説明

スポット溶接装置用加圧部材の研磨機

【課題】複数枚の板材を重ね合わせてスポット溶接するにあたり一対の電極と共に板材を加圧する加圧部材を研磨して、加圧部材に付着しているスパッタを除去したり加圧部材を整形することの可能な、スポット溶接装置用加圧部材の研磨機を提供する。
【解決手段】相互に重ね合わせた複数の板材を一対の溶接電極12,15で把持してスポット溶接する際に複数の板材のうちの何れかに接触して加圧する加圧プレート20に対して相対移動可能に設けられ、かつ、加圧プレート20を研磨するワイヤブラシ31を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の板材をスポット溶接するにあたり一対の溶接電極と共に板材を加圧する加圧部材を研磨するための研磨機に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の鋼板等の板材を溶接するためにスポット溶接装置が使用されている。スポット溶接装置においては、複数枚の板材を重ね合わせて接合対象部を形成し、その接合対象部を一対の溶接電極で両側から把持して加圧する。そして、一対の溶接電極間に電流を流し、ジュール熱によりナゲットを形成して複数枚の板材を相互に接合するものである。
【0003】
このように、複数枚の板材を一対の溶接電極により把持して加圧する際に板材が変形する可能性がある。この不具合に対処するために、一対の溶接電極で複数枚の板材を把持して加圧した際に、板材が変形することを防止する技術が提案されており、その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、一対の溶接ロボットにアームがそれぞれ設けられており、各アームには、それぞれリスト部を介してスポット溶接ガンが取り付けられている。また、各リスト部には、それぞれ位置決めゲージが個別に設けられている。各位置決めゲージは、各リスト部に連結されたステーの先端にリング状の押さえプレート(加圧部材)を一体に形成したものである。
【0004】
この特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、複数のワーク(板材)を重ねた後、一対のスポットガンの溶接電極がワークに接触して加圧力を得る途中で、位置決めゲージの押さえプレートがワークに接触して加圧を開始する。一方、複数のワーク同士の溶接後には、各溶接電極の加圧力が解除される途中で、位置決めゲージの加圧力が解除されるように設定されている。このような工程により、ワークが変形してしまうことを防止できるとされている。
【0005】
一方、特許文献1に記載されているようなスポット溶接装置により板材をスポット溶接する工程を繰り返すと、溶接電極は加圧や発熱によって消耗し、溶接電極の先端形状が変化する。このような溶接電極の消耗は、溶接対象部における溶接品質に影響を与えることから、溶接品質を良好に保つためには定期的に溶接電極の先端を整形する必要がある。
【0006】
このようなスポット溶接装置の溶接電極を整形するチップドレッサーの一例が特許文献2に記載されている。この特許文献2に記載されたチップドレッサーは、溶接電極チップ(溶接電極)の先端部および側面部を切削する切削刃を保持するカッターホルダーと、カッターホルダーを回転させるための回転手段とを備えている。また、カッターホルダーに溶接電極チップをガイドするための円錐台形状の凹部が形成されており、円錐台形状の凹部面から切削刃が所定量突出して取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−155039号公報
【特許文献2】特開平8−141749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、複数枚の板材をスポット溶接する際に、スラグや金属粒等のスパッタが飛散し、そのスパッタの一部が加圧部材に付着する問題があった。また、特許文献2に記載されているチップドレッサーにおいては、円錐台形状の凹部面に切削刃が取り付けられているため、このチップドレッサーを用いて加圧部材を磨くことはできなかった。
【0009】
本発明の目的は、複数枚の板材をスポット溶接するにあたり一対の溶接電極と共に板材を加圧する加圧部材を磨くことの可能な、スポット溶接装置用加圧部材の研磨機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明におけるスポット溶接装置用加圧部材の研磨機は、相互に重ね合わせた複数の板材を一対の溶接電極で把持してスポット溶接する際に前記板材の何れかに接触して加圧する加圧部材に対して相対移動可能に設けられ、かつ、前記加圧部材を磨く研磨部材を有することを特徴とする。
【0011】
本発明におけるスポット溶接装置用加圧部材の研磨機は、前記研磨部材を前記加圧部材に対して移動させる第1アクチュエータが設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明におけるスポット溶接装置用加圧部材の研磨機は、前記一対の溶接電極を研磨するように動作する電極研磨部材と、この電極研磨部材を動作可能に保持する保持部材とを有し、前記研磨部材は前記保持部材により保持されていることを特徴とする。
【0013】
本発明におけるスポット溶接装置用加圧部材の研磨機は、前記研磨部材で前記加圧部材を磨く際に、前記加圧部材を前記研磨部材に対して移動させる第2アクチュエータが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の板材を一対の溶接電極で把持し、かつ、何れかの板材に加圧部材を押し当てて板材同士をスポット溶接した際に、スラグや金属粒等のスパッタが飛散して加圧部材に付着したときは、研磨部材で加圧部材を研磨してスパッタを除去することができる。
【0015】
本発明によれば、第1アクチュエータで研磨部材を移動させることにより、研磨部材で加圧部材を研磨することができる。
【0016】
本発明によれば、電極研磨部材により一対の溶接電極を研磨するのと同時に、研磨部材により加圧部材を研磨することができる。
【0017】
本発明によれば、第2アクチュエータにより加圧部材を移動させることにより、研磨部材で加圧部材を研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の研磨機により研磨される加圧プレートを有するスポット溶接装置を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明の研磨機と、図1に示されたスポット溶接装置とを示す部分的な斜視図である。
【図3】本発明における研磨機の第1実施形態の構成を示す断面図である。
【図4】本発明における研磨機の第2実施形態の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明においては、加圧部材と研磨部材とが接触した状態で相対移動することにより、加圧部材が研磨されるように構成されている。このため、加圧部材または研磨部材の何れか一方が移動し、何れか他方が停止している状態で、研磨部材により加圧部材を研磨できる。本発明において、加圧部材の研磨には、加圧部材に付着している付着物を除去すること、加圧部材と板材との接触状態を所期の状態に保持するために、加圧部材の表面を整形すること等が含まれる。本発明における加圧部材は、重ね合わされた複数の板材のうち、外側に位置する板材の何れか一方に押し付けられる構成であればよい。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すスポット溶接装置10は、C型のヨーク部材により形成される溶接ガン本体11を有している。この溶接ガン本体11は、図示しない溶接ロボットのアームに取り付けられており、溶接ロボットのアームの動作により、溶接ガン本体11が水平方向または上下方向の何れにも移動することが可能に構成されている。溶接ガン本体11の図1における下側の端部には、水平方向に延ばされた張り出し部11aが形成されており、張り出し部11aの先端には円柱形状の溶接電極(電極チップ)12が取り付けられている。本実施形態においては、溶接電極12が溶接ガン本体11に対して上下方向にも水平方向にも移動しないように取り付けられているものとして説明する。溶接ガン本体11を上下動作させると、溶接電極12を上下動させることができる。溶接電極12は垂直な軸線Aを中心として設けられており、溶接電極12の先端が上に向けられている。溶接電極12の先端は半球状に構成されている。
【0021】
一方、溶接ガン本体11の上側の端部には電極駆動アクチュエータ13が取り付けられている。この電極駆動アクチュエータ13の動力により、軸線Aに沿った方向(つまり上下方向)に往復動される電極駆動ロッド14が設けられている。この電極駆動ロッド14の先端、具体的には下端に溶接電極(電極チップ)15が取り付けられている。このため、溶接ガン本体11が停止している状態で、溶接電極15は上下方向に移動することが可能である。溶接電極15は円柱形状に構成されており、溶接電極15は軸線Aを中心として配置されている。溶接電極15の先端は下に向けられており、溶接電極15の先端は半球状に構成されている。このようにして、電極駆動アクチュエータ13の動力により溶接電極15が軸線Aに沿って上下方向に動作すると、溶接電極15と溶接電極12との距離が変化する。
【0022】
本実施形態のスポット溶接装置10は、一対の溶接電極12,15によりワーク16を厚さ方向、具体的には上下方向から把持(挟むように持つ)して加圧するものである。すなわち、一対の溶接電極12,15がスポット溶接装置10における主加圧部材を構成している。また、ワーク16は、複数枚の板材、例えば、3枚の板材16a,16b,16cが厚さ方向に重ね合わされて溶接対象部16dが形成されている。3枚の板材16a,16b,16cは上下に重ね合わされている。この溶接対象部16dがスポット溶接装置10により溶接される。また、板材16a,16b,16cは厚さが異なっている。具体的には、板材16aの厚さは板材16b,16cの単独の厚さよりも薄く、板材16b,16cの厚さは同じである。
【0023】
一方、溶接ガン本体11には、電極駆動アクチュエータ13の側方に加圧アクチュエータ17が取り付けられている。この加圧アクチュエータ17の動力により上下方向に往復動する加圧ロッド18が設けられている。この加圧ロッド18の下端には加圧アーム19が取り付けられている。加圧アーム19は、上下方向に延ばされた支持部19aと、その支持部19aの下端から水平方向に延ばされた腕部19bとを有している。さらに、腕部19bの先端には加圧プレート20が取り付けられている。図2に示すように、加圧プレート20の先端は二股に分岐されて2つの加圧部20a,20bが形成されている。
【0024】
そして、加圧アクチュエータ17の動力により加圧プレート20を上下方向に移動させたときに、溶接電極15と加圧プレート20とが同じ高さに位置していても、溶接電極15と加圧プレート20とが接触しないように構成されている。具体的には、加圧アクチュエータ17により加圧プレート20を上昇または下降させたときに、軸線Aと垂直な平面内において、2つの加圧部20a,20bの間に軸線Aが位置するように構成されている。本実施形態におけるスポット溶接装置10においては、一対の溶接電極12,15によりワーク16の溶接対象部16dが把持されて加圧された際に、最も上に位置している板材16aの表面のうち、溶接電極15が接触した箇所の両側2箇所に、加圧プレート20の2つの加圧部20a,20bが接触して加圧するように構成されている。このように、スポット溶接装置10において、加圧プレート20は副加圧部材を構成するものである。
【0025】
さらに、加圧プレート20の上下面は共に平坦面となっており、加圧プレート20の全体または2つの加圧部20a,20bが部分的に絶縁部材により構成されている。さらに、加圧アクチュエータ17および電極駆動アクチュエータ13としては、電動モータ、空気圧シリンダ、油圧シリンダなどのうち何れを用いてもよい。
【0026】
つぎに、スポット溶接装置10によりワーク16を溶接する工程を説明する。まず、ワーク16の搬送経路における溶接箇所Bにワーク16が搬送されてきて停止する。すると、溶接ロボットのアームが動作して、溶接箇所Bの上方に溶接電極15が移動され、かつ、溶接箇所Bの下方に溶接電極12が移動される。そして、溶接電極12を上昇させ、かつ、溶接電極15を下降させる。また、加圧アクチュエータ17により加圧アーム19を下降させて、2つの加圧部20a,20bを板材16aに押し付ける。このような動作により、一対の溶接電極12,15によりワーク16の溶接対象部16dを把持および加圧するとともに、一番上の板材16aの表面のうち溶接電極15が接触している位置の両側の2箇所が、2つの加圧部20a,20bにより加圧されることとなる。この状態において、一対の溶接電極12,15同士の間に、図示しない電源ユニットから電流を流して溶接対象部16dにナゲットを形成し、板材16a,16b,16cを相互に溶接(接合)する。
【0027】
ここで、一番上の板材16aの厚さは、板材16b,16cの単独の厚さよりも薄く剛性が低いので、板材16aが上側に撓んで板材16aと板材16bとの間に隙間が生じようとする。これに対して、本実施形態においては、加圧プレート20の2つの加圧部20a,20bにより板材16aを加圧している。このため、薄い板材16aと厚い板材16bとの間における電流密度の低下が抑制され、溶接品質の低下を防止できる。さらに、溶接対象部16dの溶接が完了すると、溶接電極15が上昇し、かつ、加圧プレート20が上昇するともに、溶接箇所Bから溶接電極12,15および加圧プレート20が離れるように、溶接ロボットのアームが動作する。また、スポット溶接装置10による溶接が行われたワーク16は次工程へ搬送される。
【0028】
ところで、スポット溶接装置10によりワーク16をスポット溶接する工程が繰り返されると、溶接電極12,15は加圧や発熱によって消耗し、溶接電極12,15の先端形状が変化する。このような溶接電極12,15の消耗は、溶接対象部16dにおける溶接品質に影響を与える可能性がある。そこで、溶接品質を良好に保つためには、定期的に溶接電極12,15の先端を整形する必要がある。
【0029】
一方、ワーク16をスポット溶接する工程においては、スラグ、金属粒などのスパッタが飛散し、そのスパッタの一部が加圧プレート20に付着する可能性がある。特に、加圧プレート20の2つの加圧部20a,20bにスパッタが付着すると、板材16aに対する2つの加圧部20a,20bの接触状態が、所期の状態を維持できなくなる可能性がある。ここで、所期の状態とは、一対の溶接電極12,15によりワーク16を把持して通電したときに、薄い板材16aが変形して、厚い板材16bと薄い板材16aとの間に隙間が形成されることを回避することのできる接触圧力、接触面積等を意味する。
【0030】
本発明の研磨機は、溶接電極12,15を研磨する機能と、加圧プレート20を磨く機能とを兼備している。本発明における研磨機の第1実施形態の構成を、図2および図3を参照して説明する。研磨機21は、箱形状に構成された研磨機本体22と、研磨機本体22の上部に設けられたテーブル23とを有している。
【0031】
また、テーブル23には収納室24が設けられており、収納室24の上下には開口部24a,24bが設けられている。収納室24には円筒形状のホルダ25が収納されている。ホルダ25は取付孔25aを有する円筒部25bと、円筒部25bの外側に張り出された外向きフランジ25cとを有している。ホルダ25は中心を通る軸線Cを中心として回転可能に構成されている。軸線Cは垂直な方向に沿って配置されており、上下に配置された2個の軸受26,27によりホルダ25が回転可能に保持されている。また、外向きフランジ25cの外周にはギヤ25dが形成されている。なお、図3においては、軸線Aおよび軸線Cが一致した状態で示されている。
【0032】
そして、ホルダ25の取付孔25aに研磨刃(チップドレッサ)28が取り付けられている。この研磨刃28は、金属材料により構成された板部材である。研磨刃28は、平行な2辺が上下となる向きで取り付けられており、研磨刃28における上下の2辺には、所定の形状に湾曲もしくは成形された刃部29,30がそれぞれ設けられている。この刃部29は溶接電極15を研磨して整形するためのものであり、刃部30は溶接電極12を研磨して整形するためのものである。
【0033】
さらに、ホルダ25における軸線Cに沿った方向の両端には、ワイヤブラシ31,32が固定されている。ホルダ25における上端にはワイヤブラシ31が取り付けられ、ホルダ25における下端にはワイヤブラシ32が取り付けられている。ワイヤブラシ31,32は加圧プレート20を磨くための要素であり、ワイヤブラシ31,32は例えば金属材料により構成されている。図3の例では、ホルダ25の全周に亘って環状にワイヤブラシ31,32が取り付けられている。すなわち、軸線Cを中心として研磨刃28を取り囲むようにワイヤブラシ31,32が配置されている。ワイヤブラシ31,32は軸線Cに沿った方向に延ばされている。
【0034】
一方、前記研磨機本体22の内部には、ギヤ25dを回転させる動力を発生する動力源として電動モータ33が設けられている。そして、電動モータ33の出力軸(図示せず)からギヤに至る動力伝達経路には、ギヤ機構等により構成された減速機(図示せず)が設けられている。この減速機は、従来から用いられているものと同様であるため、図示および説明を省略する。
【0035】
さらに、テーブル23は研磨機本体22に対して上下方向に移動可能に構成されている。そのテーブル23を昇降させる動力源としての電動モータ、油圧シリンダ、空気圧シリンダなどのアクチュエータ(図示せず)が、研磨機本体22内に設けられている。なお、電動モータの回転運動を直線運動に変換してテーブル23を上下方向に移動させる構成、あるいは、油圧シリンダまたは空気圧シリンダのロッドの直線運動により、テーブル23を上下方向に移動させる構成は周知であるため、図示および説明を省略する。なお、本実施形態における研磨機21は、スポット溶接装置10に対して移動可能に構成されていてもよいし、溶接工程のラインサイドに固定して設けられていてもよい。
【0036】
つぎに、研磨機21により溶接電極12,15を研磨するとともに、研磨機21により加圧プレート20を磨く工程を説明する。研磨機21を設置箇所に固定しておく一方、溶接電極12,15および加圧プレート20を移動させるか、または溶接電極12,15および加圧プレート20を移動させることなく、研磨機21を設置箇所から移動させることにより、溶接電極12と溶接電極15との間に研磨機21のテーブル23を位置させる。ここでは、溶接電極12,15の移動基準となる軸線Aと、ギヤ25dの回転中心となる軸線Cとが一致した状態に保持される。また、加圧プレート20の下端面が溶接電極12の先端よりも上に位置して停止される。
【0037】
そして、電動モータ33を駆動すると、そのトルクが減速機を経由してギヤ25dに伝達される。すると、ホルダ25が回転して研磨刃28およびワイヤブラシ31,32が軸線Cを中心として回転する。さらに、研磨機21のテーブル23を下降させて刃部30を溶接電極12に接触させて停止し、溶接電極12を研磨および整形する。また、溶接電極15および加圧プレート20を下降させて、溶接電極15を刃部29に接触させて研磨し、溶接電極15の先端を研磨および整形する。これと併せて、加圧プレート20の下面、特に2つの加圧部20a,20bの下面をワイヤブラシ31に接触させて研磨し、加圧プレート20に付着しているスパッタを除去する。
【0038】
このようにして、溶接電極12,15の整形を行い、かつ、加圧プレート20のスパッタを除去した後、溶接電極15および加圧プレート20を上昇させるとともに、テーブル23を上昇させる。また、テーブル23を溶接電極12,15同士の間から退避させ、電動モータ33を停止する。
【0039】
上記のように、本実施形態における研磨機21によれば、加圧プレート20に付着しているスパッタを除去することができる。したがって、ワーク16の板材16aに対する2つの加圧部20a,20bの接触状態を、所期の状態に維持することができる。また、本実施形態における研磨機21によれば、溶接電極12,15を整形する工程と、加圧プレート20に付着しているスパッタを除去する工程とを、同時に(並行して)行うことができる。したがって、溶接電極12,15を整形する工程、および加圧プレート20に付着しているスパッタを除去する工程に要する合計の作業時間を、相対的に短縮することができる。なお、上記の研磨工程においては、下側のワイヤブラシ32により加圧プレート20を磨く動作は行われない。
【0040】
つぎに、最も薄い板材を一番下に配置し、その上に厚い2枚の板材を重ねてワークが構成されている場合について説明する。この場合は、ワークの下方に加圧プレートを位置させておく。そして、薄い板材に溶接電極12が接触して、溶接電極12,15によりワークが把持および加圧されたときに、その溶接電極12による加圧位置の両側を加圧プレート20の2つの加圧部20a,20bにより加圧してスポット溶接を行うこととなる。
【0041】
このような工程を繰り返すと、加圧プレート20の上面にスパッタが付着する。そこで、研磨機21のワイヤブラシ32により加圧プレート20の上面を磨く工程を説明する。この工程では、加圧プレート20を下降させることにより、加圧プレート20の上面を溶接電極12の上端よりも下方に移動させた状態で加圧プレート20を停止させる。そして、溶接電極15と溶接電極12との間にテーブル23を位置させて、前述と同様にして研磨刃28により溶接電極12,15を整形する。これと同時にワイヤブラシ32で加圧プレート20の上面に付着しているスパッタを除去する。この場合、上側のワイヤブラシ31により加圧プレート20を磨く動作は行われない。
【0042】
また、本実施形態において、ワイヤブラシ31,32を加圧プレート20に接触させて加圧プレート20を研磨する工程を繰り返すと、ワイヤブラシ31,32が軸線Cを中心として外側に変形したり、ワイヤブラシ31,32の先端が摩耗したりする可能性がある。このような場合は、加圧プレート20に対するワイヤブラシ31,32の接触圧力を相対的に高くすることにより、ワイヤブラシ31,32による研磨性能の低下を抑制できる。
【0043】
ここで、本実施形態で説明した構成と、本発明の構成との対応関係を説明すると、板材16aが、本発明の「複数の板材のうちの何れか」に相当し、加圧プレート20が、本発明の加圧部材に相当し、ワイヤブラシが、本発明の研磨部材に相当する。また、電動モータ33が、本発明の第1アクチュエータに相当し、研磨刃28が、本発明の電極研磨部材に相当し、ホルダ25が、本発明の保持部材に相当する。
【0044】
さらに、本発明の研磨機における第2実施形態の構成を、主として図4を参照して説明する。第2実施形態の研磨機21は、上下に配置された2つのテーブル23a,23bを有している。各テーブル23a,23bは共に独立して上下方向に移動または停止することができるように構成されている。各テーブル23a,23bには、それぞれホルダ25が回転可能に設けられているとともに、各ホルダ25の取付孔25aには研磨刃28がそれぞれ取り付けられている。
【0045】
また、上に配置されたテーブル23aに設けられたホルダ25には、その下端にワイヤブラシ31が取り付けられており、ホルダ25の上端にはワイヤブラシは取り付けられていない。さらに、上に配置されたテーブル23aにおいては、研磨刃28の上辺には刃部29が設けられているが、研磨刃28の下辺には刃部は設けられていない。
【0046】
これに対して、下に配置されたテーブル23bに設けられたホルダ25には、その上端にワイヤブラシ32が取り付けられており、ホルダ25の下端にはワイヤブラシは取り付けられていない。また、下に配置されたテーブル23bにおいては、研磨刃28の下辺に刃部30が設けられているが、研磨刃28の上辺には刃部は設けられていない。さらに、第2実施形態においては、2つのホルダ25が同軸上に配置されている。なお、図4に示された構成において、その他の構成部分については、図2および図3と同じ構成であるため、図2および図3と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0047】
つぎに、第2実施形態の研磨機21により、一対の溶接電極12,15を研磨し、加圧プレート20を磨く際の動作を説明する。まず、一対の溶接電極12,15の間にテーブル23a,23bを位置させるとともに、ワイヤブラシ31とワイヤブラシ32との間に加圧プレート20を位置させる。そして、各ホルダ25を回転させると、図4のように加圧プレート20の上下面を両側からワイヤブラシ31,32により同時に研磨してスパッタを除去することができる。また、溶接電極15を下降させて、研磨刃28の刃部29により研磨および整形するとともに、溶接電極12を上昇させて、研磨刃28の刃部30により研磨および整形することができる。
【0048】
また、第2実施形態における研磨機21において、ワイヤブラシ31が軸線Cを中心として外側に変形したときは、テーブル23aを下降させることでワイヤブラシ31を加圧プレート20に押し付ける力を相対的に高くすることができる。また、ワイヤブラシ32が軸線Cを中心として外側に変形したときは、テーブル23bを上昇させることでワイヤブラシ32を加圧プレート20に押し付ける力を相対的に高くすることができる。
【0049】
本発明は前記第1実施形態および第2実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ホルダ25にワイヤブラシ31,32を取り付けるにあたり、ホルダ25の円周方向に沿って所定間隔おきにワイヤブラシ31,32を配置してもよい。また、板形状の加圧プレート20に代えて、棒形状の加圧部材を用いてもよい。
【0050】
また、加圧プレート20を加圧アーム19に対して水平方向に移動可能に取り付けるとともに、その加圧プレート20を水平方向に往復動させるアクチュエータ34を、加圧アーム19に設ける構成を採用することもできる。アクチュエータ34は、図1に二点鎖線で示してある。このように構成すると、ワイヤブラシ31またはワイヤブラシ32を加圧プレート20に接触させた状態とし、ワイヤブラシ31またはワイヤブラシ32を回転させずに、加圧プレート20を水平方向に往復動させることで、加圧プレート20を磨くことができる。加圧プレート20を加圧アーム19に対して水平方向に移動可能とする構成としては、公知のレールを設け、そのレールにより加圧プレート20を支持すればよい。また、加圧プレート20を水平方向に往復動させるアクチュエータ34は、電動モータ、油圧シリンダ、空気圧シリンダ等公知の機構を用いればよい。前記アクチュエータ34が、本発明の第2アクチュエータに相当する。
【0051】
さらに、本実施形態において、スポット溶接装置10は、一対の溶接電極12,15が水平方向に相対移動可能に構成されていてもよい。この場合に研磨機21は、ワイヤブラシ31,32および研磨刃28の回転中心となる軸線Cが、水平方向に沿ったものとなるように構成すればよい。
【0052】
さらに、本実施形態における研磨機は、溶接電極を研磨する研磨刃を備えていない保持部材にワイヤブラシを取り付け、その保持部材を回転または往復動させることにより、ワイヤブラシにより加圧プレートを研磨するように構成してもよい。このように、保持部材を往復運動させる構成であれば、保持部材の形状を直方体、立方体等にしてもよい。
【0053】
さらにまた、スポット溶接される板材は2枚でもよいし、4枚以上でもよい。さらに、複数の板材の厚さは全て同じでもよいし、異なっていてもよい。さらにまた、スポット溶接装置の加圧部材は、重ね合わされた板材の両側を加圧するように構成されていてもよい。さらにまた、溶接ガン本体に対して、一対の溶接電極が共に移動することができるように構成されているスポット溶接装置であってもよい。
【0054】
さらにまた、本実施形態においては、研磨部材としてワイヤブラシを挙げているが、これに限らず、軟質合成樹脂により構成された研磨パッド、金属製の刃、紙製のやすり等を研磨部材として用いてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 スポット溶接装置
12,15 溶接電極
16a,16b,16c 板材
20 加圧プレート
21 研磨機
25 ホルダ
28 研磨刃
33 電動モータ
34 第2アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に重ね合わせた複数の板材を一対の溶接電極で把持してスポット溶接する際に前記板材に接触して加圧する加圧部材に対して相対移動可能に設けられ、かつ、前記加圧部材を磨く研磨部材を有することを特徴とするスポット溶接装置用加圧部材の研磨機。
【請求項2】
請求項1記載のスポット溶接装置用加圧部材の研磨機において、
前記研磨部材を前記加圧部材に対して移動させる第1アクチュエータが設けられていることを特徴とするスポット溶接装置用加圧部材の研磨機。
【請求項3】
請求項1または2記載のスポット溶接装置用加圧部材の研磨機において、
前記一対の溶接電極を研磨するように動作する電極研磨部材と、この電極研磨部材を動作可能に保持する保持部材とを有し、前記研磨部材は前記保持部材により保持されていることを特徴とするスポット溶接装置用加圧部材の研磨機。
【請求項4】
請求項1記載のスポット溶接装置用加圧部材の研磨機において、
前記研磨部材で前記加圧部材を磨く際に、前記加圧部材を前記研磨部材に対して移動させる第2アクチュエータが設けられていることを特徴とするスポット溶接装置用加圧部材の研磨機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−71182(P2013−71182A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214820(P2011−214820)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)