説明

スラグ固化物の処理方法

【課題】特殊な装置を必要としない簡便な処理で、安価且つ短時間に、スラグ固化物からの浸出水のpHを水質基準の5.8〜8.6の範囲内に安定化させることができるスラグ固化物の処理方法を提供する。
【解決手段】廃棄物由来の溶融スラグを固化したスラグ固化物からの浸出水のpHを安定化させるスラグ固化物の処理方法であって、スラグ固化物と無機系酸性薬剤とを、スラグ固化物100質量部当たり無機系酸性薬剤が0.005質量部以上となる割合で混合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラグ固化物の処理方法、更に詳しくは廃棄物由来の溶融スラグを固化したスラグ固化物からの浸出水のpHを水質基準の5.8〜8.6に安定化させるスラグ固化物の処理方法に関する。都市ごみや産業廃棄物等の廃棄物の焼却残渣を溶融炉で処理すると、またかかる廃棄物をガス化溶融炉で処理すると、生成した溶融スラグがこれらの溶融炉から排出される。排出された溶融スラグは水冷や空冷により固化され、スラグ固化物となる。かかるスラグ固化物はその多くが埋立処分されているが、その一部は天然骨材代替材として土木工事用骨材やコンクリート二次製品用骨材等に利用されている。
【0002】
ところで、前記のようなスラグ固化物を埋立処分する場合、埋立処分場の構造基準、維持管理基準及び廃止基準が平成10年6月16日改正の基準省令に定められている。この廃止基準では埋立処分場を安定型処分場として廃止する基準が定められ、浸出水についてはpHが水質基準の5.8〜8.6であることが定められている。本発明はスラグ固化物からの浸出水のpHを水質基準の5.8〜8.6の範囲内に安定化させるスラグ固化物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、焼却飛灰や溶融飛灰を安定化させる処理方法として、これらに有機系薬剤、通常は各種のキレート剤を混合する方法が知られている。しかし、これをスラグ固化物を安定化させる処理方法に応用しようとした場合、かかる有機系薬剤には、効果の持続性に問題があり、分解により有害ガスや悪臭を発生し易く、有効利用上障害になるという問題がある。そこで従来、有機系薬剤に代え、無機系薬剤を用いて、スラグ固化物を安定化させる処理方法として、溶融炉から排出された溶融スラグを水砕固化する水砕槽又はその後の水洗槽に分散剤や凝集剤を加えておき、水砕固化したスラグ固化物を分散剤で洗浄処理及び/又は凝集剤で凝集処理する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。また別の処理方法として、スラグ固化物を特殊な装置で磁選処理及び破砕処理する工程において、かかる処理の前又は後にアルカリ、例えば石灰と水とを加え、加温して一定時間養生する、例えば60〜100℃で0.1〜2時間養生する方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
しかし、前記した特許文献1のようなスラグ固化物の処理方法には、水砕槽や水洗槽に分散剤や凝集剤を加えるため、これらの薬剤の使用量が多くなるとともに、薬剤が添加された水砕槽水や水洗槽水の水処理設備に負荷がかかるため、費用が嵩むという問題がある。また前記した特許文献2のようなスラグ固化物の処理方法には、特殊な装置を必要とし、実際には養生も必要とするため、装置や処理に費用が嵩み、時間もかかるという問題がある。
【特許文献1】特開2000−263015号公報
【特許文献2】特開2003−145123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、特殊な装置を必要としない簡便な処理で、安価且つ短時間に、スラグ固化物からの浸出水のpHを水質基準の5.8〜8.6の範囲内に安定化させることができるスラグ固化物の処理方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決する本発明は、廃棄物由来の溶融スラグを固化したスラグ固化物からの浸出水のpHを安定化させるスラグ固化物の処理方法であって、スラグ固化物と無機系酸性薬剤とを、スラグ固化物100質量部当たり無機系酸性薬剤が0.005質量部以上となる割合で混合することを特徴とするスラグ固化物の処理方法に係る。
【0007】
本発明に係るスラグ固化物の処理方法(以下、単に本発明の処理方法という)でも、処理対象はスラグ固化物である。前記したように、都市ごみや産業廃棄物等の廃棄物の焼却残渣を溶融炉で処理すると、またかかる廃棄物をガス化溶融炉で処理すると、生成した溶融スラグがこれらの溶融炉から排出される。排出された溶融スラグは水冷や空冷により固化され、スラグ固化物となる。本発明の処理方法ではかかるスラグ固化物を処理する。
【0008】
本発明の処理方法では、前記したようなスラグ固化物を無機系酸性薬剤と混合し、好ましくは更に石灰系薬剤と混合する。無機系酸性薬剤や石灰系薬剤として液状物、例えば水性液を用いる場合には、そのままスラグ固化物と混合することもできるが、無機系酸性薬剤や石灰系薬剤として固状物、例えば粉状物を用いる場合には、それらがスラグ固化物の表面に充分に均一付着するようにするため、スラグ固化物の水分を予め5〜15質量%に調整しておくのが好ましく、6〜10質量%に調整しておくのがより好ましい。混合時のスラグ固化物の温度は、該スラグ固化物から明らかに且つ直ちに水分が蒸発するような高温でない限り、特に制限されないが、一般には所謂常温、例えば20〜80℃であればよい。
【0009】
本発明の処理方法において、無機系酸性薬剤としては、いずれも無機系で酸性の、リン酸系薬剤、塩化鉄系薬剤、硫酸アルミ系薬剤、塩化アルミ系薬剤等が挙げられる。リン酸系薬剤としては、リン酸、第一リン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、第二リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の他に、これらを主成分とする薬剤があげられる。また塩化鉄系薬剤としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の他に、これらを主成分とする薬剤が挙げられる。更に硫酸アルミ系薬剤としては硫酸バンドの他にこれを主成分とする薬剤が挙げられ、塩化アルミ系薬剤としてはポリ塩化アルミの他にこれを主成分とする薬剤が挙げられる。なかでも、無機系酸性薬剤としては、リン酸、塩化第二鉄、硫酸バンド及びポリ塩化アルミから選ばれる一つ又は二つ以上が好ましく、これらは液状物であっても又は固状物であってもよいが、液状物が好ましい。
【0010】
また本発明の処理方法において、石灰系薬剤としては、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等の他に、これらを主成分とする薬剤が挙げられるが、なかでも消石灰が好ましい。
【0011】
スラグ固化物が溶融炉から排出された溶融スラグを水砕固化したものである場合、かかるスラグ固化物は一般に、水砕槽からの引上げ→搬送→磁選→搬送→破砕→搬送→貯留の工程で処理されている。またスラグ固化物が溶融炉から排出された溶融スラグを空冷により固化したものである場合、かかるスラグ固化物は一般に、空冷装置からの搬送→一次破砕→分級→搬送→二次破砕→分級→搬送→貯留の工程で処理されている。そしてかかるスラグ固化物の処理工程において、一次破砕や二次破砕を含む意味での破砕には、高速遠心式磨砕機やケージミル等、各種の形式の破砕機、粉砕機、磨砕機等と称されるものが使用されているが、これらはいずれも、スラグ固化物を激しく撹拌しつつ破砕するようになっている。
【0012】
したがって、無機系酸性薬剤や更には石灰系薬剤をスラグ固化物の表面へ充分に均一付着させるためには、前記のようにスラグ固化物を、ここでは一次破砕や二次破砕を含む意味での破砕する工程において、その破砕直前、破砕中及び/又は破砕後に、無機系酸性薬剤や更には石灰系薬剤を加えて混合するのが好ましい。なかでも、スラグ固化物が溶融炉から排出された溶融スラグを水砕固化したものである場合、かかるスラグ固化物を前記のように磁選して更に破砕する工程において、その磁選後であって且つ破砕前及び/又は破砕中に、無機系酸性薬剤や更には石灰系薬剤を加えて混合するのがより好ましい。またスラグ固化物が溶融炉から排出された溶融スラグを空冷により固化したものである場合、かかるスラグ固化物を前記のように一次破砕して更に二次破砕する工程において、その一次破砕後であって且つ二次破砕前及び/又は二次破砕中に、無機系酸性薬剤や更には石灰系薬剤を加えて混合するのが好ましい。
【0013】
本発明の処理方法において、無機系酸性薬剤は単独で用いることもできるが、石灰系薬剤と併用するのが好ましい。スラグ固化物と混合するこれらの量は、乾物換算のスラグ固化物100質量部当たり、無機系酸性薬剤が0.005質量部以上の割合となる量、また石灰系薬剤が0.003質量部以上の割合となる量にするが、無機系酸性薬剤が0.005〜5質量部の割合となる量、また石灰系薬剤が0.003〜1質量部の割合となる量にするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の処理方法によると、特殊な装置を必要としない簡便な処理で、安価且つ短時間に、スラグ固化物からの浸出水のpHを水質基準の5.8〜8.6の範囲内に安定化させることができる。
【実施例】
【0015】
都市ごみの焼却残渣をアーク式溶融炉で処理するときに該アーク式溶融炉から排出された溶融スラグを水砕固化し、水砕固化したスラグ固化物を、水砕槽からの引上げ→搬送→磁選→搬送→破砕→搬送→貯留の工程で処理し、風乾した。風乾したスラグ固化物100gを蓋付きの広口ポリ容器に入れ、表1に記載の無機系酸性薬剤や更には石灰系薬剤を加えて、上下に10分間振盪した後、室温下に150時間静置した。広口ポリ容器に精製水500mlを加え、上下に15秒間振盪した後、溶液分を分離して、pHを測定した。結果を表1に示した。尚、比較例1は無機系酸性薬剤や石灰系薬剤を加えない例(ブランク)である。またリン酸や塩化第二鉄の水溶液の添加量は水溶液としての添加量である。





















【0016】
【表1】

【0017】
表1の結果からも明らかなように、各実施例ではいずれも、スラグ固化物からの浸出水のpHを水質基準の5.8〜8.6の範囲内に安定化させることができている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物由来の溶融スラグを固化したスラグ固化物からの浸出水のpHを安定化させるスラグ固化物の処理方法であって、スラグ固化物と無機系酸性薬剤とを、スラグ固化物100質量部当たり無機系酸性薬剤が0.005質量部以上となる割合で混合することを特徴とするスラグ固化物の処理方法。
【請求項2】
更に石灰系薬剤を、スラグ固化物100質量部当たり石灰系薬剤が0.003質量部以上となる割合で混合する請求項1記載のスラグ固化物の処理方法。
【請求項3】
スラグ固化物と無機系酸性薬剤と石灰系薬剤とを、スラグ固化物100質量部当たり無機系酸性薬剤が0.005〜5質量部、また石灰系薬剤が0.003〜1質量部となる割合で混合する請求項2記載のスラグ固化物の処理方法。
【請求項4】
無機系酸性薬剤が、リン酸、塩化第二鉄、硫酸バンド及びポリ塩化アルミから選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜3のいずれか一つの項記載のスラグ固化物の処理方法。
【請求項5】
石灰系薬剤が消石灰である請求項2〜4のいずれか一つの項記載のスラグ固化物の処理方法。