやメタンガスなどのガスの発生量が低減し、これによりスカムの発生が抑制されると考えられる。また、嫌気性細菌の活動が抑制されることによって、好気性細菌の活動が活発になって汚泥の分解が促進するなど、河川全体の浄化が進行する。
【0016】
本発明のスカム発生抑制剤を河川に散布するに際しては、スカム発生抑制剤の散布量は河川表面1m2あたりの量として、0.1〜10kgの範囲にあることが好ましく、1〜5kgの範囲にあることが特に好ましい。
【0017】
スカム発生抑制剤の河川への散布方法としては、スカム発生抑制剤を粉末状態のまま投入する方法、及びスカム発生抑制剤を水に分散させてスラリー状態として投入する方法のいずれの方法をも採用することができる。
【0018】
本発明のスカム発生抑制剤を河川に散布するに際しては、苦土系粉粒体の粒状物などからなる公知の底質改善剤を併用してもよい。苦土系粉粒体の粒状物は、本発明のスカム発生抑制剤と比較して、汚泥中の沈降速度が速く、汚泥の下部を速やかに弱アルカリ性に改質するため、本発明のスカム発生抑制剤と併用することによって、汚泥全体を弱アルカリ性に改質するまでの時間を短縮化できるという利点がある。本発明のスカム発生抑制剤と共に使用する苦土系粉粒体の粒状物は、粒子径が1〜50mmの範囲にあることが好ましい。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
常法に従って、海水に石灰乳を投入して水酸化マグネシウムスラリーを調製し、得られたスラリーを洗浄、ろ過、乾燥して、酸化マグネシウム換算純度が95.0質量%以上の水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、加圧成形して粒子径が5〜10mmの粒状物としたのち、ロータリキルンを用いて、1800℃の温度で焼成して、酸化マグネシウムの粒状焼成物(クリンカー)を得た。得られた酸化マグネシウムクリンカーを目開き0.75mmの篩を用いて分級して、篩下として、下記表1の性状の分散状態の硬焼酸化マグネシウム粉末を得た。なお、下記表1の平均粒子径は、目開きが1.00mm、0.50mm、0.30mm、0.15mm、0.075mm及び0.045mmの篩を用いて、篩分け法により測定した粒度分布から作成した篩上積算分布曲線にて積算篩上が50質量%を示す粒子径である。
【0020】
表1
────────────────────────────────────
化学成分 質量%
MgO 97.73
CaO 0.67
SiO2 0.86
Fe23 0.11
Al23 0.10
23 0.53
────────────────────────────────────
平均粒子径 0.06mm
────────────────────────────────────
嵩密度 3.23g/cm3
────────────────────────────────────
【0021】
スカムの発生が見られる河川の底部から採取した汚泥を、容量450mLの透明プラスチック製容器(高さ:128mm、直径70mm)に、高さ40mmとなるように敷き詰めた。次いで、水を汚泥が舞い上がらないようにしながら、水深が75mmとなるように静かに注入した。
【0022】
静置により汚泥が安定した後、上記の硬焼酸化マグネシウム粉末10gを投入した。硬焼酸化マグネシウム粉末は水中に均一に分散しながら沈降した。汚泥の表面に到達した硬焼酸化マグネシウム粉末は、汚泥中に埋没し、汚泥表面には堆積しなかった。
【0023】
透明プラスチック製容器に蓋をして静置し、汚泥の経時変化を目視で観察した。図1に汚泥の経時変化を写真で示し、表2に目視観察の結果を示す。なお、実施例1は2007年2月17日に開始した。
【0024】
[比較例1]
実施例1と同様にして、透明プラスチック製容器に汚泥と水とを入れた。その後、硬焼酸化マグネシウム粉末を加えることなく、透明プラスチック製容器に蓋をして静置し、汚泥の経時変化を目視で観察した。図1に汚泥の経時変化を写真で示し、表2に目視観察の結果を示す。なお、比較例1は、実施例1と同じく2007年2月17日に開始した。
【0025】
表2
────────────────────────────────────────
実施例1 比較例1
────────────────────────────────────────
13日目 目立った変化は現れなかった。 汚泥の表面が部分的に隆起した。
(3月2日)
────────────────────────────────────────
15日目 同上。 スカムが発生した。
(3月4日)
────────────────────────────────────────
17日目 同上。 汚泥の表面の隆起部分が増加した。
(3月6日)
────────────────────────────────────────
19日目 同上。 汚泥の表面の隆起部分がさらに増加し
(3月8日) た。
────────────────────────────────────────
27日目 汚泥の表面に緑藻が発生した。 スカムが沈み始めた。
(3月16日)
────────────────────────────────────────
28日目 同上。 スカムが完全に沈降した。
(3月27日)
────────────────────────────────────────
【0026】
図1及び表2に示した目視観察の結果から、硬焼酸化マグネシウム粉末を散布した汚泥(実施例1)では、試験開始から28日を経過してもスカムの発生は見られず、硬焼酸化マグネシウム粉末がスカムの発生抑制剤として作用していることが分かる。また、硬焼酸化マグネシウム粉末を投入した汚泥では、汚泥の表面に緑藻が発生していることから、汚泥中の嫌気性細菌の活性も抑制されていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1及び比較例1の汚泥の経時変化を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が0.75mm以下の、分散状態にある硬焼酸化マグネシウム粉末を含むスカム発生抑制剤。
【請求項2】
硬焼酸化マグネシウム粉末の平均粒子径が、0.03〜0.5mmの範囲にある請求項1に記載のスカム発生抑制剤。
【請求項3】
硬焼酸化マグネシウム粉末の嵩密度が、3.1g/cm3以上である請求項1に記載のスカム発生抑制剤。
【請求項4】
請求項1に記載のスカム発生抑制剤を、河川表面1m2あたり0.1〜10kgの範囲の量にて散布することからなる河川のスカム発生抑制方法。

【図1】
image rotate