説明

スライダー付引出しキャビネット及び引出しスライダー

【課題】 押し込み式ロック解放型のスライダー付き引出しキャビネットの引出し本体を開放するために、引出し本体の中央ではなく、中央から左右いずれかにずれた位置で押し込むことがあっても両側のスライダーのロックを確実に解放して引き出し本体を有効に引き出すことができること。
【解決手段】 筐体側の第1のスライドレールと引出し本体側の第2のスライドレール14が重合した状態で第2のスライドレール14が第1のスライドレールに対して傾斜するのを防止するために、第2のスライドレール14の前端側に突部72が設けられ、この突部は、第2のスライドレールの外面に相対する中間スライドレール16の係合壁面74に係合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体内にスライドレールを介して摺動自在に支持されて開閉する引出しを閉じた状態でロックするが、引出しの開放時に引出しを閉じ方向に押し込んでロックを解放するようにしたスライダー付引出しキャビネット及びこの引出しに用いられる引出しスライダーの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スライダー付引出しキャビネットに用いられる引出しスライダーは、筐体とこの筐体内に出し入れ自在に収納される引出し本体との間に取付けられ、引出し本体を筐体内に引き入れたり、引出し本体を筐体から引き出したりするのを円滑に行うことができるようにし、また引出し本体を筐体内に引き込んだ状態で引出し本体を筐体にロックする機能を有する。
【0003】
この種の引出しスライダーは、引出し本体の両側壁と筐体の相対する内壁との間に設けられるが、各スライダーは、筐体の内壁面に取付けられる第1のスライドレールと、この第1のスライドレールに摺動自在に係合し筐体に出し入れ自在に移動する引出し本体に取付けられる第2のスライドレールと、引出し本体が筐体内に引き込まれたときに第1と第2のスライドレールを相互にロックするロック手段とを備えている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
一般に、引出し本体を引き出すために、引出し本体の正面壁の中央を押し込んでスライダーのロックを解放するが、引出し本体の中央から左右いずれかにずれた位置で引出し本体の正面壁を押し込んでスライダーのロックを解放しようとすることがある。
【0005】
一方、引出し本体を筐体に対して円滑に摺動して引出し本体を抵抗なく出し入れすることができるようにするために、第1と第2のスライドレールは、引出し本体の幅方向に緩く隙間をもって嵌合している。このため、引出し本体を開放するために、引出し本体の正面中央ではなく、左右いずれかにずれた位置で引出し本体を押し込むと(図22の矢印Y参照)、第2のスライドレールが第1のスライドレールに対して緩みによって傾くために、引出し本体が斜めに変位し(図22の符号3参照)、押し込み操作位置側のスライダーは、ロックを解放するが、反対側のスライダーは、押し込み不足でスライダーのロックが解放されないことがある。このような状態では、引出し本体を引き出すことができないし、反対側のスライダーに無理な力が加わってそのスライダーを破損する虞があった。
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3118277号公報
【特許文献2】実用新案登録第3154106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする1つの課題は、引出し本体を開放するために、引出し本体の中央ではなく、中央から左右いずれかにずれた位置で押し込むことがあっても両側のスライダーのロックを確実に解放して引出し本体を有効に引き出すことができるスライダー付引出しキャビネットを提供することにある。
【0008】
本発明が解決しようとする他の課題は、引出し本体を開放するために、引出し本体の中央ではなく、中央から左右いずれかにずれた位置で押し込むことがあっても両側のスライダーのロックを確実に解放して引き出し本体を有効に引き出すことができる引出しスライダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の課題解決手段は、筐体の相対する内壁面に取付けられる第1のスライドレールとこの第1のスライドレールに摺動自在に係合し筐体に出し入れ自在に移動する引出し本体に取付けられる第2のスライドレールとから成る1対のスライダーを備え、各スライダーは、引出し本体が筐体内に引き込まれて第1と第2のスライドレールが重合した状態で前記第1と第2のスライドレールを相互にロックするロック手段を含み、前記ロック手段は、引出し本体を引き出す際に、引出し本体を閉じる方向に押し込んで前記第2のスライドレールを前記第1のスライドレールに対して押し込み方向に変位してロックを解放するようにしたものであるスライダー付引出しキャビネットにおいて、各スライダーは、前記第1と第2のスライドレールが重合した状態で前記第2のスライドレールが前記第1のスライドレールに対して傾斜するのを防止する傾斜防止手段を備えていることを特徴とするスライダー付引出しキャビネットを提供することにある。
【0010】
本発明の第1の課題解決手段において、前記傾斜防止手段は、前記第2のスライドレールの前端側で前記第2のスライドレールと相対するレールに向けて突出するように設けられた突部から成り、前記突部は、前記第1と第2のスライドレールの重合状態で前記第2のスライドレールに相対するレールの係合壁面に係合して前記第2のスライドレールが傾斜するのを防止しているのが好ましい。
【0011】
この場合、第2のスライドレールが第1のスライドレールに直接嵌合している場合には、第2のスライドレールに設けられた傾斜防止用の突部は、第1のスライドレールの内面側の係合壁面に係合し、第2のスライドレールが中間スライドレールを介して第2のスライドレールに嵌合している場合には、第2のスライドレールの突部は、中間スライドレールの内面側の係合壁面に係合している。
【0012】
第2のスライドレールの突部は、そのレール壁面の一部を略L字形に打ち出しして形成することができ、この場合、L字形の突部の係合面は、相対するレールの係合壁面から前端(引出し本体の正面側の端部)に向けて徐々に離反する傾斜面を有するのが好ましい。
【0013】
本発明の第2の課題解決手段は、筐体の内壁面に取付けられるべき第1のスライドレールと前記第1のスライドレールに摺動自在に係合し筐体に出し入れ自在に移動する引出し本体に取付けられるべき第2のスライドレールとから成り、引出し本体が筐体内に引き込まれて第1と第2のスライドレールが重合した状態で前記第1と第2のスライドレールを相互にロックするロック手段を含み、前記ロック手段は、引出し本体を引き出す際に、引出し本体を閉じる方向に押し込んで前記第2のスライドレールを前記第1のスライドレールに対して押し込み方向に変位してロックを解放するようにしたものである引出しスライダーにおいて、前記第1と第2のスライドレールが重合した状態で前記第2のスライドレールが前記第1のスライドレールに対して傾斜するのを防止する傾斜防止手段を備えていることを特徴とする引出しスライダーを提供することにある。
【0014】
本発明の第2の課題解決手段において、前記傾斜防止手段は、前記第2のスライドレールの前端側で前記第2のスライドレールと相対するレールに向けて突出するように設けられた突部から成り、前記突部は、前記第1と第2のスライドレールの重合状態で前記第2のスライドレールに相対するレールの係合壁面に係合して前記第2のスライドレールが傾斜するのを防止しているのが好ましい。
【0015】
この場合、第2のスライドレールが第1のスライドレールに直接嵌合している場合には、第2のスライドレールに設けられた傾斜防止用の突部は、第1のスライドレールの内面側のレールの係合壁面に係合し、第2のスライドレールが中間スライドレールを介して第2のスライドレールに嵌合している場合には、第2のスライドレールの傾斜防止用突部は、中間スライドレールの内面側のレールの係合壁面に係合している。
【0016】
第2のスライドレールの突部は、そのレール壁面の一部を略L字形に打ち出しして形成することができ、この場合、L字形の突部の係合面は、相対するレールの係合壁面から前端(引出し本体の正面側の端部)に向けて徐々に離反する傾斜面を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記のように、スライダーは、第1と第2のスライドレールが重合した状態で第2のスライドレールが第1のスライドレールに対して傾斜するのを防止する傾斜防止手段を備えているので、引出し本体を開放するために、引出し本体の正面中央ではなく、左右いずれかにずれた位置で引出し本体を押し込むようなことがあっても、引出し本体は、押し込み側のみが押し込まれるような傾きを生ずることがなく、引出し本体の左右両側が平行な状態を維持したまま押し込まれ、左右両方のスライダーのロックを確実に解放することができ、従って、引出しを確実に開放することができ、引出し本体の傾きによるスライダーの破損を有効に防止することができる。
【0018】
また、傾斜防止手段が第2のスライドレールの前端側に設けられた突部から成っているので、引出し本体を引き出すと、傾斜防止用の突部は、相対するレールの係合壁面から離反し、従って、第2のスライドレールは、第1のスライドレールに対して緩みを回復するため、引出し本体の引出し操作は、傾斜防止手段の抵抗を受けることなく、円滑に行うことができる。
【0019】
更に、傾斜防止用突部が第2のスライドレールの壁面から打ち出しによって形成すると、スライドレールの成形時に一体に形成されるので、傾斜防止手段の形成が容易であり、その上、突部が打ち出しによって形成されると、突部は、相対するレールの係合壁面に対して弾性的に係合し、引出し本体の引き込み作業を抵抗なく円滑に行うことができる。特に、この打ち出し突部に前端に向けて傾斜する傾斜面を有すると、突部が相対するレールの係合壁面に円滑に係合することができ、引出し本体の引き込み作業の円滑性を一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のスライダー付引出しキャビネットの閉じた状態の斜視図である。
【図2】図1の引出しキャビネットの引出し本体を引き出すために引出し本体を押し込んだ状態の斜視図である。
【図3】図2の状態から引出し本体を引出し始めた状態(引出し初期状態)の斜視図である。
【図4】図3の状態から引出し本体を更に引き出した状態の斜視図である。
【図5】本発明のスライダーの後端(奥端)側のロック前の状態を示す拡大側面図である。
【図6】図5と同様にスライダーの後端(引出しの奥端)側であるが、そのロック状態を示す拡大側面図である。
【図7】本発明のスライダーの前端(引出しの手前側の端部)側のロック状態の拡大側面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線拡大断面図である。
【図9】図7のIX−IX線拡大断面図である。
【図10】第2のスライドレールの背面図である。
【図11】第1のスライドレールに取り付けられるフレームとこのフレームに取り付けられたロック手段とレール・ブロック連結手段とを示し、同図(A)は、その拡大側面図、同図(B)は、図11(A)のB−B線断面図、同図(C)は、レール・ブロック連結手段の説明図である。
【図12】スライダーのロック手段の動作を示し、同図(A)は、引出し本体が筐体内に押し込まれて第2のスライドレールの爪部材が第1のスライドレールに設けられた鉤部材に接触し始めた状態の説明図、同図(B)は、第2のスライドレールの爪部材が第1のスライドレール側の結鉤部材に係入してスライドブロックがロック部材に押し込まれる状態の説明図、同図(C)は、第2のスライドレールが第1のスライドレールに完全に重合してスライドブロックに第1のスライドレールに取り付けられたレバー状のロック部材が係入して第1と第2のスライドレールを重合状態でロックしている状態の説明図である。
【図13】本発明のスライダーに用いられるロック手段のスライドブロックの背面を示し、同図(A)は、その斜視図、同図(B)は、その背面図、同図(C)は、ロック部材のロックピンとスライドブロックの案内溝との関係を示す説明図である。
【図14】本発明に用いられる第2のスライドレールの外側の斜視図である。
【図15】図10の第2のスライドレールの拡大外面図である。
【図16】図10の第2のスライドレールの拡大上面図である。
【図17】図10の第2のスライドレールの拡大内面図である。
【図18】図10の第2のスライドレールの拡大正面図である。
【図19】図10の第2のスライドレールの拡大背面図である。
【図20】図10の第2のスライドレールの拡大縦断面図である。
【図21】本発明のスライダーの傾斜防止手段の拡大断面図である。
【図22】本発明の傾斜防止手段を有しない引出しキャビネットの引出し本体を開放するために正面の中央から左方にずれて引出し本体を押し込んだ場合に生ずる引出し本体の傾きを示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態によるスライダーS付引出しキャビネット1を以下に図面を参照して述べると、図1乃至図4は、本発明の引出しキャビネット1を示し、この引出しキャビネット1は、図示の例では、前面が開口する筐体2とこの筐体2内に出し入れ自在に収納される引出し本体3とから成っており、引出しスライダーSは、図1乃至図4と図5乃至図9に示すように、筐体2の両側の相対する内壁面に取付けられる第1のスライドレール12と、この第1のスライドレール12に摺動自在に係合し引出し本体3の両側外側面に取付けられる第2のスライドレール14と、引出し本体3が筐体2内に引き込まれた時に第1と第2のスライドレール12、14が重合して第1と第2のスライドレール12,14を相互にロックするロック手段20とを備えている。
【0022】
図示の例では、第1のスライドレール12が外側スライドレールであり、第2のスライドレール14が内側スライドレールであるが、第1のスライドレール12が内側で第2のスライドレール14が外側であってもよい。また、図示の例では、第1と第2のスライドレール12、14の間に中間スライドレール16が設けられているが、この中間スライドレール16は省略してもよい。なお、第1及び第2のスライドレール12、14は、筐体2、引出し本体3にそれぞれ取付けるのに用いられる取付けボルト用の孔12H、14Hを有する(特に、図8参照)。
【0023】
以下、一方側の引出しスライダーSを詳細に述べるが、他方側の引出しスライダーSも一方側と同様であるが、対称的に構成されている。
【0024】
第1のスライドレール12、第2のスライドレール14及び中間スライドレール16は、いずれも断面U字形に成形された溝形鋼の如き金属製の構造部材から成っているが、金属以外の材質であってもよい。第1のスライドレール12と中間スライドレール16とは、それらのウエブ12W、16Wが重合するように、側壁12S、16S間に配置された滑動部材(両側からボールの一部が露出するように多数のボールが間隔をあけて保持されている板状部材)18Aによって摺動自在に嵌合され、第2のスライドレール14は、そのウエブ14Wが中間スライドレール16のウエブ16Wとは反対側に面するように、その側壁14S、16S間に配置された滑動部材(滑動部材18Aと同様の構造のもの)18Bによって相互に摺動自在に嵌合されている(図5、6及び9、特に図9参照)。第1及び第2のスライドレール12、14と中間スライドレール16とは、引出し本体3の出し入れを円滑に行うことができるように緩みを持って相互に嵌合している。
【0025】
ロック手段20は、図5及び図11に示すように、第1のスライドレール12の奥端に固定して取付けられる金属製または硬質プラスティック製のフレーム30と、後に述べるように、このフレーム30上に摺動自在に保持され、第2のスライドレール14の先端部に係脱自在に結合して引出し本体3の引き込み時(閉じる時)に引出し本体3及び第2のスライドレール14と共に奥に向けて移動する案内溝付きスライドブロック40(図11(B)参照)と、フレーム30の奥端に揺動ピン52によって揺動自在に支持されスライドブロック40の案内溝46に係合するロックピン54を有するレバー状のロック部材50とから成っている。スライドブロック40は、フレーム30に摺動自在に保持されたブロックキャリアー42の内部(図5、図6の紙面の裏側に相当)に取り付けられているので、図5、図6では認識することができないが、図11(B)に示されている。なお、図示の例では、ロック部材50は、ロックピン54をロック部材50の揺動によって横方向に変位するようにしたが、ロックピン54をフレーム30の幅方向に変位することができれば、レバー状ではなくてもよい。
【0026】
図5及び図11に示すように、フレーム30は、フレーム本体32の一端に横片34が一体に設けられた略T字形の形態を有し、横片34は、第1のスライドレール12の奥端開口部に嵌め込まれ、またフレーム本体32は、図示しない適宜の手段で固定され、これによってフレーム30が第1のスライドレール12に固定されている。
【0027】
ブロックキャリアー42は、図11、特に図11(B)に示すように、2つのキャリアー半部42Hが接合して形成され、このブロックキャリアー42は、2つのキャリアー半部42Hで形成される空間がフレーム本体32に摺動自在に嵌合してフレーム本体32に沿って第1のスライドレール12の縦方向に案内される。案内溝付きスライドブロック40は、図11(B)に示すように、このブロックキャリアー42の空間内で一方のキャリアー半部に固定して取り付けられている。従って、ブロックキャリアー42がフレーム30に沿って第1のスライドレール12の縦方向に案内されると、案内溝付スライドブロック40がロック部材50の揺動ピン52に対して進退する。
【0028】
ブロックキャリアー42は、その両側の1対の羽根状のばね止め片42Pとフレーム30のフレーム本体32の両側に延びる1対のばね止め片32Pとの間に掛け止められた1対のばね44によって通常ではロック部材50から離反する方向に付勢されている。
【0029】
スライドブロック40の案内溝46は、図13に示すように、後端に幅広の開口46Oを有し、更に、引出し本体3が引き込められた時にロック部材50のロックピン54に係合してロック部材50をロックするようにこの開口46Oに連続するロック面46Lと、引出し本体3を引き込む時にロック部材50のロックピン54をロック面46Lに導くように幅寄せしながら後退する引き込み後退側誘導面46Rと、引出し本体3を開く時にロック部材50のロックピン54をロック面46Lから外れるように幅寄せしながら後退し、次いで前進して開口46Oに誘導する引出し前進側誘導面46Fを有する。図13において、符号46R、46Fを有しないが、後退側誘導面46Rは、ロックピン54が接触する順番に「a、b、c、d」の符号を付記し、また、前進側誘導面46Fは、ロックピン54が接触する順番に「a、b、c」の符号を付記して表示されている。なお、誘導面46Rd、46Fbは、引出し本体3が閉じた状態に維持される位置よりも若干閉じ込み方向に第2のスライドレール14、即ちロックピン54が変位することができるように長めに延長して形成されている。
【0030】
第2のスライドレール14と案内溝付スライドブロック40とを連結したり解除したりするレール・ブロック連結手段60が設けられており、このレール・ブロック連結手段60は、図10及び図11(A)(C)に示すように、第2のスライドレール14の内面(中間スライドレールに対向する面)に固定して取り付けられた爪部材62(図10参照)とブロックキャリアー42の前端(ロック部材50に対する側とは反対側の端)にに取り付けられた鉤部材64(図11(A)(C)参照)とから成っている。鉤部材64は、図11(C)に示すように、その揺動の自由端に、フレーム30のフレーム本体32に設けられた案内溝32Gに係入する案内ピン64Pを有し、案内溝32Gは、ブロックキャリアー42がロック部材50から後退した位置では、図5並びに図11(A)の実線及び図11(C)の一点鎖線で示すように、鉤部材64の鉤の開口が前向き(ロック部材とは反対側の向き)に開くように傾き、ブロックキャリアー42がロック部材50に向けて前進した位置では、図10(C)の上側に点線で示すように、鉤部材64の鉤の開口が横向き(フレーム30の幅方向の向き)となってブロックキャリアー42の進退に伴って鉤部材64を変位するように形成されている。即ち、案内溝32Gは、ブロックキャリアー42の後退位置では、フレーム本体32の一方の側に向けて曲線状に形成され、ブロックキャリアー42の前進位置では、フレーム本体32の中間よりに直線状に形成され、これらの曲線部と直線部とは、連続している。
【0031】
従って、引出し本体3を筐体2内に押し込んで(閉じるように移動して)第2のスライドレール14も押し込まれる(前進する)と、第2のスライドレール14の外面(中間スライドレール16に対向する面)に取り付けられている爪部材62も前進し(図10の矢印方向Fに移動し)、爪部材62がブロックキャリアー42に取り付けられている鉤部材64の鉤の開口内に入り込み、この鉤部材64を介してブロックキャリアー42も押し込まれる(前進する)。また、引出し本体3を引き出して開くと(後退すると)(図10の矢印方向Rに移動すると)、レール・ブロック連結手段60の爪部材62と鉤部材64との連結が保たれたままブロックキャリアー42も後退するが、このブロックキャリアー42に取り付けられている鉤部材64は、そのピン64Pが案内溝32Gの曲線部にかかると、鉤の開口が前向きに開くため、第2のスライドレール14の爪部材62は鉤部材62から解放されて第2のスライドレール14がブロックキャリアー42との連結から外れてブロックキャリアー42を第1のスライドレール12に残したまま後退することができる。
【0032】
第2のスライドレール14と中間スライドレール16とは、第2のスライドレール14側に設けられた抜け止め部材14RS(図10にその一部のみが示されている)と中間スライドレール16の端部に設けられて抜け止め部材14RSの横係入溝(図示せず)に係入した図示しない突起との噛み合いによって相互に抜け止めされているが、この抜け止め部材14RSは、中間スライドレール16の端部から後方(引出し本体3の引出し方向または後退方向)に外れて露出した位置でレールの幅方向に手で変位して抜け止めを解除することができる。なお、中間スライドレール16は、最前端位置(最押し込み位置)では、その前端がフレーム30の後端のばね受け32Pに設けられたストッパー32PSに衝合し(図5参照)、また第2のスライドレール14は、その後この中間スライドレール16の前端を越えて前進し、レール・ブロック連結手段60の爪部材62がフレーム30上の鉤部材64に係入するように前進する。
【0033】
次に、引出しキャビネット1の開閉操作を述べると、引出しキャビネット1を閉じるため、図2、図5に示すように、引出し本体3を閉じる方向に押し込んで第2のスライドレール14を中間スライドレール16を介して第1のスライドレール12内に収納されるように滑り込ませると、第2のスライドレール14がレール・ブロック連結手段60を介してロック手段20のブロックキャリアー42に連結され(図12(A)及び(B)参照)、第2のスライドレール14が更に前進すると、ブロックキャリアー42を介してスライドブロック40を第1のスライドレール12の奥端側に移動する(図12(C)参照)。
【0034】
このようにしてスライドブロック40が前進すると、ロック部材50のロックピン54は、図13(A)(B)に示すスライドブロック40の案内溝46の開口46Oから後退側誘導面46Ra、46Rb、46Rcを経てロックアーム50の揺動によって幅寄せされながら後退側誘導面46Rdの延長部分に係入するが、引出し本体3から手を離すと、ばね44によってスライドブロック40が引出し本体3を開く方向に戻されるため、ロック部材50のロックピン54がスライドブロック40の案内溝46のロック面46Lに係合してスライドブロック40、即ち第2のスライドレール14が引出し本体3の後退方向(引出し本体が開く方向)に戻されるのをロックする(図6参照)。
【0035】
次に、引出しキャビネット1を開くため、引出し本体3をばね44に抗して一旦引き込む(閉じる)方向(前進方向)に押し込んで第2のスライドレール14を介してスライドブロック40を第1のスライドレール12の奥端側に変位すると、ロック部材50のロックピン54は、図13(C)の「b」で示すように、スライドブロック40の案内溝46のロック面46Lから前進側誘導面46Faによって幅寄せされながら前進側誘導面46Fbの延長部分に入り込むので、その後、引出し本体3を引き出すと、第2のスライドレール14を介してスライドブロック40を引出し方向に移動し、このため、ロック部材50のロックピン54は、案内溝46の前進側誘導面46Fcによって更に幅寄されながら案内溝46の開口46Oから脱出する。従って、引出し本体3は、筐体2から引き出すことができる。
【0036】
本発明の引出しスライダーSは、第1と第2のスライダー12、14が重合した状態で第2のスライドレール14が第1のスライドレールに対して傾斜するのを防止する傾斜防止手段(又は第2のスライドレール14の第2のスライドレールに対する緩みを防止する緩み防止手段)70を備えている。
【0037】
この傾斜防止手段70は、図9及び図21に示すように、第2のスライドレール14の前端側で外面側(引出し本体3とは反対側、即ち、図示の場合中間スライドレール16に対向する面)に相対するレールに向けて突出するように設けられた突部72と、第1と第2のスライドレール12、14の重合状態でこの突部72が係合するように第2のスライドレール14の外面に相対するレールの平坦な係合壁面74とから成っていて第2のスライドレール14がこの突部72と係合壁面74との係合によって、第1と第2のスライドレール12、14が互いに接近するのを防止することによりこれらのレール間の緩みを防止している。
【0038】
図示の形態では、第2のスライドレール14が中間スライドレール16を介して第1のスライドレール12に嵌合しているので、第2のスライドレール14の突部72が係合する平坦な係合壁面74は、中間スライドレールの内面(第2のスライドレール14に対向する面)側の端部に設けられている。
【0039】
また、図示の形態では、特に、図21に示すように、第2のスライドレール14の突部72は、そのレール壁面の一部を略L字形に打ち出しして形成されており、このL字形の突部の係合面72Eは、相対する平坦な係合壁面74から徐々に離反する傾斜面となっている。従って、図21から解るように、突部72は、その係合面72Eの全面が係合壁面74に接触しているのではなく、レールの幅方向に線接触していることになり、これは、第2のスライドレール14が嵌合するレール、図示の形態では、中間スライドレール16に低い抵抗で緩みを防止するので、引出し本体3の引き込み抵抗を大きくすることがない。
【0040】
なお、中間スライドレール16を用いることなく、第2のスライドレール14が第1のスライドレール12に直接嵌合している場合には、第2のスライドレール14に設けられた傾斜防止用の突部72は、第1のスライドレール12の内面側の平坦な係合壁面74に係合することになる。
【0041】
上記のように、本発明のスライダーSは、第1と第2のスライドレール12、14が重合した状態で第2のスライドレール14が第1のスライダー12に対して緩むのを防止する傾き防止手段70を備えているので、引出し本体3を引き出す(開放する)ために、引出し本体3の正面中央ではなく、図22の矢印Yで示すように、左右いずれかにずれた位置で引出し本体3を押し込むようなことがあっても、引出し本体3は、押し込み側のみが押し込まれるような傾き(図22参照)を生ずることがなく、引出し本体3の左右両側が平行な状態を維持したまま押し込まれ、左右両方のスライダーSのロックを確実に解放することができる。従って、引出しキャビネット1を確実に開放することができ、引出し本体3の傾きによるスライダーSの破損を有効に防止することができる。
【0042】
また、傾斜防止手段70が第2のスライドレール14の前端側に設けられた突部72から成っていると、引出し本体3を引き出す際、傾斜防止用の突部72は、相対する係合壁面74から引出し方向(開く方向)に離反し、従って、第2のスライドレール14は、第1のスライドレール12に対する緩みを回復するため、引出し本体3の引出し操作は、傾斜防止手段70の抵抗を受けることなく、円滑に行うことができる。
【0043】
更に、緩み防止用突部72が第2のスライドレール14のレール壁面から打ち出しによって形成すると、第2のスライドレール14の成形時に一体に形成されるので、傾斜防止手段70の形成が容易であり、その上、突部72が打ち出しによって形成されると、この突部72は、相対する係合壁面74に対して弾性的に係合し、引出し本体3の引き込み作業を抵抗なく円滑に行うことができる。特に、この打ち出し突部72に傾斜係合面72Eを有すると、突部72が相対する係合壁面74に円滑に係合することができ、引出し本体3の引き込み作業の円滑性を一層向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、引出し本体を一旦引き込む方向に押し込んでロックを外すロック手段を備えている引出しスライダーにおいて、引出し本体を開放するために、引出し本体の中央ではなく、中央から左右いずれかにずれた位置で押し込むことがあっても、両側のスライダーのロックを確実に解放して引き出し本体を有効に引き出すことができ、高い産業上の利用性を有する。
【符号の説明】
【0045】
1 引出しキャビネット
2 筐体
3 引出し本体
S 引出しスライダー
12 第1のスライドレール
14 第2のスライドレール
14RS 抜け止め部材
16 中間スライドレール
20 ロック手段
30 フレーム
32 フレーム本体
32G 案内溝
32PS ストッパー
34 横片
40 スライドブロック
42 ブロックキャリアー
44 ばね
46 案内溝
46O 幅広の開口
46L ロック面
46R、46Ra、46Rb、46Rc、46Rd 引き込み後退誘導面
46F、46Fa、46Fb、46Fc 前進誘導面
50 ロック部材
52 揺動ピン
54 係合ピン
60 レール・ブロック連結手段
62 爪部材
64 鉤部材
64P 案内ピン
70 傾斜防止手段(緩み防止手段)
72 突部
72E 係合面
74 係合壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の相対する内壁面に取付けられる第1のスライドレールとこの第1のスライドレールに摺動自在に係合し筐体に出し入れ自在に移動する引出し本体に取付けられる第2のスライドレールとから成る1対のスライダーを備え、各スライダーは、引出し本体が筐体内に引き込まれて第1と第2のスライドレールが重合した状態で前記第1と第2のスライドレールを相互にロックするロック手段を含み、前記ロック手段は、引出し本体を引き出す際に、引出し本体を閉じる方向に押し込んで前記第2のスライドレールを前記第1のスライドレールに対して押し込み方向に変位してロックを解放するようにしたものであるスライダー付引出しキャビネットにおいて、各スライダーは、前記第1と第2のスライダーが重合した状態で前記第2のスライドレールが前記第1のスライダーに対して傾斜するのを防止する傾斜防止手段を備えていることを特徴とするスライダー付引出しキャビネット。
【請求項2】
請求項1に記載のスライダー付き引出しキャビネットであって、前記傾斜防止手段は、前記第2のスライドレールの前端側で前記第2のスライドレールと相対するレールに向けて突出するように設けられた突部から成り、前記突部は、前記第1と第2のスライドレールの重合状態で前記第2のスライドレールに相対するレールの係合壁面に係合して前記第2のスライドレールが傾斜するのを防止していることを特徴とするスライダー付き引出しキャビネット。
【請求項3】
請求項2に記載のスライダー付き引出しキャビネットであって、前記第2のスライドレールが前記第1のスライドレールに直接嵌合し、前記第2のスライドレールに設けられた傾斜防止用の突部は、前記第1のスライドレールの内面側の係合壁面に係合していることを特徴とするスライダー付き引出しキャビネット。
【請求項4】
請求項2に記載のスライダー付き引出しキャビネットであって、前記第2のスライドレールが中間スライドレールを介して前記第1のスライドレールに嵌合し、前記第2のスライドレールに設けられた傾斜防止用突部は、前記中間スライドレールの内面側の係合壁面に係合してスライダー付き引出しキャビネット。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載のスライダー付き引出しキャビネットであって、前記第2のスライドレールの突部は、そのレール壁面の一部を略L字形に打ち出しして形成されていることを特徴とするスライダー付き引出しキャビネット。
【請求項6】
請求項5に記載のスライダー付き引出しキャビネットであって、前記第2のスライドレールL字形の突部の係合面は、相対するレールの係合壁面から前端に向けて徐々に離反する傾斜面であることを特徴とするスライダー付き引出しキャビネット。
【請求項7】
筐体の内壁面に取付けられるべき第1のスライドレールと前記第1のスライドレールに摺動自在に係合し筐体に出し入れ自在に移動する引出し本体に取付けられるべき第2のスライドレールとから成り、引出し本体が筐体内に引き込まれて第1と第2のスライドレールが重合した状態で前記第1と第2のスライドレールを相互にロックするロック手段を含み、前記ロック手段は、引出し本体を引き出す際に、引出し本体を閉じる方向に押し込んで前記第2のスライドレールを前記第1のスライドレールに対して押し込み方向に変位してロックを解放するようにしたものである引出しスライダーにおいて、前記第1と第2のスライダーが重合した状態で前記第2のスライドレールが前記第1のスライダーに対して傾斜するのを防止する傾斜防止手段を備えていることを特徴とする引出しスライダー。
【請求項8】
請求項7に記載の引出しスライダーであって、前記傾斜防止手段は、前記第2のスライドレールの前端側で前記第2のスライドレールと相対するレールに向けて突出するように設けられた突部から成り、前記突部は、前記第1と第2のスライドレールの重合状態で前記第2のスライドレールに相対するレールの係合壁面に係合して前記第2のスライドレールが前記第1のスライダーに対して傾斜するのを防止していることを特徴とする引出しスライダー。
【請求項9】
請求項8に記載の引出しスライダーであって、前記第2のスライドレールが前記第1のスライドレールに直接嵌合し、前記第2のスライドレールに設けられた傾斜防止用の突部は、前記第1のスライドレールの内面側の係合壁面に係合していることを特徴とする引出しスライダー。
【請求項10】
請求項8に記載の引出しスライダーであって、前記第2のスライドレールが中間スライドレールを介して第2のスライドレールに嵌合し、前記第2のスライドレールに設けられた傾斜防止用突部は、前記中間スライドレールの内面側の係合壁面に係合していることを特徴とする引出しスライダー。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれかに記載の引出しスライダーであって、前記第2のスライドレールの突部は、そのレール壁面の一部を略L字形に打ち出しして形成されていることを特徴とする引出しスライダー。
【請求項12】
請求項11に記載の引出しスライダーであって、前記第2のスライドレールL字形の突部の係合面は、相対するレールの係合壁面から前端に向けて徐々に離反する傾斜面であることを特徴とする引出しスライダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−34728(P2013−34728A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174325(P2011−174325)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000107572)スガツネ工業株式会社 (153)
【Fターム(参考)】