説明

スクロール形流体機械

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主に空調機や冷凍機の冷媒圧縮機として用いられるスクロール形流体機械に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、一対のスクロールの渦巻体間に画成する流体作動室に液冷媒が寝込んだ状態で起動したり、過渡運転時に液冷媒が多量に流体作動室に戻ってきた場合など、流体作動室内に非圧縮性流体である液体が満たされた状態で運転すると、内部圧力が異常上昇し、渦巻体の破損や過負荷によるモータ損傷を招くことから、特公平2−2477号や特開平4−255586号等で知られているのように、一対のスクロールの渦巻体端面にチップシールは介装せず、これらスクロール間を軸方向に移動可能に支持し、常時は一方のスクロールに背圧を与えて他方側に付勢し、液圧縮による異常圧力上昇時には、スクロール間を軸方向に変位させて渦巻体の端面部に微少な隙間を空け、異常圧力を逃がし得る構造にしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、以上のものでは、液圧縮時、渦巻体の端面に微少な隙間を空けるものであるから、ある程度の異常圧力を逃がすことはできるが、流体作動室に液体が多量に満たされた場合、異常圧力上昇は回避困難である。これを解消すべく、渦巻体の端面に確保する圧逃がし用の隙間を大きくとると、正常時の、すなわち、流体作動室にガスが満たされた状態で起動したとき、ガス圧縮動作が阻害され、圧縮作用をせずに空回りになる問題がある。従って、液圧縮を回避しつつ、良好なガス圧縮動作を確保する逃げ隙間を設定することは実際には不可能であり、液冷媒を回収する大形のサクションアキュムレータを必要としたり、必要冷媒量に至らない少ない冷媒量しか充填できない弊害が生じていた。
【0004】本発明の主目的は、流体作動室内に溜る液体の速やかな排出を可能にして液圧縮を回避しつつ、ガス圧縮動作をも良好ならして高効率が得られるスクロール形流体機械を提供する点にある。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、一回転中常時、液体の連続的な排出を可能にして、上記主目的を効果的に達成するため、図1に示すように、各渦巻体の端面にチップシール3,4を介装した第1および第2スクロール1,2を備え、これらスクロール1,2の少なくとも一方を他方に付勢する付勢手段5を設け、渦巻外方側の低圧ポート6と渦巻中心側の高圧ポート7との間で作動流体を給排するスクロール形流体機械において、図2又は図3に示すように、各チップシール3,4の介装範囲(図中黒塗りした部分)を、次の関係、すなわち、第1および第2スクロール(1,2)の渦巻体間に画成される中間作動室(M)は、低圧側のチップシール非介装範囲内にある渦巻体の端面を横切って低圧ポート(6)へ連通する状態が遮断された直後に、高圧側のチップシール非介装範囲内にある渦巻体の端面を横切って高圧ポート(7)のみに連通する関係となるように、設定した。
【0006】請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、その具体化のための一般式を提供するものであって、図2に示すように、一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のa,b,cの関係式が成立するものとした。
β1−α2=3π ・・・・a β2−α1=3π ・・・・b 2π≦β1−α1≦3π(但し、α1,β1は介装範囲角度が小さい方のチップシール)・・・・c請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、製作性を向上すると共にスクロール間に画成する対称な2系統の流体作動室の負荷バランスをも良くするため、図3に示すように、各チップシール3,4は、ともに渦巻体に沿う巻角で3π[rad]にわたり介装され、これらチップシール3,4の巻角範囲をほぼ一致させている構成にした。
【0007】請求項4記載の発明は、一回転中一時的ではあるが液体の強制的な排出を可能にして、上記主目的を達成するため、図4又は図10に示すように、各渦巻体の端面にチップシール3,4を介装した第1および第2スクロール1,2を備え、これらスクロール1,2の少なくとも一方を他方に付勢する付勢手段5を設け、渦巻外方側の低圧ポート6と渦巻中心側の高圧ポート7との間で作動流体を給排するスクロール形流体機械において、図5〜図9に示すように、各チップシール3,4の介装範囲(図中黒塗りした部分)を、チップシール介装範囲内の渦巻体間に、チップシール非介装範囲内の渦巻体の端面を横切った低圧ポート6への連通が遮断された状態で、高圧ポート7を内方に見込む中心側単一閉領域Hを画成する関係に設定していると共に、図4又は図10R>0に示すように、流体機械内部に、作動流体の逆流阻止機構8を設けている構成にした。
【0008】請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、その具体化のための一つの関係式を提供するものであって、図5又は図6に示すように、一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のd,e,f,gの関係式が成立するものとした。
β1−α2≧π ・・・・dβ2−α1≧π ・・・・eβ1−α1≧π ・・・・fπ≦β2−α2≦2π・・・・g請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、可動スクロールを固定スクロールに押付ける構造の採用時、可動スクロールの渦巻体端面の初期隙間を固定スクロール側よりも大きく設定することが多い実情に鑑み、可動スクロール先端側でのガス漏れを極小化するため、図5に示すように、第1スクロール1は可動スクロールを構成し、且つ、第2スクロール2は固定スクロールを構成し、付勢手段5は可動側の第1スクロール1を固定側の第2スクロール2に付勢する構成としており、可動側の第1スクロール1のチップシールを、渦巻体のほぼ全域に設けている構成にした。
【0009】請求項7記載の発明は、請求項5記載の発明において、液体の排出機能に必要最小のチップシール長さに近付け、低コスト化を図るため、図6に示すように、各チップシール3,4は、ともに渦巻体に沿う巻角で2π[rad]以下の長さにしている構成にした。
【0010】請求項8記載の発明は、請求項4記載の発明において、その具体化のために、請求項5とは異なる別の関係式を提供するものであって、図7に示すように、一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のh,i,j,kの関係式が成立するものとした。
β1−α2≦3π ・・・・hβ2−α1≦3π ・・・・i2π≦β1−α1≦3π・・・・jβ2−α2≧2π・・・・k請求項9記載の発明は、請求項4記載の発明において、その具体化のために、請求項5,8とは異なる別の関係式を提供するものであって、図8に示すように、一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のl,m,nの関係式が成立するものとした。
β1−α2=π ・・・・lβ1−α1≧2π・・・・mβ2−α2≧2π・・・・n請求項10記載の発明は、請求項4記載の発明において、製作性を向上すると共にスクロール間に画成する対称な2系統の流体作動室の負荷バランスをも良くするため、図9に示すように、各チップシール3,4は、ともに渦巻体に沿う巻角でπ[rad]〜3π[rad]にわたり介装され、これらチップシール3,4の巻角範囲をほぼ一致させている構成にした。
【0011】請求項11記載の発明は、請求項1〜請求項10何れか一記載の発明において、液体の排出動作からガス圧縮動作への移行を円滑に行わせるため、図1又は図4に示すように、付勢手段5は、スクロールの裏面に区画形成する背圧室50に高圧側作動流体を導く機構から成る構成とした。
【0012】請求項12記載の発明は、請求項1〜請求項10何れか一記載の発明において、スクロールの摺動部の潤滑を円滑に行うため、付勢手段5は、スクロールの裏面に区画形成する背圧室50に高圧の潤滑油を導く機構から成る構成にした。
【0013】請求項13記載の発明は、請求項11記載の発明において、更に、スクロールの摺動部の潤滑を円滑に行うため、図1又は図4に示すように、背圧室50に高圧の潤滑油を併せて導くこととした。
【0014】請求項14記載の発明は、請求項11〜請求項13何れか一記載の発明において、高圧と低圧とのシールを確実にするため、図1又は図4に示すように、背圧室50に臨むスクロールの裏面に、バネ55による付勢力を加算させている構成にした。
【0015】請求項15記載の発明は、請求項4〜請求項10何れか一記載の発明において、逆流阻止機構8を簡易に形成するため、該逆流阻止機構8は、高圧ポート7の下流に配設する吐出弁であるものとした。
【0016】
【発明の作用効果】請求項1記載の発明では、図2又は図3に示すように、図中斜線を施した中間作動室Mは、チップシール非介装範囲内の渦巻体の端面を幅方向に横切った低圧ポート6への連通が遮断された直後に、すなわち図2のものでは回転角が90゜を越えたとき並びに回転角が180゜を越えたとき、図3のものでは、回転角が90゜を越えたときに、チップシール非介装範囲内の渦巻体の端面を幅方向に横切って高圧ポート7のみに連通する(低圧ポート6の連通はない)。このため、中間作動室M内の液体は圧縮されることなく、高圧ポート7に強制的に排出されることになる。スクロール1,2の渦巻体間には、その外周部から中心部にかけて複数の流体作動室が形成されているから、結局、図中、点を打った中心側領域で常時液体の排出が行われることになる。このため、液体の速やかな排出が可能となり、液圧縮を速やかに回避できる。一方、ガス圧縮の初期時にも、中間作動室Mが低圧ポート6に対して遮断された後は、チップシール3,4の介在により低圧ポート6にガスが漏れることはなく、高圧ポートへのガスの排出が可能であり、このガス排出により圧力の上昇を促すことができるため、正常な定常運転への立ち上げもスムーズに行える。そして、定常時には、付勢手段5により、スクロール1,2は互いに密着されるため、低圧ポート6から高圧ポート7にかけて全域にわたり、ガスの圧縮が行える。このため、ガス圧縮動作をも良好にできて、高効率の運転が確保できる。
【0017】請求項2記載の発明では、図2に示すように、スクロール1,2の渦巻体間に画成される2系統の流体作動室のうち、チップシール3,4の介装部分のものが低圧ポート6に対し遮断されて閉じた室になるタイミングが系統間でずれていても、すなわち、図2のものでは、一方の系統の中間作動室Mは回転角が90゜に達したときに、他方の系統の中間作動室Mは回転角が180゜に達したときに、それぞれチップシール3,4により低圧ポート6に遮断されることになるが、上記関係式a,b,cを全て満足しているから、何れの中間作動室Mもその容積が縮小されようとしたときには高圧ポート7に連通し、内部に閉じ込めた液体は圧縮されることはなく、高圧ポート7へ排出される。従って、上記関係式a,b,cを全て満足する限りにおいて、所期の目的を達成することができる。
【0018】請求項3記載の発明では、図3に示すように、各チップシール3,4の形状がほぼ同一になり、これを介装するスクロール1,2の介装部分の形状もほぼ同一となるため、製作性を向上することができる。又、2系統の中間作動室M,Mは何れも同時にチップシール3,4によって低圧ポート6に対し遮断され(回転角が90゜のとき)、その直後(回転角が90゜を越えたとき)に高圧ポート7に連通することになるため、対称な2系統の流体作動室の負荷バランスを良くすることができる。
【0019】請求項4記載の発明では、図5〜図9に示すように、図中斜線を施した中心側単一閉領域Hは、チップシール非介装範囲内の渦巻体の端面を幅方向に横切った低圧ポート6への連通が遮断された状態で、即ち、図5では180゜、図6では90゜、図7では0゜,90゜,270゜、図8では270゜、図9では0゜,90゜,180゜の時、高圧ポート7を内方に見込む単一で且つ閉じた領域となるため、この領域H内の液体を高圧ポート7に排出することができる。この中心側単一閉領域Hは、一回転中、特定の回転角あるいは特定の回転角範囲にあるときに形成され、他の回転角のときには、流体作動室の中心側領域と外周側領域とは、チップシール非介装範囲内の渦巻体の端面を幅方向に横切って連通し、高圧ポート7と低圧ポート6とが連通することになるが、一旦、中心側単一閉領域Hが形成されて、この領域Hから高圧ポート7に液体が排出されると、逆流阻止機構8により、この排出された液体の逆流は阻止されるため、強制的な液体の排出が確保される。こうして、一回転中一時的ではあるが液体の強制的な排出が可能となり、液圧縮を速やかに回避できる。一方、ガス圧縮の初期時にも、中心側単一閉領域Hが形成されたとき、チップシール3,4の介在により低圧ポート6にガスが漏れることはなく、高圧ポート7へのガスの排出が可能であり、このガス排出により圧力の上昇を促すことができるため、正常な定常運転への立ち上げもスムーズに行える。そして、定常時には、付勢手段5により、スクロール1,2は互いに密着されるため、低圧ポート6から高圧ポート7にかけて全域にわたり、ガスの圧縮が行える。このため、ガス圧縮動作をも良好にできて、高効率の運転が確保できる。
【0020】請求項5記載の発明では、図5又は図6に示すように、中心側単一閉領域Hは特定の回転角のときに一瞬だけあるいはある狭い回転範囲に対応する時だけ形成されるのみであるが、逆流阻止機構8により、少量ずつではあるが、確実に流体を排出してゆく。こうして、上記関係式d,e,f,gを全て満足する限りにおいて、所期の目的を達成することができる。
【0021】請求項6記載の発明では、図5に示すように、可動側の第1スクロール1の渦巻体のほぼ全域にチップシールを設けているため、可動側の第1スクロール1を固定側の第2スクロール2に付勢する構成とし、可動側の第1スクロール1の渦巻体端面の初期隙間を固定側の第2スクロール2側よりも大きく設定することとした場合にも、通常ガス圧縮運転時において可動側の第1スクロール1の渦巻先端側でのガス漏れを極小化することができる。
【0022】請求項7記載の発明では、図6に示すように、各チップシール3,4は、ともに渦巻体に沿う巻角で2π[rad]以下の長さであるから、液体の排出機能に必要最小のチップシール長さに近くすることができ、それだけ低コスト化を図ることができる。
【0023】請求項8記載の発明では、図7に示すように、中心側単一閉領域Hは一回転中に一瞬だけではなくある回転角の範囲内において形成される。図7のものでは、0゜〜90゜,270゜〜0゜の範囲、つまり、270゜〜90゜の180゜の回転角範囲内において形成されることになる。この中心側単一閉領域Hが形成されているときには、この領域Hは高圧ポート7に連通しているから、液圧縮することなく、その領域内の容積縮小により液体を積極的に押出して排出することができる。こうして、上記関係式h,i,j,kを全て満足する限りにおいて、良好に所期の目的を達成することができる。
【0024】請求項9記載の発明では、図8に示すように、ある特定の回転角のとき、図8のものでは90゜のときに中間の流体作動室mが一瞬だけ閉鎖領域になることがあるが、その次の瞬間にはその閉鎖が破られ、低圧ポート6側にも連通するから液圧縮することはなく、他の特定の回転角(図示のものでは270゜)のときに、中心側単一閉領域Hが形成されて、液体の排出が可能になる。こうして、上記関係式l,m,nを全て満足する限りにおいて、良好に所期の目的を達成することができる。
【0025】請求項10記載の発明では、図9に示すように、各チップシール3,4の形状がほぼ同一になり、これを介装するスクロール1,2の介装部分の形状もほぼ同一となるため、製作性を向上することができる。又、中心側単一閉領域Hは、一回転中に、0゜〜90゜,90゜〜180゜の範囲、つまり、0゜〜180゜の回転角範囲内において形成され、容積縮小による積極的な液体の排出が可能になると共に、この中心側単一閉領域Hは、回転角の変化に対して常に中心に対し点対称なの関係に形成されるため、対称な2系統の流体作動室の負荷バランスを良くすることができる。
【0026】請求項11記載の発明では、図1又は図4に示すように、付勢手段5は、スクロールの裏面に区画形成する背圧室50に高圧側作動流体を導く機構としているから、液体の排出中は、高圧側作動流体の圧力上昇も遅く、スクロール1,2間を軸方向に離反させて、液圧縮を回避した状態で効果的に液の排出が行えると共に、ガス圧縮動作に移行したときには、高圧側作動流体の圧力上昇に伴い背圧室50からの付勢力を増すことができ、スクロール1,2間の軸方向隙間を小さくして良好なガス圧縮動作が確保される。このため、液圧縮の回避動作から定常運転への移行を円滑に行わせることができる。
【0027】請求項12記載の発明では、上記請求項11の高圧側作動流体に代えて高圧の潤滑油を背圧室50に導くこととしているため、スクロール裏面の摺動部の潤滑をも円滑に行うことができる。
【0028】請求項13記載の発明では、背圧室50に高圧側作動流体を導く請求項11記載の発明において、更に、背圧室50に高圧の潤滑油を併せて導くこととしているため、スクロール裏面の摺動部の潤滑をも円滑に行うことができる。
【0029】請求項14記載の発明では、請求項11〜請求項13何れか一記載の発明において、図1又は図4に示すように、背圧室50に臨むスクロールの裏面に、バネ55による付勢力を加算させているから、このバネ55により、ガス圧縮動作に移行した初期時において、スクロール1,2間の軸方向隙間を小さくする予圧力を付与でき、ガス圧縮動作への移行をスムーズにできると共に、定常運転時、スクロール1,2間の付勢力を増すことができ、流体作動室内の機密性を高めることができるため、高圧側と低圧側との漏れを少なくでき、そのシール性を確実にすることができる。
【0030】請求項15記載の発明では、請求項4〜請求項10何れか一記載の発明において、逆流阻止機構8は、高圧ポート7の下流に配設する吐出弁と兼用しているから、それだけ構成を簡易化することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】図1に示すスクロール形流体機械は、冷凍機や空調機の冷媒圧縮機に用いるものであって、密閉ケーシング9の内部上部に、ハウジング90を介して、各鏡板11,21にインボリュート曲線に合致する渦巻体12,22を突設した第1及び第2スクロール1,2を配設している。各渦巻体12,22の端面には、渦巻に沿う凹溝30,40を設けており、各凹溝30,40に、軸方向に移動自由としたチップシール3,4を介装している。第1スクロール1は、内蔵モータで駆動するクランク軸91の偏心孔92に中心部ボス筒13を嵌合し、可動スクロールを構成している。第2スクロール2は、ハウジング90にボルト等で固定し、固定スクロールを構成している。第2スクロール2の外周部には、低圧側作動流体たる吸入ガスを導く吸入管93に通じる低圧ポート6を、第1スクロールの中心部には、圧縮後の高圧側作動流体たる吐出ガスをケーシング9の下部空間94に排出する高圧ポート7を各々設けている。第2スクロール2の中心部には、吐出座ぐり部70を設けている。
【0032】可動側の第1スクロール1の背面には、リング部材51の内方に背圧室50を区画形成しており、この背圧室50からの押圧力により、第1スクロール1を第2スクロール2に付勢する付勢手段5を構成している。背圧室50には、連通孔95,96を介して、下部空間94の吐出ガス及び主軸受97に供給後の高圧潤滑油を導くと共に、ボス部軸受98からにじみ出る高圧潤滑油を導いている。更に、リング部材51の背面には板バネ等のバネ55を介装している。
【0033】尚、図1中、99は吐出管、100は低圧側上部空間、101は第1スクロールの自転防止機構を構成するオルダムリングである。
【0034】以上の構成で、各チップシール3,4の介装範囲を、表1並びに図2又は図3に示すようにした。尚、巻角とは、各スクロール1,2の渦巻体12,22を構成するインボリュートの基礎円の伸開角を意味する。図中、黒色帯で示した範囲がチップシール3,4の介装範囲となるが、実際のチップシール3,4は、上述した通り、渦巻体12,22の端面に設けた凹溝30,40の内部に介装されるのであり、チップシール3,4の幅は、黒色帯の幅よりも短い。
【0035】
【表1】


【0036】図4に示すものは、固定側の第2スクロール2の外周壁に吸入管93を直結すると共に、第2スクロール2の中心部に高圧ポート7を開口し、高圧側上部空間102と下部空間94とを高圧連通孔103で連結する一方、リング体51の外周部低圧室104と低圧ポート6とを低圧連通孔105で連結している。更に、高圧ポート7には、逆流阻止機構8を構成する板状逆止弁を介装している。尚、この逆流阻止機構8は、常時閉側に弾性的に付勢するカンチレバー式弁やポペット式弁等の通常の吐出弁で兼用させてもよい。こうして、図4に対応する実施形態として、各チップシール3,4の介装範囲を、表2並びに図5〜図9に示すようにした。
【0037】
【表2】


【0038】ところで、逆流阻止機構8は、高圧ポート7に設ける他、図10に示すように低圧ポート6に設けて、該低圧ポート6側からの吸引による逆流を阻止するようにしてもよい。すなわち、吸入管93の開口部に板弁式の逆止弁81とこれを常時閉側に付勢するコイルバネから成る付勢体82とで逆流阻止機構8を構成している。尚、付勢体82の受体83には、ガス圧縮時に吸入ガスを導く通路84を開口している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるスクロール形流体機械の上部断面図。
【図2】実施形態1の説明図。
【図3】実施形態2の説明図。
【図4】別形態のスクロール形流体機械の上部断面図。
【図5】実施形態3の説明図。
【図6】実施形態4の説明図。
【図7】実施形態5の説明図。
【図8】実施形態6の説明図。
【図9】実施形態7の説明図。
【図10】その他の別形態のスクロール形流体機械の上部断面図。
【符号の説明】
1;第1スクロール、2;第2スクロール、3,4;チップシール、5;付勢手段、50;背圧室、55;バネ、6;低圧ポート、7;高圧ポート、8;逆流阻止機構、M;中間作動室、H;中心側単一閉領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】 各渦巻体の端面にチップシール(3,4)を介装した第1および第2スクロール(1,2)を備え、これらスクロール(1,2)の少なくとも一方を他方に付勢する付勢手段(5)を設け、渦巻外方側の低圧ポート(6)と渦巻中心側の高圧ポート(7)との間で作動流体を給排するスクロール形流体機械において、各チップシール(3,4)の介装範囲を、次の関係、すなわち、第1および第2スクロール(1,2)の渦巻体間に画成される中間作動室(M)は、低圧側のチップシール非介装範囲内にある渦巻体の端面を横切って低圧ポート(6)へ連通する状態が遮断された直後に、高圧側のチップシール非介装範囲内にある渦巻体の端面を横切って高圧ポート(7)のみに連通する関係となるように、設定していることを特徴とするスクロール形流体機械。
【請求項2】 一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のa,b,cの関係式が成立する請求項1記載のスクロール形流体機械。
β1−α2=3π ・・・・a β2−α1=3π ・・・・b 2π≦β1−α1≦3π(但し、α1,β1は介装範囲角度が小さい方のチップシール)・・・・
【請求項3】 各チップシール(3,4)は、ともに渦巻体に沿う巻角で3π[rad]にわたり介装され、これらチップシール(3,4)の巻角範囲をほぼ一致させている請求項1記載のスクロール形流体機械。
【請求項4】 各渦巻体の端面にチップシール(3,4)を介装した第1および第2スクロール(1,2)を備え、これらスクロール(1,2)の少なくとも一方を他方に付勢する付勢手段(5)を設け、渦巻外方側の低圧ポート(6)と渦巻中心側の高圧ポート(7)との間で作動流体を給排するスクロール形流体機械において、各チップシール(3,4)の介装範囲を、チップシール介装範囲内の渦巻体間に、チップシール非介装範囲内の渦巻体の端面を横切った低圧ポート(6)への連通が遮断された状態で、高圧ポート(7)を内方に見込む中心側単一閉領域(H)を画成する関係に設定していると共に、流体機械内部に、作動流体の逆流阻止機構(8)を設けていることを特徴とするスクロール形流体機械。
【請求項5】 一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のd,e,f,gの関係式が成立する請求項4記載のスクロール形流体機械。
β1−α2≧π ・・・・dβ2−α1≧π ・・・・eβ1−α1≧π ・・・・fπ≦β2−α2≦2π・・・・
【請求項6】 第1スクロール(1)は可動スクロールを構成し、且つ、第2スクロール(2)は固定スクロールを構成し、付勢手段(5)は可動側の第1スクロール(1)を固定側の第2スクロール(2)に付勢する構成としており、可動側の第1スクロール(1)のチップシールを、渦巻体のほぼ全域に設けている請求項5記載のスクロール形流体機械。
【請求項7】 各チップシール(3,4)は、ともに渦巻体に沿う巻角で2π[rad]以下の長さにしている請求項5記載のスクロール形流体機械。
【請求項8】 一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のh,i,j,kの関係式が成立する請求項4記載のスクロール形流体機械。
β1−α2≦3π ・・・・hβ2−α1≦3π ・・・・i2π≦β1−α1≦3π・・・・jβ2−α2≧2π・・・・
【請求項9】 一方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα1[rad]〜β1[rad]、他方側チップシールは、渦巻体に沿う巻角でα2[rad]〜β2[rad]にわたり各々介装され、α1,β1,α2,β2の間には、次のl,m,nの関係式が成立する請求項4記載のスクロール形流体機械。
β1−α2=π ・・・・lβ1−α1≧2π・・・・mβ2−α2≧2π・・・・
【請求項10】 各チップシール(3,4)は、ともに渦巻体に沿う巻角でπ[rad]〜3π[rad]にわたり介装され、これらチップシール(3,4)の巻角範囲をほぼ一致させている請求項4記載のスクロール形流体機械。
【請求項11】 付勢手段(5)は、スクロールの裏面に区画形成する背圧室(50)に高圧側作動流体を導く機構から成る請求項1〜請求項10何れか一記載のスクロール形流体機械。
【請求項12】 付勢手段(5)は、スクロールの裏面に区画形成する背圧室(50)に高圧の潤滑油を導く機構から成る請求項1〜請求項10何れか一記載のスクロール形流体機械。
【請求項13】 背圧室(50)に高圧の潤滑油を併せて導くこととしている請求項11記載のスクロール形流体機械。
【請求項14】 背圧室(50)に臨むスクロールの裏面に、バネ(55)による付勢力を加算させている請求項11〜請求項13何れか一記載のスクロール形流体機械。
【請求項15】 逆流阻止機構(8)は、高圧ポート(7)の下流に配設する吐出弁である請求項4〜請求項10何れか一記載のスクロール形流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【特許番号】特許第3189644号(P3189644)
【登録日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【発行日】平成13年7月16日(2001.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−268385
【出願日】平成7年10月17日(1995.10.17)
【公開番号】特開平9−112455
【公開日】平成9年5月2日(1997.5.2)
【審査請求日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)