説明

ステンレス鋼製造工程廃棄物の再利用方法

【課題】 環境汚染問題を解消し、与えられた資源・エネルギを最大限に活用する、経済性にも優れたステンレス鋼製造工程廃棄物の再利用方法を提供する。
【解決手段】 ステンレス鋼製造工程で生じた含クロム廃棄物Wに適当量のクロム鉱石Oを配合した含クロム配合物MとコークスCとを造粒してペレットPを製造する造粒工程1、そのペレットPをロータリハーネス炉20の炉床21に静置して、燃焼ガスにより加熱し、ペレツトPの崩壊・粉化を最小限にして、含クロム鉄ペレツトN1を製造する還元工程2、その還元工程2の排ガスF1の持つ顕熱を水蒸気Sとして回収する廃熱回収工程3、及び還元工程2で発生し、廃熱回収工程3の排ガスF2に同伴された含亜鉛ダストZを分離捕集し、回収する含亜鉛ダスト回収工程4からなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明はステンレス鋼製造工程で発生する製鋼ダスト・スケール等の廃棄物を再利用して含クロム鉄ペレツト又は含クロム銑鉄を製造する、ステンレス鋼製造工程廃棄物の再利用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】 ステンレス鋼製造工程で発生する微細粒子よりなる製鋼ダスト・スケール等の廃棄物には、亜鉛等重金属、6価クロム化合物等の有害物が含まれており、そのまま廃棄することは出来ず、その処理に苦慮しているのが実状である。
【0003】これら廃棄物をコークスと混合、造粒したペレツトをロータリキルンにより直接還元して含クロム鉄ペレツトを製造しようとする試みがあるが、ペレツトがロータリキルン内で転動し、加熱され、反応する間に、摩擦・衝撃等により崩壊・粉化し、製品収率が低下すること、ペレツト粉化物の耐火物への溶着等その他によるトラブルが多発すること、集塵機で捕集される多量の煙道ダストには加熱中に気化する亜鉛が含まれ、廃棄することが出来ないこと等の問題点がある。
【0004】また、上記含クロム鉄ペレツトを原料として、ステンレス鋼を製造するために、クロム分が不足する含クロム鉄ペレツトにクロム鉱石を加えて、電気炉で還元し、含クロム銑鉄を製造しようとすると、多大の電力を消費し、経済的に成立しないと言う問題点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】 解決しようとする課題は、上記従来のステンレス鋼製造工程で発生する製鋼ダストその他の廃棄物は、亜鉛・6価クロム化合物等有害物が含まれ、その処理に苦慮していること、ロータリーキルンにより直接還元して、含クロム鉄ペレツトとして再利用しようとする試みも製品収率が低い、有害ダストが多量に発生する、含クロム鉄ペレツトにクロム鉱石を加えて、電気炉で還元し、含クロム銑鉄を製造しようとすると、多大の電力を消費し、経済的に成立しない等実用化に難があることであって、
【0006】本発明は上記問題を解決した、ステンレス鋼製造工程で発生する含クロム廃棄物から含クロム鉄ペレツト又は含クロム銑鉄として回収すると共に、亜鉛含有率が高く、商品価値の高い含亜鉛ダストを回収することにより、環境汚染問題を解消し、与えられた資源・エネルギを最大限に活用することが出来る、経済性にも優れたステンレス鋼製造工程廃棄物の再利用方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】 第1の発明は、図1乃至図4に示す如く、ステンレス鋼製造工程で生じた含クロム廃棄物Wに適当量のクロム鉱石Oを配合した含クロム配合物MとコークスCとを必要ならばバインダーと共に水Hを媒体として造粒してペレットPを製造する造粒工程1、そのペレットPをロータリハーネス炉20の水平面内に回転する炉床21に静置して、燃焼ガスにより加熱し、コークスCによる還元反応を生起させることにより、ペレツトPの崩壊・粉化を最小限にして、含クロム鉄ペレツトN1を製造する還元工程2、その還元工程2の排ガスF1の持つ顕熱を水蒸気Sとして回収する廃熱回収工程3、及び還元工程2で発生し、廃熱回収工程3の排ガスF2に同伴された含亜鉛ダストZを分離捕集し、回収する含亜鉛ダスト回収工程4からなり、亜鉛・6価クロム化合物等有害物による公害汚染の問題が解消され、含クロム銑鉄又はステンレス鋼の原料である良質の含クロム鉄ペレツトN1が得られると共に、亜鉛含有率が高く、商品価値が高い含亜鉛ダストZが得られる。
【0008】第2の発明は、第1の発明で得られた高温の含クロム鉄ペレツトN1を直接電気炉に供給し、溶融することにより、含クロム銑鉄N2を製造する電気炉溶融工程5を付加したものであって、冷却・貯蔵・輸送・再溶融に伴う諸コストが低減される。
【0009】
【発明の実施の形態】 本発明の実施の形態例について、図1乃至図4により説明すると、1は含クロム配合物MとコークスCとを水Hを媒体として造粒してペレットPを製造する造粒工程であって、含クロム配合物Mとしては、ステンレス鋼製造工程で生じた含クロム廃棄物Wに必要に応じて適当量のクロム鉱石Oが配合されたものが使用される。
【0010】2は上記ペレツトPを還元して、含クロム鉄ペレツトN1を製造する還元工程であって、ロータリハーネス炉20の水平面内に回転する円環状の炉床21に静置されたペレットPが燃焼ガスにより約1,100℃に加熱され、各ペレットP内ではコークスCによる還元反応が生起し、鉄・ニッケル・クロムその他の金属酸化物が還元され、含クロム鉄ペレツトN1に変換される。なお、ペレツトPは炉床21上に2,3層静置された状態で、炉床21と共に移動するため、崩壊・粉化は最小限に抑制される。また、ペレットPに含まれる亜鉛は気化し、酸化され、ガスF1に同伴されて、次工程に送られる。
【0011】3は還元工程2の排ガスF1の持つ顕熱を水蒸気として回収する廃熱回収工程であり、発生したスチームSは工場内の各種装置を駆動する電力として、自家消費される。4は上記還元工程2で発生し、廃熱回収工程3の排ガスF2に同伴された含亜鉛ダストZを分離捕集し、回収する含亜鉛ダスト回収工程である。
【0012】6は上記還元工程2で得られた高温の含クロム鉄ペレツトN1を直接電気炉に供給し、溶融することにより、含クロム銑鉄N2を製造する電気炉溶融工程、7はその電気炉溶融工程6で得られた、溶融した含クロム銑鉄N2を直接製鋼用電気炉に供給し、精錬することにより、ステンレス鋼N3を製造するステンレス鋼製鋼工程である。
【0013】次に各工程において使用される装置について説明すると、10は円盤形造粒機であって、後述する乾燥工程5で乾燥された微粉状の含クロム配合物Mと微粉砕されたコークスCとの混合物が供給されると共に、媒体として必要ならばバインダーと共に水Hが供給され、含クロム配合物MとコークスCとの混合物が傾斜した回転円盤上を転動する間に水Hを媒体にしていわゆる雪だるま式に成長し、10ミリ台のペレツトPとなる。なお、12,13,14はそれぞれコークスホッパー、ベルトコンベア、スクリュー式ミキシングコンベア、15,16はそれぞれ造粒機10で製造されたペレットPを順次ロータリハース炉20に送るフレキシブルコンベア、ベルトコンベアである。
【0014】22は前記炉床21と共にロータリハース炉20の炉体を形成する固定炉壁であって、内外の側壁及び天井壁よりなる。23,24はそれぞれ固定炉壁22に複数基設けた、オイル等の燃料Fを燃焼するバーナ、燃焼用の空気Aを送込むブロワ、25は炉床21を回転させるギア式動力伝達機構、26は回転する炉床21を支え、環状軌条27上を転動する車輪、28は炉床21と固定壁22との間をシールする水シール機構、その他2Aは炉床21へペレツトPを投入する投入口、2Bは含クロム鉄ペレツトN1を炉外に取出すスクリューコンベアである。30はロータリハース炉21からの排ガスF1の持つ顕熱を水蒸気Sとして回収する廃熱回収ボイラ、40はバグフィルタ等の集塵機であって、廃熱回収ボイラ30からの排ガスF2に同伴された含亜鉛ダストZを分離捕集し、回収するものである。なお、41は排ガスファンである。
【0015】その他、5は含クロム廃棄物W単独又はクロム鉱石Oとの混合物を乾燥する乾燥工程であって、装置として、ロータリハース炉20からの排ガスF1の一部に風量・温度調整用の空気Aを混合したものを熱ガスとする気流乾燥方式等の乾燥機50、上記各種被乾燥物を貯蔵し、切出すサージビン51、そのサージビン51から切出される被乾燥物と乾燥機50で乾燥された乾燥粉の一部とを混合し、水分を調整するパドルミキサ52、そのパドルミキサ52から乾燥機50への供給物を解砕する解砕機53、乾燥機50からガスF3に同伴して排出される乾燥粉を粗分離するサイクロン54、未分離のダストを捕集するバグフィルタ55、排ガスファン56等が用いられる。なお、上記乾燥粉とバグフィルタ55で捕集されたダストとが含クロム配合物Mとして造粒機10に供給されることになる。
【0016】特徴とする作用について説明すると、還元工程2においては、ペレツトPは炉床21上に2,3層静置された状態で、ロータリハーネス炉20の炉床21と共に移動するため、供給、排出時以外は摩擦・衝撃を受けず、崩壊・粉化は最小限に抑制され、ロータリキルン方式に比較し、収率(金属化率)が極めて高く、90%以上になり、しかも添加されたクロム鉱石も還元されていて、そのまま電気炉で溶解・精錬すれば、所望の組成の良質のステンレス鋼が得られると共に、電気炉の負担が大幅に低減され、全体として電力原単位が著しく低減される。
【0017】しかも、上述のようにペレットPの崩壊・粉化が少ないため、微粉の炉壁への溶着等のトラブルもなく、ロータリハーネス炉20からの排ガスF1に同伴され、廃熱回収ボイラ30を経て、集塵機40で捕集、回収される含亜鉛ダストZは亜鉛の含有率が高く、商品価値が高く、しかも廃棄物処理費が不要となるため、両者によって得られる利益は極めて大きい。
【0018】また、ロータリハーネス炉20は、ペレットPが燃焼ガスと共に炉壁よりの輻射熱を受けて加熱されるため、還元反応完了までの時間が10〜20分とロータリキルンのそれに比較して極めて短く、従って炉内を空にするために必要な時間も短く、例えば普通鋼ダストを処理したい場合、短時間で普通鋼ダストに切替えることが出来、反対に短時間でまた元に戻すことも出来、装置の多元的利用も可能である。なお、ロータリハーネス炉20からの排ガスF1の顕熱は廃熱回収工程3におけるスチームSの発生及び乾燥工程5におけける原料廃棄物M等の乾燥に有効に利用される。
【0019】第2の発明に示すように、電気炉溶融工程6において、還元工程2で得られた高温の含クロム鉄ペレツトN1を直接電気炉に供給し、溶融することにより、含クロム銑鉄N2を製造し、さらにステンレス鋼製鋼工程7において、その電気炉溶融工程6で得られた、溶融した含クロム銑鉄N2を直接製鋼用電気炉に供給し、精錬することにより、ステンレス鋼N3を製造すれば、各工程間の冷却・貯蔵・輸送・再溶融の装置及び運転保守に伴うコストが著しく低減される。
【0020】
【実施例】 ステンレス鋼製造工程で生じた含クロム廃棄物W 100重量部に対して、クロム鉱石O 143重量部を配合し、コークスCを添加して作ったペレットPを本発明の方法により還元した結果、含クロム鉄ペレツトN1 211重量部、水蒸気S 464重量部、及び含亜鉛ダスト 4220重量部がそれぞれ得られ、含クロム鉄ペレツトN1を電気炉で溶解し、含クロム銑鉄N2125重量部が得られた。なお、含クロム銑鉄N2の組成(%)は次の通りである。すなわち C Si Ni Cr Fe % 4.7 0.9 1.7 42.1 50.6
【0021】
【発明の効果】 本発明は以上のように構成されるため、次の効果を奏する。
(ア)ペレットPの崩壊・粉化が最小限に抑制され、且つロータリキルン方式に比較し、収率(金属化率)が極めて高く、90%以上になり、微粉の炉壁への溶着等のトラブルもない。
(イ)添加されたクロム鉱石も還元されていて、そのまま電気炉で溶解・精錬すれば、所望の組成のステンレス鋼が得られると共に、電気炉の負担が大幅に低減され、全体として電力原単位が著しく低減される。
(ウ)集塵機40で捕集、回収される含亜鉛ダストZは亜鉛の含有率が高く、商品価値が高く、亜鉛資源として再利用可能であり、それによって有害重金属による公害汚染の問題も併せ解消され、得られる利益は極めて大きい。
(エ)還元反応完了までの時間が10〜20分と短く、従って炉内を空にするために必要な時間も短く、例えば普通鋼ダストとの切替えを短時間で行うことが出来、装置の多元的利用も可能である。
(オ)電気炉溶融工程6、ステンレス鋼製鋼工程7と直接接続すれば、各工程間の冷却・貯蔵・輸送・再溶融の装置及び運転保守に伴うコストが著しく低減される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態例を示すブロック図である。
【図2】 本発明の実施の形態例を示す機器構成図である。
【図3】 ロータリハース炉の平面図である。
【図4】 ロータリハース炉の断面図である。
【符号の説明】
1 造粒工程
2 還元工程
3 廃熱回収工程
4 含亜鉛ダスト回収工程
5 乾燥工程
6 電気炉溶融工程
7 ステンレス鋼製鋼工程
10 造粒機
12 コークスホッパー
13 ベルトコンベア
14 スクリュー式ミキシンゴコンベア
15 フレキシブルコンベア
16 ベルトコンベア
20 ロータリハーネス炉
21 炉床
22 固定炉壁
23 バーナ
24 ブロワ
25 動力伝達機構
26 車輪
27 軌条
28 水シール機構
2A 投入口
2B スクリューコンベア
30 廃熱回収ボイラ
40 集塵機
41 排ガスファン
50 乾燥機
51 サージビン
52 パドルミキサ
53 解砕機
54 サイクロン
55 バグフィルタ
56 排ガスファン
A 空気
C コークス
F 燃料
F1 排ガス
F2 排ガス
F3 排ガス
H 水
N1 含クロム鉄ペレツト
N2 含クロム銑鉄
N3 ステンレス鋼
M 含クロム配合物
P ペレット
O クロム鉱石
S 水蒸気
W 含クロム廃棄物
Z 含亜鉛ダスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ステンレス鋼製造工程で生じた含クロム廃棄物(W)に適当量のクロム鉱石(O)を配合した含クロム配合物(M)とコークス(C)とを必要ならばバインダーと共に水(H)を媒体として造粒してペレット(P)を製造する造粒工程(1)、そのペレット(P)をロータリハーネス炉(20)の水平面内に回転する炉床(21)に静置して、燃焼ガスにより加熱し、コークス(C)による還元反応を生起させることにより、ペレツト(P)の崩壊・粉化を最小限にして、含クロム鉄ペレツト(N1)を製造する還元工程(2)、その還元工程(2)の排ガス(F1)の持つ顕熱を水蒸気(S)として回収する廃熱回収工程(3)、及び還元工程(2)で発生し、廃熱回収工程(3)の排ガス(F2)に同伴された含亜鉛ダスト(Z)を分離捕集し、回収する含亜鉛ダスト回収工程(4)からなることを特徴とするステンレス鋼製造工程廃棄物の再利用方法。
【請求項2】 請求項1記載の還元工程(2)で得られた高温の含クロム鉄ペレツト(N1)を直接電気炉に供給し、溶融することにより、含クロム銑鉄(N2)を製造することを特徴とするステンレス鋼製造工程廃棄物の再利用方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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