説明

スタンプ装置

【課題】捺印しない時はインクケースのシール性が高く、捺印時にはインクケースから印板を離間しやすく、スタンプ操作が容易で被印面の凹凸も吸収可能なスタンプ装置の提供を目的とする。
【解決手段】インクパッドを内蔵し下方に向けて開口部を有するインクケースと、当該インクケースに対して上下方向にスライドしながら当該上下方向に反転する押印器を備え、インクケース側には磁力のON−OFF切換え可能な切換え式マグネットを有し、捺印しない状態では、前記切換え式マグネットがONの状態にあることで磁力を用いて押印器の捺印部とインクケース開口部との間を吸引又は押圧シールし、捺印時には前記切換え式マグネットがOFFの状態になるように切換える切換え手段を有し、前記切換え式マグネットがOFFになった後に押印器が下降反転し、被印面に捺印するものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクの揮発や蒸発による消耗を防ぐのに効果的なスタンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品や部品等のものづくりの生産現場においても品質管理を重視する観点から行程のトレーサビリティが厳密化、細分化されつつある。
従って、製品や部品の生産ラインの中で部品自体にロット番号、製造日、加工日、金型等の印字が要求される。
このように部品等に直接印字(捺印)する方法として水溶性インクでは乾燥が遅く、作業性に問題あるためにいわゆる不滅インクと称される溶剤を用いた揮発性の高いインクが使用されている。
しかし、揮発性の高いインクを用いるとインクパッドの寿命が短く、頻繁にこのインクパッドの交換をしなくてはならない問題があった。
そこで、特許文献1にはインクパッドの開口部に密閉蓋を重ねる印版を挿通した技術を開示し、特許文献2には印面をキャップ面で覆い、捺印時にキャップ部が開く技術を開示する。
しかし、これらに開示するインクの揮発防止技術は構造が複雑であり、未だインクの揮発防止が不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−58911号公報
【特許文献2】特開2007−105950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、捺印しない時はインクケースのシール性が高く、捺印時にはインクケースから印板を離間しやすく、スタンプ操作が容易で被印面の凹凸も吸収可能なスタンプ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るスタンプ装置は、インクパッドを内蔵し下方に向けて開口部を有するインクケースと、当該インクケースに対して上下方向にスライドしながら当該上下方向に反転する押印器を備え、インクケース側には磁力のON−OFF切換え可能な切換え式マグネットを有し、捺印しない状態では、前記切換え式マグネットがONの状態にあることで磁力を用いて押印器の捺印部とインクケース開口部との間を吸引又は押圧シールし、捺印時には前記切換え式マグネットがOFFの状態になるように切換える切換え手段を有し、前記切換え式マグネットがOFFになった後に押印器が下降反転し、被印面に捺印するものであることを特徴とする。
ここで、部品等の被印面に対してスタンプ装置を上から押圧し、捺印する状態においてスタンプ装置の上下方向を表現する。
従って、横方向に捺印する場合はそれに対応して上下方向が横方向になる。
【0006】
本発明にてインクケースとは、インクをパッド状の吸収部材等に吸着させた状態で収納したケースをいい、押印器の捺印部が出入りする開口部を除いて密閉状態にある。
また、切換え式マグネットとは対極となる磁性体の内側に磁石等を設け、例えば磁石の方向を変えることでこの対極間に磁力を発生させるON状態と、OFF状態とを切換えることができるマグネットをいう。
ここで、前記インクケースとマグネットを収容したホルダーと、当該ホルダーに前記押印器を上下反転可能にスライド支持する反転具を有し、前記反転具は突出方向に弾性付勢され、前記押印器の捺印部がインクケースの開口部内に挿入された状態では前記マグネットの磁力にて当該開口部を縮径することで捺印部の周囲にシール当接し、切換え式マグネットのON−OFF切換え回転軸に回転ギヤを有し、ホルダーは前記回転ギヤを所定角度だけ回転させる作動ギヤを有し、ホルダーを被印面に向けて押圧すると、相対的に反転具が上昇する際に前記作動ギヤが回転ギヤを回転させることで前記切換え式マグネットがOFFになるようにしてもよい。
また、捺印部を形成する印板に鉄板等の磁性体を設けることでインクケース側のON−OFF切換磁力によりインクケースの開口部に磁力で印板を吸引し、シールする構造でもよい。
【0007】
本発明において、押印器を反転させる機構は押印器の捺印部が上方向に向いているときにインクケースの開口部を塞ぎ、捺印するときに反転し、部品等の被印面に当接するものであればどのような機構を用いてもよく、本明細書では便宜上、上下に反転すると表現したが、インクケースの開口部と捺印時の捺印部の方向が水平方向に反転していてもよく、また、例えば直角方向等所定の角度だけ回動し、インクケースの開口部を塞いだ状態と捺印状態とが切り替わるものも含まれる。
簡単な構造からなる反転機構としては、上下反転機構はホルダーに沿って上下に移動する反転具を有し、当該反転具は回転ピンと回転ピンを中心に押印器を反転させるガイド溝を有し、押印器は前記回転ピンを上下に移動させる上下方向長孔の回転ピン保持溝と前記ガイド溝に沿って上下移動するガイドピンを有するようにしてもよい。
【0008】
部品の形状によっては被印面が必ずしも平坦ではなく、凹凸面となっている場合も多い。
そこで、本発明にあっては、捺印前に先端部が被印面に当接することで当該被印面の凹凸を後退検知する複数のスライダーと、当該複数のスライダー間の後退量の差にて傾斜するコマを有し、当該コマの上面に捺印部を設けることが好ましく、さらには前記捺印部は分割された複数の印板からなり、それぞれの印板が前記コマに支持されているとさらによい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスタンプ装置にあっては、捺印しない状態時に捺印部でインクケースの開口部を塞ぐ際にインクケース側に設けたマグネットをONの状態にし、磁力にて強く捺印部をインクケースの開口部で押さえるのでシール性が高い。
このようにマグネットの磁力を用いて強くシールすると、捺印時に押印器を反転させるのに大変である。
そこで本発明にあっては、捺印時にホルダーを押圧する動作に合せてマグネットをOFFになるようにした。
これにより、捺印しないときには、マグネットの磁力にてインクケースの開口部をシールし、捺印するためにホルダーを下降させると、その動きに連動して磁力がOFF状態になり、印板を傷つけることもなく、容易に捺印できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るスタンプ装置の構造例を示す。
【図2】スタンプ装置の動作図を示す。
【図3】ホルダーの内部構造を示す。
【図4】マグネットのON−OFF動作を示す。
【図5】押印器の構造例を示す。
【図6】スライダー及びコマの動きを示す。
【図7】コマのスプリング機構を示す。
【図8】捺印の動きを示す。
【図9】シール機構の他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るスタンプ装置の構造例を図1に示し、捺印動作を図2に示す。
スタンプ装置はホルダー10,反転具20、押印器30及びインクケース保持具40とから構成される。
押印器30は反転具20の内側に組み込まれ、上下方向に反転するようになっている。
また、押印器30を反転具20の内側にセットした状態でホルダー10の内部に収納されている。
【0012】
押印器30は、図1〜3に示すように両側のガイドプレート31の内側に図5に示したスライダー36間に保持されたドラム33、ベルト34からなる印字機構を有する。
ガイドプレート31外側に、反転具20のガイド溝21に沿って上下に移動するガイドピン31aと、この反転具側に設けた回転ピン22をスライド自在に保持する凹部溝状の回転ピン保持溝31bを有する。
【0013】
押印器の両側のスライダー36の内側には、回転自在のドラム33と先端側に傾斜可能なコマ37を有し、所定間隔毎に印板32aを取り付けたベルト34を張設してある。
本実施例では3本のベルト34を配設した例になっているが、その本数に制限はない。
このスライダー36はスプリング36eにより突出方向に付勢され、長孔36c,36dに挿通したガイドピン31a及び連結ピン35にて上下方向スライド自在に支持されている。
スライダー36の先端側に印板よりも先に被印面に当接する検知部36aを有し、左右のスライダー36に設けた支持孔36bによってコマ37の支持ピン38aが支持されている。
コマ37は図8(a)にて隣接するコマ同士が干渉しないように前後2ヶ所に設けた支持孔36bに対して、それぞれ前後交互に支持ピン37dが挿入されている。
この支持ピンは図6及び図8(b)に示すように被印面Waの凹凸形状にならってスライダー36の検知部36aが後退するのでこの後退量の差に応じてコマ37が傾斜するのを許容する。
なお、本実施例に係るコマ37は、上記に説明したとおり両側のスライダー36の検知部36aの突出量に応じて左右に傾斜するのみならず、前後方向にも傾斜自在で且つ、コマ全体が上下方向に移動可能になっている。
図5〜7に示すように、支持体39に収容孔を設けてその内部に上下方向にスライドする支持柱38を配置し、支持柱38の底部は突出方向にバネ部材38bで弾性付勢され、支持柱の先端側には支持ピン38aを設けるとともにこの支持ピン38aの先端部に左右及び前後方向に傾斜回動可能に印板支持コマ37aを支持する。
印板支持コマ37aは、ベースコマ37bに左右方向の枢着軸37cに軸着され、このベースコマ37bは前後方向の枢着軸37eに枢着されている。
また、左右両側のスライダー36はそれぞれ独立して上下方向にスライド可能に、支持体39に設けたバネ部材36eにより突出方向に付勢されている。
これにより、図8(b)に示すようにワークの被印面Waの凹凸を吸収するように各スライダー36の突出量に応じてコマ37全体がバネ部材36eに付勢されながら後退し、且つ左右及び前後方向に傾斜するので、捺印部32が被印面に垂直状態で押圧されるので、印字がキレイである。
【0014】
次にインクケース保持具40の構造例について説明する。
図1に示すようにホルダー10の内部にバネ部材等の主弾性材12により突出方向に弾性付勢された状態でインクケース保持具40が内蔵されている。
また、反転具20はインクケース保持具40の両側に配設した副弾性材13aにより、突出方向に弾性付勢されながら配設されている。
なお、本実施例では図3に示すようにシャフト14a,14bとこのシャフト14a,14bが内側にスライドする筒状部15a,15bとからなるガイド支持機構を有しながら、副弾性材13aにより、弾性付勢されている。
インクケース保持具40は図4に内部構造を示すように、前後方向(図4では左右方向)に開閉する一対のシール可動部44a,44bとこの一対のシール可動部44a,44bの内側の開口部にインクケース41を設けるとともにシール可動部の回動軸側に切換式マグネット42を有する。
切換式マグネット42は、内部に空間部を設け、その中に磁石等の切換子42aが回転軸42bに軸支され、回転ギヤ43により回転するようになっている。
図4(a)の状態では、切換子42aの磁力が一対のシール可動部44a,44bに伝達された状態になり、N極とS極とが引き合い、インクパッド41bが内設されたインクケース41の開口部41aに挿入された捺印部32aを直接あるいはこの開口部41aを介して押圧シールし、この開口部41aからインクが揮発するのを防止する。
図2(a)に示すように反転具20の先端部を被印面に当てホルダー10を下方に向けて押圧すると、ホルダー10の内側に設けた作動ギヤ16が回転ギヤ43を回転し、切換子42aが回転し、マグネットがONの状態からOFFの状態に切り替わる。
一方、一対のシール可動部44a,44bのうち、一方のシール可動部44bには、ロック部材45を有し、このロック部材はホルダー側に設けたロック孔17に向けて、バネ部材45bにより突出したロックピン45aにより、シール可動部44bがロックされている。
ロックピン45aは、ロック解除レバー45dがワイヤー45cにて連結されていて、ホルダーの内側に設けたロック作動部16aが下降し、回転ギヤ43を回転するとともにロック解除レバー45dを下方に向けて回動することで、ロックピン45aが没入し、シール可動部44bの磁力がOFFになるとともに開く。
この状態では、インクケースの開口部41aのシール圧が解除されているので、インクケース保持具40が主弾性材12に付勢されながら後退する。
図2(a)、(b)に示すように押印器のガイドピン31aがホルダー側の略L字形状のガイドピン支持部11に沿って許容される範囲だけホルダー10に対して相対的に上昇し、押印器30の捺印部32がインクケースの開口部41aから離れる。
ガイドピン31aが図2(b)に示すようにガイド溝21のストレート部21aから円弧部21bにさしかかると、押印器30が反転しはじめ、さらに押圧するとガイドピン31aが捺印ストレート部21cに沿って下降し、被印面に捺印する。
【0015】
図9に他のシール構造例を示す。
切換式マグネット側に上記のシール可動部を設ける替わりに磁力発生片44を取り付け、捺印32側の印板32aあるいは印板32aの裏側に鉄片32bを設けることで、マグネットがONになると、鉄片32bを介して捺印部32をインクケース41の開口部41aに吸引し、シールする。
この状態から図9(b)に示すように切換子42aが回転し、約45°レベルに極の位置が変わるとOFFの状態になり、N極,S極が消滅し、磁力による引き付ける力がなくなる。
本実施例では、切換子42aの回転軸と同軸に回転ギヤ43を取り付け、ホルダー10側に作動ギヤ16を取り付けたことにより、反転具20とホルダー10との相対移動によりマグネットのON−OFFの切換えができるようになっているが、この構造に限定されない。
また、本実施例では切換え式マグネットのN極とS極との間に下方に開口部を設けたインクケースを配置しているが、捺印部とインクケースとが磁力により押圧あるいは吸引によりシールするものであればこの構造に限定されない。
【符号の説明】
【0016】
10 ホルダー
11 ガイドピン支持部
12 主弾性材
13a 副弾性材
16 作動ギヤ
17 ロック孔
20 反転具
21 ガイド溝
21a ストレート部
21b 円弧部
21c 捺印ストレート部
22 回転ピン
30 押印器
31 ガイドプレート
31a ガイドピン
31b 回転ピン保持溝
32 捺印部
33 ドラム
34 ベルト
35 捺印部
36 スライダー
37 コマ
40 インクケース保持具
41 インクケース
41a 開口部
42 切換え式マグネット
42a 切換子
43 回転ギヤ
44a シール可動部
44b シール可動部
45 ロック部材
45a ロックピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクパッドを内蔵し下方に向けて開口部を有するインクケースと、
当該インクケースに対して上下方向にスライドしながら当該上下方向に反転する押印器を備え、
インクケース側には磁力のON−OFF切換え可能な切換え式マグネットを有し、
捺印しない状態では、前記切換え式マグネットがONの状態にあることで磁力を用いて押印器の捺印部とインクケース開口部との間を吸引又は押圧シールし、
捺印時には前記切換え式マグネットがOFFの状態になるように切換える切換え手段を有し、前記切換え式マグネットがOFFになった後に押印器が下降反転し、被印面に捺印するものであることを特徴とするスタンプ装置。
【請求項2】
前記インクケースとマグネットを収容したホルダーと、当該ホルダーに前記押印器を上下反転可能にスライド支持する反転具を有し、前記反転具は突出方向に弾性付勢され、前記押印器の捺印部がインクケースの開口部内に挿入された状態では前記マグネットの磁力にて当該開口部を縮径することで捺印部の周囲にシール当接し、
切換え式マグネットのON−OFF切換え回転軸に回転ギヤを有し、ホルダーは前記回転ギヤを所定角度だけ回転させる作動ギヤを有し、ホルダーを被印面に向けて押圧すると、相対的に反転具が上昇する際に前記作動ギヤが回転ギヤを回転させることで前記切換え式マグネットがOFFになることを特徴とする請求項1記載のスタンプ装置。
【請求項3】
捺印前に先端部が被印面に当接することで当該被印面の凹凸を後退検知する複数のスライダーと、
当該複数のスライダー間の後退量の差にて傾斜するコマを有し、当該コマの上面に捺印部を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載のスタンプ装置。
【請求項4】
前記捺印部は分割された複数の印板からなり、それぞれの印板が前記コマに支持されていることを特徴とする請求項3記載のスタンプ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−224040(P2012−224040A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95562(P2011−95562)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(509308470)株式会社加野ダイカスト工業所 (2)