説明

ステアリングロックケーシング機構

【課題】ステアリングロックケーシングの開口部を閉じる構造では、ステアリングロックケーシングが鋳造物であるので、開口部縁に形成されたバリを蓋の一部で覆って、周囲の配線を保護する必要がある。しかし、蓋として圧入される部分に強固に固着したものが開口部の縁に残っていたのでは、その部分を把持して圧入部を容易に引き出されてしまうという課題があった。
【解決手段】前記蓋部は、前記開口部に圧入される圧入部と、前記圧入部の端から前記圧入部の上面に向かって延設された側面延設部と、前記側面延設部の外縁から帽子のつば状に広がったフランジとを有し、前記側面延設部に、引き出そうとするとすぐに破断してしまう脆弱部を有することを特徴とするステアリングロックケーシング構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングロック装置のケーシング構造に関し、より詳細には盗難防止を目的としたステアリングロックケーシングの蓋部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングロック装置は、シリンダ錠とロックシャフト等から構成され、ステアリングハウジング内で、ステアリングシャフトをロックする。これは主として盗難防止用の構造として車両に組み込まれている構造である。しかし、これらの構造にも関わらず、不正操作によるロック解除は試みられ、不正操作に対向する盗難防止用構造が提案されている。
【0003】
特許文献1には、ステアリングコラムブラケットの開口部を平板のリッドで覆うことで内部のロックシャフトの不正操作を防止するものの、従来はこのリッドがステアリングコラムブラケットと同素材である非磁性体の亜鉛で構成されていたので、磁力によってロックシャフトが不正操作されてるという課題に対する改良技術が開示されている。より具体的には、リッドを磁性体で構成することで、内部に磁力が入りにくい構造としている。
【0004】
特許文献2では、ロックシャフトとそれを付勢するスプリングをハウジングの開口穴からハウジング内に挿入し、ロックシャフトの内側から外側に付勢されたスプリングでロックシャフトから飛び出た抜け止め部材をハウジング内部に形成された保持部に係止させることで、ステアリングコラムブラケット内に組み込む技術が開示されている。この技術では、ロックシャフトはステアリングコラムブラケット内に組み込まれてしまうので、リッドで開口部を蓋する必要がなく、結果リッドを破壊してロックシャフトを取り除くことができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−19582号公報
【特許文献2】実開2001−262896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の開示技術では、リッドとボディの隙間にドライバー等をこじ入れてリッドを取り除くことができる。また、特許文献2の方法では、ステアリングコラムブラケット内への組み込みに手間がかかる上、ロックシャフトを駆動するモータを別途用意しなければならず、コストの上昇につながる。
【0007】
ステアリングロック機構では、より簡便であって、盗難防止力の高い構造が望まれる。これを実現するために用いられる他の方法としては、図5(a)に示すように、ステアリングコラムブラケット90の開口部91にリッド92を没入させる方法があげられる。リッド92を開口部91に没入させてしまえば、ドライバなどの先端が尖鋭に加工された工具を使っても、リッドの取り外しは容易ではなく、盗難防止効果を発揮できるからである。
【0008】
しかしながら、ステアリングコラムブラケットは、鋳物で一体的に作製されるため、図5(a)で示すように、開口部の縁部にバリ93が残る。また、ステアリングコラムブラケット周辺は、ワイパー、イグニッションスイッチ、ホーン、インパネ、ヘッドライトといった各種スイッチの配線が配置されている。従って、単に開口部91にリッドを没入させただけでは開口部91の縁部に残るバリ93によって、これらの配線被膜が損傷を受け、誤動作をするおそれがある。
【0009】
そこで、図5(b)に示すように、開口部に没入させるリッドに側面延長部94と開口部の縁部を覆う折り返し部分95を形成することが考えられる。しかし、折り返し部分を形成することは、特許文献1の場合同様、ステアリングコラムブラケットとリッドの折り返し部分の間にペンチ96をねじ込んで、リッドが取り除かれてしまうという課題が残る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題に鑑み想到されたものであり、簡単な構造であって、ステアリングコラムブラケットの開口部からリッドを取り除きにくい構成を提供することを目的とする。
【0011】
具体的には、
ステアリングロックケーシング開口部を封止する蓋部を有するステアリングロックケーシング構造であって、前記蓋部は、前記開口部に圧入される圧入部と、前記圧入部の端から前記圧入部の上面に向かって延設された側面延設部と、前記側面延設部の外縁から帽子のつば状に広がったフランジとを有し、前記側面延設部に脆弱部を有することを特徴とするステアリングロックケーシング構造を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のステアリングロックケーシングの構造は、ステアリングロックケーシングの開口部に、圧入部と、圧入部端から前記圧入部の上面に向かって延設され脆弱部が設けられた側面延設部と、前記側面延設部の外縁から帽子のつば状に広がったフランジとを有する蓋部を圧入させるので、前記フランジを引き上げて圧入部を引き出そうとすると側面延設部が脆弱部の部分で破断し、圧入部を引き出せなくなる。その結果、車両盗難防止に役立つ。
【0013】
また、前記フランジは、開口部の周囲で折り返されるので、開口部の周囲に残存するバリを覆い隠し、ステアリングロックケーシング周辺の配線を損傷して作動不良などの不具合の発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のステアリングロックケーシングの位置を示す図である。
【図2】本発明のステアリングロックケーシングの構成を示す図である。
【図3】本発明のステアリングロックケーシングの蓋部の効果を示す図である。
【図4】本発明の蓋部に続く折り返し部の効果を示す図である。
【図5】従来のステアリングロックケーシングの蓋部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照して、本発明のステアリングロックケーシング10の外観を示す。ステアリングロックは鋳物で作製されたステアリングコラムブラケット9内に形成される。ステアリングコラムブラケット9には、ステアリングコラムが挿入される孔11とその周囲に配置されたコンビネーションスイッチの接続端12が形成される。そして、コンビネーションスイッチの周囲には、ワイパー14、イグニッション15、ホーン16、キー17、ヘッドランプ18といったスイッチへのコネクタが配置されている。そして、それぞれのコネクタからは配線が引き出され、1束の配線束としてまとめられる。
【0016】
ステアリングロックケーシング10は、ステアリングコラムブラケット9内部に形成される。従って、ステアリングロックケーシング10の開口部20は、ステアリングの下方に位置し、配線が取りまわされる周辺に存在する。
【0017】
図2(a)は、本発明のステアリングロックケーシング10の開口部20の斜視図を示す。また、図2(b)は、開口部20の断面図を示す。ステアリングコラムケーシング10は、ステアリングコラムブラケット9中に形成されるので、すでに説明したように鋳造されている。そして、開口部の周縁にはバリ93が存在する。開口部20を塞ぐ蓋部22は、圧入部23と圧入部端から圧入部23の上面に向かって延設された側面延設部24を有する。側面延設部24の外縁には、帽子のつば状に広がったフランジ25を有している。
【0018】
ここで、圧入部23の上面とは、ステアリングロックケーシングの開口部20に圧入された圧入部23の開口部側を向いている面をいう。言い換えると、圧入部23の上面とは、ステアリングロックケーシング内側を向いている面の反対面を言う。
【0019】
側面延設部24は、圧入部23と比較して厚みが薄く、スリット30が形成される。図2(c)には、蓋部22の側面延設部24の拡大図を示す。側面延設部24には、少なくともその一部にスリット30が形成されたスリット部31を有する。スリット部31が形成されている部分は側面延設部全周に渡って形成されているのが好ましい。側面延設部24に後述する脆弱部を形成するためであり、また、スリット部31は無理やり蓋部22を取り出そうとした際に全周に渡って破損する必要があるからである。
【0020】
また、側面延設部24の外縁には蓋部22の内側から外側に向かって帽子のつば状に広がったフランジ25(以後単に「フランジ」とも呼ぶ)を形成させる。このフランジ25は、ステアリングロックケーシング10の開口部20の縁部のバリ93を覆うことで、周囲の配線を保護する。なお、フランジ25は、コーナー部分21で連続していることが望ましいが、途切れていてもよい。
【0021】
次に図3を用いて、本発明のステアリングロックケーシング10の機能について説明する。ステアリングコラムブラケット9に形成されたステアリングロックケーシング10内に、ロックシャフトやスプリング等の部材を入れて、開口部20に蓋22をする。蓋部22は、分厚い圧入部23とその縁部から圧入部の上面に向かって延設された側面延設部24を有し、さらに側面延設部24の外縁には蓋部の内側から外側に向かう帽子のつば状に広がったフランジ25を有している。この蓋部22を開口部20に圧入すると、側面延設部24に形成されたスリット部31が圧入方向に伸びて網目状になる。また、側面延設部24外縁のフランジ25は、開口部20の縁部のバリ93を覆い隠す。
【0022】
次に不正操作として、ドライバー97の先端で、この開口部をこじ開けようとする場合を説明する。図3(a)を参照して、不正操作者は、ドライバー97の先端を、フランジ25と開口部20の間にねじ込み、フランジ25の先端をめくり上げる。そして、フランジ25の端をペンチ96で把持し、蓋部22を引き抜く方向に力を加える。しかし、側面延設部24のスリット部31は、厚みが薄く、しかもスリット部31が圧入時に塑性変形により網目状部分が伸張されていることで、強度が著しく低下し、脆弱な部分(脆弱部ともよぶ)となっている。従って、不正操作者が蓋部22を引き出そうとしても、側面延設部24が途中で破損して、圧入部23を引き出すことができない。このようにすることで、不正操作からステアリングロックを保護することができる。
【0023】
なお、ここで脆弱部は、圧入した圧入部23の圧入を解除する力以下の荷重で破断すればよい。また、脆弱部は、圧入部23の端部から側面延設部24及びフランジ25の先端までの間であれば、どこに設けてもよい。本発明の目的は、バリ93を覆うフランジ25を、圧入部23を引き出すための手掛かりとならないようにするためだからである。
【0024】
また、図4に示すように、脆弱部は、側面延設部24とフランジ25の間に切れ目を入れることで形成してもよい。図4は、は、フランジ25の開口部20の縁に沿った部分に、スリット32を形成した状態を示す。符号32で示す箇所は、フランジ25と側面延設部24の間に切込みが入っている場合を示す。このような切れ目はフランジ25と側面延設部24の連結性を著しく脆弱にする。結果、ドライバー等でフランジ25を引き出そうとすると、側面延設部24との境界部分でフランジ25が破断する。従って、不正操作によって蓋部22の圧入部23を引き出すことができない。もちろん、側面延設部24にスリット30を形成することと併用してもよい。
【0025】
以上のように、本発明のステアリングロックケーシング構造は、ステアリングロックケーシングの開口部を、脆弱性を有する側面延設部24を有する蓋部22を圧入することで封止するので、不正操作によって、ステアリングロックケーシングの蓋部を開くことができず、盗難防止に寄与することができる。
【0026】
また、側面延設部24の外縁から帽子のつば状に広がったフランジ25を設けているので、開口部周囲のバリを覆い隠すことができ、周囲に配置された線材等を傷つけることがない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のステアリングロックケーシング構造は車両の盗難防止として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0028】
9 ステアリングコラムブラケット
10 ステアリングロックケーシング
11 ステアリングコラムが入る孔
12 コンビネーションスイッチの接続端
14 ワイバー用コネクタ
15 イグニッション用コネクタ
16 ホーン用コネクタ
17 キー用コネクタ
20 開口部
22 蓋部
23 圧入部
24 側面延設部
25 フランジ
30 スリット
31 スリット部
32 スリット
90 ステアリングコラムブラケット
91 開口部
92 リッド
93 バリ
94 側面延長部
95 折り返し部
96 ペンチ
97 ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングロックケーシング開口部を封止する蓋部を有するステアリングロックケーシング構造であって、
前記蓋部は、前記開口部に圧入される圧入部と、
前記圧入部の端から前記圧入部の上面に向かって延設された側面延設部と、
前記側面延設部の外縁から帽子のつば状に広がったフランジとを有し、
前記側面延設部は脆弱部を有することを特徴とするステアリングロックケーシング構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−189789(P2011−189789A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55863(P2010−55863)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)