説明

スパンボンド不織布

【課題】本発明は、柔軟性、耐磨耗性、耐熱性及び、ヒートシール性に優れたカイロ用包材や保温材などの分野に有用なスパンボンド不織布を提案するものである。
【解決手段】結晶性ポリエステル成分に、ガラス転移点温度が50℃以上の非晶性ポリエステル成分を1〜30重量%含有する樹脂組成からなる、単繊維での繊度が0.5〜5dtexである連続繊維が開繊された後、ドットで圧着され、熱圧着により潰された部分は個々に独立しており、熱圧着部の形成面積率が5〜40%で接合一体化されていることを特徴とするスパンボンド不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟で且つ耐磨耗性及び耐熱性で且つヒートシール性に優れた不織布特性が要求される分野、例えば、カイロ用包材や保温材などの分野において有用なスパンボンド不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不織布は、ドレープ性、柔軟性、通気性等の特性を有することから、肌に直接触れるような用途にも展開されている。そして、例えばカイロ用包材などは、肌触りが良好な柔軟性を有し且つ耐磨耗性も要求され、加工性からは良好なヒートシール性を有しながら製品としての耐熱性をも併せ持つ性能が要求されている。カイロ用包材としては袋状に成形して、その内部に発熱体を混入するが、不織布単体では繊維間隙が大きい為に発熱体の脱落の可能性がある。発熱体などの粉末状物の脱落を防止する方策として、不織布の繊維密度を上げることが考えられるが、風合いが硬くなるため肌に直接触れる用途には適さない。また不織布の目付を上げることも考えられるが、風合いが悪くなるばかりでなく、コストパフォーマンス的にも好ましくない。そこで一般的には透湿フィルムなどとのラミネートが用いられる。
【0003】
使い捨てカイロ用包材として不織布をラミネート加工して用いることは、特許文献1、特許文献2などで提案されている。しかしながら、これらの方法では、ラミネート加工により柔軟性が劣る問題がある。
【0004】
このような問題に対し、ラミネート方法を改良する提案がなされており、例えばエンボス加工により凹凸を付与した不織布とラミネートフィルムとの接合を調整して肌との接着面の柔軟性を改良する方法が特許文献3に提案されている。しかしながら、かかる方法においては、不織布の柔軟性を改良する検討がなされておらず、ラミネートにより不織布の非接合部をラミネートフィルムと主体的に接合させるので、不織布の柔らかさが拘束されて不織布の柔軟性を充分生かせない問題がある。
【0005】
また、不織布の厚みと見掛密度を限定して温熱機能を改良する提案が特許文献4で提案されている。しかしながら、かかる方法は、厚みで発熱体からの初期の熱移動を調整するのみであり、不織布の柔軟性やヒートシール性についての検討がなされておらず、例えば使い捨てカイロ用基布として使用する場合、加工性が不十分となる。
【0006】
また、ラミネート性の改良方法として、不織布片面の繊維表面に低融点樹脂皮膜を塗布する方法が特許文献5で提案されている。しかしながら、この方法は、煩雑なコーティング工程を加える必要があり、コストアップが不可避となる。又、不織布自身の柔軟性とヒートシール性及び耐熱性の検討がなされておらず、例えば使い捨てカイロ用基布として用いる場合は十分な性能が得られ難い。
【0007】
また、ラミネート性向上方法として、熱接着成分を繊維化してラミネートする方法が特許文献6、特許文献7、特許文献8などで提案されている。しかしながら、低融点成分を繊維化しているので、低温でのラミネートが可能であるという特徴を有する反面、耐熱性に劣る問題がある。
【0008】
更に、低融点繊維不織布と低融点フィルムを用いた低温シール性等に優れるラミネート不織布が特許文献9などに提案されている。しかしながら、かかる方法では、低温シール性は向上するものの、不織布の耐熱性が不充分であるという問題がある。
【0009】
また、不織布を構成する繊維に扁平断面繊維を用いて柔軟性を改良する提案が、特許文献10及び特許文献11に提案されている。そして、柔軟性向上以外の効果としては、扁平断面繊維を用いることにより、不織布の平滑性が向上して印刷性が改良されること、厚みが薄くなり伝熱性が良くなる効果が記載されている。しかして、扁平断面繊維を用いると、断面二次モーメントの低い方向には曲げ剛性は低下するが、断面二次モーメントの高い方向では、剛性は著しく高くなり、全方向の柔軟性を付与することは困難である。また、フラット化により厚みに由来する柔らかさは付与できなくなる。したがって、肌に接触して柔らかな風合いは付与できない問題がある。
【特許文献1】実開昭51−23769号公報
【特許文献2】実開昭55−59616号公報
【特許文献3】特開平2−297362号公報
【特許文献4】特開平3−1856号公報
【特許文献5】特開平9−300547号公報
【特許文献6】特開平8−131472号公報
【特許文献7】特開平10−314208号公報
【特許文献8】特開平10−328224号公報
【特許文献9】特開平11−56894号公報
【特許文献10】特開平2004−24748号公報
【特許文献11】特開平2004−24749号公報
【0010】
上述のとおりでは、柔軟で且つ耐磨耗性及び耐熱性で且つヒートシール性に優れた不織布特性を付与した、カイロ用包材に適したスパンボンド不織布は得られていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、本発明は、柔軟で且つ耐磨耗性及び耐熱性で且つヒートシール性に優れたカイロ用包材に最適なスパンボンド不織布を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、不織布を構成する繊維の耐熱性を保持して、低モジュラス化と耐衝撃性を向上させることで、不織布の柔軟性と耐磨耗性及び耐熱性でヒートシール性を同時に向上できることを知見し、遂に本発明を完成するに到った。
【0013】
即ち本発明は、(A)単繊維での繊度が0.5〜5dtexである連続繊維が開繊された後、ドットで熱圧着され、熱圧着により潰された部分は個々に独立しており、熱圧着部の形成面積率が5〜40%で接合一体化されている結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルからなる不織布であって、結晶性ポリエステル成分に対し、ガラス転移点温度が50℃以上の非晶性ポリエステル成分を0.5〜50重量%含有する樹脂よりなることを特徴とするスパンボンド不織布であり、(B)結晶性ポリエステル成分がポリブチレンテレフタレートであり、非晶性ポリエステル成分が、エチレンテレフタレートを主成分とした共重合ポリエステルである請求項1記載のスパンボンド不織布であり、
(C)単繊維の断面が丸断面、繊度が0.5dtex〜4dtex、初期引張抵抗度が5〜20cN/dtexであることを特徴とする(A)及び(B)記載のスパンボンド不織布であり、(D)共重合ポリエステルのグリコール成分にネオペンチルグリコールを含有する(A)〜(C)記載のスパンボンド不織布である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスパンボンド不織布は、結晶性ポリエステル成分に、ガラス転移点温度が50℃以上の非晶性ポリエステル成分を0.5〜50重量%含有する樹脂組成からなる、単繊維での繊度が0.5〜5dtexである連続繊維が開繊された後、ドットで圧着され、熱圧着により潰された部分は個々に独立しており、熱圧着部の形成面積率が5〜40%で接合一体化されていることで、不織布を構成する繊維の耐熱性を保持して、低モジュラス化と耐衝撃性を向上させることで、不織布の柔軟性と耐磨耗性及び耐熱性でヒートシール性を同時に向上させたスパンボンド不織布であるので、カイロ用包材用途に最適なスパンボンド不織布として提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のスパンボンド不織布は、単繊維での繊度が0.5〜5dtexである連続繊維からなる不織布であることが好ましい。
【0016】
繊度が0.5dtex以上であれば、不織布の張り腰が優れ、使い捨てカイロ用包材に用いた場合、カイロ形態を保持することが可能となり、また5dtex以下とすることにより表皮の風合いが柔らかい、ゴワツキ感のないカイロを得ることが可能となる。より好ましい単繊維の繊度は0.5dtex〜4dtex、更に好ましくは1dtex〜3dtexである。
【0017】
本発明のスパンボンドは、連続繊維が開繊された後、ドットで熱圧着され、熱圧着により潰された部分は個々に独立していることが好ましい。連続繊維が開繊されていない場合は、不織布の斑が顕著となり風合い均質性が劣るので好ましくない。また、本ドットで圧着することにより、ニードルパンチ等の機械的交絡処理による不織布形態形成のような、繊維の損傷・不織布強力の低下を伴うことなく、不織布の柔軟な風合いを維持することが可能となり、実用時の破れを防止することができるからである。すなわち、ドットで圧着されることによって、熱圧着により潰された部分を個々に独立させることで、非熱圧着部が不織布全体の厚みを保持し、自由な変形が容易になり柔らかさを維持できる。熱圧着により潰された部分が連続していると、面の自由な屈曲を制約されるので、不織布全体の柔軟性が低下して使用時にゴワゴワ感が発現し易くなる。
【0018】
また、一体化した形態を保持し、耐磨耗性を確保するためには、熱圧着面積は5%以上が好ましく、圧着面積が40%以下とすることで、不織布が有する柔らかさを維持することができる。より好ましい熱圧着面積は、8〜30%、より好ましくは10〜27%である。
【0019】
独立したドットの形態は特には限定されないが、好ましくは、糸目柄、水玉柄、小判柄、織目柄、十字柄などが例示できる。特には、織目柄の織目を浮き上らせた形状などが好ましい。独立した熱圧着による潰れ部分の面積は、特には限定されないが、好ましくは2mm2以下であり、より好ましくは1mm2以下である。なお、繊度が大きい場合には、0.1mm2未満では、形態保持性が不充分となる場合もあり、繊度が4dtex以上では、0.1〜1mm2とするのがより好ましい。
【0020】
かくして、熱圧着による一体化により、表面の平滑性と圧縮充填による不織布の形態を保持して、繊維の組成による耐衝撃性の向上と、力学特性の相乗効果で、柔軟で耐磨耗性が良好、且つ、優れたヒートシール性をも有する不織布となり、次いで、ラミネート加工された不織布は、発熱体を挿入されて熱成型され、次いでパックされて、使用時、パックを除かれて、柔軟で且つ耐磨耗性と形態保持性及び保温性に優れた使い捨てカイロ機能の発現を可能としている。
【0021】
本発明のスパンボンド不織布を構成する繊維の好ましい単繊維の初期引張抵抗度(IS)は、柔らかさと耐磨耗性及び形態保持性を維持するため5〜20cN/dtexが望ましい。ISを5cN/dtex以上とすることにより、実用上望ましい耐磨耗性と形態保持性を確保できるからである。また、ISを20cN/dtex以下とすることにより、一般消費者らに好まれる柔軟性を得ることが可能となる。本発明のより好ましいISの範囲は6〜15cN/dtex、更に好ましくは8〜12cN/dtexである。
【0022】
本発明での繊維は、強力を高く維持し、特定方向への繊維の配列コントロールによる不織布強力の方向性をも制御するために連続繊維であることが好ましい。短繊維では、不織布強力が低くなると共に、特定方向の強力を制御が困難となる。
【0023】
本発明のスパンボンド不織布を構成する繊維の力学特性として、強度及び伸度は特に限定されないが、強度は、あまりにも低いと不織布強度も弱くなり、耐磨耗性も低下する場合があるので、好ましくは、少なくとも3cN/dtex、より好ましくは、3.4cN/dtex以上である。伸度は、あまり高いと不織布の寸法安定性が低下する場合があり、低すぎると耐磨耗性が低下する場合があるので、好ましくは50〜150%、より好ましくは70〜120%である。
【0024】
本発明のスパンボンド不織布の目付は、特には限定されないが、目付が低すぎると、使い捨てカイロに用いた場合発熱体の被覆機能が失われる場合があり、大きすぎるとゴワゴワ感が顕著となるので、適正な範囲を選択するのが望ましい。特に使い捨てカイロに適用する場合は、10〜80g/m2が好ましく、20〜50g/m2がより好ましい。特に、目付が20〜40g/m2の不織布では、理由は明確ではないが、該表皮材の目付当りの保温率が1.5%/(g/m2)以上にすることが容易となるので特に好ましい。
【0025】
本発明では、不織布の厚みは、特には限定されないが、使い捨てカイロ用包材に用いる場合は、発熱体を被覆可能な厚みである0.1〜0.5mmが好ましく、0.2〜0.4mmがより好ましい。本発明では、不織布の力学特性は、特には限定されないが、本発明カイロに適用する場合は、目付当りの強度は、低すぎると破れの原因となる場合があり、破れない目付当りの強度である0.5N/5cm/g/m2以上が好ましく、1.0N/5cm/g/m2以上がより好ましい。伸度は、大きすぎると成型体の加工工程での伸びによるトラブルや成型体の形態保持性を損なう場合があり、形態保持をできる40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。引裂強力は、特に引っ掛けによる破れを防止できる目付当りの引裂強力として、0.15N/5cm/g/m2以上が好ましく、0.2N/5cm/g/m2以上がより好ましい。柔らかさの特性メジャーである剛難度は、70mm以下が好ましく、60cm以下がより好ましい。
【0026】
本発明のスパンボンド不織布の熱特性は特には限定されないが、180℃での乾熱収縮率は、加工工程及びカイロ包材として使用に耐える収縮率として、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。特には2%以下0%である。本発明のスパンボンド不織布の通気性は、特には限定されないが、20〜250cm3/cm2/秒が好ましく、より好ましくは30〜100cm3/cm2/秒である。
【0027】
本発明のスパンボンド不織布は、結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルからなり、結晶性ポリエステル成分に対し、ガラス転移点温度が50℃以上の非晶性ポリエステル成分を0.5〜50重量%含有する樹脂からなる不織布であることが好ましい。
【0028】
本発明でいう結晶性ポリエステルとは、示差走査型熱量計(DSC)による測定で、結晶化に由来する発熱ピーク又は及び結晶融解に由来する吸熱ピークを示すポリエステルであり、例えば、酸成分がテレフタル酸、グリコール成分がエチレングリコールや1,4−ブタンジオールであるようなポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、又は酸成分がテレフタル酸と他の酸成分から成る共重体であってもよく、又は、グリコール成分が、エチレングリコールと他のグリコール成分から成る共重合体であってもよい。
更に詳しくは、前記の他の酸成分としては、たとえばイソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、ナフタリン−1,4−ジカルボン酸、ナフタリン−2,6−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸等が例示されるが、これらに限定されるものではない。一方、前記の他のグリコール成分としては、たとえばプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物等が例示されるが、これらに限定されるものではない。本発明での好ましい結晶性ポリエステルとしては、酸成分が芳香族のジカルボン酸からなり、グリコール成分が直鎖のジオールからなるポリエステルであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが例示できる。本発明で特に好ましい結晶性ポリエステルは柔軟性と成型性を付与でき、且つ耐熱性も保持できるポリブチレンテレフタレートが最適である。かかる結晶性ポリエステル成分を主原料とすることにより、耐熱性、柔軟性に富み、更には耐光性に優れた商品価値の高い使い不織布を得ることができる。
【0029】
本発明でいう非晶性ポリエステルとは、DSCによる測定で、明確な結晶化或いは結晶融解ピークを持たない樹脂である。又、非晶性のポリエステルのガラス転移温度(Tg)はDSCにより昇温速度20℃/minで昇温時の潜熱の転移点から求めた値であり、本発明では、50℃以上である。50℃未満では、耐熱性が劣り好ましくない。すなわち、耐熱性と耐衝撃性を向上させるためには、非晶性でありながらTgが高いポリエステルが必要となる。このような非晶性ポリエステルとしては、ジカルボン酸は芳香族ジカルボン酸が好ましく、例えば、テレフタル酸、2,6ナフタリンジカルボン酸等を例示できる。しかして上記Tgが50℃以上を保持できる範囲で、主成分の芳香族ジカルボン酸以外に、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸の1種または2種以上を含有してもかまわない。また、ジヒドロキシ化合物成分としては、脂肪族グリコールが好ましく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール等、芳香族ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等が挙げられ、これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いられる。本発明での特に好ましい非晶性ポリエステル成分としては、酸成分としてはテレフタル酸、グリコール成分としてはエチレングリコール(又は1,4ブタンジオール)を50〜85モル%、ネオペンチルグリコール(又は1,4−シクロヘキサンジメタノール)を15〜50モル%の共重合したポリエステルである。このような組成とすることで、非晶性を保持してTgを70℃以上にすることができる。
【0030】
これらの非晶性ポリマーを用いることにより、上記結晶性ポリエステルポリマーの有する利点すなわち、印刷性、耐光性、柔軟性を損なうことなく、前記結晶性ポリエステルのみでは達成困難であったヒートシール性を付与することが可能となる。そして、非晶性ポリマーは相溶性の点から、結晶性ポリエステルのベースレジンがポリエステルであるので、ポリエステルが好ましい。ポリエステル以外では、非相溶系となり、相分離して、紡糸時の繊維切断、ヒートシール時のヒートシール斑が顕著となるなどの問題が発生し易い。
【0031】
本発明のスパンボンド不織布は、上述の結晶性ポリエステル成分に、Tgが50℃以上の非晶性ポリエステル成分を0.5〜50重量%含有させた樹脂組成からなる繊維で構成されることが好ましい。非晶性ポリエステル成分を0.5重量%以上添加することにより、繊維の耐衝撃性を向上させ、磨耗による毛羽立ちを防止することができ、更にはヒートシール性も向上させることができる。一方、非晶性ポリエステル成分を50重量%以下とすることにより、熱収縮を増加を抑制し、加熱による形態安定性保持することができる。本発明の好ましい非晶性ポリエステル成分の含有率は、2〜20重量%、より好ましくは、5〜15重量%である。
【0032】
結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルはレジンを混合しつつ乾燥して、紡糸機に供給しても良く、ペレタイズしたものを乾燥して紡糸機に供給してもよい。又、別々に2種類の押出機に供給して溶融混合してもよい。
【0033】
以下に本発明不織布の製法の一例を示す。
結晶性ポリエステルとして例えば、固有粘度0.93のポリブチレンテレフタレート90部と、非晶性ポリエステルとして例えば、Tg79℃、固有粘度0.72のグリコール成分としてネオペンチルグリコール成分とエチレングリコール成分、酸成分としてテレフテル酸成分の共重合ポリエステル10部を混合乾燥する。乾燥した混合ポリエステルは紡糸機に供給し、常法により、例えば、紡糸温度260℃にて、オリフィス径φ0.23mmのノズルより、吐出量0.9g/分孔にて紡出する。例えば、スパンボンド不織布を作成する場合には、紡出した繊条は、冷却しつつエジェクターにて4500m/分の速度で引取、下方の100m/分にて移動する引取ネット上に開繊振落して、均質に開繊された目付50g/m2のウエッブを形成した。ウエッブ中の単繊維は、繊度2dtex、IS35cN/dtexであった。ウエッブは次いで、織目柄の圧着面積20%となるエンボスローラーにて、215℃、線圧80KN/mでエンボス加工して、巻き取り、長繊維不織布であるスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、目付50g/m2、厚み0.3mm、引張強度は縦70N/5cm、横60N/5cm、引張伸度は縦26%、横38%で、引裂強力は縦16N、横14N、乾熱収縮率は縦3%、横1%であった。
【0034】
次いで、スパンボンド不織布は通気性を有する熱可塑性樹脂フィルムをラミネートされてカイロ用包材とすることができる。本発明に用いられる熱可塑性樹脂フィルムとしては、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)またはメタロセン系触媒PE等の各種ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、EVAおよびエチレン、プロピレン、ブテン等の各種共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン共重合系、ポリアミド系、ポリエステル系などのフィルムが用いられ、透湿性を有した微多孔フィルムであってもよい。柔軟性、シール性、価格の点から、ポリエチレンまたはその共重合系オレフィンフィルムが好ましい。また、不織布との相性、また包材周辺のシール性の点から2〜3層のフィルムを組み合わせたものでもよい。
【0035】
本発明に用いられる表皮材は、上記不織布と熱可塑性樹脂フィルムを、ヒートシール、熱接合またはホットメルト接着剤などを用いてラミネートすることにより得られ、ラミネートは全面接合であっても、部分接合としてもよいが、柔軟性を得る点からは部分接合が好ましい。表皮材の通気性は、ラミネート後の孔あけ加工により、またはあらかじめ有孔または微孔のフィルムを用いることにより付与され、この通気孔より発熱時に必要な空気が供給され、その孔面積により空気の供給量がコントロールされる。この通気性を有する包材は使い捨て温熱具の少なくとも一面に用いられていればよく、他の面には通気性のない表皮材を用いることができる。
【0036】
本発明のスパンボンド不織布を使い捨てカイロ用包材として用いる場合は、上記通気性を有する表皮材の該フィルム面を内側にして発熱する発熱組成物を収容し、その周辺部をシールすることにより得られる。発熱組成物としては、従来公知の鉄粉、無機塩、活性炭、水などの組成物が用いられる。発熱組成物を包材に収容した後は、粉モレ防止のために包材の周辺部をシールする。シールは該不織布を用いているので、通常熱シールで充分なシール成型ができる。が、必要に応じて、柔軟性、耐磨耗性、形態保持性及び保温性を損なわない範囲であればホットメルト剤などの接着剤等によるシールを行ってもよい。本発明のスパンボンド不織布は、好ましい実施形態である一定条件下での目付当りの保温効率が1.0%/(g/m2)以上である不織布を用いると、薄い不織布を用いても、厚みの厚い不織布と同等の保温性があり、発熱体の発熱持続時間を長くできたり、軽量化が図れるなどの効果が得られる。
【0037】
本発明では、必要に応じて、原着用顔料、各種改質剤等を、樹脂に練り込み又は、後加工にて付与した不織布を用いることができる。かくして得られた本発明のスパンボンド不織布を用いて得られたカイロは、柔軟で耐磨耗性及び耐熱性で、適度の保温性を有し、且つ形態保持性にも優れている。
なお、本発明における例示は、これらに限定されるものではない。
【0038】
以下に本発明の実施例を示す。本発明は、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
次に実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、実施例及び比較例中の特性値は以下の方法で測定した。
【0040】
<結晶性及び非晶性>
示差走査型熱量計(DSC)にて、20℃〜300℃まで20℃/分にて昇温し、300℃にて5分間保持後、300℃から20℃まで20℃/分にて降温して熱量測定を行い、吸発熱パターンより、結晶化に由来する発熱ピーク及び結晶融解に由来する吸熱ピークを調べる。明瞭な吸発熱ピークを有するものを結晶性ポリエステルと判定し、明瞭な吸発熱ピークを有しないものを非晶性ポリエステルと判定する。
【0041】
<ガラス転移点温度(Tg)>
300℃に加熱5分後溶融させたポリエステルを、水中へ入れて急冷させたポリエステルを試料として、上述のDSCにより昇温速度20℃/minで昇温時の潜熱の転移点から求めた値をTgとする。
【0042】
<単繊維の繊度>
不織布の任意の部位からサンプリングした試験片の切断面が観察できるように、デジタル式測微接眼装置を装着した光学顕微鏡にセットして、繊維軸を横切る方向にほぼ直角に切断されている任意の繊維50本について、繊維断面の長軸と短軸の長さを測定し、各繊維の断面積を求め、それら値を平均して繊維の断面積を算出する。別途、繊維密度を求めて適用し、長さ10,000mでの重量を計算して求める。
【0043】
<固有粘度>
不織布の任意の部位から不織布片をサンプリングし、テトラクロルエタン/フェノール(40部/60部重量比)混合溶媒に1g/100ml溶解させ、30℃雰囲気で粘度管にて測定し、0%濃度に換算した固有粘度(dl/g)を求める。
【0044】
<初期引張抵抗度(IS)>
JIS−L−1015(1999)の方法に準拠して測定。
【0045】
<厚さ>
JIS−L1906(2000)に準拠して測定。
【0046】
<目付(単位面積当りの質量)>
JIS−L1906(2000)に準拠して測定。
【0047】
<見掛密度>
上記方法にて測定した目付と厚みより1m3当りの見掛密度(kg/m3)を求める。
【0048】
<不織布の引張強度(強さ)と伸度(伸び率)>
JIS−L1906(2000)に準拠して測定。但し、幅は5cmとする。
【0049】
<乾熱収縮率及び耐熱性>
JIS−L−1906(2000)に準拠して180℃にて測定。〜耐熱性評価は、縦横での大きい方の収縮率(SHD)で判断し、SHD≦2%:◎、SHD≦4%:○、SHD≦8%:△、SHD>8%:×として評価した。
【0050】
<剛軟度と柔軟性>
JIS−L−1096(1999)45°カンチレバに準拠して測定。目付40g/m2を基準に、縦横での大きい方の長さ(Lmm)で判断し、L≦60mm:◎、L≦70mm:○、L≦80mm:△、L>80mm:×として評価した。
【0051】
<耐磨耗性>
JIS L−0849(2004)の摩擦試験機II型(学振形)を用いて、摩擦子は白綿布を用い、100回の摩擦での不織布表面のももけ具合を目視判定し、なし:◎、小:○、中:△、大:×で評価し、○以上を合格とした。
【0052】
<ヒートシール性>
富士インパルス株式会社製Auto Sealer FA−450−5W形のヒートシーラーを用い、冷却:目盛10、自動:マニュアルにて、不織布を2枚重ねて加熱目盛を5〜8に変更してヒートシールし、ヒートシール部分の接合状態が良好な加熱目盛により目盛5OK:◎、目盛5.5OK:○、目盛6OK:△、目盛7OK:×で評価し、合格点を○以上とした。
【0053】
(実施例1)
結晶性ポリエステルとして固有粘度0.93のポリブチレンテレフタレート87部と非晶性ポリエステルとしてTg79℃、固有粘度0.72のグリコール成分としてネオペンチルグリコール成分とエチレングリコール成分、酸成分としてテレフテル酸成分の共重合ポリエステル13部を混合乾燥したポリエステルを紡糸機に供給し、紡糸温度260℃にて、オリフィス径φ0.23mmのノズルより、吐出量0.8g/分孔にて紡出した繊状は、冷却しつつエジェクターにて4000m/分の速度で引取、下方の100m/分にて移動する引取ネット上に開繊振落して、長繊維を均質に開繊された目付40g/m2のウエッブを形成した。ウエッブ中の単繊維は、繊度2dtex、IS9cN/dtexであった。ウエッブは次いで、織目柄の独立ドットとなり、圧着面積20%となるエンボスローラーにて、215℃、線圧80KN/mでエンボス加工して巻き取り、本発明のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表1に示す。
実施例1は、柔軟で且つ耐磨耗性及び耐熱性で、且つヒートシール性にも優れたカイロ用包材に最適なスパンボンド不織布である。
【0054】
(実施例2)
結晶性ポリエステルとして固有粘度0.93のポリブチレンテレフタレート93部と非晶性ポリエステルとしてTg79℃、固有粘度0.72のグリコール成分としてネオペンチルグリコール成分とエチレングリコール成分、酸成分としてテレフテル酸成分の共重合ポリエステル7部を混合乾燥したポリエステルを紡糸機に供給し、紡糸温度260℃にて、オリフィス径φ0.23mmのノズルより、吐出量0.8g/分孔にて紡出した繊状は、冷却しつつエジェクターにて4000m/分の速度で引取、下方の100m/分にて移動する引取ネット上に開繊振落して、長繊維を均質に開繊された目付40g/m2のウエッブを形成した。ウエッブ中の単繊維は、繊度2dtex、IS9cN/dtexであった。ウエッブは次いで、織目柄の独立ドットとなり、圧着面積20%となるエンボスローラーにて、215℃、線圧80KN/mでエンボス加工して巻き取り、本発明のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表1に示す。
実施例2は実施例1と同様に、柔軟で且つ耐磨耗性及び耐熱性で、且つヒートシール性にも優れたカイロ用包材に最適なスパンボンド不織布である。
【0055】
(比較例1)
実施例1で用いた結晶性ポリエステルのみを用いた以外は、実施例1と同様にして得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表1に示す。
比較例1は、柔軟性と耐熱性は優れるが、耐磨耗性及びヒートシール性がやや劣り、カイロ用包材に使用可能だが、問題のあるスパンボンド不織布である。
【0056】
(比較例2)
固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸温度285℃にて紡糸して、エンボス加工温度250℃、線圧50KN/mとした以外、比較例1と同様にして得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表1に示す。
比較例2は、耐熱性と耐磨耗性に優れるが、柔軟性、ヒートシール性が劣るスパンボンド不織布である。
【0057】
(比較例3)
結晶性ポリエステル80部と、非晶性ポリエステルとして、固有粘度0.53のグリコール成分として、ネオペンチルグリコール成分および、酸成分としてイソフタル酸成分及びセバチン酸成分をテレフタル酸成分及びエチレングリコール成分に共重合した、Tg47℃の非晶性ポリエステル20部を用いた以外、実施例1と同様にして得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表1に示す。
比較例3は、非晶性ポリエステルのTgが低いものを用いたため、耐熱性と耐磨耗性が劣るスパンボンド不織布である。
【0058】
(比較例4)
吐出量を2.8g/分孔、引取速度を3500m/分として、短繊維の繊度を8dtexとした以外、実施例2と同様にして得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表1にしめす。
比較例4は、単繊維繊度が太いため、柔軟性、耐磨耗性及びヒートシール性が劣るスパンボンド不織布である。
【0059】
(比較例5)
結晶性ポリエステルを40部、非晶性ポリエステルを60部使用した以外、実施例1と同様にして得たスパンボンド不織布の特性と評価結果を表2に示す。
比較例5は、非晶性ポリエステルの混率が多すぎるため、柔軟性、耐熱性及び耐磨耗性が劣るスパンボンド不織布である。
【0060】
(比較例6)
エンボス加工に用いたエンボスローラーが、格子柄で独立していない圧着面積が40%となるものを用いた以外、実施例2と同様にして得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表2に示す。
比較例6はエンボス文様が独立していないため、柔軟性が劣る、カイロ用包材に使用可能だが、問題のあるスパンボンド不織布である。
【0061】
(比較例7)
エンボス加工に用いたエンボスローラーが、小判柄の独立ドットで、圧着面積が65%のものを用いた以外、実施例2と同様にして得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表2に示す。
比較例7はエンボス加工による圧着面積が大き過ぎるため、柔軟性が劣るスパンボンド不織布である。
【0062】
(比較例8)
非晶性ポリエステルの替わりに、結晶性のイソフタル酸とジエチレングリコールを共重合した低融点ポリエチレンテレフタレートを20部用いた以外、比較例3と同様にして得られたスパンボンド不織布の特性と評価結果を表2に示す。
比較例8は、非晶性ポリエステルの替わりに結晶性の低融点ポリエステルを用いたため柔軟性、耐熱性、耐磨耗性が劣るスパンボンド不織布である。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のスパンボンド不織布は、柔軟性、耐磨耗性、耐熱性及び、ヒートシール性に優れた不織布であり、例えば、カイロ用包材や保温材などの分野に有用なスパンボンド不織布を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維での繊度が0.5〜5dtexである連続繊維が開繊された後、ドットで熱圧着され、熱圧着により潰された部分は個々に独立しており、熱圧着部の形成面積率が5〜40%で接合一体化されている結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルからなる不織布であって、結晶性ポリエステル成分に対し、ガラス転移点温度が50℃以上の非晶性ポリエステル成分を0.5〜50重量%含有する樹脂よりなることを特徴とするスパンボンド不織布。
【請求項2】
結晶性ポリエステル成分がポリブチレンテレフタレートであり、非晶性ポリエステル成分が、エチレンテレフタレートを主成分とした共重合ポリエステルである請求項1記載のスパンボンド不織布
【請求項3】
単繊維の断面が丸断面、繊度が0.5dtex〜4dtex、初期引張抵抗度が5〜20cN/dtexであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のスパンボンド不織布。
【請求項4】
共重合ポリエステルのグリコール成分にネオペンチルグリコールを含有する請求項1〜3いずれかに記載のスパンボンド不織布