説明

スポット溶接用電極

【課題】シャンクを容易にネジアダプターから取り外すことができるスポット溶接用電極を提供する。
【解決手段】ネジアダプター10の先端側外周面に、取外ネジ部10cを螺刻し、取外ネジ部10cに取外ナット20を螺入し、シャンク30の外周面に、一対の取外部材係合部30dを形成する。取外部材係合部30dに、差込凹部40aが形成された取外部材40を差し込んだ状態で、取外ナット20を回転させることにより、取外ナット30で取外部材40が押圧されて、シャンク30がネジアダプター10から取り外される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接に用いられる電極の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接は、対向して配設された一対の電極間にワークを挟んで加圧、通電して、ワークに流れる電気抵抗熱でワークを溶かして溶接する方法である。このようなスポット溶接に用いられる電極は、ある程度規格化され、特許文献1に示されるように(特に、図5、6、8)、キャップチップと、キャップチップを取り付けるシャンク、電気抵抗溶接機に取り付けられるホルダー、前記シャンクと前記ホルダーを接続するネジアダプターとから構成されている。
【0003】
このような、スポット溶接に用いられる電極100を、図5を用いて説明する。図5において、50はホルダー、60はネジアダプター、70はシャンク、80はキャップチップである。ホルダー50、ネジアダプター60、シャンク70、キャップチップ80は、導電性が良好で強靱なベリリウム銅やクロム銅等の銅合金で構成されている。
【0004】
ホルダー50は、ブロック形状(図5に示される例では円柱)のホルダー本体51、ホルダー本体51の側面に取り付けられる入水ジョイント52及び出水ジョイント53、ホルダー本体51に取り付けられるパイプ54とから構成されている。ホルダー本体51の基端は、定置ガン、Xガン、Cガン等のスポット溶接機に握持等されて取り付けられ、スポット溶接機からホルダー本体51に溶接用電流が供給されるようになっている。ホルダー本体51には、出水ジョイント53からホルダー本体51の先端に開口する排水流路51bが形成されている。排水流路51bの開口部には、取付ネジ穴51aが螺刻されている。パイプ54は、排水路51b内に挿通されて、排水路51bから突出して、ホルダー本体51に取り付けられている。ホルダー本体51には、パイプ54と入水ジョイント52を接続する入水流路51cが形成されている。
【0005】
ネジアダプター60は、略円筒形状である。ネジアダプター60の中心には、流水路60aが連通形成されている。流水路60aの先端側の開口部には、先端側に向かって徐々に内径が大きくなる円錐面であるテーパー取付穴部60bが形成されている。ネジアダプター60の基端側外周面には、ホルダー本体51の取付ネジ穴51aに螺入される取付ネジ部60cが螺刻されている。図5の(A)に示されるように、取付ネジ部60cが取付ネジ穴51aに螺入して、ネジアダプター60がホルダー本体51に取り付けられる。ネジアダプター60の中間部分には、六角ナット形状等の工具係合部60dが形成されている。
【0006】
シャンク70は、略円筒形状である。シャンク70の軸心には、流水路70aが連通形成されている。シャンク70の基端には、基端側に向かって徐々に外径が小さくなる円錐面であるテーパー取付部70bが形成されている。図5の(A)に示されるように、テーパー取付部70bがテーパー取付穴部60bに嵌合して、シャンク70がネジアダプター60に取り付けられる。シャンク70の先端には、先端側に向かって徐々に外径が小さくなる円錐面であるキャップチップ取付部70cが形成されている。キャップチップ80の基端には、奥側(先端側)に向かって徐々に内径が小さくなる円錐面である取付穴部80aが形成されている。取付穴部80aがキャップチップ取付部70cに嵌合して、キャップチップ80がシャンク70に取り付けられている。
【0007】
図5の(A)に示されるように、パイプ54は、ネジアダプター60及びシャンク70の流水路60a、70a内を挿通し、その先端がキャップチップ80の取付穴部80a底部に開口している。このような構造により、入水ジョイント52から供給される冷却水がパイプ54内を流通して、キャップチップ80の取付穴部80aに供給され、キャップチップ80が冷却される。キャップチップ80を冷却した後の排水は、パイプ54の外側の流水路70a、60a内を流通して、出水ジョイント53から排水されるようになっている。
【0008】
キャップチップ80は、ワークと接触することから、使用により消耗して変形するので、溶接品質を確保するために、キャップチップ80を定期的に交換する必要がある。キャップチップ80の交換に伴い、シャンク70のキャップチップ取付部70cも変形してしまうことから、キャップチップ80とシャンク70との嵌合部分からの漏水を防止するために、シャンク70もまた定期的に交換する必要がある。
【0009】
シャンク70の交換頻度によって、テーパー取付部70bとテーパー取付穴部60bのテーパー角は、1/5、1/10、或いは、モールステーパー(MT1=1/20.047、MT2=1/20.020)に設定されている。シャンク70を1日に複数回取り替える場合には、テーパー取付部70bとテーパー取付穴部60bのテーパー角を1/5として、シャンク70を取り外しやすいようにしている。また、シャンク70を1日〜3日程度の頻度で交換する場合には、テーパー取付部70bとテーパー取付穴部60bのテーパー角を1/10としている。シャンク70を3日以上の頻度で取り替える場合には、テーパー取付部70bとテーパー取付穴部60bのテーパー角をモールステーパーとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−23593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
テーパー取付部70bとテーパー取付穴部60bのテーパー角を、モールステーパーのように、小さく設定したほうが、テーパー取付部70bとテーパー取付穴部60bの嵌合が強固となり、この嵌合部分からの漏水を防止する観点から好ましい。しかしながら、テーパー取付部70bとテーパー取付穴部60bのテーパー角を、モールステーパーのように小さく設定すると、前記嵌合部分の嵌合が強固であることもあることに加えて、シャンク70に作用する加圧力及びシャンク70に流れる溶接電流により、前記嵌合部分が固着して、シャンク70をネジアダプター60から取り外すことができなくなってしまうという問題がある。シャンク70をネジアダプター60から取り外すことができない場合には、ネジアダプター60ごとホルダー本体51から取り外す必要があり、ネジアダプター60が無駄になってしまうという問題があった。一方で、無理にシャンク70をネジアダプター60から取り外そうとすると、テーパー取付部70bやテーパー取付穴部60bに無理な力が作用し、テーパー取付部70bやテーパー取付穴部60bが損傷してしまう。
【0012】
本発明は、上記問題を解決し、シャンクを容易にネジアダプターから取り外すことができるスポット溶接用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、
ワークと接触するキャップチップと、
先端で前記キャップチップを取り付け、基端にテーパー取付部が形成されたシャンクと、
先端に前記テーパー取付部と嵌合するテーパー取付穴部が形成され、前記テーパー取付穴部と前記テーパー取付部との嵌合により前記シャンクを取り付け、基端に螺刻された取付ネジ部がスポット溶接機のホルダーに螺入されて、前記ホルダーに取り付けられるネジアダプターとから構成されたスポット溶接用電極であって、
前記ネジアダプターの先端側外周面に、取外ネジ部を螺刻し、
前記取外ネジ部に取外ナットを螺入し、
前記シャンクの前記テーパー取付部に隣接する位置の外周面に、一対の取外部材係合部を形成し、
前記取外部材係合部に、差込凹部が形成された取外部材を差し込んだ状態で、前記取外ナットを回転させることにより、前記取外ナットで前記取外部材が押圧されて、前記シャンクが前記ネジアダプターから取り外されるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
取外ナットを非磁性金属で構成したことを特徴とする。
これにより、溶接時にネジアダプターに流れる溶接電流により、取外ナットに誘導起電力(逆起電力)が発生することなく、前記溶接電流の流れが阻害されない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ネジアダプターの先端側外周面に、取付ネジ部を螺刻し、取付ネジ部に取外ナットを螺入し、シャンクのテーパー取付部に隣接する位置の外周面に、一対の取外部材係合部を形成した。これにより、取外部材係合部に、差込凹部が形成された取外部材を差し込んだ状態で、取外ナットを回転させるという簡単な作業により、シャンクをネジアダプターから取り外すことが可能となる。また、取外時には、シャンクには、軸方向に力が作用することから、テーパー取付部やテーパー取付穴部に無理な力が作用すること無く、テーパー取付部やテーパー取付穴部の損傷を防止することが可能となる。また、取外部材は、シャンクをネジアダプターから取り外す際のみに使用するので、スポット溶接時に邪魔にならない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態を示すスポット溶接用電極の組図である。
【図2】本発明の実施の形態を示すスポット溶接用電極の分解図である。
【図3】取外部材の説明図である。
【図4】シャンクの取外説明図である。
【図5】従来のスポット溶接用電極の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施の形態を示す。なお、図1及び図2において、一点斜線の左側は本発明のスポット溶接用電極の正面図であり、一点斜線の右側は本発明のスポット溶接用電極の断面図である。本発明のスポット溶接用電極は、ホルダー50に取り付けられるネジアダプター10、取外ナット20、シャンク30、キャップチップ80とから構成されている。ネジアダプター10、シャンク30、キャップチップ80は、導電性が良好で強靱なベリリウム銅やクロム銅等の銅合金で構成されている。なお、取外ナット20は、溶接電流の流れを阻害しない、ステンレスや銅合金等の非磁性金属で構成されていることが好ましい。
【0018】
ネジアダプター10は、テーパー嵌合により、シャンク30を取り付けるものである。
ネジアダプター10は、略円筒形状である。ネジアダプター10の中心には、流水路10aが連通形成されている。流水路10aの先端側の開口部には、先端側(開口部側)に向かって徐々に内径が大きくなる円錐面であるテーパー取付穴部10bが形成されている。ネジアダプター10の基端側外周面には、ホルダー本体51の取付ネジ穴51a(図5に示す)に螺入される取外ネジ部10cが螺刻されている。取外ネジ部10cが取付ネジ穴51aに螺入して、ネジアダプター10がホルダー本体51に取り付けられる。ネジアダプター10の中間部分には、六角ナット形状等の工具係合部10dが形成されている。本発明では、図2に示されるように、ネジアダプター10の先端側外周面には、取外ネジ部10eが螺刻されている。
【0019】
取外ナット20は、本実施形態では、六角ナットである。取外ナット20には、ネジアダプター10の取外ネジ部10eに螺入するネジ穴20aが形成されている。取外ナット20の外面には、工具と係合する工具係合部20bが形成されている。本実施形態では、工具係合部20bは、対向するように形成されたスパナ係合面であり、スパナと係合するようになっている。工具係合部20bは、スパナ係合面に限定されず、引掛穴や引掛溝等であっても差し支え無く、この場合には、取外ナットを回転させるために、前記引掛穴や引掛溝と係合する鉤状等の工具が使用される。図1に示されるように、ネジ穴20aが取外ネジ部10eに螺入して、取外ナット20がネジアダプター10に取り付けられている。
【0020】
シャンク30は、略円筒形状である。シャンク30の軸心には、流水路30aが連通形成されている。図2に示されるように、シャンク30の基端には、基端側に向かって徐々に外径が小さくなる円錐面であるテーパー取付部30bが形成されている。図1に示されるように、テーパー取付部30bがテーパー取付穴部10bに嵌合して、シャンク30がネジアダプター10に取り付けられる。シャンク30の先端には、先端側に向かって徐々に外径が小さくなる円錐面であるキャップチップ取付部30cが形成されている。
【0021】
キャップチップ80の基端には、奥側(先端側)に向かって徐々に内径が小さくなる円錐面である取付穴部80aが形成されている。取付穴部80aがキャップチップ取付部30cに嵌合して、キャップチップ80がシャンク30に取り付けられている。
【0022】
本発明では、図2に示されるように、シャンク30の外周面の、テーパー取付部30bに隣接する位置(つまり、テーパー取付部30bよりもシャンク30の先端側位置)には、取外部材係合部30dが形成されている。本実施形態では、取外部材係合部30dは、互いに対向する一対の平面である。つまり、取外部材係合部30dは、図1や図2の紙面反対側のシャンク30の外周面にも形成されている。
【0023】
図1に示されるように、ホルダー50のパイプ54は、ネジアダプター10及びシャンク30の流水路10a、30a内を挿通し、その先端がキャップチップ80の取付穴部80a底部に開口している。
【0024】
次に、図3を用いて、シャンク30をネジアダプター10から取り外すための取外部材40について説明する。なお、図3において、(A)は取外部材40の上面図、(B)は取外部材40の側面図である。取外部材40は、鉄鋼等の金属で構成されている。取外部材40は、一側端に開口する差込凹部40aが形成され、略“コ”字形状となっている。差込凹部40aの互い対向する一対の面は、係合面40bとなっている。図3の(A)に示される、一対の係合面40b間寸法aは、シャンク30の外周面に形成された一対の取外凹部係合部30d間寸法よりも僅かに大きくなっている。
【0025】
次に、図4を用いて、シャンク30をネジアダプター10から取り外す方法について説明する。図4の(A)、(B)に示されるように、取外部材40の差込凹部40aを、シャンク30の取外部材係合部30dに差し込む。次に、取外ナット20の工具係合部20bに工具を係合させて、取外ナット20を回転させる。すると、図4の(C)に示されるように、取外ナット20が取外部材40側に移動して、取外ナット20が取外部材40の上面と当接する。更に取外ナット20を回転させると、取外部材40が取外ナット20により押圧される。シャンク30の取外部材係合部30dは、差込凹部40aと係合しているので、取外部材40の取外ナット20による押圧に伴い、シャンク30がネジアダプター10から抜ける方向に移動する(図4の(D)の状態)。すると、テーパー取付部30bとテーパー取付穴部10bの嵌合が解除されて、シャンク30がネジアダプター10から取り外される。
【0026】
このように本発明では、取外部材40の差込凹部40aを、シャンク30の取外部材係合部30dに差し込み、取外ナット20を回転させるという簡単な作業により、シャンク30をネジアダプター10から取り外すことが可能となる。また、取外時には、シャンク30には、軸方向のみの力が作用することから、テーパー取付部30bやテーパー取付穴部10bに無理な力が作用すること無く、テーパー取付部30bやテーパー取付穴部10bが損傷することが無い。また、取外部材40は、シャンク30をネジアダプター10から取り外す際のみに使用するので、スポット溶接時に邪魔にならない。
【0027】
なお、本明細書において、取外部材係合部30dが形成されている位置である、シャンク30のテーパー取付部30bに隣接する位置とは、テーパー取付部30bに接する位置の他に、テーパー取付部30bの近傍位置であって、取外部材係合部30dに取外部材40を差し込んだ状態で、取外ナット20を回転させた場合に、取外ナット20が取付部材40と接触する取外部材係合部30dの位置を含む。
以上説明した実施形態では、取外部材係合部30dは面状であるが、溝状の取付部材係合部30dを、シャンク30のテーパー取付部30bに隣接する位置に形成し、前記溝状の取付部材係合部30dに係合する取外部材を、前記溝状の取付部材係合部30dに係合させて、取外ナット20を回転させて、シャンク30をネジアダプター10から取り外す実施形態であっても差し支え無い。
【0028】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うスポット溶接用電極もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0029】
10 ネジアダプター
10a 流水路
10b テーパー取付穴部
10c 取付ネジ部
10d 工具係合部
10e 取外ネジ部
20 取外ナット
20a ネジ穴
20b 工具係合部
30 シャンク
30a 流水路
30b テーパー取付部
30c キャップチップ取付部
30d 取外部材係合部
40 取外部材
40a 差込凹部
40b 係合面4
50 ホルダー
51 ホルダー本体
51a 取付ネジ穴
51b 排水流路
51c 入水流路
52 入水ジョイント
53 出水ジョイント
54 パイプ
60 ネジアダプター
60a 流水路
60b テーパー取付穴部
60c 取付ネジ部
70 シャンク
70a 流水路
70b テーパー取付部
70c キャップチップ取付部
80 キャップチップ
80a 取付穴部
100 従来のスポット溶接用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークと接触するキャップチップと、
先端で前記キャップチップを取り付け、基端にテーパー取付部が形成されたシャンクと、
先端に前記テーパー取付部と嵌合するテーパー取付穴部が形成され、前記テーパー取付穴部と前記テーパー取付部との嵌合により前記シャンクを取り付け、基端に螺刻された取付ネジ部がスポット溶接機のホルダーに螺入されて、前記ホルダーに取り付けられるネジアダプターとから構成されたスポット溶接用電極であって、
前記ネジアダプターの先端側外周面に、取外ネジ部を螺刻し、
前記取外ネジ部に取外ナットを螺入し、
前記シャンクの前記テーパー取付部に隣接する位置の外周面に、取外部材係合部を形成し、
前記取外部材係合部に、差込凹部が形成された取外部材を差し込んだ状態で、前記取外ナットを回転させることにより、前記取外ナットで前記取外部材が押圧されて、前記シャンクが前記ネジアダプターから取り外されるように構成されていることを特徴とするスポット溶接用電極。
【請求項2】
取外ナットを非磁性金属で構成したことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−81511(P2012−81511A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231313(P2010−231313)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(392014760)新光機器株式会社 (50)
【出願人】(508107593)P&C株式会社 (12)