説明

スペアタイヤキャリアおよびクランプ

【課題】フックがボルトと螺合していない状態においても、スペーサがボルトの軸部から脱落しないようにすること。
【解決手段】フックの位置決めを行う筒状のスペーサ4を備えたスペアタイヤキャリアにおいて、ボルト3の軸部とスペーサ4との間に脱落防止手段が設けられている。この脱落防止手段は、ボルト3の軸部32が先端側32bに比べ根元側32aが小径とされた段差部32cが形成されており、スペーサ4には筒形状の内外に通じる貫通孔41が形成されており、貫通孔41から内方に嵌入する嵌入部54を有するクランプ5がスペーサ4の外周面に装着され、クランプ5の嵌入部54にはボルト3の軸部32の段差部32cに係止される把持部55が形成されて構成され、スペーサ4に装着されるクランプ5の嵌入部54によるボルト3の段差部32cへの係止によりスペーサ4の落下が防止されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペアタイヤを保持して自動車の車体の床下に格納するためのスペアタイヤキャリア、およびこのスペアタイヤキャリアの脱落防止手段を構成するクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車には、タイヤが突然パンクした場合等に備えパンクしたタイヤを応急的に交換するためのスペアタイヤを搭載している。このようなスペアタイヤを搭載した自動車のうち、主として荷物を運ぶためのいわゆる商用車には、車内の荷室をなるべく広く確保するために車体の後部の床下にスペアタイヤを格納するものが知られている。図7は車体後部の床下Uを左方から見た側面図であり、図8はスペアタイヤSを格納するスペアタイヤキャリア101の支持構造を分解して示す図である。図7に示すように、スペアタイヤSを保持したスペアタイヤキャリア101が車体後部の床下Uに設置されている。図7に示す円RWは左右の後輪の位置である。スペアタイヤキャリア101は車体の床面Bに対して前後の二箇所で支持されている。スペアタイヤキャリア101は、前側の箇所111aにおいてはブラケット112により回転可能に支持され、後側の箇所においてはフック102を備えた支持構造113によって支持されている。図7および図8に示すように、キャリア本体110を後側で支持する支持構造113は、キャリア本体110の引っ掛け部分111bを引っ掛けるためのフック102と、車体の床面Bに設けられた貫通孔に吊り下げられフック102が螺合するボルト103と、フック102の上側でボルト103にスライド可能に挿通された金属製で筒状のスペーサ104とを備えている。なお、ボルト103とフック102を備えた支持構造としては、例えば下記の特許文献1に開示されたものがある。図7に示すように、ボルト103は回転操作を行う頭部131と雄ねじ部132bを有する軸部132とからなり、自動車の荷室内でのみボルト103を回転可能となるよう、頭部131は車体の荷室内にある。
【0003】
ところで、路面Rから車体の床面Bまでの高さは車種により異なるため、スペアタイヤSを格納する際のスペアタイヤキャリア101の高さも車種により変えたいという要望がある。しかし、スペアタイヤキャリア101を引っ掛けるフック102は車種によらず共通部品として使用したいという要望もある。前記のスペーサ104は、これらの要望を満たすための構成とするため前記のボルト103に対して差し替え可能な交換部品として構成される。つまり、スペーサ104は車種により異なる長さを選択できて、ボルト103に対してスライド可能に挿通できる交換部品として構成される。これによって、車体の床面Bからフック102までの間隔をスペーサ104により車種に合わせて変更可能となっている。また、スペアタイヤSを格納するときは、ボルト103を回してフック102を限界までねじ込むことで所定の高さにスペアタイヤSが格納される。また、スペーサ104はスライド可能にボルト103に挿通されているため、フック102を限界までねじ込むことでスペーサ104とボルト103の頭部とが車体の床面Bをメタルタッチによりしっかりと挟むことができ、これによって車体に対する支持構造113のがたつきが防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−008125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の技術では以下に述べるような問題があった。車体の床下Uに格納されたスペアタイヤSを取り出す際、作業者はまず、荷室内にあるボルト103の頭部131を回転することによって、ボルト103と螺合するフック102を適当な位置まで下ろす。このとき、電灯のない夜の路上等、フック102の高さを確認し難い作業環境では、作業者がボルト103を回し過ぎてフック102と共にスペーサ104がボルトから自然落下し、スペーサ104を紛失することがあるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、スペアタイヤを保持するスペアタイヤキャリアを支持構造のフックから外すために、ボルトの頭部を回してボルトの雄ねじ部と螺合するフックを下ろす場合において、ボルトを回しすぎてフックがボルトから脱落したときでも、ボルトに挿通されるスペーサがボルトから落下しないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るスペアタイヤキャリアは次の手段をとる。まず、本発明の第1の発明に係るスペアタイヤキャリアは、自動車の車体後部の床下にスペアタイヤを載置可能に配設されるキャリア本体の一端側が車体に回動可能に支持され、他端側が棒状の組立体として構成されたキャリア支持部により車体に支持され、該キャリア支持部を操作することによりスペアタイヤを床下に格納した格納状態とスペアタイヤを車体の外部へ取り出すことが可能な取り出し可能状態とに前記キャリア本体の回動位置を切り替えることのできるスペアタイヤキャリアであって、前記キャリア支持部は、車体の床面から軸部が回転可能とされて垂下される長尺のボルトと、該ボルトの軸部の先端部位に螺合されキャリア本体の他端側を引っ掛けることのできる部位を有するフックと、筒形状に形成されて前記ボルトの軸部の根元側に挿通され該ボルトの軸部に螺合されるフックの螺合位置決めを行うスペーサとから成っており、前記ボルトの軸部と該軸部に挿通されるスペーサとの間には、前記フックがボルトの軸部に螺合されていない状態でも、スペーサがボルトの軸部から自然落下するのを防止する脱落防止手段が設けられていることを特徴とする。
【0008】
第1の発明に係るスペアタイヤキャリアによれば、ボルトと螺合していたフックがボルトから脱落しても、脱落防止手段によりスペーサがボルトに挿通された状態が保持されている。したがって、スペーサがボルトから脱落しない。
【0009】
本発明の第2の発明に係るスペアタイヤキャリアは、請求項1に記載のスペアタイヤキャリアであって、前記ボルトの軸部とスペーサとの間に設けられる脱落防止手段は、ボルトの軸部が先端側に比べ根元側が小径とされた段差部が形成されており、スペーサには筒形状の内外に通じる貫通孔が形成されており、該貫通孔から内方に嵌入する嵌入部を有するクランプがスペーサの外周面に装着されており、該クランプの嵌入部には前記ボルトの軸部の段差部に係止される把持部が形成されて構成されており、スペーサに装着されるクランプの嵌入部によるボルトの段差部への係止によりスペーサの落下が防止されることを特徴とする。
【0010】
第2の発明に係るスペアタイヤキャリアによれば、スペーサには筒形状の内外に通じる貫通孔が形成されており、貫通孔から内方に嵌入する嵌入部を有するクランプがスペーサの外周面に装着されているので、スペーサとクランプとの軸方向への相対移動が規制される。また、ボルトの軸部が先端側に比べ根元側が小径とされた段差部が形成されており、クランプの嵌入部には前記ボルトの軸部の段差部に係止される把持部が形成されているので、クランプの把持部がボルトの軸部の段差部に係止し、ボルトの根元側を把持するクランプはボルトの先端方向に抜け落ちない。したがって、スペーサの脱落を防止するにあたり、簡単な構造で実現可能である。
【0011】
本発明の第3の発明に係るクランプは、請求項2に記載のスペアタイヤキャリアの脱落防止手段を構成するクランプであって、該クランプは樹脂製とされており、前記スペーサの外周面を把持可能に二分割された弧状部材がヒンジ部により回動可能とされて連結されて構成されており、二分割された弧状部材の両他端部は該弧状部材のスペーサへの装着状態が維持できる係合手段により係合される構成とされており、かつ、弧状部材にはスペーサに形成された貫通孔に嵌入する把持部を先端に有する嵌入部が一体的に形成されていることを特徴とする。
【0012】
第3の発明に係るクランプによれば、クランプは2つの弧状部材をヒンジ部により回動可能に連結されて、他端同士を係合手段により係合されることにより、スペーサの外周面を把持している。したがって、スペーサの脱落を防止するにあたり、別部品として安価な構成とすることができる。
【0013】
本発明の第4の発明に係るクランプは、請求項3に記載のクランプであって、前記スペーサの貫通孔に嵌入する嵌入部は、軸方向の上下に二個形成されておって前記貫通孔の上端及び下端に嵌合係止される構成とされており、前記ボルトの段差部に係止される把持部は上部位置の嵌入部から斜め下方に突出して形成された構成とされており、これによりクランプのスペーサへの装着状態でスペーサをボルトの軸部に先端部から挿通するときに把持部が撓んで挿通可能とされていることを特徴とする。
【0014】
第4の発明に係るクランプによれば、把持部は上部位置の嵌入部から斜め下方に突出して形成されており、クランプのスペーサへの装着状態でスペーサをボルトの軸部に先端部から挿通するときに把持部が撓んで挿通可能であるため、クランプを取り付けた状態でスペーサを簡単に挿着可能である。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、スペアタイヤを保持するキャリアを支持構造のフックから外すために、ボルトの頭部を回してボルトの軸部に形成された雄ねじ部と螺合するフックを下ろす場合において、ボルトの頭部を回しすぎてフックがボルトの軸部から脱落したときでも、スペーサがボルトの軸部から脱落することを防止できる。
また、第2の発明によれば、スペーサの脱落を防止するにあたり、簡単な構造で実現可能である。
また、第3の発明によれば、スペーサの脱落を防止するにあたり、別部品として安価な構成とすることができる。
また、第4の発明によれば、クランプを取り付けた状態でスペーサを簡単に挿着可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】自動車の車体の後方下部を左方から見た側面図。
【図2】スペアタイヤキャリアの係止支持部を示す側面図。
【図3】図2の係止支持部のボルトを緩めてフックを下ろした状態を示す側面図。
【図4】クランプを示す平面図。
【図5】図3のクランプ付近を拡大して示す図。
【図6】図3の状態の係止支持部をVI−VI面で切断して示す断面図。
【図7】従来のスペアタイヤキャリアを示す側面図。
【図8】従来の支持構造を分解して示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、自動車の車体後部の床下Uを左方から見た側面図である。図1に示す自動車は、荷室が広く確保されたいわゆる商用車である。この自動車は、タイヤが突然パンクした場合等に備えて、このパンクしたタイヤを応急的に交換するためのスペアタイヤSを搭載している。この自動車は、車体の外部として車体の床下Uに、スペアタイヤSを格納するスペアタイヤキャリア1が設置されている。このスペアタイヤキャリア1にスペアタイヤSを格納することによって、スペアタイヤSが搭載されるようになっている。図に示す符号RWは自動車の左右の後輪の位置を仮想的に表している。スペアタイヤキャリア1は、図示されないが左右の後輪RWの間に配設されている。
【0018】
スペアタイヤキャリア1は、図1に示すように、キャリア本体10と、係止支持部13とを備える。キャリア本体10は、図1に示すように、スペアタイヤSを保持して車体の床下Uに格納する格納状態(P1)と、路面Rと接触するまで下ろされてスペアタイヤSを取り出し可能となる取り出し可能状態(P2)とを有し、これらの2つの状態間が切り替え可能となっている。キャリア本体10は、キャリア部11と、回転支持ブラケット12とを備える。キャリア部11は、長尺の金属製の中空パイプ状部材を適宜折り曲げ加工することにより、スペアタイヤSを格納可能な形状に形成されている。キャリア部の一端側として前端となっている回転支持部11aは、回転支持ブラケット12に対して回動可能に支持される箇所である。また、キャリア部11の他端側として後端となっている引っ掛け部11bは、後述の係止支持部13のフック2に引っ掛けられる箇所である。回転支持ブラケット12は、車体の床に固定して設置される。この回転支持ブラケット12には上記のキャリア部11の回転支持部11aが回動可能に連結されており、これによりキャリア部11を回転可能に支持する。このようにして、キャリア本体10は回転支持ブラケット12によって車体に対して回転可能に支持されている。これによって、キャリア本体10は、車体に対する回動位置によって、スペアタイヤSを格納する格納状態P1と、スペアタイヤSを取り出し可能な取り出し可能状態P2とを有し、これらの格納状態P1と取り出し可能状態P2との間で切り替え可能となっている。
【0019】
図1は、スペアタイヤキャリア1を支持する係止支持部13を示す側面図である。キャリア本体10の上記格納状態において、棒状の組立体として構成されたキャリア支持部としての係止支持部13がキャリア本体10を支持している。係止支持部13は、キャリア本体10を引っ掛けるフック2と、フック2と螺合するボルト3と、ボルト3に挿通されるスペーサ4と、スペーサ4の脱落を防止する脱落防止手段としてのクランプ5とを備える。係止支持部13は、図2に示すように、ボルト3を締めてフック2を上げ、キャリア本体10が上記格納状態となる締め上げ状態と、図3に示すように、ボルト3を緩めてフック2を下ろし、フック2に引っ掛かったキャリア本体10を外してキャリア本体10を取り出し可能状態とすることが可能となる緩め状態とを有する。なお、本発明で言うクランプ構造とは、緩め状態からさらにボルト3を緩めてフック2がボルト3から脱落した場合においても、クランプ5を用いてスペーサ4がボルト3から脱落しないように保持する構造である。以下、フック2、ボルト3、スペーサ4、クランプ5を順に説明する。
【0020】
フック2は金属製部材であり、上部にボルト3と螺合する雌ねじ部21を備え、下部にキャリア本体10の引っ掛け部11bを引っ掛ける部位としての鉤部22を備える。雌ねじ部21は、内面に雌ねじが形成された筒状に形成され、鉤部22は、帯状部材を略J字形状に曲げて形成されている。なお、雌ねじ部21と鉤部22との間はボルト3の雄ねじ部32bを挿通可能な筒状となっており、ボルト3の雄ねじ部32bは雌ねじ部21を越えてねじ込み可能となっている。
【0021】
次に、ボルト3は金属製の長尺部材であり、頭部31と軸部32とを備える。ボルト3は、頭部31が車体の荷室内すなわち車体の床面Bの上にあり、軸部32が床面Bに貫通した孔を通って床下Uに吊り下げられている。頭部31は六角柱形状に形成され、荷室内からホイールレンチを利用して回転操作することが可能である。軸部32は棒状に形成され、頭部31と軸線を一にして頭部31から下に延びている。軸部32の根元側となる上部は、平滑な円柱面を有する被把持部32aとなっており、後述のクランプ5の把持部55,55が把持する部分となっている。また、軸部32の先端側となる下部は、フック2の雌ねじ部21が螺合する雄ねじが形成された雄ねじ部32bとなっている。ボルト3の頭部31を回転操作することで、雄ねじ部32bと螺合するフック2を上下させることができ、これにより前記の締め上げ状態と緩め状態との間を切り替えることができる。雄ねじ部32bの径は被把持部32aの径よりも大きくなっている。この径の差により、雄ねじ部32bと被把持部32aの境には段差部32cが形成されている。すなわち、段差部32cは雄ねじ部32bの上端に形成されている。
【0022】
次に、スペーサ4は、ボルト3に挿通可能に形成された金属製の筒状部材である。スペーサ4は、車体の床面Bとフック2との間においてボルト3に挿通されている。図2に示すように係止支持部13が締め上げ状態にあるとき、スペーサ4の上端が車体の床面Bに当接し、スペーサ4の下端がフック2と当接している。この当接により、車体の床面Bからフック2までの間隔が確保されている。スペーサ4は、車種により異なる長さを選択でき、ボルト3に差し替え可能な交換部品である。したがって、フック2を共通部品として用いつつ、スペーサ4の差し替えにより、締め上げ状態における車体の床面Bからフック2までの間隔をスペーサ4により車種に合わせて変更可能となっている。図4に示すように、スペーサ4の側面には、貫通孔41,41がスペーサ4の軸線に関して対称な二箇所に形成されている。この貫通孔41,41には、後述のクランプ5に設けられた嵌入部54,54(図6参照)が嵌入され、また把持部55,55が外側から挿通される。係止支持部13が図3に示す緩め状態にあるとき、スペーサ4は若干落下しているが後述のクランプ5によりスペーサ4がボルト3上の段差部32cより下には自然落下しないようにクランプされているため、スペーサ4の上端は車体の床面Bから離れており、スペーサ4の下端はフック2から離れている。
【0023】
次に、クランプ5は、スペーサ4の外周面に着脱可能に把持するよう設けられた樹脂製部材である。このクランプ5は、フックがボルトの軸部から脱落した場合においても、前記スペーサが前記ボルトに挿通された状態を保持する脱落防止手段としての構成である。クランプ5は、閉じた状態では概して円筒形状をしている。クランプ5は、図4に示すように、概して半円弧形状を有する2つの弧状部材51,52を備える。それぞれの弧状部材51,52の一端はヒンジ部53により連結され、クランプ5はこのヒンジ部53を支点として開閉可能となるように構成されている。図4では、開いた状態にある一方の弧状部材51を二点鎖線で示している。係合手段は次のように係合爪51aと係合部52aとで構成される。一方の弧状部材51の他端には係合爪51aが設けられ、他方の弧状部材52の他端部には前記の係合爪51aを受け入れて係合する係合部52aが設けられている。両弧状部材51,52を閉じて係合爪51aが係合部52aに係合すると、クランプ5が閉じた状態でロックされる。
【0024】
以下、閉じた状態でロックされたクランプ5を、図4〜図6を参照しながら説明する。それぞれの弧状部材51,52のほぼ中央の内側には、嵌入部54,54が内側に向かって突出して設けられている。嵌入部54,54は、図4に示すようにクランプ5の軸線に関して対称となる二箇所に形成されている。また嵌入部54,54は、図5に示すようにスペーサ4の貫通孔41,41に嵌入可能な形状にて形成されている。嵌入部54,54が貫通孔41,41に嵌入されることで、クランプ5とスペーサ4との軸方向および周方向に関する相対運動が規制され、クランプ5とスペーサ4が一体的な装着状態となる。なお、後述のように、ボルト3に対してスペーサ4とクランプ5とを挿通する際には、あらかじめスペーサ4とクランプ5とを上記の装着状態とし、この装着状態にあるスペーサ4とクランプ5をボルト3の軸部32に下から挿通する。
【0025】
図6に示すように、貫通孔41に嵌入する一対の嵌入部54,54は、それぞれ上下の二個の部分に分断され、貫通孔41の上端および下端に嵌合係止されている。すなわち、それぞれの嵌入部54,54の上端は、載置面54a,54aとなっている。緩め状態において載置面54a,54aにスペーサ4の貫通孔41,41の上部内周面41a,41aが載置され、クランプ5に対してスペーサ4が自然落下することを規制する。また、それぞれの嵌入部54,54の下端は、係止面54b,54bとなっている。クランプ5とスペーサ4とを装着状態でボルト3の軸部32に下から挿通する際、係止面54b,54bをスペーサ4の貫通孔41,41の下部内周面41b,41bに引っ掛けて、スペーサ4とともにクランプ5を引き上げることができる。
【0026】
それぞれの弧状部材51,52には、把持部55,55が嵌入部54,54の上部分から一体的に突出して設けられている。すなわち、それぞれの弧状部材51,52のほぼ中央の内側には、把持部55,55が内側へ向かって突出して設けられている。また、把持部55,55は、クランプ5の軸線に関して対称となる二箇所に形成されている。図6の断面図に示すように、クランプ5がスペーサ4に取り付けられた状態では、把持部55,55はスペーサ4の内側に至るまで貫通孔41,41に挿通されている。スペーサ4の貫通孔41,41に挿通された把持部55,55の先端は、スペーサ4に挿通されているボルト3の軸部32のうち被把持部32aを把持している。したがって、両把持部55,55の先端同士の間隔はボルト3の被把持部32aの径と同じに設定されている。把持部55,55の先端は、図4に示すように、被把持部32aの形状に合わせて上面視が円弧状に形成されており、ボルト3の軸部32がクランプ5に対して偏心しないように被把持部32aを把持している。
【0027】
また把持部55,55は、図6に示すように、斜め下方に向かって突出している。把持部55,55は可撓性を有し、上側から力を受けた場合には外側の逃げ空間E,Eに逃げるように撓むことができる。すなわち、把持部55,55の先端同士の間隔は、自然状態ではボルト3の被把持部32aの径に等しいが、上側から力を受けるとそれよりも広がる。したがって、装着状態にあるクランプ5とスペーサ4をボルト3の軸部32に下から挿通する際、まず把持部よりも径の大きい雄ねじ部32bによって把持部55,55が上側から力を受け逃げ空間E,Eへ撓ませられる。このため、両把持部55,55の先端同士の間隔が自由状態よりも広がり、被把持部32aより径の大きい雄ねじ部32bを把持することができる。これにより図3に示す把持部55,55が被把持部32aを把持する状態となるまで、装着状態にあるスペーサ4とクランプ5を軸部32に挿通することができる。
【0028】
しかし、把持部55,55がボルト3の被把持部32aを把持している状態では、下側から力を受けても把持部55,55は撓むことができない。したがって、図2に示す締め上げ状態からボルト3を回転操作してフック2を下ろしていくと、装着状態にあるスペーサ4とクランプ5は図3に示す緩め状態までは下がるが、さらにフック2を下ろしてもクランプ5の把持部55,55がボルト3の段差部32cに係止して下側から力を受けるため、装着状態にあるスペーサ4とクランプ5は下がることができない。これにより、ボルト3を回しすぎてフック2が完全に雄ねじ部32bから脱落してしまった場合でも、装着状態にあるスペーサ4とクランプ5は自然落下せず、ボルト3に挿通されたままで留まる。
【0029】
以下、係止支持部13の組み付け方法を説明する。まず、車体の床下Uに設けられた孔に、荷室内からボルト3の軸部32を挿通し、頭部31を荷室内に残して軸部32を床下Uに吊り下げる。次に、スペーサ4にクランプ5を装着する。スペーサ4の側面に設けられた貫通孔41,41にクランプ5の嵌入部54,54が嵌入して両弧状部材51,52を閉じ、係合爪51aを係合部52aに係合させてクランプ5を閉じた状態でロックする。これにより、スペーサ4とクランプ5とは相対移動が規制され一体的な装着状態となる。次に、この装着状態となったスペーサ4とクランプ5を、車体の床下Uに吊り下げられたボルト3の軸部32に下から挿通していく。このとき、クランプ5の内側に突出する把持部55,55が斜め下方に向くように挿通する。把持部がボルト3の雄ねじ部32bを把持しながら通過している段階では、雄ねじ部32bにより把持部55,55が外側に撓ませられている。把持部55,55が雄ねじ部32bを通過し終えると、把持部55,55の撓みは元に戻り把持部55,55は被把持部32aを把持するようになる。このように把持部55,55の撓みが元に戻ると、把持部55,55がボルトの被把持部32aと雄ねじ部32bの間に形成された段差部32cに係止するため、一体的な装着状態にあるスペーサ4とクランプ5はボルト3の軸部32から脱落しない。最後にフック2の雌ねじ部をボルトの雄ねじ部32bに螺合する。以上のように係止支持部13が組みつけられる。
【0030】
この状態に引き続いて、スペアタイヤSの格納方法を説明する。図1に二点鎖線で示すようにスペアタイヤSをキャリア本体10(P2)のキャリア部11に保持させ、キャリア部11の引っ掛け部11bを係止支持部13のフック2に引っ掛ける。これにより係止支持部13は図3に示す状態となる。次に、係止支持部13のボルト3の頭部31を回転操作して、雄ねじ部32bと螺合するフック2を上げる。スペーサの上端と下端がそれぞれ車体の床面Bとフック2の上端に当接するまでボルト3を回転すると、係止支持部13は図2に示す締め上げ状態となり、もってキャリア本体10は図1のP1で示す格納状態となる。これによりスペアタイヤは車体の床下Uに格納される。スペアタイヤSの取り出し方法は、この格納方法を逆に行えばよい。
【0031】
以上に説明したスペアタイヤキャリア1によれば、次のような作用効果を奏することができる。スペアタイヤキャリア1は、キャリア本体10と、キャリア本体10を引っ掛けるフック2と、フック2と螺合するボルト3と、ボルト3に挿通されるスペーサ4と、スペーサ4の脱落を防止する脱落防止手段としてのクランプ5とを備えている。スペアタイヤSを取り出すためにキャリア本体10をフック2から外す場合において、ボルト3を回しすぎてボルト3と螺合していたフック2がボルト3から脱落しても、クランプ5によりスペーサ4がボルト3に挿通された状態が保持される。すなわち、クランプ5の把持部55,55がボルト3の軸部32に向かって斜め下方に突出しており、ボルト3の雄ねじ部32bの上端に形成された段差部32cに係止している。また、筒状のスペーサ4の側面に形成された貫通孔41の上部内周面41aがクランプ5の載置面54a,54aに載置されており、スペーサ4が載置面54a,54aによって上方向に支えられている。したがって、フック2がボルト3の軸部32から脱落した場合においても、スペーサ4がボルト3から脱落しない。
【0032】
なお、本発明に係るスペアタイヤキャリア1は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その他各種の形態で実施できるものである。上記のスペアタイヤキャリアはクランプ5の把持部55,55がクランプ5の軸線に関して対称な2箇所に設けられていた。しかし、これに限定されるものではなく、把持部の位置および数を適宜変更可能である。また、上記のスペアタイヤキャリアはスペーサの側面に貫通孔41,41が形成され、クランプ5の載置面54a,54aが貫通孔41,41の上部内周面41a,41aに載置される構成であった。しかし、この貫通孔41,41の構成に代え、スペーサ4の下端から上方へ延びるスリットの構成としても良い。このようなスリットの構成としても、貫通孔41,41と同様にスリットの上部内周面をクランプ5の載置面54a,54aに載置することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 スペアタイヤキャリア
10 キャリア本体
11 キャリア部
11a 回転支持部
11b 引っ掛け部
12 回転支持ブラケット
13 係止支持部
2 フック
21 雌ねじ部
22 鉤部
3 ボルト
31 頭部
32 軸部
32a 被把持部
32b 雄ねじ部
32c 段差部
4 スペーサ
41,41 貫通孔
41a,41a 上部内周面
41b,41b 下部内周面
5 クランプ
51 弧状部材
51a 係合爪
52 弧状部材
52a 係合部
53 ヒンジ部
54,54 嵌入部
54a,54a 載置面
54b,54b 係止面
55,55 把持部
B 床面(車体)
U 床下
RW 後輪
S スペアタイヤ
E 逃げ空間



【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体後部の床下にスペアタイヤを載置可能に配設されるキャリア本体の一端側が車体に回動可能に支持され、他端側が棒状の組立体として構成されたキャリア支持部により車体に支持され、該キャリア支持部を操作することによりスペアタイヤを床下に格納した格納状態とスペアタイヤを車体の外部へ取り出すことが可能な取り出し可能状態とに前記キャリア本体の回動位置を切り替えることのできるスペアタイヤキャリアであって、
前記キャリア支持部は、車体の床面から軸部が回転可能とされて垂下される長尺のボルトと、該ボルトの軸部の先端部位に螺合されキャリア本体の他端側を引っ掛けることのできる部位を有するフックと、筒形状に形成されて前記ボルトの軸部の根元側に挿通され該ボルトの軸部に螺合されるフックの螺合位置決めを行うスペーサとから成っており、
前記ボルトの軸部と該軸部に挿通されるスペーサとの間には、前記フックがボルトの軸部に螺合されていない状態でも、スペーサがボルトの軸部から自然落下するのを防止する脱落防止手段が設けられていることを特徴とするスペアタイヤキャリア。
【請求項2】
請求項1に記載のスペアタイヤキャリアであって、
前記ボルトの軸部とスペーサとの間に設けられる脱落防止手段は、ボルトの軸部が先端側に比べ根元側が小径とされた段差部が形成されており、スペーサには筒形状の内外に通じる貫通孔が形成されており、該貫通孔から内方に嵌入する嵌入部を有するクランプがスペーサの外周面に装着されており、該クランプの嵌入部には前記ボルトの軸部の段差部に係止される把持部が形成されて構成されており、スペーサに装着されるクランプの嵌入部によるボルトの段差部への係止によりスペーサの落下が防止されることを特徴とするスペアタイヤキャリア。
【請求項3】
請求項2に記載のスペアタイヤキャリアの脱落防止手段を構成するクランプであって、
該クランプは樹脂製とされており、前記スペーサの外周面を把持可能に二分割された弧状部材がヒンジ部により回動可能とされて連結されて構成されており、二分割された弧状部材の両他端部は該弧状部材のスペーサへの装着状態が維持できる係合手段により係合される構成とされており、かつ、弧状部材にはスペーサに形成された貫通孔に嵌入する把持部を先端に有する嵌入部が一体的に形成されていることを特徴とするクランプ。
【請求項4】
請求項3に記載のクランプであって、
前記スペーサの貫通孔に嵌入する嵌入部は、軸方向の上下に二個形成されておって前記貫通孔の上端及び下端に嵌合係止される構成とされており、前記ボルトの段差部に係止される把持部は上部位置の嵌入部から斜め下方に突出して形成された構成とされており、これによりクランプのスペーサへの装着状態でスペーサをボルトの軸部に先端部から挿通するときに把持部が撓んで挿通可能とされていることを特徴とするクランプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−206645(P2012−206645A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74848(P2011−74848)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000228981)日本スタッドウェルディング株式会社 (31)