説明

スズめっき方法およびスズめっき装置

【課題】スズイオン供給源の表面に付着したスラッジを高効率に除去することができるスズめっき方法およびスズめっき装置を提供する。
【解決手段】スズめっき方法は、めっき液槽に保持されためっき液中に浸漬されためっき対象物にスズめっきを施すスズめっき方法であって、スズ棒21の表面に付着したスラッジを除去する工程と、スラッジが除去されたスズ棒21を陽極、めっき対象物を陰極として通電することによりめっき対象物にスズめっきを施す工程とを備えている。また、スラッジを除去する工程では、スズ棒21およびスズ棒21に接触して配置されたスラッジ除去棒22の少なくともいずれか一方が回転することにより、スズ棒21の表面に付着したスラッジが除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズめっき方法およびスズめっき装置に関するものであり、より特定的には、めっき液槽に保持されためっき液中に浸漬されためっき対象物にスズめっきを施す、スズめっき方法およびスズめっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スズめっきは、たとえばスズイオン供給源としてのスズボールをめっき液に不溶な金属製のかご状電極内に配置し、当該かご状電極に電流を流すことによりスズボールをスズイオンとしてめっき液中に溶解させ、めっき対象物の表面にスズめっき膜を形成することによって実施されていた。
【0003】
めっき液中に溶解したスズイオンは、めっき液中あるいは大気中の酸素と反応して、スズ酸化物を主成分とするスラッジ状の固形物(以下、「スラッジ」という)を生成する。スラッジは、スズ酸化物を主成分としているため、高い電気抵抗値を示す。そのため、スラッジがスズボールの表面に付着すると、スラッジが付着した領域においてスズボールの表面からスズイオンが溶解する速度が低下する。その結果、めっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜の膜厚が不均一となる。
【0004】
これに対して、従来は、スズボールやかご状電極を、薬液や金属ブラシなどを用いて定期的に清掃することにより、これらの表面に付着したスラッジの除去が行なわれていた。しかし、この場合には、スズボールをかご状電極から取り出し、また、かご状電極を分解する必要がある。そのため、清掃において長時間が必要とされ、スズめっき装置の稼動時間を短縮せざるを得ないという問題点がある。
【0005】
また、スラッジの取り扱いに関連して、酸性ハロゲン電気スズめっきにおいて生成する生スラッジを回収する方法として、生スラッジを水浸処理によりフッ化スズ酸(IV)ナトリウムを含む溶液とフェロシアン化鉄およびフッ化鉄酸(III)ナトリウムを含む青スラッジとに分離し、溶液のpHを7以上に調整して水酸化スズまたは酸化スズを含むスラッジを沈殿分離した後に、スラッジを回収する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−072629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来のスズめっきにおいては、スズボールおよびかご状電極の表面に付着したスラッジを除去するために長時間が必要とされる。すなわち、従来のスズめっきにおいては、スズボールおよびかご状電極の表面に付着したスラッジを高効率に除去することができないという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スズイオン供給源の表面に付着したスラッジを高効率に除去することができる、スズめっき方法およびスズめっき装置を提供することがである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従ったスズめっき方法は、めっき液槽に保持されためっき液中に浸漬されためっき対象物にスズめっきを施すスズめっき方法であって、以下の工程を備えている。すなわち、当該スズめっき方法は、スズイオン供給源の表面に付着したスラッジを除去する工程と、スラッジが除去されたスズイオン供給源を陽極、めっき対象物を陰極として通電することによりめっき対象物にスズめっきを施す工程とを備えている。スラッジを除去する工程では、スズイオン供給源およびスズイオン供給源に接触して配置されたスラッジ除去部材の少なくともいずれか一方が回転することにより、スズイオン供給源の表面に付着したスラッジが除去される。
【0010】
上記のように、本発明に従ったスズめっき方法は、スズイオン供給源およびスズイオン供給源に接触して配置されたスラッジ除去部材の少なくともいずれか一方が回転することにより、スズイオン供給源の表面に付着したスラッジが除去される。したがって、本発明に従ったスズめっき方法によれば、スズイオン供給源の表面に付着したスラッジを高効率に除去することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明から明らかなように、本発明に従ったスズめっき方法によれば、スズイオン供給源の表面に付着したスラッジを高効率に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のスズめっき装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明のスズめっき装置に備えられたスズ電極の構成を示す概略図である。
【図3】本発明のスズ電極に含まれるスラッジ除去棒の構造を示す概略図である。
【図4】図3中の線分IV−IVに沿ったスラッジ除去棒の断面構造を示す概略図である。
【図5】実施例におけるスズめっき膜の膜厚のばらつきと、比較例におけるスズめっき膜の膜厚のばらつきとの比較を示す図である。
【図6】実施例におけるスズめっき膜の平均膜厚のばらつきと、比較例におけるスズめっき膜の平均膜厚のばらつきとの比較を示す図である。
【図7】比較例のスズめっき方法に用いられるスズボールおよびかご状電極の構造を示す概略図である。
【図8】比較例のスズめっき方法に用いられるスズボールの表面にスラッジが付着した状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0014】
はじめに、比較例におけるスズめっき方法について説明する。比較例におけるスズめっき方法では、まず、スズめっき装置、めっき液、スズイオン供給源およびめっき対象物が準備される。図7を参照して、スズイオン供給源としては、直径10mm程度の球形状を有するスズボール210が複数準備される。準備された複数のスズボール210は、めっき液に不溶なかご状電極300内に配置され、スズ電極200を構成する。
【0015】
スズ電極200およびめっき対象物は、スズめっき装置に備えられた電源の陽極側および陰極側にそれぞれ接続される。そして、めっき液を保持するめっき液槽内に設置されたスズ電極200とめっき対象物との間に電流を流すことにより、スズボール210が酸化され、スズイオンを生成する。スズイオンは、めっき液中を移動してめっき対象物の表面に到達し、当該めっき対象物の表面において還元されることによりスズめっき膜を形成する。
【0016】
スズボール210が酸化されて生成したスズイオンは、めっき液中あるいは大気中の酸素と反応して、スズ酸化物を主成分とするスラッジを生成する。生成したスラッジは、スズボール210およびかご状電極300の表面に付着する。たとえば、図8を参照して、スラッジは、スズボール210の表面において部分的に付着することにより、スラッジの付着領域210Aおよび未付着領域210Bを形成する。また、スラッジは、スズ酸化物を主成分としているため、金属であるスズに比べて高い電気抵抗値を示す。たとえば、スラッジは、5MΩの電気抵抗値を示す。そのため、スラッジの付着領域210Aの電気抵抗値は、未付着領域210Bの電気抵抗値に比べて高くなる。その結果、めっき対象物に形成されるスズめっき膜の膜厚が不均一となる。
【0017】
これを回避するため、比較例のスズめっき方法においては、上記のようにスズボール210およびかご状電極300の表面に付着したスラッジを除去するに際して、スズボール210をかご状電極300から取り出し、また、かご状電極300を分解して清掃する必要がある。したがって、比較例のスズめっき方法においては、スズボール210およびかご状電極300の表面に付着したスラッジを高効率に除去することができない。
【0018】
これに対して、本発明の実施の形態に係るスズめっき方法は、めっき対象物にスズめっきを施す工程が実施される前に、スズイオン供給源あるいはスズイオン供給源に接触して配置されたスラッジ除去部材の少なくともいずれかを回転させることにより、あらかじめスズイオン供給源に付着したスラッジを除去する工程を備えているという点において、比較例のスズめっき方法とは異なっている。
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るスズめっき装置およびスズめっき方法について説明する。まず、本発明の実施の形態に係るスズめっき装置に構成について説明する。本実施の形態に係るスズめっき装置は、めっき対象物にスズめっきを施すためのスズめっき装置である。図1を参照して、スズめっき装置1は、めっき液槽50と、スズイオン供給源保持部材としてのスズ電極ホルダ20Aと、めっき対象物ホルダ30Aと、通電装置としての電源60とを備えている。
【0020】
めっき液槽50は、めっき液40を保持する。めっき対象物ホルダ30Aは、めっき対象物30を保持する。スズ電極ホルダ20Aは、スズ電極20を保持する。電源60は、スズ電極20を陽極、めっき対象物30を陰極として通電する。
【0021】
次に、スズ電極20の構成について説明する。図2を参照して、スズ電極20は、複数のスズイオン供給源としてのスズ棒21と、スズめっき装置1に備えられた複数のスラッジ除去棒22とを備えている。スズ電極20において、スズ棒21とスラッジ除去棒22とは、互いに接触して配置されている。また、スズ棒21の軸方向がスラッジ除去棒22の軸方向に沿った方向となるように、スズ棒21およびスラッジ除去棒22は配置される。
【0022】
スズ棒21は複数準備されてもよいが、これに限られるものではない。スズ棒21が複数準備される場合には、あらかじめスズ棒21が準備される数に対応した数のスラッジ除去棒22が、スズめっき装置1に備えられる。そして、複数のスズ棒およびスラッジ除去棒の各々が接触して配置され、スズ電極20が形成される。スズ電極20は、図1に示すように、複数形成されてもよい。
【0023】
スズ棒21は、スズめっき装置1に備えられた回転部材としての回転モータ23に接続されている。上記のように、回転モータ23は、スズ棒21およびスラッジ除去棒22の少なくともいずれか一方をスズ棒21とスラッジ除去棒22とを接触させつつ回転させる。本実施の形態においては、回転モータ23は、スズ棒21をスラッジ除去棒22に接触させつつ回転させる。スラッジ除去棒22は、スズめっき装置1に備えられた電源60の陽極側に接続される。スズ棒21は導電体からなるスラッジ除去棒22に接触して配置されるため、スラッジ除去棒22に通電することによりスズ棒21に電流が供給される。
【0024】
すなわち、本実施の形態におけるスズめっき装置1は、図1および図2を参照して、めっき液40を保持するためのめっき液槽50と、めっき液槽50内に配置され、スズ棒21を保持するスズ電極ホルダ20Aと、めっき液槽50内に配置されたスラッジ除去棒22と、スズ棒21およびスラッジ除去棒22の少なくともいずれか一方をスズ棒21とスラッジ除去棒22とを接触させつつ回転させる回転モータ23と、スズ棒21を陽極、めっき対象物30を陰極として通電する電源60とを備えている。
【0025】
次に、スラッジ除去棒22の構造について説明する。スラッジ除去棒22の表面には、凹凸が形成されている。具体的には、図3および図4を参照して、スラッジ除去棒22の外周面には、径方向外側へ突出する突起部22aが形成されている。これにより、スズ棒の表面に付着したスラッジを容易に除去することができる。また、スラッジ除去棒22としては、めっき液に対して不溶であるもの、たとえばチタンなどの金属からなるものが用いられる。これにより、スラッジ除去棒22がめっき液中に溶解することなく、安定してスズめっきを行なうことができる。
【0026】
また、スラッジ除去棒22には、吸入口22bおよび中空空間22cが形成されている。別の観点から説明すると、スラッジ除去棒22は、吸入口22bが形成された中空円筒状の形状を有している。吸入口22bから、めっき液を中空空間22cへ吸入することが可能となっている。また、スズめっき装置1は、スラッジ除去機構としての排出管24、還流管25、外部ポンプ70およびフィルタ80をさらに備えている。排出管24は、スラッジ除去棒22に接続されている。排出管24からは、中空空間22cに吸入されためっき液を排出することができる。また、外部ポンプ70は、スラッジ棒22の中空空間22c内を減圧することができるように設置されている。また、フィルタ80は、排出管24より排出されためっき液を濾過する。還流管25は、フィルタ80により濾過されためっき液を、めっき液槽に戻すことができるように設置されている。これにより、スズ棒から脱落したスラッジをめっき液から取り除くことができる。
【0027】
次に、本発明の実施の形態に係るスズめっき方法について説明する。本実施の形態に係るスズめっき方法は、めっき液槽に保持されためっき液中に浸漬されためっき対象物にスズめっきを施すスズめっき方法である。図1を参照して、本実施の形態に係るスズめっき装置1では、スズ電極20を陽極、めっき対象物30を陰極として通電することにより、めっき対象物30にスズめっきが施される。このスズめっきを行なうことにより、スズ棒の表面において、スズイオンがめっき液中あるいは大気中の酸素により酸化されて生成したスラッジが付着する。そして、上記スズめっきによりスズ棒の表面に付着したスラッジをスズ電極20を分解等して清掃除去することなく、以下のように、本実施の形態に係るスズめっき方法を行なうことができる。
【0028】
まず、新たなめっき対象物30を準備し、これをめっき対象物ホルダ30Aに装着する。次に、スズ棒の表面に付着したスラッジを除去する工程が実施される。図2を参照して、当該工程では、スズ棒21およびスズ棒21に接触して配置されたスラッジ除去棒22の少なくともいずれか一方が回転することにより、スズ棒21の表面に付着したスラッジが除去される。本実施の形態では、スズ棒21に接続された回転モータ23を動作させて、スズ棒21をスラッジ除去棒22に接触させつつ、図2中R方向に回転させることにより、スズ棒21の表面に付着したスラッジが除去される。スズ棒21は、スズ棒21の表面に付着したスラッジが十分に除去されるまで回転させてもよい。つまり、スズ棒21を一回のみ回転させてもよいし、複数回回転させてもよい。
【0029】
上記スラッジを除去する工程は、スズ棒21から脱落したスラッジをめっき液から取り除く工程を含んでいてもよい。上記のスラッジをめっき液から取り除く工程は、スズ棒21から脱落したスラッジを含むめっき液をめっき液槽から取り出す工程と、取り出されためっき液からスラッジを取り除く工程と、スラッジが取り除かれためっき液がめっき液槽に戻される工程とを含むことができる。このように、スズ棒21から脱落したスラッジをめっき液から取り除くことにより、スラッジがめっき液槽中へ混入することを抑制することができる。その結果、めっき対象物の表面へのスラッジの付着を抑制することができる。
【0030】
本実施の形態において、上記工程は、それぞれ以下のように行なわれる。図3および図4を参照して、まず、スズ棒から脱落したスラッジを含むめっき液をめっき液槽から取り出す工程ではスズ棒から脱落したスラッジを含むめっき液が、スラッジ除去棒22に形成された吸入口22bから中空空間22cに吸入されることにより、めっき液槽から取り出される。すなわち、スズ棒から脱落したスラッジを、スズ棒に接触して配置されたスラッジ棒22の中空空間22cへ吸入する。これにより、スズ棒から脱落したスラッジを、より容易にめっき液から取り除くことができる。
【0031】
次に、取り出されためっき液からスラッジを取り除く工程では、外部ポンプ70を用いてスラッジを含むめっき液を排出管24より排出する。そして、排出された当該めっき液をフィルタ80を用いて濾過することにより、当該めっき液に含まれるスラッジが除去される。そして、スラッジが取り除かれためっき液がめっき液槽に戻される工程では、上記のようにスラッジが除去されためっき液が、還流管25を介して、めっき液槽に戻される。このように、スラッジが除去されためっき液を、再びめっき液槽に戻して利用することにより、めっき液の消費によるスズめっきのコスト増加を抑制することができる。
【0032】
次に、図1を参照して、スズ電極20を陽極、めっき対象物30を陰極として、電源60を動作させて通電することにより、めっき対象物30にスズめっきを施す工程が実施される。これにより、めっき対象物30の表面にスズめっき膜が形成される。上記工程が完了した後、電源60を停止させる。電源60を停止させた後、めっき対象物30を回収し、本実施の形態に係るスズめっき方法によるスズめっきが完了する。
【0033】
以上のように、本実施の形態に係るスズめっき方法においては、めっき対象物にスズめっきを施す工程が行われる前に、スズ棒の表面に付着したスラッジを除去する工程が行われる。すなわち、めっき対象物にスズめっきを施す前に、あらかじめスズ棒をスラッジ除去棒に接触させつつ回転させることにより、スズ棒の表面に付着したスラッジが除去される。したがって、本実施の形態に係るスズめっき方法によれば、スズ棒の表面に付着したスラッジをスズ電極を分解等して清掃除去することなく、高効率に除去することができる。そして、スズ棒の表面に付着したスラッジが除去された後にスズめっきを施すことにより、めっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜の膜厚を均一にすることができる。
【0034】
また、複数のスズ棒を用いて複数のめっき対象物に同時にスズめっきを施す場合においても、スズめっきを施す前に、あらかじめそれぞれのスズ棒の表面に付着したスラッジを高効率に除去することができる。これにより、スラッジの付着によるスズ棒の電気抵抗値の変化が小さくなり、それぞれのスズ棒に供給される電流を一定に保つことができる。その結果、それぞれのめっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜の膜厚を均一にすることができる。このように、一つの電源を用いて複数のめっき対象物に同時にスズめっきを施すことにより、スズめっき装置の小型化や低コスト化を図ることができる。
【0035】
なお、上記の実施の形態においては、スズイオン供給源として棒形状を有するスズ棒と、スラッジ除去部材として棒形状を有するスラッジ除去棒とを用いたスズめっき装置およびスズめっき方法について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、本発明の実施の形態に係るスズめっき装置およびスズめっき方法においては、棒形状以外の形状を有するスズイオン供給源およびこれに対応したスラッジ除去部材が採用されてもよい。
【実施例1】
【0036】
めっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜の膜厚のばらつきに対する本発明の効果を確認する実験を行なった。スズめっき方法としては、本実施の形態に係るスズめっき方法を用いた。実験の手順は以下に示す通りである。まず、本実施の形態に係るスズめっき装置を用いて、500時間スズめっきを行った。次に、めっき対象物としての長さ20cm、幅7cmのリードフレームを準備し、これをめっき対象物ホルダに装着した。次に、上記スズめっきによりスズ棒の表面に付着したスラッジを電極を分解等して清掃除去することなく、本実施の形態に係るスズめっき方法により、リードフレームにスズめっきを施した。そして、リードフレームの20端子の表面に形成されたスズめっき膜の膜厚を測定した(実施例1)。また、比較例として、上記比較例のスズめっき方法を用いて、上記実施例1と同様の実験を行なった(比較例1)。
【0037】
上記実験の結果について、図5に基づいて説明する。図5の(B)は、実施例1のリードフレームの20端子の表面に形成されたスズめっき膜の膜厚のばらつきを示している。また、図5の(A)は、比較例1のリードフレームの20端子の表面に形成されたスズめっき膜の膜厚のばらつきを示している。図5から明らかなように、実施例1の膜厚のばらつきは、比較例1の膜厚のばらつきに比べて大きく減少した。これにより、本発明のスズめっき方法によれば、めっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜の膜厚を均一にすることができることが確認された。
【実施例2】
【0038】
複数のめっき対象物に同時にスズめっきを施す場合において、各々のめっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜の平均値のばらつきに対する本発明の効果を確認する実験を行なった。スズめっき方法としては、本実施の形態に係るスズめっき方法を用いた。実験の手順は以下に示す通りである。まず、本実施の形態に係るスズめっき装置を用いて、200時間スズめっきを行なった。次に、めっき対象物として、実施例1にて用いたものと同じリードフレームを15枚準備し、これらをめっき対象物ホルダにそれぞれ装着した。次に、上記スズめっきによりスズ棒の表面に付着したスラッジを電極を分解等して清掃除去することなく、本実施の形態に係るスズめっき方法により、15枚のリードフレームに同時にスズめっきを施した。そして、15枚のリードフレームの表面に形成されたスズめっき膜の膜厚をそれぞれ測定した(実施例2)。また、比較例として、上記比較例のスズめっき方法を用いて、上記実施例2と同様の実験を行なった(比較例2)。
【0039】
上記実験の結果について、図6に基づいて説明する。図6の(B)は、実施例2の15枚のリードフレームの表面に形成されたスズめっき膜の平均膜厚のばらつきを示している。図6の(A)は、比較例2の15枚のリードフレームの表面に形成されたスズめっき膜の平均膜厚のばらつきを示している。図6から明らかなように、実施例2の平均膜厚のばらつきは、比較例2の平均膜厚のばらつきに比べて大きく減少した。これにより、本発明のスズめっき方法によれば、複数のめっき対象物に同時にスズめっきを施す場合においても、それぞれのめっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜の膜厚を均一にすることができることが確認された。
【実施例3】
【0040】
めっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜中に異物として含まれるスラッジの数について、本発明の効果を確認する実験を行なった。具体的には、上記実施の形態に係るスズめっき装置1を用いて、スズ電極を分解等してスラッジを清掃除去することなく、1000時間運転させた。そして、上記実施の形態に係るスズめっき方法によりスズめっきサンプルを作製し、当該スズめっきサンプルの表面に形成されたスズめっき膜に含まれる異物の数を計測した(実施例3)。また、比較例として、上記比較例のスズめっき方法を用いて、上記実施例3と同様の実験を行なった(比較例3)。
【0041】
その結果、実施例3の異物の数は、比較例3の異物の数の100分の1になっていることが確認された。これにより、上記実施の形態に係るスズめっき方法によれば、めっき対象物の表面に形成されるスズめっき膜に含まれる異物の数を低減することができることが確認された。
【0042】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のスズめっき方法およびスズめっき装置は、スズイオン供給源の表面に付着したスラッジを高効率に除去することが要求される、スズめっき方法およびスズめっき装置において、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0044】
1 スズめっき装置、20 スズ電極、20A スズ電極ホルダ、21 スズ棒、22 スラッジ除去棒、22a 突起部、22b 吸入口、22c 中空空間、23 回転モータ、24 排出管、25 還流管、30 めっき対象物、30A めっき対象物ホルダ、40 めっき液、50 めっき液槽、60 電源、70 外部ポンプ、80 フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液槽に保持されためっき液中に浸漬されためっき対象物にスズめっきを施すスズめっき方法であって、
前記スズイオン供給源の表面に付着したスラッジを除去する工程と、
前記スラッジが除去された前記スズイオン供給源を陽極、前記めっき対象物を陰極として通電することにより前記めっき対象物にスズめっきを施す工程とを備え、
前記スラッジを除去する工程では、前記スズイオン供給源および前記スズイオン供給源に接触して配置されたスラッジ除去部材の少なくともいずれか一方が回転することにより、前記スズイオン供給源の表面に付着したスラッジが除去される、スズめっき方法。
【請求項2】
前記スラッジ除去部材は前記めっき液に対して不溶である、請求項1に記載のスズめっき方法。
【請求項3】
前記スラッジ除去部材の表面には凹凸が形成されている、請求項1または2に記載のスズめっき方法。
【請求項4】
前記スラッジを除去する工程は、前記スズイオン供給源から脱落した前記スラッジを前記めっき液から取り除く工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスズめっき方法。
【請求項5】
前記スラッジを前記めっき液から取り除く工程は、
前記スズイオン供給源から脱落した前記スラッジを含む前記めっき液を前記めっき液槽から取り出す工程と、
取り出された前記めっき液から前記スラッジを取り除く工程と、
前記スラッジが取り除かれた前記めっき液が前記めっき液槽に戻される工程とを含む、請求項4に記載のスズめっき方法。
【請求項6】
前記スラッジ除去部材には前記めっき液を吸入する吸入口が形成されており、
前記めっき液を前記めっき液槽から取り出す工程では、前記吸入口から前記めっき液が吸入されることにより前記めっき液が取り出される、請求項5に記載のスズめっき方法。
【請求項7】
めっき対象物にスズめっきを施すためのスズめっき装置であって、
めっき液を保持するためのめっき液槽と、
前記めっき液槽内に配置され、スズイオン供給源を保持するスズイオン供給源保持部材と、
前記めっき液槽内に配置されたスラッジ除去部材と、
前記スズイオン供給源および前記スラッジ除去部材の少なくともいずれか一方を前記スズイオン供給源と前記スラッジ除去部材とを接触させつつ回転させる回転部材と、
前記スズイオン供給源を陽極、前記めっき対象物を陰極として通電する通電装置とを備えた、スズめっき装置。
【請求項8】
前記スラッジ除去部材はめっき液に対して不溶である、請求項7に記載のスズめっき装置。
【請求項9】
前記スラッジ除去部材の表面には凹凸が形成されている、請求項7または8に記載のスズめっき装置。
【請求項10】
前記スズイオン供給源から脱落した前記スラッジを前記めっき液から取り除くためのスラッジ除去機構をさらに備えた、請求項7〜9のいずれか1項に記載のスズめっき装置。
【請求項11】
前記スラッジ除去部材には、前記めっき液を吸入する吸入口が形成されている、請求項7〜10のいずれか1項に記載のスズめっき装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−10975(P2013−10975A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142528(P2011−142528)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)