ストレス耐性のあるトランスジェニック植物
本発明は、塩ストレスに対する耐性を有する新規のトランスジェニック植物に関する。この植物は、オリザ・サティバから単離されたグルタミン酸デカルボキシラーゼをコードする組換え核酸で形質転換されている。またさらに、本発明は、塩耐性であるトランスジェニック植物を作製する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩耐性のあるトランスジェニック植物に関する。特に、本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼを発現するトランスジェニック植物、およびそのようなトランスジェニック植物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩分ストレスは、世界全体の農業収量に悪影響を与え、生存のためであるか、経済的利益のためであるか問わず、生産に影響を及ぼしている。塩分に対する植物応答は、協調的に働いて細胞の高浸透圧とイオン不均衡の両方を緩和しなければならない多くのプロセスからなる。さらに、作物用植物は、塩分環境での十分なバイオマス産生が可能でなければならない。
【0003】
本発明では、環境ストレスに耐える強化された能力を有し、かつ望ましい形態学的および/または農学的特性などを有する植物を作製するための方法および材料が、植物遺伝子工学を通じて提供される。特に、本発明は、グルタミン酸のGABAへの変換を触媒し、それによって植物がストレスに耐える能力を強化するか、または他の望ましい特性を付与する、グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素を合成する植物の能力を強化する遺伝子による植物の遺伝的形質転換に関する。
【0004】
本発明の背景として、酵素GAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)は、グルタミン酸(Glu)からのγアミノ酪酸(GABA)の生成を触媒することが示されており、いくつかの植物GAD遺伝子がクローニングされている。ストレスに曝露された後の植物細胞中のGABAの速やかな蓄積が十分に裏付けられている。酵素GADによって促進されるグルタミン酸の脱カルボキシル化によるGABAの産生は、ストレス後にGABAが植物中に蓄積する主な原因であると提唱されている。しかしながら、GABAは、ポリアミンの異化と関連する経路のような他の代謝経路によって、または可逆的なGABAアミノトランスフェラーゼ反応によるGABAシャントの一部によっても生合成される。ダイズ子葉またはアスペルギルス細胞懸濁培養物を用いた実験により、グルタミン酸の代謝によるGABAの生成は一般的な現象であり、GABAの生合成は、研究された条件下でのストレスに対する応答ではないことが示唆されている。
【0005】
しかしながら、GABAは、機械的刺激、低温または熱ショック条件のような温度の変動に曝された植物中で速やかに蓄積することも示されている。こうした背景を考慮して、植物中でのGABA合成およびGAD酵素活性を研究することにかなりの努力が注がれてきたと考えられる。しかしながら、塩分耐性の付与に対する植物中でのGABAの直接的役割は、これまで示されていない。本発明は、この分野における大きな進歩となるものである。
【0006】
従来技術
塩耐性のメカニズム
塩生植物(塩分のある生息環境に適応した植物)の酵素には、非塩生植物(中生植物、または真水に適応した植物とも呼ばれる)の酵素と同程度にしか、高濃度のNaClに耐性がないという生化学者による初期の発見が塩耐性の全てのメカニズムの根拠を成している(Munns 2002)。例えば、塩生植物のアトリプレクス・スポンギオサ(Atriplex spongeosa)またはハママツナ(Suaeda maritima)から抽出された酵素のインビトロ活性は、豆またはエンドウから抽出された酵素のインビトロ活性と全く同じ程度にNaClに感受性があった(Greenway & Osmond 1972;Flowers et al.1977)。海水の塩分濃度よりも10倍高い塩分濃度で成長することができる、ピンク塩湖の藻類ヅナリエラ・パルバ(Dunaliella parva)に由来する酵素でさえも、最も感受性の高い中生植物の酵素とNaClに対する感受性が同じである(Munns et al.1983によって概説されている)。通常、Na+は、100mMを越える濃度でほとんどの酵素を阻害し始める。Cl−が毒性を持ち始める濃度は一層あまり明確ではないが、Na+の濃度と同じ範囲にあると思われる。K+でさえも100〜200mMの濃度で酵素を阻害し得る(Greenway & Osmond 1972)。
【0007】
それゆえ、塩耐性のメカニズムは、植物中への塩の侵入を最小化するものと、細胞質中の塩の濃度を最小化するものの2つの主なタイプからなる。塩生植物は両方のタイプのメカニズムを有する。塩生植物は塩を十分に「排除」するが、不可避的に入り込む塩を効果的に液胞に区画化する。これによって、塩生植物は塩分土壌中で長期間成長することができる。いくつかの中生植物も塩を十分に排除するが、取り込まれた残留塩を塩生植物ほど効果的に区画化することができない。ほとんどの中生植物は塩を排除する能力が乏しく、塩は、蒸散する葉に毒性のあるレベルにまで集まる。
【0008】
高塩濃度条件は、ほとんどの植物に高浸透圧による損傷をもたらし、Na+濃度の上昇は、生命維持に必要なNa+感受性酵素を妨害することによっておよび必須のイオン輸送に影響を及ぼすことによって細胞プロセスを破壊する。Na+摂取は、塩分条件下で複数のNa+透過性チャネル/輸送体を介して起こり、イオン毒性は、細胞質Na+濃度がある閾値レベルに達したときに誘発されると考えられている(Volkamar et al.,1999;Hasegawa et al.,2000)。植物の塩耐性を遺伝的に強化するには、上記ストレスに対する耐性を付与するために合理的な戦略的アプローチをとるべきである。ほとんどの植物は、いわゆる適合溶質であるオスモライトを、渇水または高塩濃度条件に対する応答として合成し、蓄積する。これらの適合溶質は、生理的pH下で中性であり、分子量が低く、水溶解度が高く、細胞質中に高濃度で蓄積したときでさえも生物にとって毒性がない。マンニトール(Tarczynski et al.,1993)、オノニトール(Sheveleva et al.,1997)、トレハロース(Holmstriim et al.,1996;Romero et al.,1997)、プロリン(Kishor et al.,1995)、ベタイン(Lilius et al.,1996;Hyashi et al.,1997;Sakamoto et al.,1998)、またはフルクタン(Pilon−Smits et al.,1995)、塩生植物ハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)の適合溶質であるエクトイン(1,4,5,6−テトラヒドロ−2−メチル−4−ピリミジンカルボン酸)(Yoshida 2002)、ミオイノシトール(Das−Chatterjee et al.,2006)などのオスモライトを生合成するための遺伝子が導入されたトランスジェニック植物の中には、高浸透圧耐性の向上を示すものもあった。別の戦略として、ストレス耐性遺伝子の発現を調節する転写因子をコードする、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)DREBIA遺伝子の過剰発現によって、トランスジェニック植物の渇水、高塩濃度、および凍結に対する耐性が向上することが報告された(Kasuga et al.,1999)。一般に、Na+毒性に対する耐性を分子的に向上させるのは困難である。シロイヌナズナでの液胞Na+/H+対向輸送体遺伝子(NHXI)または液胞プロトンポンプ遺伝子(AVPZ)の過剰発現による耐性の向上に関する報告はほんのわずかしかない(Apse et al.,1999)。本発明者らは、今回、グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素をコードするオリザ・サティバ(Oryza sativa)GAD遺伝子の導入による植物細胞の強化された塩ストレス耐性を示している。
【0009】
GABAシャント
γ−アミノ酪酸(GABA)は、細菌から植物および脊椎動物まで保存されている4炭素非タンパク質アミノ酸である。GABAは遊離アミノ酸プールの重要な成分である。GABAは、α−炭素上ではなくγ−炭素上にアミノ基を有し、非結合形態で存在する。GABAは水によく溶け、構造的には、プロリンに似た環状構造を含む、いくつかの立体構造を溶液中でとることができる柔軟な分子である。GABAは、生理的pH値(pK値4.03および10.56)で双性イオンとなる(正負両方の電荷を持つ)。
【0010】
GABAは半世紀余り前に植物で発見されたが、GABAが脳で高レベルに生じ、神経伝達において大きな役割を果たすことが明らかになったとき、GABAへの関心は動物に移った。それ以来、脊椎動物のGABAに関する研究は、特に神経伝達における、シグナル伝達分子としてのその役割に主に焦点が当てられた。植物および動物において、GABAは、GABAシャントと呼ばれる、3つの酵素から構成される短い経路を介して主に代謝されるが、それは、この経路がトリカルボン酸(TCA)回路の2つの段階を迂回するからである。この経路は、細胞質酵素のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)ならびにミトコンドリア酵素のGABAトランスアミナーゼ(GABA−T)およびコハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH)から構成されている。この保存された代謝経路の調節は、植物の独自の特徴を有しているように思われる。
【0011】
GABAを介してグルタミン酸をコハク酸に変換する経路はGABAシャントと呼ばれる。このシャントの第1の段階は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD、EC 4.1.1.15)による直接的かつ不可逆的なグルタミン酸のα−脱カルボキシル化である。インビトロでのGAD活性は、多くの植物種および植物組織からの粗抽出物で特徴解析されている(Brown & Shelp,1989)。GADは、L−グルタミン酸に特異的であり、リピドキサル5’−リン酸依存的であり、スルフヒドリル基と反応することが知られている試薬によって阻害され、カルモジュリン結合ドメインを有し、約5.8のはっきりとした酸性至適pHを示す。ペチュニア(Baum et al.,1993)、トマト(Gallego et al.,1995)、タバコ(Yu & Oh,1998)、およびアラビドプシス(Zik et al.,1998)由来のGAD遺伝子が同定されている。GABAシャントに関与する第2の酵素であるGABAトランスアミナーゼ(GABA−T;EC 2.6.1.19)は、ピルビン酸またはα−ケトグルタル酸のいずれかをアミノ酸受容体として用いて、GABAのコハク酸セミアルデヒドへの可逆的変換を触媒する。粗抽出物では、インビトロでのGABA−T活性は、α−ケトグルタル酸よりもピルビン酸を好むように見える。しかしながら、別個のピルビン酸依存的活性とα−ケトグルタル酸依存的活性とがタバコ葉の粗抽出物中に存在しており、これらはイオン交換クロマトグラフィーで互いに分離することができる(Van Cauwenberghe & Shelp)。両活性とも、8〜10の幅広い至適pHを示す。約1000倍に精製された、タバコ由来のピルビン酸特異的ミトコンドリアGABA−Tのミカエリス定数(Km)は、GABAについては1.2mM、ピルビン酸については0.24mMである(Van Cauwenberghe & Shelp)。
【0012】
GABAシャントの最後の段階は、コハク酸セミアルデヒドをコハク酸に不可逆的に酸化する、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH;EC 1.2.1.16)によって触媒される。部分精製された植物酵素は、約9のアルカリ性至適pHを有し、活性は、NADを用いる方がNADPを用いるよりも最大20倍大きい(Shelp et al.,1995)。
【0013】
実際のところ、植物のGABAシャントへの関心は、主に、GABAが生物ストレスと非生物ストレスに応答して大量にかつ速やかに産生されるという実験的観察から起こった。それ以来、GABAシャントは、細胞質pHの調節、TCA回路への炭素移動、窒素代謝、虫の抑止、酸化ストレスからの保護、浸透圧調節、およびシグナル伝達をはじめとする様々な生理的応答と関連付けられている。
【0014】
酸化ストレスからの保護
アラビドプシスにおいて、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼを破壊した突然変異体は、H2O2を除去することができないので、環境ストレスに対してより感受性が高い(Bouche et al.,2003)。GABAシャントの最後の段階は、呼吸鎖にコハク酸とNADHの両方を提供することができる。それゆえ、GABAの分解により、TCA回路の特定の酵素を阻害する酸化ストレス条件下での活性酸素中間体の蓄積が制限され得るという仮説が立てられた。酵母において、GABAシャント遺伝子をノックアウトした突然変異体は、H2O2に対してより感受性が高いように思われる(Coleman et al.,2001)。
【0015】
Colemanら(2001)の研究は、GADの酸化ストレス耐性への細胞内関与に関する知見を提供している。出芽酵母(S.cerevisiae)GAD1遺伝子座の遺伝子量を増加させることにより、2つの異なる酸化剤であるジアミドとH2O2に対する耐性の増加が生じた。この耐性の増加は、コハク酸からグルタミン酸を産生させる完全なグルタミン酸異化経路の存在に厳密に依存していた。グルタミン酸デカルボキシラーゼの下流にあるいずれの酵素反応を遺伝的に除去しても、細胞は酸化剤に対して高感受性になった。
【0016】
適合溶質の合成/過剰発現
長期の塩分ストレスと短期の塩分ストレスの両方に対する塩耐性生物の細胞応答には、適合溶質として知られるある部類の浸透圧保護化合物の合成と蓄積が含まれる。これらの比較的小さい有機分子は代謝に無害であり、プロリン、グリシンベタイン、ポリオール類、糖アルコール類、および可溶性糖類を含む。これらのオスモライトは、タンパク質や細胞構造を安定化させ、細胞の浸透圧を上昇させることができる(Yancey et al.,1982)。この応答は、より大量のNaClを含む土壌溶液や結果として生じる細胞からの水分喪失に直面して乱される細胞の水分状態の恒常性を維持する。グリシンベタインとトレハロースは、タンパク質の四次構造や膜の高次状態の安定化剤として働く。マンニトールは、フリーラジカルスカベンジャーとしての役割を果たす。これはまた、細胞内構造(膜およびタンパク質)を安定化させ、かつストレス下での細胞酸化還元電位を中和する。それゆえ、これらの有機オスモライトは、浸透圧保護物質としても知られる(Bohnert and Jensen,1996;Chen and Murata,2000)。
【0017】
適合溶質
AtProT2は水分ストレスによって誘導することができ、AtProT2とLeProT1は、GABAならびにプロリンおよびグリシンベタインなどの他のストレス関連化合物を輸送する(Breitkreuz,et al.1999;Schwacke,et al.1999;Fischer,et al.1998)。これらの知見は、GABAが適合オスモライトとしての役割を有し得ることを示している(Yancey 1994)。3つの化合物は全て、中性pHで双性イオンとなり、水によく溶け、低mM濃度まで蓄積することができ、細胞に毒性作用を与えないように見える。高濃度(25〜200mM)で、GABAは、プロリンの凍結防止特性を超える、塩存在下の凍害に対して、単離されたチラコイドを安定化させ、保護する。さらに、GABAは、同じ濃度(16mM)のプロリンやグリシンベタインの活性を超える、インビトロでのヒドロキシルラジカル除去活性を有している(Smirnoff & Cumbes 1989)。GABAは、グリシンベタイン合成に関与する、葉緑体局在性ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼによって、γ−アミノ−ブチルアルデヒド(ポリアミン異化経路の産物)から合成され得るが(Trossat et al.,1997)、グルタミン酸の脱カルボキシル化と比べたポリアミンによる相対的流量は不明である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のアグロバクテリウム媒介性形質転換によって植物(単子葉植物および双子葉植物)中での塩耐性を増加させる方法に関する。さらに、本発明は、植物を改変して塩耐性に関する遺伝子を発現させる方法、およびこの方法を用いて産生された植物に関する。
【0019】
イネ由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を利用して、植物の塩耐性を増加させる方法が示されている。初期の試みは、マンニトール、オノニトール、トレハロース、プロリン、ベタイン、またはフルクタン、エクトイン、ミオイノシトールのようなオスモライトを用いる方向で行なわれた。
【0020】
非生物ストレスは、作物生産を制限する複雑な環境的制約である。ストレス耐性作物を生産するための生体工学的ストレスシグナル伝達経路は、農業研究の主な目的の1つである。浸透圧調整は、そのような操作の効果的な要素であり、浸透圧保護物質(適合溶質)の蓄積は、植物システムに見られる共通の応答である(Penna 2003)。適合溶質が植物をストレスから保護する他のメカニズムには、活性酸素種を解毒することや、タンパク質の四次構造を安定化し、その機能を維持することが含まれる。
【0021】
塩耐性の生理学と遺伝学の複雑さを考えると、塩耐性作物を作製するのは困難な作業であった。1990年代半ば、この方向での成功は限られたものでしかなく(Flowers and Yeo,1995)、かつそれ以来、ほとんど進展がなかった。従来の育種、幅広い交雑、生理的形質の使用、ごく最近では、マーカー利用選別およびトランスジェニック植物の使用をはじめとする、種々のアプローチが提唱されている。これらのアプローチはどれも、普遍的解決策を提供するとは言えない。従来の育種プログラムが、強化された塩耐性を与えることは滅多になく(Flowers and Yeo,1995)、一方、幅広い交雑は、通常、受け容れ難いほど低いレベルにまで収量を低下させる(Yeo and Flowers,1981)。生理的基準をイネの選択の基準として用いて成功しており(Dedolph and Hettel,1997)、そのようなアプローチは、最近、小麦に対して提唱されている(Munns et al.,2002)。最近の解析から、塩耐性に関わる形質のある側面を変化させた多種多様なトランスジェニック植物を作製することは可能であるが、野外で試験されたものはなく、成功を主張するものは、強化された耐性を示すのに必要とされる最低限の基準ですらほとんど満たしていないことが示されている(Flowers,2004)。
【0022】
GABAシャント経路に関与する遺伝子、特にイネ由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて植物の塩耐性を増加させる試みは今日まで行なわれていない。過去の試みは、イネ由来の2つのグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子であるOsGAD1とOsGAD2に対して行なわれたものであり、これらの遺伝子がアグロバクテリウムを介してイネカルスに同時に導入され、トランスジェニック細胞株が樹立された。再生したイネ植物は、矮小発育、黄化葉、および不稔などの異常な表現型を有していた(Akama & Takaiwa,2007)。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】グルタミン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA配列を有する植物形質転換ベクターを示す。
【図2】アグロバクテリウム媒介性遺伝子導入を介したGAD遺伝子によるタバコ葉の形質転換の様々な段階を示す。
【図3】様々なプライマー組合せ、すなわち、a)HygR遺伝子フォワードおよびリバースプライマー;b)遺伝子特異的フォワードおよびリバースプライマー、ならびにc)遺伝子フォワードおよびNOSリバースプライマーを用いて、GAD遺伝子で形質転換され、再生されたタバコのT0苗のPCRによる確認を示す。
【図4】GAD遺伝子特異的なフォワードプライマーとリバースプライマーを用いて、cDNAを鋳型とするRT−PCRを用いて解析されたGAD遺伝子を有するタバコのT0苗における導入遺伝子(GAD)の発現確認を示す。
【図5】明るい部屋の寒天培地上で成長させた、塩ストレス条件(200mM NaCl)下のT1 GADトランスジェニックタバコ苗(D1A、E2、およびH1)のより優れた性能を示す。
【図6】温室内の水耕栽培で成長させた、塩ストレス条件(300mM NaCl)下のT1 GADトランスジェニックタバコ苗(E2およびH1)のより優れた性能を示す。
【図7】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の草高の比較を示す。
【図8】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の節間距離の比較を示す。
【図9】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の葉の数の比較を示す。
【図10】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の茎の周囲長または太さの比較を示す。
【図11】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の葉面積の比較を示す。
【図12】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の総バイオマスの比較を示す。
【図13】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の総穀粒収量の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の本発明の詳細な説明は、当業者が本発明を実施するのに役立つように提供されている。それでも、本明細書で論じられる実施形態の変更および改変が、本発明の精神または範囲から逸脱することなく当業者によってなされ得るので、以下の本発明の詳細な説明は、本発明を過度に限定するものとみなされるべきではない。
【0025】
本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼの特徴を有する精製および単離されたDNA配列に関する。
【0026】
本発明によれば、この精製および単離されたDNA配列は、通常、グルタミン酸デカルボキシラーゼのヌクレオチド配列またはその断片からなる。
【0027】
任意の手段で産生することができる、上記の配列または断片の相補配列も同様に、本発明に含まれる。
【0028】
上記の配列の変異体、すなわち、1つ以上のヌクレオチドが同じ特徴を有する別のヌクレオチドにより置換される保存的ヌクレオチド置換によって参照配列と異なっているヌクレオチド配列が本発明に包含される。
【0029】
本発明によれば、上記のヌクレオチド配列は、発現ベクター内でプロモーターと目的の遺伝子とを含む配列の5’末端と3’末端の両方に位置することができる。
【0030】
本発明に含まれるのは、本発明の産生される塩耐性を増加させるときの上記の配列の使用である。「塩耐性」とは、好適な条件下で宿主植物にDNA配列を導入した後、この配列が、該DNA配列をトランスフェクトしていない対照植物と比較して、植物中の成長環境における高濃度の塩に耐える植物の能力を強化することを意味する。
【0031】
以下の定義は本発明の理解を助けるために用いられる。
【0032】
「染色体」とは、細胞の内部に見られるDNAとタンパク質の組織化された構造体のことである。
【0033】
「クロマチン」とは、真核細胞の核の内部に見られるDNAとタンパク質の複合体のことであり、これによって染色体が構成されている。
【0034】
「DNA」またはデオキシリボ核酸は、遺伝情報を含む。これは、様々なヌクレオチドで構成されている。
【0035】
「遺伝子」とは、所与の成熟タンパク質をコードするデオキシリボヌクレオチド(DNA)配列のことである。「遺伝子」は、RNA転写開始シグナル、ポリアデニル化付加部位、プロモーター、またはエンハンサーなどの、非翻訳隣接領域を含まないものとする。
【0036】
「プロモーター」とは、遺伝子の発現を制御する核酸配列のことである。
【0037】
「エンハンサー」とは、遺伝子の位置または方向とは無関係に遺伝子の転写を開始するように働く遺伝子の配列を指す。
【0038】
本明細書における「ベクター」の定義は、その中に外来DNA断片を挿入し得るDNA分子を指す。ベクターは、通常、プラスミドから得られるが、これは、DNA断片を宿主細胞内に運ぶ「分子キャリア」のように機能する。
【0039】
「プラスミド」とは、細菌やいくつかの他の生物に見られる小さいDNA環のことである。プラスミドは、宿主細胞染色体とは独立に複製することができる。
【0040】
「転写」とは、DNA鋳型からのRNAの合成を指す。
【0041】
「翻訳」とは、メッセンジャーRNAからのポリペプチドの合成を意味する。
【0042】
「方向」とは、DNA配列中のヌクレオチドの順序を指す。
【0043】
「遺伝子増幅」とは、他の遺伝子のコピー数を比例的に増加させることなく、特定の遺伝子を繰り返し複製することを指す。
【0044】
「形質転換」とは、任意の導入手段によって外来遺伝物質(DNA)を植物細胞に導入することを意味する。様々な形質転換方法には、遺伝子銃による衝撃(バイオリスティック)、エレクトロポレーション、アグロバクテリウム媒介性形質転換などが含まれる。
【0045】
「形質転換植物」とは、外来DNAが該植物に導入されている植物を指す。このDNAは宿主染色体の一部となる。
【0046】
「安定な遺伝子発現」とは、目的の遺伝子を永久に発現する安定な形質転換植物の調製が、プラスミドの宿主染色体への安定な組込みに依存することを意味する。
【0047】
本発明は、広く上で定義された通りのものであるが、本発明はそれらのものに限定されるものではないこと、および本発明は以下の説明によって例が示される実施形態も含むことが当業者には理解されるであろう。
【実施例】
【0048】
実施例1
イネ由来のGAD遺伝子ヌクレオチド配列の単離および精製ならびに植物形質転換ベクターの構築
GAD遺伝子を35Sカリフラワーモザイクウイルスプロモーターの下流にクローニングし、NOSターミネーターで終結させる。これらのプロモーターおよびターミネーターは全て機能的に連結されている。
【0049】
植物材料
オリザ・サティバ(栽培品種Rasi)を核酸の調製に使用した。発芽した後、種子を培養室の水耕溶液中で成長させた。苗を150mMのNaClで7〜16時間処理した。
【0050】
RNA抽出およびESTライブラリー構築
RNAを苗全体から抽出した。塩ストレスを与えたRASIのcDNAのESTライブラリーを構築した。グルタミン酸デカルボキシラーゼとの同一性を示すESTをESTライブラリーから同定した。
【0051】
GABAシャント内の遺伝子の同定および単離
高等植物では、酸性化、酸素欠乏、低温、熱ショック、機械的刺激、病原菌による攻撃、渇水、および塩ストレスなどの種々のストレスの発生後にGABAが蓄積する。GABAシャント内の遺伝子であるグルタミン酸デカルボキシラーゼは、塩ストレスを与えたO.サティバのライブラリーから単離された。
【0052】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のクローニング
グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子をクローニングベクターにクローニングし、構成的プロモーターの下にある植物形質転換ベクター(バイオリスティックおよびバイナリー)にもクローニングした。グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の完全なコード配列をコードするcDNAを、BglII制限酵素部位およびEcoRI制限酵素部位(下線を付したヌクレオチド配列)でタグを付けた以下のプライマー対を用いてインディカイネ(栽培品種RASI)のcDNAから増幅した。
フォワード:5'−GCGGATCCATGGTGCTCTCCAAGGCCGTCTC−3'
リバース:5'−GCGAATTCCTAGCAGACGCCGTTGGTCCTCTTG−3'
【0053】
以下のPCR条件を用いる。94℃、1分;94℃、30秒;75℃、3分(5サイクル);94℃、30秒;68℃、3分(30サイクル)、最後の伸張は68℃、7分。
【0054】
増幅されたcDNAは1479塩基対のヌクレオチドからなり、成熟グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素をコードする。
【0055】
増幅された断片をpGEMT easyベクターにクローニングした。遺伝子をBamHI部位とEcoRI部位で制限消化し、バイオリスティックベクターpV1に連結した。このバイオリスティックベクターをBglII制限部位とEcoRI制限部位で切り出し(BglII酵素とBamHI酵素はアイソシゾマーである)、遺伝子の存在を確認した。遺伝子をシーケンシングでも確認した。得られたベクター(pV1−GAD)は、選択マーカーとしてのアンピシリン耐性遺伝子とともに、35Sカリフラワーモザイクウイルス(35S CaMV)プロモーターで駆動されるGAD遺伝子(1.479kb)とNOSターミネーターとを有する。
【0056】
35S CaMVプロモーターで駆動され、NOSターミネーターによって終結させられる、pV1−GD由来のGAD遺伝子の遺伝子カセットをHindIII部位とBamHI部位で制限消化した。この遺伝子カセットを、HindIII部位とBamHI部位で制限消化したpCAMBIA 1390 pNG15に連結した。得られたベクター(pAPTV 1390−GAD)は、選択マーカーとしてのnptII(カナマイシン耐性)遺伝子およびhph遺伝子(ハイグロマイシン耐性)とともに、35Sカリフラワーモザイクウイルス(35S CaMV)プロモーターで駆動され、NOSターミネーターによって終結させられるGAD遺伝子(1.479kb)を有する(図1)。
【0057】
実施例2
変化したGAD遺伝子を有する植物の作製
植物形質転換
遺伝子が同定されたという考えを証明するために、アグロバクテリウムを介してグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子をタバコ(モデル植物)に形質転換した。
【0058】
GAD遺伝子を含むバイナリーベクターによるタバコ葉外植片のアグロバクテリウム媒介性形質転換に関わる詳細な工程:
1.ベクター骨格がKan耐性遺伝子とRif耐性遺伝子(これらは1回で終わる二重選択としても機能する)からなるので、アグロバクテリウムの陽性コロニーを、50mg/Lのカナマイシン(Kan)と10mg/Lのリファマイシン(Rif)を含むLBブロスに播種した。
2.次に、このブロスを、シェーカー上で、28℃でインキュベートした。
3.午前中に、一晩成長させたコロニーを、50mg/LのKanと10mg/LのRifを含む50mLのLBブロスに播種し、28℃で3〜4時間インキュベートし、600nmでODをチェックし、ODが0.6〜1になるまで成長させ続けた。
4.ブロスが所要のODに達した時点で、このブロスを5000rpmで5分間遠心分離した。
5.上清を捨て、細胞ペレットをMurashige & Skooge(MS)液体培地(Agro−MSブロス)に溶かした。
6.タバコの葉を、中肋を取らずに四角い小片(これは外植片の役割を果たした)に切り、注意を払って、播種物の中心部分にあまり傷をつけないようにして、葉の四方に傷をつけた。
7.これらの葉試料をBODインキュベーター内のMS無添加培地中に2日間置いた。播種の2日後、これらの葉試料に、形質転換したアグロバクテリウム細胞(この時、これはAgro−MSブロス中に入れられている)を感染させた。
8.葉の外植片をこのAgro−MSブロス中に30分間置いた後、それらを共栽培培地(これは、MS+1mg/L 6−ベンジルアミノプリン塩酸塩(BAP)+0.2mg/L ナフタレン酢酸(NAA)+250mg/L セフォタキシムからなる)上に2日間置いた(図2a)。
9.共栽培の後、外植片を第1の選択培地(これは、MS+1mg/L BAP+0.2mg/L NAA+40mg Hyg+250mg/L セフォタキシムからなる)中で15日間維持し、カルスが隆起し始めたとき、カルスを十分成熟させるために、これらの外植片を第1の選択培地上で再び継代培養した(図2b)。
10.カルスが成熟したことが分かった時点で、これらのカルスを第2の選択培地(これは、MS+1mg/L BAP+0.2mg/L NAA+50mg Hyg+250mg/L セフォタキシムからなる)上に播種した。ハイグロマイシン濃度が増加しているので、第1の選択を逃れたものが抑制されるようになり、形質転換カルスのみがこの培地上で生存し始める。
11.その後、この第2の培地上で継代培養を10日間で1回行なった。
12.この時までに、小植物体がカルスから隆起し始めた。第2の選択から得た小植物体を採取し、発根培地(これは、1/2 MS+0.2mg/L インドール−3−酪酸(IBA)からなる)上に置いた。ここで、これらの小植物体は12〜15日までに根を突き出し始めた。逃れたものをこの段階でも同定することができるので、成熟根が形成された時点で、20mg/Lのハイグロマイシンを含む発根培地上で植物を継代培養した(図2c)。
13.この段階の植物を、植物がその成長室環境に適応するように瓶の蓋を2日間開けたままにして、環境に順応させた。その後、寒天培地から得た植物を取って、1/4 MS液体培地中に2日間置いた。これらの植物をさらにバーミキュライト上に移し、1週間毎日水をやった。
14.植物の状態に応じて、好適な植物を温室に移した。
15.植物を温室に移す前の環境順応期に、植物から古い葉を採集した。
16.それぞれの葉試料からDNAを抽出し、遺伝子特異的プライマーと、選択マーカー遺伝子、すなわち、ハイグロマイシンのプライマーとを用いてPCRを行なった。PCRで確認した陽性植物をさらに温室に移した。
【0059】
導入GAD遺伝子を有する植物の確認
GADタバコトランスジェニック株のゲノムDNA抽出
トランスジェニックGADタバコ植物の葉試料を採集し、ゲノムDNAを抽出した。
【0060】
ゲノムDNA抽出の手順:
・約1gmの葉を各植物から採集した。
・液体窒素を用いて乳棒と乳鉢で試料をすりつぶした。
・1mlの抽出バッファー(Extraction buffer)(0.2M Tris Cl pH8.0;2M NaCl;0.05M EDTA;2% CTAB)を試料に加え、13000rpmで10分間回転させた。
・上清を回収した。RNアーゼ[1mlに対して3μl(1mg/mL)]を加え、37℃で30分間インキュベートした。
・次に、等量のクロロホルム−イソアミルアルコールを加え、13000rpmで10分間回転させた。
・上清を新しいチューブに回収し、等量の冷イソプロパノールを加え、13000rpmで10分間回転させた。
・ペレットを70%アルコールで洗浄し、ペレットを乾燥させ、オートクレーブした温水30μlに溶かした。
・1μlのDNAを充填し、ゲル上でチェックした。
【0061】
トランスジェニック植物を、様々なプライマー組合せを用いるPCRによって確認した:
1.ハイグロマイシンフォワード(Hyg F)プライマーとハイグロマイシンリバース(Hyg R)プライマーを用いるPCR:
【0062】
【表1】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0063】
【表2】
図3aに示すように、増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した。
【0064】
2.遺伝子特異的プライマーのGADフォワード(GD F)とGADリバース(GD R)を用いるPCR:
【0065】
【表3】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0066】
【表4】
増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した(図3b)。
【0067】
3.GD FとNos MRを用いるPCR:
【0068】
【表5】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0069】
【表6】
図3cに示すように、増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した。
【0070】
様々なPCR反応で使用されるプライマー配列を以下に列挙する:
Hyg F:5'−CTGAACTCACCGCGACGTCT−3'
Hyg R:5'−CCACTATCGGCGAGTACTTC−3'
GD F:5'−GCGGATCCATGGTGCTCTCCAAGGCCGTCTC−3'
GD R:5'−GCGAATTCCTAGCAGACGCCGTTGGTCCTCTTG−3'
NOS MR:5'−GATAATCATCGCAAGACCGGCAAC−3'
【0071】
トランスジェニック植物における導入GAD遺伝子発現の確認
導入GAD遺伝子発現の確認は、RNA抽出、cDNA合成、および逆転写PCRのような工程を含んだ。
【0072】
対照植物(野生型)とともにトランスジェニックGADタバコ植物のRNAを単離した。
【0073】
RNA抽出に関わる詳細な工程:
1.500mgの葉組織を予冷した乳鉢にとり、液体窒素中ですり潰して、細かい粉末にした。
2.冷やしたスパチュラを用いて、粉末を予冷したエッペンドルフチューブに移した。
3.ホモジェナイズした試料に1mlのTrizol溶液(Invitrogen)を加えた。よく混合し、室温(RT)で5分間インキュベートした。
4.これに200μlのクロロホルムを加え、15秒間激しく振盪させ、室温で5分間インキュベートした。
5.試料を13000rpmで15分間、4℃にて遠心分離した。
6.上部の水相を新しいチューブに回収した(約60%、すなわち、600μl)。
7.回収した上部相に500μlの冷イソプロパノールを加え、RTで10分間インキュベートした。
8.試料を13000rpmで15分間、4℃にて遠心分離した。
9.上清をデカントで捨て、ペレットを500ulの70%アルコール(DEPC H2O)で洗浄し、10000rpmで5分間、4℃にて遠心分離した。
10.上清をデカントで捨て、ペレットをRTで15分間乾燥させた。
11.ペレットを、55℃に設定された加熱式のウォーターバスまたはドライバス中で20μlのDEPC処理H2Oに溶かした。
12.2μlの試料をゲルに充填した。試料をさらに使用するまで−80℃で保存した。
【0074】
cDNA合成に関わる詳細な工程:
野生型とともにトランスジェニックGADタバコ植物のcDNA合成を行なった。
1.構成要素を以下に示す順序で加えた。
トータルRNA :4ul(1ug)
オリゴdT :0.5ul
0.1%DEPC/ヌクレアーゼフリー水 :6.5ul
合計 :11ul
2.内容物を70℃で5分間、PCR装置で加熱し、氷中で素早く冷却した。
3.一方、以下の構成要素を別のチューブに加えることにより、次の混合物を調製した。
5×反応バッファー :4ul
dNTP(10mM) :2ul
RNアーゼ阻害剤(20U/ul) :0.5ul
0.1%DEPC/ヌクレアーゼフリー水 :2ul
合計 :8.5ul
4.この8.5ulの混合物を、素早く冷却したPCRチューブ中の内容物に加え、穏やかにタッピングして混合した。
5.内容物を、PCRチューブ中、37℃で5分間、PCR装置でインキュベートした。
6.0.5ulのM−MuLV RT酵素をチューブに加え、PCR装置で設定されたプログラムを継続した(25℃、10分;37℃、60分、および70℃、10分)。
7.PCRでさらに使用するまでcDNAを−20℃で保存した。
【0075】
RT−PCRによるトランスジェニックタバコ植物における導入GAD遺伝子発現の解析
タバコにおける導入GAD遺伝子の発現をチェックするために、GADトランスジェニックタバコおよび野生型植物由来のcDNA試料を、遺伝子特異的プライマーを用いるPCRで解析した。
【0076】
遺伝子特異的プライマーを用いるcDNAのPCR:
【0077】
【表7】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0078】
【表8】
図4に示すように、増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した。
【0079】
実施例3
変化したGAD遺伝子を有する植物が幼苗期に塩ストレスに耐える証拠
トランスジェニック植物の塩ストレスに対する耐性を、幼苗期と植物の全生活環を含む成熟植物期の両方においてT1世代で研究した。
【0080】
培地上での幼苗期の塩耐性
野生型タバコ苗およびT1 GADトランスジェニックタバコ苗を用いて、塩ストレス実験を行なった。滅菌水で2回洗浄し(2〜3分)、次いで70%アルコールで2分間洗浄し、その後、70%ブリーチで10分間処理し、最後に滅菌水で5〜6回洗浄することによって、T1種子の表面を滅菌した。次に、種子をブロット乾燥させ、様々な塩濃度(0、50、および200mM NaCl)を含む1/2 MS培地プレート上に置き、発芽させるために暗所にて28℃でインキュベートした。発芽した後、それらを16時間と8時間の明暗周期の下にある明るい部屋に移した。
【0081】
3つのトランスジェニック事象、D1A、E2、およびH1は、野生型と比較して200mM NaClに対する耐性に示した(図5)。野生型種子は200mM NaClで確かに発芽したが、良好な成長を示さなかった。成長培地中の高塩濃度の存在は、野生型苗(導入されたGAD遺伝子を持たない植物)の適切な成長を阻害したが、その一方、導入されたGAD遺伝子によって成長培地中の高塩濃度に対して耐性となっていたので、高塩の存在は、トランスジェニック苗の正常な成長に影響を及ぼさなかった。
【0082】
水耕培養で試験した幼苗期の塩耐性
高塩に対する耐性を評価するために、2つのトランスジェニック事象E2およびH1を選択し、水耕培養で試験した。ハイグロマイシン(50mg/L)が補充された湿った濾紙盤の上でT1種子を発芽させ、この上で発芽し、成長した陽性苗を選択し、野生型苗とともに水耕栽培用フロートの上に置いた。
【0083】
水耕栽培用の成長培地は、様々な塩濃度(100、200、および300mM)が補充されたl/10 MS培地からなっていた。培地のpHを毎日のようにモニターし、5〜7の範囲内に維持した。真菌や藻の成長を避けるために、水耕栽培用のボウルを洗浄した後、培地を2日に1回替えた。5週間成長させた後に、最後の観察を行なった。
【0084】
両方のトランスジェニック事象、E2およびH1は、野生型と比較して300mM NaClに対する耐性を示した(図6)。野生型種子は300mM NaClで確かに発芽し、成長したが、良好な成長を示さず、トランスジェニック苗よりも弱く、バイオマスが少なかった。成長培地中の高塩濃度の存在は、野生型苗(導入されたGAD遺伝子を持たない植物)の適切な成長を阻害したが、その一方、導入されたGAD遺伝子によって成長培地中の高塩濃度に対して耐性となっていたので、高塩の存在は、トランスジェニック苗の正常な成長に影響を及ぼさなかった。この実験で、本発明者らは、最大300mM NaClの塩ストレスに耐えるトランスジェニック植物の塩耐性の増加を示すことができた。
【0085】
実施例4
変化したGAD遺伝子を有する植物がその生活環全体を通して塩ストレスに耐える証拠
トランスジェニック植物の塩ストレスに対する耐性を、植物の全生活環を含む成熟植物期にT1世代で研究した。
【0086】
高塩に対する耐性を評価するために、3つのトランスジェニック事象D1A、E2およびH1を選択し、温室での植木鉢培養で試験した。野生型タバコとトランスジェニックタバコを用いて実験を行なった。ハイグロマイシン(50mg/L)が補充された湿った濾紙盤の上でT1種子を発芽させ、この上で発芽し、成長した陽性苗を選択し、野生型苗とともに大きい植木鉢(11インチ直径)の土壌の上に置いた。苗を温室で、野外土壌と堆肥(FYM)の混合物を含む植木鉢の中で栽培した。植物に普通の水または200または300mM NaClを含む生理食塩水をやった。表1に示すような4つの遺伝子型(野生型とD1A、E2、およびH1トランスジェニックタバコ)で3つの処理と3つの複製を伴って実験を行なった。
表1:塩耐性研究のための実験設計。比較のために、4つの遺伝子型について3つの処理と3つの複製を用いた。
【0087】
【表9】
【0088】
表現型評価:
表現型の特徴を観察し、草高、節間距離、枝の数、葉の数、葉面積、茎の太さ(周囲長)、総バイオマス、穀粒収量などのようなパラメータを記録した。
【0089】
草高
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で植物の高さを測定した。定規を用いて地面から花と枝を含む植物の先端までの草高を測定した。トランスジェニック体は、野生型植物と比較して、塩ストレス条件時に、より高い草高(少なくとも20%高い)を示した(図7)。
【0090】
節間距離
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で茎上の2つの節間の距離を測定した。第5葉および第6葉と第6葉および第7葉の間で節間距離を測定した。完全に広がった葉を葉番号1とみなして、先端から葉を計数した。スレッドを用いて距離を測定し、その後、定規でスレッド長を測定して、cmで表した。トランスジェニック体は、野生型と比較して、より高い土壌塩濃度レベルで節間距離の増加を示した(図8)。
【0091】
葉の数
塩分土壌条件(200&300mM NaCl)下での葉の数の増加は、野生型と比較したとき、トランスジェニック体で観察された(図9)。トランスジェニック体は、野生型と比較して、少なくとも20%の葉数の増加を示した。
【0092】
茎の周囲長(外周または茎の太さ)
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で茎の太さを測定した。地面から5〜6cmの高さで茎の周囲長を測定した。スレッドを用いて、適当な高さで茎の周りを囲み、その後、定規でスレッドの長さを測定して、cmで表した。トランスジェニック体は、野生型植物と比較して、200mM NaCl条件下でより太い茎(27〜45%太い)を示した(図10)。
【0093】
葉面積
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で葉の大きさを測定した。葉を節から葉の先端まで垂直に測定し、葉の長さとみなした。葉の幅を、最も幅が広い位置で水平に測定し、葉の幅とみなした。葉面積を長さ×幅(cm−2単位で表す)として計算した。塩分土壌条件(200&300mM NaCl)下では、野生型と比較したとき、トランスジェニック体の葉面積に有意な増加が見られた(図11)。トランスジェニック体は、塩ストレス条件下で野生型と比較したとき、2倍の葉面積を有することが観察された。
【0094】
植物バイオマス
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で生成されるバイオマスを測定した。植物バイオマスを植物の総乾燥重量として測定した。植物バイオマスを様々な塩ストレス処理下で測定した。トランスジェニック体の総バイオマスは、200mM NaCl条件と300mM NaCl条件の両方で、野生型と比較して有意により高かった(図12)。塩ストレス条件下のトランスジェニック体は、野生型植物よりも少なくとも30%大きいバイオマスを示した。
【0095】
穀粒収量
総穀粒収量は、塩分条件と非塩分条件の両方の下で、野生型よりもトランスジェニック体で高かった(図13)。非塩分条件と比較したとき、塩分条件下では、穀粒収量の減少が見られるが、トランスジェニック体での穀粒は、同様の条件下の野生型植物と比較してより多かった。
【0096】
GADトランスジェニック体は、植物の様々な農学的状態および生理状態について、高塩分濃度条件下で野生型植物よりも優れた性能を発揮し、したがって、塩ストレス条件下でのトランスジェニック体の優れた性能に対するGAD遺伝子の役割が示された。
【0097】
配列番号1は、オリザ・サティバのグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の核酸配列を示す。開始コドンと終止コドンは、イタリック体で示されている。
【0098】
配列番号2は、オリザ・サティバのグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のアミノ酸配列を示す。アステリスクは終止コドンを表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩耐性のあるトランスジェニック植物に関する。特に、本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼを発現するトランスジェニック植物、およびそのようなトランスジェニック植物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩分ストレスは、世界全体の農業収量に悪影響を与え、生存のためであるか、経済的利益のためであるか問わず、生産に影響を及ぼしている。塩分に対する植物応答は、協調的に働いて細胞の高浸透圧とイオン不均衡の両方を緩和しなければならない多くのプロセスからなる。さらに、作物用植物は、塩分環境での十分なバイオマス産生が可能でなければならない。
【0003】
本発明では、環境ストレスに耐える強化された能力を有し、かつ望ましい形態学的および/または農学的特性などを有する植物を作製するための方法および材料が、植物遺伝子工学を通じて提供される。特に、本発明は、グルタミン酸のGABAへの変換を触媒し、それによって植物がストレスに耐える能力を強化するか、または他の望ましい特性を付与する、グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素を合成する植物の能力を強化する遺伝子による植物の遺伝的形質転換に関する。
【0004】
本発明の背景として、酵素GAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)は、グルタミン酸(Glu)からのγアミノ酪酸(GABA)の生成を触媒することが示されており、いくつかの植物GAD遺伝子がクローニングされている。ストレスに曝露された後の植物細胞中のGABAの速やかな蓄積が十分に裏付けられている。酵素GADによって促進されるグルタミン酸の脱カルボキシル化によるGABAの産生は、ストレス後にGABAが植物中に蓄積する主な原因であると提唱されている。しかしながら、GABAは、ポリアミンの異化と関連する経路のような他の代謝経路によって、または可逆的なGABAアミノトランスフェラーゼ反応によるGABAシャントの一部によっても生合成される。ダイズ子葉またはアスペルギルス細胞懸濁培養物を用いた実験により、グルタミン酸の代謝によるGABAの生成は一般的な現象であり、GABAの生合成は、研究された条件下でのストレスに対する応答ではないことが示唆されている。
【0005】
しかしながら、GABAは、機械的刺激、低温または熱ショック条件のような温度の変動に曝された植物中で速やかに蓄積することも示されている。こうした背景を考慮して、植物中でのGABA合成およびGAD酵素活性を研究することにかなりの努力が注がれてきたと考えられる。しかしながら、塩分耐性の付与に対する植物中でのGABAの直接的役割は、これまで示されていない。本発明は、この分野における大きな進歩となるものである。
【0006】
従来技術
塩耐性のメカニズム
塩生植物(塩分のある生息環境に適応した植物)の酵素には、非塩生植物(中生植物、または真水に適応した植物とも呼ばれる)の酵素と同程度にしか、高濃度のNaClに耐性がないという生化学者による初期の発見が塩耐性の全てのメカニズムの根拠を成している(Munns 2002)。例えば、塩生植物のアトリプレクス・スポンギオサ(Atriplex spongeosa)またはハママツナ(Suaeda maritima)から抽出された酵素のインビトロ活性は、豆またはエンドウから抽出された酵素のインビトロ活性と全く同じ程度にNaClに感受性があった(Greenway & Osmond 1972;Flowers et al.1977)。海水の塩分濃度よりも10倍高い塩分濃度で成長することができる、ピンク塩湖の藻類ヅナリエラ・パルバ(Dunaliella parva)に由来する酵素でさえも、最も感受性の高い中生植物の酵素とNaClに対する感受性が同じである(Munns et al.1983によって概説されている)。通常、Na+は、100mMを越える濃度でほとんどの酵素を阻害し始める。Cl−が毒性を持ち始める濃度は一層あまり明確ではないが、Na+の濃度と同じ範囲にあると思われる。K+でさえも100〜200mMの濃度で酵素を阻害し得る(Greenway & Osmond 1972)。
【0007】
それゆえ、塩耐性のメカニズムは、植物中への塩の侵入を最小化するものと、細胞質中の塩の濃度を最小化するものの2つの主なタイプからなる。塩生植物は両方のタイプのメカニズムを有する。塩生植物は塩を十分に「排除」するが、不可避的に入り込む塩を効果的に液胞に区画化する。これによって、塩生植物は塩分土壌中で長期間成長することができる。いくつかの中生植物も塩を十分に排除するが、取り込まれた残留塩を塩生植物ほど効果的に区画化することができない。ほとんどの中生植物は塩を排除する能力が乏しく、塩は、蒸散する葉に毒性のあるレベルにまで集まる。
【0008】
高塩濃度条件は、ほとんどの植物に高浸透圧による損傷をもたらし、Na+濃度の上昇は、生命維持に必要なNa+感受性酵素を妨害することによっておよび必須のイオン輸送に影響を及ぼすことによって細胞プロセスを破壊する。Na+摂取は、塩分条件下で複数のNa+透過性チャネル/輸送体を介して起こり、イオン毒性は、細胞質Na+濃度がある閾値レベルに達したときに誘発されると考えられている(Volkamar et al.,1999;Hasegawa et al.,2000)。植物の塩耐性を遺伝的に強化するには、上記ストレスに対する耐性を付与するために合理的な戦略的アプローチをとるべきである。ほとんどの植物は、いわゆる適合溶質であるオスモライトを、渇水または高塩濃度条件に対する応答として合成し、蓄積する。これらの適合溶質は、生理的pH下で中性であり、分子量が低く、水溶解度が高く、細胞質中に高濃度で蓄積したときでさえも生物にとって毒性がない。マンニトール(Tarczynski et al.,1993)、オノニトール(Sheveleva et al.,1997)、トレハロース(Holmstriim et al.,1996;Romero et al.,1997)、プロリン(Kishor et al.,1995)、ベタイン(Lilius et al.,1996;Hyashi et al.,1997;Sakamoto et al.,1998)、またはフルクタン(Pilon−Smits et al.,1995)、塩生植物ハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)の適合溶質であるエクトイン(1,4,5,6−テトラヒドロ−2−メチル−4−ピリミジンカルボン酸)(Yoshida 2002)、ミオイノシトール(Das−Chatterjee et al.,2006)などのオスモライトを生合成するための遺伝子が導入されたトランスジェニック植物の中には、高浸透圧耐性の向上を示すものもあった。別の戦略として、ストレス耐性遺伝子の発現を調節する転写因子をコードする、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)DREBIA遺伝子の過剰発現によって、トランスジェニック植物の渇水、高塩濃度、および凍結に対する耐性が向上することが報告された(Kasuga et al.,1999)。一般に、Na+毒性に対する耐性を分子的に向上させるのは困難である。シロイヌナズナでの液胞Na+/H+対向輸送体遺伝子(NHXI)または液胞プロトンポンプ遺伝子(AVPZ)の過剰発現による耐性の向上に関する報告はほんのわずかしかない(Apse et al.,1999)。本発明者らは、今回、グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素をコードするオリザ・サティバ(Oryza sativa)GAD遺伝子の導入による植物細胞の強化された塩ストレス耐性を示している。
【0009】
GABAシャント
γ−アミノ酪酸(GABA)は、細菌から植物および脊椎動物まで保存されている4炭素非タンパク質アミノ酸である。GABAは遊離アミノ酸プールの重要な成分である。GABAは、α−炭素上ではなくγ−炭素上にアミノ基を有し、非結合形態で存在する。GABAは水によく溶け、構造的には、プロリンに似た環状構造を含む、いくつかの立体構造を溶液中でとることができる柔軟な分子である。GABAは、生理的pH値(pK値4.03および10.56)で双性イオンとなる(正負両方の電荷を持つ)。
【0010】
GABAは半世紀余り前に植物で発見されたが、GABAが脳で高レベルに生じ、神経伝達において大きな役割を果たすことが明らかになったとき、GABAへの関心は動物に移った。それ以来、脊椎動物のGABAに関する研究は、特に神経伝達における、シグナル伝達分子としてのその役割に主に焦点が当てられた。植物および動物において、GABAは、GABAシャントと呼ばれる、3つの酵素から構成される短い経路を介して主に代謝されるが、それは、この経路がトリカルボン酸(TCA)回路の2つの段階を迂回するからである。この経路は、細胞質酵素のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)ならびにミトコンドリア酵素のGABAトランスアミナーゼ(GABA−T)およびコハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH)から構成されている。この保存された代謝経路の調節は、植物の独自の特徴を有しているように思われる。
【0011】
GABAを介してグルタミン酸をコハク酸に変換する経路はGABAシャントと呼ばれる。このシャントの第1の段階は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD、EC 4.1.1.15)による直接的かつ不可逆的なグルタミン酸のα−脱カルボキシル化である。インビトロでのGAD活性は、多くの植物種および植物組織からの粗抽出物で特徴解析されている(Brown & Shelp,1989)。GADは、L−グルタミン酸に特異的であり、リピドキサル5’−リン酸依存的であり、スルフヒドリル基と反応することが知られている試薬によって阻害され、カルモジュリン結合ドメインを有し、約5.8のはっきりとした酸性至適pHを示す。ペチュニア(Baum et al.,1993)、トマト(Gallego et al.,1995)、タバコ(Yu & Oh,1998)、およびアラビドプシス(Zik et al.,1998)由来のGAD遺伝子が同定されている。GABAシャントに関与する第2の酵素であるGABAトランスアミナーゼ(GABA−T;EC 2.6.1.19)は、ピルビン酸またはα−ケトグルタル酸のいずれかをアミノ酸受容体として用いて、GABAのコハク酸セミアルデヒドへの可逆的変換を触媒する。粗抽出物では、インビトロでのGABA−T活性は、α−ケトグルタル酸よりもピルビン酸を好むように見える。しかしながら、別個のピルビン酸依存的活性とα−ケトグルタル酸依存的活性とがタバコ葉の粗抽出物中に存在しており、これらはイオン交換クロマトグラフィーで互いに分離することができる(Van Cauwenberghe & Shelp)。両活性とも、8〜10の幅広い至適pHを示す。約1000倍に精製された、タバコ由来のピルビン酸特異的ミトコンドリアGABA−Tのミカエリス定数(Km)は、GABAについては1.2mM、ピルビン酸については0.24mMである(Van Cauwenberghe & Shelp)。
【0012】
GABAシャントの最後の段階は、コハク酸セミアルデヒドをコハク酸に不可逆的に酸化する、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH;EC 1.2.1.16)によって触媒される。部分精製された植物酵素は、約9のアルカリ性至適pHを有し、活性は、NADを用いる方がNADPを用いるよりも最大20倍大きい(Shelp et al.,1995)。
【0013】
実際のところ、植物のGABAシャントへの関心は、主に、GABAが生物ストレスと非生物ストレスに応答して大量にかつ速やかに産生されるという実験的観察から起こった。それ以来、GABAシャントは、細胞質pHの調節、TCA回路への炭素移動、窒素代謝、虫の抑止、酸化ストレスからの保護、浸透圧調節、およびシグナル伝達をはじめとする様々な生理的応答と関連付けられている。
【0014】
酸化ストレスからの保護
アラビドプシスにおいて、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼを破壊した突然変異体は、H2O2を除去することができないので、環境ストレスに対してより感受性が高い(Bouche et al.,2003)。GABAシャントの最後の段階は、呼吸鎖にコハク酸とNADHの両方を提供することができる。それゆえ、GABAの分解により、TCA回路の特定の酵素を阻害する酸化ストレス条件下での活性酸素中間体の蓄積が制限され得るという仮説が立てられた。酵母において、GABAシャント遺伝子をノックアウトした突然変異体は、H2O2に対してより感受性が高いように思われる(Coleman et al.,2001)。
【0015】
Colemanら(2001)の研究は、GADの酸化ストレス耐性への細胞内関与に関する知見を提供している。出芽酵母(S.cerevisiae)GAD1遺伝子座の遺伝子量を増加させることにより、2つの異なる酸化剤であるジアミドとH2O2に対する耐性の増加が生じた。この耐性の増加は、コハク酸からグルタミン酸を産生させる完全なグルタミン酸異化経路の存在に厳密に依存していた。グルタミン酸デカルボキシラーゼの下流にあるいずれの酵素反応を遺伝的に除去しても、細胞は酸化剤に対して高感受性になった。
【0016】
適合溶質の合成/過剰発現
長期の塩分ストレスと短期の塩分ストレスの両方に対する塩耐性生物の細胞応答には、適合溶質として知られるある部類の浸透圧保護化合物の合成と蓄積が含まれる。これらの比較的小さい有機分子は代謝に無害であり、プロリン、グリシンベタイン、ポリオール類、糖アルコール類、および可溶性糖類を含む。これらのオスモライトは、タンパク質や細胞構造を安定化させ、細胞の浸透圧を上昇させることができる(Yancey et al.,1982)。この応答は、より大量のNaClを含む土壌溶液や結果として生じる細胞からの水分喪失に直面して乱される細胞の水分状態の恒常性を維持する。グリシンベタインとトレハロースは、タンパク質の四次構造や膜の高次状態の安定化剤として働く。マンニトールは、フリーラジカルスカベンジャーとしての役割を果たす。これはまた、細胞内構造(膜およびタンパク質)を安定化させ、かつストレス下での細胞酸化還元電位を中和する。それゆえ、これらの有機オスモライトは、浸透圧保護物質としても知られる(Bohnert and Jensen,1996;Chen and Murata,2000)。
【0017】
適合溶質
AtProT2は水分ストレスによって誘導することができ、AtProT2とLeProT1は、GABAならびにプロリンおよびグリシンベタインなどの他のストレス関連化合物を輸送する(Breitkreuz,et al.1999;Schwacke,et al.1999;Fischer,et al.1998)。これらの知見は、GABAが適合オスモライトとしての役割を有し得ることを示している(Yancey 1994)。3つの化合物は全て、中性pHで双性イオンとなり、水によく溶け、低mM濃度まで蓄積することができ、細胞に毒性作用を与えないように見える。高濃度(25〜200mM)で、GABAは、プロリンの凍結防止特性を超える、塩存在下の凍害に対して、単離されたチラコイドを安定化させ、保護する。さらに、GABAは、同じ濃度(16mM)のプロリンやグリシンベタインの活性を超える、インビトロでのヒドロキシルラジカル除去活性を有している(Smirnoff & Cumbes 1989)。GABAは、グリシンベタイン合成に関与する、葉緑体局在性ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼによって、γ−アミノ−ブチルアルデヒド(ポリアミン異化経路の産物)から合成され得るが(Trossat et al.,1997)、グルタミン酸の脱カルボキシル化と比べたポリアミンによる相対的流量は不明である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のアグロバクテリウム媒介性形質転換によって植物(単子葉植物および双子葉植物)中での塩耐性を増加させる方法に関する。さらに、本発明は、植物を改変して塩耐性に関する遺伝子を発現させる方法、およびこの方法を用いて産生された植物に関する。
【0019】
イネ由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を利用して、植物の塩耐性を増加させる方法が示されている。初期の試みは、マンニトール、オノニトール、トレハロース、プロリン、ベタイン、またはフルクタン、エクトイン、ミオイノシトールのようなオスモライトを用いる方向で行なわれた。
【0020】
非生物ストレスは、作物生産を制限する複雑な環境的制約である。ストレス耐性作物を生産するための生体工学的ストレスシグナル伝達経路は、農業研究の主な目的の1つである。浸透圧調整は、そのような操作の効果的な要素であり、浸透圧保護物質(適合溶質)の蓄積は、植物システムに見られる共通の応答である(Penna 2003)。適合溶質が植物をストレスから保護する他のメカニズムには、活性酸素種を解毒することや、タンパク質の四次構造を安定化し、その機能を維持することが含まれる。
【0021】
塩耐性の生理学と遺伝学の複雑さを考えると、塩耐性作物を作製するのは困難な作業であった。1990年代半ば、この方向での成功は限られたものでしかなく(Flowers and Yeo,1995)、かつそれ以来、ほとんど進展がなかった。従来の育種、幅広い交雑、生理的形質の使用、ごく最近では、マーカー利用選別およびトランスジェニック植物の使用をはじめとする、種々のアプローチが提唱されている。これらのアプローチはどれも、普遍的解決策を提供するとは言えない。従来の育種プログラムが、強化された塩耐性を与えることは滅多になく(Flowers and Yeo,1995)、一方、幅広い交雑は、通常、受け容れ難いほど低いレベルにまで収量を低下させる(Yeo and Flowers,1981)。生理的基準をイネの選択の基準として用いて成功しており(Dedolph and Hettel,1997)、そのようなアプローチは、最近、小麦に対して提唱されている(Munns et al.,2002)。最近の解析から、塩耐性に関わる形質のある側面を変化させた多種多様なトランスジェニック植物を作製することは可能であるが、野外で試験されたものはなく、成功を主張するものは、強化された耐性を示すのに必要とされる最低限の基準ですらほとんど満たしていないことが示されている(Flowers,2004)。
【0022】
GABAシャント経路に関与する遺伝子、特にイネ由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて植物の塩耐性を増加させる試みは今日まで行なわれていない。過去の試みは、イネ由来の2つのグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子であるOsGAD1とOsGAD2に対して行なわれたものであり、これらの遺伝子がアグロバクテリウムを介してイネカルスに同時に導入され、トランスジェニック細胞株が樹立された。再生したイネ植物は、矮小発育、黄化葉、および不稔などの異常な表現型を有していた(Akama & Takaiwa,2007)。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】グルタミン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA配列を有する植物形質転換ベクターを示す。
【図2】アグロバクテリウム媒介性遺伝子導入を介したGAD遺伝子によるタバコ葉の形質転換の様々な段階を示す。
【図3】様々なプライマー組合せ、すなわち、a)HygR遺伝子フォワードおよびリバースプライマー;b)遺伝子特異的フォワードおよびリバースプライマー、ならびにc)遺伝子フォワードおよびNOSリバースプライマーを用いて、GAD遺伝子で形質転換され、再生されたタバコのT0苗のPCRによる確認を示す。
【図4】GAD遺伝子特異的なフォワードプライマーとリバースプライマーを用いて、cDNAを鋳型とするRT−PCRを用いて解析されたGAD遺伝子を有するタバコのT0苗における導入遺伝子(GAD)の発現確認を示す。
【図5】明るい部屋の寒天培地上で成長させた、塩ストレス条件(200mM NaCl)下のT1 GADトランスジェニックタバコ苗(D1A、E2、およびH1)のより優れた性能を示す。
【図6】温室内の水耕栽培で成長させた、塩ストレス条件(300mM NaCl)下のT1 GADトランスジェニックタバコ苗(E2およびH1)のより優れた性能を示す。
【図7】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の草高の比較を示す。
【図8】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の節間距離の比較を示す。
【図9】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の葉の数の比較を示す。
【図10】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の茎の周囲長または太さの比較を示す。
【図11】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の葉面積の比較を示す。
【図12】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の総バイオマスの比較を示す。
【図13】様々なレベルの塩ストレス(0、200、および300mM NaCl)を伴って温室の植木鉢で成長させたときのハイグロマイシン陽性のGADトランスジェニック体(D1A、E2、およびH1)由来のT1苗と野生型苗の総穀粒収量の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の本発明の詳細な説明は、当業者が本発明を実施するのに役立つように提供されている。それでも、本明細書で論じられる実施形態の変更および改変が、本発明の精神または範囲から逸脱することなく当業者によってなされ得るので、以下の本発明の詳細な説明は、本発明を過度に限定するものとみなされるべきではない。
【0025】
本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼの特徴を有する精製および単離されたDNA配列に関する。
【0026】
本発明によれば、この精製および単離されたDNA配列は、通常、グルタミン酸デカルボキシラーゼのヌクレオチド配列またはその断片からなる。
【0027】
任意の手段で産生することができる、上記の配列または断片の相補配列も同様に、本発明に含まれる。
【0028】
上記の配列の変異体、すなわち、1つ以上のヌクレオチドが同じ特徴を有する別のヌクレオチドにより置換される保存的ヌクレオチド置換によって参照配列と異なっているヌクレオチド配列が本発明に包含される。
【0029】
本発明によれば、上記のヌクレオチド配列は、発現ベクター内でプロモーターと目的の遺伝子とを含む配列の5’末端と3’末端の両方に位置することができる。
【0030】
本発明に含まれるのは、本発明の産生される塩耐性を増加させるときの上記の配列の使用である。「塩耐性」とは、好適な条件下で宿主植物にDNA配列を導入した後、この配列が、該DNA配列をトランスフェクトしていない対照植物と比較して、植物中の成長環境における高濃度の塩に耐える植物の能力を強化することを意味する。
【0031】
以下の定義は本発明の理解を助けるために用いられる。
【0032】
「染色体」とは、細胞の内部に見られるDNAとタンパク質の組織化された構造体のことである。
【0033】
「クロマチン」とは、真核細胞の核の内部に見られるDNAとタンパク質の複合体のことであり、これによって染色体が構成されている。
【0034】
「DNA」またはデオキシリボ核酸は、遺伝情報を含む。これは、様々なヌクレオチドで構成されている。
【0035】
「遺伝子」とは、所与の成熟タンパク質をコードするデオキシリボヌクレオチド(DNA)配列のことである。「遺伝子」は、RNA転写開始シグナル、ポリアデニル化付加部位、プロモーター、またはエンハンサーなどの、非翻訳隣接領域を含まないものとする。
【0036】
「プロモーター」とは、遺伝子の発現を制御する核酸配列のことである。
【0037】
「エンハンサー」とは、遺伝子の位置または方向とは無関係に遺伝子の転写を開始するように働く遺伝子の配列を指す。
【0038】
本明細書における「ベクター」の定義は、その中に外来DNA断片を挿入し得るDNA分子を指す。ベクターは、通常、プラスミドから得られるが、これは、DNA断片を宿主細胞内に運ぶ「分子キャリア」のように機能する。
【0039】
「プラスミド」とは、細菌やいくつかの他の生物に見られる小さいDNA環のことである。プラスミドは、宿主細胞染色体とは独立に複製することができる。
【0040】
「転写」とは、DNA鋳型からのRNAの合成を指す。
【0041】
「翻訳」とは、メッセンジャーRNAからのポリペプチドの合成を意味する。
【0042】
「方向」とは、DNA配列中のヌクレオチドの順序を指す。
【0043】
「遺伝子増幅」とは、他の遺伝子のコピー数を比例的に増加させることなく、特定の遺伝子を繰り返し複製することを指す。
【0044】
「形質転換」とは、任意の導入手段によって外来遺伝物質(DNA)を植物細胞に導入することを意味する。様々な形質転換方法には、遺伝子銃による衝撃(バイオリスティック)、エレクトロポレーション、アグロバクテリウム媒介性形質転換などが含まれる。
【0045】
「形質転換植物」とは、外来DNAが該植物に導入されている植物を指す。このDNAは宿主染色体の一部となる。
【0046】
「安定な遺伝子発現」とは、目的の遺伝子を永久に発現する安定な形質転換植物の調製が、プラスミドの宿主染色体への安定な組込みに依存することを意味する。
【0047】
本発明は、広く上で定義された通りのものであるが、本発明はそれらのものに限定されるものではないこと、および本発明は以下の説明によって例が示される実施形態も含むことが当業者には理解されるであろう。
【実施例】
【0048】
実施例1
イネ由来のGAD遺伝子ヌクレオチド配列の単離および精製ならびに植物形質転換ベクターの構築
GAD遺伝子を35Sカリフラワーモザイクウイルスプロモーターの下流にクローニングし、NOSターミネーターで終結させる。これらのプロモーターおよびターミネーターは全て機能的に連結されている。
【0049】
植物材料
オリザ・サティバ(栽培品種Rasi)を核酸の調製に使用した。発芽した後、種子を培養室の水耕溶液中で成長させた。苗を150mMのNaClで7〜16時間処理した。
【0050】
RNA抽出およびESTライブラリー構築
RNAを苗全体から抽出した。塩ストレスを与えたRASIのcDNAのESTライブラリーを構築した。グルタミン酸デカルボキシラーゼとの同一性を示すESTをESTライブラリーから同定した。
【0051】
GABAシャント内の遺伝子の同定および単離
高等植物では、酸性化、酸素欠乏、低温、熱ショック、機械的刺激、病原菌による攻撃、渇水、および塩ストレスなどの種々のストレスの発生後にGABAが蓄積する。GABAシャント内の遺伝子であるグルタミン酸デカルボキシラーゼは、塩ストレスを与えたO.サティバのライブラリーから単離された。
【0052】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のクローニング
グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子をクローニングベクターにクローニングし、構成的プロモーターの下にある植物形質転換ベクター(バイオリスティックおよびバイナリー)にもクローニングした。グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の完全なコード配列をコードするcDNAを、BglII制限酵素部位およびEcoRI制限酵素部位(下線を付したヌクレオチド配列)でタグを付けた以下のプライマー対を用いてインディカイネ(栽培品種RASI)のcDNAから増幅した。
フォワード:5'−GCGGATCCATGGTGCTCTCCAAGGCCGTCTC−3'
リバース:5'−GCGAATTCCTAGCAGACGCCGTTGGTCCTCTTG−3'
【0053】
以下のPCR条件を用いる。94℃、1分;94℃、30秒;75℃、3分(5サイクル);94℃、30秒;68℃、3分(30サイクル)、最後の伸張は68℃、7分。
【0054】
増幅されたcDNAは1479塩基対のヌクレオチドからなり、成熟グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素をコードする。
【0055】
増幅された断片をpGEMT easyベクターにクローニングした。遺伝子をBamHI部位とEcoRI部位で制限消化し、バイオリスティックベクターpV1に連結した。このバイオリスティックベクターをBglII制限部位とEcoRI制限部位で切り出し(BglII酵素とBamHI酵素はアイソシゾマーである)、遺伝子の存在を確認した。遺伝子をシーケンシングでも確認した。得られたベクター(pV1−GAD)は、選択マーカーとしてのアンピシリン耐性遺伝子とともに、35Sカリフラワーモザイクウイルス(35S CaMV)プロモーターで駆動されるGAD遺伝子(1.479kb)とNOSターミネーターとを有する。
【0056】
35S CaMVプロモーターで駆動され、NOSターミネーターによって終結させられる、pV1−GD由来のGAD遺伝子の遺伝子カセットをHindIII部位とBamHI部位で制限消化した。この遺伝子カセットを、HindIII部位とBamHI部位で制限消化したpCAMBIA 1390 pNG15に連結した。得られたベクター(pAPTV 1390−GAD)は、選択マーカーとしてのnptII(カナマイシン耐性)遺伝子およびhph遺伝子(ハイグロマイシン耐性)とともに、35Sカリフラワーモザイクウイルス(35S CaMV)プロモーターで駆動され、NOSターミネーターによって終結させられるGAD遺伝子(1.479kb)を有する(図1)。
【0057】
実施例2
変化したGAD遺伝子を有する植物の作製
植物形質転換
遺伝子が同定されたという考えを証明するために、アグロバクテリウムを介してグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子をタバコ(モデル植物)に形質転換した。
【0058】
GAD遺伝子を含むバイナリーベクターによるタバコ葉外植片のアグロバクテリウム媒介性形質転換に関わる詳細な工程:
1.ベクター骨格がKan耐性遺伝子とRif耐性遺伝子(これらは1回で終わる二重選択としても機能する)からなるので、アグロバクテリウムの陽性コロニーを、50mg/Lのカナマイシン(Kan)と10mg/Lのリファマイシン(Rif)を含むLBブロスに播種した。
2.次に、このブロスを、シェーカー上で、28℃でインキュベートした。
3.午前中に、一晩成長させたコロニーを、50mg/LのKanと10mg/LのRifを含む50mLのLBブロスに播種し、28℃で3〜4時間インキュベートし、600nmでODをチェックし、ODが0.6〜1になるまで成長させ続けた。
4.ブロスが所要のODに達した時点で、このブロスを5000rpmで5分間遠心分離した。
5.上清を捨て、細胞ペレットをMurashige & Skooge(MS)液体培地(Agro−MSブロス)に溶かした。
6.タバコの葉を、中肋を取らずに四角い小片(これは外植片の役割を果たした)に切り、注意を払って、播種物の中心部分にあまり傷をつけないようにして、葉の四方に傷をつけた。
7.これらの葉試料をBODインキュベーター内のMS無添加培地中に2日間置いた。播種の2日後、これらの葉試料に、形質転換したアグロバクテリウム細胞(この時、これはAgro−MSブロス中に入れられている)を感染させた。
8.葉の外植片をこのAgro−MSブロス中に30分間置いた後、それらを共栽培培地(これは、MS+1mg/L 6−ベンジルアミノプリン塩酸塩(BAP)+0.2mg/L ナフタレン酢酸(NAA)+250mg/L セフォタキシムからなる)上に2日間置いた(図2a)。
9.共栽培の後、外植片を第1の選択培地(これは、MS+1mg/L BAP+0.2mg/L NAA+40mg Hyg+250mg/L セフォタキシムからなる)中で15日間維持し、カルスが隆起し始めたとき、カルスを十分成熟させるために、これらの外植片を第1の選択培地上で再び継代培養した(図2b)。
10.カルスが成熟したことが分かった時点で、これらのカルスを第2の選択培地(これは、MS+1mg/L BAP+0.2mg/L NAA+50mg Hyg+250mg/L セフォタキシムからなる)上に播種した。ハイグロマイシン濃度が増加しているので、第1の選択を逃れたものが抑制されるようになり、形質転換カルスのみがこの培地上で生存し始める。
11.その後、この第2の培地上で継代培養を10日間で1回行なった。
12.この時までに、小植物体がカルスから隆起し始めた。第2の選択から得た小植物体を採取し、発根培地(これは、1/2 MS+0.2mg/L インドール−3−酪酸(IBA)からなる)上に置いた。ここで、これらの小植物体は12〜15日までに根を突き出し始めた。逃れたものをこの段階でも同定することができるので、成熟根が形成された時点で、20mg/Lのハイグロマイシンを含む発根培地上で植物を継代培養した(図2c)。
13.この段階の植物を、植物がその成長室環境に適応するように瓶の蓋を2日間開けたままにして、環境に順応させた。その後、寒天培地から得た植物を取って、1/4 MS液体培地中に2日間置いた。これらの植物をさらにバーミキュライト上に移し、1週間毎日水をやった。
14.植物の状態に応じて、好適な植物を温室に移した。
15.植物を温室に移す前の環境順応期に、植物から古い葉を採集した。
16.それぞれの葉試料からDNAを抽出し、遺伝子特異的プライマーと、選択マーカー遺伝子、すなわち、ハイグロマイシンのプライマーとを用いてPCRを行なった。PCRで確認した陽性植物をさらに温室に移した。
【0059】
導入GAD遺伝子を有する植物の確認
GADタバコトランスジェニック株のゲノムDNA抽出
トランスジェニックGADタバコ植物の葉試料を採集し、ゲノムDNAを抽出した。
【0060】
ゲノムDNA抽出の手順:
・約1gmの葉を各植物から採集した。
・液体窒素を用いて乳棒と乳鉢で試料をすりつぶした。
・1mlの抽出バッファー(Extraction buffer)(0.2M Tris Cl pH8.0;2M NaCl;0.05M EDTA;2% CTAB)を試料に加え、13000rpmで10分間回転させた。
・上清を回収した。RNアーゼ[1mlに対して3μl(1mg/mL)]を加え、37℃で30分間インキュベートした。
・次に、等量のクロロホルム−イソアミルアルコールを加え、13000rpmで10分間回転させた。
・上清を新しいチューブに回収し、等量の冷イソプロパノールを加え、13000rpmで10分間回転させた。
・ペレットを70%アルコールで洗浄し、ペレットを乾燥させ、オートクレーブした温水30μlに溶かした。
・1μlのDNAを充填し、ゲル上でチェックした。
【0061】
トランスジェニック植物を、様々なプライマー組合せを用いるPCRによって確認した:
1.ハイグロマイシンフォワード(Hyg F)プライマーとハイグロマイシンリバース(Hyg R)プライマーを用いるPCR:
【0062】
【表1】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0063】
【表2】
図3aに示すように、増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した。
【0064】
2.遺伝子特異的プライマーのGADフォワード(GD F)とGADリバース(GD R)を用いるPCR:
【0065】
【表3】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0066】
【表4】
増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した(図3b)。
【0067】
3.GD FとNos MRを用いるPCR:
【0068】
【表5】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0069】
【表6】
図3cに示すように、増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した。
【0070】
様々なPCR反応で使用されるプライマー配列を以下に列挙する:
Hyg F:5'−CTGAACTCACCGCGACGTCT−3'
Hyg R:5'−CCACTATCGGCGAGTACTTC−3'
GD F:5'−GCGGATCCATGGTGCTCTCCAAGGCCGTCTC−3'
GD R:5'−GCGAATTCCTAGCAGACGCCGTTGGTCCTCTTG−3'
NOS MR:5'−GATAATCATCGCAAGACCGGCAAC−3'
【0071】
トランスジェニック植物における導入GAD遺伝子発現の確認
導入GAD遺伝子発現の確認は、RNA抽出、cDNA合成、および逆転写PCRのような工程を含んだ。
【0072】
対照植物(野生型)とともにトランスジェニックGADタバコ植物のRNAを単離した。
【0073】
RNA抽出に関わる詳細な工程:
1.500mgの葉組織を予冷した乳鉢にとり、液体窒素中ですり潰して、細かい粉末にした。
2.冷やしたスパチュラを用いて、粉末を予冷したエッペンドルフチューブに移した。
3.ホモジェナイズした試料に1mlのTrizol溶液(Invitrogen)を加えた。よく混合し、室温(RT)で5分間インキュベートした。
4.これに200μlのクロロホルムを加え、15秒間激しく振盪させ、室温で5分間インキュベートした。
5.試料を13000rpmで15分間、4℃にて遠心分離した。
6.上部の水相を新しいチューブに回収した(約60%、すなわち、600μl)。
7.回収した上部相に500μlの冷イソプロパノールを加え、RTで10分間インキュベートした。
8.試料を13000rpmで15分間、4℃にて遠心分離した。
9.上清をデカントで捨て、ペレットを500ulの70%アルコール(DEPC H2O)で洗浄し、10000rpmで5分間、4℃にて遠心分離した。
10.上清をデカントで捨て、ペレットをRTで15分間乾燥させた。
11.ペレットを、55℃に設定された加熱式のウォーターバスまたはドライバス中で20μlのDEPC処理H2Oに溶かした。
12.2μlの試料をゲルに充填した。試料をさらに使用するまで−80℃で保存した。
【0074】
cDNA合成に関わる詳細な工程:
野生型とともにトランスジェニックGADタバコ植物のcDNA合成を行なった。
1.構成要素を以下に示す順序で加えた。
トータルRNA :4ul(1ug)
オリゴdT :0.5ul
0.1%DEPC/ヌクレアーゼフリー水 :6.5ul
合計 :11ul
2.内容物を70℃で5分間、PCR装置で加熱し、氷中で素早く冷却した。
3.一方、以下の構成要素を別のチューブに加えることにより、次の混合物を調製した。
5×反応バッファー :4ul
dNTP(10mM) :2ul
RNアーゼ阻害剤(20U/ul) :0.5ul
0.1%DEPC/ヌクレアーゼフリー水 :2ul
合計 :8.5ul
4.この8.5ulの混合物を、素早く冷却したPCRチューブ中の内容物に加え、穏やかにタッピングして混合した。
5.内容物を、PCRチューブ中、37℃で5分間、PCR装置でインキュベートした。
6.0.5ulのM−MuLV RT酵素をチューブに加え、PCR装置で設定されたプログラムを継続した(25℃、10分;37℃、60分、および70℃、10分)。
7.PCRでさらに使用するまでcDNAを−20℃で保存した。
【0075】
RT−PCRによるトランスジェニックタバコ植物における導入GAD遺伝子発現の解析
タバコにおける導入GAD遺伝子の発現をチェックするために、GADトランスジェニックタバコおよび野生型植物由来のcDNA試料を、遺伝子特異的プライマーを用いるPCRで解析した。
【0076】
遺伝子特異的プライマーを用いるcDNAのPCR:
【0077】
【表7】
PCR条件:(エッペンドルフ装置)
【0078】
【表8】
図4に示すように、増幅産物を0.8%アガロースゲルで可視化した。
【0079】
実施例3
変化したGAD遺伝子を有する植物が幼苗期に塩ストレスに耐える証拠
トランスジェニック植物の塩ストレスに対する耐性を、幼苗期と植物の全生活環を含む成熟植物期の両方においてT1世代で研究した。
【0080】
培地上での幼苗期の塩耐性
野生型タバコ苗およびT1 GADトランスジェニックタバコ苗を用いて、塩ストレス実験を行なった。滅菌水で2回洗浄し(2〜3分)、次いで70%アルコールで2分間洗浄し、その後、70%ブリーチで10分間処理し、最後に滅菌水で5〜6回洗浄することによって、T1種子の表面を滅菌した。次に、種子をブロット乾燥させ、様々な塩濃度(0、50、および200mM NaCl)を含む1/2 MS培地プレート上に置き、発芽させるために暗所にて28℃でインキュベートした。発芽した後、それらを16時間と8時間の明暗周期の下にある明るい部屋に移した。
【0081】
3つのトランスジェニック事象、D1A、E2、およびH1は、野生型と比較して200mM NaClに対する耐性に示した(図5)。野生型種子は200mM NaClで確かに発芽したが、良好な成長を示さなかった。成長培地中の高塩濃度の存在は、野生型苗(導入されたGAD遺伝子を持たない植物)の適切な成長を阻害したが、その一方、導入されたGAD遺伝子によって成長培地中の高塩濃度に対して耐性となっていたので、高塩の存在は、トランスジェニック苗の正常な成長に影響を及ぼさなかった。
【0082】
水耕培養で試験した幼苗期の塩耐性
高塩に対する耐性を評価するために、2つのトランスジェニック事象E2およびH1を選択し、水耕培養で試験した。ハイグロマイシン(50mg/L)が補充された湿った濾紙盤の上でT1種子を発芽させ、この上で発芽し、成長した陽性苗を選択し、野生型苗とともに水耕栽培用フロートの上に置いた。
【0083】
水耕栽培用の成長培地は、様々な塩濃度(100、200、および300mM)が補充されたl/10 MS培地からなっていた。培地のpHを毎日のようにモニターし、5〜7の範囲内に維持した。真菌や藻の成長を避けるために、水耕栽培用のボウルを洗浄した後、培地を2日に1回替えた。5週間成長させた後に、最後の観察を行なった。
【0084】
両方のトランスジェニック事象、E2およびH1は、野生型と比較して300mM NaClに対する耐性を示した(図6)。野生型種子は300mM NaClで確かに発芽し、成長したが、良好な成長を示さず、トランスジェニック苗よりも弱く、バイオマスが少なかった。成長培地中の高塩濃度の存在は、野生型苗(導入されたGAD遺伝子を持たない植物)の適切な成長を阻害したが、その一方、導入されたGAD遺伝子によって成長培地中の高塩濃度に対して耐性となっていたので、高塩の存在は、トランスジェニック苗の正常な成長に影響を及ぼさなかった。この実験で、本発明者らは、最大300mM NaClの塩ストレスに耐えるトランスジェニック植物の塩耐性の増加を示すことができた。
【0085】
実施例4
変化したGAD遺伝子を有する植物がその生活環全体を通して塩ストレスに耐える証拠
トランスジェニック植物の塩ストレスに対する耐性を、植物の全生活環を含む成熟植物期にT1世代で研究した。
【0086】
高塩に対する耐性を評価するために、3つのトランスジェニック事象D1A、E2およびH1を選択し、温室での植木鉢培養で試験した。野生型タバコとトランスジェニックタバコを用いて実験を行なった。ハイグロマイシン(50mg/L)が補充された湿った濾紙盤の上でT1種子を発芽させ、この上で発芽し、成長した陽性苗を選択し、野生型苗とともに大きい植木鉢(11インチ直径)の土壌の上に置いた。苗を温室で、野外土壌と堆肥(FYM)の混合物を含む植木鉢の中で栽培した。植物に普通の水または200または300mM NaClを含む生理食塩水をやった。表1に示すような4つの遺伝子型(野生型とD1A、E2、およびH1トランスジェニックタバコ)で3つの処理と3つの複製を伴って実験を行なった。
表1:塩耐性研究のための実験設計。比較のために、4つの遺伝子型について3つの処理と3つの複製を用いた。
【0087】
【表9】
【0088】
表現型評価:
表現型の特徴を観察し、草高、節間距離、枝の数、葉の数、葉面積、茎の太さ(周囲長)、総バイオマス、穀粒収量などのようなパラメータを記録した。
【0089】
草高
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で植物の高さを測定した。定規を用いて地面から花と枝を含む植物の先端までの草高を測定した。トランスジェニック体は、野生型植物と比較して、塩ストレス条件時に、より高い草高(少なくとも20%高い)を示した(図7)。
【0090】
節間距離
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で茎上の2つの節間の距離を測定した。第5葉および第6葉と第6葉および第7葉の間で節間距離を測定した。完全に広がった葉を葉番号1とみなして、先端から葉を計数した。スレッドを用いて距離を測定し、その後、定規でスレッド長を測定して、cmで表した。トランスジェニック体は、野生型と比較して、より高い土壌塩濃度レベルで節間距離の増加を示した(図8)。
【0091】
葉の数
塩分土壌条件(200&300mM NaCl)下での葉の数の増加は、野生型と比較したとき、トランスジェニック体で観察された(図9)。トランスジェニック体は、野生型と比較して、少なくとも20%の葉数の増加を示した。
【0092】
茎の周囲長(外周または茎の太さ)
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で茎の太さを測定した。地面から5〜6cmの高さで茎の周囲長を測定した。スレッドを用いて、適当な高さで茎の周りを囲み、その後、定規でスレッドの長さを測定して、cmで表した。トランスジェニック体は、野生型植物と比較して、200mM NaCl条件下でより太い茎(27〜45%太い)を示した(図10)。
【0093】
葉面積
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で葉の大きさを測定した。葉を節から葉の先端まで垂直に測定し、葉の長さとみなした。葉の幅を、最も幅が広い位置で水平に測定し、葉の幅とみなした。葉面積を長さ×幅(cm−2単位で表す)として計算した。塩分土壌条件(200&300mM NaCl)下では、野生型と比較したとき、トランスジェニック体の葉面積に有意な増加が見られた(図11)。トランスジェニック体は、塩ストレス条件下で野生型と比較したとき、2倍の葉面積を有することが観察された。
【0094】
植物バイオマス
トランスジェニック植物と野生型植物(導入されたグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を持たない植物)で生成されるバイオマスを測定した。植物バイオマスを植物の総乾燥重量として測定した。植物バイオマスを様々な塩ストレス処理下で測定した。トランスジェニック体の総バイオマスは、200mM NaCl条件と300mM NaCl条件の両方で、野生型と比較して有意により高かった(図12)。塩ストレス条件下のトランスジェニック体は、野生型植物よりも少なくとも30%大きいバイオマスを示した。
【0095】
穀粒収量
総穀粒収量は、塩分条件と非塩分条件の両方の下で、野生型よりもトランスジェニック体で高かった(図13)。非塩分条件と比較したとき、塩分条件下では、穀粒収量の減少が見られるが、トランスジェニック体での穀粒は、同様の条件下の野生型植物と比較してより多かった。
【0096】
GADトランスジェニック体は、植物の様々な農学的状態および生理状態について、高塩分濃度条件下で野生型植物よりも優れた性能を発揮し、したがって、塩ストレス条件下でのトランスジェニック体の優れた性能に対するGAD遺伝子の役割が示された。
【0097】
配列番号1は、オリザ・サティバのグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の核酸配列を示す。開始コドンと終止コドンは、イタリック体で示されている。
【0098】
配列番号2は、オリザ・サティバのグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のアミノ酸配列を示す。アステリスクは終止コドンを表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化された環境ストレス耐性を示す形質転換植物を作製するための方法であって、機能的なグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)酵素をコードするヌクレオチド配列に機能的に連結されたプロモーターを含むDNAコンストラクトを植物のゲノムに組み込むことを含む、方法。
【請求項2】
前記機能的なグルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列が配列番号1に示すヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロモーターが、配列番号1に示すヌクレオチド配列に機能的に連結された構成的プロモーター、誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター、および細胞型特異的プロモーターからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記選択されたプロモーターが誘導性プロモーター由来であり、かつ機械的衝撃、暑さ、寒さ、塩、湛水、渇水、損傷、酸素欠乏、病原菌、紫外線B、栄養枯渇、開花シグナル、結実シグナル、細胞特化、およびそれらの組合せからなる群から選択されるシグナルに応答する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
選択されたプロモーターが組織特異的プロモーター由来であり、葉、茎、根、花、花弁、葯、胚珠など、およびそれらの組合せからなる群から選択される植物組織で発現する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
選択されたプロモーターが細胞型特異的プロモーター由来であり、柔組織、葉肉、木部、師部、孔辺細胞、気孔細胞など、およびそれらの組合せからなる群から選択される植物細胞で発現する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素が配列番号2に示すアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記配列番号2に示すアミノ酸配列が、グルタミン酸からγ−アミノ酪酸(GABA)への反応を触媒するのに効果的である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記形質転換植物が、同じ種の形質転換されていない植物によって同じ条件下で発現されるGAD遺伝子のレベルよりも高いレベルで配列番号1に示すグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)遺伝子を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
標的植物が、単子葉植物、双子葉植物、穀草類、飼料作物、マメ科植物、豆類、野菜、果物、油糧種子、繊維作物、観賞用草花、園芸植物、薬用植物、および芳香植物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記DNAコンストラクトを植物のゲノムに組み込むことが、
(i)宿主植物由来の細胞、組織、または器官を前記DNAコンストラクトで形質転換すること;
(ii)前記DNAコンストラクトを含む形質転換細胞、細胞カルス、体細胞胚、または種子を選択すること;
(iii)前記選択された形質転換細胞、細胞カルス、体細胞胚、または種子から全植物を再生すること;および
(iv)ポリヌクレオチドを発現する再生された全植物を選択すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
宿主植物由来の細胞組織または器官が、パーティクルガン、バイオリスティック、またはアグロバクテリウムを用いて伝達されるDNAコンストラクトで形質転換される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の得られた形質転換植物およびその子孫。
【請求項14】
前記配列番号1に示すDNAコンストラクトが、ヘテロ接合またはホモ接合の状態で植物に組み込まれている、請求項13に記載の形質転換植物。
【請求項15】
前記植物が、塩ストレス、渇水、機械的衝撃、暑さ、寒さ、塩、湛水、損傷、酸素欠乏、病原菌、紫外線B、栄養枯渇、およびそれらの組合せからなる群から選択される顕著に強化された環境ストレス耐性を示す、請求項1〜14に記載の形質転換植物。
【請求項16】
GAD酵素をコードするポリヌクレオチドに機能的に連結された構成的プロモーターを含むベクターで形質転換した植物、またはその子孫であって、前記植物が前記ポリヌクレオチドを発現し、前記植物が、形質転換されていない植物と比較して、顕著に改善された成長特性、収量、生殖機能、または他の形態学的もしくは農学的特徴を示す、植物、またはその子孫。
【請求項1】
強化された環境ストレス耐性を示す形質転換植物を作製するための方法であって、機能的なグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)酵素をコードするヌクレオチド配列に機能的に連結されたプロモーターを含むDNAコンストラクトを植物のゲノムに組み込むことを含む、方法。
【請求項2】
前記機能的なグルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列が配列番号1に示すヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロモーターが、配列番号1に示すヌクレオチド配列に機能的に連結された構成的プロモーター、誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター、および細胞型特異的プロモーターからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記選択されたプロモーターが誘導性プロモーター由来であり、かつ機械的衝撃、暑さ、寒さ、塩、湛水、渇水、損傷、酸素欠乏、病原菌、紫外線B、栄養枯渇、開花シグナル、結実シグナル、細胞特化、およびそれらの組合せからなる群から選択されるシグナルに応答する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
選択されたプロモーターが組織特異的プロモーター由来であり、葉、茎、根、花、花弁、葯、胚珠など、およびそれらの組合せからなる群から選択される植物組織で発現する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
選択されたプロモーターが細胞型特異的プロモーター由来であり、柔組織、葉肉、木部、師部、孔辺細胞、気孔細胞など、およびそれらの組合せからなる群から選択される植物細胞で発現する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素が配列番号2に示すアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記配列番号2に示すアミノ酸配列が、グルタミン酸からγ−アミノ酪酸(GABA)への反応を触媒するのに効果的である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記形質転換植物が、同じ種の形質転換されていない植物によって同じ条件下で発現されるGAD遺伝子のレベルよりも高いレベルで配列番号1に示すグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)遺伝子を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
標的植物が、単子葉植物、双子葉植物、穀草類、飼料作物、マメ科植物、豆類、野菜、果物、油糧種子、繊維作物、観賞用草花、園芸植物、薬用植物、および芳香植物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記DNAコンストラクトを植物のゲノムに組み込むことが、
(i)宿主植物由来の細胞、組織、または器官を前記DNAコンストラクトで形質転換すること;
(ii)前記DNAコンストラクトを含む形質転換細胞、細胞カルス、体細胞胚、または種子を選択すること;
(iii)前記選択された形質転換細胞、細胞カルス、体細胞胚、または種子から全植物を再生すること;および
(iv)ポリヌクレオチドを発現する再生された全植物を選択すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
宿主植物由来の細胞組織または器官が、パーティクルガン、バイオリスティック、またはアグロバクテリウムを用いて伝達されるDNAコンストラクトで形質転換される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の得られた形質転換植物およびその子孫。
【請求項14】
前記配列番号1に示すDNAコンストラクトが、ヘテロ接合またはホモ接合の状態で植物に組み込まれている、請求項13に記載の形質転換植物。
【請求項15】
前記植物が、塩ストレス、渇水、機械的衝撃、暑さ、寒さ、塩、湛水、損傷、酸素欠乏、病原菌、紫外線B、栄養枯渇、およびそれらの組合せからなる群から選択される顕著に強化された環境ストレス耐性を示す、請求項1〜14に記載の形質転換植物。
【請求項16】
GAD酵素をコードするポリヌクレオチドに機能的に連結された構成的プロモーターを含むベクターで形質転換した植物、またはその子孫であって、前記植物が前記ポリヌクレオチドを発現し、前記植物が、形質転換されていない植物と比較して、顕著に改善された成長特性、収量、生殖機能、または他の形態学的もしくは農学的特徴を示す、植物、またはその子孫。
【図1】
【図2a)】
【図2b)】
【図2c)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2a)】
【図2b)】
【図2c)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−507261(P2012−507261A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518019(P2011−518019)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006225
【国際公開番号】WO2010/007495
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(511013500)アヴェストハゲン リミテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006225
【国際公開番号】WO2010/007495
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(511013500)アヴェストハゲン リミテッド (4)
【Fターム(参考)】
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