説明

ストレス誘導性プロモーター及びその利用方法

本発明は、イネ等の単子葉植物で有効に機能するストレス誘導性プロモーター、及び該プロモーターを用いた環境ストレス耐性植物に関する。すなわち、本発明は、以下の(a)又は(b)のDNAからなる、イネ由来のプロモーター: (a)配列番号1又は配列番号10で表される塩基配列からなるDNA (b)配列番号1又は配列番号10で表される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつストレス誘導性のプロモーター活性を有するDNA、及び、前記プロモーターを導入した環境ストレス耐性植物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、イネ由来のストレス誘導性プロモーターとその利用方法に関する。
【背景技術】
植物は、乾燥、高温、凍結、塩など、自然界における様々な環境ストレスに対応するための耐性機構を有している。最近では、こうしたストレス耐性機構が分子レベルで明らかになるにつれ、バイオテクノロジー的手法を用いたストレス耐性植物も作出されるようになってきた。例えば、ストレスを受けた細胞内にはLEAタンパク質、水チャネルタンパク質、適合溶質合成酵素などのストレスタンパク質が誘導され、細胞をストレスから防御する。そこで、オオムギのLEAタンパク質やタバコのdetoxification enzyme等の遺伝子、浸透圧調節物質(糖、プロリン、グリシンベタイン等)合成酵素の遺伝子を植物に導入する研究が試みられた。また、細胞膜脂質の修飾酵素であるシロイヌナズナのw−3 fatty acid desaturaseやらん藻のD9desaturaseの遺伝子等を用いた研究も試みられた。これらの研究では、いずれも一つの遺伝子がカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターに結合して植物に導入された。しかし、組換え植物のストレス耐性度が不安定であったり、導入遺伝子の発現レベルが低い等の問題から実用化に至ったものはなかった。
一方、ストレス耐性機構には複数の遺伝子が複雑に関与することがわかってきた(非特許文献1)。そこで、それらの発現を同時に活性化する転写因子の遺伝子を恒常的プロモーターに連結して導入し、植物のストレス耐性を高める研究も試みられた(非特許文献2)。しかし、複数の遺伝子が同時期に活性化されると、宿主植物のエネルギーが該遺伝子産物の生成や、該遺伝子産物に起因する細胞内代謝に向けられるため、植物自体の成長が遅れたり矮化してしまうという問題があった。
これに対し、発明者らはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)からストレス応答性エレメントに結合し、該エレメント下流の遺伝子の転写を特異的に活性化する転写因子をコードする遺伝子、DREB1A、DREB1B、DREB1C、DREB2A、DREB2Bを単離した(特許文献1)。そして、これらの遺伝子をストレス誘導性rd29Aプロモーターに連結して植物に導入することにより、矮化しないストレス耐性植物が作製できることを報告した(特許文献2)。
しかし、双子葉植物であるシロイヌナズナ由来のrd29Aプロモーターは、単子葉植物中で機能はしてもその活性が弱い。したがって、単子葉植物において強い活性を有するストレス誘導性プロモーターが望まれていた。
【特許文献1】 特開2000−60558号公報
【特許文献2】 特開2000−116260号公報
【非特許文献1】 Shinozaki K,Yamaguchi−Shinozaki K.,Plant Physiol.(1997)Oct;115(2)p327−334
【非特許文献2】 Liu et al.,The Plant Cell,(1998)10:p1391−1406
【発明の開示】
本発明は、イネ等の単子葉植物において効果的に機能し得るストレス誘導性プロモーターを見出し、該プロモーターを用いて新規な環境ストレス耐性植物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、イネゲノムより、強いストレス誘導性プロモーターを単離することに成功した。そして、該プロモーターを用いれば、単子葉植物の環境ストレス耐性を著しく向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明はイネ由来のストレス誘導性プロモーターに関する。該プロモーターは、具体的には以下の(a)又は(b)のDNAからなる。
(a)配列番号1又は配列番号10で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1又は配列番号10で表される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつストレス誘導性のプロモーター活性を有するDNA
ここで、ストレスとは、乾燥ストレス、低温ストレス又は塩ストレスである。
また、本発明は前記プロモーターを含む組換えベクターを提供する。該ベクターは、本発明のプロモーター支配下に他の構造遺伝子や調節遺伝子を含んでいてもよく、特にストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子を含んでいることが好ましい。
ストレス耐性を向上させる構造遺伝子の好適な例としては、プロリン合成の鍵酵素P5CS遺伝子(Yoshiba Y.et al(1999)BBRC 261)、ガラクチノール合成遺伝子AtGolS3遺伝子(Taji T.et al(2002)Plant J.29:417−426)が挙げられる。
また、ストレス耐性を向上させる調節遺伝子の好適な例としては、シロイヌナズナ由来転写因子DREB遺伝子(特開2000−60558号公報)、イネ由来転写因子OsDREB遺伝子(特願2001−358268、Dubouzet et al Plant J.inpress)、及び植物ホルモンABAの生合成の鍵酵素NCED遺伝子(Iuchi S.et al(2001)Plant J.27:325−333)等が挙げられる。
特に、シロイヌナズナ由来転写因子DREB遺伝子、イネ由来転写因子OsDREB遺伝子が好ましく、イネ由来転写因子OsDREB遺伝子が最も好ましい。
さらに、本発明は本発明のベクターを適当な宿主に導入して得られる形質転換体を提供する。ある態様において、該形質転換体は本発明のベクターを宿主植物に導入して得られるトランスジェニック植物である。この場合、宿主植物としては単子葉植物が望ましく、単子葉植物としてはイネが望ましい。
さらにまた、本発明は、本発明のプロモーターを植物に導入することにより、該植物のストレス耐性を向上させる方法を提供する。本発明のプロモーターは単子葉植物において従来にない強いストレス誘導性プロモーター活性を有するため、単子葉植物のストレス耐性の向上により適している。
【図面の簡単な説明】
図1は、各ストレス負荷時におけるa0022(LIP9)のノザン解析結果を示す。
図2は、a0022(LIP9)のプロモーター領域の塩基配列を示す。
図3は、Gus発現用コンストラクトの構造を示す。
(Tg7:g7ターミネーター、HPT:ハイグロマイシン フォスフォトランスフェラーゼ、Pnos:Nosプロモーター、Tnos:Nosターミネーター)
図4は、各種プロモーターにGUS遺伝子を連結して導入した形質転換タバコ又はイネにおける、乾燥ストレス負荷時のGUS活性を示すグラフである。
図5は、LIP9プロモーターにGUS遺伝子を連結して導入した形質転換イネにおける、塩ストレス負荷時のGUS染色結果を示す写真である。
図6は、形質転換イネと野性株における、導入遺伝子及び各標的遺伝子(LIP9(a0022)、WSI724(a0066)、salT(a2660)の発現量をノザン法で比較した結果である。図中a、b、cはそれぞれそれぞれ形質転換体のラインを示す。
図7は、a0066(WSI724)のプロモーター領域の塩基配列を示す。
図8は、WSI724プロモーターにGUS遺伝子を連結して導入した形質転換イネにおける、乾燥ストレス負荷時のGUS活性を示すグラフである(右:乾燥ストレス負荷、左:コントロール)。
図9は、WSI724プロモーターにGUS遺伝子を連結して導入した形質転換イネにおける、乾燥ストレス負荷時のGUS染色結果を示す写真である。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2003−80847号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のプロモーターは、低温、乾燥、塩などの環境ストレスに対して特異的に誘導されるイネ由来のプロモーターである。
1. 本発明のプロモーターの同定
本発明のプロモーターは、ストレスを負荷した植物個体と負荷しない植物個体間で、その発現が著しく異なる遺伝子(ストレス誘導性遺伝子)をスクリーニングし、次いでゲノム情報から該遺伝子のプロモーターと考えられる配列をスクリーニングすることにより同定することができる。
以下、本発明のプロモーターを同定するプロセスについて説明する。
1.1 mRNAの調整
まず、ストレス誘導性遺伝子をスクリーニングするための、mRNAを調製する。
mRNAの供給源としては、葉、茎、根、花など植物体の一部又は全体のいずれであってもよい。また、植物体は、その種子をGM培地、MS培地、#3培地などの固体培地に播種し、無菌条件下で生育させた植物体を用いてもよいし、カルスや無菌条件下で育てた植物体の培養細胞を用いてもよい。
本スクリーニングでは、ストレスを負荷した植物個体と負荷しない植物個体との間での遺伝子発現量の相違を比較するため、mRNAは前記両個体のそれぞれについて調整する必要がある。ストレスの負荷方法は、用いる植物によって適宜設定される。一般には、乾燥ストレスは、2〜4週間、水を与えず育てることにより負荷することができる。また低温・凍結ストレスは、15〜−10℃で、1〜10日間育てることにより負荷することができる。さらにまた、塩ストレスは100〜600mM NaClで1時間〜7日間育てることにより負荷することができる。例えば、イネの場合であれば、水耕栽培で生育させたイネを、低温ストレスなら10〜−4℃、塩ストレスなら150〜250mM NaCl、乾燥ストレスなら脱水状態等に暴露する。
ストレスを負荷した植物個体と負荷しない植物個体は、それぞれ液体窒素で凍結し、乳鉢などで摩砕後、得られた摩砕物から、グリオキサール法、グアニジンチオシアネート−塩化セシウム法、塩化リチウム−尿素法、プロテイナーゼK−デオキシリボヌクレアーゼ法などにより粗RNA画分を抽出する。次いで、この粗RNA画分から、オリゴdT−セルロースやセファロース2Bを担体とするポリU−セファロースなどを用いたアフィニティーカラム法、あるいはバッチ法によりポリ(A)RNA(mRNA)を得る。必要であれば、さらにショ糖密度勾配遠心法などによりmRNAを分画して用いてもよい。
1.2 ストレス誘導性遺伝子のスクリーニング
ストレス誘導性遺伝子のスクリーニングは、ストレスを負荷した植物個体と負荷しない植物個体間で、その遺伝子発現量の相違を比較することにより行う。遺伝子発現量の比較方法は、特に限定されず、例えば、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、又はクロスハイブリダイゼーション法等の公知の方法を用いることができる。
なかでも、遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ等の固相試料を用いた方法は、数千〜数万の遺伝子の発現を、定性的かつ定量的に、一度で検出することが可能という点で、前記スクリーニングの実施に好適である。
(1)cDNAマイクロアレイの調製
前記スクリーニングに用いるcDNAマイクロアレイは、プロモーターの検出対象である単子葉植物(例えばイネ)のcDNAがスポットされているものであれば特に限定されず、既成のものを用いてもよいし、公知の方法に基づいて作製してもよい(例えば、The Plant Cell(2001)13:61−72 Seki et al参照)。
cDNAマイクロアレイの作製には、まず目的とする植物のcDNAライブラリーの調製が必要である。cDNAライブラリーは、(1)の方法に従って調製したmRNAを鋳型として、公知の方法により作製することができる。スポットするcDNAは単子葉植物由来のものであれば特に限定されないが、後のゲノムデータベースの解析の利便性からイネ等のゲノム解析が進んだ単子葉植物のものが好ましい。植物は平常状態(無処理)の植物でもよいが、好ましくは乾燥、塩、低温等のストレスに暴露した植物である。
cDNAライブラリーの作製では、まず市販のキット(ZAP−cDNA Synthesis Kit(STRATAGENE社製)等)を用いて、mRNAを逆転写して一本鎖cDNAを合成し、これを鋳型として二本鎖cDNAを合成する。次いで、得られた二本鎖cDNAに適切な制限酵素切断部位を含むアダプターを付加した後、ラムダファージベクターのクローニング部位に挿入する。これを市販のキット(例えば、Gigapack III Gold packaging extract(STRATAGENE社製)等)を用いてin vitroパッケージングし、宿主大腸菌に感染・増幅すれば、目的とするcDNAライブラリーが得られる。
cDNAライブラリーが作製されたら、このcDNA、あるいは該cDNAのうち特異性の高い部分(例えば、3’側の反復配列を含まないUTR領域)をPCR増幅し、アレイ固定用プローブを作製する。この作業を繰り返して目的とする全ての遺伝子のプローブが調製できたら、これらを市販のスポッター(例えば、Amersham社製など)を用いてスライドグラス上にスポッティングする。かくして、目的とするcDNAマイクロアレイが得られる。
(2)遺伝子発現量の検出
cDNAマイクロアレイによる遺伝子発現量の検出は、サンプルmRNA(或いはcDNA)を適当な試薬でラベルし、これをアレイ上のcDNAプローブとハイブリダイズさせたときのシグナル強度として測定することができる。遺伝子の発現量は、通常アレイ上にスポットされたcDNAプローブ量のばらつきを考慮し、適当なコントロールとの比較値、あるいは比較する2サンプル間の発現量比として求めることが望ましい。本スクリーニングの場合であれば、ストレスを負荷しない無処理の植物由来のmRNAをコントロールとして、ストレスを付加した植物由来のmRNAの相対的発現量を検出すればよい。
検出は、コントロールとサンプルのmRNA(あるいはそのcDNA)を、それぞれ異なる蛍光色素(例えば、Cy3とCy5)でラベルし、アレイ上のcDNAプローブと共にハイブリダイズさせることにより行う。例えば、ストレスを負荷した個体よりmRNAを抽出し、Cy5標識dCTP存在下逆転写してCy5標識cDNAを調製する。次に、ストレスを負荷しない無処理の個体よりmRNAを抽出し、同様の方法でCy3標識cDNAを調製する。Cy5標識cDNA(サンプル)とCy3標識cDNA(コントロール)を等量ずつ混合し、アレイ上のcDNAとハイブリダイズさせる。なお、標識用色素はサンプルにCy3を、コントロールにCy5を利用してもよいし、その他の適当な標識試薬を用いてもよい。
得られた蛍光強度を蛍光シグナル検出機で読み取り、数値化すれば、この値はコントロールに対するサンプルの遺伝子発現量比に相当する。スキャナーで読み取った蛍光強度は必要に応じて、誤差の調整や各試料毎のばらつきの正規化を行ってもよい。正規化は、ハウスキーピング遺伝子等各サンプルで共通に発現している遺伝子を基準に行うことができる。さらに、信頼性限界ラインを特定して、相関性の低いデータを除いてもよい。
(3)ストレス誘導性遺伝子の選択
ストレス誘導性遺伝子は、上記アレイによる解析の結果、ストレスを負荷した植物個体と負荷しない植物個体との間で発現量が著しく異なる遺伝子として特定される。ここで、「著しく異なる」とは、例えば、インテンシティー1000以上で、両者の発現量が少なくとも3倍以上異なることを意味する。
(4)ノザン・ブロッティングによる発現解析
こうして選択された遺伝子は、さらにノザン解析等により、ストレス誘導性に当該遺伝子の発現が高まることを確認する。例えば、前述した方法で、様々なレベルの塩、乾燥、温度等のストレスに植物を暴露する。そして、該植物からRNAを抽出し、これを電気泳動にかけて分離する。分離されたRNAはニトロセルロース膜に転写し、前記遺伝子に特異的な標識cDNAプローブとハイブリダイゼーションさせれば、その発現量を検出することができる。
選択された遺伝子が、ストレス依存的に発現が向上していれば、該遺伝子はストレス誘導性であることが確認できる。こうして、イネcDNAライブラリーより選択されたストレス誘導性遺伝子の例として、本発明にかかるa0022(LIP9:配列番号2)及びa0066(WSI724:配列番号8)を挙げることができる。なお、a0022及びa0066はマイクロアレイ上に固定されているcDNAのID No.である。
1.3 プロモーター配列のスクリーニング
(1)遺伝子データベースからの推定
次に、既存の遺伝子データベース(例えば、DDBJのデータベース等)を基に検索ソフト(例えば、Blast等)を用いてストレス誘導性遺伝子のプロモーター配列を検索する。イネのように、ほとんどのゲノムが解読されている植物では、特定されたストレス誘導性遺伝子を支配するプロモーター配列の探索は既存のデータベースを用いてすべて可能となる。プロモーター配列は、ゲノム上で前記ストレス誘導性遺伝子(cDNA)と相同性の高いゲノム遺伝子の上流領域から、プロモーターと考えられる領域として選ばれる。例えば、ストレス誘導性遺伝子のゲノム情報に基づき、これらの遺伝子の開始コドンと推定される位置から約1〜2kb上流付近をプロモーター領域と推定する。
ところで、公知のストレス誘導性プロモーターの中には、その配列中に該プロモーター活性に関わるシスエレメント;例えば、乾燥ストレス応答性エレメント(DRE;dehydration−responsive element)、アブシジン酸応答性エレメント(ABRE;abscisic acid responsive element)、低温ストレス応答性エレメントなど、
を有するものがある。このシスエレメントにストレス誘導性の転写因子が結合すると、前記プロモーターが活性化され、その支配下にあるストレス耐性付与遺伝子を発現させる。したがって、検索した上流領域に前記シスエレメントが含まれていれば、その領域はストレス誘導性プロモーターである可能性が非常に高いといえる。
かくして、前述のa0022(LIP9:配列番号2)と相同性が高い遺伝子のゲノム情報が得られ、その1.1kb上流領域より推定LIP9プロモーター配列(配列番号1)がスクリーニングされた。同様にして、a0066(WSI724:配列番号8)と相同性が高い遺伝子の上流領域より推定WSI724プロモーター配列(配列番号10)がスクリーニングされた。
(2)ストレス誘導性プロモーターの機能確認
次に推定プロモーター配列について、ストレス負荷時における該プロモーター活性の変化により、その機能の確認を行う。
まず、前項で推定されたプロモーター配列を基にプライマーを作製し、ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、プロモーターのクローニングを行う。次に、該プロモーターの下流にレポーター遺伝子を連結して作製したレポータープラスミドを植物に導入し、該植物(好ましくはそのT世代)のストレス負荷時におけるレポーターの発現を調べる。なお、レポーターとしては、例えばβグルクロニダーゼ(GUS:pBI121,Clontech社等)、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子等が挙げられるが、活性が数値で与えられること、染色によって発現が視覚的に観察できるという点でGUSが好ましい。
1.4 本発明のプロモーター
以上の結果、イネゲノム由来のLIP9プロモーター配列(配列番号1)は、乾燥、低温、塩等の各ストレス依存的に高い発現を示すストレス誘導性プロモーターであることが確認された。
このように、LIP9プロモーターはすべてのストレスに対して特異的に誘導されるプロモーターである。以下にその構造的、機能的特徴を挙げる。
1)LIP9プロモーターは、その構造中に乾燥ストレス誘導に関与するシスエレメントDREを2つ含む(図2参照)。
2)LIP9プロモーターは、シスエレメントDREに結合してその下流の遺伝子の転写を活性化させるイネ由来の転写因子:OsDREB1遺伝子(特願2001−358268号)の過剰発現体で高発現している。
3)LIP9プロモーターにはOsDREB1遺伝子が結合するDRE配列が存在することからOsDREB遺伝子の過剰発現の最適プロモーターであることが予測される。
一方、WSI724プロモーターも、その構造中にDRE配列が2つ含まれていること、及びa0066のストレス負荷時の発現パターン(乾燥、塩、低温誘導性で、低温による誘導性が乾燥、塩に比べて遅い)から、OsDREB遺伝子のターゲットになっていることが予想された。
なお、本発明のプロモーターは配列番号1又は配列番号10で示される塩基配列を有するDNAに限定されず、配列番号1又は配列番号10で表される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAも、ストレス誘導性プロモーター活性を有する限り、本発明のストレス誘導性プロモーターに含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、ホルムアミド濃度が30〜50%、37〜50℃、6×SSCの条件、好ましくはホルムアミド濃度が50%、42℃、6×SSCの条件をいう。
2. 組換えベクター
本発明の組換えベクターは、本発明のプロモーターを含むベクターである。該ベクターは、本発明のプロモーターの下流に他の構造遺伝子又は調節遺伝子を機能しうる態様で含んでいてもよい。そのような遺伝子の好適な例は、ストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子である。なお、「機能しうる態様」とは、他の構造遺伝子又は調節遺伝子が本発明のプロモーターの支配下で適切に発現されるような態様を意味する。
ここで、ストレス耐性を向上させる構造遺伝子とは、乾燥ストレス、低温ストレス又は塩ストレス等の環境ストレスに対する植物の耐性を高める機能を担うタンパクをコードする遺伝子であって;例えば、LEAタンパク質、水チャネルタンパク質、適合溶質合成酵素、タバコのdetoxification enzyme、浸透圧調節物質(糖、プロリン、グリシンベタイン等)合成酵素、細胞膜脂質の修飾酵素であるシロイヌナズナのw−3 fatty acid desaturase、らん藻のD9desaturaseの遺伝子、プロリン合成の鍵酵素であるP5CS、ガラクチノール合成遺伝子AtGolS3遺伝子を挙げることができる。
また、ストレス耐性を向上させる調節遺伝子とは、ストレス誘導性プロモーターの活性や、ストレス耐性を付与する遺伝子の発現を調節することにより、植物のストレス耐性を向上させる遺伝子であって;例えば、シロイヌナズナ由来の転写因子:DREB1A、DREB2A、DREB1B、及びDREB1C遺伝子(特開2000−60558号公報参照)、イネ由来の転写因子:OsDREB1A、OsDREB1B、OsDREB1C、OsDREB1D、及びOsDREB2A遺伝子(特願2001−358268号)、ならびに植物ホルモンABAの生合成の鍵酵素であるNCED遺伝子等を挙げることができる。
特に、本発明のプロモーターが特定のシスエレメントを含む場合は、該シスエレメントに結合し、そのプロモーター活性を向上させる転写因子の遺伝子を、プロモーター下流に連結させることが好ましい。
前述のように、本発明にかかるLIP9プロモーターはその構造内にDRE配列を2つ含む。したがって、LIP9プロモーターの下流に連結させる遺伝子としては、DREB遺伝子又はOsDREB遺伝子(例えば、OsDREB1A、OsDREB1B、OsDREB1C、OsDREB1D、OsDREB2A遺伝子、OsDREB2B遺伝子)が好ましく、特にOsDREB遺伝子が最も好ましい。
また、WSI724プロモーターもDRE配列を2つ含み、OsDREBのターゲットになっていることが予想されていることから、その下流に連結させる遺伝子としては、DREB遺伝子又はOsDREB遺伝子(例えば、OsDREB1A、OsDREB1B、OsDREB1C、OsDREB1D、OsDREB2A遺伝子、OsDREB2B遺伝子)が好ましく、特にOsDREB遺伝子が最も好ましいと考えられる。
本発明のベクターは、適当なベクターに本発明のプロモーターあるいは、該プロモーターと他の調節遺伝子や構造遺伝子を機能しうる態様で連結(挿入)して構築される。プロモーターを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミドDNA、ファージDNAなどが挙げられる。プラスミドDNAとしては、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119などの大腸菌宿主用プラスミド、pUB110、pTP5などの枯草菌用プラスミド、YEp13、YEp24、YCp50などの酵母宿主用プラスミド、pBI221、pBI121などの植物細胞宿主用プラスミドなどが挙げられる。又はジDNAとしてはλファージなどが挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスをベクターとして用いてもよい。
本発明のプロモーターのベクターへの挿入は、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、これをベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入して連結すればよい。
本発明の組換えベクターは、さらに、所望によりスプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを含有してもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などを用いることができる。
3. 形質転換体
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを、プロモーター活性が発現し得る態様で宿主中に導入することにより構築することができる。ここで、宿主は本発明のプロモーターが機能しうるものであれば特に限定されないが、植物が好ましく、特にイネ等の単子葉植物がより好ましい。
植物や植物細胞を宿主とする場合、例えばイネ、トウモロコシ、コムギ、シロイヌナズナ、タバコ、ニンジンなどから株化した細胞や該植物から調製したプロトプラストが用いられる。植物への組換えベクターの導入方法としては、Abelらのポリエチレングリコールを用いる方法[Abel,H.et al.Plant J.5:421−427(1994)]やエレクトロポレーション法などが挙げられる。
4.ストレス耐性トランスジェニック植物
(1)トランスジェニック植物の作製
本発明のプロモーターの支配下に、ストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子を機能しうる態様で連結して植物に導入することにより、環境ストレス、特に、低温ストレス、凍結ストレス、乾燥ストレスなどに対して抵抗性が向上されたトランスジェニック植物を作出することができる。宿主植物としては、特に単子葉植物が好ましい。
植物宿主への本発明のプロモーター等の導入方法としては、アグロバクテリウム感染法などの間接導入法や、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、リポソーム法、マイクロインジェクション法などの直接導入法などが挙げられる。従来、イネのような単子葉植物では、アグロバクテリウム感染法を用いたトランスジェニック植物の作製は困難といわれてきたが、アセトシリンゴンを加えることによってアグロバクテリウムがイネに感染可能となり、単子葉植物においても利用可能となってきた。
以下にアグロバクテリウムを用いたトランスジェニック植物の作製について説明する。
まず、本発明のプロモーターとストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子とを含むDNAを適当な制限酵素で切断後、必要に応じて適切なリンカーを連結し、植物細胞用のクローニングベクターに挿入して植物導入用組換えベクターを作製する。クローニング用ベクターとしては、pBI2113Not、pBI2113、pBI101、pBI121、pGA482、pGAH、pBIG等のバイナリーベクター系のプラスミドやpLGV23Neo、pNCAT、pMON200などの中間ベクター系のプラスミドを用いることができる。
バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB,RB)間に、目的遺伝子を挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンスC58、LBA4404、EHA101、C58C1Rif、EHA105等に、凍結融解法、エレクトロポレーション法等により導入して、植物への形質導入用に用いる。
上記の方法以外に、三者接合法[Nucleic Acids Research,12:8711(1984)]によっても植物導入用アグロバクテリウムを調製することができる。すなわち、目的遺伝子を含むプラスミドを保有する大腸菌、ヘルパープラスミド(例えばpRK2013など)を保有する大腸菌、及びアグロバクテリウムを混合培養し、リファンピシリン及びカナマイシンを含む培地上で培養して植物導入用の接合体アグロバクテリウムを得ることができる。
植物体内で外来遺伝子などを発現させるためには、構造遺伝子の後に、植物用のターミネーターなどを配置させる必要がある。本発明において利用可能なターミネーター配列としては、例えばカリフラワーモザイクウイルス由来やノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーターなどが挙げられる。但し、植物体内で機能することが知られているターミネーターであればこれらのものに限定されるものではない。
さらに、効率的に目的の形質転換細胞を選択するために、有効な選択マーカー遺伝子を使用することが好ましい。その際に使用する選択マーカーとしては、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、抗生物質ハイグロマイシンに対する抵抗性を植物に付与するハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(htp)遺伝子及びビアラホス(bialaphos)に対する抵抗性を付与するホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(bar)遺伝子等から選ばれる1つ以上の遺伝子を使用することができる。本発明のプロモーター及び選択マーカー遺伝子は、単一のベクターに一緒に組み込んでも良いし、それぞれ別個のベクターに組み込んだ2種類の組換えDNAを用いてもよい。
こうして調製したアグロバクテリウムを採取した植物切片に感染させれば、目的とするトランスジェニック植物が作製できる。
トランスジェニック植物は、適切な抗生物質を加えた培地に播種し、目的のプロモーターや遺伝子を保有する個体を選択する。選択された個体は、ボンソル1号や黒土等の入った鉢に植え替えてさらに生育させる。一般に、導入遺伝子は宿主植物のゲノム中に同様に導入されるが、その導入場所が異なることにより導入遺伝子の発現が異なるポジションイフェクトと呼ばれる現象が見られる。そこで、プローブとして導入遺伝子のDNA断片を用いたノザン法で検定することによって、より導入遺伝子が強く発現している形質転換体を選抜することができる。
(2)ストレス耐性の確認
本発明のプロモーターやストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子が、トランスジェニック植物及びその次世代に組み込まれていることの確認は、これらの細胞及び組織から常法に従ってDNAを抽出し、PCR法又はサザン分析等を用いて導入した遺伝子を検出することにより行うことができる。
また、トランスジェニック植物における導入遺伝子の発現レベル及び発現部位の分析は、該植物の細胞及び組織から常法に従ってRNAを抽出し、RT−PCR法又はノザン解析を用いて導入した遺伝子のmRNAを検出することにより行うことができる。あるいは、導入した遺伝子の転写産物を、抗体を用いたウエスタン分析等により直接、分析してもよい。
本発明のプロモーターを導入したトランスジェニック植物の環境ストレスに対する耐性は、例えばバーミキュライト、パーライト、ボンソルなどを含む土を入れた植木鉢にトランスジェニック植物を植え、或いは水耕栽培を行い、各種環境ストレスを負荷した場合の生存を調べることによって評価することができる。環境ストレスとしては、低温、乾燥、塩等が挙げられる。例えば、乾燥ストレスに対する耐性は、2〜4週間、水を与えずその生存を調べることにより評価することができる。また低温・凍結ストレスに対する耐性は、15〜−10℃に、1〜10日間おいた後、2日〜3週間、20〜35℃で生育させその生存率を調べることにより評価することができる。また、塩ストレスは100〜600mM NaClで1時間〜7日間おいた後、1〜3週間、20〜35℃で生育させその生存率を調べることにより評価することができる。かくして、本発明のプロモーターを用いれば、植物(特に単子葉植物)を矮化させることなくそのストレス耐性を著しく向上させることができる。
(3)トランスジェニック植物の好適な例
本発明にかかるトランスジェニック植物の好適な例として、LIP9あるいはWSI724プロモーター支配下にOsDREB遺伝子を機能しうる態様で連結したベクターをイネ、コムギ等の単子葉植物に導入したトランスジェニック植物を挙げることができる。LIP9プロモーターにはDRE領域が2つ含まれているため、OsDREB遺伝子は該シスエレメントに結合することにより、効果的にそのストレス耐性効果を示すことができる。同様に、WSI724プロモーターにもDRE領域が2つ含まれているため、OsDREB遺伝子の発現を高めて、植物のストレス耐性を向上させることができる。
【実施例】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕イネのストレス誘導性遺伝子の同定
cDNAマイクロアレイとノザン解析により、イネのストレス誘導性遺伝子を探索した。
1.イネcDNAマイクロアレイの作製
2〜3週間水耕栽培したイネ(日本晴)をそれぞれ乾燥、塩、低温処理を行った。乾燥処理は室温で風乾し、塩処理は250mMのNaCl溶液で栽培し、低温処理は4℃で栽培した。各ストレス処理を行ったイネは液体窒素で凍結後、グアニジンチオシアネート−塩化セシウム法により全RNAを抽出し、Oligo(dt)−celluloseカラムを用いてmRNAを調製した。得られたmRNAを鋳型にして、HybriZAP−2.1 two−hybrid cDNA Gigapack cloning kit(STRATAGENE社製)を用いてcDNAを合成し、HybriZAP−2.1 ファージミドベクターのEcoRI−XhoI切断部位に挿入し、クローニングした。このファージミドDNAをGigapack III Gold packaging extract(STRATAGENE社製)を用いてパッケージングした。得られた、cDNAを含むラムダファージ粒子を宿主大腸菌に感染させ増幅した後、ファージ懸濁液として回収した。
上記cDNAクローンの塩基配列をシークエンスして約1500個の独立したクローンを選抜した。選抜したクローンをPCR法で増幅させ、GTMASS System(Nippon Laser and Electronic Laboratory)を用いて、poly−L−lysine−coatedマイクロスライドグラス(model S7444;Matsunami)にスタンピングした後、UVクロスリンクによって固定し、イネcDNAマイクロアレイを作製した(The Plant Cell(2001)13:61−72 Seki et al)。
2.マイクロアレイ解析
前項と同様の乾燥、塩、低温の各ストレス処理、又は100μMのアブシジン酸処理(5時間又は10時間)を行ったイネ、ならびに無処理のイネの各々からmRNAを精製した。無処理のイネ由来のmRNAをコントロール、各ストレス又はアブシジン酸処理したイネ由来のmRNAをサンプルとして、それぞれCy3、Cy5を用いた二蛍光標識法を用いて、cDNAマイクロレイ解析を行った。マイクロアレイ解析の結果、インテンシティー:1000以上で、コントロールに比較して3倍以上の発現量が認められた遺伝子をストレス誘導性遺伝子の候補として選択した。かくして、a0022(LIP9:配列番号2)及びa0066(WSI724:配列番号8)がストレス誘導性遺伝子として選択された。
3.ノザンハイブリダイゼーションによる発現解析
前項で選択された遺伝子の発現特性をノザンハイブリダイゼーションにより解析した。まず、イネをアブシジン酸、乾燥、低温、塩、水の各ストレスに暴露し、それぞれ0,1,2,5,10時間ごとにサンプリングした。なお、アブシジン酸、乾燥、低温、塩ストレスは、1.と同様の方法で付与し、水ストレスは純水に浸すことにより付与した。それぞれのサンプルから全RNAを調製し、電気泳動を行い、ノザン法により各遺伝子の発現を見た。結果を図1に示す。
図1から明らかなように、a0022はアブシジン酸、乾燥、低温,塩の各ストレスにより発現が誘導され、特にアブシジン酸、乾燥、塩では早い時間帯に発現の上昇がみられ、低温では遅いに時間帯に発現の上昇がみられた。また、a0066は、そのストレス負荷時の発現パターン(乾燥、塩、低温誘導性で、低温による誘導性が乾燥、塩に比べて遅い)からOsDREBのターゲットになっていることが予想された。
〔実施例2〕プロモーター配列の解析
1.イネゲノムデータベースのスクリーニング
実施例1でストレス誘導性遺伝子として選択されたcDNA:a0022(LIP9:配列番号2)について、DDBJのイネゲノムデータベースを利用し、blastにより相同部位の検索を行った。その結果、相同性が認められた遺伝子の開始コドンから5’側に向かって、1.1kb上流の配列をプロモーター配列(配列番号1)として選択した。また、a0066(WSI724:配列番号8)についても同様の検索を行い、そのプロモーター配列(配列番号10)が選択された。
図2にLIP9のプロモーター領域の構造を示す。図2から明らかなように、LIP9はその構造中に2ヶ所のシス配列DRE((A/G)CCGAC)を持つことが確認された。また、図7にWSI724のプロモーター領域の構造を示す。WSI724プロモーターについても、その構造中に2ヶ所のシス配列DRE((A/G)CCGAC)を持つことが確認された。
2.クローニング
選択されたプロモーター配列を基にプライマーを設計し、イネのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、クローニングを行った。用いたプライマー配列及びPCR条件は以下のとおりである。
LIP9プロモーター用プライマー配列:

WSI724プロモーター用プライマー配列:

PCR条件:95度1分 55度1分 68度2分 30サイクル
〔実施例3〕ストレスに対するLIP9プロモーター活性
(1)トランスジェニック植物の作製
pBIG29APHSNotのプロモーター部位をトウモロコシのユビキチンプロモーターに置換して作られたG−ubiプラスミドをBamHI−HindIIIで切断し、同様に切断したLIP9プロモーターの断片と連結した。LIP9プロモーターを組み込んだプラスミドをBamHI−EcoRIで切断し、同様にpBI221(Clontech)をBamHI−EcoRIで切断し切り出したGus遺伝子と連結しGus発現コンストラクト(G−LIP9:GUS)を作製した(図3)。プラスミドG−LIP9:GUSを、培養後10%glycerolで洗浄したアグロバクテリウムEHA105にエレクトロポレーション法によって導入し、アグロバクテリウムEHA105(G−LIP9:GUS)を作製した。このアグロバクテリウムEHA105(G−LIP9:GUS)を以下のようにしてイネに感染させ、形質転換体を作製した。
イネの種子を70%エタノールで1分浸漬し、さらに2%次亜塩素酸ナトリウムに1時間浸漬することにより滅菌し、次いで滅菌水により水洗後、N6D固形培地(1リットル当たり:CHU[N6]Basal Salt Mixture(Sigma社製)3.98g、スクロース30g、ミオイノシトール100mg、カザミノ酸300mg、L−プロリン2878mg、グリシン2mg、ニコチン酸0.5mg、ピリドキシン塩酸0.5mg、チアミン塩酸1mg、2,4−D 2mg、ゲルライト4g、pH5.8)のプレートに9粒ずつ播種し、24日間培養してカルスを誘導した。形成された種子約20粒分のカルスを、新たなN6D固形培地に移植し、さらに3日間培養した。
一方、上記アグロバクテリウムEHA105(G−LIP9:GUS)を5mlのリファンピシリン100mg/l、及びカナマイシン20mg/lを含むYEP培地(1リットル当たり:Bacto peptone 10g、Bacto yeast extract 10g、NaCl 5g、MgCl・6HO 406mg、pH7.2)で28℃で24時間培養した。このアグロバクテリウムを20mg/lのアセトシリンゴンを含むAAM培地(1リットル当たり:MnSO・5HO 10mg、HBO 3mg、ZnSO・7HO 2mg、NaMoO・2HO 250μg、CuSO・5HO 25μg、CoCl・6HO 25μg、KI 750μg、CaCl・2HO 150mg、MgSO・7HO 250mg、Fe−EDTA 40mg、NaHPO・2HO 150mg、ニコチン酸1mg、チアミン塩酸10mg、ピリドキシン塩酸1mg、ミオイノシトール100mg、L−アルギニン176.7mg、グリシン7.5mg、L−グルタミン900mg、アスパラギン酸300mg、KCl 3g、pH5.2)でO.D.660が0.1になるようにうすめ、20mlのアグロバクテリウム懸濁液を作製した。
つぎに、前述の3日間培養したカルスにアグロバクテリウム懸濁液を加え、1分間混合した。その後このカルスを滅菌したペーパータオルに置き、余分なアグロバクテリウム懸濁液を除去した後、滅菌した濾紙を敷いた2N6−AS固形培地(1リットル当たり:CHU[N] Basal Salt Mixture 3.98g、スクロース30g、グルコース10g、ミオイノシトール100mg、カザミノ酸300mg、グリシン2mg、ニコチン酸0.5mg、ピリドキシン塩酸0.5mg、チアミン塩酸1mg、2,4−D 2mg、アセトシリンゴン10mg、ゲルライト4g、pH5.2)の上で25℃3日間、暗黒下で培養した。3日間の培養後、カルベニシリン500mg/lを含む3%スクロース水溶液で白濁しなくなるまで十分に洗浄し、カルベニシリン500mg/l及びハイグロマイシン10mg/lを含んだN6D固形培地上で1週間培養した。その後カルベニシリン500mg/l及びハイグロマイシン50mg/lを含んだN6D固形培地に移植して、18日間培養した。さらにこのカルスを再分化培地(1リットル当たり:ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類(日本製薬社製)4.6g、スクロース30g、ソルビトール30g、カザミノ酸2g、ミオイノシトール100mg、グリシン2mg、ニコチン酸0.5mg、ピリドキシン塩酸0.5mg、チアミン塩酸0.1mg、NAA 0.2mg、カイネチン2mg、カルベニシリン250mg、ハイグロマイシン50mg、アガロース8g、pH5.8)に移植した。1週間ごとに新しい培地に移植し直し、再分化して芽が1cm程度に生長したものはホルモンフリー培地(1リットル当たり:ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類(日本製薬社製)4.6g、スクロース30g、グリシン2mg、ニコチン酸0.5mg、ピリドキシン塩酸0.5mg、チアミン塩酸0.1mg、ハイグロマイシン50mg、ゲルライト2.5g、pH5.8)に移植した。ホルモンフリー培地上で8cm程度に生長した植物体を合成粒状培土ボンソル1号(住友化学社製)を入れた植木鉢に移し、形質転換植物体の種子を得た。
同様にして、rd29Aプロモーター(Nature Biotechnology(1999)17,287−291)、又は35Sプロモーター、salTプロモーター(配列番号5)をGUS遺伝子上流に結合したコンストラクトを作製し、イネ及び/又はタバコに導入した。
なお、salTプロモーターは、LIP9プロモーターと同様のスクリーニングによってイネゲノム中より単離されたストレス誘導性プロモーターである。salTプロモーターに対応するマイクロアレイ上のcDNAのID No.は、a2660である。salTプロモーターは、その構造中に特別なシス配列はもたないが、アブシジン酸、乾燥、低温、塩の各ストレスにより発現が誘導されることが確認されている(特願2002−377316号参照)。
(2)乾燥ストレスに対するプロモーター活性
得られたGUS発現形質転換イネのT世代は2週間水耕栽培し、実施例1と同様にして乾燥ストレスに暴露した。
Gus発現形質転換タバコの場合、T世代は再生してきた植物体をプラントコーン内で3〜5週間生育させ、生長した葉を2等分し、一方をコントロールとし片方を室温で風乾し乾燥ストレスに暴露した。
各形質転換イネ及びタバコについて、4−methylumbelliferyl−β−D−glucuronideの分解による蛍光強度の変化からGUS活性を測定した。図4に、乾燥ストレス負荷時における各種プロモーター導入形質転換植物のGUS活性を示す。
図4から明らかなように、単子葉植物であるイネでは、rd29AプロモーターよりもsalTプロモータやLIP9プロモーターがより強いストレス誘導性を示した。特に、LIP9プロモータはsalTの約2倍という、強い活性を示した。LIP9プロモーターは双子葉植物であるタバコでもストレス誘導性プロモーター活性を示したが、イネに比較してその活性は弱かった。
(3)塩ストレスに対するプロモーター活性
次に、LIP9プロモーター−GUSコンストラクト導入イネの植物体全体を塩水に浸し、GUS染色を行ったところ、植物体全体が染色された(図5)。このことから、LIP9プロモーターは、ストレスを負荷された植物体全体で機能することが確認された。
〔実施例4〕ストレスに対するWSI724プロモーター活性
実施例3と同様にして、WSI724プロモーターで形質転換したイネを作製し、そのストレス耐性を確認した。
(1)トランスジェニック植物の作製
pBIG29APHSNotのプロモーター部位をトウモロコシのユビキチンプロモーターに置換して作られたG−ubiプラスミドをBamHI−HindIIIで切断し、同様に切断したWSI724プロモーターの断片と連結した。WSI724プロモーターを組み込んだプラスミドをBamHIで切断して末端を平滑化した後、pBIGベクターのSmaIで切断した部位に連結してGUS発現コンストラクト(WSI724:GUS)を作製した。次いで、プラスミドWSI724:GUSを、培養後10% glycerolで洗浄したアグロバクテリウムEHA105にエレクトロポレーション法によって導入し、アグロバクテリウムEHA105(WSI724:GUS)を作製した。このアグロバクテリウムEHA105(WSI724:GUS)をイネに感染させ、形質転換体を作製した。
(2)乾燥ストレスに対するプロモーター活性
得られたGUS発現形質転換イネを実施例3と同様にして乾燥ストレスに暴露し、4−methylumbelliferyl−β−D−glucuronideの分解による蛍光強度の変化からGUS活性を測定した。その結果、乾燥ストレスを負荷(切り取って24時間放置)した形質転換イネの葉では、コントロール(切り取ってすぐに凍結)の葉に比較して、高いGUS活性が認められた。また、乾燥ストレス(24時間)負荷後の形質転換イネをGUS染色したところ、根と葉の両方でGUS活性が認められた。
〔実施例5〕形質転換イネ中の導入遺伝子とLIP9及びWSI724遺伝子の発現
実施例3と同様にして、トウモロコシのユビキチンプロモーター、又は35Sプロモーター支配下にOsDREB1A遺伝子(配列番号6)又はDREB1C遺伝子(配列番号8)をイネに導入した形質転換体を作製した。そして、形質転換体の導入遺伝子OsDREB1A及びDREB1Cと、導入遺伝子が発現を変化させたと考えられるLIP9(a0022)、WSI724(a0066)、salT(a2660)のmRNAレベルをノザン解析により調べた。
プローブとしては、OsDREB1A遺伝子(配列番号6)、DREB1C遺伝子(配列番号7)、LIP9遺伝子(a0022:配列番号2)、WSI724遺伝子(a0066:配列番号8)、salT遺伝子(a2660:配列番号9)を用いた(配列番号6、7については、配列表中の各コーディング領域の配列をプローブとして使用)。なお、コントロールとして、ベクターのみを形質転換したイネを同様に解析した。
形質転換イネは、5日間30mg/mlハイグロマイシンを含む0.1%ベンーレート溶液中で選抜した後、ボンソル1号の入った鉢に植え替えて12日間育てた。野性株も同様に育てた。各植物から全RNAを調製して、電気泳動を行い、実施例1と同様にノザン法で各遺伝子の発現を見た。結果を図6に示す。図中、a、b、cはそれぞれ形質転換体のラインを示す。
この結果、OsDREB1A、DREB1C遺伝子を導入された形質転換イネでは、プロモーター領域にDRE配列を持つLIP9の発現は誘導されたが、プロモーター領域にDRE配列を持たないsalTの発現は導入遺伝子(OsDREB1AやDREB1C)の発現と一致しなかった。また、LIP9と同様にプロモーター領域にDRE配列を持ち、OsDREBのターゲットになっていると予想されているWSI724遺伝子の発現も、これら形質転換体で誘導された。
LIP9やWSI724プロモーター上にはDRE配列が存在し、OsDREB1A遺伝子の過剰発現体ではLIP9遺伝子やWSI724遺伝子が高発現している。LIP9やWSI724はOsDREB1AをはじめとするOsDREB遺伝子の標的遺伝子と考えられ、したがってLIP9やWSI724プロモーターはOsDREB遺伝子を過剰発現するための最適なプロモーターと推定された。
〔参考例1〕pBE35S:OsDREB1A,G−ubi:OsDREB1A及びG35S−ShΔ:OsDREB1Aの作製
まず、G−ubi,G35S−ShΔは以下のように作製した。まずpBIGプラスミド(Nucleic Acids Research 18:203(1990))をBamHIで切断・平滑化処理した後、連結してBamHI切断部位をつぶし、さらにHindIIIとEcoRIで切断した。この断片とpBE2113Notプラスミドを同様に切断して得られる約1.2kbの断片とを連結して、pBIG2113Notプラスミドを作製した。
つぎにpBIG2113NotをHindIIIとBamHIで切断し、同様に切断されたrd29Aプロモーターの断片(約0.9kb,Nature biotechnology 17:287−291(1999))と連結して、pBIG29APHSNotプラスミドを作製した。さらにこのpBIG29APHSNotプラスミドをHindIIIとSalIで切断後、同様に切断されたトウモロコシのユビキチン遺伝子(Ubi−1)のプロモーターの断片(約2.0kb,Plant Molecular Biology 18:675−689(1992))又はp35S−shΔ−stopのCaMV 35Sプロモーターとトウモロコシのスクロースシンターゼ遺伝子(Sh1)のイントロンの一部を含んだ断片(約1.6kb,Proceeding National Academy of Science USA 96:15348−15353(1999))と連結してG−ubiプラスミド又はG35S−ShΔプラスミドを作製した。
前記pBE2113Not,G−ubi及びG35S−ShΔはそれぞれBamHIで切断した後、同様に切断したイネの転写因子をコードするOsDREB1A遺伝子断片とligation high(東洋紡社製)を用いて連結し、得られた連結物により大腸菌DH5αを形質転換した。形質転換体を培養後、該培養物からプラスミドpBE35S:OsDREB1A,G−ubi:OsDREB1A及びG35S−ShΔ:OsDREB1Aをそれぞれ精製した。次いで、これらの塩基配列を決定し、OsDREB1A遺伝子がセンス方向に結合したものを選抜した。
上記のプラスミドpBE35S:OsDREB1Aを持つ大腸菌DH5αとヘルパープラスミドpRK2013を持つ大腸菌HB101及びアグロバクテリウムC58を共に、LB寒天培地を用いて28℃で24時間混合培養した。生成したコロニーを掻き取り、1mlのLB培地に懸濁した。この懸濁液10μlをリファンピシリン100mg/l、及びカナマイシン20mg/lを含むLB寒天培地に塗布し、28℃で2日間培養して、接合体アグロバクテリウムC58(pBE35S:OsDREB1A)を得た。一方上記のプラスミドG−ubi:OsDREB1AとG35S−ShΔ:OsDREB1Aのプラスミドを、培養後10% glycerolで洗浄したアグロバクテリウムEHA105にエレクトロポレーション法によって導入し、アグロバクテリウムEHA105(G−ubi:OsDREB1A)とアグロバクテリウムEHA105(G35S−ShΔ:OsDREB1A)をそれぞれ得た。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、単子葉植物において有効に機能しうるストレス誘導性プロモーターが提供される。該プロモーターはDRE配列を含み、したがって、その支配下にOsDREB遺伝子等を連結して植物に導入すれば、イネ等の単子葉植物において、強いストレス耐性トランスジェニック植物を作出することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号3−人工配列の説明:プライマー
配列番号4−人工配列の説明:プライマー
配列番号11−人工配列の説明:プライマー
配列番号12−人工配列の説明:プライマー
【配列表】










【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のDNAからなる、イネ由来のプロモーター。
(a)配列番号1又は配列番号10で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1又は配列番号10で表される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつストレス誘導性のプロモーター活性を有するDNA
【請求項2】
前記ストレスが乾燥ストレス、低温ストレス又は塩ストレスである請求項1記載のプロモーター。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプロモーターを含む組換えベクター。
【請求項4】
請求項1又は2記載のプロモーター支配下にさらにストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子を機能しうる態様で含む、請求項3記載のベクター。
【請求項5】
ストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子がプロリン合成の鍵酵素P5CS遺伝子、ガラクチノール合成遺伝子AtGolS3遺伝子、シロイヌナズナ由来転写因子DREB遺伝子、イネ由来転写因子OsDREB遺伝子、及びABA合成酵素NCED遺伝子から選ばれる、請求項4記載のベクター。
【請求項6】
ストレス耐性を向上させる構造遺伝子及び/又は調節遺伝子がイネ由来転写因子OsDREB遺伝子である、請求項5記載のベクター。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のベクターを宿主に導入して得られる形質転換体。
【請求項8】
宿主が植物である、請求項7記載の形質転換体。
【請求項9】
宿主が単子葉植物である、請求項8記載の形質転換体。
【請求項10】
請求項1又は2記載のプロモーターを植物に導入することにより、該植物のストレス耐性を向上させる方法。

【国際公開番号】WO2004/085641
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503987(P2005−503987)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002563
【国際出願日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【出願人】(501174550)独立行政法人国際農林水産業研究センター (22)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【Fターム(参考)】