説明

ステンレス鋼帯の脱スケール用電解酸洗法

【課題】 酸洗設備の規模に応じた適切な槽の構成を設計し、電流効率90%以上を得る。
【解決手段】 焼鈍後のステンレス鋼帯を中性塩水溶液または酸性水溶液中において、間接通電法による陽極電解によって脱スケールを行う設備(以下、単に電解酸洗設備と言う)について、陽極と陰極間の距離をL(mm)、電極間を通電する電流をI(A)、陽極と陰極間における酸洗槽の実質幅をW(mm)、実質深さをD(mm)としたとき、以下の式を満たす電解酸洗法。
実質幅W、実質深さDとは、実際の寸法から、絶縁物が設置してある部分を差し引いた寸法を言う。
L>0.6DW/I

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍処理によってステンレス鋼帯表面に生じた酸化スケールを、中性塩水溶液または酸性水溶液中において間接通電法による陽極電解によって脱デスケールする際に、通電した電流を効率よくストリップへ流すための電解酸洗法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延後のステンレス鋼帯に対して行われる焼鈍処理方法の1つとして、大気雰囲気炉内で燃料をバーナー燃焼させて熱処理を行う大気焼鈍方法がある。この焼鈍方法では、大気中の酸素および燃焼によって生じた水蒸気により、ステンレス鋼帯の表面に金属酸化物が生成するので、これを除去し、良好な品質のステンレス鋼帯を製造するために、焼鈍処理後に脱スケール処理が行われる。
【0003】
脱スケール処理方法として、酸性水溶液中に浸漬する方法、中性塩水溶液あるいは酸性水溶液中で陽極電解を行う方法(以下、単に電解酸洗と言う)、苛性ソーダと硝酸ソーダとの混合溶融塩中での浸漬処理を行う方法があり、これらを組み合わせてステンレス鋼帯の脱スケールが行われている。
【0004】
電解酸洗においては、ステンレス鋼帯の通枚方向に対して非接触に陰極と陽極を交互に配置し、ステンレス鋼帯に陽極電解と陰極電解を順次施す間接通電法が広く行われている。間接通電法ではステンレス鋼帯に通電ロールを接触させる必要がないため、通電ロールとの接触による表面キズ発生などの問題がない。しかし、ステンレス鋼帯に接触していないために、通電し電流の一部が陽極から陰極へ直接流れ、ステンレス鋼帯へ流れる電流効率が低下するという問題がある。
【0005】
陽極から陰極へ直接流れる電極間電流をなくすためには、陽極電解を行う槽と陰極電解を行う槽を独立させることが最も有効である。このような技術に関しては、特許文献1に記載されている。しかし槽を分けた場合、それぞれの槽について液の管理が必要になること、槽間にロールが必要になるため、ロールコストが生じ、さらにロールとの接触によるキズの発生が懸念されるなど、デメリットも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−300541
【0007】
1槽内に陽極と陰極を配置する場合においては、陽極と陰極間の距離を広くとることが、電流効率を向上させるのに有効な対策である。槽を分けることに比べて電流効率では劣るものの、液の管理やロールなどの設備管理面も考慮するとメリットは大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
総合的なメリットが大きいことから、1槽内に陽極と陰極を配置する電解酸洗方法は広く利用されている。しかしながら、電極配置と電流効率の関係についての詳細な検討が行われておらず、電極間距離を広く取りすぎて槽が大型化し管理面での負荷が大きくなる場合や、設置場所等の関係から電極間距離を狭くして電流効率が低下する場合があった。したがって、電極配置と電流効率の関係について検討し、最適な槽構成を把握する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、電流効率の低下は図2に示すように電流が陽極から陰極へ直接流れることによって起こるものであり、陽極と陰極間の電気抵抗を大きくすることによって電流効率を高めることが出来るとの考えのもと、種々の実験を行った。その結果、電流効率と槽の構成の関係を把握し、本発明をなした。
【0010】
請求項1に記載の発明は、焼鈍後のステンレス鋼帯を中性塩水溶液または酸性水溶液中において、間接通電法による陽極電解によって脱スケールを行う設備(以下、単に電解酸洗設備と言う)について、陽極と陰極間の距離をL(mm)、電極間を通電する電流をI(A)、陽極と陰極間における酸洗槽の実質幅をW(mm)、実質深さをD(mm)としたとき、以下の式を満たす電解酸洗法である。
L>0.6DW/I・・・・・・(1)
ここで実質幅W、実質深さDとは、実際の寸法から、絶縁物が設置してある部分を差し引いた寸法を言う。
請求項2に記載の発明は、ステンレス鋼帯と電極間の距離を20mm以上、150mm以下とする請求項1に記載の電解酸洗法である。
請求項3に記載の発明は、中性塩電解水溶液として100〜250g/lのNaSOを含む水溶液、酸性水溶液として50〜200g/lのHSOまたはHNOを含む水溶液を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の電解酸洗法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、酸洗設備の規模に応じた適切な槽の構成を設計し、電流効率90%以上を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の形態に係る脱スケール設備の概略構成図
【図2】間接通電法における電流回路を表す図
【図3】本発明の形態に係る脱スケール設備の例
【図4】酸洗槽の構成と電流効率の関係を表す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る脱スケール設備を図1に示す。通板するステンレス鋼帯の上下に、鋼帯から一定の距離を取った位置に陽極および陰極を配置する。電解電圧とコストを考慮すると、陽極は白金族金属あるいは白金属酸化物を被覆した電極を使用し、陰極はステンレス鋼などの鉄系合金を使用することが好ましい。このとき、陽極と陰極の最も近い距離を電極間距離Lとする。なお電流効率の点からは鋼帯と電極間の距離は近いほどよいが、近づけすぎると鋼帯と電極が接触してキズの原因となるので、鋼帯と電極間の距離は20mm以上、150mm以下とすることが好ましい。
【0014】
図1のような電極配置を1組として、1槽内に2組以上設置しても良い。陽極として白金族金属あるいは白金属酸化物を被覆した電極を使用し、陰極としてステンレス鋼などの鉄系合金が使用できる。
【0015】
酸洗液には、ステンレス鋼の脱スケールに用いられる一般的な酸洗液を用いることができる。本発明では、中性塩水溶液として、100〜250g/lのNaSOを含む水溶液、酸性水溶液として、50〜200g/lのHSOまたはHNOを含む水溶液を想定している。
【0016】
総通電量は酸洗設備の規模に応じて定めるものであり、電極表面の電流密度として100〜5000A/mとなるように電流および電極形状を調整すればよい。
【実施例】
【0017】
表1に示す組成の中性塩水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液を用い、SUS304の脱スケールを行った。脱スケール中に鋼帯中を流れる電流Iを測定し、通電電流1000Aに対する比率を電流効率とした。図3に示すように、電極間距離を変えた場合あるいは、槽内に絶縁物を設置することで酸洗槽の実質幅、実質深さを変えた場合の電流効率を求めた。
【0018】
【表1】

【0019】
図4に各条件での電流効率をまとめて示す。酸洗槽の形状および電極配置を本発明範囲設計することにより、酸洗液の種類によらず90%以上の電流効率を得ることができた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍後のステンレス鋼帯を中性塩水溶液または酸性水溶液中において、間接通電法による陽極電解によって脱スケールを行う設備(以下、単に電解酸洗設備と言う)について、陽極と陰極間の距離をL(mm)、電極間を通電する電流をI(A)、陽極と陰極間における酸洗槽の実質幅をW(mm)、実質深さをD(mm)としたとき、以下の式を満たす電解酸洗法。
L>0.6DW/I・・・・・・(1)
ここで実質幅W、実質深さDとは、実際の寸法から、絶縁物が設置してある部分を差し引いた寸法を言う。
【請求項2】
ステンレス鋼帯と電極間の距離を20mm以上、150mm以下とする請求項1に記載の電解酸洗法。
【請求項3】
中性塩電解水溶液として100〜250g/lのNaSOを含む水溶液、酸性水溶液として50〜200g/lのHSOまたはHNOを含む水溶液を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の電解酸洗法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−162794(P2012−162794A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26185(P2011−26185)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)