説明

スライドグラス収納用培養容器

【課題】乾燥を防止でき、かつスライドグラスの取り扱いが容易なスライドグラス収納用培養容器を提供する。
【解決手段】容器本体と蓋部とからなるスライドグラス収納用培養容器であって、前記容器本体は、外周を構成する本体側壁部と前記本体側壁部の内側を構成する底面部とからなり、前記底面部は、前記底面部から突出する隔壁で仕切られた貯水部と、前記隔壁と本体側壁部との間に形成されたスライドグラス収納部と、前記スライドグラス収納部の底部または側部から突出してなるスライドグラス支持部とを有し、前記蓋部は、外周を構成する蓋側壁部と前記蓋側壁部の内側を構成する天面部とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養を行うためのスライドグラスを湿度を保持したままインキュベーター内に保存することができ、かつ倒立顕微鏡を使用して培養中の細胞を観察することができる、スライドグラス収納用培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養を行う場合には、シャーレ、フラスコ、ペトリディッシュ、コニカルチューブなどが使用され、細胞数が多い場合に有用である。
一方、薬剤スクリーニングや細胞毒性試験、幹細胞の分化誘導因子の評価試験などでは、検出感度を向上させることで少量の細胞を使用した実験が行えるようになってきた。例えば、スライドグラスの表面に複数のウェルを形成するように超薄高撥水性印刷を施した高撥水性コーティングスライドグラスは、1枚のスライドグラス上に複数の細胞培養エリアが形成され、蛍光抗体法、免疫疾患検査、細胞培養、ウイルス固定、病理、細胞診などに好適な実験器具である。1枚の高撥水性コーティングスライドグラスを用いて複数の試験を同時進行することができ、かつ短時間に試験結果を取得できる利益もある。
【0003】
このような高撥水性コーティングスライドグラスを用いて細胞培養実験を行う際に最も懸念されることは、落下菌の混入による培地汚染であり、このようなコンタミネーションを回避するため、滅菌した容器内で培養する必要がある。現在、滅菌済プラスチック製シャーレにスライドグラスを投入した細胞培養が行われている。
【0004】
また、細胞を含む培養液を導入及び保持できる光透過性の担体と、該担体の底部に密着可能に配置される光透過性の基板とからなるチャンバーもある(特許文献1)。顕微鏡ステージ上で培養細胞の活性を維持しながら細胞を顕微鏡観察することを可能にするものであり、担体として、ポリ(ジメチルシロキサン)などのシリコーン樹脂で形成された直径33mm、高さ9mmの円柱状のブロックを使用し、前記ブロックの1つの平面に幅1mm、深さ0.5mmの溝を彫り、その溝の中央近傍に直径3mmの円形のスペースを形成し、この面をスライドグラスなどの基板に接着することで細胞培養スペースを形成している。培養後のチャンバーを顕微鏡の観察ステージに載置すれば、培養環境を維持したまま細胞を顕微鏡観察することができる、という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−11814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載のチャンバーは、細胞培養スペースとして専用の円柱状のブロックを使用するものであり、一般に市販されている高撥水性コーティングスライドグラスを用いて細胞培養を行うものではない。
【0007】
また、一般に使用される高撥水性コーティングスライドグラスは、高撥水性印刷によって細胞培養エリアを形成したものであり、高撥水性コーティングは薄膜であるため細胞培養エリアの深さも極めて浅く、培養中に培養液が乾燥しやすい。上記特許文献1では、チャンバー内の湿度の保持のため担体の一部に水槽を形成しているが、細胞培養スペースを形成する特定構造の円柱状ブロックに更に成型加工を施すものであり、製造が容易でなく、安価な提供が困難である。
【0008】
一方、滅菌済プラスチック製シャーレにスライドグラスを投入して細胞培養を行う場合、細胞培養液の蒸発を防止するため、シャーレ内にスライドグラスと共に水を入れた貯水槽や水を含ませた脱脂綿などを配置すると貯水槽や脱脂綿が移動しやすく、スライドグラス汚染の一因となる。また、湿度によって、シャーレの底面部とスライドグラスとが密着し、シャーレからスライドグラスを取出すことが困難になり、取り扱いが容易でない。また、培養細胞は、培養条件に近い環境下で顕微鏡観察できることが好ましいが、上記したようにスライドグラスや貯水槽などが移動しやすく、かつシャーレは、顕微鏡下での観察を目的としたものではないため、このような細胞観察が困難である。
【0009】
細胞培養は、基礎研究のみならず医療や産業分野でも応用される技術であり、検体数も多い。このため、培養環境を維持しつつ、スライドグラスや蓋部の脱着を容易に行えることが細胞観察には求められるが、上記したシャーレを使用する方法ではこれが十分でない。
【0010】
更に、多量の試料を取り扱うには、培養容器に複数のスライドグラスを収納して培養でき、このような複数の細胞培養容器は、安定かつコンパクトに積層しうることが好ましいが、これらを十分に満足させるものは存在しない。
【0011】
上記現状に鑑み、本発明は、スライドグラスと培養容器との密着を回避し、かつ湿度を維持しつつ細胞培養を行うことできるスライドグラス収納用培養容器を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、蓋部の脱着が容易であり、かつ落下菌の混入を防止してスライドグラス上で細胞培養を行うことができるスライドグラス収納用培養容器を提供することを目的とする。
【0013】
更に本発明は、細胞培養中や培養終了後に、蓋部を取り外すことなく、培養環境を維持しつつ顕微鏡観察を行うことができるスライドグラス収納用培養容器を提供することを目的とする。
【0014】
加えて、複数を安定かつコンパクトに積層しうるスライドグラス収納用培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、培養容器内にスライド収納部と貯水部とを形成し、かつ前記スライド収納部に、その底面より突起してなるスライド支持部を形成することでスライドグラスの密着を回避しつつ湿度を維持できること、培養容器に配設する蓋部を階段状の側壁部で構成すると容器本体への蓋部の脱着を容易に行うことができかつ落下菌の混入を防止できること、容器本体の外周に把持用耳部を形成すると、容器本体に蓋部を装着した状態で安定してスライドグラス収納用培養容器を取り扱うことができること、容器本体部の底面部の下面と蓋部天面部の上面とを嵌合できる構造にすることで、複数のスライドグラス収納用培養容器を安定かつコンパクトに積層できること、スライド収納部を透明部材で構成すれば、容器本体にスライドグラスを収納したまま顕微鏡観察が可能となることなどを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、容器本体と蓋部とからなるスライドグラス収納用培養容器であって、前記容器本体は、外周を構成する本体側壁部と前記本体側壁部の内側を構成する底面部とからなり、前記底面部は、前記底面部から突出する隔壁で仕切られた貯水部と、前記隔壁と本体側壁部との間に形成されたスライドグラス収納部と、前記スライドグラス収納部の底部または側部から突出してなるスライドグラス支持部とを有し、前記蓋部は、外周を構成する蓋側壁部と前記蓋側壁部の内側を構成する天面部とからなり、前記蓋部の蓋側壁部は、前記天面部に向かって短径となる階段状であり、前記容器本体の上部に前記蓋部を装着すると、前記本体側壁部の上方に前記蓋側壁部の階段状の最上段が配設されることを特徴とする、スライドグラス収納用培養容器を提供するものである。
【0017】
本発明は、前記容器本体は、底面部に嵌合用凹部を有し、前記蓋部は、前記蓋部の上面に前記容器本体を積層した場合に前記底面部に形成した嵌合用凹部と嵌合する嵌合用凹部が前記天面部に有することを特徴とする、前記スライドグラス収納用培養容器を提供するものである。
【0018】
本発明は、前記嵌合用凹部は、前記スライドグラス収納部に隣接して形成されることを特徴とする、前記スライドグラス収納用培養容器を提供するものである。
本発明は、前記嵌合用凹部は、収納するスライドグラスを取出す指挿入部の形状である、前記スライドグラス収納用培養容器を提供するものである。
【0019】
本発明は、前記容器本体は、前記本体側壁部の下端に、一対の把持用耳部が形成されることを特徴とする、前記スライドグラス収納用培養容器を提供するものである。
また本発明は、容器本体と蓋部とからなるスライドグラス収納用培養容器であって、前記容器本体は、外周を構成する本体側壁部と前記本体側壁部の内側を構成する底面部とからなり、前記底面部は、前記底面部から突出する隔壁で仕切られた貯水部と、前記隔壁と本体側壁部との間に形成されたスライドグラス収納部と、前記スライドグラス収納部の底部または側部から突出してなるスライドグラス支持部と、前記スライドグラス収納部より凹部の嵌合用凹部を有し、前記蓋部は、外周を構成する蓋側壁部と前記蓋側壁部の内側を構成する天面部とからなり、前記蓋部の上面に前記容器本体を積層した場合に前記底面部に形成した嵌合用凹部と嵌合する嵌合用凹部が前記天面部に有することを特徴とする、スライドグラス収納用培養容器を提供するものである。
【0020】
本発明は、前記スライドグラス収納部は、透過である、前記スライドグラス収納用培養容器を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
近年の創薬においては、候補物質のスクリーニングを培養細胞を使用してしばしば行われている。このようなスクリーニングは多検体を短時間に行うことが望まれており、スライドグラスを使用した細胞培養法が有効である。本発明によれば、培養容器内にスライド収納部と貯水部とが形成され、かつ前記スライド収納部に、その底面より突起してなるスライド支持部が形成されるため、スライドグラスの密着を回避しつつ湿度を維持して細胞培養を迅速に行うことができる。
【0022】
本発明によれば、培養容器に配設する蓋部が階段状の側壁部で構成されるため、容器本体への蓋部の脱着を容易に行うことができかつ落下菌の混入を防止できる。その際、容器本体の外周に把持用耳部を形成されると、容器本体に蓋部を装着した状態で安定してスライドグラス収納用培養容器を取り扱うことができる。
【0023】
本発明によれば、容器本体部の底面部と蓋部上面とが嵌着できるため、複数のスライドグラス収納用培養容器を安定かつコンパクトに積層できる。
また、再生医療への応用が期待されている幹細胞研究においては、幹細胞を目的の細胞に安定的に分化させる物質の探索が盛んに行われている。それらの物質の検索において、細胞培養基質および分化誘導物質のスクリーニングを行う場合には、スライドグラスを使用した細胞培養法が有効であり、培養容器からスライドグラスを取出すことなく細胞の形態を観察することができれば、より迅速な評価が可能である。本発明によれば、スライド収納部や蓋部が透明部材で構成される場合は、細胞培養中や細胞培養後に、容器本体にスライドグラスを収納したまま顕微鏡観察を行うことができる。
【0024】
本発明によれば、シートの真空成形で製造することができ、その際、スライド収納部や蓋部の金型部を鏡面加工すれば、スライド収納部や蓋部が透明なスライドグラス収納用培養容器を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のスライドグラス収納用培養容器の好適な態様の一例を示す側面図である。図1(a)は、蓋部側壁部(70)と天面部(60)とからなる蓋部(50)の側面図であり、図1(b)は、底面部(20)と本体側壁部(30)とからなる容器本体(10)の側面図であり、図1(c)は、容器本体(10)に蓋部(50)を装着して形成されるスライドグラス収納用培養容器(100)の側面図である。
【図2】図2は、蓋部(50)の上部に容器本体(10)を装着した側面図であり、蓋部(50)の天面部(60)に形成した嵌合用凹部(63)と容器本体(10)の底面部(20)に形成した嵌合用凹部(27)とが嵌合する態様を説明する図である。
【図3】図3は、本発明を構成する容器本体(10)の平面図である。
【図4】図4は、図3のA−A線断面図である。
【図5】図5は、図3のB−B線断面図である。
【図6】図6は、図3のC−C線断面図である。
【図7】本発明を構成する容器本体の他の態様であり、2つの貯水部(22)の間に形成した嵌合用凹部(27a)と共に、スライドグラス収納部(23)の長手方向の略中央部であって、スライドグラス収納部(23)と本体側壁部(30)との間に、平面視、台形の嵌合用凹部(27b)が形成される態様を説明する平面図である。
【図8】図8は、図3に示す容器本体(10)に好適に装着できる蓋部(50)の平面図である。前記天面部(60)は、前記蓋部(50)の上面に前記容器本体(10)を積層した場合に、前記底面部(20)に形成した嵌合用凹部(27)と嵌合する嵌合用凹部(63)が形成されている。
【図9】図9は、図8のD−D線断面図である。
【図10】図10は、図8のE−E線断面図である。
【図11】図11は、図2のF−F線断面図である。蓋部(50)に形成した嵌合用凹部(63)と天面部(60)が、それぞれ、容器本体(10)の底面部(20)に形成した嵌合用凹部(27)とスライド収納部(25)と嵌合し、蓋部(50)と容器本体(10)とを安定して固定される態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、容器本体と蓋部とからなるスライドグラス収納用培養容器であって、前記容器本体は、外周を構成する本体側壁部と前記本体側壁部の内側を構成する底面部とからなり、前記底面部は、前記底面部から突出する隔壁で仕切られた貯水部と、前記隔壁と本体側壁部との間に形成されたスライドグラス収納部と、前記スライドグラス収納部の底部または側部から突出してなるスライドグラス支持部とを有し、前記蓋部は、外周を構成する蓋側壁部と前記蓋側壁部の内側を構成する天面部とからなり、前記蓋部の蓋側壁部は、前記天面部に向かって短径となる階段状であり、前記容器本体の上部に前記蓋部を装着すると、前記本体側壁部の上方に前記蓋側壁部の階段状の最上段が配設されることを特徴とする、スライドグラス収納用培養容器である。以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。

(1)スライドグラス収納用培養容器
本発明のスライドグラス収納用培養容器を構成する容器本体や蓋部の材質や製造方法に関する制限はない。しかしながら、合成樹脂からなるシート状物の真空成形であれば、安価に製造できる。以下、シート状物の真空成形で製造した容器本体と蓋部について主として説明する。ただし、本発明のスライドグラス収納用培養容器は、上記要件を備えるものであれば、射出成形その他によって製造されたものであってもよい。
【0027】
本発明のスライドグラス収納用培養容器(100)は、例えば、図1(b)に示す、側面視、底面部(20)と本体側壁部(30)とからなる容器本体(10)と、図1(a)に示す、側面視、蓋部側壁部(70)と天面部(60)とからなる蓋部(50)で構成される。図1(a)の符号73は、蓋部側壁部(70)の階段状を構成する踊り場部である。なお、図1(b)は、シート状物の真空成形によって成形される容器本体(10)であって、強度を確保するために、本体側壁部(30)が階段状に変形した逆U字型で内壁と外壁とが成形される態様となっている。
【0028】
図1(c)に、容器本体(10)に蓋部(50)を装着して形成されるスライドグラス収納用培養容器(100)の側面図を示す。符号80は、スライドグラスを載置した仮想線である。前記容器本体(10)の上部に前記蓋部(50)を装着すると、前記本体側壁部(30)の上方に前記蓋側壁部(70)の階段状の最上段が配設される。このように容器本体(10)に蓋部(50)を装着するには、たとえば、蓋部側壁部(70)の階段状を構成する踊り場部(73)の内側を本体側壁部(30)の上端に係止させる方法や、容器本体(10)の底面部にフランジを配設し、蓋側壁部(70)の前記踊り場(73)以下の高さが本体側壁部(30)の高さよりも高い蓋部(50)を前記フランジの上に載置する方法で、本体側壁部(30)の上方に前記蓋側壁部(70)の階段状の最上段を配設することができる。本発明では、後記するように、容器本体(10)には貯水部が配設されるが、本体側壁部(30)の上方に蓋部(50)の最上段が配設されるため、最上段のスペースを介して貯水部の水分が蒸発して培養装置内に均一に充満し、容器本体(10)と蓋部(50)との内部に湿度環境に優れる細胞培養スペースを形成することができる。しかも、容器本体(10)と蓋部(50)との接触面積が少ないため、蓋部(50)の脱着が容易で、作業効率に優れる。
【0029】
また、本発明のスライドグラス収納用培養容器は、後に詳細に説明するように、容器本体(10)の底面部(20)に、嵌合用凹部(27)を形成することができ、前記蓋部(50)は、前記蓋部(50)の上面に前記容器本体(10)を積層した場合に前記底面部(20)に形成した嵌合用凹部(27)と嵌合する嵌合用凹部(63)を前記天面部(60)に形成することができる。蓋部(50)の上部に容器本体(10)を積層すると、図2に示すように、蓋部(50)の前記嵌合用凹部(63)と容器本体(10)の嵌合用凹部(27)とが嵌合するため、複数のスライドグラス収納用培養容器を安定かつコンパクトに積層し、および収納することができる。
【0030】
本発明のスライドグラス収納用培養容器(100)で使用できるスライドグラスに制限はないが、スライドグラスの表面に超薄高撥水性印刷を施した高撥水性コーティングスライドグラスを用いる細胞培養に特に好適である。高撥水性コーティングスライドグラスは、細胞培養面が極めて浅くこのため細胞培養中に培養液が乾燥しやすいが、本願のスライドグラス収納用培養容器(100)によれば、培養環境下に貯水部が配設されるため乾燥を防止でき、かつスライドグラスの脱着、蓋部の脱着も容易であり、細胞培養操作を円滑に行うことができる。

(2)容器本体
本発明のスライドグラス収納用培養容器(100)を構成する容器本体(10)は、スライドグラスを載置する本体部である。外周を構成する本体側壁部(30)と前記本体側壁部(30)の内側を構成する底面部(20)とからなる。図3に容器本体(10)の平面図を示す。
【0031】
図3は、シート状物の真空成形によって成形される容器本体(10)であり、本体側壁部(30)は階段状に変形した逆U字型に成形され、シート状物の一の面によって容器本体(10)の内壁と外壁とが成形されている。なお、本発明において、容器本体(10)の本体側壁部(30)は、階段状に変形した逆U字型に成形される場合に限定されず、単なる逆U字型であってもよく、蓋部(50)と同様にシート状物の表裏によって側壁の内壁と外壁とが形成される態様であってもよい。また、容器本体(10)に蓋部(50)を装着した後に、底面部(20)の上部に培養空間が形成できればよく、その範囲で、本体側壁部(30)の内壁は、底面部から略直立する平面に限定されるものでもない。
【0032】
底面部(20)は、本体側壁部(30)の内側を構成するが平面に限定されるものではなく、凹凸によって機能を有する構成部を形成することができる。図3では、容器本体(10)の底面部(20)は、前記底面部から突出する隔壁(21)で仕切られた貯水部(22)と、前記隔壁(21)と本体側壁部(30)との間に形成されたスライドグラス収納部(23)と、前記スライドグラス収納部(23)の底面部から突出してなる一対のスライドグラス支持部(25)とを有する。図3では、2箇所のスライドグラス収納部(23)が形成される態様を示し、便宜のため、一方に載置するスライドグラスの仮想線を符号80で示した。
【0033】
本発明のスライドグラス収納用培養容器(100)では、更に、スライドグラス収納部(23)よりも断面視凹部を形成する嵌合用凹部(27)が形成されるものであってもよく、本体側壁部(30)から一対の把持用耳部(40)が配設されるものであってもよい。なお、嵌合用凹部(27)とは、蓋部(50)の上面に容器本体(10)を積層した場合に、蓋部(50)と容器本体(10)とを安定して積層できるように形成する凹部である。蓋部(50)の天面部(60)にも前記嵌合用凹部(27)に対応する嵌合用凹部(63)を形成し、相互に嵌合することで蓋部と容器本体部との積層状態を安定させることができる。なお、図3に、底面部(20)と本体側壁部(30)の範囲を細線で示す。本願発明において前記嵌合用凹部(27)は、底面部(20)に形成される構造物である。
【0034】
図3のA−A線断面図を図4に示す。前記したように、底面部(20)に形成した嵌合用凹部(27)と蓋部(50)の天面部(60)に形成した嵌合用凹部(63)とを嵌合することで、蓋部(50)の上面にスライドグラス収納用培養容器を積層した場合に、平面方向の上下、左右のゆれを回避して安定した積層を可能とすることができる。従って、嵌合用凹部(27)は上記機能を発揮するように形成されればよく、その形状などに限定はない。図4では、嵌合用凹部(27)が底面部(20)の最深部を構成するが、嵌合用凹部(27)は、蓋部(50)の上部に積層した場合に安定した積層を可能とするものであれば、底面部(20)の最深部を構成する場合に限定されるものではない。なお、図4では、容器本体(10)を平面に載置した場合、前記逆U字型に成形された本体側壁部(30)の外壁の下端が底面部(20)の前記した最深部と同じ平面上に形成される態様を示す。
【0035】
図3のB−B線断面図を図5に示す。図3に示すスライドグラス収納用培養容器(100)では、スライドグラス収納部(23)の長手方向の両端部に、断面視、スライドグラス収納部(23)よりも突出した一対のスライドグラス支持部(25)が形成される。本発明では、貯水部(22)によって培養容器内部が加湿されるが、前記スライドグラス収納部(23)にスライドグラス支持部(25)が配設されているため、スライドグラス収納部(23)とスライドグラス(80)との密着を回避することができる。なお、スライドグラス支持部(25)は、スライドグラス収納部(23)より0.5〜10mmの高さであることが好ましい。スライドグラスの密着を回避し、脱着を容易に行うことができる。
【0036】
また、図3のC−C線断面図を図6に示す。スライドグラス収納部(23)の幅方向の両側に嵌合用凹部(27)が形成され、全3箇所の嵌合用凹部(27)は、前記スライドグラス収納部(23)よりも、断面視、凹部を形成する。図6には、これらがいずれも底面部(20)の最深部を構成し、同一平面に形成される態様を示す。
【0037】
図3では、スライドグラス収納部(23)と本体側壁部(30)との間に直線状の嵌合用凹部(27)を形成した態様を示すが、嵌合用凹部(27)の形状や嵌合用凹部(27)の形成位置もこれに限定されるものではない。例えば、図7に示すように、2つの貯水部(22)の間に形成した嵌合用凹部(27a)と共に、スライドグラス収納部(23)の長手方向の略中央部であって、スライドグラス収納部(23)と本体側壁部(30)との間に、平面視、台形状の嵌合用凹部(27b)を形成してもよい。前記嵌合用凹部(27)は、断面視、スライドグラス収納部(23)よりも凹部形成するため、前記嵌合用凹部(27a)と嵌合用凹部(27b)とをスライドグラスを取出す際の指挿入部として使用することができる。
【0038】
なお、図3、図7では、容器本体(10)内に、2箇所のスライドグラス収納部(23)が配設される態様を示したがこれに限定されるものではなく、1箇所であっても、3箇所以上が配設されるものであってもよい。また、スライドグラス支持部(25)も、スライドグラス収納部(23)の長手方向の両端に、底面から突出して形成される場合に限定されない。例えば、スライドグラス収納部(23)の長手方向の側部から突出して形成した一対の凸部であってもよく、スライドグラス収納部(23)の底面とスライドグラスとの密着を回避できるものであれば、その形状や数などに制限はない。貯水部(22)の形状や深さも同様であり、収納するスライドグラスの数、その他に応じて適宜選択することができる。加えて、スライドグラス収納部(23)の形状も、方形のスライドグラスが振動などによって移動しないように複数個所で固定されるものであれば、平面視、不定形であってもよい。図3、図7では、本体側壁部(20)の一部がスライドグラス(80)の長手方向の両端にやや突出し、スライドグラス(80)を固定できる態様となっている。
【0039】
本発明では、前記スライドグラス収納部(23)の底面は、透明であることが好ましい。例えば、倒立顕微鏡などで試料を下から観察する場合には、スライドグラス収納部(23)が透明であれば、スライドグラス収納部(23)にスライドグラスを装着したまま顕微鏡観察を行うことができるからである。この際、蓋部(50)の対応箇所を光が透過できる程度に透明にすれば蓋部(50)を装着したまま顕微鏡観察を行うことができる。なお、本発明では、蓋部(50)を取り外して顕微鏡観察することもできる。このような透明性は、金型を鏡面加工することで確保することができる。
【0040】
更に、容器本体(10)がシート状物の真空成形によって成形される場合には、前記逆U字型の本体側壁部(30)の頂部近傍に凹凸を形成すれば、更に強度を向上させることができる。

(3)蓋部
本発明のスライドグラス収納用培養容器を構成する蓋部(50)は、細胞培養の際に落下菌の混入を防止し、かつ培養環境を維持するものである。前記図1(a)に示すように、外周を構成する蓋側壁部(70)と前記蓋側壁部(70)の内側を構成する天面部(60)とからなる。
【0041】
図8に、図3に示す容器本体(10)に好適に装着できる蓋部(50)の平面図を示す。なお、便宜のため、図8の上半分部にスライドグラス(80)の仮想線を示す。本発明では、倒立顕微鏡などで培養細胞を観察する場合には、蓋部(50)を取り外すことなく、培養環境を維持したまま細胞観察を行うことができる。このため、容器本体(10)のスライドグラス収納部(23)に対応する蓋部(50)の天面部(60)は、細胞観察ができる光量が透過できる程度の透明性を有する事が好ましい。鏡面加工した金型を使用することで、このような透明性を確保することができる。
【0042】
本発明で使用する蓋部(50)の前記天面部(60)には、前記蓋部(50)の上面に前記容器本体(10)を積層した場合に、前記底面部(20)の前記嵌合用凹部(27)と嵌合する嵌合用凹部(63)が形成されることが好ましい。図8のD−D線断面図を図9に示し、図8のE−E線断面図を図10に示す。
【0043】
前記図2は、図8に示す蓋部(50)の上面に図3に示す容器本体(10)を積層した側面図である。図2のF−F線断面図を図11に示す。図11に示すように、蓋部(50)に形成した嵌合用凹部(63)と天面部(60)が、それぞれ、容器本体(10)の底面部(20)に形成した嵌合用凹部(27)とスライド収納部(25)とに接触し、蓋部(50)と容器本体(10)とが安定して固定される。
【0044】
なお、前記図1(c)に示したように、蓋部(50)の蓋部側壁部(70)は階段状であり、本体側壁部(30)の上方に蓋部(50)の最上段が配設される。容器本体(10)には隔壁(21)によって仕切られた貯水部(22)が配設されるが、隔壁(21)の上端が蓋部(50)の天面部(60)と接触すると貯水部(22)に投入した水が培養装置内に拡散することができない。しかしながら、本体側壁部(30)の上方に蓋部(50)の最上段が配設されると、最上段のスペースを介して貯水部の水が培養装置内に均一に充満し、容器本体(10)と蓋部(50)との内部に湿度環境に優れる細胞培養スペースを形成することができる。最上段の高さは、1〜10mmであることが好ましい。この範囲で、加湿状態を確保および維持することができる。
【0045】
本発明では、蓋側壁部(70)を、天面部(60)に向かって短径となるテーパー状とし、容器本体(10)の本体側壁部(20)の外周よりも蓋側壁部(70)の内周を大きく設計することで、容器本体(10)の本体側壁部(30)の外周と蓋部(50)の蓋側壁部(70)の内周とを摺動させることなく相互に装着でき、容器本体(10)と蓋部(50)との接触面積が少ないため、蓋部(50)の脱着が容易で、作業効率に優れ、細胞培養操作および顕微鏡観察を迅速に行うことができる。
【0046】
すなわち、本発明は、落下菌の混入や乾燥を防止するものであるが、これを厳密に確保するために容器本体と蓋部との密着性を高めると、著しく操作性が低下する。そこで、蓋部を階段状に形成し、容器本体の上部に前記階段状の最上段が配設されるように構成することで、容器本体(10)と蓋部(50)との接触面積が少ないため、上記目的を達成しつつ蓋部(50)の脱着が容易で、多量の試料を効率的に処理できることを見出したのである。これにより、細胞培養操作および顕微鏡観察を迅速に行うことができる。
【0047】
更に、蓋部(50)がシート状物の真空成形によって成形される場合には、天面部(60)に凹凸を形成すれば、強度を向上させることができる。ただし、このような凹凸も、嵌合用凹部となりうる。したがって、このような凹凸を形成する場合も、容器本体(10)に対応する凹凸を形成し、相互に嵌合できるように配設する。

(4)使用方法
本発明のスライドグラス収納用培養容器を使用するには、まず、容器本体(10)の貯水部(22)に所定量の水を仕込む。ついで、スライドグラス支持部(25)の上にスライドグラスを載置する。複数のスライドグラス収納用培養容器を使用する場合には、これらを積層し、インキュベーターで培養することができる。本発明によれば、インキュベーター内に複数のスライドグラス収納用培養容器をコンパクトに収納することができる。
【0048】
倒立顕微鏡などでスライド下部から観察する場合には、培養中または培養終了後、蓋部(50)を取り外すことなく、培養環境を維持したまま、顕微鏡ステージに載せて観察を行うことができる。
【0049】
なお、本発明のスライドグラス収納用培養容器に導入された細胞は、市販されている一般的な顕微鏡で、透過光や蛍光、発光などによる観察が可能である。冷却CCDカメラなどのイメージング機器を顕微鏡に接続することで、細胞の動態を連続的に記録し解析することができる。
【0050】
使用できる顕微鏡は、特に限定されないが、例えば倒立型顕微鏡、蛍光顕微鏡、微分干渉顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡などであってもよい。
細胞は、CO2含有空気の供給下での培養が必要である細胞のすべてが包含され、通常、動物細胞がそれに含まれる。動物細胞は、哺乳類細胞、鳥類細胞、両生類細胞等の脊椎動物細胞、昆虫細胞等の無脊椎動物細胞などの初代培養細胞、継代細胞、株化細胞などを含み、特に、哺乳類細胞には、非限定的に、例えば腫瘍細胞、神経細胞、器官細胞、筋肉細胞、上皮細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、幹細胞(胚性幹(ES)細胞、誘導多能性幹(iPS)細胞、造血幹細胞、種々の体性幹細胞、等)などが含まれる。培養細胞は、その種類や目的に応じて適宜選択された培地及び培養条件で培養された細胞である。動物細胞の場合、培地は、例えばDMEM(ダルベッコMEM培地)、ハムF−12、RPMI1640、MEM、それらの任意に混合された培地などの基本培地を含む。

(5)製造方法
本発明のスライドグラス収納用培養容器は、合成樹脂、ガラスその他の部材によって製造することができる。特に好ましくは、合成樹脂である。安価かつ加工性に優れるからである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂を好適に使用することができる。
【0051】
製造方法に限定は無いが、好ましくは合成樹脂製シートの真空成形である。容器本体と蓋部とを別個に真空成形し、一対に組合わせてスライドグラス収納用培養容器を製造することができる。この際、金型のスライドグラス収納部を鏡面加工することで、スライドグラス収納部の透明性を確保することができる。他の部位は、透明であっても、金型のマット加工によって表面に微細な凹凸を形成するものであってもよい。マット加工によって蓋部(50)と容器本体(10)との密着を回避し、蓋部の装着を簡便に行うことができる。なお、スライドグラス収納部以外の部位も、鏡面加工などによって透明であってもよい。
【0052】
本発明のスライドグラス収納用培養容器は、ガス滅菌され、使用するまで滅菌状態を維持できるよう、個別包装されることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、スライドグラスの取り扱いが容易で、かつ細胞培養液の乾燥を回避しつつ細胞培養することができ、かつコンパクトに収納することができ、有用である。
【符号の説明】
【0054】
10・・・容器本体、
20・・・底面部、
21・・・隔壁、
23・・・スライドグラス収納部、
25・・・スライドグラス支持部、
27・・・嵌合用凹部、
30・・・本体側壁部、
40・・・把持用耳部、
50・・・蓋部、
60・・・天面部、
63・・・嵌合用凹部、
70・・・蓋部側壁部、
73・・・蓋部側壁部の階段状を構成する踊り場部、
80・・・スライドグラス、
100・・・スライドグラス収納用培養容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と蓋部とからなるスライドグラス収納用培養容器であって、
前記容器本体は、外周を構成する本体側壁部と前記本体側壁部の内側を構成する底面部とからなり、
前記底面部は、前記底面部から突出する隔壁で仕切られた貯水部と、前記隔壁と本体側壁部との間に形成されたスライドグラス収納部と、前記スライドグラス収納部の底部または側部から突出してなるスライドグラス支持部とを有し、
前記蓋部は、外周を構成する蓋側壁部と前記蓋側壁部の内側を構成する天面部とからなり、
前記蓋部の蓋側壁部は、前記天面部に向かって短径となる階段状であり、
前記容器本体の上部に前記蓋部を装着すると、前記本体側壁部の上方に前記蓋側壁部の階段状の最上段が配設されることを特徴とする、スライドグラス収納用培養容器。
【請求項2】
前記容器本体は、底面部に嵌合用凹部を有し、
前記蓋部は、前記蓋部の上面に前記容器本体を積層した場合に前記底面部に形成した嵌合用凹部と嵌合する嵌合用凹部が前記天面部に有することを特徴とする、請求項1記載のスライドグラス収納用培養容器。
【請求項3】
前記嵌合用凹部は、前記スライドグラス収納部に隣接して形成されることを特徴とする、請求項2記載のスライドグラス収納用培養容器。
【請求項4】
前記嵌合用凹部は、収納するスライドグラスを取出す指挿入部の形状である、請求項3記載のスライドグラス収納用培養容器。
【請求項5】
前記容器本体は、前記本体側壁部の下端に、一対の把持用耳部が形成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のスライドグラス収納用培養容器。
【請求項6】
容器本体と蓋部とからなるスライドグラス収納用培養容器であって、
前記容器本体は、外周を構成する本体側壁部と前記本体側壁部の内側を構成する底面部とからなり、
前記底面部は、前記底面部から突出する隔壁で仕切られた貯水部と、前記隔壁と本体側壁部との間に形成されたスライドグラス収納部と、前記スライドグラス収納部の底部または側部から突出してなるスライドグラス支持部と、前記スライドグラス収納部より凹部の嵌合用凹部を有し、
前記蓋部は、外周を構成する蓋側壁部と前記蓋側壁部の内側を構成する天面部とからなり、前記蓋部の上面に前記容器本体を積層した場合に前記底面部に形成した嵌合用凹部と嵌合する嵌合用凹部が前記天面部に有することを特徴とする、スライドグラス収納用培養容器。
【請求項7】
前記スライドグラス収納部は、透過である、請求項1〜6のいずれかに記載のスライドグラス収納用培養容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−24020(P2012−24020A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165567(P2010−165567)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000135151)株式会社ニッピ (18)
【Fターム(参考)】