説明

スパンボンド不織布およびその製造方法

【課題】 本発明は、厚みが薄く、高い強力を有し、かつ変形しにくい不織布であって、平滑性を有しながら樹脂コート可能な不織布を提供する。
【解決手段】 単糸繊度3.3デシテックス以下の円形断面形状の繊維から構成され、繊維同士は加熱圧着のみにより接合してなるスパンボンド不織布であり、該不織布は、部分的に厚みが薄い熱圧着部分を有し、厚みが薄い熱圧着部分以外の部分は、スパンボンド不織布の表面層の全面において繊維同士が熱融着しているとともに、かつ内層は繊維形態を維持しており、スパンボン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度な薄さと表面平滑性を併せもつスパンボンド不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電線押さえ巻きテープなどのテープ類やテープ基材としてポリエステルからなるスパンボンド不織布が使用されている。そして、このようなテープに使用されるスパンボンド不織布には、厚みが薄いこと、強力が高いこと、容易に伸びないこと等の性能が求められている。
【0003】
厚みが薄く、厚み当たりの特定の強力を有するスパンボンド不織布として、特許文献1に、特定の還元粘度のポリエチレンテレフタレートからなり、断面形状が特定の扁平状である繊維を構成繊維として使用することが開示されている。特許文献1の技術では、構成繊維が扁平状であるため、繊維間の空隙が小さくなり、不織布表面の平滑性が非常に高く、不織布内部の空隙率が非常に小さい。したがって、このようなスパンボンド不織布に樹脂を塗布、コーティングしようとすると、樹脂が不織布内に入り込むことができず、アンカー効果が期待できないため、付与した樹脂が不織布表面に載っているだけの状態となり、不織布より樹脂が脱落しやすいという問題がある。
【特許文献1】特許第3445539号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、厚みが薄く、高い強力を有し、かつ変形しにくい不織布であって、平滑性を有しながら樹脂コート可能な不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、単糸繊度3.3デシテックス以下の円形断面形状の繊維から構成され、繊維同士は加熱圧着のみにより接合してなるスパンボンド不織布であり、
該不織布は、部分的に厚みが薄い熱圧着部分を有し、
厚みが薄い熱圧着部分以外の部分は、スパンボンド不織布の表面層の全面において繊維同士が熱融着しているとともに、かつ内層は繊維形態を維持しており、
スパンボンド不織布の見掛けの空隙率が66〜76%であることを特徴とするスパンボンド不織布を要旨とするものである。
【0006】
また、本発明は、スパンボンド法により得られた単糸繊度3.3デシテックス以下の円形断面形状の繊維が堆積してなる不織ウェブを、熱エンボス装置に通して、部分的に厚みが薄い熱圧着部分を形成し、次いで、一対のフラットロールからなる熱カレンダー装置に通して、不織布の表面層の全面において繊維同士を熱融着させることを特徴とするスパンボンド不織布の製造方法を要旨とするものである。
【0007】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0008】
本発明のスパンボンド不織布は、加熱圧着のみにより接合してなるものである。
【0009】
スパンボンド不織布を構成する繊維は、加熱圧着のみにより接合するためには、熱可塑性重合体からなるものであればよく、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系重合体など、公知のものを使用することができる。スパンボンド不織布は、単一の重合体からなるものであってもよいし、また、融点が異なる等の2種類以上の異なる重合体からなるものでもよい。2種以上の異なる重合体からなるスパンボンド不織布としては、2種の異なる繊維が混繊された不織布や、2種の異なる重合体が芯鞘型、サイドバイサイド型、分割型等に複合した複合繊維を構成繊維とする不織布等が挙げられる。繊維を構成する重合体や繊維形態等は、スパンボンド不織布が用いられる製品に応じて適宜選択すればよいが、汎用性、強度、後工程における加工時の耐熱性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートを用いることが最も好ましい。なお、繊維を構成する上記重合体は、必要に応じて、難燃剤や制電剤等の各種の改質剤が共重合されたものや、これらが添加されたものであってもよい。また、顔料、耐候剤、酸化防止剤等が添加されたものでもよい。
【0010】
スパンボンド不織布の目付は、用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、10〜200g/m2程度のものがよい。また、薄さと軽量化を図るためには10〜70g/m2程度の目付が好ましい。
【0011】
本発明のスパンボンド不織布は、部分的に厚みが薄い熱圧着部分を有している。また、熱圧着部分以外の部分は、スパンボンド不織布の表面層の全面において繊維同士が熱融着しているとともに、かつ内層は繊維形態を維持している。
【0012】
スパンボンド不織布が有する熱圧着部分は、一対のエンボスロール、またはエンボスロールと平滑ロールとからなる熱エンボス装置を用いた熱エンボス加工によって形成させることができる。熱圧着部分は、不織布に散点状に多数形成されたものであっても、連続線として多数本形成されたものであってもよい。散点状に形成されたものの場合、個々の熱圧着部分の形態は、円形、楕円形、菱形、三角形等の多角形、T形、井形、長方形などの任意の形態を採用することができる。なお、個々の熱圧着部分が独立して存在しているものではなく、個々の熱圧着部分同士がつながっていてもよい。また、熱圧着部分が連続線として形成されたものの場合、線状の熱圧着部がストライプ状や格子状に付与されているものを採用することができる。
【0013】
不織布表面積に対する部分的に厚みが薄い熱圧着部分の面積の比率は、11%以上であることが好ましく、より好ましくは、11〜40%である。熱圧着部分の面積の比率を11%以上にすることにより、スパンボンド不織布は十分な強力を保持することができる。また、熱圧着部分の面積の比率を40%以下にすることにより、熱圧着部分以外の部分を十分に確保して、すなわち、不織布内層に繊維形態を保持してなる部分(空隙部分)を確保することにより、樹脂や液体の浸透性や保持性が良好となり、また、樹脂を塗布、コーティングした際の樹脂の付着性が良好に奏される。
【0014】
本発明のスパンボンド不織布は、厚みが薄い熱圧着部分以外の部分は、スパンボンド不織布の表面層の全面において繊維同士が熱融着しているとともに、かつ内層は繊維形態を維持している。これは、上記した熱エンボス装置を用いた熱エンボス加工を施した後、表面平滑な熱カレンダーロールに通すこと(熱カレンダー加工)により熱と圧力を加えて、不織布表面に存在する繊維に熱を与えて、表面に飛び出した繊維を抑え、繊維同士を熱融着させて、表面を平滑にし、スパンボンド不織布の厚みを適度の薄さに制御し、一方、不織布の内層の繊維は、熱の影響を受けず繊維形態を維持させ、繊維が堆積してなる状態とする。このように不織布表面の全面が熱融着していることにより、不織布の伸びや変形に対する応力が高くなり、すなわちモジュラス強力が高くなり、容易に変形し難く、伸び難い不織布を得ることができる。なお、熱カレンダー加工は、一対の熱カレンダーロール間に通布するか、不織布を熱カレンダーロールに沿わせて走行させることによって、熱および圧力を付与することに行う。
【0015】
本発明において、熱カレンダー加工により、不織布表面に存在する繊維は、熱により繊維表面が軟化して繊維同士が融着するが、完全にフィルム化したものではなく、また繊維の断面形状が極端に変形するものではなく、円形断面の形状を保持している。したがって、樹脂をコーティングした際のコート性、アンカー効果を良好に奏することができる。
【0016】
本発明のスパンボンド不織布は、単糸繊度3.3デシテックス以下の円形断面形状の繊維によって構成される。単糸繊度が3.3デシテックス以下にすることにより、熱による変形が少なく熱カレンダー加工による熱と圧力を効果的に与えることができ、所望の表面平滑なスパンボンド不織布であって、高い強力のスパンボンド不織布を得ることができる。また、円形断面形状とは、熱圧着部分以外の部分に存在する繊維の横断面形状が、熱の影響を受けていても、いわゆる偏平状に変形しているものではなく、一部変形があったとしても、断面形状における長軸と短軸との比(長軸/短軸)が、1.0〜1.2程度のものである。このように、スパンボンド不織布の表面において、熱カレンダー加工により、表面の全面において繊維同士が熱融着しているものの、繊維の変形度が小さく、円形状を保っているため、表面平滑であるものの、単繊維間には樹脂が入り込む隙間があり、樹脂を塗布、コートをした際に、アンカー効果によりコート性、付着性が良好となり、樹脂が脱落する恐れがない。なお、単糸繊度の下限は、スパンボンド不織布の強度や単繊維間の空隙を考慮して、1デシテックス程度が好ましい。
【0017】
本発明のスパンボンド不織布は、見掛けの空隙率が、66〜76%であることが好ましい。空隙率が66%以上とすることにより、樹脂や液体の浸透性、保持性を良好にすることができる。一方、76%以下にすることにより、薄くて強度の高いスパンボンド不織布とすることができる。見掛けの空隙率は、下式により算出する。
見掛けの空隙率=1−[目付(g/m2)/重合体の密度(g/cc)/不織布厚み(μm)]
【0018】
本発明のスパンボンド不織布は、5%伸長時の応力が下記式を満たすことが好ましい。
5%伸長時の応力 ≧ 235×目付(g/m2)/100
上式を満足する5%伸長時の応力を有することにより、十分なモジュラス強度を有し、容易に変形しにくく、高強力と高いモジュラス強力が要求される電線押さえ巻きテープの基材、電線ケーブル用遮水材の基材、圧延したステンレス鋼板に挟みこんで使用する合紙等に好ましく用いることができる。
【0019】
次いで、本発明のスパンボンド不織布の好ましい製造方法について説明する。
【0020】
まず、スパンボンド法により単糸繊度3.3デシテックス以下の円形断面形状の長繊維が堆積してなる不織ウェブを用意する。次いで、この不織ウェブを、熱エンボス装置に通して、部分的に厚みが薄い熱圧着部分を形成させる。熱エンボス加工の際の圧着条件としては、処理速度にもよるが、例えば、長繊維がポリエチレンテレフタレートからなる場合は、ロール設定温度230〜250℃、線圧100〜1000N/cmとするとよい。
【0021】
次いで、熱エンボス加工により得られた不織布を、表面平滑な熱カレンダーロールに通す、いわゆる熱カレンダー加工を行って、不織布の表面層の全面において繊維同士を熱融着させる。熱カレンダー加工の際の条件としては、処理速度や目付にもよるが、例えば、長繊維がポリエチレンテレフタレートからなる場合は、ロール設定温度130〜200℃、線圧1200〜2500N/cmとするとよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のスパンボンド不織布は、上記した構成であるため、厚みが適度に薄く、高い強力を有し、かつ変形しにくい不織布である。また、表面平滑性を有しながら樹脂コートが良好で、液体や樹脂の含浸が可能である。したがって、本発明のスパンボンド不織布は、樹脂コートを要する電線押さえ巻きテープのテープ基材や、電線ケーブル用遮水材の基材、その他テープ類に適している。また、厚みが適度に薄く、表面平滑で、容易に変形しにくいため、圧延したステンレス鋼板の損傷防止のため鋼板間に挟みこんで使用する合紙(ステンレス合紙)としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また、不織布の評価方法は以下のとおりである。
(1)厚み:JIS L 1906に準じて測定した。
(2)5%伸長時の応力(N/5cm幅):不織布より幅5cm、長さ20cmの試料を不織布のMD方向より10点採取し、この試料を定速伸長型引張試験機につかみ間隔10cmとして取付け、20cm/分の引張速度で試験片が5%伸長するまで荷重を加え、5%伸長時の荷重を読み取り、その平均値を求めて、5%伸長時の応力(N/5cm幅)とした。
(3)引張強力(N/3cm幅):不織布より幅5cm、長さ20cmの試料を不織布のMD方向より10点採取し、この試料を定速伸長型引張試験機につかみ間隔10cmとして取付け、20cm/分の引張速度で試験片が切断するまで荷重を加え、最大荷重時の強さの平均値を求めて引張強力(N/5cm幅)とした。
【0024】
実施例
スパンボンド法によって、繊度2.2デシテックスの円形断面形状のポリエチレンテレフタレート長繊維を堆積させた不織ウェブを得、これをエンボスロールと平滑ロールからなる熱エンボス装置に通し、圧着条件としてロール表面温度240℃、線圧930N/cmに設定して、熱圧着処理を施し、熱圧着部分(熱圧着部の形状:六角形、熱圧着面積率:17%)を形成させ、次いで、この熱圧着部分を有する不織布(厚み170μm)を、一対の平滑ロールからなる熱カレンダー装置に通し、熱カレンダー条件としてロール表面温度240℃、線圧930N/cmに設定し、熱カレンダー加工を施し、目付30g/m2の本発明のスパンボンド不織布を得た。
【0025】
得られたスパンボンド不織布は、見かけの空隙率が71%であり、厚み75μm、5%伸長時の応力80N/5cm幅、引張強度115N/5cm幅であった。
【0026】
得られたスパンボンド不織布の表面状態および断面状態を目視および走査型電子顕微鏡写真にて確認したところ、熱圧着部分以外の部分は、スパンボンド不織布の表面層の全面において繊維同士が熱融着しており、一方、内層は繊維形態を維持して繊維間の空隙を保持していた。また、スパンボンド不織布を構成する繊維の断面形状を確認したところ、繊維の横断面における長軸と短軸との比(長軸/短軸)は、1.08であり円形断面を保持しているものであった。
【0027】
なお、繊維の断面形状の確認は以下の方法により行った。すなわち、不織布の任意の箇所の切断面を撮影した走査型電子顕微鏡写真より、繊維軸とほぼ直角に切断された任意の繊維10本について、繊維断面の長軸と短軸の長さを測定しその比を求め、10本の平均値を算出した。なお、任意の繊維10本については、表面層および内層より偏りなく選んだ。
【0028】
比較例
実施例において、繊度2.2デシテックスの扁平断面形状のポリエチレンテレフタレート長繊維を堆積させた不織ウェブを得たこと、熱エンボス装置に通して厚み101μmの熱圧着部分を有する不織布を得たこと以外は、実施例と同様にして、目付30g/m2の扁平断面形状の長繊維からなるスパンボンド不織布を得た。
【0029】
得られたスパンボンド不織布は、見かけの空隙率が54%であり、厚み47μm、5%伸長時の応力85N/5cm幅、引張強度118N/5cm幅であった。
【0030】
得られたスパンボンド不織布を構成する繊維の断面形状を上記方法により確認したところ、繊維の横断面における長軸と短軸との比(長軸/短軸)は、3.2の扁平断面形状のものであった。
【0031】
(電線ケーブル用遮水材)
上記実施例および比較例のスパンボンド不織布を基材とし、その片面に吸水性樹脂組成物を糊引き方法により均一に塗布・乾燥して、電線ケーブル用遮水材を作成した。吸水性樹脂組成物としては、ポリアクリル酸塩架橋体である吸水性樹脂ポリマーを300質量部、スチレンブタジエン系バインダーを100質量部、界面活性剤を8質量部を、トルエン500質量部に均一に分散・溶解したものを用いた。
【0032】
なお、電線ケーブル用遮水材とは、基材に吸水性樹脂組成物が付与された物で、吸水性ポリマー粒子および有機バインダーを必須の成分とし、この吸水性ポリマー粒子が、水と接触した時に膨潤して基材より脱落し、水の堰き止めを作ることによって、電線ケーブル内を止水するものである。一般に、吸水性ポリマー粒子としては、ポリアクリル酸塩架橋体、澱粉−アクリル酸グラフト重合体の中和物、架橋ポリビニルアルコール変性物等が挙げられ、粒子形状にも真円形状、いびつ形状等種々のものが用いられている。従って、基材内部の適度な空隙率を有していると、基材中に、吸水性ポリマー粒子を多く含むことができるために、望ましい電線ケーブル用遮水材を提供できる。
【0033】
得られた実施例および比較例の電線ケーブル用遮水材の厚みは、それぞれ95μm(実施例)、67μm(比較例)であった。元々のスパンボンド不織布(基材)の厚みが異なっており、塗布した吸水性樹脂組成物により増加した厚さは両者とも20μmである。これに対して、得られた電線ケーブル用遮水材の目付を測定すると、吸水樹脂組成物の乾燥付着量は、それぞれ30.4g/m2(実施例)、16.3g/m2(比較例)であり、実施例のものは比較例のものに対して、ほぼ2倍の量の吸水樹脂組成物を付着させることができた。このことは、本発明のスパンボンド不織布(基材)は、空隙が多く、吸水ポリマー粒子が不織布内部まで入り込んでいることを表しているといえる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度3.3デシテックス以下の円形断面形状の繊維から構成され、繊維同士は加熱圧着のみにより接合してなるスパンボンド不織布であり、該不織布は、部分的に厚みが薄い熱圧着部分を有し、厚みが薄い熱圧着部分以外の部分は、スパンボンド不織布の表面層の全面において繊維同士が熱融着しているとともに、かつ内層は繊維形態を維持しており、スパンボンド不織布の見掛けの空隙率が66〜76%であることを特徴とするスパンボンド不織布。
【請求項2】
不織布表面積に対する部分的に厚みが薄い熱圧着部分の面積の比率が11%以上であることを特徴とする請求項1記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
スパンボンド法により得られた単糸繊度3.3デシテックス以下の円形断面形状の繊維が堆積してなる不織ウェブを、熱エンボス装置に通して、部分的に厚みが薄い熱圧着部分を形成し、次いで、表面平滑な熱カレンダーロールに通して、不織布の表面層の全面において繊維同士を熱融着させることを特徴とするスパンボンド不織布の製造方法。