説明

スラリー施工方法、スラリー試験方法及びスラリー試験器

【課題】各種建築物の床面施工に用いられる水硬性スラリーが、極めて高い自己流動性を有する場合でも、水硬性組成物と水との配合割合を微妙に変化させて調製したスラリーの流動性状の微妙な差異を適確に捉えることができ、施工現場でのスラリー流動性管理に適用できるスラリー試験器とそれを用いた試験方法およびその試験方法により流動性管理を行う水硬性スラリーの施工方法を提供する。
【解決手段】水硬性組成物と水とを施工現場に設けたミキサーで混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行い、スラリーポンプにより水硬性スラリーを施工箇所へ供給して床面に施工する水硬性スラリーの施工方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己流動性を有する水硬性スラリーの施工方法及びその施工方法に適用する水硬性スラリーの流動性試験方法並びに水硬性スラリーの流動性試験に用いる水硬性スラリーの試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
各種建築物の床面施工において、施工時間の短縮や省力化等の効率的な施工が可能な自己流動性を有する水硬性スラリーを用いた工法が広く採用されている。
【0003】
セメント混練物を施工現場に供給することを可能にするトラックミキサー車について、特許文献1には、内部にらせん状ブレードを有し、上方部位にセメントの出入口が位置するように傾斜して配置された回転可能なセメント粉体輸送用ドラム(防水型防塵カバー付き)、セメント粉体排出路、セメント粉体定量送り装置、セメント混練装置、供給水量調節装置、給水パイプ、混練水タンク、セメント混練物撹拌装置及びセメント混練物圧送ポンプの全てを搭載してなるセメント混練物製造用トラックが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、自己流動性水硬性組成物を粉体のまま現場に輸送し、現場にて連続混練方式により水と混練してスラリーを調整し、該スラリーを流し込むセルフレベリング材の施工方法が開示されている。
【0005】
自己流動性を有する水硬性スラリーの流動性評価方法については、非特許文献1に直径5cm、高さ5.1cm、内容積100mlのパイプを用い、スラリーをパイプに充填した後にパイプを引き上げて、スラリーの広がりの直径を垂直方向の2方向測定して、その平均値で評価する方法が示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−208412号公報
【特許文献2】特開2001−40862号公報
【非特許文献1】日本建築学会 JASS15M−103
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自己流動性を有する水硬性スラリーを用いた各種建築物の床面施工方法は、良好な表面平滑性を有する床面を形成でき、さらに施工時間の短縮や省力化等の施工面でも優れた施工方法である。この自己流動性を有する水硬性スラリーを用いた施工方法では、水硬性スラリーの流動性はスラリーの供給特性やスラリー硬化体の表面平滑性などに影響を及ぼすことから、極めて重要な要素となっている。
特に、極めて高い自己流動性を有する水硬性スラリーでは、そのポンプ圧送性や施工性および硬化体の表面平滑性において、より優れた効果を提供するものであるが、一方でスラリーの流動性が極めて高いために、水硬性組成物と水との配合割合を微妙に変化させて調製したスラリーの流動性状の微妙な差異を、従来の流動性評価方法では捉えられないケースが発生している。
本発明は、各種建築物の床面施工に用いられる水硬性スラリーが、極めて高い自己流動性を有する場合でも、水硬性組成物と水との配合割合を微妙に変化させて調製したスラリーの流動性状の微妙な差異を適確に捉えることができ、施工現場でのスラリー流動性管理に適用できるスラリー試験器とそれを用いたスラリー試験方法およびその試験方法により流動性管理を行う水硬性スラリーの施工方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、施工現場において、水硬性スラリーを調製して施工する工程に適用でき、極めて優れた自己流動性を有する水硬性スラリーについても、その調製条件の差異による流動性の微妙な変化を、適確かつ簡便に評価できるスラリー試験器、スラリー試験方法及びそれを適用したスラリー施工方法について鋭意検討を行って本発明を完成した。
さらに、本発明者らは、施工現場において、水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて水硬性スラリーを施工する工程に適用でき、その調製条件の差異による流動性の微妙な差異を、適確かつ簡便に評価できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の事項に関する。
1)水硬性組成物と水とを施工現場に設けたミキサーで混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行い、スラリーポンプにより水硬性スラリーを施工箇所へ供給して床面に施工する水硬性スラリーの施工方法。
2)水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いた水硬性スラリーの施工方法であって、水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーで水硬性組成物と水とを連続混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行い、スラリーポンプにより水硬性スラリーを施工箇所へ供給して床面に連続施工する水硬性スラリーの施工方法。
3)流動性試験は、水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性スラリーを、水平な板上に設置した高さ/内径の比が0.9〜4で内容積が200ml〜400mlの円筒状のスラリー試験器に充填し、スラリー試験器を鉛直方向に引き上げた後、水硬性スラリーが動かなくなった時に水硬性スラリーの広がりの直径を直角2方向の平均値で測定する上記1又は上記2に記載の水硬性スラリーの施工方法。
4)円筒状スラリー試験器は、上面と下面とが円筒の延長軸と直角方向に切断されている上記1〜3に記載の水硬性スラリーの施工方法。
5)水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性スラリーが自己流動性を有し、水硬性スラリーのフロー値(JASS15M−103)が、180〜300mmである上記1〜4に記載の水硬性スラリーの施工方法。
6)水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて調製した水硬性スラリーの試験方法であって、水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーで水硬性組成物と水とを連続混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行う上記1〜5に記載の水硬性スラリーの試験方法。
7)水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて調製した水硬性スラリーの流動性試験に用いるスラリー試験器であって、
水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーで水硬性組成物と水とを連続混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行う上記1〜6に記載のスラリー試験器。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、施工現場において、
優れた自己流動性を有する水硬性スラリーの施工方法及びその施工方法に適用する水硬性スラリーの流動性試験方法並びに水硬性スラリーの流動性試験に用いる水硬性スラリーの試験器に関するものである。
本発明のスラリー試験器を用いたスラリー試験方法は、卓越した流動性を有する水硬性スラリーにおいても、水硬性組成物と水との配合割合を微妙に変化させて調製した水硬性スラリーについて、或いは、水硬性組成物と水との配合割合が微妙に変化して調製された水硬性スラリーについて、その流動性状の微妙な差異を捉えることができ、施工現場において調製した水硬性スラリーについて、その供給特性や施工性、さらにスラリー硬化体の表面平滑性などに影響を与える流動性を適確かつ簡便に評価・把握して、水硬性組成物と水との配合割合の制御に反映することができ、常時、水硬性スラリーの供給特性や施工性、スラリー硬化体の表面平滑性を好適に維持管理することができる。
また、本発明を、施工現場において水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて水硬性スラリーを連続混練により調製して連続施工する工程に適用することによって、極めて優れた自己流動性を有する水硬性スラリーの流動性状を適確且つ簡便に品質管理できるため、最適な流動性状を維持でき、良好な施工性、優れたスラリー硬化体の表面平滑性、水硬性組成物と水との配合割合の管理によるスラリー硬化体の強度管理等を適正に確保した施工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、優れた自己流動性を有する水硬性スラリーの施工方法及びその施工方法に適用する水硬性スラリーの流動性試験方法並びに水硬性スラリーの流動性試験に用いる水硬性スラリーの試験器に関する。
【0011】
本発明の水硬性スラリーの施工方法について説明する。
自己流動性を有する水硬性スラリーの施工において、現場練りの一つの方式として、粉体の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックのタンク内に入れて施工現場に運び、そこで水硬性スラリー調製・施工用トラックに備え付けられたミキサーにより水硬性組成物と水とを連続混練してスラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行って品質管理して、スラリーポンプにより水硬性スラリーを施工箇所へ供給して床面に連続的に施工する。
【0012】
水硬性スラリー調製・施工用トラックの一例を模式図として図1に示す。図1(a)は背面図であり、(b)は側面図である。
図1に示す水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、上部に供給口12が設けられた水硬性組成物タンク13を有している。そして、水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、水硬性組成物と水とを混練して水硬性スラリー14を製造できるように、混練装置(ミキサー)15と、水硬性組成物タンクからホッパー16を介し、混練装置15に必要量の水硬性組成物17を供給するためのスクリューフィーダー18を有する。
さらに、水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、混練用の水を輸送、供給するために、水タンク19を備えており、タンク内の水は、水供給ポンプ20により、水供給パイプ21を通って混練装置15に供給される。
図1に示すような水硬性スラリー調製・施工用トラック11は、排出口を閉じた状態で、供給口11からタンク13内に水硬性組成物17が供給される。そして、所定量の水硬性組成物をタンク13内に入れた後、供給口12を閉じて施工現場まで移動する。施工現場に到着後、必要時に水硬性組成物タンク13下部の排出口を開け、そこから水硬性組成物を取り出す。
水硬性組成物は次いで、スクリューフィーダー18により制御されて、混練装置15に導入される。この混練装置15には、ほとんど同時に混練用の水が、供給水量を調整しながら、水タンク19から供給される。混練装置15で水硬性組成物と水とを所定の割合で混合攪拌して水硬性スラリー14を調製し、水硬性スラリータンク22に滞留させる。スラリータンク22は、実際に水硬性スラリーを施工するまで、スラリータンク内でスラリーの撹拌を続けられるようになっている。
水硬性スラリーの流動性評価は、スラリータンク22から水硬性スラリー14をハンドビーカー23で採取して、本発明の円筒状のスラリー試験器を用いて行う。
流動性状の評価は、水硬性スラリーを実際に施工する直前から評価を実施し、好ましくは30分毎に、さらに好ましくは20分毎に、より好ましくは15分毎に、特に好ましくは10分毎に流動性試験を実施し、試験結果を踏まえて水硬性組成物と水との混合割合を適宜微調整する。
水硬性スラリー14、スラリーポンプ24によって、スラリータンク22から、スラリーホース25を通って施工箇所に供給し、床面に水硬性スラリーを施工している。
【0013】
本発明では、水硬性スラリーの流動性をフロー値で評価するため、スラリー試験器として円筒状パイプを使用し、水平に設置した板上でフロー値を測定する。
本発明で用いる円筒状パイプは、パイプの上面と下面とが、円筒の延長軸と直角方向に切断されているものを使用する。
円筒状パイプの材質は、特に限定されるものではないが、吸水しない材質のものを好適に使用でき、金属製、樹脂性のものを好適に使用できる。特に、塩化ビニル製、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、アクリル製などの樹脂製のパイプは軽量で操作性が良好なため特に好ましい。
本発明で用いる円筒状パイプは、
好ましくは、高さ/内径の比が0.9〜4、内容積200ml〜400mlであり、
さらに好ましくは、内径が高さ/内径の比が0.95〜3.7、内容積220ml〜350mlであり、
より好ましくは、内径が高さ/内径の比が1.2〜3、内容積240ml〜300mlの範囲で、
スラリーの流動性の差異を適正に試験値に反映でき、また、施工現場で試験を実施する場合に試験器の取扱いの点から好ましい。
【0014】
円筒状パイプの高さ/内径の比が4を超えると、円筒状パイプが細長くなり、試験を行う場合にスラリーをパイプに充填しにくく良好な操作性が得られにくいことから好ましくない。
また、円筒状パイプの高さ/内径の比0.9を下回るとパイプへのスラリーの充填性は良好であるが、内径が大きいことで充填量がバラつき、試験値にバラツキが生じることがあるため好ましくない。
【0015】
試験に用いる板の材質は、特に限定されるものではないが、持ち運びが容易で強度があって丈夫で、吸水しないものが使用でき、金属製、樹脂性のものを好適に使用できる。特に、塩化ビニル製、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、アクリル製などの樹脂製のものが特に好ましい。
【0016】
本発明のスラリー試験方法について図2に基づいて説明する。
本発明のスラリー試験方法では、水平に設置した板31の中央部に、内径4.2〜7.8cm、高さ6.0〜20.3cm、内容積200〜400mlの円筒状のスラリー試験器32を配置し、水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性スラリー33をスラリー試験器の上端以上に充填する。
次に、円筒状のスラリー試験器の上端部より溢れたスラリー34を定規35を用いて除去したのち、円筒状のスラリー試験器を鉛直方向に引き上げ、スラリーの広がり36の直径を直角2方向(a、b)測定し、その測定値の平均値(フロー値)で水硬性スラリーの流動性を評価する。
【0017】
本発明のスラリー試験方法による水硬性スラリーの流動性評価の頻度は、現場の施工規模により適宜選択されるが、通常、水硬性スラリーを連続施工開始する直前に測定し、施工を開始して以降は、好ましくは30分毎、さらに好ましくは20分毎、より好ましくは15分毎、特に好ましくは10分毎に測定し、目標値からの流動性の微妙な差異を補正するように、水硬性組成物と水との配合割合を微調整することが好ましい。
本発明のスラリー試験器及びスラリー試験方法を採用して、定期的(30分毎〜10分毎)に水硬性スラリーの流動性状を品質管理することにより、特に施工開始から施工完了まで数時間を要するような大規模な面積を連続して施工する物件の場合に、時間の経過とともに気温や水温などが変化して、同じ条件で調製していても僅かずつ水硬性スラリーの流動性状に対応して、水硬性スラリーの調製条件を微妙に修正することにより、安定したスラリー施工性と優れた品質の水硬性スラリー硬化体を得ることができる。
【0018】
本発明のスラリー試験方法は、自己流動性を有する水硬性スラリーの流動性評価に好適に用いられるもので、特に、卓越した流動性を有する水硬性スラリーにおいても、水硬性組成物と水との配合割合を微妙に変化させて調製したスラリーについて、その流動性状の差異を適確に捉えることができるものである。したがって、本発明の試験方法を用いることにより、水硬性スラリーの供給特性(ポンプ圧送性)やスラリー硬化体の表面平滑性などに影響を及ぼすスラリーの流動性を、適確かつ簡便に評価・把握することができ、その試験結果に基づいて水硬性組成物と水との配合割合を適正に制御する操作に反映することができる。
【0019】
本発明は、優れた自己流動性を有する水硬性スラリーの流動性評価に適用する。
本発明の適用対象となる水硬性スラリーは、特に限定されるものではないが、水硬性組成物と水とを混練して調製する自己流動性水硬性スラリーの流動性評価に好適に用いることができ、特に卓越した流動性を有する自己流動性水硬性スラリーの流動性評価方法として優れた効果が得られる。
特に、本発明を、施工現場において水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて水硬性スラリーを施工する工程に適用することによって、極めて優れた自己流動性を有する水硬性スラリーについても、その流動性状を適確且つ簡便に品質管理できるため、流動性の評価結果をスラリー調製条件の制御に適宜反映させることにより、最適な流動性状を維持でき、良好な供給性と施工性、優れたスラリー硬化体の表面平滑性、水硬性組成物と水との配合割合の管理によるスラリー硬化体の強度管理等を確保した施工が可能となる。
【0020】
本発明では水硬性組成物と水とを混練して水硬性スラリーを調製して施工する。
本発明で用いる水硬性組成物は、水と混練することで優れた自己流動性を発揮する水硬性組成物に広く適用でき、ポルトランドセメント系の自己流動性水硬性組成物、ポルトランドセメントとアルミナセメントを含む自己流動性水硬性組成物、石膏系の自己流動性水硬性組成物などに好適に適用でき、その微妙な流動性の変化や差異を適確かつ簡便に評価できる。
本発明で用いる水硬性組成物としては、宇部興産社製の「SLフローG」、「クイックセラミックフロー」、「フィニッシュフロー」、「床レベラー」、「床レベラーG」等の卓越した自己流動性を有する水硬性組成物を好適に用いることができる。
また、本発明は、水硬性成分として各種セメントを用い、上記の自己流動性水硬性組成物に近似した高い流動性を示すグラウトモルタルや注入材スラリーなどの流動性評価にも好適に適用でき、その微妙な流動性状の差異を適確かつ簡便に評価することができる。
【0021】
本発明の水硬性スラリー施工方法では、優れた自己流動性を有する水硬性スラリーを用いる。
本発明では、日本建築学会 JASS15M−103に記載の直径5cm、高さ5.1cm、内容積100mlのパイプを用いて測定したフロー値が、好ましくは180〜300mm、さらに好ましくは200〜300mm、より好ましくは210〜300mm、特に好ましくは220〜300mmの範囲のフロー値を示す水硬性スラリーに本発明のスラリー試験方法を適用することによって、より微妙な流動性の差異を適確かつ簡便に評価することができる。
水硬性スラリーのフロー値が180mmよりも小さい場合、スラリーの流動性はさほど優れたものでなく、従来の流動性評価方法で測定しても不足ない精度が得られ、本発明のスラリー試験方法を適用するには及ばない。また、フロー値が、300mmを超えると、水硬性スラリーの材料分離傾向が強くなることがあり、スラリーの流動性以外の要因から実用的なスラリー状態を得にくくなるから、本発明で用いるスラリーとしては好ましくない。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0023】
(流動性の評価方法)
フロー値(mm)は以下の方法で測定した。
水平に設置した板の中央部に、円筒状のスラリー試験器を配置し、水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリーをスラリー試験器の上端以上に充填する。
次に、円筒状のスラリー試験器を鉛直方向に引き上げ、スラリーの広がりの直径を直角2方向測定し、その測定値の平均値(フロー値)でスラリーの流動性を評価する。
【0024】
材料は以下のものを使用した。
1)水硬性組成物 : セルフレベリング材(商品名:SLフローG、宇部興産社製)。
【0025】
スラリー試験器には以下の4種類の円筒状スラリー試験器(塩化ビニル製パイプ)を用いた。円筒状スラリー試験器を設置する板には、金属製の板を用いた。
1)スラリー試験器a : 内容積260ml、内径7cm、高さ6.8cm。
2)スラリー試験器b : 内容積260ml、内径6cm、高さ10cm。
3)スラリー試験器c : 内容積260ml、内径4.5cm、高さ16.4cm。
4)スラリー試験器d : 内容積100ml、内径5cm、高さ5.1cm。(JASS15M−103に準じたスラリー試験器)
5)スラリー試験器e : 内容積147ml、内径5cm、高さ7.5cm。
6)スラリー試験器f : 内容積246ml、内径5.6cm、高さ10cm。
【0026】
[実施例1〜3及び比較例1、2]
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、水硬性組成物100質量部に対し、表1に示す混練水を加え、ケミスターラーを用いて、回転数650rpmにて5分間混練して、自己流動性スラリーを調製した。
得られた4種類のスラリーについて、4種類のスラリー試験器を用いて流動性の評価を行った結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
1)容量100mlで高さ/内径の比が1.02のスラリー試験器d(JASS15M−103)を用いた比較例1の場合、スラリー調製時に使用する水量を24.5質量部から25.0質量部に変化させたスラリーの流動性の差異と、25.0質量部から26.0質量部に変化させたスラリーの流動性の差異は,いずれもわずか1mmと非常に小さかった。
2)容量147mlで高さ/内径の比が1.5のスラリー試験器eを用いた比較例2の場合、スラリー調製時に使用する水量を24.5質量部から25.0質量部に変化させたスラリーの流動性の差異はゼロで、流動性の差異が検出できなかった。
3)容量260mlで高さ/内径の比が0.97〜3.6のスラリー試験器a、b又はcを用いた実施例1〜3の場合、スラリー調製時に使用する水量の増加に伴ってスラリーのフロー値が3〜7mm増加していて、流動性の増加を適確に検出できた。
特に、スラリー試験器bを用いた場合、フロー値の差がいずれも6以上と大きく、流動性の差異をより明確に捉えることができた。
【0029】
[実施例4及び比較例3]
屋外実験場において、水硬性組成物としてセルフレベリング材(商品名:SLフローG、宇部興産社製)を用い、図1に示す水硬性スラリー調製・施工用トラックを使用して水硬性スラリーの連続調製および連続施工を行い、調製したスラリータンク22の水硬性スラリーについて、スラリー試験器f(内容積246ml、内径5.6cm、高さ10cm)とスラリー試験器d(内容積100ml、内径5cm、高さ5.1cm、JASS15M−103に準じたスラリー試験器)とを用いて流動性試験を行った。なお、流動性試験は、水硬性スラリーの施工を開始する直前に、スラリー試験器f及びスラリー試験器d、それぞれの試験器を用いて1回目の流動性試験(フロー測定)を行い、以降20分毎にスラリータンク22からスラリーを採取して、2つの試験器を用いて流動性試験を行った。また、各流動性試験を行った水硬性スラリーについては、そのスラリー温度を測定した。
なお、水硬性組成物と水との配合割合は適正範囲に調整し、2m/hで2時間20分連続で水硬性スラリーを調整・施工した。
2種類のスラリー試験器を用いて、連続的に調整された水硬性スラリーの流動性を評価した結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
スラリー試験機dを用いた比較例3の場合、施工前から施工開始140分後までスラリーの流動性はほとんど変化がなく安定しており、この試験値からはスラリーの流動性が一定していると解釈される。
【0032】
スラリー試験機fを用いた実施例4の場合、比較例3の場合とは異なり、測定開始から測定終了までの140分間の期間について、20分毎に測定したフロー値が変動していることが検出できた。
通常、連続的にスラリー調製を行って施工する場合、外気温の変化や水硬性スラリー調製・施工用トラックの設備の温度上昇等によってスラリーの温度は微妙に変化し、さらにミキサーへの付着物などの影響で、時間経過により水比が微妙に変化するものである。実施例4のフロー値差から明らかなように、本発明のスラリー試験器を用いることで、連続的に調製したスラリーの流動特性の変化を適宜適確に検証できた。この微妙なスラリー流動性の変化を踏まえてスラリー性状を品質管理し、スラリー調製条件のひとつである水硬性組成物に配合する水量を微調整することによって、連続的にスラリー調製を行う工法で適正な性状のスラリーを安定的に施工することが可能となった。
【0033】
本発明のスラリー試験器を用いたスラリー試験方法は、優れた流動性を有する水硬性スラリーにおいても、水硬性組成物と水との配合割合を微妙に変化させて調製した水硬性スラリーについて、その流動性状の微妙な差異を捉えることができる。
本発明のスラリー試験方法を施工現場において調製した水硬性スラリーの品質管理に適用することにより、その供給特性や施工性、さらにスラリー硬化体の表面平滑性などに影響を与える流動性を適確かつ簡便に評価・把握して、水硬性組成物と水との配合割合の制御に反映した水硬性スラリーの施工が可能となり、常時、良好な供給性・施工性、優れたスラリー硬化体の表面平滑性、水硬性組成物と水との配合割合の管理によるスラリー硬化体の強度管理を確保した施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】水硬性組成物の貯蔵タンクを搭載し、水硬性スラリーを調製・施工できるトラックの一例を示す模式図である。
【図2】本発明のスラリー試験器とスラリー試験方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
11 水硬性スラリー調製・施工用トラック
12 水硬性組成物の供給口
13 水硬性組成物タンク
14 水硬性スラリー
15 混練装置(ミキサー)
16 ホッパー
17 水硬性組成物
18 スクリューフィーダー
19 水タンク
20 水供給ポンプ
21 水供給パイプ
22 水硬性スラリータンク
23 ハンドビーカー
24 スラリーポンプ
25 スラリーホース
31 水平板
32 スラリー試験器
33 水硬性スラリー
34 スラリー試験器から溢れた水硬性スラリー
35 定規
36 スラリーの広がり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性組成物と水とを施工現場に設けたミキサーで混練して水硬性スラリーを調製し、
円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行い、
スラリーポンプにより水硬性スラリーを施工箇所へ供給して床面に施工することを特徴とする水硬性スラリーの施工方法。
【請求項2】
水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いた水硬性スラリーの施工方法であって、
水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーで水硬性組成物と水とを連続混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行い、
スラリーポンプにより水硬性スラリーを施工箇所へ供給して床面に連続施工することを特徴とする水硬性スラリーの施工方法。
【請求項3】
流動性試験は、水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性スラリーを、水平な板上に設置した高さ/内径の比が0.9〜4で内容積が200ml〜400mlの円筒状のスラリー試験器に充填し、スラリー試験器を鉛直方向に引き上げた後、水硬性スラリーが動かなくなった時に水硬性スラリーの広がりの直径を直角2方向の平均値で測定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水硬性スラリーの施工方法。
【請求項4】
円筒状スラリー試験器は、上面と下面とが円筒の延長軸と直角方向に切断されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性スラリーの施工方法。
【請求項5】
水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性スラリーが自己流動性を有し、水硬性スラリーのフロー値(JASS15M−103に基づく)が、180〜300mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性スラリーの施工方法。
【請求項6】
水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて調製した水硬性スラリーの試験方法であって、
水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーで水硬性組成物と水とを連続混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水硬性スラリーの試験方法。
【請求項7】
水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて調製した水硬性スラリーの流動性試験に用いるスラリー試験器であって、
水硬性スラリー調製・施工用トラックに搭載したミキサーで水硬性組成物と水とを連続混練して水硬性スラリーを調製し、円筒状のスラリー試験器を用いて水硬性スラリーの流動性試験を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のスラリー試験器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−64509(P2008−64509A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240642(P2006−240642)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)