説明

スピーカの自己診断装置

【課題】簡略且つ確実にスピーカの特性劣化を診断可能なスピーカの自己診断装置を提供する。
【解決手段】スピーカユニットに音声信号を供給する増幅器に対して拡散符号を入力する拡散符号発生器、スピーカユニットが放音した音声信号を収音するマイク、マイクが収音した音声信号と拡散符号との相関波形を検出する相関波形検出部、マイクが収音する音声信号と拡散符号との相関波形の初期値を記憶するメモリ、相関波形検出部が検出した相関波形と初期値とを比較する相関判定部、および、相関判定部の比較結果を表示する表示部を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スピーカユニットの劣化を診断するスピーカの自己診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカユニットは、使用されるにつれてコーンエッジの疲労やダンパーの硬化などにより音質が劣化する。特にプロ仕様のPAシステムでは、スピーカユニットを定格付近のパワーで使用することが多いため劣化が著しい。また、プロ仕様のPAシステムでは、使用中(本番中)にスピーカユニットが壊れてしまい音が出なくなるなどの不都合が発生することは絶対に避けなければならない。
【0003】
このため、使用前にスピーカユニットの劣化を診断できることが望ましいが、従来は適当な診断方法が存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−215085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
民生オーディオ機器のアンプには、特許文献1に示すような、テストトーンを放音してスピーカから放音される音声信号の周波数特性を測定するものが提案されているが、スピーカユニットそのものの劣化を診断する機能ではなかった。すなわち、特許文献1の技術は、リスニングポイント(聴取位置)に設置したマイクを使って、スピーカからリスニングポイントに至る空間を含めた伝送系の音響特性を測定し、この特性を補償するようにアンプのイコライジングを設定するものである。この機能では、周波数特性の補正とともにスピーカの接続不良や極性の正逆について判定することはできるが、スピーカユニットそのものの特性を測定することは困難であった。また、スピーカユニットの特性劣化は、診断時点の音だけでは判断しにくい場合が多かった。
【0006】
この発明は、簡略且つ確実にスピーカユニットの特性劣化を診断可能なスピーカの自己診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明であるスピーカの自己診断装置は、スピーカユニットに増幅された音声信号を供給する増幅器に対して、前記音声信号として拡散符号を入力する拡散符号発生器と、前記スピーカユニットが放音した音声信号を収音するマイクと、前記マイクが収音した音声信号と前記拡散符号との相関波形を検出する相関波形検出部と、前記マイクが収音する音声信号と前記拡散符号との相関波形の初期値を記憶するメモリと、前記相関波形検出部が検出した相関波形と前記初期値とを比較する相関判定部と、前記相関判定部の比較結果を表示する表示部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、前記相関波形検出部は、時間領域の相関波形を周波数領域に変換した波形を検出する手段であり、前記メモリは、周波数領域の波形の初期値を記憶することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、前記スピーカユニットおよび前記増幅器とともに、同一のエンクロージャに収納されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記マイクは、前記エンクロージャの外部に向けて設けられた第1のマイク、および、前記エンクロージャの内部に設けられた第2のマイクからなり、前記第1のマイクが収音した音声信号と前記第2のマイクが収音した音声信号とを相互に位相を反転して加算した信号が前記相関波形検出部に入力されることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜4の発明において、前記相関判定部の比較結果の他装置への送信、および、他装置からの前記拡散符号の発生指示の受信、一方または両方を行うネットワーク通信部をさらに備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1〜4の発明において、自装置の識別コードが設定されるID設定部と、前記マイクが収音した音声信号から前記自装置の識別コードで変調された拡散符号を検出したとき、前記相関波形検出部および前記相関判定部に対して前記マイクが収音した音声信号と前記拡散符号との相関波形を検出して該検出した相関波形と前記初期値とを比較する自己診断動作を実行させる復調部と、前記自己診断動作が終了したのち、前記拡散符号発生器が発生する拡散符号を他の装置の識別コードで変調して前記増幅器に出力する変調部と、をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、工場出荷時の相関波形などを初期値として記憶しておき、現在の特性をこの特性と比較することにより、スピーカの特性劣化を簡単に知ることができ、突然音が出なくなる等のトラブルを未然に防止することができる。また、また、M系列などの拡散符号を自己診断用の音声信号として用いることにより、ユーザが殆ど気にならない程度の時間・音量で自己診断動作を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施形態であるスピーカの構成図
【図2】スピーカに内蔵される自己診断装置のブロック図
【図3】自己診断装置によって測定される相関波形を示す図
【図4】図3の相関値波形をフーリエ変換して周波数領域でプロットした曲線を示す図
【図5】自己診断装置の自己診断動作を示すフローチャートおよび向上出荷時の初期値記憶動作を示すフローチャート
【図6】バスレフ型のエンクロージャを備えた実施形態を示す図
【図7】エンクロージャに外付けされる自己診断装置を示す図
【図8】ネットワーク機能を備えた自己診断装置の実施形態を示す図
【図9】個別のIDが設定される自己診断装置のブロック図
【図10】図9の自己診断装置の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照してこの発明の実施形態であるスピーカについて説明する。以下、この明細書においては、放音デバイスであるスピーカ単体をスピーカユニットと呼び、スピーカユニットおよび必要な回路をエンクロージャ(スピーカボックス)に収納した装置をスピーカと呼ぶ。
【0016】
図1は、この発明の実施形態であるスピーカの構成を示す図である。図2は、このスピーカに内蔵される自己診断装置のブロック図である。また、図3は、自己診断装置によって測定される相関波形を示す図である。
【0017】
このスピーカ1は、エンクロージャ15内にスピーカユニット10とともに増幅器(パワーアンプ)11を内蔵したアクティブスピーカである。また、このスピーカ1は、自己診断装置12およびマイク13を備えている。自己診断装置12は、スピーカユニット10から拡散符号であるM系列信号を放音させ、その音響(音波)をマイク13で収音してスピーカユニット10の特性を測定し、この周波数特性を出荷時に記憶された特性の初期値と比較することによってスピーカユニット10の劣化や変化を診断する。また、スピーカ1は、診断結果を表示するための表示器14を備えている。
【0018】
スピーカユニット10、マイク13、表示器14は、それぞれエンクロージャ15の前面板であるバッフル板に取り付けられている。増幅器11は外部から入力されたオーディオ信号および自己診断装置12から入力されたM系列信号を増幅してスピーカユニット10に供給する。
【0019】
図2は、自己診断装置12のブロック図である。自己診断装置12は、M系列信号発生器20、整合フィルタ21、相関波形検出部22、メモリ23、相関判定部24を備えている。これらの機能部はスピーカユニット10の特性診断時に以下のように動作する。
【0020】
M系列信号発生器12は、自己診断動作時に拡散符号であるM系列信号を発生して増幅器11に入力する。増幅器11はこのM系列信号を増幅してスピーカユニット10から放音し、その音響はマイク13によって収音される。マイク13で収音された音響はA/D変換されたのち整合フィルタ21に入力される。
【0021】
M系列信号発生器20は、M系列信号を所定周期繰り返し発生する。M系列の周期については、周期が短すぎると相関値のピークが小さく同期を判別しにくくなるうえ測定精度が悪くなる。また、長すぎるとM系列信号の放音時間が長くなって耳障りであるうえ、整合フィルタ21の演算負荷も増大する。これら考慮して適切な周期のものを選択すればよい。たとえば、サンプリング周波数48kHz、周期511、チップレート2サンプルとする。この場合、1周期あたりの時間は約22msで、10周期の平均を測定する場合でも発音時間は約220msで十分短い。
【0022】
整合フィルタ21は、M系列信号発生器20が発生するM系列信号をフィルタ係数とするFIRフィルタであり、マイク13で収音された音響とM系列信号との相関値を出力する。この相関値は相関波形検出部22に入力される。
【0023】
相関波形検出部22は、整合フィルタ21から入力される相関値の時系列データから絶対値最大点であるピーク(同期点)を検出し、このピークを含む所定サンプル(たとえばピークを中心とした1022サンプル)の時系列データを相関波形として切り出す。M系列信号発生器20がM系列信号を複数周期繰り返して発生するため、整合フィルタ21から入力された相関値の時系列データにも複数のピークが現れる。相関波形検出部22は、各ピークを含む所定サンプルの時系列データを切り出して平均することにより相関波形を求める(図3参照)。なお、図3において実線は初期波形、破線は高域劣化時の相関波形である。
【0024】
メモリ23には、このスピーカ1の工場出荷時に上記手順で測定された相関波形(初期波形)が記憶されている。
【0025】
相関判定部24は、相関波形検出部22から今回測定された相関波形を入力するとともにメモリ23から初期波形を読み出し、両者を比較する。この比較は、各サンプルごとに差分をとりその合計値を比較結果とする。この比較結果が、予め設定したしきい値より小さければ正常と判断する。一方、比較結果がしきい値以上であれば、スピーカユニット10が出荷時の特性から劣化していると判定する。なお、スピーカユニット10の故障で音が出ていない場合には、整合フィルタ21の出力は、図3のようなピークを持つ波形にはならないため、初期波形と比較することにより容易に故障(音が出ていないこと)を判定することができる。
【0026】
そして、その判定結果を表示器14に表示する。表示器14は、LEDやLCD等を適用することができる。表示器14がLEDの場合、表示色や点灯/点滅で正常/異常を表示すればよい。また、表示器14がLCDマトリクス表示器の場合、テキストにより正常か異常かを表示すればよい。
【0027】
なお、上に説明した実施形態では時間領域の相関波形を比較することでスピーカユニット10の劣化の有無を判定している。自己診断装置12(相関判定部22)の処理能力に余裕がある場合は相関波形をフーリエ変換することによって、図4に示すようなスピーカユニット10の周波数特性を求めてもよい。この場合、メモリ23には工場出荷時のスピーカユニット10の周波数特性(初期特性)を記憶しておく。周波数領域の波形である周波数特性を比較することにより、周波数帯域ごとにどの程度特性が変化しているかを厳密に評価して表示することも可能になる。
【0028】
図4は、図3の相関値波形をフーリエ変換して周波数領域でプロットしたものである。このように、相関波形を周波数領域の特性曲線に変換することにより、出荷時と高域劣化時の周波数特性の差が明瞭になっている。すなわち、周波数特性の差は、相関値波形の差で判定できるものである。処理負荷に余裕があれば、相関波形をフーリエ変換して、どのような帯域が出荷時から劣化しているか厳密に評価し、表示することも可能である。
【0029】
M系列信号などの拡散符号は、全ての周波数帯域を含んでおり、ノイズ耐性も高いため、小さい音で鳴らせば正確な測定が可能であり、大音量のインパルス音や長時間のスイープ音を鳴らす必要がなく、スピーカユニットに負担が少なく、聴感上不快でない。
【0030】
図5(A)に上記自己診断装置12の自己診断処理をフローチャートで手順を示しておく。自己診断処理は、電源投入時に自動的に、または、係員によるマニュアル操作に応じて実行される。まず拡散符号発生器20がM系列信号を発生して増幅器11に入力する(S1)。これにより、スピーカユニット10からM系列信号が音響として放音され、この音響をマイク13が収音し、時系列の音声信号として自己診断装置12の整合フィルタ21に再入力する。整合フィルタ21は入力された音声信号とM系列信号との相関値を時系列に出力する(S2)。なお、このS1、S2の処理は順次処理で実行されるのではなく同時並行して実行される。
【0031】
相関波形検出部22は、整合フィルタ21から出力される相関値に基づいて相関波形を求める(S3)。そして、相関判定部24は、この求められた相関波形をメモリ23に記憶されている初期波形と比較することにより、スピーカユニット10の状態を判定する(S4)。判定の結果スピーカユニット10に異常(劣化)があれば(S5でYES)、表示器14に異常の旨を表示し(S6)、異常がなければ(S5でNO)、表示器14に正常の旨を表示する(S7)。
【0032】
なお、相関波形をフーリエ変換した周波数特性を比較する場合には、S3の後にフーリエ変換処理を行い、S4でメモリ23に記憶されている初期特性と今回測定された周波数特性とを比較すればよい。
【0033】
また、図5(B)は、工場出荷時に行われる初期波形測定動作を示すフローチャートである。まず拡散符号発生器20がM系列信号を発生して増幅器11に入力する(S11)。これにより、スピーカユニット10からM系列信号が音響として放音され、この音響をマイク13が収音し、時系列の音声データとして自己診断装置12の整合フィルタ21に再入力する。整合フィルタ21は入力された音声データとM系列信号との相関値を時系列に出力する(S12)。相関波形検出部22は、整合フィルタ21から出力される相関値に基づいて相関波形を求める(S13)。そして、この求められた相関波形をメモリ23に記憶する(S14)。
【0034】
図6に本願発明のスピーカの他の実施形態を示す。この実施形態は、バスレフ型のエンクロージャの内部に第2のマイクを設けた例である。この実施形態において図1、図2に示した実施形態と同一の構成部は同一番号を付して説明を省略する。
【0035】
図6(A)において、エンクロージャ35はバスレフ型であり、バッフル板にバスレフポート35Aが開口している。第1のマイク13はエンクロージャ35のバッフル板に開設された穴から外に向けて設けられている。一方、第2のマイク33は、エンクロージャ35の内部に設けられている。なお、バッフル板に穴を開けず、第1のマイク13をバッフル板の外側に設けてもよい。また、第1のマイク13および第2のマイク33は、スピーカユニット10からほぼ等距離の位置に設けられるのが好ましい。そして、自己診断装置32は、図2に示した自己診断装置12の構成に加えて、整合フィルタ21の前段に図6(B)に示す演算部を備えている。演算部は第2のマイク33が収音した音声信号の位相を反転させるインバータ36、および、第1のマイク13が収音した音声信号およびインバータ36によって反転された(第2のマイク33が収音した)音声信号を加算する加算器37を有している。加算器37の加算出力が整合フィルタ21に入力される。
【0036】
2つのマイク13、33は、スピーカユニット10から出力される音響をそれぞれ正相および逆相で収音する。一方、スピーカユニット10の外部から加わる騒音や振動等の外乱は第1のマイク13、第2のマイク33の両方に同相で収音される。したがって、図6(B)に示したように、第1のマイク13と第2のマイク33とが収音した2つの音声信号のうち、一方の音声信号の位相を反転して互いに加算すれば、同相である外乱は逆相に反転されるためキャンセルされると共に、スピーカ音として逆相で収音されたM系列信号は同相に反転されるため加算強調されることで、外乱の影響を抑えた相関値を得ることができる。
【0037】
このように、密閉されていないエンクロージャの場合、エンクロージャ内部のスピーカユニット近傍に、第2のマイクを設置して、エンクロージャ外部に向けて設置された第1のマイクの収音信号と反転加算することにより、測定用の音声に拡散符号を用いることに加えて、さらに外乱の影響を低減することが可能になる。
【0038】
図7は、アンプを内蔵せず、スピーカユニット10のみを内蔵したスピーカ3に自己診断用の外付ユニット4を接続した例を示す図である。この実施形態において図1、図2に示した実施形態と同一の構成部は同一番号を付して説明を省略する。この実施形態では、オーディオアンプから出力されたオーディオ信号は、外付ユニット4のセレクタ36を経由してスピーカユニット10に供給される。外付ユニット4は、増幅器11、自己診断装置12、マイク13、表示器14およびセレクタ36を有している。セレクタ36の出力端子はスピーカ2のスピーカユニット10に接続されている。また、セレクタ36の2つの入力端子は第1の端子がオーディオ信号の入力端子に接続され、、第2の端子が増幅器11に接続されている。スピーカ2の通常使用時は、セレクタ36が第1の入力端子側に接続され、オーディオアンプから出力されたオーディオ信号がスピーカユニット10に供給されるようになっている。スピーカユニット10の自己診断時は、セレクタ36が第2の入力端子側に切り換えられ、自己診断装置12(M系列信号発生器20)から出力され、増幅器11で増幅されたM系列信号がスピーカユニット10に供給される。
【0039】
これにより、アンプを内蔵しないスピーカ3のスピーカユニット10の自己診断が可能になる。なお、マイク13によるスピーカユニット10の音声の収音位置が測定ごとに変化しないように、外付ユニット4または少なくともマイク13の位置をスピーカ3に対して固定しておくことが好ましい。
【0040】
図8は、図1、図2に示したスピーカにネットワーク機能を設けた例を示す図である。この実施形態において図1、図2に示した実施形態と同一の構成部は同一番号を付して説明を省略する。この実施形態のスピーカ5は、図1に示したスピーカ1の構成に加えてネットワークモジュール17を備えている。このネットワークモジュール17は自己診断装置12に接続されている。また、ネットワークモジュール17は、外部のインターネットやLANなどのネットワークに接続されている。ネットワークにはスピーカ5を管理するサーバコンピュータや他の同一構成のスピーカが接続されている。
【0041】
ネットワークを介して自己診断が指示されたとき自己診断動作を実行するようにすることにより、複数のスピーカを有するPAシステムであっても、ミキシングコンソール等から離れた個々のスピーカに対して、係員が順次指示を出すことにより、各スピーカが個別に自己診断を行うことが可能になる。
【0042】
また、自己診断装置12をネットワークを介してサーバコンピュータに接続したことにより、自己診断結果を本体の表示器14だけでなく、サーバコンピュータにも送信することができる。サーバコンピュータは、たとえばこのスピーカをメンテナンスする業者や設備管理部署などに設置される。これにより、メンテナンスの迅速化を図ることができる。
【0043】
また、複数のスピーカを設置する場合、各スピーカに固有のIDを設定しておき、音響を用いてIDを送信することより、複数のスピーカに個別に自己診断動作を行わせることも可能である。たとえば、「あるスピーカが、自己診断を行ったのち次のスピーカのIDで変調したM系列信号を放音する。このM系列信号を受信した次のスピーカが、自己診断を行ったのち、さらに次のスピーカのIDで変調したM系列信号を放音する。」という動作を繰り返すことにより、ネットワーク等を使用せずに複数のスピーカに順次自己診断動作を実行させることができる。なお、IDによるM系列信号の変調は、たとえば出願人がWO2010/016589A1に開示しているように、IDを表すシンボル列に基づきM系列信号を周期ごとに位相変調する方式等を採用すればよい。
【0044】
図9は、IDが設定されるスピーカ1に設けられる自己診断装置40の構成図である。この実施形態において、図2に示した実施形態と同一構成の部分は同一番号を付して説明を省略する。整合フィルタ21、相関波形検出部22、メモリ23、相関判定部24は、図2に示す自己診断装置12と同一の構成である。また、M系列信号発生器20も同一構成である。この実施形態では、さらに、復調器25、変調器26およびDIPスイッチ27が設けられている。
【0045】
DIPスイッチ27には、係員によりこのスピーカのIDが設定される。IDは、スピーカが1台の場合、そのスピーカに対して0のIDが設定される。スピーカが複数台の場合、各スピーカに0から連番の数値がそれぞれ設定される。DIPスイッチ27に設定されたIDは復調器25および変調器26に読み取られる。
【0046】
また、整合フィルタ21にはマイク13が収音した音声信号が入力される。整合フィルタ21で検出された相関値は相関判定部22および復調器25に出力される。マイク13が収音した音声信号には、自装置のスピーカユニット10が放音した音声だけでなく、他のスピーカのスピーカユニットが放音した音声も含まれる。
【0047】
復調器25は、整合フィルタ21から入力された相関値に基づき、入力されたM系列信号のピークの位相を検出し、このピークの位相に基づいてM系列信号に重畳されていたIDを復調する。このIDがDIPスイッチ27で設定されている自装置のIDであれば、自装置の自己診断の順番であるとして、自己診断動作を開始するように、変調器26、相関波形検出部22、相関判定部24などを制御する。
【0048】
自己診断動作は上述したとおりであり、M系列信号発生器20が発生したM系列信号は変調器26を介して変調を受けずにそのまま増幅器11へ出力される。
【0049】
自装置の自己診断動作が終了すると、復調器25は、変調器26に対して、次のスピーカのIDである「自装置のID+1」でM系列信号を変調して出力するように変調器26に指示する。「自装置のID+1」で変調されたM系列信号をスピーカユニット10から放音することにより、次のスピーカに対して自己診断動作を指示することができる。なお、最後のスピーカが「自装置のID+1」で変調されたM系列信号を放音してもこのIDに対応するスピーカは存在しないが、このIDの放音に対してどのスピーカも反応せず、一連の自己診断動作がそのまま終了するため、最後のスピーカに対して別の動作を要求する必要はない。
【0050】
図10は1台のスピーカの自己診断装置12の動作を示すフローチャートである。複数のスピーカで構成されるPAシステム場合、各スピーカの自己診断装置がこの動作を実行する。動作がスタートすると、まず自装置のIDが0であるかを判断する(S20)。自装置のIDが0であれば(S20でYES)、自分が最初に自己診断動作を実行する装置であるとして自己診断動作を実行する(S22)。
【0051】
自装置のIDが0でない場合(S20でNO)、自装置のIDを音声で受信するまで待機する(S21)。マイク13で収音された音声信号に自装置のIDで変調されたM系列信号が含まれていた場合、すなわち、自装置のIDを受信した場合(S21でYES)、自己診断動作を実行する(S22)。自己診断動作が終了したのち、「自装置のID+1」のIDで変調されたM系列信号を増幅器11に対して(S23)動作を終了する。
【0052】
「自装置のID+1」のIDで変調されたM系列信号は、増幅器11で増幅されてスピーカユニット10から放音される。この音声を受信した「自装置のID+1」のIDで識別されるスピーカが次に自己診断動作を開始する。
【0053】
上記実施形態において、各スピーカのIDは連続した数値に限定されない。各スピーカの自己診断装置が、自己診断動作ののち次のスピーカのIDを順次放音するように設定できればよい。
【0054】
また、上記図1〜図10の実施形態において、拡散符号はM系列信号に限定されない。
【符号の説明】
【0055】
1 スピーカ
10 スピーカユニット
11 増幅器
12 自己診断装置
13 マイク
14 表示器
20 M系列信号発生器
21 整合フィルタ
22 相関波形検出部
23 メモリ
24 相関判定部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカユニットに増幅された音声信号を供給する増幅器に対して、前記音声信号として拡散符号を入力する拡散符号発生器と、
前記スピーカユニットが放音した音声信号を収音するマイクと、
前記マイクが収音した音声信号と前記拡散符号との相関波形を検出する相関波形検出部と、
前記マイクが収音する音声信号と前記拡散符号との相関波形の初期値を記憶するメモリと、
前記相関波形検出部が検出した相関波形と前記初期値とを比較する相関判定部と、
前記相関判定部の比較結果を表示する表示部と、
を備えたスピーカの自己診断装置。
【請求項2】
前記相関波形検出部は、時間領域の相関波形を周波数領域に変換した波形を検出する手段であり、
前記メモリは、周波数領域の波形の初期値を記憶する
請求項1に記載のスピーカの自己診断装置。
【請求項3】
前記スピーカユニットおよび前記増幅器とともに、同一のエンクロージャに収納されている請求項1または請求項2に記載のスピーカの自己診断装置。
【請求項4】
前記マイクは、前記エンクロージャの外部に向けて設けられた第1のマイク、および、前記エンクロージャの内部に設けられた第2のマイクからなり、前記第1のマイクが収音した音声信号と前記第2のマイクが収音した音声信号とを相互に位相を反転して加算した信号が前記相関波形検出部に入力される
請求項3に記載のスピーカの自己診断装置。
【請求項5】
前記相関判定部の比較結果の他装置への送信、および、他装置からの前記拡散符号の発生指示の受信、一方または両方を行うネットワーク通信部をさらに備えた請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のスピーカの自己診断装置。
【請求項6】
自装置の識別コードが設定されるID設定部と、
前記マイクが収音した音声信号から前記自装置の識別コードで変調された拡散符号を検出したとき、前記相関波形検出部および前記相関判定部に対して前記マイクが収音した音声信号と前記拡散符号との相関波形を検出して該検出した相関波形と前記初期値とを比較する自己診断動作を実行させる復調部と、
前記自己診断動作が終了したのち、前記拡散符号発生器が発生する拡散符号を他の装置の識別コードで変調して前記増幅器に出力する変調部と、
をさらに備えた請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のスピーカの自己診断装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−227857(P2012−227857A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95842(P2011−95842)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】