説明

スピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステム

【課題】 押出成型による筒状筐体を備えるスピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステムに関し、スピーカーキャビネットの筐体内面に音響的に好ましい凹凸を設け、スピーカーシステムからの再生音を改善するスピーカーキャビネットを提供する。
【解決手段】 本発明のスピーカーキャビネットは、押出成型により形成された筒状筐体と、筒状筐体の開放端部に連結する蓋部材と、を備えるスピーカーキャビネットであって、筒状筐体が、前面部と、前面部の一方端から延設される第1側面部と、前面部の他方端から延設される第2側面部と、第1側面部の終端および第2側面部の終端により規定される後面開口と、を備え、筒状筐体の後面開口よりも内側に規定される筐体内表面に、押出し方向に連続して形成される凹凸を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ等の金属材料や、熱可塑性樹脂や、熱可塑性樹脂に木粉等セルロース系粉末もしくは発泡剤等を含む合成材料、等を押出成型して形成する筒状筐体を備えるスピーカーキャビネット、および、これを用いて構成したスピーカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスピーカーシステムにおいては、スピーカーを取りつけるスピーカーキャビネットを、アルミ等の金属材料や、熱可塑性樹脂と、木屑や木粉等のセルロース系粉末と、発泡剤と、を含む合成材料を押出成型して形成するものがある。熱可塑性樹脂に木粉等のセルロース系粉末、さらに発泡剤を混入することにより、筐体の強度が確保されて、振動に対する内部損失が大きい、音響的に好ましいスピーカーキャビネットが構成される(特許文献1、特許文献2)。また、押出成型により断面形状が自由に設計できるので、筒状筐体に曲面を構成したものや、押出方向に連続するリブもしくは突起を備えて強度を増したスピーカーキャビネットが提案されている(特許文献3)。
【0003】
また、一方で、従来のスピーカーシステムにおいては、スピーカーを取りつけるスピーカーキャビネットを発泡性樹脂材により構成し、スピーカーキャビネットの内面に連続する凹凸を形成して、キャビネット内に生じる定在波を抑制しようとするものがある(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】特公平1−34440号公報 (第2図)
【特許文献2】特許第3143759号公報 (第1図)
【特許文献3】特開平2−47996号公報 (第1図、第3図)
【特許文献4】実開昭52−48421号公報 (第1図、第2図)
【0005】
しかしながら、従来技術のスピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステムでは、スピーカーシステムからの再生音を改善する点において、十分ではないという問題がある。発泡剤を含む合成材料を押出成型する場合には、閉じた筒状筐体の外側形状を規制すると内側形状の公差が大きくなり、内側の面形状を実質的に規制できないという問題がある。スピーカーキャビネットの筐体内面にリブや凹凸を設けてキャビネット内に生じる定在波を抑制しようとする場合であっても、音響的に好ましいリブや凹凸を設けることが難しく、また、これらのリブや凹凸を別部品で設けると、部品点数および取付工数の増加を招き、その結果、製造コストが増大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、押出成型による筒状筐体を備えるスピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステムに関し、スピーカーシステムからの再生音を改善するスピーカーキャビネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスピーカーキャビネットは、押出成型により形成される筒状筐体と、筒状筐体の開放端部に連結する蓋部材と、を備えるスピーカーキャビネットであって、筒状筐体が、押出方向に縦通する開口を備え、筒状筐体の開口よりも内側に規定される筐体内表面に、押出し方向に連続して形成される凹凸を有する。
【0008】
好ましくは、本発明のスピーカーキャビネットは、筒状筐体が、熱可塑性樹脂と、木粉等セルロース系粉末と、発泡剤と、を含む合成材料を押出成型して形成され、開口が、筒状筐体の前面部の一方端から延設される第1側面部と、前面部の他方端から延設される第2側面部と、第1側面部の終端および第2側面部の終端により規定される。
【0009】
好ましくは、本発明のスピーカーキャビネットは、筐体内表面に形成される凹凸が、凹凸の高さH、ならびに、凹凸の幅Wを相互に隣接する凹凸間で異なるように設定される。
【0010】
さらに好ましくは、本発明のスピーカーキャビネットは、筐体内表面に形成される同一の高さHを有する凹凸の出現頻度kH、ならびに、同一の幅Wを有する凹凸の出現頻度kWが、基準高さH0により規定される凹凸高さ周波数fHと、基準幅W0により規定される凹凸幅周波数fWとに、それぞれ逆比例する。
【0011】
さらに好ましくは、本発明のスピーカーキャビネットは、筐体内表面に形成される凹凸が、面取りされて平滑化されている。
【0012】
また、本発明のスピーカーシステムは、スピーカーと、上記の本発明のスピーカーキャビネットと、を備える。
【0013】
以下、本発明の作用について説明する。
【0014】
本発明のスピーカーキャビネットは、アルミ等の金属材料や、熱可塑性樹脂、木粉等セルロース系粉末および発泡剤を含む合成材料、等を押出成型して形成する筒状筐体と、筒状筐体の開放端部に連結する蓋部材と、から構成される。押出成型により形成される筒状筐体は両端に開放端部を備えるので、代表的には、蓋部材が天板及び底板を形成し、これら筒状筐体の開放端部を塞いで略箱形状のスピーカーキャビネットを形成する。好ましくは、熱可塑性樹脂と、木粉等セルロース系粉末と、発泡剤と、を含む合成材料を押出成型して形成するので、振動に対する内部損失が大きく、いわば鳴きが少ない音響的に好ましいスピーカーキャビネットが実現される。もちろん、蓋部材の材料には、筒状筐体と同じ合成材料を使用するのが好ましいが、他の樹脂や、金属等の部材を用いても良い。筒状筐体は、押出成型時の切断長を任意に調整することができるので、同一成形型で様々な全長及び容積の異なるスピーカーキャビネットを供給することができる。
【0015】
スピーカーキャビネットの筒状筐体は、押出方向に縦通する開口を備える。具体的には、筒状筐体は、前面部と、前面部の一方端から延設される第1側面部と、前面部の他方端から延設される第2側面部と、を備えている。スピーカーキャビネットは、略箱形状のその後面部分に、蓋部材、筒状筐体の第1側面部の終端および第2側面部の終端により規定される開口を有しており、代表的には、バスレフ型(位相反転型)キャビネットを形成している。ここで、開口が、音道により形成される音響質量の放射孔であり、筒状筐体もしくは蓋部材にスピーカーを取り付けると、低音再生能力に優れたスピーカーシステムが実現される。
【0016】
本発明の筒状筐体は、筒状筐体の開口よりも内側に規定される筐体内表面に、押出し方向に連続して形成される凹凸を有する。押出成型により、筒状筐体の断面形状は造形的に自由度が高く、筒状筐体の外表面には美観上の理由から滑らかな平面もしくは曲面を形成し、一方では、筒状筐体の内表面にはスピーカーキャビネット内での音波の反射を拡散する凹凸を形成する。本発明の筒状筐体は開口を備えるので、開口よりも内側に規定される筐体内表面を、筒状筐体の外側表面と同様の公差で形成することができるからである。つまり、筒状筐体を押出成型する際に、金型の開口に対応する部分から冷却水を供給し、筐体内表面を筒状筐体の外表面と同様に冷却できるからである。したがって、筒状筐体の筐体内表面に定在波を抑制する音響的に好ましい凹凸を設けることができる。
【0017】
筐体内表面に押出成型したこれらの凹凸は、好ましくは、筐体内表面の第1側面部および第2側面部に対応する部分に設けられ、凹凸の高さH、ならびに、凹凸の幅Wを相互に隣接する凹凸間で異なるように設定される。つまり、筒状筐体の筐体内表面の凹凸の高さHおよび幅Wが連続して変化するので、筒状筐体の内部空間の寸法が連続して変化し、その結果、スピーカーキャビネット内で生じる定在波を抑制することができる。筐体内表面に形成される凹凸は、面取りされて平滑化されていてもよい。また、凹凸の高さHが高い部分では厚みが増大して筒状筐体の強度が向上し、スピーカーキャビネットに生じる振動も抑制されて、スピーカーシステムからの再生音が改善される。
【0018】
本発明のスピーカーキャビネットの筐体内表面に形成される同一の高さHを有する凹凸の出現頻度kH、ならびに、同一の幅Wを有する凹凸の出現頻度kWは、基準高さH0により規定される凹凸高さ周波数fHと、基準幅W0により規定される凹凸幅周波数fWとに、それぞれ逆比例する。ここで、凹凸高さ周波数fHとは、筒状筐体の前面部、第1側面部および第2側面部が採りうる厚み寸法の範囲内において凹凸の高さHが変化する場合に、高さHを基準化する基準高さH0で除したH/H0の値に比例し、凹凸の高さHが小さいほど低い周波数値をとり、凹凸の高さHが大きいほど高い周波数値をとる。同様に、凹凸幅周波数fWとは、基準化する基準幅W0をそれぞれの凹凸の幅Wで除したW0/Wの値に比例し、凹凸の幅Wが大きいほど低い周波数値をとり、凹凸の幅Wが小さいほど高い周波数値をとる。つまり、凹凸高さ周波数fHが低く、凹凸幅周波数fWが低い凹凸ほど、低くて広い凸部を意味し、凹凸高さ周波数fHが高く、凹凸幅周波数fWが高い凹凸ほど、高く狭い凸部を意味する。本発明のスピーカーキャビネットの筐体内表面に形成される凹凸の出現頻度kHおよびkWは、凹凸高さ周波数fHと凹凸幅周波数fWとにそれぞれ逆比例するので、凹凸の変化分布は全体的に滑らかで自然なものとなる。したがって、凹凸の高さHおよび幅Wが連続して変化するので、筒状筐体の内部空間の寸法が連続して変化し、その結果、スピーカーキャビネット内で生じる定在波を抑制することができ、スピーカーシステムからの再生音が改善される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の押出成型による筒状筐体を備えるスピーカーキャビネットは、低音再生能力に優れたバスレフ型キャビネットを構成し、また、スピーカーキャビネットの筐体内面に音響的に好ましい凹凸を設け、部品点数及び取付工数を増加することなく、定在波を抑制して、スピーカーシステムからの再生音を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のスピーカーキャビネットは、スピーカーシステムからの再生音を改善するという目的を、筒状筐体が、前面部と、前面部の一方端から延設される第1側面部と、前面部の他方端から延設される第2側面部と、第1側面部の終端および第2側面部の終端により規定される開口と、を備え、筒状筐体の該開口よりも内側に規定される筐体内表面に、押出し方向に連続して形成される凹凸を有するようにすることにより、実現した。
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカーキャビネットおよびこれを用いたスピーカーシステムについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカーキャビネット1について説明する図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は断面A−A’における側方断面図、図1(c)は背面図、図1(d)は断面B−B’における上方断面図、図1(e)は断面C−C’における上方断面図である。スピーカーキャビネット1は、筒状筐体10と、筒状筐体10の開放端部に連結する天板5および底板6と、後述する弾性連結部材7と、から構成されている。
【0023】
筒状筐体10は、熱可塑性樹脂と、木粉等セルロース系粉末と、発泡剤と、を含む合成材料を押出成型して形成されていて、押出方向に縦通する開口を備える。つまり、図1(d)に示されるような少なくとも一部が開いた矩形管状の断面形状を備え、前面部11、右側面部12および左側面部13が一体に構成されている。それぞれ筒状筐体10の押出成型時の切断長を調整することにより、様々な長さの筒状筐体が形成できるので、様々な容積の異なるスピーカーキャビネット1が形成される。また、天板5および底板6は、筒状筐体10と同一の合成材料を射出成型して蓋状部材が形成されていて、振動に対する内部損失が大きく、いわば鳴きが少ない音響的に好ましいスピーカーキャビネット1が実現される。
【0024】
筒状筐体10は、押出成型して形成された時点では、押出成型方向の全長に渡って図1(d)の断面図に示されるような同一形状の断面を備える。押出成型された成形材は、切断されて必要なスピーカー取付孔等を開ける加工をされて、筒状筐体10となる。図1の筒状筐体10の前面部11には、高音用スピーカー3(図示しない)のフレームおよび磁気回路部分を収容するスピーカー取付孔17と、低音用スピーカー4(図示しない)のフレームおよび磁気回路部分を収容するスピーカー取付孔18と、が設けられている。筒状筐体10の外表面には美観上の理由から滑らかな平面が形成される。一方では、筒状筐体10の内表面には、突起する押出成型方向に延設された複数の凹凸が形成される。
【0025】
筒状筐体10は、前面部11と、前面部11の右端から延設される右側面部12と、前面部11の左端から延設される左側面部13と、を備えている。右側面部12および左側面部13は、それぞれ屈曲した2つの平面から構成され、筒状筐体10の後面部分で接近して後面開口14を規定している。つまり、筒状筐体10は、背面側に長手に縦通した後面開口14を備えており、この後面開口14は、筒状筐体10の右側面部12の終端および左側面部13の終端により規定され、後述する音道15を形成する。
【0026】
後面開口14には、弾性を有する弾性樹脂で形成された弾性連結部材7が配置される。具体的には、弾性連結部材7は、弾性材料のゴム、もしくは、熱可塑性エラストマーの棒材を筒状筐体10の長さよりも短く切断した部材であり、右側面部12の終端と左側面部13の終端との間に挟持されている。したがって、筒状筐体10に取り付けられた高音用スピーカー3および低音用スピーカー4で生じた振動が筒状筐体10を伝搬しても、右側面部12と左側面部13との間に挟持された弾性連結部材7が振動を低減するので、その結果、再生音が改善されたスピーカーシステムが実現される。また、弾性連結部材7は、筒状筐体10の後面開口14の一部を塞ぎ、底板6と、右側面部12および左側面部13とともに、音道15を規定している。つまり、スピーカーキャビネット1は、音道15が音響質量として機能し、筒状筐体10と、天板5および底板6と、弾性連結部材7から形成される内容積部分16が音響容量として機能し、その結果、バスレフ型(位相反転型)キャビネットを形成する。後面開口14は、音道15により形成される音響質量の放射孔となり、筒状筐体10に低音用スピーカー4を取り付けると、低音再生能力に優れたスピーカーシステムが実現される。
【0027】
また、筒状筐体10の右側面部12は、筒状筐体10の外形を規定する右外郭面12aと、右外郭面12aの筒状筐体10の内側に形成される右内郭面12bと、を有する。同様に、筒状筐体10の左側面部13は、筒状筐体10の外形を規定する左外郭面13aと、左外郭面13aの筒状筐体10の内側に形成される左内郭面13bと、を有する。右外郭面12aおよび左外郭面13aは、デザイン上の美観に影響を与える筒状筐体10の外形を規定し、滑らかな表面を備えるのに対して、後面開口14を境にして筒状筐体10の内面側の右内郭面12bおよび左内郭面13bには、その一部もしくは全部に、突起する押出成型方向に延設された複数の凹凸が形成される。
【0028】
つまり、筒状筐体10は、後面開口14よりも内側に規定される右内郭面12bおよび左内郭面13bに押出し方向に連続して形成される凹凸を有し、これらの凹凸は、スピーカーキャビネット1内での音波の反射を拡散する。筒状筐体10は、熱可塑性樹脂と、木粉等セルロース系粉末と、発泡剤と、を含む合成材料を押出成型して形成される。筒状筐体10の断面形状は、後面開口14が形成されている一部が開いた矩形管状であるので、金型の後面開口14に対応する部分から冷却水を供給し、筐体内表面を筒状筐体の外表面と同様に冷却できる。つまり、筒状筐体10の外表面(右外郭面12aおよび左外郭面13a)だけでなく、内表面(右内郭面12bおよび左内郭面13b)を任意に精度よく形成できる。したがって、定在波を抑制する音響的に好ましい凹凸を、右内郭面12bおよび左内郭面13bに設けることができる。
【0029】
図2は、筒状筐体10の右内郭面12bおよび左内郭面13bに設けられる複数の凹凸について説明する図であり、図2(a)は複数の連続する凹凸がそれぞれ角を有する場合の断面図、図2(b)は複数の連続する凹凸が面取りされて平滑化されている場合の断面図である。凹凸とは、筒状筐体10の押出成型による成形材の断面の厚さが部分的に変化して形成される押出成型方向に延設された形状を指し、凹部と凸部とから構成される。個々の凹部および凸部の形状を示す高さH、ならびに、幅Wは、相互に隣接する凹凸間で異なる。例えば、凹凸の高さHは、筒状筐体10の成形材の部分的な断面の厚さから、筒状筐体10が備えるべき基準厚さt0を引いた値として規定される。また、凹凸の幅Wは、ほぼ同一の凸部の高さHを備える部分の幅として規定される。なお、凹部についても、2つの凸部に挟まれる部分の高さおよび幅により、凹凸の高さHと幅Wは規定される。基準厚さt0の値が全ての凹部の厚さの値よりも小さい場合には、基準厚さt0の基準面から見ると、全ての凹部は凸部分とみなすことができる。凹凸の高さHがマイナスの場合には、基準厚さt0から見ると凹みが形成されている。
【0030】
筒状筐体10の右内郭面12bおよび左内郭面13bに押出成型されたこれらの凹凸は、凹凸の高さH、ならびに、凹凸の幅Wを相互に隣接する凹凸間で異なるように設定される。凹凸の高さHと、凹凸の幅Wは、押出成型の金型形状を変更することで様々に設定でき、広い範囲で不規則に変化しているのが好ましい。例えば、筒状筐体10が備えるべき基準厚さt0が約4mmの範囲の場合には、凹凸の高さHは、好ましくは約0mm〜約4mmで変化すればよく、基準厚さt0が約9mmの範囲の場合には凹凸の高さHは、好ましくは約−4mm〜約9mmで変化すればよい。また、凹凸の幅Wは、代表的には、右内郭面12bもしくは左内郭面13bの長さが約20cm程度の長さを備える筒状筐体10場合には、好ましくは約2mm〜約30mm、より好ましくは約4mm〜約16mmで変化すればよい。筒状筐体10の筐体内表面の凹凸の高さHおよび幅Wが連続して変化するので、筒状筐体10の内容積部分16の寸法が連続して変化して、スピーカーキャビネット1内で生じる定在波が抑制される。
【0031】
図3は、スピーカーキャビネット1の筒状筐体10の内表面に形成される好ましい凹凸の形状変化について説明するグラフである。図3(a)は、同一の高さHを有する凹凸の出現頻度kHを表すグラフであり、図3(b)は、同一の幅Wを有する凹凸の出現頻度kWを表すグラフである。好ましくは、これらの凹凸は、筒状筐体10の内表面に形成される同一の高さHを有する凹凸の出現頻度kH、ならびに、同一の幅Wを有する凹凸の出現頻度kWが、基準高さH0により規定される凹凸高さ周波数fHと、基準幅W0により規定される凹凸幅周波数fWとに、それぞれ逆比例するように設定される。つまり、凹凸の形状変化の出現頻度は、自然界に多く存在し、人が快適に感じるといわれる1/fゆらぎ(揺らぎ周波数に逆比例)に基づいた特性を備えるように設定される。
【0032】
ここで、凹凸高さ周波数fHは、筒状筐体10が採りうる厚み寸法の範囲内において凸の高さHが変化する場合に、高さHを基準化する基準高さH0で除したH/H0の値に比例する。凹凸高さ周波数fHは、凹凸の高さHが小さいほど低い周波数値をとり、凹凸の高さHが大きいほど高い周波数値をとる。同様に、凹凸幅周波数fWは、成形できる凹凸が採りうる幅寸法の範囲内において凹凸の幅Wが変化する場合に、基準化する基準幅W0をそれぞれの凹凸の幅Wで除したW0/Wの値に比例する。凹凸幅周波数fWは、凹凸の幅Wが大きいほど低い周波数値をとり、凹凸の幅Wが小さいほど高い周波数値をとる。つまり、凹凸高さ周波数fHが低く、凹凸幅周波数fWが低い凹凸ほど、低くて広い凸部を意味し、凹凸高さ周波数fHが高く、凹凸幅周波数fWが高い凹凸ほど、高く狭い凸部を意味する。スピーカーキャビネット1の筒状筐体10の内表面に形成される凹凸の出現頻度kHおよびkWは、凹凸高さ周波数fHと凹凸幅周波数fWとにそれぞれ逆比例する、つまり、1/fゆらぎに基づいた特性を備えるので、凹凸の形状変化の分布は全体的に滑らかで自然なものとなる。したがって、凹凸の高さHおよび幅Wが連続して変化するので、筒状筐体10の内部空間の寸法が連続して変化し、その結果、スピーカーキャビネット1内で生じる定在波を抑制することができ、スピーカーシステムからの再生音が改善される。
【0033】
筒状筐体10の筐体内表面に形成される凹凸は、図2(b)のように面取りされて平滑化されていてもよい。図2(a)のような凹凸の場合には、凹凸高さ周波数fHと凹凸幅周波数fW、ならびに、出現頻度kHと出現頻度kWが離散的な値として分布することになる。これが図2(b)のように平滑化されると、凹凸高さ周波数fHと凹凸幅周波数fWが更に細分化されて周波数分解能が高くなり、また、出現頻度kHと出現頻度kWも滑らかに分布する。したがって、凹凸を面取りして平滑化することで、スピーカーキャビネット1内で生じる定在波を抑制する効果が高くなる。
【0034】
筒状筐体10の筐体内表面に形成される凹凸の断面形状において、凹凸の高さHと幅Wは、任意の組合せにして相互に隣接する凹凸間で異なるように設定されればよいが、広い範囲で不規則に変化する形状とするために、以下の方法により決定されてもよい。具体的には、ランダム信号発生器から出力された電気信号(ホワイトノイズ、M系列信号、等)を、帯域制限された1/f特性を持つフィルタを通過させ、その時間軸波形をプロットして、筒状筐体10の筐体内表面に形成される凹凸の断面形状とする。フィルタ通過後の電気信号の周波数帯域と、凹凸高さ周波数fHおよび凹凸幅周波数fWの周波数帯域との間に相関を持たせ、筒状筐体10が採りうる厚み寸法の範囲を凹凸高さ周波数fHの範囲に、成形できる凹凸が採りうる幅寸法の範囲を凹凸幅周波数fWの範囲に、設定する。したがって、凹凸の分布が滑らかな筒状筐体10が容易に提供される。
【0035】
図4は、スピーカーキャビネット1の内容積部分16に生じる定在波を示すグラフである。図4(a)は、本実施例の筒状筐体10の右内郭面12bおよび左内郭面13bに押出成型された凹凸を備えるスピーカーキャビネット1において、スピーカーキャビネット1の内容積部分16内の1点での音圧周波数特性である。また、図4(b)は、比較例として、筒状筐体10の右内郭面12bおよび左内郭面13bが平面である場合について、スピーカーキャビネット1の内容積部分16内の1点での音圧周波数特性である。本実施例の筒状筐体10の場合には、1kHz以上の定在波が分散して、ピークの高さも全体的に低くなっている。したがって、本実施例の筒状筐体10を備えるスピーカーシステムからの再生音が改善される。
【実施例2】
【0036】
スピーカーキャビネットを構成する筒状筐体の断面形状は、矩形管状には限定されない。筒状筐体は後面開口を備え、後面開口よりも内側に規定される右内郭面および左内郭面に押出し方向に連続して形成される凹凸を有していればよく、凹凸は、前面を含む筒状筐体の内面全体に設けられていてもよい。
【0037】
例えば、図5は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカーキャビネットの筒状筐体20について説明する断面図である。筒状筐体20は、前面部21、右側面部22および左側面部23が一体に構成されており、右側面部22および左側面部23の中央部分が膨らんだ滑らかな曲面を備えている。右側面部22および左側面部23には、右中空部22cおよび左中空部23cが形成されている。右外郭部32aおよび左外郭部23aは、デザイン上の美観に影響を与える筒状筐体20の外形を規定する一方で、右中空部22cおよび左中空部23cを形成することで音道25を形成する。その結果、低音再生能力に優れたバスレフ型キャビネットが構成される。
【0038】
また、筒状筐体20の断面形状には、右側面部22および左側面部23により規定される後面開口24が形成されている。したがって、一部が開いた矩形管状であるので、筒状筐体20の内側の右内郭部22bおよび左内郭部23bに、音響的に好ましい凹凸を設けることができる。筒状筐体20を備えるスピーカーキャビネットは、定在波を抑制して、スピーカーシステムからの再生音を改善することができる。
【0039】
本発明のスピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステムは、上記実施例に限られず、アルミ等の金属材料や、木粉を含まない熱可塑性樹脂を含む合成材料を押出成型するスピーカーキャビネットもしくはこれを用いたスピーカーシステムにも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるスピーカーキャビネットについて説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の筒状筐体10の内面に設けられる複数の凹凸について説明する図である。(実施例1)
【図3】本発明のスピーカーキャビネットの筒状筐体の内表面に形成される好ましい凹凸の形状変化について説明するグラフである。(実施例1)
【図4】スピーカーキャビネットの内容積部分に生じる定在波を示すグラフである。
【図5】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカーキャビネットの筒状筐体について説明する図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0041】
1 スピーカーキャビネット
5 天板
6 底板
7 弾性連結部材
10、20 筒状筐体
11、21 前面部
12、22 右側面部
13、22 左側面部
14、24 後面開口
15、25 音道
16、26 内容積部分
17 スピーカー取付孔
18 スピーカー取付孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成型により形成される筒状筐体と、該筒状筐体の開放端部に連結する蓋部材と、を備えるスピーカーキャビネットであって、
該筒状筐体が、押出方向に縦通する開口を備え、
該筒状筐体の該開口よりも内側に規定される筐体内表面に、押出し方向に連続して形成される凹凸を有する、
スピーカーキャビネット。
【請求項2】
前記筒状筐体が、熱可塑性樹脂と、木粉等セルロース系粉末と、発泡剤と、を含む合成材料を押出成型して形成され、
前記開口が、該筒状筐体の前面部の一方端から延設される第1側面部と、該前面部の他方端から延設される第2側面部と、該第1側面部の終端および該第2側面部の終端により規定される、
請求項1に記載のスピーカーキャビネット。
【請求項3】
前記筐体内表面に形成される凹凸が、
該凹凸の高さH、ならびに、該凹凸の幅Wを相互に隣接する凹凸間で異なるように設定される、
請求項1または2に記載のスピーカーキャビネット。
【請求項4】
前記筐体内表面に形成される同一の高さHを有する凹凸の出現頻度kH、ならびに、同一の幅Wを有する凹凸の出現頻度kWが、
基準高さH0により規定される凹凸高さ周波数fHと、基準幅W0により規定される凹凸幅周波数fWとに、それぞれ逆比例する、
請求項1から3のいずれかに記載のスピーカーキャビネット。
【請求項5】
前記筐体内表面に形成される凹凸が、面取りされて平滑化されている、
請求項1から4のいずれかに記載のスピーカーキャビネット。
【請求項6】
スピーカーと、請求項1から5のいずれかに記載のスピーカーキャビネットと、を備える、スピーカーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−287311(P2006−287311A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100859(P2005−100859)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】