説明

スポット溶接用キャップチップ取外工具

【課題】キャップチップをシャンクから取り外す際に、キャップチップやシャンクに傷つかず、欠損することが無いスポット溶接用キャップチップ取外工具を提供する。
【解決手段】把持部1と、把持部1の先端に設けられ、U字状の差込部2aが先端から切欠形成された本体部2と、差込部2aから退避した開位置から差込部2aを横切る閉位置まで回動可能に本体部2取り付けられ、円弧状の切欠部3aが切欠形成された板状の回動部材3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接機やスポット溶接ガンの先端部に嵌合されたキャップチップを簡単に取り外すことができるスポット溶接用キャップチップ取外工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属部材の溶接手段のひとつとして、金属部材をキャップチップで圧着しつつ、キャップチップ間で電流を流し、その電気抵抗熱で金属を溶かして接合するスポット溶接が広く利用されている。このようなスポット溶接では、先端にキャップチップ91が嵌合させてあるシャンク92(図5に示す)を有するスポット溶接機により行われる。キャップチップ91の基部には、奥に向かって徐々に内径が小さくなるテーパー面を有する嵌合部91aが凹陥形成されている。シャンク92の先端には、先端に向かって徐々に外径が小さくなるテーパー取付部92aが形成されている。キャップチップ91の嵌合部91aがシャンク92のテーパー取付部92aに嵌合されることにより、キャップチップ91がシャンク92に取り付けられている。なお、テーパー取付部92aの基端には、シャンク92の軸線方向と直交する平面である当接部92bが形成されている。
【0003】
長時間使用していると、キャップチップ91の先端形状が変形・摩耗し、また、キャップチップ91の表面に被溶接物が溶着するため、良好な溶接の継続ができなくなる。そのため打点数が一定以上に達した場合には、定期的にキャップチップ91をシャンク92から取り外して、新品のキャップチップ91に交換するか、或いは、キャップチップ整形装置でキャップチップ91の先端面を切削して先端形状を確保していた。
【0004】
最近では被溶接材が化学処理剤により防錆処理等が施されているものが多いため、キャップチップ91の損耗が早く、交換頻度が増える傾向がある。キャップチップ91の交換に時間がかかると、生産効率が低下してしまう。そこで、迅速にキャップチップ91を交換することができるように、特許文献1に示されるように、キャップチップ91の基端91bとシャンク92の当接面92bとの隙間に、二股状のレバーを差し込み、梃子の原理の応用でキャップチップ91をシャンク92から取り外すスポット溶接用キャップチップ取外工具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−123565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されるスポット溶接用キャップチップ取外工具を使用してキャップチップ91を取り外す場合には、二股状のレバーとキャップチップ91の基端91bとシャンク92の当接面92bとの間のクリアランスが大きく、キャップチップ91を取り外す際のスポット溶接用キャップチップ取外工具の作用角が大きくなり、また、二股状のレバーの底部しかキャップチップ91の基端91b及びシャンク92の当接面92bが当接しないため、キャップチップ91の基端91bやシャンク92の当接面92bが、傷ついたり、欠損したりしてしまうという問題があった。キャップチップ91の基端91bが傷付いた場合には、キャップチップ整形装置の搬送路の途中で、キャップチップ91が詰まってしまい、キャップチップ整形装置が停止してしまうという問題が生じてしまう。また、シャンク92の当接面92bが欠損した場合には、キャップチップ91を取り外す際に、キャップチップ取り外し工具が、当接面92bに引っかからず、キャップチップ91をシャンク92から取り外せなくなってしまうという問題が生じてしまう。
本発明は、上記問題を解決し、キャップチップをシャンクから取り外す際に、キャップチップやシャンクに傷つかず、欠損することが無いスポット溶接用キャップチップ取外工具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、
把持部と、
把持部の先端に設けられ、U字状の差込部が先端から切欠形成された本体部と、
前記差込部から退避した開位置から前記差込部を横切る閉位置まで回動可能に前記本体部に取り付けられ、円弧状の切欠部が切欠形成された板状の回動部材とを有し、
前記回動部材が閉位置にある状態では、前記差込部の底部と前記切欠部により円形状の閉空間が形成されるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
回動部材を本体部に着脱自在に取り付けたことを特徴とする。
これにより、キャップチップの基端とシャンクの当接面の離間寸法に対応する厚さの回動部材に交換することにより、キャップチップの基端及びシャンクの当接面と差込部及び切欠部とのクリアランスを小さくすることが可能となり、キャップチップやシャンクの形状やサイズが異なる場合であっても、差込部の底部及び切欠部とキャップチップの基端とシャンクの当接面との角度が小さい状態で、キャップチップをシャンクから取り外すことができるので、キャップチップの基端やシャンク当接面に傷が付くことや、欠損することが、より防止される。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、
回動部材の開位置以上の回動を防止する第1のストッパー部材と、回動部材の閉位置以上の回動を防止する第2のストッパー部材が、本体部に取り付けられていることを特徴とする。
これにより、回動部材が閉位置や開位置以上に回動されることが防止され、操作性が向上する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、
回動部材の可動軌跡上の本体部に回動部材の下面と接触する摩擦部材が取り付けられていることを特徴とする。
これにより、回動部材が不用意に本体部に対して回動されることが防止され、操作性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、U字状の差込部が先端から切欠形成された本体部と、前記差込部から退避した開位置から前記差込部を横切る閉位置まで回動可能に前記本体部に取り付けられ、円弧状の切欠部が切欠形成された板状の回動部材とを有し、前記回動部材が閉位置にある状態では、前記差込部の底部と前記切欠部により円形状の閉空間が形成されるように構成されているので、回動部材が閉位置にある状態では、回動部材の切欠部がキャップチップの基端とシャンクの当接面との間に入り込み、キャップチップの基端とシャンクの当接面及び差込部及び切欠部とのクリアランスが小さくなるので、差込部や切欠部とキャップチップの基端やシャンクの当接面との角度が小さい状態で、キャップチップがシャンクから取り外されるので、キャップチップの基端やシャンク当接面に傷が付かず、欠損することが無い。
また、シャンクのテーパー取付部が、差込部の底部と切欠部で取り囲まれているので、キャップチップの基端及びシャンクの当接面と、差込部の底部及び切欠部との接触面積が大きく、応力集中が起こらないので、キャップチップの基端やシャンクの当接面に傷が付かず、欠損することが無い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態を示すスポット溶接用キャップチップ取外工具の上面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB矢視図である。
【図4】キャップチップの取外状態を示した説明図である。
【図5】キャップチップがシャンクに取り付けられた状態を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明のキャップチップの取外工具の構造の説明)
以下に図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施の形態を示す。図1〜図3に示されるように、本発明のスポット溶接用キャップチップ取外工具10は、主に、把持部1、本体部2、回動部材3とから構成されている。把持部1は、図に示される実施形態では、棒状であるが、これに限定されず板状であっても差し支えない。
【0014】
把持部1の先端に本体部2が取り付けられている。本実施形態では、本体部2は板状である。本体部2には、その先端からU字状に切り欠かれた差込部2aが切欠形成されている。言い換えると、本体部2は差込部2aにより二股状になっている。差込部2aの幅は、シャンク92のテーパー取付部92aの幅よりも大きくなっている。差込部2aの外縁の厚さは、キャップチップ91の基端91bとシャンク92の当接面92bとの離間寸法よりも小さくなっている。このため、図2や図3に示されるように、差込部2aに、シャンク92のテーパー取付部92aを差し込むことができるようになっている。差込部2aの幅は、キャップチップ91の基端91bやシャンク92の当接面92bの幅よりも小さくなっている。このため、差込部2aの底部の外縁の当接部2bが、キャップチップ91の基端91bやシャンク92の当接面92bに当接する。
【0015】
図1に示されるように、本体部2には、回動部材3が回動可能に取り付けられている。回動部材3は、縦長の長方形板状である。回動部材3の先端側の側部には、円弧状(半円状)に切り欠かれた切欠部3aが切欠形成されている。切欠部3aは、シャンク92のテーパー取付部92aの外縁と対応した形状となっている。回動部材3の基端側は、直角に折り曲げられて、操作部3bが形成されている。作業者は、操作部3bを操作することにより、回動部材3を容易に回動させることができる。回動部材3は、差込部2aから退避した開位置(図1の(A)の状態)から、差込部2aを横切る閉位置(図1の(B)の状態)まで回動可能となっている。図1の(B)に示されるように、回動部材3が閉位置にある状態では、本体部2の差込部2aの底部と回動部材3の切欠部3aが合致して円形状の閉空間が形成される。なお、本実施形態では、回動部材3はボルトである軸部材4とナットにより本体部2に回動可能に着脱自在に取り付けられている。このように回動部材3を本体部2に対して着脱自在に取り付けているので、厚さの異なる回動部材3に交換することにより、キャップチップ91の基端91bとシャンク92の当接面92bとの離間寸法が異なるキャップチップ91及びシャンク92に対応させることができる。
【0016】
図1や図3に示されるように、本体部2には、第1のストッパー部材5及び第2のストッパー部材6が取り付けられている。第1のストッパー部材5は、差込部2aの底部近傍の回動部材3の退避側に取り付けられている。回動部材3の基端側側方部分が第1のストッパー部材5がと当接して、回動部材3の開位置以上の回動が防止される。第2のストッパー部材6は差込部2aの底部近傍の回動部材3の退避側と反対側に取り付けられている。回動部材3の先端側側方部分が第2のストッパー部材6と当接して、回動部材3の閉位置以上の回動が防止される。
【0017】
図1や図3に示されるように、本体部2には、摩擦部材7が取り付けられている。摩擦部材7の取り付け位置は、図1に示されるように、回動部材3の可動軌跡上であり、且つ、回動部材3の回動位置に関わらず回動部材3の下方にある位置である。このため、摩擦部材7が回動部材3と常時接触し、不用意に回動部材3が回動しないようになっている。本実施形態では、摩擦部材7は回動部材3側に付勢され回動部材3と接触するボール7aを有するボールプランジャーである。図1の(B)に示されるように、回動部材3が閉位置にある状態では、ボールプランジャーのボール7aが、回動部材3の基端側側部から突出し、回動部材3の開位置方向への回動が抑止される。この状態では、回動部材3の先端側側部が第2のストッパー部材6に当接し、回動部材3が閉状態以上の回動が防止される。つまり、回動部材3を閉位置に回動させると、回動部材3が節度感をもって閉位置で固定され、不用意に回動部材3が開位置方向に回動しないようになっている。
【0018】
(本発明のキャップチップの取外工具の使用方法の説明)
図1に示されるように、回動部材3を開位置状態にして、シャンク92のテーパー取付部92aが差込部2aの底部と当接するまで差し込ませる。この状態で、回動部材3を閉状態まで回動させる(図1の(B)の状態)。この状態では、差込部2aの底部と切欠部3aにより円形状の閉空間が形成され、シャンク92のテーパー取付部92aが、差込部2aの底部と切欠部3aで取り囲まれている。この状態で、把持部1を上側又は下側に移動させて、スポット溶接用キャップチップ取外工具10を傾けると、シャンク92のテーパー取付部92aからキャップチップ91が取り外される。図4に示されるように、把持部1を下側に移動させた場合には、力点101(把持部1)と支点102(差込部2aの底部)間の距離Aのほうが、支点102と作用点103間の距離Bよりも大幅に長いので、小さい力でキャップチップ91をシャンク92から取り外すことが可能となる。
また、本発明では、回動部材103を本体部102に回動可能に取り付け、シャンク92のテーパー取付部92aが、差込部2aの底部と切欠部3aで取り囲まれた状態で、キャップチップ91がシャンク92から取り外されるので、力点101、支点102、作用点103が一直線状に有り、効率良く作用点103に力を作用させることが可能となる。
【0019】
本発明では、図2に示されるように、回動部材3が閉位置にある状態では、回動部材3の切欠部3aがキャップチップ91の基端91bとシャンク92の当接面92bとの間に入り込み、基端91b及び当接面92bと差込部2a及び差込部2a及び切欠部3aとのクリアランスが小さく、差込部2aや切欠部3aと基端91bや当接面92bとの角度が小さい状態で、キャップチップ91がシャンク92から取り外されるので、キャップチップ91の基端91bやシャンク92の当接面92bに傷が付かず、欠損することが無い。本実施形態では、回動部材3が本体部2に着脱自在に取り付けられているので、基端91bと当接面92bの離間寸法に対応する厚さの回動部材3に交換することにより、基端91b及び当接面92bと差込部2a及び切欠部3aとのクリアランスを小さくすることが可能となっている。
【0020】
本発明では、シャンク92のテーパー取付部92aが、差込部2aの底部と切欠部3aで取り囲まれているので、キャップチップ91の基端91b及びシャンク92の当接面92bと、差込部2aの底部及び切欠部3aとの接触面積が大きく、応力集中が起こらないので、キャップチップ91の基端91bやシャンク92の当接面92bに傷が付かず、欠損することが無い。
【0021】
以上説明した実施形態では、把持部1と本体部2は別体であるが、把持部1と本体部2が一体に形成されたスポット溶接用キャップチップ取外工具10であっても差し支えない。
以上説明した実施形態では、本体部2は板状であるが、ブロック状の本体部2であっても差し支えない。この場合には、切欠部2aの縁部には、キャップチップ91の基端91bとシャンク92の当接面92bとの間に入り込む板状の当接部が形成されている。
【0022】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うスポット溶接用キャップチップ取外工具もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0023】
1 把持部
2 本体部
2a 差込部
3 回動部材
3a 切欠部
3b 操作部
4 軸部材
5 第1のストッパー部材
6 第2のストッパー部材
7 摩擦部材
7a ボール
10 スポット溶接用キャップチップ取外工具
91 キャップチップ
91a 嵌合部
91b 基端
92 シャンク
92a テーパー取付部
92b 当接部
101 力点
102 支点
103 作用点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部と、
把持部の先端に設けられ、U字状の差込部が先端から切欠形成された本体部と、
前記差込部から退避した開位置から前記差込部を横切る閉位置まで回動可能に前記本体部に取り付けられ、円弧状の切欠部が切欠形成された板状の回動部材とを有し、
前記回動部材が閉位置にある状態では、前記差込部の底部と前記切欠部により円形状の閉空間が形成されるように構成されていることを特徴とするスポット溶接用キャップチップ取外工具。
【請求項2】
回動部材を本体部に着脱自在に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接用キャップチップ取外工具。
【請求項3】
回動部材の開位置以上の回動を防止する第1のストッパー部材と、回動部材の閉位置以上の回動を防止する第2のストッパー部材が、本体部に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスポット溶接用キャップチップ取外工具。
【請求項4】
回動部材の可動軌跡上の本体部に回動部材の下面と接触する摩擦部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のスポット溶接用キャップチップ取外工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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