説明

スピニングリールのドラグつまみ組立体

【課題】シール部材に水圧が作用しても、ドラグつまみの内部への液体の流入を防止できるようにする。
【解決手段】ドラグつまみ61は、つまみ部63と、第1シール部材64と、第2シール部材65と、を備えている。つまみ部は、第1部材66、第1部材と相対回動自在に設けられスプール軸に螺合するとともに、鍔部を覆うように第1部材に向けて筒状に突出する突出部75bを有する第2部材67、及び第1部材と第2部材とを軸方向移動不能かつ回転自在に連結する連結部材74を有し、ドラグ力を調整するためのものである。第1シール部材は、スプールと第1部材との間に配置され、スプールと第1部材との隙間をシールする部。第2シール部材は、第1シール部材と第2部材との間に配置され、第2部材の突出部の外周面に接触可能な筒状の接触部64aを有し、第1部材と第2部材との隙間をシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラグつまみ組立体、特に、釣り糸を前方に繰り出すスピニングリールのスプールのスプール軸に装着可能であり、スプールにドラグ力を作用させるためのドラグ摩擦部のドラグ力を調整するためのスピニングリールのドラグつまみ組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、釣り糸を前方に繰り出すスピニングリールのフロントドラグ式のスプールには、スプールにドラグ力を作用させるためのドラグ機構が装着されている。ドラグ機構を装着することで、仕掛けに魚がかかったときに負荷が急激に上昇しても釣り糸が切れにくくなる。ドラグ機構は、スプール軸とスプール軸に回転自在に支持されたスプールとの間に設けられ、スプール軸に螺合しドラグ力を調整するためのドラグつまみ組立体と、ドラグつまみ組立体とスプールとの間に設けられた1又は複数のドラグ座金を有するドラグ摩擦部とを備えている。ドラグつまみ組立体は、ドラグ摩擦部に接触可能に配置されており、ドラグ摩擦部は、通常、スプールの前部に形成された円形凹部に装着されている。
【0003】
この種のドラグ機構において、ドラグ摩擦部の内部への液体の浸入を簡素なシール構造で行えるものが、従来知られている(たとえば、特許文献1参照)。従来のドラグ機構では、ドラグつまみ組立体が鍔部を有する第1部材と、スプール軸に螺合する第2部材と、を有している。第2部材は、鍔部を覆うように第1部材にむけて筒状に突出して形成されている。また、スプールとドラグつまみ組立体との隙間及び第1部材と第2部材との隙間を同時にシールするシール部材が設けられている。シール部材は、第1部材の外周面に装着されており、前面が第2部材の筒状部の後端面に接触し、外周部がスプールの内周面に接触している。
【特許文献1】特開2004−135542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の構成では、1つのシール部材で2つの隙間をシールしているので、第1部材と第2部材との隙間からスプール軸の外周を通ってドラグ摩擦部の内部に液体が浸入するのを防止できる。
【0005】
しかし、前記従来の構成では、たとえば、バケツなどに水を入れて洗浄したりする際に、水圧によりシール部材が後方に押し下げられて変形することがある。シール部材が変形すると、シール部材と第2部材の筒状部の後端面との間に隙間が生じ、液体がドラグつまみ組立体の内部に流入するおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、シール部材に水圧が作用しても、ドラグつまみ組立体の内部への液体の流入を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1に係るスピニングリールのドラグつまみ組立体は、釣り糸を前方に繰り出すスピニングリールのスプールのスプール軸に装着可能であり、スプールにドラグ力を作用させるためのドラグ摩擦部のドラグ力を調整するためのスピニングリールのドラグつまみ組立体であって、つまみ部と、第1シール部材と、第2シール部材と、を備えている。つまみ部は、鍔部を有しスプール軸に回転不能かつ軸方向移動自在に設けられた第1部材、第1部材と相対回動自在に設けられスプール軸に螺合するとともに、鍔部を覆うように第1部材に向けて筒状に突出する突出部を有する第2部材、及び第1部材と第2部材とを軸方向移動不能かつ回転自在に連結する連結部材を有し、ドラグ力を調整するためのものである。第1シール部材は、スプールと第1部材との間に配置され、スプールと第1部材との隙間をシールする部材である。第2シール部材は、第1シール部材と第2部材との間に配置され、第2部材の突出部の外周面に接触可能な筒状の接触部を有し、第1部材と第2部材との隙間をシールする部材である。
【0008】
このドラグつまみ組立体では、第1部材と第2部材との間に配置された第2シール部材が、第2部材の筒状の突出部の外周面に接触する筒状の接触部を有しており、この第2シール部材により第1部材と第2部材との隙間がシールされる。また、スプールと第1部材との間に配置された第1シール部材によりスプールと第1部材との間がシールされる。ここでは、第2シール部材が筒状の接触部で第2部材の突出部の外周面に接触している。このため、第1シール部材と第2シール部材とを一体形成した場合に、第1シール部材に水圧が作用して押し下げられても、第2シール部材が変形しにくくなる。このため、2つのシール部材に水圧が作用しても、第1部材と第2部材との間からドラグつまみ組立体の内部に液体が流入しにくくなる。しかも、第1シール部材と第2シール部材と別体にした場合には、第1シール部材が変形しても第2シール部材はより変形しにくくなり、ドラグつまみ組立体の内部に液体がさらに流入しにくくなる。
【0009】
発明2に係るスピニングリールのドラグつまみ組立体は、発明1に記載のつまみにおいて、第2シール部材は、接触部の内周側に形成され突出部の端面に係合する環状凹部をさらに有する。この場合には、突出部の後端部の外周面に加えて内周面もシール可能になるので、ドラグつまみ組立体の内部に液体がさらに流入しにくくなる。
【0010】
発明3に係るスピニングリールのドラグつまみ組立体は、発明1又は2に記載のつまみにおいて、第1部材は外周面に環状溝を有し、第1シール部材は、環状溝に装着される止め輪により第2シール部材から離反する方向への移動が規制されている。この場合には、止め輪により第1シール部材の後方への移動を規制できるので、第1シール部材を環状溝などに直接装着する必要がなくなる。このため、バックアップリングなどを入れて第1シール部材を補強することができ、水圧が第1シール部材に作用しても第1シール部材を変形しにくくできる。
【0011】
発明4に係るスピニングリールのドラグつまみ組立体は、発明1から3のいずれかに記載のつまみにおいて、第1シール部材は、スプールの内周面に接触する先細り断面のリップ部を有する。この場合には、スプールと第1シール部材との接触面積が小さくなるので、スプールと第1シール部材とが相対回転してもスプールの回転に影響を与えにくくなる。
【0012】
発明5に係るスピニングリールのドラグつまみ組立体は、発明1から4のいずれかに記載のつまみにおいて、つまみ部は、第1部材と第2部材との間に配置され第1部材と第2部材との相対回動により発音する発音機構をさらに有する。この場合には、第1部材と第2部材との間に発音機構を設けても、ドラグつまみ組立体の内部への液体の流入を防止できる。
【0013】
発明6に係るスピニングリールのドラグつまみ組立体は、発明5に記載のつまみにおいて、第1部材は、金属製であり、発音機構は、第1部材の鍔部の前面に回転不能に装着され、周方向に間隔を隔てて複数の音出し凹部が形成された合成樹脂製の音出し板と、音出し凹部に向けて付勢された状態で第2部材に移動可能に装着された打撃部材と、を有している。この場合には、第1部材を耐熱性が高い金属製にしているので、摩擦部からの熱が伝わっても、熱による問題が生じにくい。また、音出し凹部が形成された部分を合成樹脂製にすることにより、音出し凹部の製造が容易になるとともに、たとえば、ポリアセタールなどのように摺動性が高い合成樹脂を用いることで、強い打撃力を与えても軽い力で操作することができ、音出し凹部の耐久性が向上する。
【0014】
発明7に係るスピニングリールのドラグつまみ組立体は、発明1から6のいずれかに記載のつまみにおいて、第2部材は、つまみ体と、ナット部と、ばね部材と、を有している。つまみ体は、円板部及び円板部より小径の突出部を有する合成樹脂製のつまみ本体と、円板部を覆うようにつまみ本体の前面に固定された金属製の円板状のカバー部と、カバー部の前面に径方向に沿って固定された金属製の操作つまみと、を有している。ナット部は、つまみ体に回転不能かつ軸方向移動自在に装着され、スプール軸に螺合するものである。ばね部材は、ナット部と第1部材との間に配置された部材である。
【0015】
この場合には、合成樹脂製のつまみ本体の鍔部の前面が金属製のカバー部によって覆われているので、ドラグつまみ組立体の前面の意匠が向上するとともに、前面が傷つきにくくなる。しかも、発音機構や第1部材の鍔部を収納する構成を合成樹脂の型成形により容易に形成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第2シール部材が筒状の接触部で第2部材の突出部の外周面に接触している。このため、第1シール部材と第2シール部材とを一体形成した場合に、第1シール部材に水圧が作用して押し下げられても、第2シール部材が変形しにくくなる。このため、2つのシール部材に水圧が作用しても、第1部材と第2部材との間からドラグつまみ組立体の内部に液体が流入しにくくなる。しかも、第1シール部材と第2シール部材と別体にした場合には、第1シール部材が変形しても第2シール部材はより変形しにくくなり、ドラグつまみ組立体の内部に液体がさらに流入しにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔全体構成及びリール本体の構成〕
図1及び図2において、本発明の一実施形態を採用したスピニングリールは、ハンドル組立体1を回転自在に支持するリール本体2と、ロータ3と、スプール4とを備えている。ロータ3は、スプール4に釣り糸を巻き付けるものであり、リール本体2の前部に回転自在に支持されている。スプール4は、外周面に釣り糸を巻き取るものであり、ロータ3の前部に前後移動自在に配置されている。なお、ハンドル組立体1は、図1に示すリール本体2の左側と、リール本体2の右側とのいずれにも装着可能である。
【0018】
ハンドル組立体1は、図1に示すように、ハンドル軸10の先端に装着されるハンドルアーム8と、ハンドルアーム8の先端に装着されたハンドル把手9とを備えている。
【0019】
〔ハンドル把手の構成〕
ハンドル把手9は、図3に示すように、ハンドルアーム8の先端にカシメ固定された把手軸18に回転自在に装着されている。把手軸18の基端側には、把手軸18の軸方向の位置決め及びハンドル把手9を固定するための大径部95が形成されている。
【0020】
ハンドル把手9は、把手軸18の外周側に装着される筒状の装着部90と、装着部90の外周面に接着により固定された略球状の把手部91とを有している。装着部90は、たとえば、ステンレス合金やアルミニウム合金等の金属製の部材である。装着部90の内周部には、ハンドル把手9を把手軸18で回転自在に支持するための1対の軸受94a,94bが軸方向に間隔を隔てて装着されている。装着部90の先端側外周面には、キャップ96を固定するための雄ねじ部90aが形成されている。また、把手軸18の先端には、ハンドル把手9を把手軸18に抜け止めするための抜け止めボルト97がねじ込まれている。抜け止めボルト97は、装着部90の先端側に形成された軸受94b装着用の装着穴90b内で軸受94bを介して装着部90を把手軸18に対して抜け止めしている。装着部90の把手部91の接着部分には、たとえば環状の接着剤溜まり90cが形成されている。
【0021】
把手部91は、たとえば、炭素繊維強化樹脂製であり、薄肉の中空部材である。把手部91は、ハンドルアーム8側に配置され外周面が略球状に形成された第1把手92と、ハンドルアーム8と逆側に配置され外周面が第1把手92より大径となる部分を一部に有する略球状に形成された第2把手93とを有している。第1把手92の内周面は筒状に形成されており、装着部90の外周面に接着されている。第1把手92と第2把手93とは、把手部91の外周部の最外径部M付近と、内周部の最外径部Mと同一軸方向位置付近と、で重ね合わされて接着により一体化されている。第1把手92は、把手軸18の軸芯Xから離反した位置を中心として球状に形成されている。
【0022】
第2把手93の外周面は、第1把手92との接合部分からキャップ96側にかけて点Pの位置まで第1把手92と同じ半径で球状に形成され、点Pからキャップ96が装着される部分まで、第1把手92より大径の球状に形成されている。第2把手93の内周面は、キャップの外周面に僅かな隙間をあけて筒状に形成されている。第2把手93の内周部93aには、水抜き孔93bが形成されている。水抜き孔93bは、キャップ96装着時にキャップ96で塞がれて水が入りにくい位置に形成されている。第2把手93の大径の球状部分は、軸芯Xを中心に球状に形成されている。
【0023】
キャップ96は、アルミニウム合金製の鍔96a付き筒状の部材である。キャップ96と第2把手93の内周部93aとの間には、液体が把手部91内に入るのを防止するための、たとえばOリングからなるシール98が装着されている。シール98は、キャップ96に形成された環状溝96bに装着されている。環状溝96bは、水抜き孔93bより鍔96aに接近する位置に形成されている。
【0024】
リール本体2は、図1及び図2に示すように、開口2dを有する、例えばアルミニウム合金製のリールボディ2aと、開口2dを塞ぐようにリールボディ2aに着脱自在に装着された、例えばアルミニウム合金製の蓋部材2bと、リールボディ2aから斜め上前方に延びる竿取付脚2cとを有している。リールボディ2aは、内部に空間を有しており、その空間内には、ロータ3をハンドル組立体1の回転に連動して回転させるロータ駆動機構5と、スプール4を前後に移動させて釣り糸を均一に巻き取るためのオシレーティング機構6とが設けられている。
【0025】
ロータ駆動機構5は、図2に示すように、ハンドル組立体1のハンドル軸10が固定されたメインギア軸11aとともに回転するメインギア11と、このメインギア11に噛み合うピニオンギア12とを有している。ピニオンギア12は筒状に形成されており、その前部12aはロータ3の中心部を貫通しており、ナット13によりロータ3と固定されている。ピニオンギア12は、その軸方向の中間部と後端部とが、リールボディ2aに間隔を隔てて装着された軸受14a,14bに、よりリールボディ2aに回転自在に支持されている。
【0026】
オシレーティング機構6は、スプール4の中心部にドラグ機構60を介して連結されたスプール軸15を前後方向に移動させてスプール4を同方向に移動させるための機構である。オシレーティング機構6は、スプール軸15の下方に平行に配置された螺軸21と、螺軸21に沿って前後方向に移動するスライダ22と、螺軸21の先端に固定された中間ギア23とを有している。スライダ22にはスプール軸15の後端が回転不能に固定されている。中間ギア23は、ピニオンギア12に噛み合っている。
【0027】
スプール軸15は、ピニオンギア12の中心部を貫通して配置されている。スプール軸15は、ピニオンギア12の内部をオシレーティング機構6により前後に往復移動する。スプール軸15は、中間部がナット13内に装着された軸受16により、後部がピニオンギア12の後部内周面により、回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。スプール軸15がピニオンギア12と相対回転しながら前後移動するときに、ピニオンギア12にスプール軸15がかじりつくのを防止するために、スプール軸15の表面には、無電解Niメッキが施されている。スプール軸15の先端には、互いに平行な面で構成された回り止めのための係止面15aと、ドラグ調整用の雄ねじ部15bとが形成されている。
【0028】
〔ロータの構成〕
ロータ3は、図2に示すように、筒状の連結部30と、連結部30の側方に互いに対向して設けられた第1及び第2ロータアーム31,32とを有するロータ本体33と、ロータ本体33に揺動自在に装着されたベールアーム34と、を有している。連結部30と両ロータアーム31,32と有するロータ本体33は、たとえばアルミニウム合金製であり一体成形されている。
【0029】
連結部30の前部には前壁30aが形成されており、前壁30aの中央部にはボス部30bが形成されている。ボス部33bの中心部には貫通孔30cが形成されており、この貫通孔30cをピニオンギア12の前部12a及びスプール軸15が貫通している。前壁30aの前部にナット13が配置されている。
【0030】
第1ロータアーム31は、連結部30から外方に凸に湾曲して前方に延びており、連結部30の周方向に広がり湾曲している。第2ロータアーム32は、連結部30から外方に凸に湾曲して前方に延びており、連結部30との接続部は連結部30の周方向に広がり湾曲している。なお、第2ロータアーム32には、軽量化のために開口(図示せず)が形成されている。
【0031】
〔ベールアームの構成〕
ベールアーム34は、第1及び第2ロータアーム31,32の先端に糸解放姿勢と糸巻き取り姿勢との間で揺動自在に装着されている。ベールアーム34は、図示しないベール反転機構により糸解放姿勢と糸巻き取り姿勢とに振り分けて付勢されている。
【0032】
ベールアーム34は、図2及び図4に示すように、第1ロータアーム31の先端の外周側に揺動自在に装着された第1ベール支持部材40と、第2ロータアーム32の先端の外周側に揺動自在に装着された第2ベール支持部材42と、第1ベール支持部材40の先端装着されたラインローラ41と、を有している。また、ベールアーム34は、第1ベール支持部材40の先端に固定され第1ベール支持部材40に片持ち支持された固定軸43と、固定軸43の先端側に配置された固定軸カバー44と、固定軸カバー44と第2ベール支持部材とを連結するベール45と、を有している。さらにベールアーム34は、固定軸43を第1ベール支持部材40に固定する固定ボルト46と、固定ボルト46を回り止めする回り止め部材47と、を有している。
【0033】
第1ベール支持部材40は、図4から図6に示すように、たとえばクロムメッキにより形成された金属皮膜により外側面が覆われたアルミニウム合金製の部材である。このクロムムメッキにより表面が硬質になり、釣り糸の接触による外側面の傷付きを防止できる。第1ベール支持部材40の外側面の先端側には、固定ボルト46の頭部46aが収納される第1収納凹部40aが形成されている。また基端側には、第1ベール支持部材40を第1ロータアーム31に取り付けるための取付ボルト49の頭部49aが収納される円形の第2収納凹部40bが形成されている。第1収納凹部40aは、大小2つの円をつないだような概ね雨滴形状に凹んで形成されている。第1収納凹部40aの大径の円の中心C1には、固定ボルト46が貫通する貫通孔40cが形成されている。また、小径の円の中心C2には、回り止め部材47がねじ込まれるねじ込み穴40dが形成されている。さらに、内側面には、ラインローラ41が配置される円形の第3収納凹部40eが形成されている。
【0034】
固定軸43は、固定軸カバー44と別体で形成されている。固定軸43は、固定軸カバー44を第1ベール支持部材40に固定するとともに、ラインローラ41を回転自在に支持するために設けられている。固定軸43は大径の頭部43aと、頭部43aに続いて頭部43aより小径に形成された第1係止部43bと、ラインローラ41を支持する支持部43cと、支持部43cの先端に形成された第2係止部43dと、を有している。固定軸43の先端部には、固定ボルト46が螺合する雌ねじ部43eが形成されている。第1係止部43bは、固定軸カバー44に係合し、第2係止部43dは、第1ベール支持部材40に係合し、これらの係合により固定軸カバー44と固定軸43と第1ベール支持部材40の回り止めがなされる。
【0035】
固定ボルト46は、非円形の頭部46aを有しており、この実施形態では、頭部46aは、8角形の各片を円弧状に凹ませた8つの回り止め凹部46bを有している。回り止め凹部46bは、回り止め部材47が係合可能な円弧で形成されている。したがって、その円弧の中心は回り止め部材47の中心である小径の円の中心C2と実質的に一致するように形成されている。頭部46aの表面には、直径に沿ってドライバーなどの工具を係止するためのすり割り46cが形成されている。固定ボルト46により固定軸43を固定する際には、回り止め凹部46bが回り止め部材47に係合可能な位置まで固定ボルト46を締め付ける。
【0036】
回り止め部材47は、たとえば、すり割り47aが基端に形成されたホローセットスクリューであり、一般のボルトのように大径の頭部を有していない円柱状のボルトである。回り止め部材47は、ねじ込み穴40dの底部までねじ込まれて第1収納凹部40aに固定される。
【0037】
ここでは、頭部を有さないホローセットスクリューにより固定ボルト46を回り止めできるので、その分だけ回り止め部材47を配置するスペースを小さくすることができ、回り止め部材47を配置しても、第1ベール支持部材が大型化しにくくなる。しかも、ホローセットスクリューが六角穴付きではなく、すり割り付きであるので、サイズが小さいものであっても工具により回したときの変形を抑えることができる。
【0038】
また、非円形の頭部46aを有する固定ボルト46により固定軸43が第1ベール支持部材40に固定されている。この固定軸43にラインローラ41が回転自在に支持され釣り糸をスプール4に案内している。ここでは、固定ボルト46の非円形の頭部46aの外周面には、回り止め部材47が接触して固定ボルト46が回り止めされている。このため、固定軸43を第1ベール支持部材40に固定する固定ボルト46が緩みにくくなり、固定ボルト46の緩みに起因する不具合、たとえば、ラインローラ41のがたつきの発生を抑えることができる。スピニングリールの場合、ラインローラ41ががたついたり位置が不安定になったりすると、糸ヨレが生じる原因になったり糸噛みが生じる原因になったりする。
【0039】
固定軸カバー44は、図4に示すように、略U状に湾曲させた形状のベール45と、たとえば鍛造により一体形成されている。固定軸カバー44には、固定軸43を装着可能な大きく装着凹部44aが形成され、装着凹部44aの底部には、第1係止部43bが係合するスロット44bが形成されている。ベール45の先端は、第2ベール支持部材42にカシメ固定されている。
【0040】
ラインローラ41は、軸方向に間隔を隔てて配置された2つの軸受48a,48bにより固定軸43に回転自在に支持されている。ラインローラ41は、軸方向の中心に形成された小径のガイド溝41aを挟んで第1筒部41bと第2筒部41cとが形成されている。第1筒部41bは、固定軸カバー44内に入り込んでおり、第2筒部41cより小径である。第2筒部41cは、第1ベール支持部材40の先端に形成された円形の第3収納凹部40e内に入り込んでいる。ラインローラ41の内部には、軸受48a,48bを装着するためのカラーやスペーサやワッシャが装着されている。
【0041】
図2に示すように、ロータ3の連結部30の内部にはロータ3の逆転を禁止するための逆転防止機構50が配置されている。逆転防止機構50は、内輪が遊転するローラ型のワンウェイクラッチ51を有している。この逆転防止機構50は、ロータ3の糸繰り出し方向の逆転を常時禁止しており、逆転を許可する状態をとることはない。
【0042】
〔スプールの構成〕
スプール4は、図2に示すように、ロータ3の第1ロータアーム31と第2ロータアーム32との間に配置されており、スプール軸15の先端に装着されている。スプール4は、図7に示すように、外周に釣り糸が巻かれる、たとえばアルミニウム合金製の糸巻き胴部4aと、糸巻き胴部4aの後部に一体で形成されたスカート部4bと、糸巻き胴部4aの前端に一体形成された前フランジ部4cとを有している。スプール4の内部には、設定されたドラグ力がスプール4に作用するようにスプール4を制動するドラグ機構60と、ドラグ作動時に発音するドラグ発音機構85と、が収納されている。
【0043】
糸巻き胴部4aは、円筒状の部材であり、外周面はスプール軸15と平行な周面で構成されている。糸巻き胴部4aは、釣り糸が巻き付けられる筒状部4dと、筒状部4dの内周面に一体形成された円板状の支持壁部4eと、支持壁部4eの内周側に形成された筒状の軸支部4fと、を有している。
【0044】
スカート部4bは、糸巻き胴部4aの後方から径方向に延びる後フランジ部4hと、後フランジ部4hの外周側から後方に筒状に延びる円筒部4iと、を有している。この円筒部4iの内側にロータ3の連結部30が配置されている。
【0045】
前フランジ部4cの外周面には、釣り糸を糸巻き胴部4aからスムーズに放出するための金属製のスプールリング20が装着されている。スプールリング20は、先広がりの傾斜面20aを有している。スプールリング20は、リング固定部材19により前フランジ部4cに固定されている。リング固定部材19は、前フランジ部4cから前方に突出する筒状の雌ねじ部4jに螺合している。
【0046】
図7及び図8に示すように、糸巻き胴部4aの内部において、支持壁部4eの前方には、ドラグ機構60を収納するためのドラグ収納筒部52が一体回転可能に装着されている。ドラグ収納筒部52の前方には、軸支部4fとでスプール4をスプール軸15に対して回転自在に支持するための支持筒部53が装着されている。
【0047】
ドラグ収納筒部52の内部には、ドラグ機構60の後述する摩擦部(ドラグ摩擦部の一例)62が収納されている。ドラグ収納筒部52は、周方向に間隔を隔てて形成された複数(たとえば、8つ)の半円形の係止凹部52aを内周面に有している。また、スプール4の支持壁部4eに形成された複数(例えば4つ)の係合孔4gに係合する周方向に間隔を隔てて形成された複数(たとえば、4つ)の係合突起52bを後面に有している。これにより、ドラグ収納筒部52は、スプール4と一体回転する。
【0048】
支持筒部53は、糸巻き胴部4aの筒状部4dの内周面に嵌合する装着筒部53aと、装着筒部53aの内周面に一体形成された円形壁部53bと、円形壁部53bの内周側に形成された筒状の軸支部53cと、を有している。装着筒部53aの前側外周面53eは、後側外周面53fより大径に形成されて筒状部4dの内周面に嵌合している。この前側外周面53eには、筒状部4dと支持筒部53との隙間から液体の支持筒部53の後方へ浸入するのを防止するためにOリング54が装着されている。Oリング54は、支持筒部53の前側外周面53eに形成された環状溝53dに装着されている。装着筒部53aの後面は、ドラグ収納筒部52の前面に接触している。支持筒部53は、その前方でスプール4内部に装着された線材製の抜け止めばね55によりドラグ収納筒部52とともに抜け止めされている。抜け止めばね55は、糸巻き胴部4aの前面とリング固定部材19の後面との隙間でスプール4内に保持されている。
【0049】
スプール軸15の外周面には、スプール4をスプール軸15に対して回転自在に支持するための2つの軸受58a,58bが装着される第1支持部56及び第2支持部57が嵌め込まれている。第1支持部56は、スプール軸15に回転可能に装着されている。第1支持部56は、鍔部56aと鍔部56aより小径の筒部56bとを有する鍔付き円筒状の部材である。第1支持部56は、ドラグつまみ組立体61と摩擦部62との間に、両者に接触して配置されている。第1支持部56の筒部56bの外周面には、軸受58aの内輪がカシメ固定されている。軸受58aの外輪は、支持筒部53の軸支部53cに装着されている。これにより、第1支持部56の筒部56bの外周面に対して軸受58aを簡単に抜け止めできる。
【0050】
第2支持部57は、スプール軸15の前側部分に形成された係止面15aの後部に固定されている。第2支持部57は、小径部57aと大径部57bとを有する大小二段の段付き筒状の部材である。小径部57aには、軸受58bの内輪が装着されている。軸受58bの外輪は、糸巻き胴部4aの軸支部4fに装着されている。大径部57bには、互いに平行な面で構成された第1係止面57cと、第1係止面と直交する第2係止面57dと、が形成されている。この第1係止面57cを貫通するように配置された止めねじ59により、第2支持部57はスプール軸15に回転不能に固定されている。止めねじ59は、すり割り付きのホローセットスクリューを用いたものであり、第1係止面57cを通って係止面15aを貫通するねじ孔にねじ込まれる。
【0051】
このような構成のスプール4の支持構造では、糸巻き胴部4aの支持壁部4eの前方に支持筒部53を設け,支持筒部53に軸受58aを配置したので、軸支部4fに2つの軸受を並べる従来の構成に比べて、2つの軸受58a,58bの軸方向の間隔を広くすることができる。このため、スプール4の支持間隔が広くなり、スプール4のがたつきを抑えることができる。
【0052】
〔ドラグ機構の構成〕
ドラグ機構60は、図7及び図8に示すように、スプール4の糸繰り出し方向への回転を制動してスプール4にドラグ力を作用させるための機構である。ドラグ機構60は、スドラグ力を手で調整するためのドラグつまみ組立体61と、ドラグつまみ組立体61によりにスプール4側に押圧されてドラグ力が調整される、たとえば4枚のドラグ座金62a〜62dを有する摩擦部(ドラグ摩擦部の一例)62と、を備えている。
【0053】
〔ドラグつまみ組立体の構成〕
ドラグつまみ組立体61は、図9及び図10に示すように、第1部材66及び第1部材66に対して相対回転する第2部材67を有するつまみ部63と、つまみ部63とスプール4との隙間をシールする第1シール部材64と、第1部材66と第2部材67との隙間をシール第2シール部材65と、第1部材66と第2部材67との相対回転により発音するつまみ発音機構68(図10)と、を有している。
【0054】
つまみ部63は、第1及び第2部材66,67に加えて第1及び第2部材66,67を軸方向移動不能かつ回転自在に連結する連結部材74をさらに有している。
【0055】
第1部材66は、リング状の鍔部66aと、鍔部66aより小径の円筒部66bとを有する鍔付き筒状の、例えばアルミニウム合金等の金属製の部材である。第1部材66は、スプール軸15に回転不能かつ軸方向移動自在に設けられている。鍔部66aの前端面には、つまみ発音機構68を構成する音出し円板(音出し板の一例)69が一体回転可能に設けられている。
【0056】
音出し円板69は、合成樹脂製の部材であり、その前面には、周方向に間隔を隔てて多数の音出し凹部69aが形成されている。音出し円板69の後面には、鍔部66aに形成された複数の連結孔66eに嵌合する複数の連結突起69bが形成されている。これにより音出し円板69は、第1部材66に対して回り止めされる。
【0057】
円筒部66bの内周部には、スプール軸15の係止面15aに回転不能に係合する長円状の係止スロット66cが形成されている。円筒部66bの外周面の第1シール部材64の装着部分の後部には、環状溝66dが形成されている。この円筒部66bの後端面が第1支持部56を介して摩擦部62のドラグ座金62aに当接する。
【0058】
第2部材67は、第1部材66に対向して配置され、第1部材66と相対回動自在に設けられている。第2部材67は、スプール軸15に螺合するとともに、鍔部66aを覆うように第1部材66に向けて筒状に突出する部材である。第2部材67は、つまみ体71と、つまみ体71に回転不能かつ軸方向移動自在に装着され、スプール軸15に螺合するナット部72と、ナット部72と第1部材66との間に圧縮状態で配置されたコイルばねからなるばね部材73とを有している。
【0059】
つまみ体71は、円板部75aと、円板部75aより小径の筒状の突出部75bと、を有する合成樹脂製のつまみ本体75と、つまみ本体75の前面に固定された金属製の円板状のカバー部76と、カバー部76の前面に径方向に沿って固定された金属製の操作つまみ77と、を有している。
【0060】
つまみ本体75の円板部75aの背面側からは、4本のボルト部材80a〜80dが挿入され,カバー部76を貫通して操作つまみ77にねじ込まれている。これにより、カバー部76と操作つまみ77がつまみ本体75に固定される。
【0061】
突出部75bは、第1部材66の鍔部66aを覆うように第1部材66に向けて筒状に突出している。突出部75bで覆われた第1部材66の鍔部66aは、突出部75bの内周面に装着された連結部材74により抜け止めされている。これにより、第1部材66と第2部材67とが相対回転自在かつ軸方向移動不能に連結される。つまみ本体75の内周部には、ナット部72が軸方向移動自在かつ一体回転可能に収納されるナット収納部7575cが形成されている。
【0062】
カバー部76は、つまみ本体75の円板部75aの前面及び外周面の一部を覆うように形成されている。この結果、ドラグつまみ組立体61の機構部分を構成する合成樹脂製のつまみ本体75はスプール4内に隠れて外部に露出しなくなる。カバー部76の前面は、中心部分に向けて徐々に厚みが薄くなるように凹んでいる。操作つまみ77は、カバー部76の直径に沿って配置され、前方に突出している。
【0063】
連結部材74は、弾性を有する金属線材を折り曲げて形成された部材である。連結部材74は、略正方形の角に相当する4つの角部74aを有するC字状のばね部材である。連結部材74は、突出部75bの内周面に形成された環状溝に角部74aが係止されることにより突出部75bの内周面に装着されている。連結部材74は、角部74aの間の3つの円弧部74bが鍔部66aの後面に接触することにより、鍔部66aを抜け止めしている。
【0064】
ナット部72は、たとえば六角ナットであり、スプール軸15の先端外周面に形成された雄ねじ部25bに螺合し、つまみ本体75の回動に応じてばね部材73を圧縮する。
【0065】
第1シール部材64は、たとえば合成ゴム製の円板状の部材である。第1シール部材64は、スプール4の支持筒部53の装着筒部53aの内周面と第1部材66の円筒部66bの外周面との間に配置されている。第1シール部材64は、環状溝66dに装着された止め輪70により後方への移動を規制されている。第1シール部材64は、内周面が第1部材66の円筒部66bに装着され、外周部が支持筒部53の装着筒部53aの内周面に接触している。第1シール部材64の内部には、たとえばステンレス合金製の円板状の補強板81が埋設されている。補強板81は、第1シール部材64の成形時に金型内に挿入され、インサート成形されている。第1シール部材64の外周部には、装着筒部53aの内周面に接触する先細り断面のリップ部64aが形成されている。リップ部64aは前方に向けて傾斜している。また、径方向の途中には、前方に突出する断面三角形状の環状突起部64bが形成されている。この環状突起部64bが第2シール部材65の背面に接触する。また、第1シール部材64のリップ部64aの前面も第2シール部材65の外周面の後端部に接触している。
【0066】
第2シール部材65は、たとえば、合成ゴム製の有底筒状の部材である。第2シール部材65は、第1シール部材64と第2部材67との間に配置されている。第2シール部材65は、第2部材67のつまみ本体75の突出部75bの外周面に接触可能な筒状の接触部65aと、接触部65aの内周側に形成され突出部75bの後端面に係合する環状凹部65bと、第1部材66の円筒部66bの外周面に装着される円板部65cと、を有している。
【0067】
このような構成のドラグつまみ組立体61では、第1部材66と第2部材67との間に配置された第2シール部材65が、第2部材67の突出部75bの外周面に接触する筒状の接触部65aを有しており、この第2シール部材65により第1部材66と第2部材67との隙間がシールされる。また、スプール4と第1部材66との間に配置された第1シール部材64によりスプール4と第1部材66との間がシールされる。ここでは、第2シール部材65が筒状の接触部64aで第2部材67のつまみ本体75の突出部75bの外周面に接触している。このため、第1シール部材64と第2シール部材65とを一体形成した場合に、第1シール部材64に水圧が作用して押し下げられても、第2シール部材65が変形しにくくなる。このため、2つのシール部材64,65に水圧が作用しても、第1部材66と第2部材67との間からドラグつまみ組立体の内部に液体が流入しにくくなる。しかも、第1シール部材と第2シール部材と別体であるので、第1シール部材64が変形しても第2シール部材65はより変形しにくくなり、ドラグつまみ組立体61の内部に液体がさらに流入しにくくなる。
【0068】
つまみ発音機構68は、図10に示すように、音出し凹部69aを有す音出し円板69と、つまみ本体75に進退自在に装着された打撃ピン(打撃部材の一例)82と、打撃ピン82を音出し凹部69aに向けて付勢するコイルバネ83とを有している。打撃ピン82は、中央部分が大径で先端及び後端が小径でさらに先端が半球状に丸められたピンであり、ドラグ操作時に第2部材67と第1部材66とが相対回転すると、音出し凹部69aとの衝突を繰り返して発音する。
【0069】
〔摩擦部の構成〕
摩擦部62のドラグ座金62aは、図8に示すように、第1部材66に第1支持部56を介して接触し、かつスプール軸15に対して回転不能な金属製の円板部材である。ドラグ座金62bは、スプール4に対して一体回転可能な金属製の円板部材である。ドラグ座金62cは、ドラグ座金62aと同様にスプール軸15に対して回転不能な金属製の円板部材である。ドラグ座金62dは、スプール4及びスプール軸15に対して回転自在なたとえばフェルト製又はグラファイト製の円板部材である。ドラグ座金62a,62cの中心部には、スプール軸15の先端側に形成された係止面15aに係合する長円形の係止スロット62eが形成されている。ドラグ座金62bの外周面には、径方向外方に突出する複数(たとえば8つ)の耳部62fが形成されている。この耳部62fは、ドラグ収納筒部52の内周面に周方向に間隔を隔てて配置され、軸方向に沿って形成された複数の係止凹部52aに係止されている。これにより、ドラグ座金62bは、スプール4に対して一体回転可能になっている。
【0070】
ドラグ座金62a〜62dは、支持筒部53を支持する第1支持部56により抜け止めされている。したがって、支持筒部53の前方に配置された抜け止めばね55を外さないと、ドラグ座金62a〜62dは着脱できない。
【0071】
ドラグ発音機構85は、ドラグの作動によりスプール軸15とスプール4とが相対回転すると発音する機構である。ドラグ発音機構85は、図8に示すように、スプール4の後フランジ部4hの背面に装着されスプール4と一体回転する第1発音部材86と、第1発音部材86に対して打撃を繰り返し第2発音部材87と、を有している。
【0072】
第1発音部材86は、鍔付き円筒形状であり、内周面に円弧状の多数の音出し凹部86aが形成された金属製の部材である。第1発音部材86の後面には銘版88が配置され、銘版88とともに、第1発音部材86は後フランジ部4hの背面にねじ止めされている。
【0073】
第2発音部材87は、音出し凹部86aに向けて進退する2つの打撃ピン87aと、2つの打撃ピン87aを音出し凹部86aに向けて付勢する2つのばね部材87bと、を有している。打撃ピン87aは、第2支持部57の第2係止面57dに回転不能に係合する筒状の収納部材89に収納されている。収納部材89は、打撃ピン87aを進退可能に収納する2つの収納溝89cを有する厚肉円筒状の収納本体部89aと、収納本体部89aにねじ止めされて収納溝89cを塞ぐとともに、第2係止面57dに係合する円板状のカバー89bと、を有している。収納本体部89aの2つの収納溝89cは、収納本体部89aの外周面に開口しており、開口側の2つの収納溝89cの間隔が狭くなるように形成されている。カバー89bの内周面には、第2係止面57dに係合する係止スロット89dが形成されている。収納部材89と、スプール4の支持壁部4eとの間にはワッシャ101が配置されている。
【0074】
カバー89bの後面には、第2支持部57の第1係止面57cに係合する、たとえば合成樹脂製の3枚のスプール位置調整ワッシャ102と、スプール4の後方への移動を規制する2枚の規制ワッシャ103,104とが装着されている。規制ワッシャ103,104は、スプール軸15の係止面15aに係合する係止スロット103a,104aが内周部に形成されており、スプール軸15に対して回転不能である。規制ワッシャ104は、段付きワッシャであり、規制ワッシャ103とで第3シール部材105を保持している。第3シール部材105の外周部は、第1発音部材86の内周面に接触している。第3シール部材105は、スプール4の後面から摩擦部62を含むスプール4内部への液体の流入を防止するために設けられている。
【0075】
〔リールの操作及び動作〕
釣りを行う前に魚の大きさや種類に合わせてドラグ力を調整する。ドラグ力を調整するには、ドラグつまみ組立体61を回す。ドラグつまみ組立体61をたとえば時計回りに回すと、スプール軸15に螺合するナット部72によりばね部材73を介して第1部材66が摩擦部62側に押圧される。これによりドラグ力が大きくなる。このとき、第1部材66と第2部材67との相対回転により打撃ピン82が音出し凹部69aへの衝突を所定間隔で繰り返し、歯切れがよい軽快なクリック音が発生する。
【0076】
キャスティング時には、ベールアーム34を糸開放姿勢に反転させる。これにより第1ベール支持部材40及び第2ベール支持部材42が揺動する。この状態で釣り竿を握る手の人差し指で釣り糸を引っかけながら釣り竿をキャスティングする。すると釣り糸は仕掛けの重さにより勢いよく放出される。この状態でハンドル組立体1を糸巻取方向に回転させると、ロータ駆動機構5によりロータ3が糸巻取方向に回転し、ベールアーム34がベール反転機構(図示せず)により糸巻取位置に復帰し、釣り糸がベール45からラインローラ41に移動してスプール4に巻き付けられる。
【0077】
釣りを行っているときに、大きな魚がかかってラインローラ41への負荷が大きくなると、負荷の変動により第1ベール支持部材40に片持ち支持された固定軸43が僅かに傾いて振動することがある。このような場合に、本実施形態では、固定軸43を第1ベール支持部材40に固定するための固定ボルト46が回り止め部材47により回り止めされているので、固定ボルト46が緩みにくくなる。
【0078】
釣りを行った後にスピニングリールを真水が入ったバケツなどに浸けて洗浄する場合、水圧により第1シール部材64が後方に押し下げられて変形することがある。第1シール部材64で第1部材66と第2部材67との隙間をシールしようとすると、第1シール部材64の変形によりその隙間からドラグつまみ組立体61の内部に液体が流入するおそれがある。しかし、本実施形態では、第2部材の突出部75bの外周面に接触する筒状の接触部65aを第2シール部材65に設けたので、第1シール部材64が水圧により変形しても、ドラグつまみ組立体61の内部に液体が浸入しにくい。このため、ドラグつまみ組立体61の内部からスプール軸15の外周部を通って摩擦部62に液体が流入しにくくなり、摩擦部62の濡れによるドラグ力の変動が生じにくくなる。
【0079】
〔他の実施形態〕
(a)前記実施形態では、第1シール部材64と第2シール部材65とを別体にしたが一体で形成してもよい。この場合にも、第2シール部材の接触部により第1部材66と第2部材67の隙間を確実にシールできる。
【0080】
(b)前記実施形態では、第1シール部材64に補強板81を埋設したが、補強板を埋設しなくてもよい。この場合、第1シール部材全体が弾性を有しているので、第1部材の外周面に形成された環状溝に装着して抜け止めするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態が採用されたスピニングリールの側面図。
【図2】その側面断面図。
【図3】ハンドル把手の断面図。
【図4】ベールアームの分解斜視図。
【図5】第1ベール支持部材の平面図。
【図6】固定軸カバー付近のベールアームの断面拡大図。
【図7】スプールの断面図。
【図8】スプールの分解斜視図。
【図9】ドラグつまみ組立体の断面図。
【図10】その分解斜視図。
【符号の説明】
【0082】
4 スプール
15 スプール軸
60 ドラグ機構
61 ドラグつまみ組立体
62 摩擦部(ドラグ摩擦部の一例)
63 つまみ部
64 第1シール部材
66a リップ部
65 第2シール部材
65a 接触部
65b 環状凹部
66 第1部材
66a 鍔部
66d 環状溝
67 第2部材
68 つまみ発音機構
69 音出し円板(音出し板の一例)
69a 音出し凹部
70 止め輪
71 つまみ体
72 ナット部
73 ばね部材
74 連結部材
75 つまみ本体
75a 円板部
75b 突出部
76 カバー部
77 操作つまみ
82 打撃ピン(打撃部材の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り糸を前方に繰り出すスピニングリールのスプールのスプール軸に装着可能であり、前記スプールにドラグ力を作用させるためのドラグ摩擦部のドラグ力を調整するためのスピニングリールのドラグつまみ組立体組立体であって、
鍔部を有し前記スプール軸に回転不能かつ軸方向移動自在に設けられた第1部材、前記第1部材と相対回動自在に設けられ前記スプール軸に螺合するとともに、前記鍔部を覆うように前記第1部材に向けて筒状に突出する突出部を有する第2部材、及び前記第1部材と前記第2部材とを軸方向移動不能かつ回転自在に連結する連結部材、を有し、前記ドラグ力を調整するためのつまみ部と、
前記スプールと前記第1部材との間に配置され、前記スプールと前記第1部材との隙間をシールする第1シール部材と、
前記第1シール部材と前記第2部材との間に配置され、前記第2部材の前記突出部の外周面に接触可能な筒状の接触部を有し、前記第1部材と前記第2部材との隙間をシールする第2シール部材と、
を備えたスピニングリールのドラグつまみ組立体。
【請求項2】
前記第2シール部材は、前記接触部の内周側に形成され前記突出部の端面に係合する環状凹部をさらに有する、請求項1に記載のスピニングリールのドラグつまみ組立体。
【請求項3】
前記第1部材は外周面に環状溝を有し、
前記第1シール部材は、前記環状溝に装着される止め輪により前記第2シール部材から離反する方向への移動が規制されている、請求項1又は2に記載のスピニングリールのドラグつまみ組立体。
【請求項4】
前記第1シール部材は、前記スプールの内周面に接触する先細り断面のリップ部を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のスピニングリールのドラグつまみ組立体。
【請求項5】
前記つまみ部は、前記第1部材と前記第2部材との間に配置され前記第1部材と前記第2部材との相対回動により発音する発音機構をさらに有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のスピニングリールのドラグつまみ組立体。
【請求項6】
前記第1部材は、金属製であり、
前記発音機構は、
前記第1部材の前記鍔部の前面に回転不能に装着され、周方向に間隔を隔てて複数の音出し凹部が形成された合成樹脂製の音出し板と、
前記音出し凹部に向けて付勢された状態で前記第2部材に移動可能に装着された打撃部材と、を有する、請求項5に記載のスピニングリールのドラグつまみ組立体。
【請求項7】
前記第2部材は、
円板部及び前記円板部より小径の前記突出部を有する合成樹脂製のつまみ本体と、前記円板部を覆うように前記つまみ本体の前面に固定された金属製の円板状のカバー部と、カバー部の前面に径方向に沿って固定された金属製の操作つまみと、を有するつまみ体と、
前記つまみ体に回転不能かつ軸方向移動自在に装着され、前記スプール軸に螺合するナット部と、
前記ナット部と前記第1部材との間に配置されたばね部材とを有する、請求項1から6のいずれかに記載のスピニングリールのドラグつまみ組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−148173(P2009−148173A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326568(P2007−326568)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】