説明

ストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維

【課題】 単糸繊度が小さく、かつ優れた潜在捲縮性能を有する複合繊維であって、複合繊維単独で用いた場合及び他の繊維と複合化した場合ともに、織編物に膨らみ感、ストレッチ性に加えて、極めてソフトな風合いを付与することができるストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維を提供する。
【解決手段】 溶融粘度が異なる2種類のポリエステル成分が互いにサイドバイサイド型に貼り合わされた形状を呈し、単糸繊度が1.5dtex以下である複合繊維であって、高溶融粘度ポリエステル成分は、ポリエチレンテレフタレートと2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、スルホン酸塩基化合物、イソフタル酸のうち少なくとも1種を含有するものであり、かつ複合繊維を構成するポリエステルの極限粘度差が特定範囲を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融粘度の異なる2種類のポリエステル成分からなり、単糸繊度の小さい複合繊維であって、潜在捲縮性能を有することにより、ふくらみ感と従来にない軽量でソフトな風合いとストレッチ性を兼ね備えた布帛を得ることができるストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、優れた機械的特性と化学的特性を有しており、繊維分野においても様々な用途に使用されている。そして、この用途の一つとして、ストレッチ性能を有する織編物を得るために、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルをサイドバイサイド型に接合し、製織編後の加工時に受ける熱により捲縮性能を発現する潜在捲縮性を有する複合繊維が使用されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
このような潜在捲縮性を有する繊維は、製織編後に捲縮を発現することに嵩高となり、織編物に膨らみ感を与えることができ、かつストレッチ性能とソフトな風合いを付与することもできる。これらの潜在捲縮性繊維は、単独で織編物に加工して使用することもできるが、他の様々な繊維と混繊や交絡することにより複合して加工糸として使用することもでき、組み合わせる相手の繊維の特性を活かしつつ上記したような性能を付与することが可能となり、多用途に使用されている。
【0004】
近年、このような繊維素材の複合化の要望が高まるとともに、上記したような性能に加えて、さらにソフトな風合いを付与することができる潜在捲縮性繊維が求められている。このような風合いを発現させるためには、その方法の一つとして、潜在捲縮性繊維の単糸繊度を小さくすることが考えられるが、単糸繊度が小さくなると、ソフトな風合いは得られるものの、捲縮性能が低下し、十分なストレッチ性が得られないという問題があった。
【0005】
この問題を改善するためには、捲縮性能を向上させることが考えられるが、その手段として2種類のポリエステル成分の極限粘度差を大きくすると、溶融紡糸時の吐出糸条の屈曲が大きくなる。このように吐出糸条の屈曲が大きくなると、糸条が紡糸口金に付着して切断が生じ、安定して紡糸を行うことができないという問題があった。特に、単糸繊度の小さい繊維においては、吐出直後に屈曲しやすく、紡糸口金に付着、切断する確率が高いものであった。以上のように、単糸繊度の小さい繊維でありながら、十分な潜在捲縮性能を有するポリエステル複合繊維は未だ提案されていなかった。
【特許文献1】特開平11−241229号公報
【特許文献2】特開2000−212838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、単糸繊度が小さく、かつ優れた潜在捲縮性能を有する複合繊維であって、複合繊維単独で用いた場合及び他の繊維と複合化した場合ともに、織編物に膨らみ感、ストレッチ性に加えて、極めてソフトな風合いを付与することができるストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、高溶融粘度ポリエステル成分に特定の成分を特定量含有させ、両ポリエステル成分の極限粘度差を適切な範囲とすることにより、従来のように両ポリエステル成分の極限粘度差を大きくしなくても潜在捲縮率の高い繊維とすることができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、溶融粘度が異なる2種類のポリエステル成分が互いにサイドバイサイド型に貼り合わされた形状を呈し、単糸繊度が1.5dtex以下である複合繊維であって、高溶融粘度ポリエステル成分は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートと、以下の(a)〜(c)の3成分のうち少なくとも1種を含有し、(a)〜(c)の成分の総含有量が高溶融粘度ポリエステル成分全体において5〜15モル%であるものであって、低溶融粘度ポリエステル成分はエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートであり、かつ下記(1)を満足することを特徴とするストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維を要旨とするものである。
(a)2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン
(b)スルホン酸塩基化合物
(c)イソフタル酸
(1)0.05≦〔Η〕A−〔Η〕B≦0.30
ただし、〔Η〕Aは高溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度、〔Η〕Bは低溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維は、単糸繊度が小さくても優れた潜在捲縮性能を有する複合繊維であって、複合繊維単独で用いた場合及び他の繊維と複合化した場合ともに、得られる織編物に膨らみ感、ストレッチ性に加えて、極めてソフトな風合いを付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル複合繊維は、溶融粘度が異なる2種類のポリエステル成分(高溶融粘度ポリエステル成分と低溶融粘度ポリエステル繊維)が互いにサイドバイサイド型に貼り合わされた形状を呈するものである。
【0011】
高溶融粘度ポリエステル成分は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)を主成分とするものであって、エチレンテレフタレートの繰り返し単位が90%以上のPETとすることが好ましい。そして、PETに2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、スルホン酸塩基化合物、イソフタル酸の少なくとも1種を含有するものである。
【0012】
これらの2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、スルホン酸塩基化合物、イソフタル酸の少なくとも一種を含有することで、高溶融粘度ポリエステル成分は、熱収縮率が高くなり、低溶融粘度ポリエステル成分との熱収縮率差を大きくすることができ、その結果、繊維全体の潜在捲縮率を高めることが可能となる。つまり、高溶融粘度ポリエステル成分と低溶融粘度ポリエステル繊維の極限粘度差をあまり大きくしなくても潜在捲縮率を高めることができるので、単糸繊度の小さい繊維であっても紡糸直後の糸条の屈曲が小さく、操業性よく生産することが可能となる。
【0013】
2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、スルホン酸塩基化合物、イソフタル酸の総含有量は、高溶融粘度ポリエステル成分中において5〜15モル%の範囲にあることが必要であり、中でも6〜12モル%とすることが好ましい。これらの成分を含有させるには、PETと共重合させたものとすることが好ましいが、ブレンドさせたものでもよい。
【0014】
これらの含有量が5モル%未満では、十分な潜在捲縮性能が得られず、一方、含有量が15モル%を超えると、紡糸性が阻害されたり、繊維強度が損なわれることになり好ましくない。
【0015】
中でも、2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンは、熱収縮性を向上させる効果が大きいため、高溶融粘度ポリエステル成分中に2モル%以上含有することが好ましく、中でも4モル%以上含有することが好ましい。
【0016】
さらには、高溶融粘度ポリエステル成分は、2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンに加えてスルホン酸塩基化合物、イソフタル酸のいずれか一方を含有することが好ましい。
【0017】
また、スルホン酸塩基化合物としては、特に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましい。スルホン酸塩基化合物の含有量は1モル%以上とすることが好ましく、イソフタル酸の含有量は2モル%以上とすることが好ましい。
【0018】
本発明の複合繊維を構成する低溶融粘度ポリエステル成分は、PETを主体とするものであれば、特に限定されるものではないが、エチレンテレフタレート成分の繰り返し単位が、95%以上であるPETとすることが好ましい。そして、高溶融粘度ポリエステル成分より熱収縮性が低くなるようにするため、結晶性を大きく阻害する成分が含まれたものや、高溶融粘度ポリエステル成分に含有させる2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、スルホン酸塩基化合物、イソフタル酸等を含有するものは好ましくない。
【0019】
なお、両ポリエステル成分中には、本質的な特性を損なわない限り、艶消剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤、抗菌剤、導電性付与剤等の他の成分を少量含有していてもよい。
【0020】
さらに、本発明の複合繊維においては、(1)式に示すように、高溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度〔Η〕Aと低溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度〔Η〕Bの差は、0.05〜0.3とし、中でも0.05〜0.15とすることが好ましい。
ここで、極限粘度とは、ポリエステルをフェノールとテトラクロロエタンの1:1混合溶媒で溶解し、ウベローデ粘度計を使用して、20℃で測定した値である。
【0021】
〔Η〕A−〔Η〕Bが0.05未満の場合には、捲縮性能の発現が不十分となり、十分なふくらみ感やストレッチ性能を有する布帛を得ることが困難になる。一方、〔Η〕A−〔Η〕Bが0.3を超えると、両ポリエステルの複合流が紡糸口金から吐出される際、糸条の屈曲が大きくなり、糸条が紡糸口金に付着して切断が生じ、安定して紡糸を行うことが困難となる傾向がある。
【0022】
本発明においては、上記したように高溶融粘度ポリエステル成分が熱収縮率差を大きくすることができる成分を含有しているので、極限粘度差をあまり大きくしなくても潜在捲縮率の高い複合繊維とすることができ、〔Η〕A−〔Η〕Bが0.05〜0.12であっても十分な潜在捲縮性能を有するものとなる。
また、それぞれの極限粘度としては、〔Η〕Aは0.45〜0.90、〔Η〕Bは0.40〜0.70とすることが好ましい。
【0023】
次に、本発明の複合繊維の単糸繊度は1.5dtex以下であり、0.8dtex以上とすることが好ましい。単糸繊度が1.5dtexを超えると、従来にない優れたソフト性を得ることが困難となる。一方、単糸繊度が、0.8dtex未満であると、捲縮性能の発現が不十分となりやすく、十分なふくらみ感とストレッチ性能を有する布帛を得ることが困難となる傾向があるばかりでなく、紡糸時に糸条が紡糸口金に付着しやすくなり、安定して紡糸を行うことが困難となりやすい。
【0024】
さらに、本発明の複合繊維は、潜在捲縮性能として、C100を30以上とすることが好ましく、中でも35以上とすることが好ましい。すなわち、C100は、本発明の複合繊維を100℃、30分間沸水処理した際の捲縮率であり、潜在捲縮率を示す値である
【0025】
本発明におけるC100は、本発明の複合繊維を外周1.125mの検尺機で5回かせ取りして2重にし、30分間沸水処理(処理時には繊維に1/6000g/dtexの加重を掛けた状態とする)した後に、1/500g/dtexの加重を掛けた状態の長さをA、加重を1/20g/dtexに掛け替えた状態の長さをBとし、以下の式で算出するものである。 C100(%)=〔(B−A)/B〕×100
【0026】
C100を30以上とすることにより、複合繊維単独で用いた場合及び他の繊維と複合化した場合ともに、他素材の種類や加工条件の選定を問わず、織編物にしたときに優れたふくらみ感とストレッチ性能を付与することが可能となる。C100が30未満であると、捲縮の発現が不十分となり、十分なふくらみ感とストレッチ性能を付与することが困難となりやすい。
【0027】
C100の上限は特に限定するものではないが、あまり高くなりすぎると、後加工により潜在捲縮性が発現した際に、布帛の品位が低下することがあるため、75以下とすることが好ましい。
【0028】
さらに、本発明の複合繊維は、2種類のポリエステル成分が互いにサイドバイサイド型に貼り合わされた形状を呈するものであるが、両ポリエステル成分の接合面が湾曲している形状のものが好ましい。このような形状について、図面を用いて説明する。
【0029】
図1は、本発明の複合繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状の一実施態様を示す断面模式図である。
【0030】
そして、両ポリエステル成分の接合面が湾曲している程度を示すものとして、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面において、両ポリエステル成分の接合面を示す線分Lの長さ(r2)と、接合面を示す線分Lが繊維外周と接する2つの接合点a、bを直線で結んだ線分Mの長さ(r1)の比(r2 /r1)が1.1〜1.8であることが好ましい。
【0031】
本発明の複合繊維は潜在捲縮性能を有し、後加工により捲縮が発現されると、3次元クリンプ(スパイラルクリンプ)形態の捲縮が発現される。繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面における2種類のポリエステル成分の接合面が湾曲していることによって、2種類のポリエステルの接合面が直線的であるものに比べて、発現する3次元クリンプ(スパイラルクリンプ)の形態が大きいものとなり、得られる布帛に十分なふくらみ感とストレッチ性を付与することが可能となる。
【0032】
r2 /r1を1.1以上とすることで、上記したような、後加工により発現する捲縮の3次元クリンプの形態が大きくなる効果が向上する。ただし、一方、1.8を超えると、繊維の断面における両ポリエステル成分の接合面の湾曲が大きくなりすぎ、紡糸直後の糸条の屈曲が大きくなり、紡糸口金への付着が多発する傾向にあり好ましくない。
【0033】
なお、このように両ポリエステル成分がサイドバイサイド型に貼り合わされ、かつ接合面が湾曲したものとするには、前記したような両成分の極限粘度差や高溶融粘度ポリエステル成分中に含有させる(a)〜(c)成分の種類や量、単糸繊度に応じて、紡糸温度や冷却条件を適切な値にすることにより可能となる。
【0034】
さらに、複合繊維における両ポリエステル成分の比率は、質量比で40/60〜60/40の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることにより、後加工により発現する捲縮の数、大きさともに十分なものとなり、優れた潜在捲縮性を有するものとすることができる。
【0035】
本発明の複合繊維は、短繊維であっても長繊維であってもよい。そして、長繊維の場合は、総繊度が25〜150dtexのものとして用いることが好ましく、短繊維の場合は、紡績糸にして用いることが好ましい。
【0036】
次に、本発明の複合繊維の製造方法ついて一例を用いて説明する。本発明の複合繊維は、通常の複合紡糸型溶融紡糸装置を用いて製造することができる。まず、紡糸口金の背面で、両ポリエステル成分をサイドバイサイド型になるように合流させ、同一紡糸孔から吐出し紡糸する。その際、紡糸温度は、ポリエステル成分の極限粘度によって適宜選定されるが、通常、280℃〜310℃の範囲が好ましい。紡出された糸条は、冷却風を吹き付けることにより冷却固化させた後、紡糸油剤を付与して1000〜4000m/分の速度で引き取り、一旦捲取った後、延伸機により熱延伸を施すか、あるいは引き取った糸条を紡糸に連続して熱延伸することにより、本発明の複合繊維を得ることができる。
【0037】
上記製法における延伸倍率は、引き取った時点での繊維の残留伸度により適宜選定することが好ましく、延伸後の残留伸度が15〜40%の範囲になるように延伸倍率を選定することが好ましい。残留伸度がこの範囲より高いと、十分な捲縮を発現できる潜在捲縮性能を有するものとすることが困難となりやすい。また、残留伸度がこの範囲より低いと、延伸時に単糸の切断が発生する等、操業的に問題が生じやすく好ましくない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における各種の値の測定及び評価は次の通りに行った。
(1)極限粘度
前記の方法で測定した。
(2)強伸度
オリエンテック社製万能引張り試験機テンシロンRTC1210型を用いて、試料長500mm、引張速度500mm/分で応力−伸長曲線を測定し、繊維の最大点強力から強度と伸度を求めた。
(3)C100(潜在捲縮率)
前記の方法で測定し、算出した。
(4)ストレッチ性、ソフト性
得られた複合繊維に1500T/Mの加撚(S撚、撚係数K11000)を施し、引き続き80℃、40分間の条件で真空熱セットを行った。この糸を経糸と緯糸に用いて経密度110本/2.54cm、緯密度80本/2.54cmの平織の織物を製織し、精練後、100℃の沸水中で30分間処理し、次いで風乾して織物を得た。
この織物を10人のパネラーにより官能評価した。ストレッチ性、ソフト感のそれぞれについて、1〜10点の10段階で評価(10点が最も優れているものとした)させ、10人の平均値で示した。
(5)両ポリエステル成分の接合面の湾曲(r2/r1)
得られた複合繊維の単繊維について、それぞれ繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面の断面写真を撮り、拡大コピー機で実質寸法の約300倍まで拡大し、この写真よりr1、r2の長さを実測し、r2/r1を算出した。ランダムに選んだ複合繊維10本から単糸を1本取り出し、10本分測定したものの平均値とした。
【0039】
実施例1
PETに2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン(以下、BP−A/EOとする)を4.5モル%、イソフタル酸(IPA)を4.0モル%共重合したものであって、極限粘度が0.73のものを高溶融粘度ポリエステル成分とした。低溶融粘度ポリエステル成分としては極限粘度が0.64のPETを用いた。
両ポリエステル成分を複合紡糸型溶融押出機に等量供給し、紡糸温度295℃で溶融し、紡糸孔を48個有する紡糸口金の背面で両成分で合流させ、サイドバイサイド型に接合して紡出した。紡出した糸条を冷却固化した後、油剤を付与しながら糸条を集束し、表面速度が3000m/分の引取ローラを介して捲取機で捲取った。
次いで、得られた繊維を延伸機に供給し、表面温度85℃のローラと170℃のホットプレートを介して延伸倍率1.6倍で延伸した。
得られた複合繊維は56デシテックス/48フィラメント(単糸繊度1.2dtex)であった。
【0040】
実施例2
低溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度を0.44に変更した以外は実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
【0041】
実施例3
PETにBP−A/EOを4.0モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)を2.0モル%共重合したものであって、極限粘度が0.70のものを高溶融粘度ポリエステル成分として用いた以外は実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
【0042】
実施例4
PETにIPAを5.0モル%、SIPを2.5モル%共重合したものであって、極限粘度が0.71のものを高溶融粘度ポリエステル成分として用いた以外は実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
【0043】
実施例5
紡糸孔を62個有する紡糸口金を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
得られた複合繊維は56デシテックス/62フィラメント(単糸繊度0.9dtex)であった。
【0044】
実施例6
紡糸孔を38個有する紡糸口金を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
得られた複合繊維は56デシテックス/38フィラメント(単糸繊度1.5dtex)であった。
【0045】
比較例1
高溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度を0.67に変更した以外は実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
【0046】
比較例2
PETにBP−A/EOを1.5モル%、IPAを2.0モル%共重合したものであって、極限粘度が0.73のものを高溶融粘度ポリエステル成分として用いた以外は実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
【0047】
比較例3
PETにBP−A/EOを1.5モル%、SIPを2.0モル%共重合したものであって、極限粘度が0.73のものを高溶融粘度ポリエステル成分として用いた以外は実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
【0048】
比較例4
PETにBP−A/EOを6.0モル%、SIPを6.0モル%、IPAを6.0モル%共重合したものであって、極限粘度が0.73のものを高溶融粘度ポリエステル成分として用いた以外は実施例1と同様に行った。
延伸時に毛羽や糸切れが多発し、複合繊維を得ることができなかった。
【0049】
比較例5
低溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度を0.40に変更した以外は実施例1と同様に行った。
両ポリエステル成分の極限粘度差が大きいため、溶融紡糸時に吐出糸条の屈曲が大きくなりすぎ、糸条が紡糸口金に付着して切断が発生し、繊維を採取することができなかった。
【0050】
比較例6
紡糸孔を28個有する紡糸口金を用いて紡糸した以外は、実施例1と同様に行い、複合繊維を得た。
得られた複合繊維は56デシテックス/28フィラメント(単糸繊度2.0dtex)であった。
【0051】
実施例1〜6、比較例1〜6で得られた繊維の単糸繊度、強伸度、C100、接合面の湾曲、ストレッチ性、ソフト感の測定値及び評価結果を併せて表1に示す。
【0052】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜6の複合繊維は、いずれも十分な強伸度、潜在捲縮性能を有し、得られた織物はストレッチ性、ソフト性ともに優れていた。
【0053】
一方、比較例1の複合繊維は、両ポリエステル成分の溶融粘度差が小さいため、比較例2、3の複合繊維は、高溶融粘度ポリエステル成分の共重合成分の含有量が少なかったため、いずれも潜在捲縮率が低く、得られた織物はストレッチ性に乏しいものであった。比較例4の複合繊維は、高溶融粘度ポリエステル成分の共重合成分の含有量が多すぎたため、延伸時に毛羽が多発し、繊維を採取することができなかった。比較例5は、両ポリエステル成分の極限粘度差(〔Η〕A−〔Η〕B)が大きすぎたため、溶融紡糸時に吐出糸条の屈曲が大きくなりすぎ、糸条が紡糸口金に付着して切断が発生し、繊維を採取することができなかった。比較例6の複合繊維は、ポリエステル繊維の単糸繊度が大きかったため、得られた織物はソフト性に乏しいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の複合繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状の一実施態様を示す断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融粘度が異なる2種類のポリエステル成分が互いにサイドバイサイド型に貼り合わされた形状を呈し、単糸繊度が1.5dtex以下である複合繊維であって、高溶融粘度ポリエステル成分は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートと、以下の(a)〜(c)の3成分のうち少なくとも1種を含有し、(a)〜(c)の成分の総含有量が高溶融粘度ポリエステル成分全体において5〜15モル%であるものであって、低溶融粘度ポリエステル成分はエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートであり、かつ下記(1)を満足することを特徴とするストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維。
(a)2,2−ビス{4−(Β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン
(b)スルホン酸塩基化合物
(c)イソフタル酸
(1)0.05≦〔Η〕A−〔Η〕B≦0.30
ただし、〔Η〕Aは高溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度、〔Η〕Bは低溶融粘度ポリエステル成分の極限粘度である。
【請求項2】
溶融粘度が異なる2種類のポリエステル成分が互いにサイドバイサイド型に貼り合わされた形状において、両ポリエステル成分の接合面が湾曲しており、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面における、両ポリエステル成分の接合面を示す線分の長さ(r2)と、接合面を示す線分が繊維外周と接する2つの接合点を直線で結ぶ線分の長さ(r1)の比が下記(2)を満足する請求項1記載のストレッチ性を有する細繊度ポリエステル複合繊維。
(2)1.1≦r2/r1≦1.8

【図1】
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