説明

スパイノルフィンの測定方法

【課題】生体試料中のスパイノルフィンを精確に高感度で測定する方法を提供する。
【解決手段】(A)生体から採取した試料をトリクロロ酢酸と混合して得られる溶液相を逆相カラムに付し、溶媒でスパイノルフィンを溶出する工程;(B)前記(A)工程で溶出したスパイノルフィンを、担体に固相化したスパイノルフィン及びスパイノルフィン抗体と接触させる工程;(C)担体に固相化されたスパイノルフィンと結合しなかったスパイノルフィン抗体を除去する工程;(D)前記(C)工程の担体に固相化されたスパイノルフィンと結合したスパイノルフィン抗体に、特異的に結合する標識二次抗体を接触させ、担体に固相化したスパイノルフィンに結合したスパイノルフィン抗体と標識二次抗体とを結合する工程;及び(E)スパイノルフィン抗体と結合している標識二次抗体の標識量を測定する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者から分離した試料中のスパイノルフィンを測定する方法に関する。また、本発明は、前記スパイノルフィンの測定方法の関節リウマチ疾患推定のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイノルフィンは、脊髄から単離精製された7個のアミノ酸からなる内因性生理活性ペプタイドである。スパイノルフィンは、痛みの伝達や制御に関与するエンケファリンの分解酵素阻害活性及びアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する化合物である(特許文献1参照)。更に、近年、スパイノルフィンは、オピオイド活性や好中球の遊走能を阻害する等、免疫や炎症−神経系における多様な機能に関与しているとされている。また、スパイノルフィンは、エンケファリンに比べて生体内での半減期が長いため、エンケファリンとの併用投与により、より優れた鎮痛効果を考え得る。さらに、外的にスパイノルフィンを生体内に投与すると、血液−脳関門を通過するのでスパイノルフィンが生体内でエンケファリン分解酵素阻害物質として副作用のない非麻薬性鎮痛薬として作用し得るとして注目されている物質である(非特許文献1参照)。しかし、スパイノルフィンと関節リウマチ又は変形性関節炎との関係は知られていない。
【0003】
脊髄液等の体液中のスパイノルフィンの測定はオクタデシルシリカ(ODS)カラムを接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、トリアセチルアミン・リン酸緩衝液からアセトニトリルの直線的濃度勾配(10〜40%/20分、1.5mL/分)にて展開する方法が知られている(特許文献2参照)。
しかし、この方法では、複数の試料を同時に測定するには、時間を要し、試料中のスパイノルフィンが分解等により変化をきたし、精確な試料中濃度の測定が困難であるなど満足すべきものではなかった。
【特許文献1】特開平3−167199号公報
【特許文献2】特開2000−95794号公報
【非特許文献1】西村欣也ら他3名、麻酔、1993年、第42巻、p.1663−1670
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生体試料中のスパイノルフィンを精確に高感度で測定する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記スパイノルフィンの測定方法を使用して関節リウマチ(以下、RAと略記する。)と変形性関節炎(以下、OAと略記する。)を区別し容易にRAと推定し、診断できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、生体試料中に含まれるスパイノルフィンを精確に高感度で測定する方法について鋭意研究を行った。その結果、スパイノルフィンを含む生体試料をトリクロロ酢酸で処理した後、その溶液相を逆相カラムに充填し、溶媒で溶出したスパイノルフィンを、特定の競合酵素免疫法を適用することにより、生体試料中のスパイノルフィンを精確に高感度で測定でき得ることを見出した。さらに前記スパイノルフィンの測定方法を用いてRA患者とOA患者から採取した滑液中のスパイノルフィン量を測定したところ、RA患者の滑液中のスパイノルフィン量がOA患者より低く、RA患者を識別できることを知見した。本発明者らはこれら知見に基づき更に研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
〔1〕 下記(A)〜(E)工程を含む生体試料中のスパイノルフィンの測定方法;
(A)生体から採取した試料をトリクロロ酢酸と混合して得られる溶液相を逆相カラムに付し、溶媒でスパイノルフィンを溶出する工程;
(B)前記(A)工程で溶出したスパイノルフィンを、担体に固相化したスパイノルフィン及びスパイノルフィン抗体と接触させる工程;
(C)担体に固相化されたスパイノルフィンと結合しなかったスパイノルフィン抗体を除去する工程;
(D)前記(C)工程の担体に固相化されたスパイノルフィンと結合したスパイノルフィン抗体に、特異的に結合する標識二次抗体を接触させ、担体に固相化したスパイノルフィンに結合したスパイノルフィン抗体と標識二次抗体とを結合する工程;及び
(E)スパイノルフィン抗体と結合している標識二次抗体の標識量を測定する工程、
〔2〕 前記〔1〕に記載された生体試料中のスパイノルフィンの測定方法の関節リウマチ疾患推定のための使用、
〔3〕 試料が関節滑液である前記〔2〕記載の使用
〔4〕 測定されたスパイノルフィンの試料中濃度が5ng/mL以下である、前記〔3〕記載の方法、
〔5〕 スパイノルフィン抗体、担体固相化用スパイノルフィン、スパイノルフィンを固相化するための担体及び標識二次抗体を含む試料中のスパイノルフィン濃度測定用キット、
〔6〕 スパイノルフィン抗体、スパイノルフィンが固相化された担体及び標識二次抗体を含む試料中のスパイノルフィン濃度測定用キット、及び
〔7〕 担体がマイクロタイタープレートであることを特徴とする前記〔5〕又は〔6〕記載のキット、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、逆相カラムで前処理された検体を特定の競合酵素免疫法に付することによりスパイノルフィンを精確に高感度で測定することができる。
本発明に従えば、試料中でのスパイノルフィンの分解等による濃度変化を無視できる時間内で複数の試料中のスパイノルフィンの測定ができる。
本発明のスパイノルフィンの測定方法に基づき測定された、関節痛患者の関節から採取された滑液中のスパイノルフィン量が5ng/mL以下である場合に、RA患者と推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の測定の対象となるスパイノルフィンは、エンケファリン分解酵素の生体内阻害剤としてウシ脳脊髄で発見された配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列:
Leu−Val−Val−Tyr−Pro−Trp−Thr
の7アミノ酸残基からなる水及び有機溶媒に溶解するオリゴペプチドである。スパイノルフィンは、公知の方法、例えば特開2000−95794号公報記載の方法により製造することができる。
【0009】
本発明において使用することのできる試料としては、特に制限はなく、スパイノルフィンを含有するものであればいずれも使用可能であり、例えば、ヒトを含む動物(例えば、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ネコ、ウサギ、モルモット等)の脳脊髄液、関節滑液、血液、血漿、血清、唾液又は尿等の生体試料並びに動物における各種の臓器や組織等を挙げることができる。
【0010】
以下に本発明の工程について説明する。
まず(A)工程は、生体から採取した試料をトリクロロ酢酸と混合して得られる溶液相を逆相カラムに付し、溶媒でスパイノルフィンを溶出する。
トリクロロ酢酸は、測定する生体試料によっても異なるが、約5〜20質量%トリクロロ酢酸水溶液として用いるのが好ましい。トリクロロ酢酸の量は生体試料中のタンパク質を沈殿させるに充分な量がよく、生体試料溶液の1容積に対し、前記トリクロロ酢酸水溶液を約0.5〜2容積比加えるのが好ましい。溶液相の分離手段はろ過、遠心分離等公知の方法を用い得る。
【0011】
本発明に用いられる逆相カラムとしては、例えばODSカラム等が好ましく挙げられる。ODSカラムとは、シリカゲル担体にオクタデシルシリル基(ODS基,C18基)を化学結合した充填剤が詰められているカラムである。ODSカラムとしては、例えばODS−A 60−60/30(YMC社製)、Inertsil ODS(ジーエルサイエンス株式会社製)、L−column ODS(財団法人化学物質評価研究機構製)、Develosil ODS UG−5(野村化学株式会社製)、CAPCELL PAK C18 MGII(株式会社資生堂製)、ZORBAX XDB−C18(横河アナリティカルシステムズ株式会社製)、Symmetry C18(ウォーターズ社製)、Nucleosil C18(M.ナーゲル社製)等を挙げることができる。
【0012】
スパイノルフィンの溶出に用いられる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜5のアルコールもしくはアセトニトリル、又はこれらの2種以上を混合した溶媒等或いは前記溶媒と水との混合溶媒が挙げられる。
【0013】
次いで、(B)工程において、前記(A)工程で溶出したスパイノルフィンを、担体に固相化したスパイノルフィン及びスパイノルフィン抗体と接触させる。
ここで、スパイノルフィンを固相化する担体としては、マイクロタイタープレートや試験管、ポリマービーズ等が挙げられるが、スパイノルフィンがオリゴペプチドであることから、前記担体表面にアミノ基、カルボキシル基等の活性な官能基を持たせたものや疎水性ポリマーのコートスライド〔例えばImmuno Plate,MaxiSorp(Nalge Nunc International)〕等を施したものが好ましい。担体へのスパイノルフィンの固相化は、前記担体の表面とスパイノルフィンを共有結合で結合させることが好ましい。前記結合はスパイノルフィンを緩衝液、例えばリン酸緩衝液又はトリス塩酸生理食塩水等に溶解し、前記担体と接触させ、少なくとも約30分以上、好ましくは約30〜120分、温度約0〜50℃、好ましくは室温で、インキュベートするのが好ましい。スパイノルフィンを固相化した担体はブロッキング剤でブロッキングすることが好ましい。ブロッキング剤としては、例えばスキムミルク、Block AceTM等が挙げられる。
【0014】
本発明で使用するスパイノルフィン抗体としては、スパイノルフィンに特異的に結合する抗体であれば、いずれの抗体も好ましく用いることができる。スパイノルフィン抗体は、スパイノルフィンを抗原として用いて、動物、例えばウサギ、ラット等を感作し、常法により分離・精製して容易に作製することができる。なお、スパイノルフィンは7アミノ酸から構成されるペプチドであり、通常、免疫原性を示すには短すぎるので、キャリアタンパク質を用いて免疫原性を増強させるためコンジュゲーションを行うのが好ましい。コンジュゲーションのためのキャリアタンパク質としては、例えばKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、ウシ血清アルブミン又はオバルブミン等が挙げられる。コンジュゲーションの方法としては、例えばスパイノルフィンのC末端のカルボキシル基をカルボジイミド(例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等)により活性化しキャリアプロテインの一級アミンと反応させるEDC法、又はMBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)型架橋剤を用い蛋白のアミノ基とペプチドのSH基を結合するMBS法等が挙げられる。
上記により作製された抗体としては、ポリクロナール抗体或いはモノクロナール抗体のいずれも使用することができる。
【0015】
上記で得られるスパイノルフィン抗体は、スパイノルフィンに特異的であることが好ましく、スパイノルフィン類似化合物、例えばVVYPWT(配列表:配列番号2)、VYPWT(配列表:配列番号3)、ヘモルフィン−4(YPWT;配列表:配列番号4)、PWT,LVVYPW(配列表:配列番号5)、タイノルフィン(VVYPW;配列表:配列番号6)、VYPW(配列表:配列番号7)、YPW,LVVYP(配列表:配列番号8)、VVYP(配列表:配列番号9)及びVYP等と交叉反応を行なわないことが好ましい。
【0016】
前記(A)工程で溶出したスパイノルフィンの、担体に固相化したスパイノルフィン及びスパイノルフィン抗体との接触は、上記スパイノルフィンウサギ抗体及び前記(A)工程で溶出したスパイノルフィンを緩衝液(例えばトリス緩衝液生理食塩、リン酸緩衝液等)に溶解又は必要により希釈した溶液を、スパイノルフィンが固相化された担体に接触させることにより行なうのが好ましい。該接触は、通常0〜室温で、静置又はゆっくり揺らしながら約30分〜2時間、好ましくは約30分〜1時間程度であるのが好ましい。前記反応の期間に、担体に固相化されたスパイノルフィンと前記(A)工程で溶出したスパイノルフィンがスパイノルフィン抗体と競合し、担体に固相化されたスパイノルフィンとスパイノルフィン抗体が結合し得る。
【0017】
次いで(C)工程において、担体に固相化されたスパイノルフィンと結合しなかったスパイノルフィン抗体を除去する。
上記の除去は、例えば担体を傾け担体と接触している溶液を捨てるか、ピペットで吸引除去するのが好ましい。担体は、さらに、上記緩衝液などで、少なくとも3回、好ましくは約3〜6回程度洗浄するのが好ましい。
【0018】
次いで、(D)工程では、上記(C)工程の担体に固相化されたスパイノルフィンと結合したスパイノルフィン抗体に、特異的に結合する標識二次抗体を接触させ、担体に固相化したスパイノルフィンに結合したスパイノルフィン抗体と標識二次抗体とを結合させる。
標識二次抗体としては、標識酵素又は蛍光色素で標識された抗ウサギIgGヤギIgG抗体、ヤギ抗マウス抗体等が挙げられる。標識酵素としては、例えばペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、酸性ホスファターゼ、アルカリ性ホスファターゼ等が挙げられるが、ペルオキシダーゼが好ましく、西洋ワサビペルオキシダーゼがとりわけ好ましい。標識蛍光色素としては、例えばMFP 488、Alexa Fluor 488、ローダミン、フルオレセイン、Cy2又はCy3等が挙げられる。
【0019】
担体に固相化されたスパイノルフィンと結合したスパイノルフィン抗体と標識二次抗体との結合は、通常0〜室温で、静置又はゆっくり揺らしながら約30分〜2時間、好ましくは約30分〜1時間程度反応させるが好ましい。
【0020】
(E)工程は、上記(D)工程においてスパイノルフィン抗体と結合した標識二次抗体の標識量を測定する。
固相化抗原(スパイノルフィン)に結合したスパイノルフィン抗体と結合した標識二次抗体の標識量の測定は、例えば酵素で標識された二次抗体の場合であれば、標識酵素と基質との発色反応を利用して、その発色の色調に応じた波長の吸光度を測定することにより実施できる。標識酵素と基質との発色反応は、基質溶液を酵素標識二次抗体と接触させればよい。基質としては使用する標識酵素により異なるが、例えば標識酵素が西洋ワサビペルオキシダーゼの場合、例えばoーフェニレンジアミンや3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン等が好ましく使用し得る。吸光度の測定は、発色後約10〜60分以内に測定することが好ましい。
蛍光標識の場合は、蛍光強度を蛍光光度計で測定すればよい。
なお、担体がマイクロプレートのような場合には、酵素標識の場合は吸光度を連続自動測定ができるオートリーダーやマイクロプレートリーダーを、蛍光標識の場合は、蛍光マイクロリーダー等を用いるのが好ましい。
【0021】
上記した本発明の方法において、スパイノルフィンは、約10−10〜10−7g/mLの濃度範囲で定量的に測定することができる。このため、スパイノルフィンが高濃度に存在する試料の場合は、上記した緩衝液等で適宜希釈するのがよい。

本発明の測定方法を用いることにより、例えば被験者の関節から採取した滑液中のスパイノルフィンを測定し、スパイノルフィン量が約5ng/mL以下である場合に、被験者が関節リウマチであると推定できるので、関節リウマチの診断に有用である。
【0022】
また、本発明は、スパイノルフィン抗体、コーティング用抗原(スパイノルフィン)、マイクロタイタープレート、標識二次抗体を含む試料中のスパイノルフィン濃度の測定キットに関する。
本発明のスパイノルフィン濃度の測定キットにおいて、スパイノルフィン抗体としては、例えばスパイノルフィンウサギ抗体等が挙げられる。コーティング用抗原としては、スパイノルフィンを緩衝液に溶解したもの等が挙げられる。マイクロタイタープレートとしては、マイクロタイタープレートの表面にアミノ基、カルボキシル基等の活性な官能基を持たせたものや疎水性ポリマーのコートスライドしたもの等が好ましく挙げられる。また、コーティング用抗原とマイクロタイタープレートの代わりに、マイクロタイタープレートに抗原としてスパイノルフィンを固相化したものをスパイノルフィン抗体及び標識二次抗体と共に、これらを含むキットとしてもよい。標識二次抗体は、上記した酵素標識二次抗体又は蛍光標識二次抗体が好ましい。酵素標識二次抗体をキットとする場合、上記基質等もキットに含めることが好ましい。また、その他の試薬類としては、例えば、プレートの洗浄液〔界面活性剤(例えばポリソルベート 20等)などが添加された緩衝液等〕や緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液生理食塩水)等をキットに含めることが好ましい。
【0023】
本発明のスパイノルフィン濃度の測定キットによれば、簡易に精確に試料中のスパイノルフィンの濃度を測定できる。
【0024】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(1)スパイノルフィンウサギ抗体の産生
スパイノルフィン(American Peptide Company Inc.,Sunnyvale,CA,USAから入手した。)をEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)を用いてKLH(keyhole limpet hemocyanin)と結合させ、KLH結合スパイノルフィンを得た。2羽のウサギ(ニュージーランドホワイト)の背中にKLH結合スパイノルフィンを皮下注射した。2週間間隔でKLH結合スパイノルフィンを8回免疫した。最後の免疫後、ウサギ心臓から採血し、採取した全血液から血清を分離し、スパイノルフィンウサギ抗体とした。抗体の力価は、200ng/ウェルの固体抗原に、100μL/ウェルの希釈血清を反応させ、洗浄後二次抗体を添加し、最終的に基質添加後の発色を測定した。希釈血清は、1000倍希釈により開始し、3倍ずつ希釈し、最大81000倍まで希釈して用いた。
【0026】
(2)エンザイムイムノアッセイ
スパイノルフィン含有試料2mLを等量の10質量%トリクロロ酢酸と混合し、該混合物を4℃で1時間静置した。1500×gで20分間遠心分離し、その上清をODSカラム(ODS−A 60−60/30;YMC社製)に注入した。前記カラムを10容積倍の水で洗浄し、80%(v/v)メタノール水溶液でスパイノルフィンを溶出した。溶媒を蒸発後、溶出物をトリス緩衝液生理食塩(TBS)0.5mLに溶解し、試料とした。
96ウェルプレート(Nunc−Immuno Plate,MaxiSorp Surface,Nalge Nunc International,Denmark)に、50ngスパイノルフィン/100μL TBSを入れ、室温で1時間反応させ、プレートにスパイノルフィンを固相化した。スパイノルフィンを固相化したプレートを5回、0.1質量%ツウィーン 20を含む10mMのTBS(TBS−T)で洗浄した。次いでスパイノルフィンを固相化したプレートを室温で1時間、10質量%スキムミルクと0.1質量%アジ化ナトリウムを含むTBS−Tでブロックした。プレートからスキムミルクを洗浄除去後、プレートに試料の希釈溶液100μLを添加し、スパイノルフィンウサギ抗体5μg/ウェルを添加し、競合反応に付した。プレートをゆっくり揺らしながら1時間反応させた。プレートをそれから5回洗浄し、100μLの西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)−標識F(ab’)ヤギ抗ウサギIgG(H+L)(1000倍希釈)をプレートに添加し、室温で1時間反応させた。反応後、プレートは5回洗浄し、それから2.2μMのo−フェニレンジアミンと0.014%(v/v)過酸化水素水を含むクエン酸緩衝液(0.1M,pH5)100μLをプレートに添加した。プレートを20分間静置後、オートリーダー(Korona Electric Co.Ltd.,Ibaragi,日本)を用いて405nmでプレートのウェル中の溶液の吸光度を測定した。抗体の反応性はこれらの条件下で、約1.2−1.5O.D.(光学濃度)であった。各サンプルのスパイノルフィンの濃度は標準曲線の%B/Bo(吸光度比;吸光度をBlank0の吸光度で割った値)を特定することによって算出した。
【0027】
(3)標準曲線の作成
以下の手順に従い、検量線を作成した。
スパイノルフィン標準溶液の調製:スパイノルフィン濃度が10−12〜10−6g/mLとなるようスパイノルフィンをTBSに溶解してスパイノルフィン標準溶液を調製した。
標準曲線の作成:上記(2)の試料の希釈溶液100μLの代わりにスパイノルフィン標準溶液各100μLを添加する以外は上記(2)の項に記載の操作と同様に操作し、標準曲線を作成した。
【0028】
(4)測定時間と試料中でのスパイノルフィン濃度変化
スパイノルフィン活性が上記(B)〜(E)工程の実施時間中、持続するかどうか試験した。スパイノルフィン1μg/mLTBSをウシ脳脊髄液に溶解した。この脳脊髄液を、室温で種々の時間静置した。反応を止めた後、スパイノルフィン量を上記(2)の方法で測定した。
その結果を図1に示した。スパイノルフィン量の相対活量は1時間静置後でウシ脳脊髄液に添加したスパイノルフィン量の98.8±0.98%に、そして更に24時間で35.4±26.1%(n=3)に徐々に減少した。本発明の方法において競合反応に必要である1時間の間でのスパイノルフィンの分解が1.2%のみであると推定され、この値は統計学的有意差検定において有意差はなかった。このことから本発明のスパイノルフィンの測定方法は、試料中スパイノルフィンの含有量を効果的に精確に測定できるということ示している。
【0029】
(5)スパイノルフィン類似化合物の交叉反応性
また、スパイノルフィンの類似化合物であるVVYPWT(配列表:配列番号2)、VYPWT(配列表:配列番号3)、ヘモルフィン−4(配列表:配列番号4)、PWT、LVVYPW(配列表:配列番号5)、タイノルフィン(配列表:配列番号6)、VYPW(配列表:配列番号7)、YPW、LVVYP(配列表:配列番号8)、VVYP(配列表:配列番号9)及びVYPについて上記(2)の方法を実施した。前記類似化合物は特開2000−95794号公報に記載の方法に準じて合成した。その結果を表1に示した。VVYPWTおよびVYPWTの交叉反応性はスパイノルフィンの0.0004以下であり無視できる程度であった。その他の類似化合物(ヘモルフィン−4、PWT、LVVYPW、タイノルフィン、VYPW、YPW、LVVYP、VVYP及びVYP)は本発明の方法では検出できなかった。プレートに固相化したスパイノルフィンの競合物としてスパイノルフィンの類似化合物がスパイノルフィン抗体と反応しなかったことを確認した。このことは、本発明のスパイノルフィンの測定方法がスパイノルフィンを特異的に定量的に測定できること示すものである。
【0030】
【表1】

【実施例2】
【0031】
関節リウマチ(RA)患者と変形性関節炎(OA)患者の滑液中のスパイノルフィンの測定
(1)試料の採取
滑液をOA患者40人とRA患者39人から集めた。滑液のサンプルを外来患者のひざ関節から吸引し、プラスチック容器に入れ、4℃で10分間1500×gで遠心し、上清を分析に供するまで−20℃で保存した。OAとRAの診断はアメリカリウマチ学会(ACR)の「ACR改訂診断基準」に基づいた。OA患者の年齢は74−88歳(男性11人、女性29人)であった。平均罹患期間は6年(範囲:0.1−20年)。RA患者の年齢は44−74歳(男性6人、女性32人)であった。その平均罹患期間は14.5年〔範囲1−36年、少関節破壊型(LES)3人,多関節破壊型(MES)29人、ムチランス型(MUD)6人〕であった。RAの全ての患者は数種の医薬を服用していた。医薬は抗炎症薬、金、メトトレキサート、スルファサラジン、コルチコステロイド、ブシラミン及びD−ペニシラミンであった。滑液の吸引前に高濃度のコルチコステロイドや関節内ステロイドを処置されたものはいなかった。患者からの同意は委員会で検討され各患者から個々のインフォームドコンセプトを得た。
【0032】
(2)滑液中のスパイノルフィンの測定
上記(1)に記載の方法に従いRA患者とOA患者の関節から採取した滑液中のスパイノルフィン量を測定した。その結果、RA患者の関節から採取した滑液のスパイノルフィン量は4.2±3.4ng/mL(n=20)であり、OA患者のスパイノルフィン量は10.1±7.1ng/mL(n=23)であった。RA患者のスパイノルフィン量はOA患者のスパイノルフィン量より有意に低かった(P<0.01)。このことは、患者の関節の滑液中のスパイノルフィン量が5ng/mL以下であるときは、OA患者ではなくRA患者であることを推定し得ることを示すものである。
【0033】
参考例
スパイノルフィン類似化合物(PWT、YPWT)の合成
(1)PWTの合成
PWTの3番目の保護アミノ酸Boc−Thr−OHを結合したBoc−Thr−Merrifield樹脂1当量を反応容器に入れ、DCM(ジクロロメタン)で洗浄、膨潤を繰り返した後、50%(v/v)TFA(トリフルオロ酢酸)/DCMを含むデブロック液と30分間接触させBoc(t―ブトキシカルボニル)基を除いた。イソプロパノールで残存するTFAを除いた後、DCMで洗浄した。5%(v/v)ジイソプロピルエチレンアミンを含むDCMにて樹脂を中和し、DCMにより洗浄した。その後前記樹脂を4当量の2番目の保護アミノ酸Boc−Trp−OHおよび4当量のDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)を含む少量のDCM、DMF混合液中で2時間室温にて反応せしめた。DMFおよびDCMにて順次洗浄してBoc−Trp−Thr−Merrifield樹脂を得た。以下、同様に保護アミノ酸Boc−Pro−OHを用いてアミノ酸をカップリングした。Boc−Pro−Trp−Thr−Merrifield樹脂を得た。得られたBoc−Pro−Trp−Thr−Merrifield樹脂を10質量%アニソール、5質量%1,2−エタンジチオールを含む無水弗化水素中で1時間0℃にて反応させた後、弗化水素留去およびエーテルによる洗浄を行った。得られたペプチド(Pro−Trp−Thr)および樹脂の混合物から10%(v/v)酢酸にてPro−Trp−Thrを抽出し、凍結乾燥によって粗Pro−Trp−Thrを得た。粗Pro−Trp−Thrを0.1%(v/v)TFA溶液に溶解した後、オクタデシルシリカ(ODS)カラムを接続した高速液体クロマトグラフにより、0.1%(v/v)のTFAを含むアセトニトリルの直線的濃度勾配(10〜50%(v/v)/20分)にて展開し、Pro−Trp−Thrに相当する画分をカラムから溶出し、凍結乾燥によりPWTを得た。
【0034】
(2)ヘモルフィン−4(YPWT)の合成
上記(1)と同様に保護アミノ酸Boc−Tyr(BrZ)−OHを用いて上記(1)のBoc−Pro−Trp−Thr−Merrifield樹脂にカップリングし、Boc−Tyr(BrZ)−Pro−Trp−Thr−Merrifield樹脂を得た。上記(1)と同様にペプチドを抽出、精製し、ヘモルフィン−4(YPWT;配列表:配列番号4)を得た。ここでBrZは臭化ベンジルオキシカルボニル保護基を示す。
以下、同様に保護アミノ酸Boc−Val−OHをBoc−Tyr(BrZ)−Pro−Trp−Thr−Merrifield樹脂に順次カップリングすることによりVYPWT、VVYPWTを製造することができる。また、他のスパイノルフィン類似化合物LVVYPW、タイノルフィン(VVYPW)、VYPW、YPW、LVVYP、VVYP及びVYPについても、同様に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、スパイノルフィン濃度10−10〜10−7g/mLの範囲内で試料中のスパイノルフィン濃度を測定するのに有用である。また、本発明の測定方法を使用して、RA患者の診断に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ウシ脳脊髄液中でのスパイノルフィン濃度の相対活量の経時的変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)工程を含む生体試料中のスパイノルフィンの測定方法;
(A)生体から採取した試料をトリクロロ酢酸と混合して得られる溶液相を逆相カラムに付し、溶媒でスパイノルフィンを溶出する工程;
(B)前記(A)工程で溶出したスパイノルフィンを、担体に固相化したスパイノルフィン及びスパイノルフィン抗体と接触させる工程;
(C)担体に固相化されたスパイノルフィンと結合しなかったスパイノルフィン抗体を除去する工程;
(D)前記(C)工程の担体に固相化されたスパイノルフィンと結合したスパイノルフィン抗体に、特異的に結合する標識二次抗体を接触させ、担体に固相化したスパイノルフィンに結合したスパイノルフィン抗体と標識二次抗体とを結合する工程;及び
(E)スパイノルフィン抗体と結合している標識二次抗体の標識量を測定する工程。
【請求項2】
請求項1に記載された生体試料中のスパイノルフィンの測定方法の関節リウマチ疾患推定のための使用。
【請求項3】
試料が関節滑液である請求項2記載の使用。
【請求項4】
測定されたスパイノルフィンの試料中濃度が5ng/mL以下である請求項3記載の使用。
【請求項5】
スパイノルフィン抗体、担体固相化用スパイノルフィン、スパイノルフィンを固相化するための担体及び標識二次抗体を含む試料中のスパイノルフィン濃度測定用キット。
【請求項6】
スパイノルフィン抗体、スパイノルフィンが固相化された担体及び標識二次抗体を含む試料中のスパイノルフィン濃度測定用キット。
【請求項7】
担体がマイクロタイタープレートであることを特徴とする請求項5又は6記載のキット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−234694(P2006−234694A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52005(P2005−52005)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月25日 社団法人日本生化学会発行の「生化学 第76巻 第8号」に発表
【出願人】(393028036)丸石製薬株式会社 (20)