説明

スパツタリング用ターゲツトおよびその製造方法

【構成】 本願のターゲット11は、ターゲット材となる磁性材料13の一方の面に非磁性体12を接合してなることを特徴とする。また、ターゲットの製造方法は、ターゲット材となる磁性材料の一方の面に拡散により非磁性体を接合することを特徴とする。
【効果】 本願のターゲットによれば、磁性材料を薄厚化することができ、成膜速度を向上させることができる。また、使用する磁性材料の量を削減し経済性を向上させることができる。また、本願の製造方法によれば、該非磁性体が磁性材料に機械的強度を付与し機械加工時の反りや割れの発生を防止することができる。したがって、薄厚の磁性材料をバッキングプレート上に接合することが可能になる。これにより難加工性材料であっても、機械加工を良好に施すことができ、反りや割れが発生することもなくなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、成膜速度及び経済性を改善することができるスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、磁気ディスクや磁気ヘッドの磁性薄膜を成膜する方法の一つにマグネトロンスパッタリングがある。
【0003】この方法は、電場と磁場の直交するマグネトロン放電を利用したもので、基板温度の上昇を低く抑えることができ、ターゲットへ大電力を投入して成膜速度(スパッタレイト)を大きくすることができ、ミクロンオーダーの膜厚を容易に得ることができる等の利点があるために、現在では、実験室はもとより本格的な量産装置として最も多用されている薄膜形成方法の1つである。
【0004】この方法により成膜された磁性薄膜は、従来のスピンコート等の塗布法と比べて高密度記録が可能であり、電磁変換特性に優れており、SN比が高い等、種々の優れた特徴がある。
【0005】図5は前記マグネトロンスパッタリングに用いられるスパッタリング用ターゲット(以下、単にターゲットと略称する)1であって、略矩形状もしくは円板状のバッキングプレート(冷却板)2上に、磁性材料を該バッキングプレート2と同形状に形成した磁性体3が接合されている。
【0006】ターゲット1の製造方法としては、前記Co系合金のターゲットの場合は粉末冶金法が好適に用いられるが、センダストの場合は粉末冶金法の適用が難しいために溶解鋳造法が好適に用いられる。
【0007】このターゲット1を用いてスパッタリングする場合、図6に示す様に磁石4,4を用いてターゲット1の上方に磁力線Mを発生させ前記ターゲット1の上方の漏洩磁束密度を大きくし、前記ターゲット1の近傍に高密度プラズマを発生させてマグネトロン放電を起こすことにより、マグネトロンスパッタリングをすることができる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記のターゲット1を用いた場合、成膜時の成膜速度(スパッタレイト)を確保するためには、磁石4を強力にするか、または磁性体3の厚み(t)を薄くする必要がある。
【0009】しかし、磁石4が発生する磁力線をこれ以上強くすることは磁石4の特性上及び構造上難しいために、磁性体3の厚み(t)を薄くするしかないのであるが、この磁性体3の厚み(t)を薄くすると機械加工時に歪むために反りが生じバッキングプレート2へのハンダ付けの際に欠陥が生じ易くなり、また、機械加工性が悪いために加工時に割れが生じ易くなる。したがって、磁性体3の厚み(t)を薄くすると直接バッキングプレート2へ接合することが出来なくなり、実際に磁性体3の厚みを5mm以下にすることは極めて困難である。
【0010】本発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、以上の問題点を解決することができるとともに成膜速度及び経済性を改善することができるターゲットおよびその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、この発明は次の様なターゲットおよびその製造方法を採用した。すなわち、請求項1記載のターゲットとしては、ターゲット材となる磁性材料の一方の面に非磁性体を接合してなることを特徴としている。
【0012】また、請求項2記載のターゲットの製造方法としては、ターゲット材となる磁性材料の一方の面に拡散により非磁性体を接合することを特徴としている。
【0013】
【作用】請求項1記載のターゲットでは、ターゲット材となる磁性材料の一方の面に非磁性体を接合してなることにより、磁性材料を薄厚化して成膜速度を向上させる。また、磁性材料の厚みを薄厚とすることにより、磁性材料の不使用部分を削減し経済性を向上させる。
【0014】また、請求項2記載のターゲットの製造方法では、ターゲット材となる磁性材料の一方の面に拡散により非磁性体を接合することにより、該非磁性体が磁性材料に機械的強度を付与し、機械加工時の反りや割れの発生を防止する。したがって、非磁性体を介することにより薄厚の磁性材料をバッキングプレートに接合することが可能になる。
【0015】
【実施例】以下、本発明に係るターゲットの一実施例について説明する。
【0016】図1は、ターゲット11の断面図であって、略矩形状もしくは円板状のバッキングプレート(冷却板)2の一方の面2a上に非磁性体12が接合され、該非磁性体12の面12a上に磁性体13が一体に接合されている。
【0017】非磁性体12は、バッキングプレート2と同形状で大きさが該バッキングプレート2より若干小さいものである。この非磁性体12の材料としては、例えばTi,Al,Mo,W等の弱磁性の金属、Cu等の反磁性の金属、ステンレススチール(例えばオーステナイト系のSUS304)等の弱磁性の合金が好適に用いられる。
【0018】磁性体13は、非磁性体12と同一の形状で厚み(t1)が該非磁性体12の厚み(t2)と同等かまたはそれより厚い強磁性材料からなるものである。この磁性体13の材料としては、Co−Cr−Pt系合金,Co−Cr−Ta系合金,Co−Nb−Zr系合金,センダスト(Fe−Al−Si系合金)等が好適に用いられる。
【0019】また、磁性体13の厚み(t1)と該非磁性体12の厚み(t2)の和は、従来のターゲット1の厚み(t)と同一となる様に設定されている。
【0020】次に、前記ターゲット11を製造する方法、すなわち非磁性体12の一方の面12a上に拡散により磁性体13を接合する方法について説明する。
【0021】まず、HIP処理により前記ターゲット11を製造する方法について図1及び図2を参照しながら説明する。
【0022】まず、溶解鋳造法の一種である真空鋳造法により、Co−9重量%Cr−31重量%Ptの組成を有する合金のインゴットを製造する。次に、ワイヤーカット放電加工等の機械加工により前記インゴットを直方体状に切断して素板21とする。
【0023】次に、この素板21を直方体状のステンレススチール缶22に挿入し、該ステンレススチール缶22の内部を真空にし密封する。次に、HIPによりステンレススチール缶を焼結する。HIP処理は、概ね1200℃、1.0ton/cm2の下で1時間行う。
【0024】次に、600℃で30分間焼鈍処理を行ない、その後所定の圧縮率Tで2回圧延処理を行う。
【0025】次に、前記素板21とステンレススチール缶22とを一体に接合したまま略矩形状もしくは円板状に切断しその後素板21の表面に鏡面研磨等の仕上加工を施し、その後ボンディングを行い略矩形状もしくは円板状のターゲット11とする。
【0026】以上により、磁性体13(素板21)と非磁性体12(ステンレススチール缶22)とを拡散により接合し一体の構造としたターゲット11を得ることができる。
【0027】次に、真空ホットプレス(HP)処理により前記ターゲット11を製造する方法について図2及び図3を参照しながら説明する。
【0028】真空鋳造法により製造されたインゴットを直方体状に切断して素板21とし、この素板21を同一形状のステンレススチール板23上に重ね、真空下において所定の温度T及び所定の圧力Pを所定時間H保持することにより、素板21とステンレススチール板23とを接合する。
【0029】HP処理の条件の一例を下記にしめす。
真 空 度 :1×10-2Torr加 圧 力 P:250kg/cm2温 度 T:1150℃保持時間 H:5時間
【0030】その後、焼鈍処理、圧延処理、仕上加工、ボンディング等を施し、略矩形状もしくは円板状のターゲット11とする。
【0031】以上により、磁性体13(素板21)と非磁性体12(ステンレススチール板23)とを拡散により接合し一体の構造としたターゲット11を得ることができる。
【0032】前記ターゲット11を用いてスパッタリングする場合、図4に示す様に磁石4,4によりターゲット11の上方に高密度の磁力線Mを発生させて前記ターゲット11の上方の漏洩磁束密度を大きくし、前記ターゲット11の近傍に高密度プラズマを発生させて大きなイオン電流を流すことにより大電力化を図ることができ、これにより強いマグネトロン放電を起こすことができる。このとき、電子はターゲットの表面近傍を円形状もしくは略矩形状もしくは円形状の連続した軌跡を描いて運動しており、ターゲット11の電力密度(W/cm2)を大幅に増大させることができ、最適条件の下にマグネトロンスパッタリングを行うことができる。
【0033】表1は、上記のターゲット(実施例)と、従来のターゲット(比較例)について各々の特性を比較したものである。ここでは、ターゲットの組成はCo−9重量%Cr−31重量%Pt一種とし、このターゲットの磁性体13の厚み(t1)と非磁性体12の厚み(t2)を様々に変化させて特性を評価している。
【0034】
【表1】


【0035】表1から明らかなように、上記実施例のターゲットは従来のものと比べて磁性体13の厚みt1が薄くなるために、漏洩磁束密度Bが大きくなり、成膜速度(スパッタレイト)も優れていることがわかる。
【0036】以上説明した様に、上記実施例のターゲット11によれば、バッキングプレート2上に非磁性体12を接合し、該非磁性体12の面12a上に磁性体13を一体に接合したので、磁性体13を薄厚化することができ成膜速度を向上させることができる。また、磁性体13の厚みを薄厚とすることにより、使用する磁性材料の量を削減することができ、したがって経済性を向上させることができる。
【0037】また、上記実施例のターゲットの製造方法によれば、非磁性体12の面12a上に拡散により磁性体13を接合することとしたので、該非磁性体12が磁性体13に機械的強度を付与し、機械加工時の反りや割れの発生を防止することができる。したがって、非磁性体12を介することにより、薄厚の磁性体13をバッキングプレート2上に接合することが可能になる。
【0038】これにより、例えばセンダスト(Fe−Al−Si系合金)の様な難加工性材料であっても、機械加工を良好に施すことができ、反りや割れが発生することもなくなる。
【0039】以上により、高い成膜速度(ハイスパッタレイト)を有し経済性を改善することができるターゲットおよびその製造方法を提供することができる。
【0040】なお、前記ターゲット11を製造する方法、すなわち非磁性体12の一方の面12a上に拡散により磁性体13を接合する方法としては、上述したHIP処理やHP処理に限定されることなく種々の方法が適用可能であり、例えば、爆着等の方法も好適に用いることができる。
【0041】
【発明の効果】以上説明した様に、請求項1記載のターゲットによれば、ターゲット材となる磁性材料の一方の面に非磁性体を接合してなることとしたので、磁性材料を薄厚化することができ、成膜速度を向上させることができる。また、磁性材料の厚みを薄厚とすることにより、使用する磁性材料の量を削減することができ、したがって経済性を向上させることができる。
【0042】また、請求項2記載のターゲットの製造方法によれば、ターゲット材となる磁性材料の一方の面に拡散により非磁性体を接合するので、該非磁性体が磁性材料に機械的強度を付与することができ、機械加工時の反りや割れの発生を防止することができる。したがって、非磁性体を介することにより、薄厚の磁性材料をバッキングプレート上に接合することが可能になる。
【0043】これにより、例えばセンダスト(Fe−Al−Si系合金)の様な難加工性材料であっても、機械加工を良好に施すことができ、反りや割れが発生することもなくなる。
【0044】以上により、高い成膜速度(ハイスパッタレイト)を有し経済性を改善することができるターゲットおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例であるターゲットの断面図である。
【図2】本発明の一実施例であるターゲットの製造方法の工程図である。
【図3】本発明の一実施例であるターゲットの製造方法の一部を示す概略説明図である。
【図4】本発明に係るターゲットの磁力線の様子を示す断面図である。
【図5】従来のターゲットの断面図である。
【図6】従来のターゲットの磁力線の様子を示す断面図である。
【符号の説明】
11 ターゲット
2 バッキングプレート(冷却板)
12 非磁性体
12a 面
13 磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ターゲット材となる磁性材料の一方の面に非磁性体を接合してなることを特徴とするスパッタリング用ターゲット。
【請求項2】 ターゲット材となる磁性材料の一方の面に拡散により非磁性体を接合することを特徴とするスパッタリング用ターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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