説明

スチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法

【課題】スチレン−フマル酸共重合体とアルコールとの直接エステル化反応により得られた反応混合物から、工業的に有利な高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を回収できるスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法を提供する。
【解決手段】酸触媒を用いたスチレン−フマル酸共重合体とアルコールとの直接エステル化反応により得られたスチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物1にメタノール2またはエタノールを接触させて反応混合物1からスチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を抽出してスチレン−フマル酸エステル共重合体を精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物を再資源化する試みが行われている。例えば、本出願人は、不飽和ポリエステル樹脂をスチレンで硬化させた硬化物を亜臨界水分解し、得られたスチレン−フマル酸共重合体にアルコールを供給して直接エステル化反応によりスチレン−フマル酸エステル共重合体を生成し、これを不飽和ポリエステル樹脂の低収縮材として利用することを提案している(特許文献1参照)。
【0003】
エステル化反応後の反応混合物には、目的物であるスチレン−フマル酸エステル共重合体の他に、触媒として用いた硫酸、過剰量のアルコールや副生成物等を含んでいるため、再資源化のためには工業的に有利な高純度の目的物を精製、回収することが望まれている。特許文献1では、反応混合物をろ過により白色粉末塩を除去し、次いで140℃で真空蒸留することにより、アルコールとして用いたオクタノールの余剰分を除去してスチレン−フマル酸エステル共重合体を精製している。しかしながら、触媒として用いた硫酸の除去を実施していないため、耐腐食性材料を用いてオクタノールの蒸留を行う必要があった。
【0004】
スチレン−フマル酸エステル共重合体の別の精製方法として、有機酸エステルの一般的な精製方法を適用することが考えられる。この有機酸エステルの一般的な精製方法を下記に示すが、まず、有機酸エステル精製の前段階としての有機酸エステルの生成反応について以下に説明する。
【0005】
有機酸エステルの生成反応には、硫酸が触媒に用いられ、下記式のとおり、有機酸にアルコールを過剰に加え、反応平衡を右に移動させる条件で反応させることにより有機酸エステルが生成される。例えば、反応により発生した水を蒸発させ、反応系外に排出することによってエステル化反応を進行させる。ここで、式中のRおよびRは炭化水素基である。この有機酸をアルコールとのエステル化反応によって得られた反応混合物には、目的物である有機酸エステルの他に、未反応の有機酸、過剰量のアルコール、触媒である硫酸、副生成物であるエーテルなどが含まれている。
【0006】
【化1】

【0007】
そして有機酸エステルの精製は、一般的には以下のような操作によって行われる。
(1)中和:まず、水酸化ナトリウム(NaOH)や炭酸水素ナトリウム(NaHCO)などの安価な塩基性水溶液にて反応混合物中に含まれる酸を中和する。この段階で、未反応の有機酸は、有機酸ナトリウム塩となり、触媒である硫酸は硫酸ナトリウム(NaSO)になり、水相中に溶解分離される。
(2)水洗:水相と有機相を分離後、有機相を水にて洗浄し、痕跡量の塩基性水溶液や塩を除去する。
(3)蒸留:中和および水洗された有機相は、通常、蒸留操作にて目的物の有機酸エステルと、アルコールおよびエーテルに分離される。
【0008】
回収された水相は、適切な水処理を施すことにより循環利用または排水処理される。また、回収されたアルコールも循環利用される。
【0009】
上記した有機酸エステルの精製方法を、スチレン−フマル酸エステル共重合体の精製に適用した場合、まず、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物をアルカリ性水溶液で中和処理して硫酸および未反応スチレン−フマル酸共重合体を除去し、次いで、水洗、静置分離後、有機相を蒸留することにより、アルコールを除去して、精製することが可能になるが、以下のことが課題となる。
(1)中和処理は問題無く実施できるが、水洗工程において泡立ちが激しく、またエマルジョン化し、安定な静置分離に時間を要する。
(2)中和処理および水洗に使用する水の使用量が多くなり、排水処理に大きな負担がかかる。
(3)アルコールとしてオクタノールを用いた場合、オクタノールの沸点は常圧101kPaにて195℃、真空20kPaにて約145℃であり、蒸留するために大きなエネルギーを要する。また、副生成物であるジオクチルエーテルの沸点は、オクタノールよりも高く、除去されにくい。
【0010】
スチレン−フマル酸エステル共重合体の別の精製方法として、例えば、アクリル酸と2−エチルヘキシルアルコールの直接エステル化によって得られた反応混合物の精製方法を適用して、中和工程を無くし、水洗および蒸留操作をシステム化することが考えられる(特許文献2参照)。しかしながら、この精製方法を適用して、中和工程を無くし、水洗処理を施した場合、2−エチルヘキシルアクリレートの場合とは異なり、エマルジョンを形成しやすくなり、水相と有機相の分離が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−208186号公報
【特許文献2】特許第3782032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、スチレン−フマル酸共重合体とアルコールとの直接エステル化反応により得られた反応混合物から、工業的に有利な高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を回収できるスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0014】
第1に、本発明のスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法は、酸触媒を用いたスチレン−フマル酸共重合体とアルコールとの直接エステル化反応により得られたスチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールまたはエタノールを接触させて反応混合物からスチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を抽出してスチレン−フマル酸エステル共重合体を精製することを特徴とする。
【0015】
第2に、上記第1の発明において、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物をメタノールまたはエタノールに複数回接触させて多段抽出を行うことを特徴とする。
【0016】
第3に、上記第1の発明において、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物とメタノールまたはエタノールとの接触、および、その後の、反応混合物からスチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を抽出分離する操作を複数回繰り返し行うことを特徴とする。
【0017】
第4に、上記第1ないし第3の発明において、スチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を含む抽出相を中和することを特徴とする。
【0018】
第5に、上記第1ないし第3の発明において、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールまたはエタノールを接触させる前に前記反応混合物を中和することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記第1の発明によれば、酸触媒を用いたスチレン−フマル酸共重合体とアルコールとの直接エステル化反応により得られたスチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールまたはエタノールを接触させることにより、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物から、工業的に有利な高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を回収できる。
【0020】
上記第2の発明および第3の発明によれば、より一層高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を回収できる。
【0021】
上記第4の発明および第5の発明によれば、中和処理を施すことにより、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物から酸触媒を除去することができる。また、第5の発明によれば、より一層高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に用いられる抽出装置の一実施形態を示した概略図である。
【図2】塔型の向流接触多段抽出装置の概略図である。
【図3】槽型の向流多段抽出装置の概略図である。
【図4】槽型の並流多回抽出装置の概略図である。
【図5】図1の抽出装置とは別の実施形態にかかる抽出装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明は、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールまたはエタノールを接触させることにより、前記反応混合物から高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を精製している。
【0025】
スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物は、酸触媒を用いたスチレン−フマル酸共重合体とアルコールとの直接エステル化反応により得られる。
【0026】
酸触媒は、無機酸や有機酸の各種のものが挙げられるが、後述する式(1)で表されるエステル化反応を進行させるためには、生成する水を加熱によって系外に排出する必要があるため、加熱条件下でも安定に存在する硫酸等の不揮発性の酸を触媒として用いることが好ましい。
【0027】
アルコールは、第1級または第2級アルコールであってもよく、例えば、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、2−エチルヘキサノール等の炭素数6〜12の1価のアルコールが好ましい。なかでも炭素数6〜10のアルコールが好ましく、特に、オクタノールや2−エチルヘキサノール等の炭素数8のアルコールが好ましい。
【0028】
スチレン−フマル酸エステル共重合体は、具体的には、下記式(1)に示すように、スチレン−フマル酸共重合体にR−OHで表される1価のアルコールを反応させることにより、スチレン−フマル酸共重合体の末端カルボン酸基をエステル化(疎水化)して生成される。
【0029】
【化2】

【0030】
ここで、式中のmは1〜3の数値であり、nは3〜300の数値であり、両末端は一般に水素である。また、アルコールは炭素数が6〜12であり、符号Rは直鎖または分岐のアルキル基等である。酸触媒としては硫酸を用いている。
【0031】
式(1)の出発物質であるスチレン−フマル酸共重合体は、特許文献1で報告しているように、例えば、不飽和ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を、アルカリの存在下、亜臨界水分解して得られる。具体的には、この熱硬化性樹脂に水を加え、温度および圧力を上昇させて水を亜臨界状態にして加水分解反応させて得るものである。ここで、温度は、上記熱硬化性樹脂の熱分解温度を考慮し、かつ、分解処理を効率よく行うために、例えば180〜280℃、好ましくは200〜270℃とする。圧力は、上記温度等の条件によって異なるが、一般的には1〜15MPa、好ましくは2〜7MPaである。そして、上記の温度、圧力の条件で、1〜12時間、好ましくは1〜4時間程度処理することによって、上記熱硬化性樹脂の硬化物を加水分解する。アルカリは、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0032】
上記の不飽和ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂は、スチレン−フマル酸共重合体を得ることができればよく、不飽和ポリエステルの種類、量および架橋度等は限定されない。例えば、不飽和ポリエステルは、多価アルコール成分と多塩基酸成分をエステル結合させて得られる。多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。多塩基酸成分としては、例えば、無水フマル酸、フマル酸、マレイン酸等の脂肪族不飽和二塩基酸を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、架橋部は、架橋剤であるスチレンに由来する部分である。
【0033】
不飽和ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を、アルカリの存在下、亜臨界水分解すると、スチレン−フマル酸樹脂塩等のスチレン−フマル酸共重合体塩を含有する水溶液を得る。この水溶液に塩酸や硫酸等の無機の強酸を供給してスチレン−フマル酸共重合体の固形分を析出させ、これをろ過等で水分を除去して回収することでスチレン−フマル酸共重合体を得る。
【0034】
本発明において、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物とは、前記式(1)の反応生成物であるスチレン−フマル酸エステル共重合体と、副生成物や未反応物質等の他成分との混合物である。例えば、前記反応混合物には、スチレン−フマル酸エステル共重合体と、他成分として、水、未反応のスチレン−フマル酸共重合体、過剰量のアルコール、触媒である硫酸等の酸触媒、副生成物であるエーテル等が含まれる。直接エステル化反応に使用したアルコールがオクタノールの場合、副生成物として生成するエーテルはジオクチルエーテル(以下、DOEともいう)である。
【0035】
本発明者は、生成されたスチレン−フマル酸エステル共重合体の特性を調べている中で、アセトンやトルエン等の有機溶媒には溶解しやすいものの、メタノールやエタノールには溶解しにくいことを見出し、本発明に至った。すなわち、スチレン−フマル酸エステル共重合体はメタノールやエタノールには溶解しにくい一方、未反応のスチレン−フマル酸共重合体、アルコール、硫酸、エーテル等はメタノールやエタノールと相溶性を示す。これを利用して、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールまたはエタノールを接触させてスチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を不純物としてメタノールまたはエタノールに溶解抽出させる。そして、抽残液を回収して高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を得る。
【0036】
スチレン−フマル酸エステル共重合体の精製は、例えば、図1に示す抽出装置によって行われる。以下、硫酸を用いたスチレン−フマル酸共重合体とオクタノールとの直接エステル化反応により得られたスチレン−フマル酸オクチルエステル共重合体(以下、SFC−C8ともいう)を含む反応混合物にメタノールを接触させたときのSFC−C8の精製方法について説明する。
【0037】
まず、SFC−C8を含む反応混合物1を簡易な攪拌機11付き容器である抽出器10に供給し、これに容器12に貯留されているメタノール2を添加し、攪拌する。抽出器10では、反応混合物1中のメタノール溶解成分がメタノール2に抽出され、軽液3(抽出相)と重液4(抽残相)との2液に分離される。軽液3には、添加したメタノール2と、このメタノール2に溶解した、反応混合物1中の未反応のスチレン−フマル酸共重合体、オクタノール5、硫酸、DOE等が含まれている。重液4の主成分はSFC−C8であるが、添加したメタノール2の一部、および、反応混合物1中のオクタノール5、硫酸、DOE等の一部が重液4に含まれている場合がある。
【0038】
抽出器10から重液4を容器13に抜き出すことにより、高純度のSFC−C8が回収される。重液4にメタノール2やオクタノール5等の一部が含まれている場合には、蒸留器14,15で重液4を蒸留してメタノール2およびオクタノール5を分離回収してもよい。残留液40は、より高純度のSFC−C8となる。回収したメタノール2やオクタノール5は、SFC−C8の精製やスチレン−フマル酸共重合体の生成に再利用できる。
【0039】
前記抽出器10からは軽液3も抜き出す。容器16に抜き出された軽液3は硫酸を含むため、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液6を添加して軽液3を中和する。次いで、蒸留器17にて蒸留してメタノール2を分離回収する。回収したメタノール2は、SFC−C8の精製に再利用される。蒸留残留液7は、オクタノールとDOEの混合液8である上層と、硫酸ナトリウム等の塩を含む水溶液9である下層との2液に簡単に液々分離される。オクタノールとDOEの混合液8は再利用可能であり、硫酸ナトリウム等の塩を含む水溶液9は排水処理される。
【0040】
SFC−C8等のスチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物へのメタノールの添加量は、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールを接触させた後、軽液と重液との2液に分離できれば、特に制限されない。スチレン−フマル酸エステル共重合体の濃度によって変わるが、例えば、スチレン−フマル酸エステル共重合体の濃度20〜60重量%程度の反応混合物に対して、1〜4.5倍量のメタノールを添加することが考慮される。1倍量未満であると、均一相を形成してスチレン−フマル酸エステル共重合体を分離除去することができない場合がある。また、重液中のオクタノールの含有率が高くなる。オクタノールの沸点は常圧において195℃であるため、オクタノールとSFC−C8との分離処理のための図1の抽出装置の蒸留器15の負荷が大きくなり、好ましくない。さらに、副生成物であるエーテルの除去が不十分となり、スチレン−フマル酸エステル共重合体に混入する場合があるので好ましくない。4.5倍量を超えると、メタノールとそれに溶解したオクタノールが重液に溶解あるいは膨潤した形態で巻き込まれる場合があるので好ましくない。なお、エタノールについてもメタノールと同様の添加量であることが考慮される。
【0041】
スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物のメタノールまたはエタノールへの抽出効果を高めるために、図1の抽出器10および蒸留器14,15に代えて、例えば、図2に示すような塔型の向流接触多段抽出装置を用いてもよい。
【0042】
この実施形態では、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物をメタノールまたはエタノールに複数回接触させて多段抽出を行う。すなわち、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物1を向流多段抽出器20の上部から導入し、下部からメタノール2やエタノールを導入して、液々接触させ、塔頂から軽液3、塔底から重液4を抜き出す。この方法は連続運転が可能である。向流接触による抽出分離を促進させるために、攪拌機21により攪拌してもよい。スチレン−フマル酸エステル共重合体の濃度が高くなると次第に高粘度になるため、スクリュー押出機22にて、強制的に塔底から重液4を排出させることが好ましい。さらに、重液4中のメタノール2の分離と重液4の押出排出機能をスムーズにするために、スクリュー押出機22を加熱装置23によって加熱した方が良い。凝縮器24や真空ポンプ25を備えることにより、高粘度スチレン−フマル酸エステル共重合体の排出移送とメタノール2の分離を同時に行うことが可能となる。また、本実施形態では、重液4側にオクタノール回収設備が不要になるという利点も有する。
【0043】
多段抽出の別の実施形態として、例えば、図3に示すような槽型の向流多段抽出装置を用いてもよい。なお、図3中、図1−2に示した部分と同一の部分については同じ符号を付している。
【0044】
この実施形態では、図1の簡易な攪拌機11付き容器である抽出器10を複数台設置し、攪拌抽出、分離静置、重液および軽液の移送を順次行う。例えば、抽出器10を3台設置し、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物1を、左側の抽出器10から真ん中の抽出器10、右側の抽出器10へと順次供給するとともに、メタノール2を、右側の抽出器10から真ん中の抽出器10、左側の抽出器10へと順次供給する。そして、左側の抽出器10の上部から軽液3を抜き出すとともに、右側の抽出器10の下部から重液4をスクリュー押出機22にて排出し、凝縮器24にてメタノール2を分離回収する。これによって、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物からより一層高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を精製することが可能となる。
【0045】
さらに、別の実施形態として、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物とメタノールまたはエタノールとの接触、および、その後の、反応混合物からスチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を抽出分離する操作を、複数回繰り返し行ってもよい。図4に、この実施形態にかかる槽型の並流多回抽出装置の概略図を示す。なお、図4中、図1−3に示した部分と同一の部分については同じ符号を付している。
【0046】
この実施形態では、図3の槽型の向流多段抽出装置と同様に、抽出器10を複数台設置し、攪拌抽出、分離静置、重液および軽液の移送を順次行うが、各抽出器10に常に新しいメタノール2を供給するようにしている。これによって、各抽出器10では、メタノールへの抽出がより促進され、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物からより一層高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を精製することが可能となる。
【0047】
ところで、図1に示した抽出装置では、抽出器10から抜き出した軽液3を中和しているが、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物をメタノールやエタノールと接触させる前に前記反応混合物を中和するようにしてもよい。図5に、その抽出装置の概略図を示す。なお、図5中、図1−4に示した部分と同一の部分については同じ符号を付している。
【0048】
この実施形態では、向流多段抽出器20の前段に容器26を備えている。スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物1を容器26に供給し、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液6を加えて前記反応混合物1を中和する。中和後は、スチレン−フマル酸エステル共重合体等を含む溶液28の上層と、硫酸ナトリウム等の塩を含む水溶液27の下層との2液に分離される。分離したスチレン−フマル酸エステル共重合体等を含む溶液28を向流多段抽出器20に上部から供給して、下部から供給されたメタノール2と接触させ、向流多段抽出器20からスクリュー押出機22で重液4を排出して高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体を得る。軽液3は、蒸留器17による蒸留によってメタノール2が分離回収され、残留液としてオクタノールとDOEの混合液8が再利用可能に回収される。一方、分離した硫酸ナトリウム等の塩を含む水溶液27は、排水処理される。メタノール2と接触させる前に反応混合物1の中和処理を行うと、重液4中の硫酸濃度を低減させることができるため好ましい。また、スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物1がアルカリ水溶液6とメタノール2とによって二度洗いされるので、より高純度のスチレン−フマル酸エステル共重合体が得られる。
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
<実施例1>
硫酸を触媒として、スチレン−フマル酸共重合体と、このスチレン−フマル酸共重合体の約4倍量のオクタノールとの直接エステル化反応(175℃、20時間)により反応混合物A(SFC−C8:25重量%、オクタノール:16重量%、DOE:37重量%、硫酸:0.1重量%を含む)を得た。この反応混合物A80gに対して、1.5倍重量のメタノールを加えて、単抽出した。その結果、SFC−C8濃度49重量%の抽残液を得た。表1にその結果を示す。また、SFC−C8以外の抽残液中の成分の濃度についても表1に示す。単抽出は図1の抽出装置を用いた。抽残液中の各成分の濃度は、以下の方法によって求めた。
【0051】
SFC−C8濃度
(1) 使用するビーカー(50〜100cc)の空重量を測定する。
【0052】
(2) 抽残液をビーカーに約5g程度採取、秤量する。
【0053】
(3) 抽残液採取量の約5倍量のメタノールを添加し、よく洗浄、かき混ぜる。
【0054】
(4) メタノール溶液重量を測定した後、上澄液をサンプル瓶に回収する。
【0055】
(5) 残渣をA型乾燥機にて、150℃/2h以上乾燥させる。
【0056】
(6) 乾燥重量を秤量する。
【0057】
SFC−C8濃度 = 乾燥重量/抽残液採取量×100 (重量%)
オクタノール濃度およびDOE濃度
(1) 上記操作で得られた上澄液(メタノール溶液)を、シリンジフィルターを介し、約2mL採取し、ガスクロオートサンプラー用バイアルへ仕込む。
【0058】
(2) ガスクロ測定要領にて、オクタノールおよびDOEの分析を行う。
【0059】
ガスクロカラム:サーモン3000(2m),カラム温度:130℃,インジェクター温度:260℃,検出器:FID
(3) 検量線からメタノール溶液中のオクタノール濃度およびDOE濃度を算出する。
【0060】
(4) メタノール溶液重量およびGC結果から、試料採取量中に含まれるオクタノール濃度およびDOE濃度を算出する。
【0061】
メタノール濃度
メタノール濃度は、抽残液採取量から乾燥重量(SFC−C8)、オクタノール重量、およびDOE重量を差し引くことにより算出した。
【0062】
硫酸濃度
硫酸濃度は、JIS K 2501およびJIS K 0070に準じて、滴定により、酸価を測定し、硫酸換算することにより算出した。
<実施例2>
前記反応混合物A40gに対して、4.5倍重量のメタノールを加えて、単抽出した。その結果、SFC−C8濃度62重量%の抽残液を得た。表1にその結果を示す。また、SFC−C8以外の抽残液中の成分の濃度についても表1に示す。単抽出は図1の抽出装置を用いた。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果より、SFC−C8を含む反応混合物にメタノールを接触させることによって、SFC−C8を含む反応混合物から高純度のSFC−C8を回収できることが確認できた。
【0065】
また、反応混合物Aにメタノールを加える前に、反応混合物Aに対して、1倍量の5%水酸化ナトリウム水溶液を加えて激しく攪拌し、中和処理したところ、反応混合液はアルカリ性を示した。これは、反応混合物中から硫酸が完全に除去されたことを意味する。したがって、SFC−C8を含む反応混合物を中和処理した後、この反応混合物にメタノールを接触させることによって、硫酸が完全に除去された、高純度のSFC−C8を回収することができる。
【0066】
また、反応混合物Aに対して、1倍量のイオン交換水を加えて激しく攪拌したところ、この反応混合物の酸価度は0.4、硫酸濃度は0.03重量%であった。この硫酸濃度は、反応混合物Aにアルカリ水溶液やメタノールを接触させたときと比べて高い。このことから、イオン交換水による洗浄は、反応混合物から硫酸を十分に除去できないことが確認できた。
<実施例3>
前記反応混合物A50gに対して、2倍量(100g)のメタノールを加え、抽出を行い、上澄みの抽出液を除去した後、抽残液に対して、新たなメタノールを2倍量(100g)添加して抽出を行った。このような操作を図4の槽型の並流多回抽出装置を用いて4回繰り返して行った(2倍量×4回)結果、オクタノール濃度0.1重量%以下、DOE濃度1重量%以下、SFC−C8濃度88重量%の抽残液を得た。残りの約10重量%はメタノールであることを確認した。メタノールの沸点は65℃であるため、加熱することによって、抽残液から容易にメタノールを分離回収できた。
<実施例4>
前記反応混合物A50gに対して、3倍量(150g)のエタノールを加え、抽出を行い、上澄みの抽出液を除去した。次いで、抽残液に対して、新たなエタノールを1倍量(50g)添加し、抽出する操作を5回繰り返した。このような操作(3倍量×1回+1倍量×5回)を図4の槽型の並流多回抽出装置を用いて行った結果、オクタノール濃度0.1重量%以下、DOE濃度0.1重量%以下、SFC−C8濃度61重量%の抽残液を得た。残りの約40重量%はエタノールであり、加熱することによって、抽残液から容易にエタノールを分離回収できた。
<実施例5>
硫酸を触媒として、スチレン−フマル酸共重合体と、このスチレン−フマル酸共重合体の約2倍量のオクタノールとの直接エステル化反応(175℃、8時間)により反応混合物B(SFC−C8:54重量%、オクタノール:22重量%、DOE:13重量%、硫酸:0.03重量%を含む)を得た。この反応混合物B50gに対して、1倍量(50g)の新たなメタノールを加え、抽出を行い、上澄みの抽出液を除去する操作を3回繰り返した。次いで、抽残液に対して、新たなメタノールを1.5倍量添加して抽出を行った。このような操作(1倍量×3回+1.5倍量×1回)を図4の槽型の並流多回抽出装置を用いて行った結果、オクタノール濃度1重量%以下、DOE濃度2重量%以下、SFC−C8濃度83重量%の抽残液を得た。残りの約15%はメタノールであり、加熱することによって、抽残液から容易にメタノールを分離回収できた。
<実施例6>
硫酸を触媒として、スチレン−フマル酸共重合体と、このスチレン−フマル酸共重合体の約2倍量の2−エチルヘキサノール(オクタノールの異性体)との直接エステル化反応(175℃、5時間)により反応混合物Cを得た。この反応混合物Cは、スチレン−フマル酸2−エチルヘキシルエステル共重合体(以下、SFC−C2C6という):56重量%、2−エチルヘキサノール:27重量%、硫酸:0.1重量%を含む。この反応混合物C50gに対して、1倍量(50g)の新たなメタノールを加え、抽出を行い、上澄みの抽出液を除去する操作を3回繰り返した。次いで、抽残液に対して、新たなメタノールを1.5倍量添加して抽出を行った。このような操作(1倍量×3回+1.5倍量×1回)を図4の槽型の並流多回抽出装置を用いて行った結果、2−エチルヘキサノール濃度1重量%以下のSFC−C2C6濃度82重量%の抽残液を得た。残りの約15重量%はメタノールであり、加熱することによって、抽残液から容易にメタノールを分離回収できた。
<比較例>
前記反応混合物A(SFC−C8:25重量%、オクタノール:16重量%、DOE:37重量%、硫酸:0.1重量%を含む)50gに対して、3倍量(150g)のプロパノールを加えたところ、軽液と重液に分離できなかった。
【符号の説明】
【0067】
1 反応混合物
2 メタノール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒を用いたスチレン−フマル酸共重合体とアルコールとの直接エステル化反応により得られたスチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールまたはエタノールを接触させて反応混合物からスチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を抽出してスチレン−フマル酸エステル共重合体を精製することを特徴とするスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法。
【請求項2】
スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物をメタノールまたはエタノールに複数回接触させて多段抽出を行うことを特徴とする請求項1に記載のスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法。
【請求項3】
スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物とメタノールまたはエタノールとの接触、および、その後の、反応混合物からスチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を抽出分離する操作を複数回繰り返し行うことを特徴とする請求項1に記載のスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法。
【請求項4】
スチレン−フマル酸エステル共重合体を除く成分を含む抽出相を中和することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法。
【請求項5】
スチレン−フマル酸エステル共重合体を含む反応混合物にメタノールまたはエタノールを接触させる前に前記反応混合物を中和することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスチレン−フマル酸エステル共重合体の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−111501(P2011−111501A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267848(P2009−267848)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】