説明

ストレス耐性を改良したイモ類、及びその作出方法

【課題】種々のストレス耐性が改良された組換えサツマイモを作出する。
【解決手段】本発明は、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を安定に保持する種々のストレス耐性が改良されたサツマイモ及びその子孫;該植物の作出方法;該植物のカルスの作出方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたストレス耐性を有するイモ類、詳細には改良された塩ストレス耐性、乾燥ストレス耐性、水ストレス耐性、低温ストレス耐性、弱光ストレス耐性、高温ストレス耐性などを有するイモ類に関する。
また、本発明は該イモ類の作出方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、該イモ類から有用物質(例えばデンプン、色素、エタノール)或いはその誘導体(例えば生分解性プラスチック)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
植物はそれぞれの生息地の温度や塩などの様々な環境ストレスに適応して生活している。しかし、例えば温度ストレスにおいては、植物が生育適温の上限または下限を越えるような環境に遭遇すると高温ストレスや低温ストレスを受け、徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて障害をひきおこす。これまで、種々の温度環境に適応した野生の植物を食料作物や工芸作物などに利用するために、選抜や交雑育種など育種的手段によって作物の温度適応性の拡大に努めてきた。また、野菜や花卉、果樹等の園芸作物においては育種的手段に加えて、施設園芸で栽培可能な期間の拡大を図ってきた。しかし、特に日本は南北に長く、地域によっては気候が著しく異なるとともに、四季の変化が著しいので地域や季節によっては作物は生育に不適な温度環境にさらされる危険性が大きい。例えば、熱帯を起源とするイネは、明治以来の品種改良によって東北地方や北海道などの冷涼地でも栽培できるようになり、現在ではこれらの地域の基幹作物として栽培されているが、これらの地域では初夏に異常低温があると冷害を受け、著しい減収になることが現在でも問題になっている。近年、地球温暖化やエルニーニョ現象が原因と考えられる異常気象によって作物が重大な被害を受け、1993年のひどい冷害による米不足は記憶に新しい。また、野菜類についてみると、トマト、キュウリ、メロン、スイカなど果菜類の中には熱帯起源の作物が多い。これらの作物は需要が大きく農業経営上も重要性の大きい作物で早くから施設栽培に取り入れられてきた。しかし、昭和49年のオイルショック以来、施設園芸における省資源や暖房コストの低減が問題となっている。施設園芸における省資源については温室の構造的なものから栽培技術まで各方面から検討されているが、最も基本的なことは作物の低温ストレス耐性を高めることである。
【0004】
塩ストレスについては全陸地面積の約10%が塩害地域といわれ、近年東南アジアやアフリカなどの乾燥地を中心に塩類土壌の拡大が農業上深刻な問題となっている。
【0005】
乾燥ストレスは植物にとって重要なストレスで、温度が制限要因とならないときには降雨量とその分布によって大きな影響を受ける。特に、主要な作物栽培地域である半乾燥地帯などでは、作物の生育や収量は水ストレスによって著しく左右される。
水ストレスは植物にとって重要なストレスで、温度が制限要因とならないときには降雨量とその分布によって大きな影響を受ける。特に、主要な作物栽培地域である半乾燥地帯などでは、作物の生育や収量は水ストレスによって著しく左右される。
種々の環境ストレス耐性を高めるために交雑育種、最近の遺伝子工学技術を利用した育種、植物ホルモンや植物調節剤の作用を利用した方法等が行われている。
【0006】
これまでに遺伝子工学技術を利用した、環境ストレス耐性植物の作出が行われている。低温ストレス耐性の改良に用いられた遺伝子としては、生体膜脂質の脂肪酸の不飽和化酵素遺伝子(ω−3デサチュラーゼ遺伝子、グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、ステアロイル−ACP−不飽和化酵素遺伝子)や光合成に関与するピルビン酸リン酸ジキナーゼ遺伝子、凍結保護・防止活性を持つタンパク質をコードする遺伝子(COR15、COR85、kin1)等が報告されている。
【0007】
塩ストレスや乾燥・水ストレス耐性の改良に用いられた遺伝子としては、浸透圧調節物質のグリシンベタイン合成酵素遺伝子(コリンモノオキシゲナーゼ遺伝子、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子)、プロリン合成酵素遺伝子(1−ピロリン−5−カルボン酸シンテターゼ)等が報告されている。
【0008】
しかし、これらの遺伝子を形質転換した植物の多くは、実際には産業上利用可能な程度に十分な効果は得られておらず、実用化に至っていないのが現状である。
ポリアミンとは第1級アミノ基を2つ以上もつ脂肪族炭化水素の総称で生体内に普遍的に存在する天然物であり、20種類以上のポリアミンが見いだされている。代表的なポリアミンとしてはプトレシン、スペルミジン、スペルミンがある。ポリアミンの主な生理作用としては(1)核酸との相互作用による核酸の安定化と構造変化(2)種々の核酸合成系への促進作用(3)タンパク質合成系の活性化(4)細胞膜の安定化や物質の膜透過性の強化などが知られている。植物におけるポリアミンの役割としては細胞増殖や分裂時に核酸、タンパク質生合成の促進効果や細胞保護が報告されているが、最近ではポリアミンと環境ストレス耐性との関わりも注目されている。
近年、ポリアミンの種々の環境ストレスに対する関わりが報告されている。低温ストレス(非特許文献1:J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 780-787, 1999、非特許文献2:J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 967-973, 1999、非特許文献3:Plant Physiol. 124, 431-439, 2000)、塩ストレス(非特許文献4:Plant Physiol., 91, 500-504, 1984)、酸ストレス(非特許文献5:Plant Cell Physiol., 38(10), 156-1166, 1997)、浸透ストレス(非特許文献6:Plant Physiol. 75, 102-109, 1984)、病原菌感染ストレス(非特許文献7:New Phytol., 135, 467-473, 1997)、除草剤ストレス(非特許文献8:Plant Cell Physiol., 39(9), 987-992, 1998)などとの関わりが報告されているが、いずれの報告も生長発育反応やストレス抵抗性とポリアミン濃度の変化の関連性からポリアミンの関与を推定したものであり、ポリアミン代謝関連酵素をコードするポリアミン代謝関連酵素遺伝子と環境ストレス耐性との遺伝子レベルでの関与については十分に調べられていない。
植物のポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素としてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)、スペルミジン合成酵素(SPDS)、スペルミン合成酵素(SPMS)等が知られている。これらのポリアミン代謝関連酵素をコードするポリアミン代謝関連遺伝子については植物から既に幾つか単離されている。ADC遺伝子はエンバク(非特許文献9:Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990)、トマト(非特許文献10:Plant Physiol., 103, 829-834, 1993)、シロイヌナズナ(非特許文献11:Plant Physiol., 111, 1077-1083, 1996)、エンドウ(非特許文献12:Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995)、ODC遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)(非特許文献13:Biocem. J., 314, 241-248, 1996)、SAMDC遺伝子はジャガイモ(非特許文献14:Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994)、ホウレンソウ(非特許文献15:Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995)、タバコ、SPDS遺伝子はシロイヌナズナ(非特許文献16:Plant cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998)等から単離されている。
さらに、エンバク由来のアルギニン脱炭酸酵素遺伝子をイネに導入して塩ストレス下での生育が向上したこと(非特許文献17)、Tritordeum由来のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子をイネに導入して塩ストレス耐性が向上したこと(非特許文献18)、人由来のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子をタバコに導入して病気、塩、乾燥ストレス耐性が向上したこと(非特許文献19)、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入することにより環境ストレス耐性が向上すること(特許文献1)を各々開示しているが、実施例や実験例で効果が確認されているのは、シロイヌナズナ、タバコ、イネなどのモデル植物で、サツマイモやジャガイモなどの工業原料植物や実用化植物では十分な効果は確認されていない。さらに、前記特許文献や非特許文献では環境ストレス耐性が向上することが開示されているが、短期間の生育や生長を調べたものがほとんどで、サツマイモやジャガイモにとって重要な塊根や塊茎の生育や生産性については全く調べられていない。
【特許文献1】WO02/23974
【非特許文献1】J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 780-787, 1999
【非特許文献2】J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 967-973, 1999
【非特許文献3】Plant Physiol. 124, 431-439, 2000
【非特許文献4】Plant Physiol., 91, 500-504, 1984
【非特許文献5】Plant Cell Physiol., 38(10), 156-1166, 1997
【非特許文献6】Plant Physiol. 75, 102-109, 1984
【非特許文献7】New Phytol., 135, 467-473, 1997
【非特許文献8】Plant Cell Physiol., 39(9), 987-992, 1998
【非特許文献9】Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990
【非特許文献10】Plant Physiol., 103, 829-834, 1993
【非特許文献11】Plant Physiol., 111, 1077-1083, 1996
【非特許文献12】Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995
【非特許文献13】Biocem. J., 314, 241-248, 1996
【非特許文献14】Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994
【非特許文献15】Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995
【非特許文献16】Plant Cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998
【非特許文献17】Plant Sci., 160, 869-875, 2001
【非特許文献18】Plant Sci., 163, 987-992, 2002
【非特許文献19】Plant Sci., 164, 727-734, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
サツマイモはヒルガオ科サツマイモ属でつる性の多年草であり、学名はIpomoea batatas (L.) Lam.である。熱帯アメリカ原産で、世界中の温暖な地域で栽培されている。日本では一年草として栽培され、カンショ、リュウキュウイモ、カライモと呼ばれている。サツマイモは肥大した塊根を食用や家畜の飼料として利用されるばかりでなく、デンプンやカロチンなどの工業原料としても利用されている。
ジャガイモはナス科の植物で学名はSolanum tuberosum L. であり、原産地は中米から南米のアンデス山脈の高地とされている。冷涼な気候でも丈夫に育つことからヨーロッパ全土に広がり世界各国で栽培され、麦類、イネ、ダイズ、トウモロコシなどと並ぶ主要な作物の一つとなっている。
イモ類(サツマイモ、ジャガイモ)を工業原料として利用する場合、特に生産費の低減を図ることが求められている。その方策の一つとして単位面積当たりの収量増加が挙げられる。イモ類のうちサツマイモは高温性の植物で、日本では関東以北地域では春秋期の冷温のために栽培期間が限定され、十分な収量を上げることができない。サツマイモの低温ストレス耐性を高めることができれば、大規模生産が比較的容易な関東以北地域での栽培が可能になり、また、西南暖地においても栽培期間がさらに延長して増収を図ることができ、これによって生産コストの低減が考えられる。さらに、塩ストレス耐性を高めることができれば、高塩障害によって栽培が困難な地域でもイモ類の栽培が可能となる。低温ストレス耐性や乾燥・水ストレス耐性を高めることで異常気象による冷害や干ばつが回避できる可能性がありイモ類の安定性生産が期待できる。
【0010】
従って、本発明の目的は、ポリアミン代謝に関連する遺伝子の発現を人為的に制御して、ポリアミンレベルを変化させることによって、種々のストレス耐性が改良されたイモ類を作出することである。
【0011】
また、本発明は、イモ類の収量と生産性を向上させ、さらに有用物質をより多く産生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意努力した結果、ポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素遺伝子を単離して、該遺伝子をイモ類に導入して過剰発現することによって、ポリアミン代謝を操作してポリアミン濃度を変化させることによって、種々のストレス耐性のパラメーター、生産性、塊根(サツマイモ)または塊茎(ジャガイモ)の数、大きさなどが改良されることを見出した。
ポリアミンは分子中にアミンを多く含む塩基性物質であり、代表的なポリアミンとしては二分子のアミンを含むプトレシン、三分子のアミンを含むスペルミジン、四分子のアミンを含むスペルミン等がある。植物において、これらのポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素としてはプトレシンについてはADC、ODC、スペルミジンについてはSAMDC、SPDS、スペルミンについてはSAMDC、SPMS等が見つかっている。これらのポリアミン代謝関連酵素をコードしているポリアミン代謝関連酵素遺伝子についても既に幾つかの植物で単離されている。例えば、植物のポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素としてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)、スペルミジン合成酵素(SPDS)、スペルミン合成酵素(SPMS)等が知られている。これらのポリアミン代謝関連酵素をコードするポリアミン代謝関連遺伝子については植物から既に幾つか単離されている。ADC遺伝子はエンバク(Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990)、トマト(Plant Physiol., 103, 829-834, 1993)、シロイヌナズナ(Plant Physiol., 111, 1077-1083, 1996)、エンドウ(Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995)、ODC遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)(Biocem. J., 314, 241-248, 1996)、SAMDC遺伝子はジャガイモ(Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994)、ホウレンソウ(Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995)、タバコ、SPDS遺伝子はシロイヌナズナ(Plant cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998)等から単離されている。さらに、幾つかのポリアミン代謝関連酵素遺伝子についてはモデル植物への導入が試みられており、初期の生育における塩ストレス耐性が調べられているが、イモ類については報告されていない。
【0013】
このような状況下に、本発明者らはイモ類のストレス耐性を改良するために鋭意検討した結果、ストレス耐性の改良において、特にポリアミンであるスペルミジンやスペルミン含量が重要であることを見いだし、実際に植物組織からスペルミジンやスペルミン生合成に関わるポリアミン代謝関連遺伝子(SPDS、SAMDC、ADC)を単離、同定した。さらに、該遺伝子をイモ類に導入して過剰発現させることで、ポリアミン代謝を操作してポリアミン濃度を変化させることによって、種々のストレス耐性のパラメーターが改良され、生産性や形質が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
1. 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を安定に保持し、且つ該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて少なくとも1種のストレス耐性が改良されたイモ類及びその子孫。
20. 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を安定に保持し、且つ該核酸配列を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有するイモ類を作出する方法。
22. 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有するイモ類を作出する方法。
38. 以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞から、該核酸配列を有していない植物に比べて改良されたストレス耐性を有するイモ類を再生する
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する形質が固定されたイモ類の作出方法。
39. 以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列の抑制因子を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞からカルスを誘導する
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する形質が固定されたカルスの作出方法。
40. 請求項20〜39に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫することを特徴とする比較対照イモ類に比べてストレスが改良されたイモ類の製造方法。
41. 請求項20〜40に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類から有用物質を分離する工程
を包含するイモ類有用物質の製造方法。
42. 請求項20〜40に記載の方法により得られたイモ類を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
を包含するデンプンの製造方法。
43. 請求項20〜40に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
該デンプンを生分解性プラスチックに変換する工程
を包含する生分解性プラスチックの製造方法。
45. 以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換すること、
(2)該形質転換細胞から、該核酸配列を有していない植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有するイモ類を再生すること
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有する形質が固定されたイモ類の作出方法。
46. 以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列の抑制因子を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞からカルスを誘導する
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有する形質が固定されたカルスの作出方法。
47. 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を安定に保持し、且つ該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照イモ類に比べて生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさが向上したイモ類の作出する方法。
48. 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有するイモ類を作出する方法。
49. 請求項43〜46に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類から有用物質を分離する工程
を包含するイモ類有用物質の製造方法。
50. 請求項45〜48に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
を包含するデンプンの製造方法。
51. 請求項45〜48に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
該デンプンを生分解性プラスチックに変換する工程
を包含する生分解性プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のストレス耐性が改良されたイモ類は、環境ストレスを受ける地域のみならず、環境ストレスを受けない地域であっても予想できない環境ストレスに対処するため使用(生育)されるものであるが、環境ストレスを受ける地域にのみ、専ら使用されるものであってもよい。
【0016】
本発明により、イモ類の種々の環境ストレス耐性を改良することができ、イモ類の生育過程において遭遇する様々な環境ストレスによる障害の回避や生長抑制を軽減することができ栽培の安定化、生産性の向上、栽培地域の拡大などが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において「ストレス」とは、環境からうけるあらゆるストレスで、例えば高温、低温、低pH、低酸素、酸化、塩、浸透圧、乾燥、水、冠水、カドミウム、銅、オゾン、大気汚染、紫外線、強光、弱光、病原体、病原菌、害虫、除草剤などを指す。
本発明において、生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさが改良ないし向上されるとは、収量、1植物当たりの塊根もしくは塊茎の数と大きさ、単位重量当たりの有用物質(サツマイモデンプン、ジャガイモデンプン、天然色素など)の量の増大、生育期間の短縮等が挙げられる。
【0018】
本発明で得られるイモ類及びその子孫は、栽培環境(例えばストレス)に左右されずポリアミンの発現量が増大し、種々のストレス耐性を改良することができる。
【0019】
本明細書において、「イモ類」とは、サツマイモ及びジャガイモを意味する。
ポリアミン量を調節する核酸配列としては、外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子または内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子が挙げられる。外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子は植物体中のポリアミン量を増大させることができ、内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子は植物体中のポリアミン量を減少と増大させることができる。
本発明において「該ポリアミン量を調節する核酸配列を有していない比較対照植物」、とは該核酸配列(例えば外因性のポリアミン代謝関連酵素遺伝子又は内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子)を導入する前のあらゆる植物を意味する。従って、いわゆる野生種のほか、通常の交配によって樹立された栽培品種、それらの自然または人工変異体、並びにポリアミン代謝関連酵素遺伝子以外の外因性遺伝子を導入されたトランスジェニック植物などをすべて包含する。
【0020】
本発明で言うところの「ポリアミン」は生物体内に普遍的に存在する一般的な天然物であり、第一級アミノ基を2つ以上もつ脂肪族炭化水素化合物である。例えば、1,3−ジアミノプロパン、プトレシン、カダベリン、カルジン、スペルミジン、ホモスペルミジン、アミノプロピルカダベリン、テルミン、スペルミン、テルモスペルミン、カナバルミン、アミノペンチルノルスペルミジン、N,N−ビス(アミノプロピル)カダベリン、ホモスペルミン、カルドペンタミン、ホモカルドペンタミン、カルドヘキサミン、ホモカルドヘキサミンなどが挙げられる。
ポリアミン代謝関連酵素遺伝子
本発明において「ポリアミン代謝関連酵素遺伝子」とは、植物におけるポリアミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子であり、例えば代表的なポリアミンであるプトレシンについてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子とオルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、スペルミジンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子とスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、スペルミンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子とスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子が関与し、律速になっていると考えられている。
【0021】
アルギニン脱炭酸酵素(ADC:arginine decarboxylase EC4.1.1.19.)はL−アルギニンからアグマチンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。オルニチン脱炭酸酵素(ODC:ornithine decarboxylase EC4.1.1.17.)はL−オルニチンからプトレシンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC:S-adenosylmethionine decarboxylase EC4.1.1.50.)はS−アデノシルメチオニンからアデノシルメチルチオプロピルアミンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。スペルミジン合成酵素(SPDS:spermidine synthase EC2.5.1.16.)はプトレシンとアデノシルメチルチオプロピルアミンからスペルミジンとメチルチオアデノシンを生成する反応を触媒する酵素である。
【0022】
これらの遺伝子は、いずれの由来であってもいいが、例えば、種々の植物から単離することができる。具体的には、双子葉植物、例えばウリ科;ナス科;シロイヌナズナ等のアブラナ科;アルファルファ、カウピー(Vigna unguiculata)等のマメ科;アオイ科;キク科;アカザ科;ヒルガオ科からなる群から選ばれたもの、又は単子葉植物、例えばイネ、小麦、大麦、トウモロコシ等のイネ科などが含まれる。好ましくは、ウリ科植物、より好ましくはクロダネカボチャがよい。
【0023】
本発明の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を単離する植物組織としては種子形態、または生育過程にあるものである。生育中の植物は全体、あるいは部分的な組織から単離することができる。単離することができる部位としては、特に限定はされないが、好ましくは植物の全樹、蕾、花、子房、果実、葉、茎、根などである。さらに好ましくはストレス抵抗性を示す部位である。
本発明において使用されるポリアミン代謝関連酵素遺伝子の好ましい例として、スペルミジン合成酵素遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素遺伝子を挙げることができる。具体的には、
・配列番号1に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号3に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号5に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列を有するDNA、
が挙げられる。さらに、
・該上記いずれかの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を有し、且つ該配列と同等のポリアミン代謝関連酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。更に、
・該上記いずれかの配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり且つ該配列と同等のポリアミン代謝関連酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。
ここでいう「ストリンジェント条件」とは、特定ポリアミン代謝関連酵素遺伝子配列にコードされるポリアミン代謝関連酵素と同等のポリアミン代謝関連酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列のみが該特定配列とハイブリット(いわゆる特異的ハイブリット)を形成し、同等の活性を有しないポリペプチドをコードする塩基配列は該特定配列とハイブリット(いわゆる非特異的ハイブリット)を形成しない条件を意味する。当業者は、ハイブリダイゼーション反応および洗浄時の温度や、ハイブリダイゼーション反応液および洗浄液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。具体的には、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する条件が、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるが、これに限定されるものではない。
ここでいう「1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列」とは、一般的に生理活性を有するタンパク質のアミノ酸配列において1個もしくは複数のアミノ酸が置換、削除、挿入または付加された場合であっても、その生理活性が維持される場合があることは当業者において広く認識されている。本発明にはこのような修飾が加えられ、かつポリアミン代謝関連酵素をコードする遺伝子も本発明の範囲に含まれる。例えば、polyAテールや5’、3’末端の非翻訳領域が「欠失」されてもよいし、アミノ酸を欠失するような範囲で塩基が「欠失」されてもよい。また、フレームシフトが起こらない範囲で塩基が「置換」されてもよい。また、アミノ酸が付加されるような範囲で塩基が「付加」されてもよい。但し、そのような修飾があっても、ポリアミン代謝関連酵素活性を有することが必要である。好ましくは、「1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された遺伝子」がよい。
このような改変されたDNAは例えば、部位特異的変異法(Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, 6487-6500, 1982)等によって、特定の部位のアミノ酸が置換、削除、挿入、付加されるように本発明のDNAの塩基配列を改変することによって得られる。
本発明における「アンチセンス遺伝子」とはポリアミン代謝関連酵素遺伝子の塩基配列に相補的な配列を有する遺伝子を意味する。アンチセンスDNAは、例えば配列番号1、3、5の塩基配列に相補的なものであり、アンチセンスRNAはそれらから産生されるものである。
内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子
該抑制因子は、該遺伝子の発現を抑制するものであれば特に制限されず、例えば該遺伝子及びその上流又は下流から選ばれる配列のアンチセンスDNAまたは二本鎖RNA(dsRNA)、RNAiが例示される。該アンチセンスDNAは、該遺伝子のイントロンまたはエクソン、該遺伝子のプロモーターを含む5‘上流側の調節領域または終止コドンの下流側であって、遺伝子発現に影響する領域のいずれかに相補的であればよい。アンチセンスDNAの長さは、少なくとも20塩基、好ましくは少なくとも100塩基、より好ましくは少なくとも300塩基、特に少なくとも500塩基を有する。該アンチセンスDNAの転写産物は、内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子のmRNAとハイブリダイズするか、内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子或いはその上流又は下流の配列の非コーディング領域(例えばプロモーター、イントロン、転写終結因子)にハイブリダイズする。RNAiは、標的遺伝子に対するセンス配列と、標的遺伝子に対するアンチセンス配列を有するRNAから構成され、該センス配列とアンチセンス配列は2本のRNAに各々含まれて2本鎖RNAとして機能してもよく、1本のRNAに含まれて2重鎖部分とそれらをつなぐループ配列を有する1つのRNA分子として機能してもよい。
【0024】
例えば、特定のポリアミンをさらに変換する内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を抑制することで、該特定のポリアミンを蓄積させることができる。


ストレス耐性ないし生産性、塊根もしくは塊茎の数及び大きさが改良されたイモ類及びその子孫
本発明において、「ストレス」としては、上述のごとく、高温、低温、低pH、低酸素、酸化、塩、浸透圧、乾燥、水、冠水、カドミウム、銅、オゾン、大気汚染、紫外線、強光、弱光、病原体、病原菌、害虫、除草剤などの環境から受けるストレスが例示される。この中で「高温ストレス」とは、植物の生育適温度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、高温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「低温ストレス」とは、植物の生育適温度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、低温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「塩ストレス」とは、植物の生育適塩濃度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、塩ストレスを受けた植物は過剰な塩が細胞内に流入して徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「乾燥ストレス」とは、植物の生育適水分濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、乾燥ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「水ストレス」とは、植物の生育適水分濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、水ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「弱光ストレス」とは、植物の生育適光強度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、弱光ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。
本発明において、「ストレス耐性が改良されたイモ類」および「改良されたストレス耐性を有するイモ類」、「改良された生産性、塊根もしくは塊茎の数、大きさを有するイモ類」とは、外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入することによって、導入前に比してストレス耐性(抵抗性)、生産性、塊根もしくは塊茎の数、大きさが付与若しくは向上したイモ類をいう。ポリアミンは種々の環境ストレス(高温、低pH、低酸素、酸化、浸透圧、乾燥、カドミウム、オゾン、大気汚染、紫外線、病原体、害虫など)耐性、生産性等に関わっていることから、これらの様々な環境ストレス抵抗性が改良される。例えば、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を植物に導入することにより、低温ストレス抵抗性(耐性)、塩ストレス抵抗性(耐性)、除草剤ストレス抵抗性(耐性)、大気汚染ストレスに対する抵抗性(耐性)、病原菌ストレスに対する抵抗性(耐性)、乾燥ストレスに対する抵抗性(耐性)、若しくは浸透圧ストレスに対する抵抗性(耐性)、有用物質ないし塊根もしくは塊茎の収量、数などが、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に比べて向上した植物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
具体的には、「塩ストレス耐性が改良されたイモ類」とは、イモ類の生育過程において遭遇する塩ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができたイモ類である。「乾燥ストレス耐性が改良されたイモ類」とは、イモ類の生育過程において遭遇する塩ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができたイモ類である。「水ストレス耐性が改良されたイモ類」とは、イモ類の生育過程において遭遇する水ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができたイモ類である。「低温ストレス耐性が改良されたイモ類」とは、イモ類の生育過程において遭遇する低温ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができたイモ類である。「弱光ストレス耐性が改良されたイモ類」とは、イモ類の生育過程において遭遇する弱光ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができたイモ類である。「高温ストレス耐性が改良されたイモ類」とは、イモ類の生育過程において遭遇する高温ストレスによる生長抑制や傷害を回避若しくは低減することができたイモ類である。これによって、栽培の安定化、生産性、収量の向上、栽培地域、面積の拡大などが期待できる。さらに、イモ類の生産性や収量が高まることによって、イモ類から得られる種々の有用物質(澱粉、天然色素等)の生産性、塊根もしくは塊茎の数及び大きさの向上も期待することができる。
【0026】
本発明のイモ類には、植物体全体(全樹)に限らず、そのカルス、種子、あらゆる植物組織、葉、茎、蔓、根、塊根もしくは塊茎、花などが含まれる。更にその子孫も本発明のイモ類に含まれる。
【0027】
本発明において「イモ類及びその子孫から得られる有用物質」とは、外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入することによって、導入前に比して生産性が向上した植物およびその子孫で生産された有用物質をさし、有用物質としては例えば、アミノ酸、油脂、デンプン、タンパク質、フェノール、ポリフェノール、炭化水素、セルロース、天然ゴム、色素、酵素、抗体、ワクチン、医薬品、生分解性プラスチックなどが含まれる。
【0028】
イモ類からはサツマイモデンプン、ジャガイモデンプン等の糖質が大量に得られ、該糖質は生分解性プラスチックの製造原料とすることができる。生分解性プラスチックとしては、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ(D,L,DL)乳酸(ポリラクチド)、ポリグリコール酸(ポリグリコシド)、酢酸セルロース、キトサン/セルロース/デンプン、変性デンプンなど、或いはこれらの2元共重合体、3元共重合体が例示される。これらの生分解性プラスチックは公知であり、公知の発酵法、化学合成法などを用いて製造することができる。
【0029】
本発明の植物は、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に、遺伝子工学的手法により外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が導入され、且つ安定に保持されたものである。ここで「安定に保持される」とは、少なくともポリアミン代謝関連酵素遺伝子が導入された当代の植物体で該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が発現し、それによってストレス耐性が改良するのに十分な期間、該植物細胞内に保持されることをいう。従って、現実的には、該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子は宿主植物の染色体上に組み込まれるのが好ましい。該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子は次世代に安定に遺伝することがより好ましい。
【0030】
また、ここで「外因性」とは、植物が生来有しておらず、外部より導入されたものを意味する。従って、本発明の「外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子」は、遺伝子操作により外部より導入される、宿主植物と同種の(すなわち、該宿主植物由来の)ポリアミン代謝関連酵素遺伝子であってもよい。コドン使用(codon usage)の同一性を考慮すれば、宿主由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子の使用もまた好ましい。
【0031】
外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子はいかなる遺伝子工学的手法によって植物に導入されてもよく、例えば、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有する異種植物細胞とのプロトプラスト融合、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を発現するように遺伝子操作されたウイルスゲノムを有する植物ウイルスによる感染、あるいはポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含有する発現ベクターによる宿主植物細胞の形質転換が挙げられる。
【0032】
好ましくは、本発明の植物は、植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換することにより得られる、トランスジェニック植物である。
【0033】
植物中で機能し得るプロモーターとしては、例えば、植物細胞で構成的に発現するカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子(NOS)プロモーター、オクトピン合成酵素遺伝子(OCS)プロモーター、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)遺伝子プロモーター、カルコンシンターゼ(CHS)遺伝子プロモーター等を挙げることができる。さらにこれらに限定されない公知の植物プロモーターも挙げられる。
【0034】
35Sプロモーターのような器官全体に恒常的に発現させるプロモーターだけでなく、器官または組織特異的プロモーターを用いれば、特定の器官、又は組織だけに目的遺伝子を発現させることができ、特定の器官又は組織だけストレス耐性を改良することができる。例えば、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子と植物が低温に遭遇した時だけ転写を起こさせ得るプロモーター(例えば、BN115プロモーター:Plant physiol.,106, 917-928, 1999)を用いることによって、低温時のみ植物体のポリアミン代謝を制御し低温ストレス抵抗性を改良することができる。さらに、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子と植物が乾燥に遭遇した時だけ転写を起こさせ得るプロモーター(例えば、Atmyb2プロモーター:The Plant Cell, 5, 1529-1539, 1993)を用いることによって、乾燥時のみ植物体のポリアミン代謝を制御し乾燥ストレス抵抗性を改良することができる。
【0035】
また、器官、または組織特異的なプロモーターを用いれば、特定の器官、又は組織だけに目的遺伝子を発現させることができる。例えば、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子と塊根(サツマイモ)もしくは塊茎(ジャガイモ)に特異的に働くプロモーターを用いることによって、塊根もしくは塊茎のみでストレス耐性を改良することができる。時期特異的なプロモーターを用いれば、特定の時期だけに目的遺伝子を発現させることができ、特定の時期だけにストレス耐性を改良することができる。例えば、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子と栄養生長期に働くプロモーターを用いることによって、栄養生長期のみでストレス耐性を改良することができる。
【0036】
本発明の発現ベクターにおいて、外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子は、植物中で機能し得るプロモーターによりその転写が制御されるように、該プロモーターの下流に配置される。該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の下流には、植物で機能し得る転写終結シグナル(ターミネーター領域)がさらに付加されていることが好ましい。例えば、ターミネーターNOS(ノパリン合成酵素)遺伝子等が挙げられる。
【0037】
本発明の発現ベクターは、エンハンサー配列等のシス調節エレメントをさらに含んでもよい。また、該発現ベクターは、薬剤耐性遺伝子マーカーなどの形質転換体選抜のためのマーカー遺伝子、例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、ホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(PAT)遺伝子、グリフォセート耐性遺伝子等をさらに含んでもよい。選択圧をかけない条件では、組み込まれた遺伝子が脱落する現象が起こる場合があるので、除草剤耐性遺伝子をベクター上で共存させておけば、栽培中該除草剤を使用することにより、常に選択圧がかかった条件を実現できるという利点もある。
【0038】
さらに、大量調製および精製を容易にするために、該発現ベクターは、大腸菌での自律複製を可能にする複製起点および大腸菌での選択マーカー遺伝子(例えばアンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等)を含むことが望ましい。本発明の発現ベクターは、簡便には、pUC系またはpBR系の大腸菌ベクターのクローニング部位に上記ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の発現カセットと必要に応じて選択マーカー遺伝子を挿入することにより構築することができる。
【0039】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)やアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacteriumu rhizogenes)による感染を利用して外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入する場合には、該細菌が保持するTiまたはRiプラスミド上のT−DNA領域(植物染色体に転移する領域)内に該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子発現カセットを挿入して用いることができる。現在、アグロバクテリウム法による形質転換の標準的な方法ではバイナリーベクター系が使用される。T−DNA転移に必要な機能は、T−DNA自身とTi(またはRi)プラスミドの両者から独立に供給され、それぞれの構成要素は別々のベクター上に分割できる。バイナリープラスミドはT−DNAの切り出しと組込みに必要な両端の25bpボーダー配列を有し、クラウンゴール(または毛状根)を引き起こす植物ホルモン遺伝子が除去されており、同時に外来遺伝子の挿入余地を与えている。このようなバイナリーベクターとして、例えばpBI101やpBI121(Clontech社製)などが市販されている。なお、T−DNAの組込みに作用するVir領域は、ヘルパープラスミドと呼ばれる別のTi(またはRi)プラスミド上にあってトランスに作用する。
【0040】
植物の形質転換には、従来公知の種々の方法を使用することができる。例えば、セルラーゼやヘミセルラーゼなどの細胞壁分解酵素処理により、植物の細胞からプロトプラストを単離し、該プロトプラストと上記ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の発現カセットを含む発現ベクターとの懸濁液にポリエチレングリコールを加えてエンドサイトーシス様の課程で該発現ベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(PEG法)、ホスファチジルコリン等の脂質膜小胞内に超音波処理等により発現ベクターを入れ、該小胞とプロトプラストをPEG存在下に融合させる方法(リポソーム法)、ミニセルを用いて同様の課程で融合させる方法、プロトプラストと発現ベクターの懸濁液に電気パルスを印加して外液中のベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(エレクトロポレーション法)が挙げられる。しかしながら、これらの方法は、プロトプラストから植物体へ再分化させる培養技術を必要とする点で煩雑である。細胞壁を有するインタクトな細胞への遺伝子導入手段としては、マイクロピペットを細胞に刺し込み、油圧やガス圧でピペット内のベクターDNAを細胞内に注入するマイクロインジェクション法、およびDNAをコーティングした微小金粒子を火薬の爆発やガス圧を利用して加速し、細胞内に導入するパーティクルガン法等の直接導入法と、アグロバクテリウムによる感染を利用した方法とがある。マイクロインジェクションは操作に熟練を要し、また、扱える細胞数が少ないという欠点がある。従って、操作の簡便性を考慮すれば、アグロバクテリウム法および、パーティクルガン法により植物を形質転換することが好ましい。パーティクルガン法は、栽培中の植物の頂端分裂組織に直接遺伝子を導入することが可能である点さらに有用である。また、アグロバクテリウム法において、バイナリーベクターに植物ウイルス、例えばトマトゴールデンモザイクウイルス(TGMV)等のジェミニウイルスのゲノムDNAをボーダー配列の間に同時に挿入することにより、栽培中の植物の任意の部位の細胞に注射筒などを用いて菌懸濁液を接種するだけで、植物体全体にウイルス感染が拡がり、同時に目的遺伝子も植物体全体に導入される。これらの方法は、当該分野に置いて周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当該者により適宜選択され得る。
本発明において「生産性ないし形質が改良される」とは、生育期間が短縮すること(生産性の改良)、植物の該器官(組織)に関わる形質(ジャガイモは塊茎の数や大きさの増大、サツマイモは塊根の数や大きさの増大)が改良されることをいう。
【0041】
上記に示した方法で作製された形質転換植物は、サザン解析やノーザン解析でポリアミン代謝関連酵素遺伝子の遺伝子発現解析、ポリアミン量の分析、ストレス耐性の評価を行うことができる。
【0042】
例えば、ポリアミンの定量は、0.05〜10gの試料をサンプリングして、5%過塩素酸水溶液を加えて、ポリアミンを抽出する。抽出したポリアミンの定量はダンシル化またはベンゾイル化等で標識した後、蛍光又はUV検出器を接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて内部標準法で分析することができる。
【0043】
例えば、低温ストレス耐性は、0〜20℃に1〜10日間低温処理後、25〜30℃で生育させて生育状況や低温傷害等を調べることにより評価することができる。15℃〜23℃でイモ類を全期間生育させて生育状況や塊根もしくは塊茎の数や生体重(収量)を調べることにより低温ストレス耐性を評価することができる。高温ストレス耐性は、35〜50℃に1〜10日間低温処理後、25〜30℃で生育させて生育状況や高温傷害等を調べることにより評価することができる。35℃〜45℃でイモ類を全期間生育させて生育状況や塊根もしくは塊茎の数や生体重(収量)を調べることにより高温ストレス耐性を評価することができる。塩ストレス耐性は、10〜300mM NaClを含んだ培地中で、25〜30℃で生育させて生育状況や塩ストレス障害等を調べることにより評価できる。10〜150mM NaClを含んだ培養土でイモ類を全期間生育させて生育状況や塊根もしくは塊茎の数や生体重(収量)調べることにより塩ストレス耐性を評価できる。乾燥・水ストレス耐性は、水の供給を停止させて停止後の生育状況や障害程度を調べることにより評価することができる。潅水制限した培養土でイモ類を全期間生育させて生育状況や塊根もしくは塊茎の数や生体重(収量)調べることにより乾燥・水ストレスを評価できる。

以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
なお、以下の実施例ではイモ類としてジャガイモを使用した例を記載するが、ジャガイモについても同様に収量が増大する。
実施例1:植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子のクローニング
WO02/23974の実施例2の記載に従い、完全長のクロダネカボチャ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(FSPD1;配列番号1,2)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子(FSAM24;配列番号3,4)、アルギニン脱炭酸酵素遺伝子を(FADC76;配列番号5,6)を得た。

実施例2:トランスジェニックサツマイモの作製と解析
(1)発現コンストラクトの作製
配列番号1に示したポリアミン代謝関連遺伝子FSPD1の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むように、XhoIで切断し、グラスミルク法で精製した。次にpGEM−7Zf(Promega社製)をXhoI切断して、FSPD1断片をセンスとアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。pGEM−7Zfのマルチクローニングサイトの制限酵素XbaIとKpnIで再度FSPD1断片を切り出して、35Sプロモーターが連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FSPD1+/−と命名した。その発現コンストラクトの構造を図1に示した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FSPD1+/−と命名した。
配列番号3に示したポリアミン代謝関連遺伝子FSAM24の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むように、NotIで切断し、それぞれ平滑末端化した。これらの断片を平滑末端化した35Sプロモーターが連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FSAM24+/−と命名した。その発現コンストラクト(センス方向のみ)の構造を図1に示した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FSAM24+/−と命名した。
配列番号5に示したポリアミン代謝関連遺伝子FADC76の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むように、NotIで切断し、それぞれ平滑末端化した。これらの断片を平滑末端化した35Sプロモーターが連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FADC76+/−と命名した。その発現コンストラクト(センス方向のみ)の構造を図1に示した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FADC76+/−と命名した。
(2)プラスミドのアグロバクテリウムへの導入
(1)で得られた大腸菌pBI35S−FSPD1+/−、大腸菌pBI35S−FSAM24+/−、大腸菌pBI35S−FADC76+/−とヘルパープラスミドpRK2013を持つ大腸菌HB101株を、それぞれ50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で1晩、アグロバクテリウムEHA101株を50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で2晩培養した。各培養液1.5mlをエッペンドルフチューブに取り集菌したのち、LB培地で洗浄した。これらの菌体を1mlのLB培地に懸濁後、3種の菌を100μlずつ混合し、LB培地寒天培地にまき、28℃で培養してプラスミドをアグロバクテリウムに接合伝達(三者接合法)させた。1から2日後に一部を白金耳でかきとり、50mg/lカナマイシン、20mg/lハイグロマイシン、25mg/lクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に塗布した。28℃で2日間培養した後、単一コロニーを選択した。得られた形質転換体をEHA101/pBI35S−FSPD1+/−、EHA101/pBI35S−FSAM24+/−、EHA101/pBI35S−FADC76+/−と命名した。
(3)サツマイモの形質転換
サツマイモ高系14号(石川県立農業短期大学農業資源研究所島田多喜子教授より提供、以下「高系14号」又は「野生株」という)を鉢植えにて通常の栽培管理により栽培し、茎頂を含む5cm程度の茎先端部数十本を採取した。これを滅菌した300mlビーカーに入れた70%エタノール150mlに2分浸漬の後、同様に滅菌したビーカーに入れた滅菌液(5%次亜塩素酸ナトリウム、0.02%Triton X−100)150mlに2分浸漬して滅菌を行った。滅菌した茎先端部は、滅菌ビーカーに入れた滅菌水で3回洗浄を行った。洗浄後、実体顕微鏡下で無菌的に茎頂分裂組織を含む0.5mm程度の組織を摘出した。これを胚性(Embryogenic)カルス誘導培地〔4F1プレート:LS培地(1.9g/l KNO3、1.65g/l NH4NO3、0.32g/l MgSO4・7H2O、0.44g/l CaCl2・2H2O、0.17g/l KH2PO4、22.3mg/l MnSO4・4H2O、8.6mg/l ZnSO4・7H2O、0.025mg/l CuSO4・5H2O、0.025mg/l CoCl2・6H2O、0.83mg KI、6.2mg H3BO3、27.8mg FeSO4・7H2O、37.3mg/l Na2・EDTA、100mg/l myo−イノシトール、0.4mg/l 塩酸チアミン)、1mg/l 4−fluorophenoxyacetic acid(4FA)、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8〕上に置床し、植物インキュベーター(サンヨー社製、MLR−350HT)中で26℃、暗黒条件下にて培養した。約1ヶ月後、増殖した組織より植物体への再分化能を持つ胚性カルスを選抜した。選抜した胚性カルスは以後、1ヶ月毎に新しい4F1プレートに移植し、増殖させた。アグロバクテリウムの感染は形質転換アグロバクテリウム株EHA101/pBI35S−FSPD1+/−、EHA101/pBIC2−FSPD1+/−(CaMV35Sプロモーターを西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼプロモーターに置き換えたもの)、EHA101/pBI35S−FSAM24+/−、EHA101/pBI35S−FADC76+/−を50mg/lカナマイシン及び50mg/lハイグロマイシンを含むLB寒天培地にて27℃、2晩培養後、菌体を飯粒2粒程度掻き取り、感染培地(LS培地、20mg/l アセトシリンゴン、1mg/l 4FA、30g/l ショ糖、pH5.8)50mlに懸濁し、100rpm、26℃、暗黒条件下にて1時間振とうした。この菌体懸濁液を、滅菌したステンレスネット製バスケットを入れた300ml滅菌ビーカーに移した。ビーカーに2週間〜3週間培養した胚性カルスをこのビーカーのバスケットに入れて2分間浸したのち、2枚重ねた滅菌濾紙上にバスケットごと乗せて余分な水分を除き、共存培養培地(4F1A20プレート:LS培地、1mg/l 4FA、20mg/l アセトシリンゴン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移して、22℃、暗黒条件下にて3日間共存培養した。3日間共存培養した胚性カルスを、除菌液(滅菌水にカルベニシリンを終濃度500mg/lとなるように加えたもの)50mlを入れた滅菌したステンレスバスケット入り300mlビーカーのバスケットに移し、ピンセットでバスケットをつまみ、数分間良く洗浄した。次に胚性カルスを、バスケットごと除菌液を入れた300ml滅菌ビーカーに移し、再び洗浄を行った。同じ操作を再度繰り返した後、滅菌濾紙上で余分な水分を除き、選抜培地(4F1HmCarプレート:LS培地、1mg/l 4FA、25mg/l ハイグロマイシン、500mg/l カルベニシリン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に並べて26℃、暗黒条件下にて培養した。形質転換カルスの選択は2週間培養した胚性カルスを、以後2週間毎に新しい4F1HmCarプレートに移植し、培養した。非形質転換カルスは褐変したが、一部の形質転換された細胞は淡黄色の胚性カルスを形成した。形質転換された胚性カルスは、選抜培地置床後60日で、体細胞胚形成培地(A4G1HmCarプレート:LS培地、4mg/l ABA、1mg/l GA3、25mg/l ハイグロマイシン、500mg/l カルベニシリン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移植し26℃、弱光(30〜40μmol/m2/s)、全日長条件下にて2週間培養の後、植物体形成培地(A0.05HmCarプレート:LS培地、0.05mg/l ABA、25mg/l ハイグロマイシン、500mg/l カルベニシリン、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移植し、同条件で培養した。以後2週間毎に新しいA0.05HmCarプレートに移植した。形質転換された細胞は緑色を呈する胚性カルス由来体細胞胚を形成するので、これを植物生育培地(0Gプレート:LS培地、30g/l ショ糖、3.2g/l ゲランガム、pH5.8)に移植し、シュートを形成させた。得られた形質転換体について導入遺伝子の確認と発現解析を行った。具体的には導入遺伝子の確認については、ゲノムDNAを調整した後に、PCR法とサザンハイブリダーゼーションを行った。導入遺伝子の発現解析は、RNAを調製した後に、ノーザンブロッティングを行った。その結果、目的遺伝子が導入されて発現している形質転換サツマイモを得ることができた。
(4)ポリアミンの解析
(3)で作製した形質転換サツマイモについて、PCR(またはサザン解析)とノーザン解析による目的遺伝子の導入確認でセルラインの選抜を行い、その結果、確実にポリアミン代謝関連酵素遺伝子が導入され、且つ該遺伝子を安定的に発現している系統についてポリアミン分析を行った。FSPD1がセンス方向(+)で導入されているセルライン、TSP−SS−1、TSP−SS−2、TSP−SS−3、TSP−CS−1、TSP−CS−3、TSP−CS−4を選抜し、TSP−SS−1、TSP−SS−2、TSP−SS−3はプロモーターとしてCaMV35Sプロモーターが導入されている系統、TSP−CS−1、TSP−CS―3、TSP−CS−4は西洋わさび由来のペルオキシダーゼプロモーター(C2プロモーター)が導入されている系統である。FSPD1がアンチセンス方向(−)で導入されているセルライン、TSP−SA−1、TSP−SA−2を選抜し、いずれもCaMV 35Sプロモーターが導入されている系統である。FSAM24がセンス方向(+)で導入されているセルライン、TSP−SM−1、TSP−SM−2、TSP−SM−5を選抜し、TSP−SM−1、TSP−SM−2、TSP−SM−5はプロモーターとしてCaMV35Sプロモーターが導入されている系統である。同時に栽培を行った野生株(WT)と形質転換体(TSP)から約0.3〜0.9gの若葉をサンプリングして凍結保存した。サンプリングした試料に希釈内部標準液(1,6−hexanediamine、内部標準量=7.5又12nmol)と5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり5〜10ml)を加え、オムニミキサーを用いて室温下で十分に磨砕抽出した。磨砕液を、4℃・35,000×gで20分間遠心分離して上清液を採取し本液を遊離型ポリアミン溶液とした。スクリューキャップ付きのマイクロチューブに400μlの遊離型ポリアミン溶液、200μlの飽和炭酸ナトリウム水溶液、200μlのダンシルクロライド/アセトン溶液(10mg/ml)を加えて軽く混和した。チューブの栓をしっかりと閉めたのちアルミ箔で覆い、60℃のウォーターバスで1時間加温してダンシル化を行った。チューブを放冷した後、プロリン水溶液(100mg/ml)を200μl加えて混和した。アルミ箔で覆ってウォーターバスで30分間再加温した。放冷後、窒素ガスを吹き付けてアセトンを除いた後に、600μlのトルエンを加えて激しく混和した。チューブを静置して2相に分かれた後に、上層のトルエン層を300μlマイクロチューブに分取した。分取したトルエンに窒素ガスを吹き付けてトルエンを完全除去した。チューブに200μlのメタノールを加えてダンシル化遊離型ポリアミンを溶解させた。プトレシン、スペルミジン、スペルミンの遊離型ポリアミン量の定量は蛍光検出器(励起波長:365nm・発光波長:510nm)を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法で分析した。HPLCカラムはμBondapak C18(Waters社製:027324、3.9×300mm、粒子径10μm)を使用した。試料中のポリアミン含量は標準液と試料のHPLCチャートから、それぞれ各ポリアミンと内部標準のピーク面積を求めて算出した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、明らかなようにポリアミン代謝関連酵素遺伝子をセンス方向に導入したセルラインは、プトレシン含量、スペルミジン含量、スペルミン含量が野生株(WT)より有意に増加し、総ポリアミン含量も野生株(WT)より有意に増大していることが明らかとなった。特にスペルミジンとスペルミン含量の増加が顕著であった。さらに、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子をアンチセンス方向に導入したセルラインは、プトレシン含量は増加したが、特にスペルミジン含量とスペルミン含量が野生株(WT)より有意に減少し、総ポリアミン含量も野生株(WT)より有意に減少していることが明らかとなった。以上の結果から、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子をサツマイモにセンス方向又はアンチセンス方向で遺伝子導入することで、内性のポリアミン含量を増加又は減少させることが可能であることが明らかとなった。これらのことから、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を植物に遺伝子導入することで、ポリアミン代謝を操作してポリアミン含量を制御できることが示された。

実施例3:トランスジェニックサツマイモの種々のストレス耐性の評価
(1)高温及び低温ストレス耐性の評価
高温および低温ストレス耐性は、一定レベルの高温または低温ストレスに遭遇後の葉の光合成活性の大きさに基づいて評価した。FSPD1の発現解析やポリアミン分析の結果に基づき、FSPD1形質転換体系統の中から2系統(TSP-SS-1, TSP-SS-4)を選抜した。FSPD1形質転換体2系統と野生株(WT)の挿し穂を市販の培養土(サンサン床土)を詰めたプラスチック鉢に植え込んで発根させた。発根後、閉鎖系ガラス温室(気温22〜30℃、湿度55%、自然日長)で栽培した。主蔓に約20枚の葉が形成された10月上旬に、中位節から無作為に葉身を採取し、コルクボーラーで直径1.5 cmの葉片を調製した。葉片を種々のレベルの高温または低温に遭わせたのち、酸素電極を用いて25℃・1050 μmol m-2 s-1での正味光合成速度を測定した。採取直後の葉の光合成速度を対照とした。
高温ストレス耐性の評価として、葉への高温ストレスは二つの方法で与えた。一つの方法では、葉片を2枚のスライドグラスで挟み、弱い光の下で42、45、47、または49℃の水に5分間浸漬した。もう一つの方法では、スライドグラスで挟んだ葉片を44℃の水に2、4、6、または8分間浸漬した。その結果を図2と図3に示した。45℃に5分間遭遇した葉の正味光合成速度は、野生株では対照の76%に低下したが、TSP-SS-1では対照の95%が保持され。TSP-SS-4では対照より15%高い値であった。また、ストレス温度が47℃になると、野生株の正味光合成速度は負となったが、形質転換体のそれは正の値を示し、特にTSP-SS-4は対照の48%を維持していた。また、44℃に2分間遭わせたのちの正味光合成速度は、野生株では対照の75%に低下したが、形質転換体では対照より若干高かった。44℃に8分間遭わせると、野生株の正味光合成速度は対照の35%に低下したが、TSP-SS-1では57%,TSP-SS-4では75%に低下したのみであった。以上の結果から明らかなように、形質転換体は野生株に比べて光合成装置の高温感受性が小さかった。このことは、トランスジェニックサツマイモの光合成装置の高温ストレス耐性が向上していることを証明するものである。
低温ストレス耐性の評価として、湿った濾紙を敷いたシャーレに前記で述べたのと同じ方法で調製した野生株およびTSP-SS-1の葉片を入れ、20、15、または10℃に設定したインキュベーターに6時間置くことで行った。温度処理中、光強度220 μmol m-2 s-1の光(光源は蛍光灯)を照射した。対照は、採取直後の葉片の正味光合成速度とした。その結果を図4に示した。20℃に6時間置いたあとの正味光合成速度は、野生株、形質転換体とも対照の約97%であった。しかし、野生株の光合成装置は低温に敏感で、15℃では対照の79%に低下し、10℃では37%にまで低下した。これに比べると形質転換体の光合成装置は低温に鈍感で、15℃では対照の85%が維持され、10℃でも70%が維持されていた。なお、15℃以下の低温に遭遇した葉片では、低温遭遇中にH2O2濃度が増加したが、その程度は形質転換体のほうが小さかった。以上の結果は、トランスジェニックサツマイモの光合成装置は低温ストレスに対しても野生株よりかなり高い耐性を有することを示している。サツマイモにポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入することによって、サツマイモの高温および低温ストレス耐性が有意に増大することが明らかとなった。
(2)不良環境下(低温・弱光条件下)での栽培試験
形質転換体系統の中から系統(TSP-SS-1, TSP-SS-2, TSP-SS-4)を選抜した。形質転換体3系統と野生株(WT)の挿し穂(1系統当たり15〜20本)を市販の培養土(サンサン床土)を詰めたプラスチック鉢に植え込んで発根させた。発根後、閉鎖系ガラス温室(気温22〜25℃、湿度55%、自然日長)で5枚目の葉が完全展開するまで、約1ヶ月間均一に栽培した。その後、21〜22℃・光強度40 μmol m-2 s-1 PPFD(16時間日長)の不良環境条件に移し、その約3ヶ月後に塊根形成を調査した。調査時の塊根形成株率を図5、根姿を図6に示した(形質転換体は塊根を見やすくするために細根を取り除いた)。野生株では塊根は全く形成されなかった。一方、形質転換体では塊根が形成され、3系統の塊根形成株率は33、80および89%であった。同条件の不良環境下で約6ヶ月間栽培した再現性実験でも、同様な結果が得られており、野生株では全く塊根が形成されなかったが、形質転換体では塊根が形成され、塊根形成株率は系統により50〜83%を示した。
(3)各種ストレス環境下(塩・乾燥・水ストレス条件下)での栽培試験
形質転換体系統から2系統(TSP-SS-1, TSP-SS-4)を選抜した。形質転換体2系統と野生株(WT:高系14号)を供試して閉鎖系ガラス室で栽培実験を行った。1芽を付けた挿し穂を調製し、市販の床土(サンサン床土)に挿し穂して発根させた後、閉鎖系ガラス室(気温23℃/21℃、湿度55%、自然日長)で5枚目の葉が完全展開するまで育成した。 3週間後に、これらの苗から生育が揃った苗を選抜し、1系統あたり6個の20 Lの培養土(サンサン床土)を詰めた30 Lプランターに4株ずつ定植し(1処理区当たりのプランター数は2個)、閉鎖系ガラス室(設定気温23〜24℃/21〜22℃、湿度55%、自然日長)で栽培を始めた。肥料はプランター当たり硫酸カリウムを3.6 g、エコロング(14-12-14、100日型)を13.4 g施与した。土壌水分は全てのプランターにテンシオメーター(DM-8M、三商社製)を設置して測定した。ストレス処理は非ストレス区(対照区)、塩ストレス区、乾燥ストレス区とし、1処理区に2個のプランターを供試した。塩ストレス区は、定植時に培養土100 L当たり80 gのNaClを土壌全層に混和し、さらに定植1.5ヶ月目にも培養土100 L当たり40 gのNaClを追施した。NaCl濃度はプランター当たりで合計約21 mmol/Lとなった。塩ストレス処理は定植時から始めた。対照区と塩ストレス区の潅水は、土壌水分吸引圧がpF 2.3を潅水点とし、pFが圃場容水量(pF 1.5)にまで低下する量の水道水(1.5〜6 L/回・プランター)を潅水した。乾燥ストレス区は潅水制限により与え、pFが2.9になった時にプランター当たり0.75〜3 Lを潅水した。乾燥ストレス処理は、定植後の根の活着を考慮して定植1週間後から始めた。定植から約4ヶ月目(収穫期)に塊根の生体重と塊根数を調査した。ポリアミン分析については、収穫時の葉と塊根の遊離型ポリアミン含量を調べた。定植から約4ヶ月目の地下部(塊根)の生育(生体重)を図7、根姿を図8に示した。塊根生体重は、対照区の形質転換体では野生株より有意に大きく、1株当たりの塊根重は形質転換体が野生株より約40g大きかった。塩ストレス区の塊根生体重は、形質転換体では野生株より有意に大きく、1株当たりの塊根重は形質転換体が野生株より約60 g大きかった。乾燥ストレス区の塊根生体重は、形質転換体では野生株より有意に大きく、1株当たりの塊根重は形質転換体が野生株より約30g大きかった。さらに、塊根数の結果を表2に示した。形質転換体は、ストレス処理の有無に関係なく1株当たりの塊根数が2個多かった。形質転換体で野生株に比べて、明らかに塊根収量や塊根数が高まることが確認された。定植2ヶ月目と収穫時に葉と塊根中における遊離型ポリアミンの分析を行った。収穫時の結果を図9に示した。ストレス処理の有無に関係なく形質転換体の葉及び塊根では、野生株に比べて特にスペルミジン(Spd)含量が有意に約2倍高まっていた。処理区によっては形質転換体ではプトレシン(Put)、スペルミン(Spm)含量の増加が見られた。以上の結果から、非ストレス条件下やストレス条件下のいずれにおいても、サツマイモのポリアミンレベルを高めることで、塊根(根)の形態形成が改良されて塊根収量や塊根数が増加することが示された。次に塊根の主要な成分であるデンプンの含量を調べた。各株から大きさが揃った塊根を選抜して塊根の中央付近から約100g〜200gの塊根断片をサンプリングした。塊根断片を細断して500mlの蒸留水を加えてブレンダーミキサーで1.5分間粉砕した。粉砕液を75μmのふるいで濾過して濾過液を回収した。500mlの蒸留水でふるいを洗浄して濾過液を回収した。濾過液を数時間放置してデンプンを沈殿化させた。上澄み液を捨てて、500mlの蒸留水を加えて撹拌してデンプンを洗浄して放置(デンプンを沈殿化)した後、上澄み液を捨てた。この操作を3回以上繰り返してデンプンを十分に洗浄した。洗浄済みの沈殿化したデンプンを室温で2日間以上通風乾燥させた。乾燥デンプンを回収して重さを測定して生体重当たりのデンプン含量(%)を算出した。その結果、全ての処理区で野生株に比べて形質転換体では塊根生体重当たりのデンプン含量が高く、特に乾燥ストレス区では野生株のデンプン含量は12%であるのに対して形質転換体(TSP-SS-1, TSP-SS-4)は、2ラインとも17%と高かった。以上のことから、植物のポリアミンレベルを高めることで、塊根の主要な成分であるデンプン含量も増加することが明らかとなった。
【0046】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含む発現コンストラクトの構造を示す図である。
【図2】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との光合成装置の高温ストレス耐性の比較を示す図である。
【図3】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との光合成装置の高温ストレス耐性の比較を示す図である。
【図4】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との光合成装置の低温ストレス耐性の比較を示す図である。
【図5】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との塊根形成株率の比較を示す図である。
【図6】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との根姿の比較を示す写真である。
【図7】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との塊根収量の比較を示す図である。
【図8−1】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との根姿の比較を示す写真である。
【図8−2】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との根姿の比較を示す写真である。
【図9】ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したサツマイモと野生株との葉と塊根中のポリアミン含量の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を安定に保持し、且つ該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて少なくとも1種のストレス耐性が改良されたイモ類及びその子孫。
【請求項2】
ポリアミン量を調節する核酸配列が外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子または内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子である請求項1記載のイモ類及びその子孫。
【請求項3】
該ストレス耐性が改良された植物が、植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していない植物を形質転換して得られる形質転換植物である、請求項1記載のイモ類及びその子孫。
【請求項4】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、スペルミジン合成酵素(SPDS)をコードする遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項5】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、スペルミジン合成酵素をコードする遺伝子である請求項4記載のイモ類及びその子孫。
【請求項6】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するスペルミジン合成酵素遺伝子である、請求項2記載のイモ類及びその子孫。
(a)配列番号1(SPDS、1328)に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項7】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項2記載のイモ類及びその子孫。
(a)配列番号3(SAMDC、1814)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項8】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項2記載のイモ類及びその子孫。
(a)配列番号5(ADC、3037)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項9】
内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子が、該遺伝子のイントロンまたはエクソン、該遺伝子のプロモーターを含む5’上流側の調節領域または終止コドンの下流側であって、遺伝子発現に影響する領域のいずれかのアンチセンスDNAである請求項2に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項10】
内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子が、該遺伝子のイントロンまたはエクソン、該遺伝子のプロモーターを含む5’上流側の調節領域または終止コドンの下流側であって、遺伝子発現に影響する領域で2本鎖RNAを形成するセンスまたはアンチセンスDNAである請求項2に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項11】
塩ストレス耐性が改良されたイモ類である請求項1に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項12】
乾燥ストレス耐性が改良されたイモ類である請求項1に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項13】
水ストレス耐性が改良されたイモ類である請求項1に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項14】
低温ストレス耐性が改良されたイモ類である請求項1に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項15】
弱光ストレス耐性が改良されたイモ類である請求項1に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項16】
高温ストレス耐性は改良されたイモ類である請求項1に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項17】
イモ類がサツマイモである請求項1に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載のイモ類及びその子孫から得られる葉、茎、蔓、根、塊根、花、種子又はカルス。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれかに記載のイモ類及びその子孫から得られる有用物質。
【請求項20】
植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を安定に保持し、且つ該核酸配列を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有するイモ類を作出する方法。
【請求項21】
ポリアミン量を調節する核酸配列が外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子または内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子である請求項20記載の方法。
【請求項22】
植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有するイモ類を作出する方法。
【請求項23】
ポリアミン量を調節する核酸配列が外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子または内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子である請求項22記載の方法。
【請求項24】
該形質転換細胞からイモ類を再生する工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、スペルミジン合成酵素(SPDS)をコードする遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である請求項23に記載の方法。
【請求項26】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するスペルミジン合成酵素遺伝子である、請求項23記載の方法。
(a)配列番号1に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項27】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項23記載の方法。
(a)配列番号3に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項28】
該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子である、請求項23記載の方法。
(a)配列番号5に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項29】
内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子が、該遺伝子のイントロンまたはエクソン、該遺伝子のプロモーターを含む5’上流側の調節領域または終止コドンの下流側であって、遺伝子発現に影響する領域のいずれかである請求項23に記載の方法。
【請求項30】
内因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の抑制因子が、該遺伝子のイントロンまたはエクソン、該遺伝子のプロモーターを含む5’上流側の調節領域または終止コドンの下流側であって、遺伝子発現に影響する領域で2本鎖RNAを形成するセンスDNAまたはアンチセンスDNAである請求項23に記載のイモ類及びその子孫。
【請求項31】
改良されたストレス耐性を有するイモ類が、塩ストレス耐性が改良されたイモ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項32】
改良されたストレス耐性を有するイモ類が、乾燥ストレス耐性が改良されたイモ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項33】
改良されたストレス耐性を有するイモ類が、水ストレス耐性が改良されたイモ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項34】
改良されたストレス耐性を有するイモ類が、低温ストレス耐性が改良されたイモ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項35】
改良されたストレス耐性を有するイモ類が、弱光ストレス耐性が改良されたイモ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項36】
改良されたストレス耐性を有するイモ類が、高温ストレス耐性が改良されたイモ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項37】
イモ類がサツマイモである請求項20または22に記載の方法。
【請求項38】
以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞から、該核酸配列を有していない植物に比べて改良されたストレス耐性を有するイモ類を再生する
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する形質が固定されたイモ類の作出方法。
【請求項39】
以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列の抑制因子を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞からカルスを誘導する
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良されたストレス耐性を有する形質が固定されたカルスの作出方法。
【請求項40】
請求項20〜39に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫することを特徴とする比較対照イモ類に比べてストレスが改良されたイモ類の製造方法。
【請求項41】
請求項20〜40に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類から有用物質を分離する工程
を包含するイモ類の有用物質の製造方法。
【請求項42】
請求項20〜40に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
を包含するイモ類のデンプンの製造方法。
【請求項43】
請求項20〜40に記載の方法により得られたイモ類を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
該デンプンを生分解性プラスチックに変換する工程
を包含する生分解性プラスチックの製造方法。
【請求項44】
生分解性プラスチックがポリ乳酸である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換すること、
(2)該形質転換細胞から、該核酸配列を有していない植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有するイモ類を再生すること
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有する形質が固定されたイモ類の作出方法。
【請求項46】
以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列の抑制因子を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞からカルスを誘導する
を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有する形質が固定されたカルスの作出方法。
【請求項47】
植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を安定に保持し、且つ該核酸配列を有していないイモ類の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照イモ類に比べて生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさが向上したイモ類の作出する方法。
【請求項48】
植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン量を調節する核酸配列を含む発現ベクターで、該核酸配列を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該核酸配列を有していない比較対照植物に比べて改良された生産性ないし塊根もしくは塊茎の数、大きさを有するイモ類を作出する方法。
【請求項49】
請求項43〜46に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類から有用物質を分離する工程
を包含するイモ類有用物質の製造方法。
【請求項50】
請求項45〜48に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
を包含するデンプンの製造方法。
【請求項51】
請求項45〜48に記載の方法により得られたイモ類植物を栽培し、イモ類を収穫する工程、
得られたイモ類からデンプンを分離する工程
該デンプンを生分解性プラスチックに変換する工程
を包含する生分解性プラスチックの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8−1】
image rotate

【図8−2】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−20601(P2006−20601A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203687(P2004−203687)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構生物機能活用型循環産業システム創造プログラム植物機能改変技術実用化開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用をうけるもの)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】