説明

ストランド用樹脂組成物

【課題】 非常の細い外径のストランドを断線することなく製造できる、ストランド用樹脂組成物の提供。
【解決手段】 (A)ポリアミド系樹脂20〜95質量%、(B)スチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂は除く)80〜5質量%、(C)酸変性スチレン系樹脂及び酸変性オレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して1〜30質量部を含んでおり、カルシウム濃度が200ppm以下で、マグネシウム濃度が100ppm以下である、ストランド用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用の合成繊維等に適したストランド用樹脂組成物とストランドに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を押出して、直径が1mm以下の非常に細いストランドを製造するとき、部分的にダマが発生する(異物が付着したように径が大きくなったり、突出部が形成されたりする状態になる)ことがあり、そのような場合には、ダマが発生した部分で断線し易いという問題がある。
【特許文献1】特許第3950410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、外径の小さなストランド状に押出成形した場合でも、断線の発生を防止できるストランド用樹脂組成物とそれから得られたストランドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、ストランドを押出成形したとき、断線原因となるダマが発生する原因が、樹脂成分中に含まれるカルシウムやマグネシウムであることを見出し、前記カルシウムやマグネシウム含有量が低減された樹脂成分を使用することで、本発明を完成したものである。
【0005】
本発明は、課題の解決手段として、下記の請求項1〜4の発明を提供するものである。
【0006】
請求項1の発明は、
(A)ポリアミド系樹脂20〜95質量%
(B)スチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂は除く)80〜5質量%、
(C)酸変性スチレン系樹脂及び酸変性オレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して1〜30質量部を含んでおり、
カルシウム濃度が200ppm以下で、マグネシウム濃度が100ppm以下である、ストランド用樹脂組成物であり;
請求項2の発明は、芯材の周囲が樹脂被覆されたストランド成形用である、請求項1記載のストランド用樹脂組成物であり;
請求項3の発明は、外径が1mm以下のストランド成形用である、請求項1又は2記載のストランド用樹脂組成物であり;
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項記載のストランド用樹脂組成物を押出成形して得られたストランドであり、外径が500μm以下である、ストランドである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のストランド用樹脂組成物を用いると、外径が小さなストランドを製造したときにも断線の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<ストランド用樹脂組成物>
〔(A)成分〕
(A)成分のポリアミド系樹脂としては、ジアミンとジカルボン酸とから形成されるポリアミド樹脂及びそれらの共重合体、具体的にはナイロン66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカナミド(ナイロン6・12)、ポリドデカメチレンドデカナミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)及びこれらの混合物や共重合体;ナイロン6/66、6T成分が50モル%以下であるナイロン66/6T(6T:ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、6I成分が50モル%以下であるナイロン66/6I(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/6I/610等の共重合体;ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM5T)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)イソフタルアミド(ナイロンM5I)、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T等の共重合体が挙げられ、そのほかアモルファスナイロンのような共重合ナイロンでもよく、アモルファスナイロンとしてはテレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合物等を挙げることができる。
【0009】
更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物及びこれらの成分からなる共重合体、具体的には、ナイロン6、ポリ−ω−ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ−ω−ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂及びこれらの共重合体、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体、具体的にはナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/6I/610/12等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0010】
〔(B)成分〕
本発明の組成物は、(B)成分の樹脂として、組成物中のカルシウムやマグネシウム濃度を減少させるため、塊状重合で製造したもの、乳化重合後、酸凝固で製造したものを用いることが好ましい。乳化重合度、塩凝固したものを用いる場合には、水洗等の方法で洗浄して、カルシウムやマグネシウム濃度を低減する。
【0011】
スチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体のほか、これらのスチレン系モノマーと共重合可能なモノマー、例えばアクリロニトリル、メチルメタクリレート等のビニル系モノマーとの共重合体を挙げることができる。
【0012】
また、スチレン系樹脂は、ブタジエンゴム等のジエン系ゴム、エチレン/プロピレン系ゴム、アクリル系ゴム等に上記のスチレン系モノマー及びビニル系モノマーをグラフト重合させたゴム変性スチレン系樹脂にすることができる。このようなスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、MS樹脂、MBS樹脂等を挙げることができる。特に好ましくは、ポリスチレン、AS樹脂である。
【0013】
スチレン系樹脂は、重量平均分子量が100,000〜600,000の範囲のものが好ましく、100,000〜500,000の範囲のものがより好ましく、150,000〜450,000の範囲のものがより好ましい。
【0014】
他の熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂は除く)としては、オレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等を挙げることができる。
【0015】
オレフィン系樹脂は、エチレンのほか、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独ポリマー、エチレンとα−オレフィンの共重合体、異なるα−オレフィン同士の共重合体、エチレン又はα−オレフィンを主成分として、これと共重合可能な他のモノマー、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の共重合体等を挙げることができる。
【0016】
オレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンを主成分とし、更にエチレン又はプロピレン以外のα−オレフィンをブロック又はランダム共重合させた共重合体が好ましく、特にプロピレンを主成分とし、更にエチレン又はプロピレン以外のα−オレフィンをブロック又はランダム共重合させた共重合体(オレフィン系樹脂)が好ましい。ここで、エチレン又はプロピレン以外のα−オレフィンの割合(仕込み割合)は、0.1〜10質量%が好ましい。
【0017】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルと他の樹脂とのアロイ(変性ポリフェニレンエーテル)を挙げることができる。
【0018】
本発明の組成物中、(A)成分と(B)成分の含有割合は、(A)成分が20〜95質量%、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%であり、(B)成分が80〜5質量%、好ましくは70〜20質量%、より好ましくは60〜30質量%である。
【0019】
〔(C)成分〕
本発明の(C)成分である酸変性スチレン系樹脂及び酸変性オレフィン系樹脂から選ばれる1種以上は、(A)成分と(B)成分の相溶化剤として作用する成分である。
【0020】
酸変性スチレン系樹脂としては、アクリル酸やマレイン酸等の酸変性ABS樹脂、酸変性AS樹脂、スチレン-マレイミド-無水マレイン酸共重合体等を挙げることができ、酸変性ポリプレン系樹脂としては、アクリル酸やマレイン酸等の酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0021】
(C)成分は、(A)成分と(B)成分の相溶化作用を高めるものであるため、酸量が0.5〜5質量%であることが好ましく、0.5〜3質量%であることがより好ましい。
【0022】
(C)成分の含有量は、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して1〜30質量部であり、好ましくは2〜20質量部、より好ましくは3〜15質量部である。
【0023】
〔その他の成分〕
本発明の組成物には、本発明の課題を解決できる範囲内で、各種添加剤、熱安定化剤、酸性成分の中和剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、染料、顔料等を含有させることができる。
【0024】
本発明の組成物では、組成物中におけるカルシウム量とマグネシウム量、好ましくは更にナトリウム量とカリウム量を所定値以下にすることにより、ストランドを押出成形するとき又は押出成形後の断線の発生を抑制することができる。カルシウム濃度とマグネシウム濃度は、実施例に記載の方法により測定する。
【0025】
本発明の組成物は、組成物中におけるカルシウム濃度が200ppm以下であり、好ましくは1〜150ppmであり、より好ましくは1〜100ppmである。
【0026】
本発明の組成物は、組成物中におけるマグネシウム濃度が100ppm以下であり、好ましくは1〜80ppmであり、より好ましくは1〜50ppmである。
【0027】
本発明の組成物では、組成物中におけるナトリウム量とカリウム量も所定値以下であることが好ましい。ナトリウム量は100ppm以下であり、好ましくは1〜80ppmであり、より好ましくは1〜50ppmであり、カリウム量は200ppm以下であり、好ましくは1〜150ppmであり、より好ましくは1〜100ppmである。
【0028】
本発明の組成物は、外径が1mm以下、例えば、外径が500μm以下のストランド用として使用することができる。ストランドは、芯材の周囲が本発明の組成物で被覆されたものでもよい。
【0029】
芯材は用途に応じて適宜選択することができるものであり、合成樹脂製、天然繊維製、紙製、金属製等を用いることができる。本発明の組成物で金属製芯材の周囲を被覆したものは、例えば、袋口等を結束するために使用することができる。
【0030】
<ストランドとその製造方法>
本発明の組成物を用いてストランドを製造する場合には、下記の方法を適用できる。本発明の組成物で用いる各成分を必要に応じてミキサー等で予備混合した後、押出機中で溶融混練した後、紡糸口金から所定径になるように押し出し、公知の湿式又は乾式凝固法で凝固させて得る。
【0031】
本発明のストランドは、押出成形時にダマが発生し難いため、断線することなく、外径が500μm以下にすることができる。
【0032】
本発明のストランドは、衣料製造用の繊維、タイヤコード、ゴムやプラスチックの補強繊維、内装材ファブリックや各種繊維のコーテイング等に使用することができる。
【実施例】
【0033】
(カルシウム濃度とマグシウム濃度の測定方法)
組成物中のカルシウム濃度とマグシウム濃度は、ICP質量分析法を用いて測定した。
【0034】
実施例及び比較例で使用した成分は、次のとおりである。
(A)成分
PA−1:標準ポリアミド(ポリアミド6,三菱エンジニアプラスチック社製,ノバミッド,ポリアミド6 1010J)
(B)成分
ABS-1樹脂(スチレン量45質量%、アクリロニトリル16質量%、ゴム量40質量% ,酸凝固,Ca:11ppm、Mg:2ppm)
ABS-2樹脂(スチレン量45質量%、アクリロニトリル15質量%、ゴム量40質量%,酸凝固,Ca:8ppm、Mg:600ppm)
ABS-3樹脂(スチレン量45質量%、アクリロニトリル15質量%、ゴム量40質量%,塩凝固,Ca:23ppm、Mg:1400ppm)
ABS-4樹脂(スチレン量45質量%、アクリロニトリル15質量%、ゴム量40質量%,塩凝固,Ca:2800ppm、Mg:4ppm)
(C)成分
(C-1)スチレン−Nフェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体(スチレン47質量%、Nフェニルマレイミド52質量%、無水マレイン酸が1質量%,重量平均分子量が14万5千)
実施例及び比較例
表1記載の各成分をV型タンブラーで混合後、二軸押出機(日本製鋼製,TEX30,シリンダー温度230℃、回転数350rpm、吐出量30kg/hr)にて溶融混練し、樹脂組成物を得た。
【0035】
東洋精機(株)製のキャピログラフ-1Bを用いて上記作成した樹脂を繊維状にして引き取リ、その繊維の外観、手触りでゲル等の発生を評価した。
【0036】
条件:ダイの径1mm、長さ40mm
シリンダー温度250℃
押出し速度5mm/min.
ストランド(繊維)引取り速度50m
上記条件で作成したストランドを1m取り出し、そのストランドを親指と人指指の間に挟み、凹凸の有無を評価した。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド系樹脂20〜95質量%
(B)スチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂は除く)80〜5質量%、
(C)酸変性スチレン系樹脂及び酸変性オレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して1〜30質量部を含んでおり、
カルシウム濃度が200ppm以下で、マグネシウム濃度が100ppm以下である、ストランド用樹脂組成物。
【請求項2】
芯材の周囲が樹脂被覆されたストランド成形用である、請求項1記載のストランド用樹脂組成物。
【請求項3】
外径が1mm以下のストランド成形用である、請求項1又は2記載のストランド用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のストランド用樹脂組成物を押出成形して得られたストランドであり、外径が500μm以下である、ストランド。

【公開番号】特開2009−108110(P2009−108110A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278501(P2007−278501)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】