説明

スピーカ装置

【課題】高分子素材の面方向の伸縮を効果的に発音に活用し、かつ、プッシュプル型構造の厚みを低減させて薄型化を実現する。
【解決手段】プッシュプル型スピーカ1−1は、円形状の2枚のユニット10−1によって、高分子素材2の折り返しが2段になるように形成する。各ユニット10−1は、外周から内周へ向けて、固定部5、第1の駆動部4、固定部(接合部)3及び第2の駆動部4を備え、中央に固定部5を備えている。第1の駆動部4、固定部3及び第2の駆動部4はそれぞれリング形状をなし、2段の折り返しを形成する。所定の音圧及び音量を実現するためには、駆動部4及び固定部3は所定の面積が必要になるが、1段の折り返しスピーカよりも駆動部4及び固定部3の数が多いから、駆動部4の面積は狭くて済む。これにより、プッシュプル型スピーカ1−1の厚みを薄くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を音信号に変換する電気/音響変換技術に属し、特に、自由な形状に製作可能なスピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、次世代の音響システムとして期待されている多チャンネル音響システムまたはフレキシブルな携帯用ディスプレイの分野では、小型で軽量なスピーカの開発が求められている。この要求に応えるため、柔軟で伸縮自在な高分子素材を用いた、設計の自由度の高いスピーカの開発が進められている。例えば、PVDF(Polyvinylidene fluoride/ポリフッ化ビニリデン)等の圧電素材を用いたフィルムスピーカ、電場駆動型エラストマーを用いた発音体等が知られている(非特許文献1,2を参照)。
【0003】
この電場駆動型エラストマーを用いた発音体は、電極間へ電圧を印加することによって生じる厚みの変化及び面積の変化を利用して発音するものである(特許文献1,2を参照)。電場駆動型エラストマーは、ゴム状の弾性を有する高分子素材であるエラストマー、電極及び駆動方式を組み合わせることにより、その形状を電気的に制御して所望の動作を得ることを目的としたデバイスである。
【0004】
このような電場駆動型エラストマーを用いた発音体に対し、材料、音響特性、動作等の様々な調査及び研究が進められている(非特許文献3,4を参照)。PVDF等の圧電素材または電場駆動型エラストマーの素材を膜状にして使用する場合には、厚み方向の伸縮よりも面方向の伸縮の方が大きいことが確認されている。すなわち、厚み方向の変化よりも面方向の変化の方が、発音に及ぼす影響が大きい。
【0005】
そこで、高分子素材の面方向の伸縮を効果的に活用して効率の良い発音を可能にした発音体が開発されている(非特許文献5を参照)。この発音体は、PVDF等の圧電素材または電場駆動型エラストマーのような変形する高分子素材を用いて、厚み方向の伸縮よりも面方向の伸縮を活用できるプッシュプル型構造に構成されている。この発音体によれば、周波数帯域を大幅に改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−272978号公報
【特許文献2】特開2009−278377号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.Sugimoto,et al,“PVDF-driven flexible and transparent loudspeaker”,Applied Acoustics 70 pp.1021-1028 (2009).
【非特許文献2】杉本他、「電場駆動型エラストマーの動作解析」、日本音響学会秋季研究発表会、3-4-5 (2009).
【非特許文献3】杉本他、「電場駆動型エラストマー発音体における材料定数と音響特性の関係」、日本音響学会春季研究発表会、1-4-14 (2009).
【非特許文献4】杉本他、「電場駆動型エラストマーを用いた発音体」、日本音響学会秋季研究発表会、2-8-2 (2008).
【非特許文献5】杉本他、「電場駆動型エラストマーを用いたプッシュプル型発音体」、日本音響学会春季研究発表会、1-5-19 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このようなプッシュプル型構造の発音体を構成する場合、高分子素材の面方向の伸縮を活用するから、高分子素材に対してある程度の面積を確保する必要がある。また、発音体を安定して動作させるためには、高分子素材の膜に一定の張力を掛ける必要があり、音圧及び音量を向上させるためには、発音体の口径を大きくする必要がある。このため、高分子素材に対してある程度の面積を確保する必要があり、面積に比例して発音体の構造の厚みも大きくなってしまうという問題があった(後述する図7(2)のh2を参照)。
【0009】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高分子素材の面方向の伸縮を効果的に発音に活用し、かつ、プッシュプル型構造の厚みを低減させて薄型化を実現可能なスピーカ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、空間的に離して対向させた弾性を有する2枚のフィルム状高分子素材を備え、前記2枚の高分子素材の両面にそれぞれ電極を形成し、前記第1の高分子素材の電極及び前記第2の高分子素材の電極に対し、逆相関係の音響信号を直流バイアス電圧に重畳して印加することにより、前記2枚の高分子素材が面方向に変形し、プッシュプル動作して発音するスピーカ装置において、前記2枚の高分子素材を所定位置にそれぞれ固定する第1の固定部と、前記第1の固定部から前記2枚の高分子素材のそれぞれに所定の張力を掛けた状態で、前記音響信号の印加により前記高分子素材が面方向に変形する駆動部と、前記第1の高分子素材と前記第2の高分子素材とを一体的に接合した接合部とを備え、前記接合部の両側に第1及び第2の前記駆動部を設けて、前記第1の固定部を基準にした折り返し部を形成し、前記折り返し部による折り返し回数が複数になるようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、請求項1に記載のスピーカ装置において、前記逆相関係の音響信号を直流バイアス電圧に重畳して印加する代わりに、逆相関係の交流電圧の信号を印加することにより変形する、高分子素材を利用することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項1または2に記載のスピーカ装置において、当該スピーカ装置の外周側に、前記2枚の高分子素材を接合して固定する第2の固定部を備え、前記第2の固定部の片側に前記駆動部を設け、前記駆動部の片側に前記第1の固定部を設け、前記第1の固定部を基準にした半折り返し部を形成し、前記折り返し部及び前記半折り返し部による折り返し回数が複数になるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のスピーカ装置によれば、駆動部及び接合部からなる複数の折り返し部を形成するようにした。これにより、高分子素材の面方向の伸縮を効果的に発音に活用し、かつ、プッシュプル型構造の厚みを低減させて薄型化を実現することが可能となる。したがって、良好な音響特性を有した小型軽量のスピーカを、薄い厚みで製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態によるプッシュプル型スピーカに用いる高分子素材及びその特性を説明する図である。
【図2】第1のプッシュプル型スピーカの構造を示す正面図(1)及び側面図(2)である。
【図3】第2のプッシュプル型スピーカの構造を示す正面図(1)及び側面図(2)である。
【図4】第3のプッシュプル型スピーカの構造を示す正面図(1)及び側面図(2)である。
【図5】第1〜第3のプッシュプル型スピーカの側面図の一部を示す図である。
【図6】1段折り返しプッシュプル型スピーカの外観図(1)及び側面図(2)である。
【図7】2段折り返しプッシュプル型スピーカ(第1のプッシュプル型スピーカ)及び1段折り返しプッシュプル型スピーカの厚みの違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔高分子素材の構成及び動作原理〕
まず、本発明の実施形態によるプッシュプル型スピーカ(スピーカ装置)に用いる高分子素材について説明する。図1は、高分子素材及びその特性を説明する図である。プッシュプル型スピーカは、発音体として高分子素材2を用い、高分子素材2の面方向の伸縮を活用して発音する。
【0016】
この高分子素材2は、例えばポリウレタンからなるエラストマーフィルムが用いられ、その両面には電極21が成膜される。高分子素材2の厚さは例えば約100μmである。電極(PEDOT電極)21は、導電性高分子の1種であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を塗布することにより形成される。高分子素材2及び電極21はいずれも、柔軟な特性を有する弾性体である。リード線23には例えば、導電性の接着剤を利用した銅テープまたはアルミニウム箔が用いられる。電源22は、リード線23を介して電極21間へ、発音源となる音響信号を重畳した直流バイアス電圧を印加する。
【0017】
高分子素材2の安定した動作のためには、電極21を一様な厚さで形成する必要がある。そこで、高分子素材2のサイズが小さい場合は、スピンコートを用いて電極21を形成する。また、高分子素材2のサイズが大きい場合は、PEDOT及びエタノール溶液を掛け流して電極21を形成する。これにより、電極21の塗布むらを解消することができる。
【0018】
電極21が形成された高分子素材2に対し、電源22から電極21間に直流バイアス電圧を印加すると、電極21間に働くクーロン力によって圧縮力が生じ、高分子素材2は厚み方向に押し潰される。高分子素材2は、厚み方向に圧縮し(図1の矢印α)、マクスウェル応力によって平面方向に伸長する(矢印β)。そして、印加する直流バイアス電圧に、交流の電圧である音響信号を重畳すると、その音響信号に合わせて高分子素材2が変形し、高分子素材2は発音体として駆動することができる。
【0019】
〔第1のプッシュプル型スピーカ〕
次に、図1の高分子素材2を用いたプッシュプル型スピーカについて、例を挙げて説明する。まず、第1のプッシュプル型スピーカについて説明する。第1のプッシュプル型スピーカは、正面が円形状に形成され、発音体として駆動する高分子素材2の折り返し回数が2(2段)になっている。
【0020】
図2は、第1のプッシュプル型スピーカの構造を示す正面図(1)及び側面図(2)である。このプッシュプル型スピーカ1−1は、2枚のユニット10−1(10−1a,10−1b)により構成される。各ユニット10−1は、円形の高分子素材2からなり、外周から中央へ向けて、リング状の固定部5、第1の駆動部4、固定部(接合部)3及び第2の駆動部4を備え、さらに、中央部に円形状の固定部5を備えている。プッシュプル型スピーカ1−1の厚さ(h1)方向に垂直の方向をy軸として、y軸と各駆動部4との間の角度はいずれもθであるとする(後述する第2及び第3のプッシュプル型スピーカ1−2,1−3についても同様である)。
【0021】
プッシュプル型スピーカ1−1において、第1の駆動部4、固定部3及び第2の駆動部4により1+1=2段の折り返し部を形成している。
【0022】
外周側の固定部5は、高分子素材2(電極21が塗布された高分子素材2)の両面にアクリル製の板が設けられ、これら2枚のリング状の板が、スペーサ6及びスペーサ固定部材7にて高分子素材2を挟み込み、さらに、外縁からクリップ(図示せず、後述する図6のクリップ8を参照)を取り付けて、2枚のリング状の板及び高分子素材2を挟み込むことにより形成される。尚、スペーサ6及びスペーサ固定部材7は、後述する図6に示すように、リング状の固定部5において、所定間隔に所定数設けられる。クリップについても同様である。第1及び第2の駆動部4は、高分子素材2の両面に電極21が塗布されている。
【0023】
固定部3は、ユニット10−1aとユニット10−1bとを部分的に接続して固定するため、高分子素材2同士が接合している。固定部3は、電極21が両面に形成されたフィルム状(平面状)に切り出された高分子素材2に対し、電極21をエタノール等で取り除くことにより形成されるが、取り除かずに使用することも可能である。これにより、第1及び第2の駆動部4の間に設けられた固定部3は、高分子素材2をそのまま用いて一体的に形成されるから、別の素材を用いる必要がなく、容易に形成することができる。固定部3として別の素材を用いる場合には、その素材を、電極21が取り除かれた高分子素材2上(ポリウレタンのエラストマーフィルム上)に貼付して形成する。例えば、固定部3の素材として、剛性を有するPET等のプラスチック素材である絶縁物を電極21に貼付けて形成するようにしてもよい。また、固定部3は、第1の駆動部4の電極21と第2の駆動部4の電極21とを導通するために、数箇所の電極21が橋梁部として残される。つまり、固定部3には、高分子素材2上に、数箇所の橋梁部(電極21)が設けられている。
【0024】
中央の固定部5は、外周側の固定部5と同様に、高分子素材2(電極21が塗布された高分子素材2)の両面にアクリル製の板が設けられ、これら2枚のリング状の板が、スペーサ6及びスペーサ固定部材7にて高分子素材2を挟み込むことにより形成される。
【0025】
また、外周側の固定部5には、高分子素材2の電極21と接触する面に、アルミニウム箔等で形成したリード部(図示せず)が設けられている。これにより、図1に示したように、電源22から、リード線23及び固定部5のリード部を介して、音響信号が重畳した直流バイアス電圧を高分子素材2の電極21間へ印加することができ、高分子素材2を変形して、固定部3及び駆動部4をプッシュプル駆動し、発音することができる。
【0026】
尚、外周側の固定部5と中央の固定部5とを共通に固定するための固定部材を設けるようにしてもよい。これにより、外周側の固定部5及び中央の固定部5の共通の固定位置を基準にして、固定部3及び駆動部4をプッシュプル駆動することができるから、両固定部5が共通に固定されていない場合に比べ、音圧及び音量を大きくし、安定した発音を実現することができる。
【0027】
〔第2のプッシュプル型スピーカ〕
次に、第2のプッシュプル型スピーカについて説明する。第2のプッシュプル型スピーカは、正面が長方形状に形成され、発音体として駆動する高分子素材2の折り返し回数が2(2段)になっている。
【0028】
図3は、第2のプッシュプル型スピーカの構造を示す正面図(1)及び側面図(2)である。このプッシュプル型スピーカ1−2は、2枚のユニット10−2(10−2a,10−2b)により構成される。各ユニット10−2は、長方形の高分子素材2からなり、上段から下段へ向けて、横長の第1の固定部5、第1−1の駆動部4、第1の固定部3及び第1−2の駆動部4を備え、中央部に横長の固定部5を備え、さらに、横長の第2−1の駆動部4、第2の固定部3、第2−2の駆動部4及び第2の固定部5を備えている。固定部3、駆動部4及び固定部5は、形状を除いて図2に示したものと同じである。
【0029】
プッシュプル型スピーカ1−2において、第1−1の駆動部4、第1の固定部3及び第1−2の駆動部4により1段の折り返し部を形成し、第2−1の駆動部4、第2の固定部3及び第2−2の駆動部4により1段の折り返し部を形成している。
【0030】
最上段の第1の固定部5は、高分子素材2(電極21が塗布された高分子素材2)の両面にアクリル製の板が設けられ、これら2枚の横長の長方形板が、スペーサ6及びスペーサ固定部材7にて高分子素材2を挟み込み、さらに、外縁からクリップ(図示せず、後述する図6のクリップ8を参照)を取り付けて、2枚の長方形板及び高分子素材2を挟み込むことにより形成される。尚、スペーサ6及びスペーサ固定部材7は、後述する図6に示すように、第1の固定部5において、所定間隔に所定数設けられる。クリップについても同様である。第1−1及び第1−2の駆動部4は、高分子素材2の両面に電極21が塗布されている。
【0031】
第1の固定部3は、図2に示した固定部3と同様に、ユニット10−2aとユニット10−2bとを部分的に接続して固定するため、高分子素材2同士が接合している。また、第1−1の駆動部4の電極21と第1−2の駆動部4の電極21とを導通するため、数箇所の電極21が橋梁部として残されている。
【0032】
中央の固定部5は第1の固定部5と同様である。また、第2−1の駆動部4、第2の固定部3、第2−2の駆動部4及び第2の固定部5は、第1−2の駆動部4、第1の固定部3、第1−1の駆動部4及び第1の固定部5と同様である。
【0033】
また、最上段の第1の固定部5または最下段の第2の固定部5には、図2に示した外周側の固定部5と同様に、高分子素材2の電極21と接触する面に、アルミニウム箔等で形成したリード部(図示せず)が設けられている。これにより、図1に示したように、電源22から、リード線23及び固定部5のリード部を介して、音響信号が重畳した直流バイアス電圧を高分子素材2の電極21へ印加することができ、高分子素材2を変形して、第1及び第2の固定部3、並びに、第1−1、第1−2、第2−1及び第2−2の駆動部4を駆動し、発音することができる。
【0034】
また、ユニット10−2a,10−2bにおいて、最上段の第1の固定部5、中央の固定部5及び最下段の第2の固定部5の左右の端近傍には、高分子素材2(電極21が塗布された高分子素材2)の両面に沿ったアクリル製の板が設けられ、これら2枚の縦長の長方形板が、スペーサ6及びスペーサ固定部材7にて高分子素材2を挟み込み、さらに、外縁からクリップ(図示せず、後述する図6のクリップ8を参照)を取り付けて、2枚の長方形板及び高分子素材2を挟み込んでいる(図示せず)。尚、スペーサ6及びスペーサ固定部材7は、所定間隔に所定数設けられる。クリップについても同様である。これにより、最上段の第1の固定部5、中央の固定部5及び最下段の第2の固定部5を共通に固定することができ、音圧及び音量を大きくし、安定した発音を実現することができる。
【0035】
〔第3のプッシュプル型スピーカ〕
次に、第3のプッシュプル型スピーカについて説明する。第3のプッシュプル型スピーカは、正面が円形状に形成され、発音体として駆動する高分子素材2の折り返し回数が3(2+0.5+0.5=3段)になっている。
【0036】
図4は、第3のプッシュプル型スピーカの構造を示す正面図(1)及び側面図(2)である。このプッシュプル型スピーカ1−3は、2枚のユニット10−3(10−3a,10−3b)により構成される。各ユニット10−3は、円形の高分子素材2からなり、外周から中央へ向けて、リング状の固定部9、第1の駆動部4、固定部5、第2の駆動部4、固定部3及び第3の駆動部4を備え、さらに、中央に円形状の固定部5を備えている。図2に示したプッシュプル型スピーカ1−1とこのプッシュプル型スピーカ1−3とを比較すると、このプッシュプル型スピーカ1−3は、プッシュプル型スピーカ1−1の構成に加えて、さらに、外周側に固定部9及び駆動部4を備えており、プッシュプル型スピーカ1−1よりも折り返しの回数が多い点で相違する。外周側の固定部9以外の構成部は、図2に示したプッシュプル型スピーカ1−1と同様であるから、説明を省略する。
【0037】
プッシュプル型スピーカ1−3において、第2の駆動部4、固定部3及び第3の駆動部4により1+1=2段の折り返し部を形成し、外周側の固定部9の片側に設けられた第1の駆動部4により0.5+0.5=1段の半折り返し部を形成している。
【0038】
外周側の固定部9は、ユニット10−3a,10−3bの2枚の高分子素材2(電極21が塗布された高分子素材2)間に絶縁体を挟み込み、これらを1体に形成し、その両面にアクリル製の板を設け、これら2枚のリング状の板に対して外縁からクリップ(図示せず、後述する図6のクリップ8を参照)を取り付けることにより形成する。クリップは、外周側の固定部9において、所定間隔に所定数設けられる。尚、外周側の固定部9は、高分子素材2の両面に形成された電極21を取り除き、高分子素材2同士を接合し、クリップを挟み込むことにより形成するようにしてもよい。絶縁体または絶縁物を用いるのは、高分子素材2を一体化したときに、その内側において電極21が導通しないようにするためである。
【0039】
尚、外周側の固定部9、第1の固定部5及び第2の固定部5を共通に固定するための固定部材を設けるようにしてもよい。これにより、3箇所の固定部5,9の共通の固定位置を基準にして、固定部3及び駆動部4を駆動することができるから、3箇所の固定部5,9が共通に固定されていない場合に比べ、音圧及び音量を大きくし、安定した発音を実現することができる。
【0040】
このように、図4に示した第3のプッシュプル型スピーカ1−3によれば、外周側の固定部9において、ユニット10−3a,10−3bの高分子素材2(電極21が塗布された高分子素材2)を、間挿した絶縁体と共に(または電極21を取り除いて)一体化し、アクリル製の板を用いて挟み込むようにした。これにより、ユニット10−3aとユニット10−3bとが、外周側の固定部9において隙間の無い状態で接合され、プッシュプル型スピーカ1−3の外縁部は、図2に示したプッシュプル型スピーカ1−1の外縁部及び図3に示したプッシュプル型スピーカ1−2の外縁部とは異なり、高分子素材2に塗布された電極21が外部に露出しない構造となる。したがって、プッシュプル型スピーカ1−3の側面において、安全性を確実に確保することができる。
【0041】
〔プッシュプル型スピーカの側面構成の詳細〕
次に、図2〜図4に示したプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3の側面構成について詳細に説明する。図5は、図2(2)、図3(2)及び図4(2)に示したプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3の側面図の一部を示す図である。プッシュプル型スピーカ1−1〜1−3において、図2(1)、図3(1)及び図4(1)に示したユニット10−1〜10−3を2枚用意し、2枚のユニット10−1a〜10−3a(以下、第1のユニット10という。)及びユニット10−1b〜10−3b(以下、第2のユニット10という。)を空間的に離して対向させ、第1のユニット10の固定部5と第2のユニット10の固定部5との間に、プラスチック製柱のスペーサ6を挿入してスペーサ固定部材7で固定する。固定部3は、第1及び第2のユニット10において共有の構造とするために、高分子素材2の対向面を、接着剤または両面テープを用いて互いに貼り合わせて一体的に成形する。そして、スペーサ6の長さを調整することにより、高分子素材2に対し、発音体として最適な張力を掛ける。これにより、所定の周波数特性を有する発音体を製作することができる。ここで、固定部3及び駆動部4の高分子素材2に掛かる張力が変化すると、周波数特性も変化する。したがって、スペーサ6の長さを調整し、固定部3及び駆動部4の高分子素材2に掛かる張力を変化させることにより、発音体の周波数特性を変化させることができる。
【0042】
このように構成されたプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3において、第1のユニット10に対し、正相の音響信号を重畳した直流バイアス電圧を印加し、第2のユニット10に対し、逆相の音響信号を重畳した直流バイアス電圧を印加する。これにより、第1のユニット10が伸びるときは第2のユニット10が縮み、逆に第1のユニット10が縮むときは第2のユニット10が伸びるように動作する。例えば、第1のユニット10が伸びて第2のユニット10が縮むときは、図5の矢印γ2のように動作し、第1のユニット10が縮み第2のユニット10が伸びるときは、図5の矢印γ1のように動作する。したがって、それぞれ異なる相の音響信号を重畳した直流バイアス電圧を印加することにより、固定部3及び駆動部4はプッシュプル駆動し、固定部3及び駆動部4が振動して発音を行うことができる。尚、前述のとおり、固定部3には、導電性を有する電極21である橋梁部が数箇所設けられている。これにより、固定部3によって両側の駆動部4が分断されることなく、両側の駆動部4における電極21を導通させることができる。
【0043】
〔折り返し回数が1(1段折り返し)のプッシュプル型スピーカ〕
次に、1段折り返しプッシュプル型スピーカの外観について説明する。図6は、1段折り返しプッシュプル型スピーカの外観図(1)及び側面図(2)である。このプッシュプル型スピーカ100は、正面が円形状に形成され、発音体として駆動する高分子素材2の折り返し回数が1(1段)になっている。このプッシュプル型スピーカ100も、図2〜図4と同様に、2枚のユニット10により構成され、外周から内周へ向けて、リング状の固定部5及び駆動部4を備え、中央に円形状の固定部3を備えている。固定部3、駆動部4及び固定部5は、図2に示したものと同様である。
【0044】
外周の固定部5は、2枚のアクリル製のリング状板が、スペーサ6及びスペーサ固定部材7にて高分子素材2を挟み込み、さらに、外縁からクリップ8を取り付けてリング状板及び高分子素材2を挟み込むことにより形成されている。固定部3は、2枚のユニット10を部分的に接続して固定するため、高分子素材2同士が接合している。
【0045】
このように構成されたプッシュプル型スピーカ100は、第1及び第2のユニット10に対し、それぞれ異なる相の音響信号を重畳した直流バイアス電圧を印加することによって、固定部3及び駆動部4をプッシュプル駆動し、固定部3及び駆動部4を振動させて発音を行う。
【0046】
〔2段折り返しプッシュプル型スピーカと1段折り返しプッシュプル型スピーカとの間の厚み(奥行き)の比較〕
次に、図2に示した2段折り返しプッシュプル型スピーカ1−1と、図6に示した1段折り返しプッシュプル型スピーカ100との間の厚みの違いについて説明する。図7(1)は、2段折り返しプッシュプル型スピーカ1−1の側面図を示し、図7(2)は、1段折り返しプッシュプル型スピーカ100の側面図を示している。スペーサ6及びスペーサ固定部材7は省略してある。
【0047】
図7(1)に示すように、プッシュプル型スピーカ1−1は、駆動部4−1,4−2及び固定部3−1により1段目の折り返しを形成し、駆動部4−3,4−4及び固定部3−2により2段目の折り返しを形成した2段折り返し構造になっている。一方、図7(2)に示すように、プッシュプル型スピーカ100は、駆動部4−1,4−2及び固定部3により1段目の折り返しを形成した1段折り返し構造になっている。
【0048】
ここで、図7(2)のプッシュプル型スピーカ100と同程度の音圧及び音量を実現するための、図7(1)のプッシュプル型スピーカ1−1を想定する。図7(2)のプッシュプル型スピーカ100において、厚み(h1)方向に垂直の方向をy軸とし、y軸と駆動部4−2との間の角度をθとする(y軸と駆動部4−1との間の角度もθである)。図7(2)のプッシュプル型スピーカ100と同程度の音圧及び音量を、図7(1)のプッシュプル型スピーカ1−1によって実現するためには、プッシュプル型スピーカ1−1の駆動部4−1〜4−4に掛ける張力を、プッシュプル型スピーカ100の駆動部4−1,4−2に掛ける張力と同じにする必要がある。つまり、プッシュプル型スピーカ1−1においても、y軸と駆動部4−1〜4−4との間の角度をθとし、さらに、プッシュプル型スピーカ1−1の駆動部4−1〜4−4を、プッシュプル型スピーカ100の駆動部4−1,4−2と同じ合計面積とする。これは、音圧及び音量が、前記角度θ及び面積により決定されるからである。
【0049】
そこで、プッシュプル型スピーカ1−1の駆動部4−1〜4−4を、プッシュプル型スピーカ100の駆動部4−1,4−2と同じ合計面積になるように形成し、プッシュプル型スピーカ1−1のスペーサ6(図示せず)の長さを適切に調整することにより、プッシュプル型スピーカ100と同様の角度θとし、駆動部4−1〜4−2に対して所定の同じテンションを掛ける。これにより、h1<h2となり、図7(1)のプッシュプル型スピーカ1−1の方が図7(2)のプッシュプル型スピーカ100よりも厚み(奥行き)が薄くなる。したがって、2段以上の折り返しプッシュプル型構造とすることにより、図7(2)の1段折り返しプッシュプル型スピーカ100よりも厚みを低減させて薄型化を実現することが可能となる。折り返し回数を多くするほど、その厚みは薄くなるといえる。
【0050】
以上のように、本発明の実施形態によるプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3によれば、固定部3及び駆動部4が2段以上の複数段の折り返しプッシュプル型構造に形成し、このプッシュプル型構造により、高分子素材2の面方向の伸縮を活用して固定部3及び駆動部4が振動し、発音を行うようにした。これにより、膜厚方向の伸縮よりも面方向の伸縮の方が大きい高分子素材2の特性を効果的に活用することができ、平面形状のままで、効率良く発音を行うことができる。
【0051】
また、本発明の実施形態によるプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3によれば、薄い膜厚の高分子素材2を用いた2枚のユニット10にて形成し、さらに、固定部3及び駆動部4が2段以上の複数段の折り返しプッシュプル型構造で形成するようにしたから、スピーカ装置としての厚み(奥行き)を薄くすることができ、小型軽量化を実現することができる。
【0052】
また、図6及び図7(2)に示したプッシュプル型スピーカ100では、所定の音圧及び音量を実現するために、駆動部4−1,4−2の面積を広くする必要があり、固定部5と固定部3との間の距離(駆動部4−1,4−2の長さ)が長くなってしまう。このため、所定の音圧及び音量を実現するための張力を駆動部4−1,4−2に掛けることが困難になる。これに対し、プッシュプル型スピーカ1−1〜1−3では、プッシュプル型スピーカ100の駆動部4−1,4−2よりも面積の狭い複数の駆動部4を備えているから、固定部5と固定部3との間の距離(駆動部4の長さ)を短くすることができ、所定の音圧及び音量を実現するための張力を駆動部4に掛けることが可能となる。
【0053】
また、本発明の実施形態によるプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3によれば、折り返し形状を構成する第1の駆動部4と第2の駆動部4との間に固定部3を設けるようにした。この場合、第1の駆動部4と第2の駆動部4との間の距離である固定部3の距離を短くすることにより、折り返し回数を増やすことができる。これにより、プッシュプル型スピーカ1−1〜1−3の厚みを一層薄くすることができる。
【0054】
したがって、高分子素材2の面方向の伸縮を効果的に発音に活用し、かつ、プッシュプル型構造の厚みを低減させて薄型化を実現することが可能となる。つまり、良好な音響特性を有した小型軽量のスピーカを、薄い厚み(奥行き)で製作することが可能となる。
【0055】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。前記実施形態では、フィルム状の高分子素材2として、厚さ100μmのポリウレタンを用いるようにしたが、本発明は、他の高分子素材を用いる場合にも適用がある。また、前記実施形態では、電極21の材料としてポリエチレンジオキシチオフェンを用いるようにしたが、本発明は、他の柔軟な電極材料を用いる場合にも適用がある。
【0056】
また、前記実施形態では、ユニット10の形状(高分子素材2の形状)を円形または長方形とするようにしたが、円形及び長方形以外の形状(例えば多角形)にするようにしてもよい。これにより、実施形態のプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3は円形または長方形の形状であり両指向性を有するが、本発明では、その形状に限定されず、自由な形状で構成することができる。したがって、プッシュプル型スピーカ1−1〜1−3を自由な形状で製作することができ、壁、天井等の任意の位置に設置することができる。
【0057】
また、前記実施形態では、1枚の高分子素材2を用いてユニット10を形成するようにしたが、1枚の高分子素材2の代わりに、複数枚の高分子素材2を多層化した多層化高分子素材を用いてユニット10を形成するようにしてもよい。電極21は、多層化した高分子素材2毎に形成されるから、1枚の高分子素材2を用いた場合と同じ電圧を印加すればよい。これにより、印加電圧を高くすることなく、高分子素材2に掛かる張力に対して耐久力を有することができる。
【0058】
また、前記実施形態では、図2及び図3に示したプッシュプル型スピーカ1−1,1−2の折り返し回数を2とし、図4に示したプッシュプル型スピーカ1−3の折り返し回数を3としたが、本発明はその回数(段数)に限定されず、2以上の回数であれば適用がある。
【0059】
また、前記実施形態では、図2、図3及び図4に示したプッシュプル型スピーカ1−1〜1−3において、第1のユニット10に対し、正相の音響信号を重畳した直流バイアス電圧を印加し、第2のユニット10に対し、逆相の音響信号を重畳した直流バイアス電圧を印加するようにした。これに対し、例えば、高分子素材2が圧電性の場合には、第1のユニット10に対し、正相の交流電圧のみを印加し、第2のユニット10に対し、逆相の交流電圧のみを印加するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1,100 プッシュプル型スピーカ
2 高分子素材
3,5,9 固定部
4 駆動部
6 スペーサ
7 スペーサ固定部材
8 クリップ
10 ユニット
21 電極
22 電源
23 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間的に離して対向させた弾性を有する2枚のフィルム状高分子素材を備え、前記2枚の高分子素材の両面にそれぞれ電極を形成し、前記第1の高分子素材の電極及び前記第2の高分子素材の電極に対し、逆相関係の音響信号を直流バイアス電圧に重畳して印加することにより、前記2枚の高分子素材が面方向に変形し、プッシュプル動作して発音するスピーカ装置において、
前記2枚の高分子素材を所定位置にそれぞれ固定する第1の固定部と、
前記第1の固定部から前記2枚の高分子素材のそれぞれに所定の張力を掛けた状態で、前記音響信号の印加により前記高分子素材が面方向に変形する駆動部と、
前記第1の高分子素材と前記第2の高分子素材とを一体的に接合した接合部とを備え、
前記接合部の両側に第1及び第2の前記駆動部を設けて、前記第1の固定部を基準にした折り返し部を形成し、前記折り返し部による折り返し回数が複数になるようにしたことを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスピーカ装置において、
前記逆相関係の音響信号を直流バイアス電圧に重畳して印加する代わりに、逆相関係の交流電圧の信号を印加することにより変形する高分子素材を利用することを特徴とするスピーカ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスピーカ装置において、
当該スピーカ装置の外周側に、前記2枚の高分子素材を接合して固定する第2の固定部を備え、
前記第2の固定部の片側に前記駆動部を設け、前記駆動部の片側に前記第1の固定部を設け、前記第1の固定部を基準にした半折り返し部を形成し、前記折り返し部及び前記半折り返し部による折り返し回数が複数になるようにしたことを特徴とするスピーカ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−234317(P2011−234317A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105717(P2010−105717)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】