説明

スタンパー、及びスタンパーの評価方法

【課題】光透過性スタンパーの欠陥の有無を容易に確認する。
【解決手段】波長450nm以下、NA0.6以上であるレーザーをデータ記録部に照射し、その電圧信号の和信号において、スタンパの回転数の60倍から170倍の周波数の範囲内における最大電圧値レベルをVfと、データ記録部の平均和信号電圧値をVaveとが、Vf/Vave<7.7×10−4…(1)を満足するか判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録層表面にディスクリートトラックを有する磁気記録媒体の製造に用いられるスタンパーに係り、特に、ディスクリートトラックに相当する凹凸パターンをレジストに転写するための光透過性スタンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体の記録密度を向上するために、記録トラック同士を物理的に分離したディスクリートトラックレコーディング媒体(DTR媒体)が提案されている。
【0003】
このDTR媒体の製造する過程で、磁気記録層表面に塗布されたレジストに対してインプリントスタンパーを押し付け、レジストに凹凸パターンを転写し、さらに、このレジストをマスクとして磁気記録層を加工する(例えば特許文献1参照)。
【0004】
従来、このようなインプリントスタンパーとしては、電鋳プロセスにより作製されたNiスタンパーが、ファザースタンパー、マザースタンパーまたはサンスタンパーとして用いられていた。しかし、電鋳プロセスを用いた場合、Niスタンパー1枚あたり1時間程度の長い作製時間がかかり、またNiスタンパーは寿命が短く大量生産には適していないという問題があった。これに対して、電鋳プロセスにより、ファザースタンパーとして最初のNiスタンパーを作製し、その後に作成されるマザースタンパーまたはサンスタンパーは、射出成形プロセスを用いて作製すれば、1枚当たり数秒程度の短い作製時間で樹脂スタンパーが得られる。
【0005】
このような射出形成プロセスは、これまで光ディスクの作製に使用されてきた。
【0006】
例えば2枚の成形基板を貼り合わせたDVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスクでは、少なくとも1枚の成形基板にトラックピッチ300nm以上の凹凸パターンが形成され、この凹凸を含む厚さ30μm以上の光記録層が成膜されている。
【0007】
しかし、DTR媒体では、トラックピッチ、凹凸高さ共に100nm以下のパターンを形成する。このように、データが高密度化されトラックが微細になると、レジストパターンの転写、剥離により樹脂スタンパーの寿命が低下しやすかった。
【0008】
また、一般的な欠陥検査装置で調べる場合、通常光の反射を用いて欠陥を検出するが、樹脂スタンパーをはじめとする光透過性スタンパーでは、光を透過してしまうが故に反射率が低く、更にパターン表面だけでなくパターン裏面からの光も反射するためにパターン表面の欠陥検査を行うことが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−157520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、樹脂スタンパーの欠陥の有無を容易に確認することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のスタンパーは、記録媒体の記録層表面にトラックパターン及び/又はアドレスパターンを形成するためにマスクとして設けられる紫外線硬化性樹脂層に、該トラックパターン及び/又はアドレスパターンに相応するパターンを転写するための凹凸パターンを持つ樹脂スタンパーであって、
該凹凸パターンは、該記録媒体のデータ記録部及びアドレス部を含むデータ領域に対応する領域を有し、
前記スタンパーを回転させながら、波長が450nm以下、レーザ開口数NAが0.6以上であるレーザーをデータ記録部に照射し、その反射光に基づいて得られた電圧信号の和信号において、スタンパの回転数の60倍から170倍の周波数の範囲内における最大電圧値レベルをVfとし、該データ記録部の平均和信号電圧値をVaveとするとき、
下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0012】
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)
本発明のスタンパーの評価方法は、記録媒体の記録層表面にトラックパターン及び/又はアドレスパターンを形成するためにマスクとして設けられる紫外線硬化性樹脂層に、該トラックパターン及び/又はアドレスパターンに相応するパターンを転写するための凹凸パターンを持つスタンパーを評価する方法であって、
該凹凸パターンは、該記録媒体のデータ記録部及びアドレス部を含むデータ領域に対応する領域を有し、
前記スタンパーを回転させながら、波長が450nm以下、レーザ開口数NAが0.6以上であるレーザーをデータ記録部に照射し、その反射光に基づいて得られた電圧信号の和信号において、スタンパの回転数の60倍から170倍の周波数の範囲内における最大電圧値レベルをVfとし、該データ記録部の平均和信号電圧値をVaveとするとき、
下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0013】
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)。
【発明の効果】
【0014】
本発明を用いると、光透過性スタンパーの欠陥の有無を容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】スタンパーの検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】スタンパーの検査方法のフローチャートを表す図である。
【図3】Haveの波形の一例を示す図である。
【図4】本発明のスタンパーを用いて磁気記録媒体を作成する方法を説明するための図である。
【図5】FFTアナライザによる測定結果を表す図である。
【図6】磁気記録装置の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いられるスタンパーは、記録媒体の記録層表面にトラックパターン及び/又はアドレスパターンを形成するためにマスクとして設けられる紫外線硬化性樹脂層に、該トラックパターン及び/又はアドレスパターンに相応するパターンを転写するために用いられ、記録媒体のデータ記録部及びアドレス部を含むデータ領域に対応する領域を有する凹凸パターンを持つ。
【0017】
さらに、本発明のスタンパーは、スタンパーを回転させながら、波長が450nm以下、レーザ開口数NAが0.6以上であるレーザーをデータ記録部に照射し、その反射光に基づいて得られた電圧信号の和信号において、スタンパの回転数の60倍から170倍の周波数の範囲内における最大電圧値レベルをVfとし、データ記録部の平均和信号電圧値をVaveとするとき、
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)
を満足する。
【0018】
このような樹脂スタンパーは欠陥がなく、紫外線硬化性樹脂層への凹凸パターンの転写に使用できる。
【0019】
また、本発明のスタンパーの評価方法は、スタンパーを回転させながら、波長が450nm以下、レーザ開口数NAが0.6以上であるレーザーをデータ記録部に照射し、その反射光に基づいて得られた電圧信号の和信号において、スタンパの回転数の60倍から170倍の周波数の範囲内における最大電圧値レベルをVfとし、データ記録部の平均和信号電圧値をVaveとするとき、
下記式(1)を満足するか判定する。
【0020】
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)
本発明に係るスタンパーの評価方法により、スタンパーの欠陥の有無が容易に判定し得る。また、これにより、欠陥のないスタンパーを、トラックパターンに相応するパターンの転写に使用できる。
【0021】
また、紫外線硬化性樹脂にパターンを転写する前及び転写した後に、電圧信号の和信号を各々測定し、Vf/Vaveの値を求めることができる。この値が、上記式(1)を満たし、かつパターンの転写前後で値に大きな変化がなければ、このスタンパーは、欠陥が発生しなかったことがわかり、再利用が可能と判断できる。
【0022】
本発明で用いるスタンパーは、
以下、紫外線硬化性樹脂転写後のスタンパーの検査装置について説明する。
【0023】
ここでは、0.6mm厚に成形した1.8インチ磁気記録媒体用の樹脂スタンパーを例とする。
【0024】
本樹脂スタンパーは、中心から半径9.0−23.0 mmの範囲にデータ領域が存在する。データ領域にはデータ記録部及びアドレス部が存在し、データ記録部ではトラックピッチ0.1μm(L/G=70nm/30nm)、深さ50nmとした。
【0025】
図1は、スタンパーのデータ領域を再生して紫外線硬化性樹脂の転写不良の有無を調べる検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【0026】
図1に示すように、スタンパーは例えば樹脂で形成されたスタンパーである。光源には半導体レーザ光源120が用いられる。その出射光の波長は、例えば400nm〜410nmの範囲の紫色波長帯のものである。レーザーの開口数NAは0.6以上が好ましい。半導体レーザ光源120からの出射光110は、コリメートレンズ121により平行光となり偏光ビームスプリッタ122、λ/4板123を透過して、対物レンズ124に入射される。その後、スタンパーDの基板を透過し、基板上の溝が形成されている面に集光されるようになっている。スタンパーDの情報記録層による反射光111は、再びスタンパーDの基板を透過し、対物レンズ124、λ/4板123を透過し、偏光ビームスプリッタ122で反射された後、集光レンズ125を透過して光検出器126に入射される。
【0027】
光検出器127の受光部は、通常複数に分割されておりそれぞれの受光部から光強度に応じた電流を出力する。出力された電流は、図示しないI/Vアンプ(電流電圧変換)により電圧に変換された後、演算回路140に入力される。入力された電圧信号は、演算回路140によりチルト誤差信号及びHF信号及びフォーカス誤差信号及びトラック誤差信号などに演算処理される。チルト誤差信号はチルト制御を行うためのものであり、HF信号は記録された情報を再生するためのものであり、フォーカス誤差信号はフォーカス制御を行うためのものであり、またトラック誤差信号はトラッキング制御を行うためのものである。
【0028】
対物レンズ124はアクチュエータ128にて上下方向、ディスクラジアル方向、およびチルト方向(ラジアル方向または/およびタンジェンシャル方向)に駆動可能であり、サーボドライバ150によってスタンパーD上の情報トラックに追従するように制御される。
【0029】
なお、本検査装置では、半導体レーザの波長の例として400−410nmの範囲としたが、これに限ることはなく、さらに短波長でもよい。
【0030】
また、NAは0.6以上としたが、NAは大きいほどレーザーのスポット径が小さくなり、より細かい欠陥をみつけることができる。
【0031】
このようなスタンパー検査装置を用いて、本発明のスタンパーを再生することができる。本実施例においては、パルステック社製DDU−1000を用いた。このときのレーザ波長は405nm、NA(開口数)は0.65であった。レーザースポット径は約0.6umとなり、データ記録部のトラックピッチの約6倍となる。したがって、このパターンを再生したときには、データ記録部のパターンの凹凸はレーザの反射光からは見えず、一定の反射光として検出される。また、アドレス部においても同様で、詳細なパターンを反射光で検出することはできない。したがって、各信号強度に惑わされず、全体的な傾向を調べやすいという利点がある。
【0032】
次に、紫外線硬化性樹脂転写後のスタンパーの検査方法について説明する。
【0033】
図2に、本発明のスタンパーの検査方法を表すフローチャート示す。
【0034】
上記評価装置にスタンパをセットし、本実施例では1.2m/sの線速度でスタンパを回転させた(ST1)。
【0035】
レーザを照射し(ST2)、チルトやオフセットを差信号(プッシュプル信号)最大となるところに調整し、フォーカシングを行う(ST3)。評価装置から和信号の出力信号を取り出し、デジタルオシロスコープで波形を取り込む。1回転分のデータ記録部部分の最大電圧値Hmaxと最小電圧値Hminを測定する(ST4)。1回転分のデータ記録部部分の平均電圧値Vaveを求める(ST5)。
【0036】
ここで、得られたHaveの波形の一例を図3に示す。この波形は1回転分のうち、一部の波形を取り出したものであるが、波形はアドレス部とデータ記録部とが混在しており、データ記録部の信号レベルのみを調べ、図のとおり平均的な電圧値Vaveを1回転分調べて計算に用いる。
【0037】
次に、和信号の出力信号をFFTアナライザ(小野測器社製CF−5210使用)で観察した。なお、FFTアナライザの測定条件は100サンプルを平均化したデータとしている。
【0038】
線速度1.2m/sにおいて、r=22.5mmの1回転の周波数は8.5Hz, 60回転の周波数は510Hz, 170回転の周波数は1445Hzとなる。510Hzから1445Hzの間で電圧値が最大となる値を抽出し、これをVfとする。
【0039】
このようにして求めたVfを先に求めたVaveで規格化することにより、転写状態の良否を判断する。
【0040】
なお、ここで測定するのはある半径位置1か所のみでもよいし、数か所あるいはスタンパ全面に亘って調べてもよい。スタンパ全面にわたって調べるのが最も良い方法であるが、転写が不十分の場合は全面で紫外線硬化性樹脂残りによる欠陥が生じるため、特に外周近傍で測定すれば測定時間が短縮となり、良好である。
【0041】
Vf/Vaveが7.7×10−4よりも小さい場合、転写はOKで、必要であれば使用後の樹脂スタンパも再利用することが可能となる(ST6)。また、この値が7.7×10−4より大きい場合、転写が良好ではなく、磁気記録媒体も転写不良でNG品となる(ST7)。
【0042】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0043】
まず、各実施例及び比較例に共通の媒体製造方法について述べる。
【0044】
透明な樹脂スタンパーは、以下のような方法により作製したものである。
【0045】
まず、原盤にレジストを塗布し、電子線リソグラフィによりサーボ領域とデータ領域を描画してレジスト原盤を作製した。レジストとしてはポジ型のものを使用し、レジストの厚さを50nmとした。データ領域におけるディスクリートトラックに対応する凹凸パターンは、トラックピッチ(TP)が100nmであった。
【0046】
このレジスト原盤に対して電鋳を行い、射出成形用のNiスタンパーを作製した。なお、Niスタンパーとしては、原盤から最初に作製されたいわゆるファザースタンパー;ファザースタンパーから電鋳法により複製されたマザースタンパー;マザースタンパーから更に電鋳法により複製されたサンスタンパーのいずれを用いてもよい。
【0047】
1枚のNiスタンパーを用い、射出成形により樹脂製の透明スタンパーAないしDを各々作製した。透明スタンパーの材料としてはポリカーボネート(PC)を使用してもよいが、紫外線硬化性樹脂との離型性を考慮すると、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などを使用することが出来る。また、各材料においては、離型剤としてフッ素置換基やシリコンを有するような有機化合物を混合することができる。
【0048】
なお、ここでは、透明スタンパーの材料として、シクロオレフィンポリマーを使用した。
【0049】
図4に、本発明のスタンパーを用いて磁気記録媒体を作成する方法を説明するための図を示す。
【0050】
図4(a)に示すように、媒体基板であるドーナツ型ガラス基板51の両面に磁性層52を成膜した。
【0051】
磁性層としては、軟磁性(裏打ち)層上に垂直磁気記録層を有するいわゆる垂直二層媒体が構成することができる。
【0052】
軟磁性(裏打ち)層には、例えばFe、Ni、Coを含む材料を用いることができる。このような材料として、FeCo系合金例えばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金例えばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金例えばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金例えばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金例えばFeZrNなどを挙げることができる。
【0053】
垂直磁気記録層は、Coを主成分とするとともにPtを含むことが出み、さらに任意に酸化物を含んだ材料からなり得る。この酸化物としては、特に酸化シリコン,酸化チタンが選択できる。
【0054】
垂直磁気記録層は、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)が分散していることが好ましい。この磁性粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性粒子の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得ることができる。このような構造を得るためには、含有させる酸化物の量が重要となる。酸化物の含有量は、Co、Cr、Ptの総量に対して、3mol%以上12mol%以下であることが好ましい。さらに好ましくは5mol%以上10mol%以下である。垂直磁気記録層中の酸化物の含有量として上記範囲が好ましいのは、層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子の孤立化、微細化をすることができるためである。
【0055】
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは5ないし60nm、より好ましくは10ないし40nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置として動作し得る。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向があり、垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。
【0056】
このガラス基板51の片面の磁性層52上に、粘度が5cpsの紫外線硬化樹脂(以下、紫外線硬化性樹脂という)を、中心孔にかからないようにスピン塗布し、10000回転で30秒間振り切ることにより、厚さT1が60nmの紫外線硬化性樹脂層61を形成した。
【0057】
図4(b)に示すように、凹凸パターンが形成された樹脂製の第1の透明スタンパー71を用意した。
【0058】
真空チャンバー81内において、103Pa以下の真空雰囲気下でガラス基板51の片面と第1の透明スタンパー71のパターン面とを紫外線硬化性樹脂層61を介して貼り合わせた。
【0059】
図4(c)に示すように、真空を開放し、大気圧下で第1の透明スタンパー71を通してUVを照射して紫外線硬化性樹脂層61を硬化させた。硬化に必要な時間は、使用した紫外線硬化性樹脂に含まれる重合開始剤の硬化特性およびUV光源の能力によるが、通常、数十秒で硬化可能である。
【0060】
図4(d)に示すように、ガラス基板51から第1の透明スタンパー71を剥離し、凹凸パターンが転写された紫外線硬化性樹脂層61を形成した。凹部に残る紫外線硬化性樹脂層61の厚さT2は30nmであった。
【0061】
なお、本実施例ではガラス基板に紫外線硬化性樹脂を塗布したが、透明スタンパーのパターン面に紫外線硬化性樹脂を塗布してもよいし、ガラス基板と透明スタンパーの両方に紫外線硬化性樹脂を塗布してもよい。
【0062】
ここで使用した第1の樹脂スタンパ71を上記検査装置にて検査を行った。
【0063】
実験は4回行い、それぞれ使用したスタンパをスタンパA,スタンパB,スタンパC,スタンパDとした。
【0064】
その結果得られたVf/Vave値、紫外線硬化性樹脂層への転写状況、及びビットエラーレートを下記表1に示す。
【表1】

【0065】
なお、紫外線硬化性樹脂層への転写状況は、光学顕微鏡で観察したときに転写剥離によって発生する欠陥がない場合を二重丸、転写剥離によって発生する欠陥が1〜3個の場合を○,転写剥離によって発生する欠陥が4個以上の場合を×と各々評価した。
【0066】
また、この時に使用したFFTアナライザ評価結果を図5に示す。
【0067】
スタンパAでは、Vf=1.01e−4V, Vave=0.1328Vであり、これよりVf/Vave=7.62×10−4となった。剥離後の磁気記録媒体の転写状態を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)で観察したところ、問題は見られなかった。
【0068】
スタンパBでは、Vf=6.71×10−5V, Vave=0.1315Vであり、これよりVf/Vave=5.10×10−4となった。剥離後の磁気記録媒体の転写状態をAFMで観察したところ、スタンパAよりもシャープに転写できていた。
【0069】
スタンパCでは、Vf=3.06×10−4V, Vave=0.1267Vであり、これよりVf/Vave=2.41×10−3となった。剥離後の磁気記録媒体の転写状態をAFMで観察したところ、形状が乱れていることがわかった。
【0070】
スタンパDでは、Vf=1.02e−4V, Vave=0.1288Vであり、これよりVf/Vave=2.89×10−4となった。剥離後の磁気記録媒体の転写状態をAFMで観察したところ、形状が乱れていることがわかった。
【0071】
次に、図4(e)に示すように、酸素ガスRIE(反応性イオンエッチング)で紫外線硬化性樹脂61の残差除去を行った。続いて、図4(f)に示すように、インプリント工程で生じた残渣を除去したエッチングマスクを用いて、Arイオンビームを用いたエッチング(Arイオンミリング)にて磁性体加工を行った。さらにミリング後、紫外線硬化性樹脂の剥離を行った。磁性膜上にあるカーボン保護膜が露出するまでエッチバックを行う。エッチバック後、図示しないC保護膜の形成を行い、図4(g)に示すように磁気記録媒体を作成した。
【0072】
上記磁気記録媒体のRRO評価、及び記録再生を行う磁気記録装置を図6に示す。
【0073】
この磁気記録装置60は、筐体161の内部に、磁気記録媒体62と、磁気記録媒体62を回転させるスピンドルモータ63と、記録再生ヘッドを含むヘッドスライダー64と、ヘッドスライダー64を支持するヘッドサスペンションアッセンブリ(サスペンション65とアクチュエータアーム66)と、ボイスコイルモータ67と、回路基板とを備える。
【0074】
磁気記録媒体62はスピンドルモータ63に取り付けられて回転され、垂直磁気記録方式により各種のデジタルデータが記録される。ヘッドスライダー64に組み込まれている磁気ヘッドはいわゆる複合型ヘッドであり、単磁極構造のライトヘッドと、GMR膜やTMR膜などを用いたリードヘッドとを含む。アクチュエータアーム66の一端にサスペンション65が保持され、サスペンション65によってヘッドスライダー64を磁気記録媒体62の記録面に対向するように支持する。アクチュエータアーム66はピボット68に取り付けられる。アクチュエータアーム64の他端にはアクチュエータとしてボイスコイルモータ67が設けられている。ボイスコイルモータ67によってヘッドサ0スペンションアッセンブリを駆動して、磁気ヘッドを磁気記録媒体62の任意の半径位置に位置決めする。回路基板はヘッドICを備え、ボイスコイルモータの駆動信号、および磁気ヘッドによる読み書きを制御するための制御信号などを生成する。この磁気ディスク装置を用いて情報の記録を行い、記録した信号を再生してビットエラーレートを測定した。
【0075】
スタンパAから転写し加工した磁気記録媒体では、ビットエラーレート(bER)が−6.3桁と良好な結果が得られた。なお、本実施例中におけるビットエラーレートは、トラック中心を測定したときに−6桁以下となると良好と定義する。
【0076】
スタンパBから転写し加工した磁気記録媒体では、ビットエラーレート(bER)が−7.1桁と良好な結果が得られた。
【0077】
スタンパCから転写し加工した磁気記録媒体では、転写むらにより磁気記録媒体上にヘッドを浮上させることができず、記録再生特性を調べることができなかった。
【0078】
スタンパDから転写し加工した磁気記録媒体では、ビットエラーレート(bER)が−5.1桁と悪い結果が得られた。
【0079】
以上の実験結果より、Vf/Vave < 7.7×10−4であれば、剥離後の磁気記録媒体の転写も良好となるといえる。
【0080】
ここで、転写が良好であったスタンパーA,Bについて、スタンパーの再利用を行い、磁気記録媒体Aと同じように再びパターン転写を行い、磁気記録媒体への加工を行った。
【0081】
この磁気記録媒体に同様に情報の記録を行い、記録した信号を再生してビットエラーレートを測定したところ、再利用したスタンパーAから転写し加工した磁気記録媒体Eでは、
ビットエラーレート(bER)が−6.5桁と良好な結果が得られた。
【0082】
再利用したスタンパーBから転写し加工した磁気記録媒体Fでは、ビットエラーレート(bER)が−6.7桁と良好な結果が得られた。
【0083】
また、成形後(転写前)の樹脂スタンパーについても、転写後の樹脂スタンパーと同様に検査を行うことができる。
【0084】
例えば、上記実施例と同様に作成した成形後の樹脂スタンパーについて、 Vf/Vaveを測定したところ、Vf=1.08×10−4V,Vave=0.131Vより、8.24×10−4となった。
【0085】
このスタンパーを用いてパターン転写を行った磁気記録媒体に同様に加工を行った。
【0086】
このようにして完成した磁気記録媒体に同様に情報の記録を行い、記録した信号を再生してビットエラーレートを測定したところ、
−7.0桁と良好な値であった。
【0087】
以上の結果より、成形後(パターン転写前)の樹脂スタンパーについても、本発明の検査方法を用いることにより、良好なスタンパーを得ることができる。
【0088】
紫外線硬化性樹脂転写使用後のスタンパーを光検査装置で検査を行うことにより、磁気記録媒体への簡便な転写の良否判定が可能となった。また、スタンパーの評価で良好な結果が出た場合には、紫外線硬化性樹脂転写後の磁気記録媒体の検査を省略することが可能となり、その分、欠陥を発生するリスクも低減できる。さらに、この検査で欠陥が見つからないスタンパーに関しては再利用を行うことができ、資源を無駄なく利用することが可能となる。
【0089】
なお、本実施例では樹脂スタンパーを用いた欠陥検査について述べたが、これに限ることはなく、たとえば石英やガラスなどの上にパターンを形成した光透過性スタンパーを用いた場合にも同様に行うことが可能となる。特に、石英やガラスなどは樹脂スタンパーに比べて高価なため、繰りかえし使用できるかどうかの検査を行うことは重要であり、本発明を用いた検査は非常に有用である。
【0090】
また、本実施例においては、トラックパターンとアドレスパターンの両方をパターンに持つ樹脂スタンパに用いたが、アドレス部のみのパターンを持つ光透過性スタンパについても用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
62…記録媒体、61…記録層、…紫外線硬化性樹脂層、71…樹脂スタンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の記録層表面にトラックパターン及び/又はアドレスパターンを形成するためにマスクとして設けられる紫外線硬化性樹脂層に、該トラックパターン及び/又はアドレスパターンに相応するパターンを転写するための凹凸パターンを持つスタンパーであって、
該凹凸パターンは、該記録媒体のデータ記録部及びアドレス部を含むデータ領域に対応する領域を有し、
前記スタンパーを回転させながら、波長が450nm以下、レーザ開口数NAが0.6以上であるレーザーをデータ記録部に照射し、その反射光に基づいて得られた電圧信号の和信号において、スタンパの回転数の60倍から170倍の周波数の範囲内における最大電圧値レベルをVfとし、該データ記録部の平均和信号電圧値をVaveとするとき、
下記式(1)を満たすことを特徴とするスタンパー。
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)
【請求項2】
前記紫外線硬化性樹脂層にパターンを転写する前及び転写した後に
前記最大電圧値レベルVfと平均和信号電圧値をVaveが、
下記式(1)を満たすことを特徴とするスタンパー。
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のスタンパー。
【請求項3】
記録媒体の記録層表面にトラックパターン及び/又はアドレスパターンを形成するためにマスクとして設けられる紫外線硬化性樹脂層に、該トラックパターン及び/又はアドレスパターンに相応するパターンを転写するための凹凸パターンを持つスタンパーを評価する方法であって、
該凹凸パターンは、該記録媒体のデータ記録部及びアドレス部を含むデータ領域に対応する領域を有し、
前記スタンパーを回転させながら、波長が450nm以下、レーザ開口数NAが0.6以上であるレーザーをデータ記録部に照射し、その反射光に基づいて得られた電圧信号の和信号において、スタンパの回転数の60倍から170倍の周波数の範囲内における最大電圧値レベルをVfとし、該データ記録部の平均和信号電圧値をVaveとするとき、
下記式(1)を満たすことを特徴とするスタンパーの評価方法。
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)
【請求項4】
前記紫外線硬化性樹脂にトラックパターンに相応するパターンを転写する前及び転写した後に、
前記最大電圧値レベルVfと前記平均和信号電圧値をVaveが下記式(1)
を満足するか判定することを特徴とする請求項3に記載のスタンパーの評価方法。
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)
【請求項5】
前記トラックパターンに相応するパターンの転写前の前記最大電圧値レベルVfと前記平均和信号電圧値をVaveとの関係が下記式(1)を満たし、かつ前記トラックパターンに相応するパターンの転写後の前記最大電圧値レベルVfと前記平均和信号電圧値をVaveとの関係と同様であるとき、スタンパーの再利用を決定することを特徴とする請求項4に記載のスタンパーの評価方法。
Vf/Vave<7.7×10−4…(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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