説明

スタイラスチップとそれを用いたマルチワイヤ配線板の製造法

【課題】 スタイラスグローブから絶縁被覆電線がはずれたり隣接する絶縁被覆電線にきず付けることなく、高密度の配線を形成することのできるスタイラスチップとそのスタイラスチップを用いて高密度のマルチワイヤ配線板を製造する方法を提供する。
【構成】 スタイラスチップ110の直径の中心とワイヤガイド部103のワイヤカッタ4との距離が30mil未満であって、スタイラスチップ110先端のフラット面10に対してワイヤグローブ9の溝のワイヤ導入角度が77゜以上であるスタイラスチップと、このスタイラスチップ110を用いて、接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆電線をはわせてゆくと同時に接着していき、配線パターンを形成する製造法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マルチワイヤ配線板の布線機のスタイラスチップとそれを用いたマルチワイヤ配線板の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】マルチワイヤ配線板は、接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆電線をはわせてゆくと同時に接着していき、配線パターンを形成することによって製造されている。このようなマルチワイヤ配線板は、図2に示すようなヘッド部を有する布線機によって作られる。このヘッド部は、超音波で振動するスタイラス101と、それを納める鞘ケース102、スタイラス先端に絶縁被覆電線を供給するワイヤガイド部103から構成され、さらにこのワイヤガイド部103は、絶縁被覆電線供給部からのワイヤ送り機構を有している。また、スタイラス101の鞘ケース102は、3組のベアリング104、105、106とそれらを支える支持部107及びアーム部108によって、図面の紙面の前後方向に移動するX軸移動機構に回転自在に取り付けられている。絶縁被覆電線が固定される接着剤付絶縁基板は、紙面の左右方向に移動するY軸移動テーブルに固定されている。
【0003】ここで、1本の絶縁被覆電線を、接着剤付絶縁基板に固定する様子を見ると、基板の特定の位置を基準とするXY軸上の位置データに基づいて、上記X軸移動機構とY軸移動テーブルを制御して移動し、固定する位置にヘッド部を設定する。このときに、次の位置データとして終了位置または固定方向を変える位置とを読みとって、現在の位置から固定する方向を割り出して、ヘッド部の方向(スタイラスとワイヤガイド部との位置関係)を決め、スタイラスの鞘ケースごと上記X軸移動機構に対して回転する。方向がきまったならば、ワイヤガイドから絶縁被覆電線をスタイラスの先端に供給し、ヘッド部を固定作業位置まで下げ、スタイラスを上から押圧して絶縁被覆電線の端部を絶縁基板に固定する。その状態から、スタイラスに超音波振動を加えると、接着剤が振動によって加熱され、活性化されて接着力を発揮する。その状態で、少しづつスタイラスの位置をずらしてゆく、方向の制御は、X軸方向にヘッド部を移動させ、Y軸方向にテーブルを移動して行う。所定の長さに固定したら、次は、方向を変える。スタイラスをおろしたまま、スタイラスの中心を中心にしてヘッド部を回転させ、さらに回転した方向に固定する。このようにして必要な配線を固定した後、スタイラスをおろした状態で、ワイヤガイドの先端に設けられたワイヤカッタによって絶縁被覆電線を切断し、固定していない絶縁被覆電線の先端を、さらにスタイラスを移動させて固定する。このときの切断した絶縁被覆電線の端部は、その配線方向を変えることができず、またその位置も精度よく固定できないので、いわゆる盲腸のような配線となる。
【0004】この不要な配線部分の長さは、図4に示すように、スタイラス先端とワイヤガイドの先端のワイヤカッタとの距離に関係し、この距離が近い程、不要配線長さが短くなり、その分高密度の配線を行うことができる。
【0005】スタイラス先端は、上記のように、固定作業している間は、超音波振動を常にうけているので、破損し易く、交換できるように、スタイラスチップ110として分割されている。このスタイラスチップは、金属の円柱の先端を鉛筆を削った後のように円錐状に細くし、先端に絶縁被覆電線を押圧するためにフラット面を作り、絶縁被覆電線と隣接する絶縁被覆電線との間を狭くするために、絶縁被覆電線を押さえてガイドする部分以外を削り、絶縁被覆電線を固定するときに先端からはずれないようにガイドするワイヤグローブ9を設け、ワイヤグローブ9には絶縁被覆電線をガイドするガイド溝6が切られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来のスタイラスチップ110の直径の中心とワイヤカッタ4との距離は、図3に示すように、45mil(1.143mm)である。したがって、不要配線部は、長さを45mil以下にはできず、実際には布線時におけるワイヤの伸び等も併せると55mil程度となる。この不要配線部の長さであっても使用できる範囲は、100mil(2.54mm)の間に絶縁被覆電線をXY方向に3本とXY方向と45°斜めに1本の布線をしたものまでであり、これ以上高密度な製品においては、不要配線部が隣接する絶縁被覆電線と接触するため、使用することができない。
【0007】したがって、高密度製品への対応として、不要配線長さを短くするためには、スタイラスチップ110の直径の中心とワイヤカッタ4との間の距離を短くすることと、配線する絶縁被覆電線の直径を小さくすれば良いのであるが、スタイラスチップ110のワイヤグローブ9を小さくし、スタイラスチップ110の先端とワイヤカッタ4との間の距離を短くすると、ワイヤグローブ9が小さくなったため、布線方向を変えるスタイラスの回転時にワイヤグローブ9から絶縁被覆電線がはずれる現象や、絶縁被覆電線の密集領域において、スタイラスグローブ9により隣接ワイヤにキズを付けるという現象が発生した。
【0008】本発明は、スタイラスグローブから絶縁被覆電線がはずれたり隣接する絶縁被覆電線にきず付けることなく、高密度の配線を形成することのできるスタイラスチップとそのスタイラスチップを用いて高密度のマルチワイヤー配線板を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明のスタイラスチップは、接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆電線をはわせてゆくと同時に接着していき、配線パターンを形成するマルチワイヤ配線板の製造に用いる装置であって、図1(a)に示すように、超音波振動により接着剤を活性化させ、加圧力により絶縁被覆電線を接着剤付絶縁基板に密着するスタイラス101と絶縁被覆電線をスタイラス101の先端に供給するワイヤガイド部103を有する布線装置の、スタイラス101の先端に設けられたスタイラスチップ110であって、スタイラスチップ110の直径の中心とワイヤガイド部103のワイヤカッタ4との距離が30mil未満であって、スタイラスチップ110先端のフラット面10に対してワイヤグローブ9の溝のワイヤ導入角度が77゜以上であることを特徴とする。
【0010】また、本発明のマルチワイヤ配線板の製造法は、このスタイラスチップ110をその先端に設けたスタイラス101であって、超音波振動により接着剤を活性化させ、加圧力により絶縁被覆電線を接着剤付絶縁基板に密着するスタイラス101と、絶縁被覆電線をスタイラス101の先端に供給するワイヤガイド部103を有する布線装置を用いて、接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆電線をはわせてゆくと同時に接着していき、配線パターンを形成することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】スタイラスチップ110のワイヤカッタ4に対向する側面をフラットに加工し、ワイヤグローブ9の端部をその側面のフラット面10に一致させて形成することもでき、また、ワイヤグローブの外縁の角に丸みを持たせることもできる。
【0012】
【実施例】本発明のスタイラスチップは、図1に示すように、スタイラスの先端とワイヤガイド縁のワイヤカッタとの距離が25milであって、スタイラスチップ先端のフラット面に対してワイヤグローブ溝6のワイヤ導入角度が77゜であり、スタイラスチップのワイヤガイドに対向する側面をフラットに加工し、ワイヤグローブの端部をそのフラット面に一致させて形成しており、ワイヤグローブの外縁の角に丸みを形成している。このようなスタイラスチップを用いて、マルチワイヤ配線板を作製した。絶縁基板として、厚さ0.3mmのI−671(日立化成工業株式会社製、商品名)に、接着剤であるAS−U01(日立化成工業株式会社製、商品名)を100μmの厚さに塗布し、120℃で、1分間乾燥したものを用いた。布線機として、数値式制御式布線機であるMWB布線機(エーアイティー社製、商品名)を用い、そのヘッド部に、上記スタイラスチップを取り付けたものを用いて、超音波振動数25kHz、押圧力75gfの条件で、5000本の絶縁被覆電線を配線固定した。絶縁被覆電線は、直径80μmの銅線に、ポリイミド樹脂であるPyre−ML−RC5057(デユポン社製、商品名)を塗布し、350℃で8分間乾燥することを繰り返し、23μmの厚さに塗布し、その表面に、接着剤であるHAW−216D(日立化成工業株式会社製、商品名)を塗布し、200℃で1分間乾燥することを繰り返し15μmの厚さにしたものを用いた。この結果、欠陥のない高密度マルチワイヤ配線板を作製することができた。
【0013】
【発明の効果】以上説明したように、スタイラスグローブから絶縁被覆電線がはずれたり隣接する絶縁被覆電線にきず付けることなく、高密度の配線を形成することのできるスタイラスチップとそのスタイラスチップを用いて高密度のマルチワイヤー配線板を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の一実施例に用いたスタイラスチップの一部拡大側面図であり、(b)は(a)の底面図であり、(c)は(a)の正面図である。
【図2】本発明の一実施例に用いたスタイラスチップを取り付けた、マルチワイヤ配線板の布線装置のヘッド部を示す側面図である。
【図3】従来例のスタイラスチップの一部拡大側面図である。
【図4】従来例を説明するための一部拡大側面図である。
【符号の説明】
4.ワイヤカッタ 6.ワイヤグローブ溝
9.ワイヤグローブ 10.フラット面
101.スタイラス 102.鞘ケース
103.ワイヤガイド部
104、105、106.ベアリング 107.支持部
108.アーム部 110.スタイラスチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆電線をはわせてゆくと同時に接着していき、配線パターンを形成するマルチワイヤ配線板の製造に用いる装置であって、超音波振動により接着剤を活性化させ、加圧力により絶縁被覆電線を接着剤付絶縁基板に密着するスタイラスと絶縁被覆電線をスタイラスの先端に供給するワイヤガイド部を有する布線装置の、スタイラスの先端に設けられたスタイラスチップであって、スタイラスの直径の中心とワイヤガイド部縁のワイヤカッタとの距離が30mil未満であって、スタイラスチップ先端のフラット面に対してワイヤグローブ溝6のワイヤ導入角度が77゜以上であることを特徴とするスタイラスチップ。
【請求項2】スタイラスチップのワイヤカッタに対向する側面をフラットに加工し、ワイヤグローブの端部をその側面のフラット面に一致させて形成したことを特徴とする請求項1に記載のスタイラスチップ。
【請求項3】ワイヤグローブの外縁の角に丸みを持たせたことを特徴とする請求項1または2に記載のスタイラスチップ。
【請求項4】請求項1〜3のうちいずれかに記載のスタイラスチップをその先端に設けたスタイラスであって、超音波振動により接着剤を活性化させ、加圧力により絶縁被覆電線を接着剤付絶縁基板に密着するスタイラスと、絶縁被覆電線をスタイラスの先端に供給するワイヤガイドを有する布線装置を用いて、接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆電線をはわせてゆくと同時に接着していき、配線パターンを形成することを特徴とするマルチワイヤ配線板の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平11−150353
【公開日】平成11年(1999)6月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−315049
【出願日】平成9年(1997)11月17日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)