説明

スポット抵抗溶接機

【課題】電極の着脱が容易であり、電極が短くなっても溶接品質が安定し、電極および溶接部への酸化物の付着や堆積を抑制できるスポット抵抗溶接機を得る。
【解決手段】相互に対接離反する一対の電極15,15Aで被溶接物5,5を挟んで加圧したのち、電極間に通電することにより該被溶接物を接合するスポット抵抗溶接機1は、少なくとも一方の電極の周囲空間Sを覆う筒状のカバー部材20を備えており、カバー部材20は、電極を支持する電極ホルダー10に電極と共に固定される固定カバー体21と、固定カバー体に被溶接物方向に移動可能に支持された移動カバー体25とから構成され、移動カバー体25は、固定カバー体21から離反するように圧縮バネ29により付勢され被溶接物に弾接するように構成されており、カバー部材20は、電極の先端部にエアー等のガスを噴射するガス噴射部25aを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット抵抗溶接機に係り、特に、溶接時に被溶接物の表面に付着・堆積する酸化物を除去するスポット抵抗溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスポット抵抗溶接機を用いた溶接方法としては、電極周囲にシールドガスを吹き付けて溶接性を向上させる技術がある(例えば、特許文献1参照)。この方法は、スポット抵抗溶接機の電極に覆いをつけ、電極との空間にシールドガスを流すことによって、ステンレス鋼板などのスポット溶接時の表面の酸化による変色等を防止している。また、電極の覆いに更にシールドガスを溜め、整流して流すような整流フィルタを取付けた機構を有するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−197976号公報
【特許文献2】特開2000−197977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記構造のスポット抵抗溶接機では、通常、スポット抵抗溶接法に用いる電極は、一般的に銅合金でできており、連続して打点していくことで溶接時に発生する高熱により電極先端が変形、破損していくため、溶接に必要な電流密度が確保できなくなって電極初期の溶接品質が得られなくなるのが一般である。従って、対象となる非溶接材料の材質、表面処理により差はあるものの、通常、数百打点〜数千打点ごとに電極を取り外し、ドレッシングをしたものを再度取付けて使用する。また、電極をドレッシングするということは、その都度、新品電極に比べて長さが短くなっていくことになる。
【0005】
前記のように、電極を着脱可能に支持するスポット抵抗溶接機に、電極の周囲にシールドガスを流すシールド装置を取付けた場合、電極交換時、かなりの手間がかかることになると共に、短くなった電極との位置関係を常に適正に保つことが困難になるという欠点がある。また、亜鉛メッキ鋼板のスポット抵抗溶接を行った場合は、溶接発熱により発生した酸化亜鉛粉が、電極および母材に付着していき、電極寿命の低下、母材の溶接・外観品質を低下させる原因となる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、電極で被溶接物を挟んで接合する際に、溶接部で形成される酸化物の電極、母材への付着を除去できるスポット抵抗溶接機を提供することにある。また、電極の着脱が容易であり、電極が短くなっても溶接品質が変わらないで安定しているスポット抵抗溶接機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明の請求項1に記載の発明によるスポット抵抗溶接機は、相互に対接離反する一対の電極で被溶接物を挟んで加圧したのち、前記電極間に通電することにより該被溶接物を接合するスポット抵抗溶接機であって、このスポット抵抗溶接機は、少なくとも一方の電極の周囲空間を覆う筒状のカバー部材を備えており、このカバー部材は、電極の先端部にガスを噴射するガス噴射部を備えていることを特徴とする。
【0008】
前記のごとく構成された本発明のスポット抵抗溶接機は、一対の電極で被溶接物を挟んで加圧し、両電極間に通電して被溶接物を溶接するとき、溶接接合部の高温状態で電極周囲に酸化物が生成されるが、筒状のカバー部材で覆われた電極の周囲空間に、ガスとして例えば圧縮エアーを噴射して生成された酸化物を吹き飛ばすため、溶接接合部への酸化物の付着や堆積を防止して、品質を高めることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によるスポット抵抗溶接機は、前記カバー部材は、前記電極を支持する電極ホルダーに前記電極と共に固定される固定カバー体と、該固定カバー体に被溶接物方向に移動可能に支持された移動カバー体とから構成され、前記移動カバー体は、前記固定カバー体から離反するように付勢され、被溶接物に弾接することを特徴とする。このように構成されたスポット抵抗溶接機は、電極の周囲空間を覆うカバー部材の移動カバー体が被溶接物に弾接して電極の周囲空間を確実に覆い、カバー部材の内部に例えば圧縮エアーを噴射させて溶接時に生成された酸化物を吹き飛ばすため、電極や被溶接物への酸化物の付着、堆積を確実に防止することができる。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明によるスポット抵抗溶接機は、前記移動カバー体は、二重の筒体から構成され、二重の筒体の対向する内面に螺旋状の溝又は突部が形成されており、前記ガス噴射部は、前記二重の筒体同士の中間の空間に接続されるガス供給通路を備え、前記ガスは螺旋状の溝又は突部により旋回流が形成されることを特徴としている。このように構成されたスポット抵抗溶接機は、二重の筒体同士の中間の空間に圧縮エアー等のガスが噴射され、螺旋状の溝又は突部により旋回流が発生し、この旋回流により生成された酸化物が堆積せずに吹き飛ばされるため、被溶接物母材の表面状態を良好にすることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明によるスポット抵抗溶接機は、前記移動カバー体は、前記被溶接物との対接面にガス排気口が均等な間隔で形成されていることを特徴としている。このように構成されたスポット抵抗溶接機は、溶接時に生成された酸化物は圧縮エアー等のガスで吹き飛ばされ、被溶接物と対接する移動カバー体の対接面に均等な間隔で形成された排気口から排出されるため、電極周辺の周囲空間内に残留せず、溶接部周辺の汚損を防止することができる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明によるスポット抵抗溶接機は、前記固定カバー体は、前記電極ホルダーとの間に空隙が形成され、該空隙にクサビ状の電極交換治具を挿入することで、前記電極と前記固定カバー体とを電極ホルダーから取り外し可能であることを特徴としている。このように構成されたスポット抵抗溶接機は、クサビ状の電極交換治具を用いて固定カバー体を取り外すと、同時に電極も電極ホルダーから外すことができ、電極の取り外しや、ドレッシング後の電極の取付けが容易に行える。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスポット抵抗溶接機は、一対の電極間に被溶接物を挟んで加圧し、電極間に通電して被溶接物を接合するとき、接合部付近の高温状態により酸化物が生成されるが、電極の周囲空間を覆うカバー部材の内部に圧縮エアー等のガスを噴射して酸化物を吹き飛ばすため、溶接接合部の周辺への酸化物の付着を防止し、接合部の品質を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るスポット抵抗溶接機の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るスポット抵抗溶接機の断面図、図2(a)は、電極部の電極ホルダーの分解した状態を示す正面図、図2(b)は、電極部の電極ホルダーの結合した状態を示す正面図、図3(a)は固定カバー体の斜視図、図3(b)は移動カバー体の内側筒体と外側筒体を分解した状態の斜視図、図4(a)は固定カバー体の平面図、(b)はその正面図、(c)はその側面図、図5(a)は内側筒体の平面図、図5(b)はその断面図、図5(c)は外側筒体の平面図、図5(d)はその断面図である。
【0015】
図1において、スポット抵抗溶接機1は、ベース2に対して上下動可能のヘッド3を備えている。ベース2の上部には電極ホルダー10Aが固定され、この電極ホルダーに下方の電極15Aが固定されている。また、ヘッド3の下部には電極ホルダー10が固定され、この電極ホルダーに上方の電極15が固定されている。そして、電極15,15Aは相互に接近できると共に、離反できるように構成されている。
【0016】
スポット抵抗溶接機1は、相互に対接離反する上下一対の電極15,15Aで被溶接物を挟んで加圧したのち、電極15,15A間に通電することにより該被溶接物を接合するように構成されている。すなわち、被溶接物である金属板材5,5を重ねて電極同士で挟んで加圧し、電極間に溶接電流を流してスポット状の溶着部(ナゲット)を形成し、両者を溶接接合するものである。
【0017】
上下の電極ホルダー10,10Aおよび電極15,15Aは、略同一構成であり、上下反転した構成であるので、その一方の電極部について詳細に説明し、他方の電極部については符号に「A」を付して説明を省略する。上方の電極部はヘッド3に固定される電極ホルダー10と、この電極ホルダーに支持される電極15と、本願の発明の特徴構成であるカバー部材20と、後述するガス噴射部とを備えている。
【0018】
電極15を支持固定する電極ホルダー10は、図2に示すように、基部11と支持軸部12とから構成され、上方の基部11は上下動可能のヘッド3に固定され、下方の基部11Aはベース2に固定されている。そして、支持軸部12の先端部は凸テーパ面13に形成され、電極15には支持軸部の凸テーパ面と同じ傾斜角度の凹テーパ面16が形成されている。したがって、支持軸部12の凸テーパ面13を電極15の凹テーパ面16に圧入することで凸テーパ面と凹テーパ面とが密着して嵌合し、電極ホルダー10に電極15が固定される構造となっている。
【0019】
電極15は、クロム銅製であり、電極ホルダー10の支持軸部12より大きい外径の円柱状をしており、先端側が傾斜面で小径に形成されている。電極15が電極ホルダー10に連結固定された状態では、電極15と電極ホルダー10の基部11との間に、図2(b)に示す小径の段差部14が形成される。そして、この段差部14に電極15の周囲空間Sを覆う筒状のカバー部材20の固定カバー体21が支持され、電極ホルダー10に電極15と共締めされる構成となっている。
【0020】
カバー部材20は、図1〜4に示すように、上方の電極15の周囲空間を覆うように筒状の形状をしており、電極ホルダー10に固定される固定カバー体21と、この固定カバー体に被溶接物方向に移動可能に支持された移動カバー体25とから二重の筒体として構成されている。そして、移動カバー体25が被溶接物に対接するように構成されている。固定カバー体21および移動カバー体25は、非導電性のエンジニアリングプラスチック等で形成されている。なお、被溶接物に接触する移動カバー体は非導電性の材料で形成する必要があるが、固定カバー体は金属等の導電性の材料で形成してもよい。
【0021】
ここで、固定カバー体21,21Aについて説明する。上方の固定カバー体21は有底円筒状の筒状体を上下反転させた形状をしており、その下端に外方に突出する大径のフランジ部22が形成されている。円筒部21aの直径はd1に設定されており、フランジ部22の直径はd2に設定されている。そして、筒状体の上部には貫通孔23が形成され、この貫通孔の上部側部に平行対辺により2つの段差部24,24が形成されている。この段差部は、後述する電極交換治具が挿入される空隙を構成する。貫通孔23の直径は、電極ホルダー10の支持軸部12が挿入されるべく、支持軸の直径より僅かに大きく設定されている。また、段差部24,24を形成する平行対辺の幅は筒状体の外径より小さい幅wに形成されている。
【0022】
移動カバー体25,25Aは、電極15,15Aの周囲空間を覆うように基本的には筒状に形成され、本実施形態では二重の筒体から構成されている。上方の移動カバー体25は内側筒体26と外側筒体27から構成され、電極の先端部にガスを噴射するガス噴射部を備えている。内側筒体26は、有底円筒状で中央には固定カバー体21の円筒部21aが緩く嵌合できる貫通孔26aが形成されている。すなわち、貫通孔26aの直径d3は、固定カバー体21の円筒部の直径d1より大きく設定されている。内側筒体26の上端から外周側に延出するフランジ部26bには段差が形成され、図3(b)に示されるように外側筒体27を矢印Yのように移動させると、外側筒体27の上端が段差に嵌合して一体化され、二重の筒体を構成する。嵌合部分は圧入で結合されていても、接着で結合されてもよい。また、エンジニアリングプラスチックで一体に形成してもよい。
【0023】
外側筒体27の下端部は内方に延出し、被溶接物に対接する平坦な対接面27aとなっている。この対接面は平坦面で形成され、平坦面から窪んだ複数の凹部27bが均等な間隔(例えば90度)で形成され、平坦な対接面と被溶接物とが対接しているとき、筒状のカバー部材20内に噴射された圧縮エアー等のガスが排出されるガス排気口を構成している。内側筒体26の下端部は外側筒体27の対接面と徐々に接近するような傾斜面26cとなっており、この傾斜面26cと対接面27aとの間隙が圧縮エアー等のガス噴射部25a(図1参照)を構成する。ガス噴射部25aは、電極の先端と被溶接物との接触面に向いていることが好ましい。傾斜面26cと対接面27aの直径は、固定カバー体21のフランジ部22の直径より大きい直径d4(図5参照)に設定されており、固定カバー体21が通過でき移動カバー体25の内部に嵌合できる構成となっている。
【0024】
この構成により、固定カバー体21は移動カバー体25の下方開口より挿入でき、固定カバー体21のフランジ部22が移動カバー体25の貫通孔26aに係合する構成となっている。すなわち、固定カバー体21に移動カバー体25が引っ掛かる構成となっている。そして、固定カバー体21に移動カバー体25が係合した状態では、移動カバー体25の下端面(対接面27a)は、電極15より下方に突出している(図1参照)。
【0025】
カバー部材20を構成する移動カバー体25の側面には、電極15の周囲空間Sに圧縮エアー等のガスを供給し、電極15の先端部に圧縮エアー等のガスを噴射する通気パイプ28aが接続されており、この通気パイプ28aにガス供給ホース28が連結されている。そして、ガス供給ホース28の端部にはカバー部材20の周囲空間に圧縮エアー等のガスを供給するガス供給源(図示せず)が接続されている。圧縮エアーの代わりに、二酸化炭素、窒素等を用いてもよく、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることもでき、その圧力は、0.3MPa以上の高圧が好ましい。
【0026】
移動カバー体25は前記のように内側筒体26と外側筒体27により二重の筒体で構成され、圧縮エアーを供給するホース28は二重の筒体同士の間の空間に噴射されるように、外側筒体27に接続されている。そして、二重の筒体同士の中間の空間、すなわち、内側筒体26の外周面には、螺旋状の突部26dが形成されている。この突部の断面は先端が尖った三角形状をしている。この螺旋状の突部26dにより、空間内に噴射された圧縮エアーは螺旋に沿って旋回し、圧縮エアーの旋回流が形成され、噴射部25aから噴射される構成となっている。なお、突部の断面形状は四角形や半円形等、適宜の形状を用いることができる。また、螺旋状の突部の代わりに螺旋状の溝を形成しても旋回流を形成することができる。さらに、螺旋状の突部や溝を外側筒体の内周面に形成してもよく、二重の筒体同士の内面の少なくとも一方に形成すればよい。
【0027】
移動カバー体25の上面と電極ホルダー10の基部11の下面との間には圧縮コイルばね29が装着され、固定カバー体21に対して移動カバー体25を下方に付勢している。また、下方の圧縮ばね29Aは、移動カバー体25Aを上方に付勢している。この構成により、溶接時には移動カバー体25,25Aは被溶接物5,5に弾接し、被溶接物と移動カバー体25,25Aとが密着するように構成されている。
【0028】
ここで、電極ホルダー10から電極15を取り外す電極交換治具30について図6を参照して説明する。電極交換治具30は、金属製のクサビ状の板材から構成され、肉薄部から肉厚部に向けて切り込まれた切欠き部31により、二股の挿入爪32,32が形成されている。肉厚部の厚さは、この治具30が挿入される固定カバー体21の段差部24の高さより大きく設定されている。二股の挿入爪の間隔Dは、固定カバー体21の段差部24,24の幅wより僅かに大きく設定され、挿入爪の全幅は固定カバー体21の筒状部の外径より大きく設定されている。したがって、この電極交換治具30は、固定カバー体21の段差部24,24に沿わせて、電極ホルダー10,10Aの基部11,11Aと固定カバー体21,21Aとの間に、肉厚の薄い挿入爪32,32側から挿入することができる構成となっている。
【0029】
前記の如く構成された本実施形態のスポット抵抗溶接機1の動作について、図7を参照して以下に説明する。被溶接物として2枚の金属板材5,5をスポット溶接して接合するときは、対向する電極部間に金属板材を重ねて配置する。そして、ヘッド3を下方に移動させて上下の電極15,15Aに金属板材を挟み、加圧する。このとき、電極より突出している移動カバー体25は最初に金属板材5に接触する。そして、ヘッド3の下降に伴い圧縮ばね29,29Aは圧縮され、下方の移動カバー体25Aは下降し、上方の移動カバー体25は上昇して、それぞれ金属板材に弾接して、隙間の無いように密着する。
【0030】
このようにして、上下の電極15,15Aで金属板材5,5を加圧した状態で、ガス供給ホース28,28Aを通して電極の周囲空間S,Sに圧縮エアーを供給する。圧縮エアーの流量は1リットル/分程度が好ましい。供給された圧縮エアーは移動カバー体25,25Aの内側筒体26と外側筒体27との間を流れ、螺旋状の突部26dによりエアーの旋回流が形成される。そして、この旋回流が内側筒体26の傾斜面26cと外側筒体27の対接面との間のガス噴射部25aから、矢印Fのように電極15,15Aの先端部に噴射され、周囲空間S内に充満するとガス排気口である凹部27bから徐々に排出される。このように、圧縮エアーを供給しながら、電極15,15A間に溶接電流を流すと、2枚の金属板材5,5同士の接触面が抵抗発熱し、ナゲット5aと呼ばれる溶着部が成長して溶接が完了する。
【0031】
溶接中は、ナゲット5aは母材の溶融温度にまで温度上昇するため、当然母材表面および電極も相当な温度上昇となる。そのため高温に熱された母材表面が大気中の酸素と反応して、母材がステンレス材の場合は、表面の焼け跡が付き易くなり、メッキ材の場合は、酸化物が表面に生成することになる。しかしながら、本実施形態では、この溶着時に、電極の周囲空間S,Sは圧縮エアーで満たされ、電極の先端部に旋回流で圧縮エアーが噴射されており、溶接中の電極および母材の発熱部周辺に酸化物が生成されると、この酸化物が付着・堆積するのを防止する。吹き飛ばされた酸化物は、凹部27bを通してカバー部材20の外側に排出される。このため、電極周辺での酸化物の付着がなくなり、溶接の品質を高めることができる。すなわち、電極への酸化物の付着・堆積が激減し、また母材表面の酸化物による汚れも激減させることができる。特に、円柱状の電極15,15Aの外周に、圧縮エアーの旋回流を形成して酸化物を吹き飛ばすため、効率良く酸化物の付着や堆積を防止することができる。
【0032】
スポット溶接完了後、ヘッド3を上方に移動して電極15,15Aの加圧を解放すると、カバー部材20,20Aの移動カバー体25,25Aは圧縮ばね29,29Aの復元力で元の状態に戻り、電極15,15Aの先端より突出する。そして、被溶接物である金属板材5,5はナゲット5a部分で、酸化物の付着しない状態で品質よく溶接接合される。
【0033】
電極15,15Aはスポット溶接で一定の打点数を行うと交換する必要があるが、本実施形態のスポット抵抗溶接機では、電極を取り外して電極の先端を切削して形状を初期の状態に整えることにより再利用することができる。電極を何度も切削すると、新品時の長さから、段々短くなっていくが、本実施形態では短くなった電極15,15Aを電極ホルダー10,10Aに取付けても、移動カバー体25,25Aが圧縮ばね29,29Aにより被溶接物5,5に弾接するため、常に電極先端とカバー部材の移動カバー体の先端の位置関係は一定に保つことができる。この構成により、電極の長短にかかわらず、溶接品質が安定する。
【0034】
つぎに、図8,9を参照して電極の取り外し動作について説明する。スポット抵抗溶接機1を用いて被溶接物をスポット溶接し、その打点数が所定回数を超えると、電極15,15Aが消耗し、溶接の品質が低下するおそれが増加する。その場合、電極15,15Aを、電極交換治具30を用いて取り外す。上下の電極の電極ホルダーからの取り外しは同じ操作で行うため、上方の電極15の取り外しについて以下に説明する。
【0035】
電極15を電極ホルダー10から外すときは、カバー部材20を構成する固定カバー体21の段差部24,24の平行対辺に沿って、電極交換治具30の挿入爪32,32を肉薄の先端部から挿入する。このとき、固定カバー体21の外周に位置する圧縮ばね29は下方に密着させておくと好都合である。電極交換治具30を挿入していくと、肉厚になるに伴って上面は電極ホルダー10の基部11に接触し、下面は段差部24,24の水平面に接触して停止する。
【0036】
ここで、電極交換治具30の肉厚の最も大きい端部を、ハンマー等で押圧すると、挿入爪32,32の上下面で電極ホルダーの基部11と、固定カバー体21の段差部24,24とを押し広げようとする圧力が作用する。この圧力により、電極ホルダーの支持軸部12の凸テーパ面13と電極15の凹テーパ面16との圧入が解かれ、電極ホルダー10から電極15を取り外すことができる。電極15を外すと、段差部14の小径部分の共締めされている固定カバー体21がフリーの状態となり、移動カバー体25と共にカバー部材20を容易に外すことができる。
【0037】
取り外された電極15は研磨等の処理により所望の形状に復元され、若干短くなることもあるが、再び電極ホルダー10に取付けられる。電極15を取付けるときは、固定カバー体21と移動カバー体25とを組み合わせた状態、すなわち、移動カバー体25の下方開口より固定カバー体21を挿入し、固定カバー体21を上部に突出させた状態で貫通孔23に支持軸部12を挿入し、移動カバー体25の下方から電極15を支持軸部12に外嵌する。そして、電極15を下方からハンマー等で叩くと、電極の凹テーパ面16と支持軸部12の凸テーパ面とが密着して結合される。このように、電極15の電極ホルダー10への取付け、およびカバー部材20の取付けが極めて容易に行える。なお、電極15の電極ホルダー10への取付けは、前記のハンマーによる叩き込みに限られるものでなく、スポットガンを通電せずに空打ちして電極を加圧し、電極ホルダーに嵌め込むようにしてもよい。
【0038】
電極15,15Aが研磨等で短くなっても、電極の周囲空間Sを覆うカバー部材20の移動カバー体25は所定の範囲で上下動が可能であり、被溶接物5,5に弾接することができるため、溶接時に電極の周囲空間Sを覆って、電極先端部へ圧縮エアー等のガスを噴射することで被溶接物への酸化物の付着や堆積を確実に抑制することができる。この結果、溶接品質を高めることができ、表面の焼け跡の付着の抑制や、酸化物による汚れを減らすこともできる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、対向する電極の一方の電極の周囲空間をカバー部材で覆い、他方の電極の周囲空間はカバー部材で覆わない構成としても、従来のスポット抵抗溶接機と比較して酸化物の付着、堆積を抑制することができ、溶接品質を向上させることができる。
【0040】
また、カバー部材の形状は、円柱状の電極に合わせて、筒状の形状としたが、この形状に限られるものでなく、角柱状や、半球状等、適宜の形状とすることもできる。さらに、電極交換治具のクサビ状の先端角度は、挿入される電極ホルダーとの間に空隙に合わせて適宜設定できることは勿論である。
【0041】
さらに、カバー部材を二重の筒状でなく、一重の筒状体で構成し、圧縮エアー等のガスを供給するホース等の供給通路を、電極の先端部に向けて筒状体の外周の複数個所に固定し、溶接の際に生成される酸化物を、複数のホースから噴射されるガスで除去するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の活用例として、このスポット抵抗溶接機を用いて各種の金属からなる被溶接物のスポット溶接ができ、建築分野、機械分野の他、あらゆる分野の金属のスポット溶接の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るスポット抵抗溶接機の一実施形態の電極部の要部断面図。
【図2】図1の電極部の電極ホルダーと電極とを示し、(a)は分解した状態を示す正面図、(b)は結合した状態の正面図。
【図3】図1の電極部の周囲空間を覆うカバー部材を示し、(a)は固定カバー体の斜視図、(b)は移動カバー体の内側筒体と外側筒体を分解した状態の斜視図。
【図4】固定カバー体を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図。
【図5】(a)は内側筒体の平面図、(b)はその断面図、(c)は外側筒体の平面図、(d)はその断面図。
【図6】電極の電極交換治具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図7】図1のスポット抵抗溶接機の動作を示す要部断面図。
【図8】電極の電極交換治具の動作を示す要部平面図。
【図9】電極の電極交換治具の動作を示す要部正面図。
【符号の説明】
【0044】
1:スポット抵抗溶接機、2:ベース、3:ヘッド、5:金属板材(被溶接物)、5a:ナゲット(溶着部)、10,10A:電極ホルダー、11,11A:基部、12,12A:支持軸部、13:凸テーパ面、14:段差部、15,15A:電極、16:凹テーパ面、20,20A:カバー部材、21,21A:固定カバー体、22:フランジ部、23:貫通孔、24:段差部(空隙)、25,25A:移動カバー体、25a:ガス噴射部、26:内側筒体、26a:貫通孔、27:外側筒体、27a:対接面、27b:凹部(ガス排気口)、28,28A:ガス供給ホース、29,29A:圧縮ばね、30:電極交換治具、S:電極の周囲空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に対接離反する一対の電極で被溶接物を挟んで加圧したのち、前記電極間に通電することにより該被溶接物を接合するスポット抵抗溶接機であって、
該スポット抵抗溶接機は、少なくとも一方の電極の周囲空間を覆う筒状のカバー部材を備えており、
該カバー部材は、前記電極の先端部にガスを噴射するガス噴射部を備えていることを特徴とするスポット抵抗溶接機。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記電極を支持する電極ホルダーに前記電極と共に固定される固定カバー体と、該固定カバー体に被溶接物方向に移動可能に支持された移動カバー体とから構成され、
前記移動カバー体は、前記固定カバー体から離反するように付勢され、被溶接物に弾接することを特徴とする請求項1に記載のスポット抵抗溶接機。
【請求項3】
前記移動カバー体は、二重の筒体から構成され、該二重の筒体の対向する内面に螺旋状の溝又は突部が形成されており、前記ガス噴射部は、前記二重の筒体同士の中間の空間に接続されるガス供給通路を備え、前記ガスは前記螺旋状の溝又は突部により旋回流が形成されることを特徴とする請求項2に記載のスポット抵抗溶接機。
【請求項4】
前記移動カバー体は、前記被溶接物との対接面にガス排気口が均等な間隔で形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のスポット抵抗溶接機。
【請求項5】
前記固定カバー体は、前記電極ホルダーとの間に空隙が形成され、該空隙にクサビ状の電極交換治具を挿入することで、前記電極と前記固定カバー体とを電極ホルダーから取り外し可能であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のスポット抵抗溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−107000(P2009−107000A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283907(P2007−283907)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】