説明

スタッド溶接用フェルール

【課題】発生する高温ガスをスタッド挿入孔の上端部から噴出させるようにしたスタッド溶接用フェルールにおいて、溶接部が最適な余盛形状となるようにして、溶接部の疲労強度を向上させることができるようにしたスタッド溶接用フェルールを提供すること。
【解決手段】スタッド挿入孔3の上部の内周面3aに、この内周面3aとスタッドSの外周面との間隔を保持するための複数個の突出部6を形成するとともに、スタッド挿入孔3の下端部の内周面3cの内径D2を、溶融金属の滞留部20となるスタッド挿入孔3の下部の内周面3bの円錐台面4の端部の内径D1より大きな円筒面5に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド溶接用フェルールに関し、特に、スタッドの溶接部の疲労強度を向上させることができるスタッド溶接用フェルールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッド溶接を行う際に、溶接部近傍域の空気の流通を遮断することによって、発生したアークによって溶融した金属が空気と接触することによって酸化されることを防止し、良好な溶接を行うことができるようにすることを目的として、セラミック製のスタッド溶接用フェルールが使用されている。
【0003】
このスタッド溶接用フェルールは、例えば、図6に示すように、母材Wに接するフェルール30の周壁31の端面33にガス抜き溝34を、周壁31の内部に中空部32を、さらに、端面33の反対側にスタッド挿入孔35をそれぞれ形成して構成し、フェルール30の周壁31によりスタッドSの溶接部の外周を囲むように、スタッド溶接ガン(図示省略)に装着して使用するようにしている。
【0004】
ところで、上記従来のスタッド溶接用フェルールは、溶接により発生する高温ガスの一部がフェルール30の下端に放射状に形成したガス抜き溝34から噴出するのに合わせて、溶融した金属が噴出し、溶接部の強度に寄与しないガス抜き溝34に沿った溶接バリが生じたり、ガス抜き溝34から噴出しきれないガス(以下、「余剰ガス」という。)が、フェルール30のスタッド挿入孔35の下端部の内周面に当たって、溶融した金属と母材Wとが接する箇所に回り込み、当該箇所で、余剰ガスのガス圧によって溶融した金属によって形成される溶接部が堰き止められ、広がりのある理想的な余盛形状と比較して、溶接部の疲労強度が低下するという問題があった。
また、フェルール30のスタッド挿入孔35の下端部の内周面に余剰ガスが当たることによって、フェルール30の一部が溶解し、この溶解したガラス状の溶解成分が、溶融した金属と母材Wとが接する箇所に入り込むことによって、溶接部の疲労強度が低下するという問題もあった。
【0005】
この問題に対処するため、溶接により発生する高温ガスを、スタッド挿入孔の上端部から噴出させる、上吹きタイプのスタッド溶接用フェルールが提案されている。
【0006】
このスタッド溶接用フェルール40は、図7に示すように、スタッド挿入孔45の上部45aの内周面に、該内周面とスタッドSの外周面との間隔を保持するための複数個の上下方向に延びる突出部46を等間隔に形成し、スタッド挿入孔45の内周面とスタッドSの外周面との隙間から発生する高温ガスを噴出させるように構成したもので、スタッド挿入孔45の下部に連なる周壁41の内周面43を、アークによって溶融した金属の滞留部42を形成する余盛用の壁面となるようにしている。
【0007】
そして、周壁41の内周面43を、スタッド挿入孔45より大径とした円筒面からなる内周面43A(図7(a)参照)としたり、円錐台面からなる内周面43B(図8(a)参照)、さらには、前記円錐台面の傾斜面を弧状に形成した内周面43C(図8(b)参照)とすることによって、滞留部42を形成するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭61−200666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記従来のスタッド溶接用フェルール40のうち、フェルール40の周壁41の内周面を、図7(a)に示すように、スタッド挿入孔45より大径とした円筒面からなる内周面43Aとして、滞留部42を形成するようにしたものは、図6に示すフェルール30のガス抜き溝34から溶融した金属が噴出するという問題点を解消できるものの、ガス抜き溝34がない分、発生した高温ガスのうちスタッド挿入孔45の上端部から噴出しきれない余剰ガスが、フェルール40のスタッド挿入孔45の下端部の内周面に当たって、溶融した金属と母材Wとが接する箇所に回り込みやすく(図7(b)に示す矢符方向)、当該箇所で、余剰ガスのガス圧によって溶融した金属によって形成される溶接部Uが堰き止められ、広がりのある理想的な余盛形状と比較して、溶接部の疲労強度が低下するという問題があった。
また、フェルール40のスタッド挿入孔45の下端部の内周面に余剰ガスが当たることによって、フェルール40の一部が溶解し、この溶解したガラス状の溶解成分が、溶融した金属と母材Wとが接する箇所に入り込むことによって、溶接部の疲労強度が低下するという問題もあった。
また、フェルール40の周壁41の内周面を、図8(a)に示すように、円錐台面からなる内周面43B、さらには、図8(b)に示すように、前記円錐台面の傾斜面を弧状に形成した内周面43Cとしたものは、余剰ガスがフェルール40の周壁41の内周面に沿って外周側に若干逃げやすくなるものの、余剰ガスのガス圧の影響によって溶融した金属が外周側に流れにくく、このため、溶接部の断面積が拡大しないため、溶接部の強度、特に、疲労強度を高めることができなかった。
また、フェルール40のスタッド挿入孔45の下端部の内周面に余剰ガスが当たることによってフェルール40が溶解したガラス状の溶解成分を、フェルール40の周壁41の内周面と母材Wとの隙間で完全に吸収することができないため、溶解したガラス状の溶解成分が溶融した金属と母材Wとが接する箇所に入り込むことによって溶接部の疲労強度が低下するという問題を完全に解消できるものではなかった。
【0010】
本発明は、上記従来のスタッド溶接用フェルールの有する問題点に鑑み、発生する高温ガスをスタッド挿入孔の上端部から噴出させるようにしたスタッド溶接用フェルールにおいて、溶接部が最適な余盛部分となるようにして、溶接部の疲労強度を向上させることができるようにしたスタッド溶接用フェルールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のスタッド溶接用フェルールは、スタッド挿入孔の上部の内周面に、該内周面とスタッドの外周面との間隔を保持するための複数個の突出部を形成するとともに、スタッド挿入孔の下端部の内周面の内径を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径より大きな円筒面に形成したことを特徴とする。
【0012】
この場合において、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径を、スタッド挿入孔の上部の内周面の内径と同一に形成することができる。
【0013】
また、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径を、スタッド挿入孔の上部の内周面の内径より大きく形成することができる。
【0014】
また、前記スタッド挿入孔の下端部の円筒面に形成する内周面の内径を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径の1.2〜1.4倍に、該内周面の高さ方向の寸法を、1〜2mmに設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスタッド溶接用フェルールによれば、スタッド挿入孔の上部の内周面に、該内周面とスタッドの外周面との間隔を保持するための複数個の突出部を形成するとともに、スタッド挿入孔の下端部の内周面の内径を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径より大きな円筒面に形成することにより、溶接により発生する高温ガスをスタッド挿入孔の上端部から噴出させる上吹きタイプのスタッド溶接用フェルールにおいて、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径より大きい円筒面に形成したスタッド挿入孔の下端部の内周面によって、余剰ガスを逃がす大きな空間を形成して、余剰ガスのガス圧の影響を低減することができる。これにより、溶融した金属が外周側に流れやすくなり、このため、溶接部の断面積が拡大し、溶接部の強度、特に、疲労強度を高めることができる。
また、フェルールのスタッド挿入孔の下端部の内周面に余剰ガスが当たることによってフェルールが溶解したガラス状の溶解成分を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径より大きい円筒面に形成したスタッド挿入孔の下端部の内周面によって形成した空間で完全に吸収することができる。これにより、溶解したガラス状の溶解成分が溶融した金属と母材とが接する箇所に入り込むことがなく、溶接部の強度、特に、疲労強度を高めることができる。
【0016】
また、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径を、スタッド挿入孔の上部の内周面の内径と同一に形成することにより、溶接により発生する高温ガスをスタッド挿入孔の上端部から噴出させやすくして、余剰ガスのガス圧の影響を低減することができる。
【0017】
また、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径を、スタッド挿入孔の上部の内周面の内径より大きく形成することにより、溶融した金属が最適な余盛部分となるような滞留部を確実に形成するようにすることができる。
【0018】
また、前記スタッド挿入孔の下端部の円筒面に形成する内周面の内径を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径の1.2〜1.4倍に、該内周面の高さ方向の寸法を、1〜2mmに設定することにより、余剰ガスの逃げ部及びフェルールが溶解したガラス状の溶解成分の吸収部としての十分な空間(容積)を確保し、溶融した金属が最適な余盛部分となるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のスタッド溶接用フェルールの一実施例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】同スタッド溶接用フェルールを用いた場合のスタッド溶接の説明図で、(a)はスタッドにフェルールを取り付けた状態を、(b)はスタッドの溶接部の概略図である。
【図3】同スタッド溶接用フェルールを用いた場合と、従来のスタッド溶接用フェルールを用いた場合のスタッド溶接部の疲労強度を示す両対数疲労曲線図である。
【図4】本発明のスタッド溶接用フェルールの変形実施例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】同スタッド溶接用フェルールを用いた場合のスタッド溶接の説明図で、(a)はスタッドにフェルールを取り付けた状態を、(b)はスタッドの溶接部の概略図である。
【図6】従来のスタッド溶接用フェルールを示す一部断面の正面図である。
【図7】従来の上吹きタイプのスタッド溶接用フェルールを示し、(a)は周壁の内周面を円筒面としたものを示す一部断面の正面図、(b)はこのスタッド溶接用フェルールを用いた場合のスタッド溶接の説明図である。
【図8】従来の上吹きタイプのスタッド溶接用フェルールを示し、(a)は周壁の内周面を円錐台面としたものを示す一部断面の正面図、(b)は周壁の内周面を前記円錐台面の傾斜面を弧状としたものを示す一部断面の正面図、(c)は(b)に示すスタッド溶接用フェルールを用いた場合のスタッド溶接の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のスタッド溶接用フェルールの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1〜図2に、本発明のスタッド溶接用フェルールの一実施例を示す。
【0022】
このスタッド溶接用フェルール1は、スタッド挿入孔3の上部の内周面3aに、この内周面3aとスタッドSの外周面との間隔を保持するための複数個の上下方向に延びる突出部6を形成するとともに、スタッド挿入孔3の下端部の内周面3cの内径D2を、溶融金属の滞留部20となるスタッド挿入孔3の下部の内周面3bの内径D1より大きな円筒面5に形成するようにしている。
【0023】
スタッド挿入孔3の下部の内周面3bは、スタッドSの溶接部の余盛部分を決定する溶融金属の滞留部20を形成するものである。
そして、溶融金属の滞留部20が小さすぎる場合には、溶接部を十分な大きさの余盛部分とすることができず、また、大きすぎる場合には、スタッド溶接用フェルールの本来の機能を果たせないものとなるため、スタッド挿入孔3の下部の内周面3bの内径D1は、スタッドSの直径Dsの1.2〜1.4倍(図示の実施例(直径16mmスタッド溶接用フェルール)においては、溶融金属の滞留部20となるスタッド挿入孔3の下部の内周面3bの内径D1を、スタッド挿入孔3の上部の内周面3aの内径Dと同じ、21mm)に設定するようにしている。
【0024】
ところで、本実施例においては、溶融金属の滞留部20となるスタッド挿入孔3の下部の内周面3bの内径D1を、スタッド挿入孔3の上部の内周面3aの内径Dと同一に形成することにより、溶接により発生する高温ガスをスタッド挿入孔3の上端部から噴出させやすくしたが、図4〜図5に示す変形実施例のように、溶融金属の滞留部20となるスタッド挿入孔3の下部の内周面3bの内径D1を、スタッド挿入孔3の上部の内周面3aの内径Dより大きく形成する(この変形実施例においては、溶融金属の滞留部20となるスタッド挿入孔3の下部の内周面3bを下方に向けて内径が漸次拡大する円錐台面4からなる内周面に形成するようにしている。)ことができる。
【0025】
そして、図4〜図5に示す変形実施例においては、スタッド挿入孔3の下部の円錐台面4からなる内周面3bの下端の内径D1を、スタッド挿入孔3の内径Dの1.05〜1.25倍、より好ましくは、1.1〜1.2倍(図示の実施例(直径16mmスタッド溶接用フェルール)においては、スタッド挿入孔3の内径Dを19mm、円錐台面4に形成する内周面3bの下端の内径D1を21mm(スタッド挿入孔3の内径Dの1.1倍))に、内周面3bの高さ方向の寸法H1を、スタッド挿入孔3の内径Dの0.1〜0.4倍、より好ましくは、0.15〜0.3倍(図示の実施例(直径16mmスタッド溶接用フェルール)においては、スタッド挿入孔3の内径を19mm、円錐台面4に形成する内周面3bの下端の内径D1の内径を21mm、スタッド挿入孔3の上部の内周面3aに対する円錐台面4からなる内周面3bの傾斜角度θを15°として、内周面3bの高さ方向の寸法H1を3.7mm(スタッド挿入孔3の内径Dの0.2倍))に、それぞれ設定するようにしている。
【0026】
なお、スタッド挿入孔3の下部の内周面3bの形状は、図1〜図2に示す実施例の円筒面としたり、図4〜図5に示す変形実施例の円錐台面4とするほか、傾斜面を弧状に形成することができる。
この場合も、内周面3bの下端の内径D1及び内周面3bの高さ方向の寸法H1は、上記の数値を適用するようにする。
【0027】
スタッド挿入孔3の下端部の円筒面5からなる内周面3cは、余剰ガスを逃がすための大きな空間を形成して、余剰ガスのガス圧の影響を低減するためのもので、この空間を形成することによって、溶融した金属が外周側に流れやすくなり、溶融した金属が最適な余盛部分となるようにすることができ、このため、溶接部の断面積が拡大し、溶接部の強度、特に、疲労強度を高めることができる。
また、併せて、フェルール1が溶解したガラス状の溶解成分を、上記空間で完全に吸収することができ、これによって、溶解したガラス状の溶解成分が溶融した金属と母材とが接する箇所に入り込むことがなく、溶接部の強度、特に、疲労強度を高めることができる。
そして、このような役割を果たす空間(容積)が形成されるように、その内径D2及び高さ方向の寸法H2を設定する必要がある。
そして、具体的には、スタッド挿入孔3の下端部の円筒面5からなる内周面3cの内径D2を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔3の下部の内周面3bの内径D1の1.2〜1.4倍(図示の実施例(直径16mmスタッド溶接用フェルール)においては、円筒面5からなる内周面3cの内径D2を27.5mm(スタッド挿入孔3の下部の内周面3bの内径D1のスタッド挿入孔3の内径Dの1.3倍))に、内周面3bの高さ方向の寸法H2を、1〜2mm(図示の実施例(直径16mmスタッド溶接用フェルール)においては、1.2mm)に、それぞれ設定するようにしている。
【0028】
また、スタッド挿入孔3の上部の内周面3aに形成する、内周面3aとスタッドSの外周面との間隔を保持するための複数個の上下方向に延びる突出部6は、スタッドSとスタッド挿入孔3との間に所定の隙間を形成し、発生する高温ガスをスタッド挿入孔3の上端部から噴出させるように構成するものであれば、特に限定されるものではなく、本実施例においては、内周面3aに等間隔で4箇所に等間隔に突設して形成するようにしている。
突出部6のスタッド挿入孔3の内径方向の突出寸法は、スタッドSがある程度の自由度を持ってスタッド挿入孔3に挿入される寸法であれば、特に限定されるものではなく、突出部6の内径方向の面とスタッド挿入孔3に挿入されたスタッドSの周面との間に、0.2〜1.0mm程度の間隙が形成される寸法としている。
突出部6のスタッド挿入孔3の高さ方向の寸法は、余盛部分に影響を与えないように、円錐台面4に形成する内周面3bにかからない範囲の寸法であれば、特に限定されるものではなく、フェルール1の高さ方向の寸法の10〜30%程度の寸法としている。
【0029】
以下、このスタッド溶接用フェルール1を用いて、母材Wに略垂直にスタッドSを溶接する方法について説明する。
スタッド溶接ガン(図示省略)に、スタッドSを装着するとともに、このスタッドSに適合したスタッド挿入孔3を有するスタッド溶接用フェルール1を、フェルール1の周壁2によりスタッドSの溶接部の外周を囲むようにして、装着するようにする。
【0030】
次に、スタッド溶接ガンを操作することにより、スタッドSを母材Wに一旦当接した後、離間して、スタッドSと母材W間にアークを発生させる。
この場合、フェルール1により、アークによって溶融した金属が、空気と接触することによって酸化されることを防止することができる。
そして、このスタッド溶接用フェルール1は、溶接により発生する高温ガスを、突出部6によって形成されるスタッド挿入孔3の上端部の内周面3aとスタッドSの外周面との隙間から噴出させる、上吹きタイプのスタッド溶接用フェルールにおいて、スタッド挿入孔3の下端部に円筒面5からなる内周面3cによって余剰ガスを逃がすための大きな空間を形成して、余剰ガスのガス圧の影響を低減することによって、溶融した金属が外周側に流れやすくなり、溶融した金属が最適な余盛部分となるようにすることができ、このため、溶接部の断面積が拡大し、溶接部の強度、特に、疲労強度を高めることができる。
また、併せて、フェルール1が溶解したガラス状の溶解成分を、上記空間で完全に吸収することができ、これによって、溶解したガラス状の溶解成分が溶融した金属と母材とが接する箇所に入り込むことがなく、溶接部の強度、特に、疲労強度を高めることができる。
【0031】
図3に、上記図1〜図2に示す実施例のスタッド溶接用フェルール及び従来のスタッド溶接用フェルールを用いて溶接したスタッドの溶接部の剪断力(スタッド軸に対して直角方向の力)を繰り返しかけた場合の疲労強度を測定した実験結果(両対数疲労曲線図)を示す。
図3から明らかなように、上記実施例のスタッド溶接用フェルールは、従来のスタッド溶接用フェルールに比べて、疲労強度を大幅に向上させることができた。
【0032】
以上、本発明のスタッド溶接用フェルールについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のスタッド溶接用フェルールは、溶接部が最適な余盛部分となるようにして、溶接部の疲労強度を向上させることができる特性を有していることから、橋梁用の合成ゲタに用いるスタッド等、母材に略垂直にスタッドを溶接する際に用いるスタッド溶接用フェルールの用途に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 スタッド溶接用フェルール
2 周壁
3 スタッド挿入孔
3a 内周面
3b 内周面
3c 内周面
4 円錐台面
5 円筒面
6 突出部
D スタッド挿入孔の内径
D1 溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径
D2 スタッド挿入孔の下端部の内周面の内径
H1 溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の高さ方向の寸法
H2 スタッド挿入孔の下端部の内周面の高さ方向の寸法
S スタッド
W 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド挿入孔の上部の内周面に、該内周面とスタッドの外周面との間隔を保持するための複数個の突出部を形成するとともに、スタッド挿入孔の下端部の内周面の内径を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径より大きな円筒面に形成したことを特徴とするスタッド溶接用フェルール。
【請求項2】
溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径を、スタッド挿入孔の上部の内周面の内径と同一に形成したことを特徴とする請求項1記載のスタッド溶接用フェルール。
【請求項3】
溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径を、スタッド挿入孔の上部の内周面の内径より大きく形成したことを特徴とする請求項1記載のスタッド溶接用フェルール。
【請求項4】
前記スタッド挿入孔の下端部の円筒面に形成する内周面の内径を、溶融金属の滞留部となるスタッド挿入孔の下部の内周面の内径の1.2〜1.4倍に、該内周面の高さ方向の寸法を、1〜2mmに設定するようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3記載のスタッド溶接用フェルール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−240375(P2011−240375A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115080(P2010−115080)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(597079669)
【出願人】(597079670)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【出願人】(000228981)日本スタッドウェルディング株式会社 (31)