説明

スプライサー装置、糸継方法、及び継ぎ目

【課題】 強力に優れるとともに目立たない継ぎ目を形成できるスプライサー装置を提供する。
【解決手段】 本発明のスプライサー装置が備える撚掛部材31は、撚掛対象となる糸がセットされる糸継孔34aと、この糸継孔34aの長手方向と異なる向きに形成される空気逃がし部としての溝部37・37と、それぞれが前記糸継孔34aに空気噴出口34b・34bを形成するとともに、互いに逆向きの旋回流を前記糸継孔34aの内部に形成するように対で設けられた空気路34c・34cと、を備える。前記溝部37・37は複数本形成されるものとし、また、前記空気路34c・34cが前記糸継孔34aに形成する前記空気噴出口34b・34bは、前記複数本の溝部37・37より外側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、糸端に圧縮空気等の流体を解撚方向に作用させるとともに糸端同士を重ね合わせ、該重ね合わせ部分に圧縮空気等の流体を作用させて糸継ぎを行うスプライサー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のスプライサー装置としては、例えば特許文献1に開示されるものがある。本願出願人が先に提案した特許文献1のスプライサー装置は、液体が付加された圧縮空気を噴出して糸端同士を撚掛け(糸継ぎ)する撚掛部材を備えており、この構成とすることで、糸の品種によっては糸継ぎの品質や外観、糸強力を向上させることができる。
【0003】
この撚掛部材は、特許文献1の図10に示すように、撚掛対象となる糸がセットされる糸継孔と、水の付加された空気を噴出させるために前記糸継孔に形成された空気噴出口と、噴出された空気を抜くために撚掛部材の中央部分に形成されたスリット状の1本の溝部と、を備えている。
【特許文献1】特開2005−113314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本願の発明者の知見によれば、特許文献1のように糸継孔と垂直な方向に形成される溝部を介して圧縮空気を抜くタイプのスプライサー装置においては、継ぎ目の強力(引張強度)の維持の観点からは前記溝部の幅(特許文献1の図10の中央部分の符号35で示す溝部のスリット幅)を適切に定めることが重要であり、この溝部の幅を大きくすることで強い強力が得られる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のスプライサー装置で例えば麻糸を糸継ぎした場合、その継ぎ目の外観は本願の図12で示すように、2つの巻付け部T・Tの間の位置に1つの交絡部Cが形成される形状となる。そして、前記の撚掛部材において溝部のスリット幅を大きくすると、形成される交絡部Cは大きくなる傾向にある。即ち、継ぎ目の強力を増加させようとすると、継ぎ目部分の交絡部Cが目立ってしまい、外観を低下させてしまっていた。
【0006】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、強力に優れるとともに外観の良好な継ぎ目を形成できるスプライサー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
◆本発明の第1の観点によれば、以下のように構成する、撚掛部材を備えるスプライサー装置が提供される。この撚掛部材は、撚掛対象となる糸がセットされる糸継孔と、それぞれが前記糸継孔に開口を形成するとともに、互いに逆向きの旋回流を前記糸継孔の内部に形成するように対で設けられたガス供給路と、このガス供給路から前記糸継孔に供給されたガスを当該糸継孔の長手方向と異なる向きに逃がすために、前記糸継孔に接続して設けられる複数の空気逃がし部と、を備える。それぞれの前記ガス供給路が前記糸継孔に形成する前記開口の間に、前記複数の空気逃がし部が配置されている。
【0009】
これにより、目立たない外観を有すると同時に強力に優れた継ぎ目を形成しながら糸継ぎすることができる。
【0010】
◆前記のスプライサー装置においては、前記空気逃がし部の数は2つであることが好ましい。これにより、撚掛部材の形状を簡素化でき、製造コストを低減できる。
【0011】
◆前記のスプライサー装置においては、液体が付加されたガスを前記ガス供給路から噴出させるように構成したことが好ましい。これにより、糸の端部を湿らせて撚掛けすることができ、糸の品種によっては、糸継ぎの品質や外観、継ぎ目部分の強力を向上させることができる。
【0012】
◆前記のスプライサー装置においては、撚掛対象となる糸が、麻糸、双糸又はコアヤーンであることが好ましい。即ち、本発明のスプライサー装置は、上記に列挙されたような特殊糸を糸継ぎするのに特に好適である。
【0013】
◆本発明の第2の観点によれば、以下のような、糸継方法が提供される。撚掛部材に形成された糸継孔へ撚掛対象となる糸をセットする。この状態で、前記撚掛部材に対で備えられるガス供給路のそれぞれから前記糸継孔へ向けてガスを噴出させることで、前記糸継孔の内部に互いに逆向きの旋回流を形成する。前記噴出されたガスの少なくとも一部が、前記ガス供給路からの前記糸継孔への噴出箇所の間に複数設けられた空気逃がし部を通過して外部に抜ける。
【0014】
これにより、目立たない外観を有すると同時に強力に優れた継ぎ目を形成しながら糸継ぎすることができる。
【0015】
◆前記の糸継方法においては、前記糸継孔へ向けて噴出されるガスに液体が付加されていることが好ましい。これにより、糸の端部を湿らせて撚掛けすることができ、糸の品種によっては、糸継ぎの品質や外観、継ぎ目部分の強力を向上させることができる。
【0016】
◆本発明の第3の観点によれば、糸を糸継ぎすることによって形成される継ぎ目であって、2つの巻付け部と、この2つの巻付け部の間に配置されるとともに互いに間隔をおいて複数個形成される交絡部と、を備える、継ぎ目が提供される。
【0017】
これにより、目立たない外観を有すると同時に強力に優れた継ぎ目とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0019】
図10には、本実施形態のスプライサー装置を備える巻取ユニット1の全体構成が図示されている。図10では1ユニットのみを図示しているが、この巻取ユニット1は通常は複数台が並設されており、これら複数台の巻取ユニット1・1・・・と、その並設方向の一端部に更に配置された図略の機台制御装置とで、糸条巻取機(自動ワインダ)を構成している。
【0020】
巻取ユニット1は、給糸ボビンBから解舒される紡績糸(本実施形態では、麻糸)YをトラバースさせながらボビンBf上に巻き付けて、所定長で所定形状のパッケージPとするものである。また、巻取ユニット1は、巻取ユニット1を正面から見たときに、左右の一側にユニットフレーム13が設けられ、そのユニットフレーム13の側方に巻取処理を行う巻取ユニット本体14が設けられている。
【0021】
上記の巻取ユニット本体14は、ボビンBfを把持するクレードル2と、紡績糸Yをトラバースさせる綾振ドラム(巻取ドラム)3と、を備えている。クレードル2は、綾振ドラム3に対し近接又は離間する方向に揺動自在であり、それによって、ボビンBfに紡績糸Yを巻いて形成されたパッケージPが綾振ドラム3に対して接触または離間される。また、クレードル2には、糸切れ時にクレードル2を上げて、パッケージPを綾振ドラム3から離反させるリフトアップ機構2aと、クレードル2を上げると同時に、クレードル2に把持されたパッケージPの回転を停止させるパッケージブレーキ機構2bが取り付けられている。
【0022】
綾振ドラム3の周面には螺旋状の綾振溝3aが形成されており、この綾振溝3aによって紡績糸をトラバースさせるようにしている。また、巻取ユニット1は、給糸ボビンBと綾振ドラム3との間の糸走行経路中に、給糸ボビンBから順に、解舒補助装置4、テンション付与装置5、糸継装置としてのスプライサー装置7、クリアラー(糸太さ検出器)8を配設している。
【0023】
解舒補助装置4は、給糸ボビンBの解舒とともに芯管に被さる筒体を下げることにより、給糸ボビンBからの糸の解舒を補助するものである。テンション付与装置5は、走行する紡績糸Yに所定のテンションを付与するものである。図示例では、固定の櫛歯5aに対して可動の櫛歯5bを配置するゲート式のものが用いられている。櫛歯5aに対して櫛歯5bが噛み合わせ状態または解放状態になるように旋回自在になっており、その旋回はロータリー式のソレノイドにより行われる。
【0024】
スプライサー装置7は、糸欠点を検出して行う糸切断時、または解舒中の糸切れ時等に、給糸ボビンB側の下糸Y1と、パッケージP側の上糸Y2とを糸継ぎするものである。このスプライサー装置7の詳細については後述する。クリアラー8は、紡績糸Yの欠陥を検出するためのものであって、クリアラー8からの紡績糸Yの太さに応じた信号が図示しないアナライザーで処理されることで、スラブ等の糸欠点を検出する。また、このクリアラー8には、糸欠点を検出した時の糸切断用のカッター8aが付設されている。
【0025】
スプライサー装置7の上下には、給糸ボビンB側の下糸Y1を捕捉して案内する下糸捕捉案内手段11と、パッケージP側の上糸Y2を捕捉して案内する上糸捕捉案内手段12が設けられている。この構成で、糸切断時または糸切れ時においては、下糸捕捉案内手段11の吸引口11aが図示の位置で下糸Y1を捕捉し、軸11bを中心にして下から上へと旋回してスプライサー装置7に下糸Y1を案内する。同時に、上糸捕捉案内手段12のサクションマウス12aが図示の位置から軸12bを中心にして下から上へと旋回し、逆転させられるパッケージPから上糸Y2を捕捉し、更に軸12bを中心にして上から下へと旋回し、スプライサー装置7に上糸Y2を案内するようになっている。
【0026】
上記のスプライサー装置7の詳細な構成が図1に示され、このスプライサー装置7は、糸継装置本体21と、この糸継装置本体21に着脱可能に設けられた糸継ユニット22とを有している。図5には前記糸継ユニット22が糸継装置本体21から取り外された状態が示され、この糸継ユニット22は、ベース部材24と、このベース部材24の前面側(糸側)に設けられた第1糸案内部材25および第2糸案内部材26と、を有している。第1糸案内部材25および第2糸案内部材26は、ベース部材24の左側(図1で示すユニットフレーム13から遠い側)および右側(ユニットフレーム13に近い側)に、それぞれ着脱可能に設けられている。これらの部材24〜26は、水による腐食を受け難い金属または合成樹脂により形成されており、その内部空間に撚掛室23が形成されている。
【0027】
上記の糸案内部材25・26は、前記ベース部材24に取り付けられたときに、上糸Y2および下糸Y1を通過させる糸道27となる隙間を上下方向に形成させるように形成されている(図4を併せて参照)。また、これらの糸案内部材25・26は、糸道27を挟んで対向する内側壁に傾斜面25a・26aをそれぞれ有している。傾斜面25a・26aは、図6や図7等に示すように、糸道27から先端部にかけて糸道27の隙間を拡大させるように形成されており、この傾斜面25a・26aによって上糸Y2および下糸Y1を糸道27に向けて案内できるようになっている。
【0028】
図6に示すように、第1糸案内部材25は、第2糸案内部材26から遠い側の面を全体的に開放させる形状とされており、この開放部分を塞ぐように蓋部材28が着脱可能に設けられている。図1、図6、図8に示すように、この蓋部材28の中央部には開口穴28aが形成され、前記撚掛室23と外部空間とを連通させることで、撚掛けに用いられた水が撚掛室23において分散するのを促進させるようにしている。
【0029】
一方、図5や図6に示すように、第2糸案内部材26の外側壁には通過部26bが形成され、後述する図1の遮蔽機構61の撚掛遮蔽部材62を通過させることが可能に構成している。
【0030】
上記の糸案内部材25・26が取り付けられるベース部材24は、図3に示すように、正面視矩形状に形成されている。尚、図3は、第1糸案内部材25、第2糸案内部材26、及び蓋部材28を取り外した状態を示している。ベース部材24は適宜の延出壁24a・24b・24cを一体的に有しており、この延出壁24a・24b・24cに、各糸案内部材25・26の側面部25b・26bがそれぞれパッキン29を介して取り付けられる。
【0031】
また、図3および図4に示すように、ベース部材24の内側前面には撚掛部材31が設けられている。撚掛部材31の形状の詳細は図9に斜視図として示され、この撚掛部材31は、撚掛基部32と、この撚掛基部32の前面に形成された撚掛部34とで構成されている。撚掛基部32は、図3や図6に示すように、ベース部材24に埋設及び固定されている。
【0032】
図9に示すように、前記撚掛部34は、その長手方向を上下に向けた貫通状の糸継孔34aを備え、この糸継孔34aに、撚掛対象となる上糸Y2および下糸Y1がセットされるようにしている(図3を参照)。この糸継孔34aは、その横断面形状が図6に示すようにほぼ円形状に形成されており、当該糸継孔34aの前面側は、糸継孔34aの長手方向全域に亘って切除されることにより開口され、前記上糸Y2及び下糸Y1を当該開口部分を通過させて糸継孔34aにセットできるように構成している。即ち、この糸継孔34aは、その長手方向の両端と前面側の三方を開放させた構成となっている。
【0033】
また、図9に示すように、撚掛部材31の撚掛部34の部分には、前記糸継孔34aの長手方向と垂直な方向である水平方向に、2本のスリット状の溝部(空気逃がし部)37・37が形成される。この2本の溝部37・37は、互いに平行な向きとされながら、糸継孔34aの長手方向(上下)に並べて配置される。また、2本の溝部37・37のそれぞれは、糸継孔34aへ上糸Y2及び下糸Y1をセットする方向に適宜の深さだけ凹設されており、糸継孔34aに対し正面視で十字状に交差しつつ接続されている。
ただし、前記溝部37・37の向きは、糸継孔34aの長手方向と垂直な方向に限定されず、糸継孔34aの長手方向と異なる向きに溝部37・37が形成されていれば良い。例えば、水平から傾斜する向きに溝部37・37が形成されても良い。また、2本の溝部37・37が互いに平行である構成に限定されず、例えばハの字状に配置されていても良い。更に、溝状の空気逃がし部とすることに限らず、例えば貫通孔状の空気逃がし部としても良い。
【0034】
撚掛部材31の内部にはガス供給路としての空気路34c・34cが穿設され、この空気路34c・34cの一端は、前記糸継孔34aの内壁にそれぞれ空気噴出口(開口)34b・34bを形成している。この空気噴出口34b・34bは、糸継孔34aの長手方向に所定の間隔をあけて配置されている。また、2つの空気噴出口34b・34bの間に、前記の複数の溝部37・37が配置されている。言い換えれば、1つが上側の溝部37よりも上側の位置に、もう1つが下側の溝部37よりも下側の位置に、それぞれ配置される。
【0035】
上側と下側の空気噴出口34b・34bからは、後述するように、水の付加された空気を糸継孔34aの内部へ噴出させるようになっている。また、それぞれの空気噴出口34b・34bは、互いに逆方向の旋回流を糸継孔34aの内部に生起させるように形成されている。また、空気噴出口34b・34bから糸継孔34a内に噴出された圧縮空気(の少なくとも一部)は、前記2本の溝部37・37を通過して、糸継孔34aの内部空間から当該糸継孔34aの長手方向と垂直な方向(水平方向)に逃げるようになっている。これにより、撚掛部材31は、糸継孔34aにセットされた上糸Y2および下糸Y1を水により湿らせながら空気流により絡ませて撚掛けを行うことができる。
【0036】
上記のように構成された撚掛部材31は、図6に示すように、前記糸継孔34aが糸道27と一致するようにベース部材24の前面側に設けられている。一方、ベース部材24の後部側には撚掛プラグ35が設けられており、この撚掛プラグ35は、その出口側が撚掛部材31の背面に接続されて、当該出口は、撚掛部材31の内部に形成された空気路34c・34cを介して上述の空気噴出口34b・34bに連通されている。一方、撚掛プラグ35の入口側は、図2に示すように、配管等で形成された第1空気路36aを介して撚掛バルブ41に連通された後、圧縮空気を供給する圧縮空気供給装置42に連通されている。また、第1空気路36aには分岐路36bが接続され、この分岐路36bが給水タンク44に対して給水バルブ43を介して連通されている。
【0037】
また、図7や図8に示すように、ベース部材24には、撚掛室23に開口された吸引口24dが複数箇所に形成されている。各吸引口24dは、図2に示すように、吸引バルブ45を介して吸引装置46に連通されている。この構成で吸引バルブ45が開かれると、撚掛けに使用された空気や水を撚掛室23から前記吸引口24dを介して吸引し、機外に排出することが可能になっている。
【0038】
また、図1および図4に示すように、糸継ユニット22を挟んで上下に配置された解撚部材53・53の上方および下方には、上糸Y2および下糸Y1を糸継ユニット22に引き寄せる糸寄せレバー54と、切断用糸ガイド53aで案内された糸を切断するカッター55と、固定用糸ガイド53bで案内された糸を固定するクランプ機構56とがこの順に設けられている。
【0039】
上記の糸寄せレバー54は、図1等に示すように、糸継ユニット22の側方に外れた位置を回動中心として回動可能に構成された弓なり状の部材とされており、糸継ぎの際に適宜回動するように構成されている。
【0040】
また、糸継ユニット22の側方には、遮蔽機構61が配設されている。遮蔽機構61は、撚掛動作時等において水の前面側への飛散を防止する撚掛遮蔽部材62と、それを支持するベース部材壁遮蔽部材63と、これら遮蔽部材62・63を旋回および回動させる遮蔽部材回動機構64とを有している。そして、前記撚掛遮蔽部材62は、図3に示すように、先端面が平面状に形成された遮蔽部65と、遮蔽部65の後端部を支持する遮蔽支持部材66とを備える。前記遮蔽部65は、撚掛部材31の糸継孔34aの前面側を開放させる開口を完全に覆うことができるように構成されている。また、遮蔽部材回動機構64は、撚掛け時に糸継孔34aの前面側の開口を遮蔽部65で塞ぐように各部材を回動させ、撚掛けに使用する水が糸継孔34aから周囲に飛散するのを防止するよう構成されている。
【0041】
上記で説明した巻取ユニット本体14の各構成部品は、図10に示すユニットフレーム13により支持されている。ユニットフレーム13には図示しないユニット制御装置が内蔵されており、各構成部品を作動させるように組み上げられたプログラム等を書き換え可能に記憶した記憶部と、プログラムを実行可能な演算部とを有し、更に、巻取ユニット本体14に対して信号を入出力可能に接続された入出力部と、機台制御装置に対してデータ通信可能に接続された通信部とを有している。
【0042】
上記の構成において、スプライサー装置7の動作を説明する。即ち、給糸ボビンBから解舒される紡績糸YをトラバースさせながらボビンBf上に巻き付けてパッケージPとしているときに、例えば糸切れが発生したり、クリアラー8で糸欠点が検出されて紡績糸Yが切断されること等によって、給糸ボビンB側の下糸Y1とパッケージP側の上糸Y2とが分離した状態になると、スプライサー装置7による糸継ぎが開始される。
【0043】
具体的には、下糸捕捉案内手段11の吸引口11aが図示の位置で下糸Y1を捕捉し、軸11bを中心にして下から上へと旋回してスプライサー装置7の前方に下糸Y1を案内する。同時に、上糸捕捉案内手段12のサクションマウス12aが図示の位置から軸12bを中心にして下から上へと旋回し、パッケージP側から上糸Y2を捕捉し、さらに軸12bを中心にして上から下へと旋回し、スプライサー装置7の前方に上糸Y2を案内する。
【0044】
続いて、給水動作と第1糸寄せ動作とが実施される。給水動作においては給水バルブ43が所定時間開かれ、図2に示す給水タンク44から所定量の水が第1空気路36aに供給される。また、第1糸寄せ動作においては、図3に示す上下の糸寄せレバー54・54が図示の待機位置から適宜回動し、スプライサー装置7の前面側に位置する上糸Y2および下糸Y1を糸継ユニット22方向に引き寄せ、糸道27に集合させる。これにより、図4に示すように、上糸Y2は、糸道27に一致された糸継孔34aを通過し、上側に配置された解撚部材53の固定用糸ガイド53bの側面と、下側に配置された解撚部材53の切断用糸ガイド53aに案内された状態となる。また、下糸Y1は、糸道27に一致された糸継孔34aを通過し、下側に配置された解撚部材53の固定用糸ガイド53bの側面と、上側に配置された解撚部材53の切断用糸ガイド53aに案内された状態となる。
【0045】
この後、クランプ動作が実施され、固定用糸ガイド53bで案内された上糸Y2および下糸Y1が上側および下側のクランプ機構56によりそれぞれ固定される。そして、切断動作が実施され、切断用糸ガイド53aで案内された下糸Y1および上糸Y2がカッター55で切断される。これらのクランプ動作および切断動作が完了すると、解撚動作が実施される。即ち、解撚バルブ47が開かれることによって、圧縮空気が解撚用空気口53dから解撚室53cに流動され、切断用糸ガイド53aの下糸Y1および上糸Y2が上側および下側の各解撚部材53・53の解撚室53cに引き込まれ、糸端が解撚される。
【0046】
解撚動作が完了すると、遮蔽機構61が作動され、糸継孔34aの前面側が遮蔽部65によって遮蔽される。この後、糸寄せレバー54が更に適宜回動されて、カッター55で切断された上糸Y2および下糸Y1の端部同士が撚掛部材31の糸継孔34aに位置される。この際、遮蔽部65は撚掛部材31の撚掛部34の前面に当接するのみであって、糸継孔34aの長手方向端部は開放状態が維持されているため、遮蔽部65が糸に接触することはない。従って、上糸Y2および下糸Y1の端部同士は、正規の位置から外れることがない。
【0047】
この後、撚掛動作が実施され、撚掛バルブ41が開栓状態に切り替えられる。これにより、図2に示すように、圧縮空気が第1空気路36aを流動し、上述の給水動作で第1空気路36aに供給されていた所定量の水が圧縮空気で霧化され、空気噴出口34b・34bから圧縮空気とともに糸継孔34aへ噴出される。そして、霧状の水が上糸Y2および下糸Y1の端部を湿らせ、圧縮空気が糸継孔34a内部を互いに逆方向に旋回することによって、上糸Y2および下糸Y1の端部同士を絡み付かせて十分に撚掛けする。そして圧縮空気は、前記溝部37・37等を通過して糸継孔34aの外部へ抜ける。なお、この撚掛動作時においては、糸継孔34aの前面側が遮蔽部65で遮蔽されているため、糸継孔34aから前側への水が噴出することがない。
【0048】
上記のようにして撚掛動作が完了すると、遮蔽機構61が作動され、糸道27の前方を開放した元の待機姿勢に復帰されるとともに、糸寄せレバー54が回動して待機位置に復帰される。そして、図10に示す綾振ドラム3が回転され、パッケージPの巻取が再開される。
【0049】
以上のようにして上糸Y2と下糸Y1(ともに、麻糸)を糸継ぎした継ぎ目の外観の様子が図11に示され、この図11に示すように、本実施形態のスプライサー装置7により形成される継ぎ目は、上記の旋回流によって形成される2つの巻付け部T・Tと、この2つの巻付け部T・Tの間に配置されるとともに互いに間隔をおいて2個形成される交絡部C・Cと、を備えている。交絡部C・Cの数(2個)及び形成位置は、撚掛部34における溝部37・37の数(2本)及び位置に対応している。
【0050】
このように、交絡部C・Cが2個間隔をあけて形成されるので、交絡部Cの1個あたりの大きさを特許文献1の場合の継ぎ目(図12)と比較して小さくできる。従って、継ぎ目が目立ちにくく、糸継部分の外観が他と大きく異なることが回避される。また、交絡部C・Cが2個形成されているので、継ぎ目の部分の強力も良好に確保することができる。逆に言えば、交絡部C・Cを2個形成できるから、撚掛部材31の前記溝部37・37のそれぞれのスリット幅を小さくして1個1個の交絡部C・Cを小さなものとしても、継ぎ目部分において必要な強力を十分に確保することができる。
【0051】
以上に示すように、本実施形態のスプライサー装置7が備える撚掛部材31は、撚掛対象となる上糸Y2・下糸Y1がセットされる糸継孔34aと、それぞれが前記糸継孔34aに開口を形成するとともに、互いに逆向きの旋回流を前記糸継孔34aの内部に形成するように対で設けられた空気路34c・34cと、この空気路34c・34cから前記糸継孔34aへ供給されたガスを当該糸継孔34aの長手方向と垂直な向きに逃がすために、糸継孔34aに接続して設けられる2本の溝部37・37と、を備える。それぞれの前記空気路34c・34cが前記糸継孔34aに形成する前記空気噴出口34b・34bの間に、前記複数の溝部37・37が配置されている。言い換えれば、前記のように対で形成される空気噴出口34b・34bは、一つが上側の溝部37よりも上方側、もう一つが下側の溝部37よりも下方側、というように、2本の溝部37・37よりも外側(糸継孔34aの長手方向端部側)に位置している。
【0052】
また、上記のスプライサー装置7を別の観点からみると、以下のような方法で糸継を行う構成として把握することができる。即ち、撚掛部材31に形成された糸継孔34aへ撚掛対象となる上糸Y2・下糸Y1をセットし、この状態で、前記撚掛部材31に対で備えられる空気路34c・34cのそれぞれから前記糸継孔34aへ向けて圧縮空気を噴出させることで、前記糸継孔34aの内部に互いに逆向きの旋回流を形成する。そして、この噴出された圧縮空気の少なくとも一部が、前記空気路34c・34cからの前記糸継孔34aへの噴出箇所(前記空気噴出口34b・34b)の間に互いに平行に複数本設けられた溝部37・37を通過して、外部に抜ける。
【0053】
また、上記のスプライサー装置7あるいは前記の糸継方法により形成される継ぎ目は、図11に示すように、2つの巻付け部T・Tと、この2つの巻付け部T・Tの間に配置されるとともに互いに間隔をおいて2個形成される交絡部C・Cと、を備える。
【0054】
従って、目立たない外観を有すると同時に強力に優れた継ぎ目を形成しながら糸継ぎすることができる。
【0055】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は更に以下のように変更することができる。
【0056】
○上記の実施形態では麻糸を糸継ぎする場合を説明したが、上記に限定されず、麻糸以外の糸の糸継ぎに上記のスプライサー装置7を用いることもできる。ただし、上記の実施形態のスプライサー装置は、例示した麻糸や、コアヤーン、双糸等の難解撚性の糸(換言すれば、いわゆる特殊糸)を、強力に優れ且つ目立たない継ぎ目をもって糸継ぎでき、特に好適である。
【0057】
○上記のスプライサー装置7は、水を付加した圧縮空気を利用して糸継ぎを行うように構成しているが、液体は水に限られず、噴出されるガスは圧縮空気に限られない。また、水を付加せずに単に圧縮空気を利用して糸継ぎする構成のスプライサー装置に対して、図9の撚掛部材31を備えさせて糸継ぎをさせるように構成することもできる。
【0058】
○上記の実施形態では撚掛部材31の溝部37・37の数は2本とされているが、3本以上であっても良い。例えば4本の場合は、当該4本の溝部37を、一対の空気噴出口34b・34bの間に配置することとすれば良い。ただし、上記の実施形態のように2本の溝部37・37とすると、撚掛部材31の形状を簡素化できるので好ましい。
【0059】
○また、溝部37・37同士の間隔、各溝部37・37の形成深さやスリット幅等についても、図9に示したものに限定されない。また、空気噴出口34b・34bは、1対に限らず、2対以上設けられても良い。
【0060】
○前記スプライサー装置7は、例示した自動ワインダのほか、他の構成の繊維機械にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係るスプライサー装置の斜視図。
【図2】スプライサー装置の空気路を示すブロック図。
【図3】スプライサー装置とベース部材との取付け状態を正面視した説明図。
【図4】スプライサー装置の正面図。
【図5】糸継ユニットの斜視図。
【図6】同じく断面図。
【図7】同じく正面図。
【図8】同じく側面図。
【図9】撚掛部材の斜視図。
【図10】巻取ユニットの概略図。
【図11】本実施形態に係るスプライサー装置で形成される継ぎ目の概略図。
【図12】特許文献1のスプライサー装置で形成される継ぎ目の概略図。
【符号の説明】
【0062】
1 巻取ユニット
7 スプライサー装置(糸継装置)
31 撚掛部材
34 撚掛部
34a 糸継孔
34b・34b 空気噴出口(開口)
34c・34c 空気路(ガス供給路)
37・37 溝部(空気逃がし部)
T 巻付け部
C 交絡部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚掛部材を備えるスプライサー装置において、
前記撚掛部材は、
撚掛対象となる糸がセットされる糸継孔と、
それぞれが前記糸継孔に開口を形成するとともに、互いに逆向きの旋回流を前記糸継孔の内部に形成するように対で設けられたガス供給路と、
このガス供給路から前記糸継孔に供給されたガスを当該糸継孔の長手方向と異なる向きに逃がすために、前記糸継孔に接続して設けられる複数の空気逃がし部と、を備え、
それぞれの前記ガス供給路が前記糸継孔に形成する前記開口の間に、前記複数の空気逃がし部が配置されていることを特徴とする、スプライサー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスプライサー装置であって、前記空気逃がし部の数は2つであることを特徴とするスプライサー装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスプライサー装置であって、液体が付加されたガスを前記ガス供給路から噴出させるように構成したことを特徴とするスプライサー装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載のスプライサー装置であって、撚掛対象となる糸が、麻糸、双糸又はコアヤーンであることを特徴とするスプライサー装置。
【請求項5】
撚掛部材に形成された糸継孔へ撚掛対象となる糸をセットし、
この状態で、前記撚掛部材に対で備えられるガス供給路のそれぞれから前記糸継孔へ向けてガスを噴出させることで、前記糸継孔の内部に互いに逆向きの旋回流を形成し、
前記噴出されたガスの少なくとも一部が、前記ガス供給路からの前記糸継孔への噴出箇所の間に複数設けられた空気逃がし部を通過して外部に抜けることを特徴とする糸継方法。
【請求項6】
請求項5に記載の糸継方法であって、前記糸継孔へ向けて噴出されるガスに液体が付加されていることを特徴とする糸継方法。
【請求項7】
糸を糸継ぎすることによって形成される継ぎ目において、2つの巻付け部と、この2つの巻付け部の間に配置されるとともに互いに間隔をおいて複数個形成される交絡部と、を備える継ぎ目。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−341941(P2006−341941A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166914(P2005−166914)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】