説明

スリップフォーム装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スリップフォーム装置に係り、特に、水平断面形状が円形でない複雑な形状でありなおかつ周長が高さ方向に変化する塔体を形成するスリップフォーム装置に関する。
【0002】
【従来の技術】スリップフォーム装置は、対向する型枠パネルをヨークと呼ばれる門形のフレームで支持し、かかるヨークを上昇用ジャッキで連続的に上昇させながら当該型枠パネル内にコンクリートを打設していくことにより、塔状のRC構造物を短期間に施工することができるものである。
【0003】かかるスリップフォーム装置で建築される構造物は、従来は、水平断面が円形をしたものが多かったが、最近では、景観やデザインを重視して、円とは異なる複雑な形状をし、なおかつその周長が高さ方向に変化する構造物を建築しようとするニーズが増えてきた。
【0004】ここで、従来の装置においても、設計上の壁位置に沿って配置された多数のヨークを個別に水平移動し、高さ方向に沿った周長の変化に対応するようにすれば、上述のニーズにある程度応えることはできる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、複雑な断面形状に合わせてヨークを配置した場合、ヨークを移動すべき方向は、ヨークの上部に設けられる上段ビームの方向に必ずしも一致しない。このような状態でヨークを移動させるとヨークの動きが不安定となり、設計通りに壁断面を形成していくことが困難となる。
【0006】また、ヨークの水平移動に伴うヨーク間のスパンの変化は、通常、型枠パネル間に介装されたスパン調整パネルによって吸収されるが、各ヨークが個別に移動するために数多くのスパン調整パネルを配置せねばならず、その結果、塔状構造物の外周面には多くの段差が形成されるという問題も生じていた。
【0007】本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、設計断面形状が複雑でかつ周長が高さ方向に変化する場合であっても、各ヨークを所定の精度でかつ容易に水平移動することができるとともに、ヨーク間のスパン調整箇所を減らすことができるスリップフォーム装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明のスリップフォーム装置は請求項1に記載したように、設計上の壁位置に沿って配置された所定数のヨークを、前記設計上の壁の曲率が高さ方向に沿って実質的に変化しない範囲ごとに相互に連結して形成された複数のヨーク連結体と、当該複数のヨーク連結体をそれぞれ全体中心に向けて水平移動可能な水平移動用ジャッキと、前記複数のヨーク連結体の上に該複数のヨーク連結体で支持されるように所定のローラーを介して配設され前記ヨーク連結体の水平移動を案内するガイドレールが該水平移動の方向に沿って配設された上段ビーム体とを備え、前記複数のヨーク連結体のうち、同じヨーク連結体に属するヨーク同士を該ヨーク間でスパンの変化が発生しないように構成したものである。また、本発明のスリップフォーム装置は、前記複数のヨーク連結体のうち、同じヨーク連結体に属するヨーク同士を水平トラスを介して相互に連結したものである。また、本発明のスリップフォーム装置は、前記ヨーク連結体を部分的に解体して前記ヨーク及び前記水平トラスを取り外すことができるように構成したものである。
【0009】
【作用】本発明のスリップフォーム装置においては、設計上の壁の曲率が高さ方向に沿って実質的に変化しない範囲に属するヨークについては、これらを相互に連結してヨーク連結体を構成しておき、塔状構造物の周長が変化する際には、上述の水平移動用ジャッキを作動させてヨーク連結体を上段ビーム体に設けたガイドレールに沿って水平移動させる。
【0010】すると、各ヨークは、ガイドレールを敷設した方向に沿ってヨーク連結体としてまとめて水平移動される。
【0011】したがって、ヨーク間のスパンの変化は、同じヨーク連結体に属するヨーク同士においては発生しない。
【0012】
【実施例】以下、本発明のスリップフォーム装置の実施例について添付図面を参照して説明する。
【0013】スリップフォーム装置1は、図1(a) に示すように、型枠パネル4、4を対向位置に取り付けたヨーク3を既に構築された塔状構造物2の壁体で支持し、当該ヨーク3の上には上段ビーム体5を載せてある。
【0014】塔状構造物2は図1(b) に示すように、通常よく見られる円筒形ではなく、45゜、135゜、225゜および315゜方向にある凸状の半円部分(以下、凸部15という)並びに0゜、90゜、180゜および270゜方向にある凹状の円弧部分(以下、凹部16という)を組み合わせたいわゆる糸巻き型の形状をしている。
【0015】ここで、凸部15は高さ方向に関して曲率一定、壁長さ一定であるのに対し、凹部16は曲率一定ではあるけれども壁長さは徐々に短くなっており、全体としては上方にいくにしたがって周長が短くなっている。
【0016】図2は、ヨーク3周辺の詳細断面図である。
【0017】同図でわかるように、ヨーク3は、その水平材に上昇用ジャッキ21を取り付けてあり、当該上昇用ジャッキ21を作動させることによって、塔状構造物2に埋設された上昇用ロッド22に沿って尺取虫のごとく上昇できるようになっている。
【0018】また、ヨーク3は、ローラー23を介して上段ビーム体5を支持するとともに、当該上段ビーム体5を反力体として水平移動用ジャッキ24を作動させることにより、所定の方向に水平移動できるようになっている。
【0019】さらに、ヨーク3の上端にはガイド25を固着してあり、上段ビーム体5に設けられたガイドレール26に沿って水平移動を案内されるようになっている。なお、ガイドレール26は、上段ビーム体5の下弦材を兼ねてもよい。
【0020】図3は、ヨーク3の全体配置を平面図で示したものである。なお、塔状構造物2と同様、90゜乃至180゜方向に挟まれた4分の1部分だけを図面に表示し、他の部分については省略する。
【0021】同図でわかるように、ヨーク3は、塔状構造物2の設計上の壁の曲率が高さ方向に沿って実質的に変化しない範囲ごと、すなわち凸部15、凹部16ごとに水平トラス12を介して相互に連結され、ヨーク連結体13、14として一体化してある。なお、図中の黒丸は、水平移動用ジャッキ24およびガイド25の配置個所を示している。
【0022】図4は、上段ビーム体5のガイドレール26の配置状況をやはり90゜乃至180゜の範囲で示したものである。
【0023】同図でわかるように、ガイドレール26は、0゜、90゜、180゜および270゜方向に延びるものと、45゜、135゜、225゜および315゜方向に延びるものとがあり、全体で見れば、2つの十字を互いに45゜ずらしたような形状になっている。すなわち、45゜、135゜、225゜および315゜方向にあるガイドレール26は、ヨーク連結体13を全体中心に向けて水平移動させるためのものであり、0゜、90゜、180゜および270゜方向にあるガイドレール26は、ヨーク連結体14を全体中心に向けて水平移動させるためのものである。
【0024】図4でわかるように各ガイドレール26は、一対のビーム材、例えばH型鋼を所定の隙間を開けて抱き合わせにし、その隙間にヨーク3の上端に固着されたガイド25を緩く嵌め込んであり、それらのビーム材の対向する両側面をガイド25との摺動面とすることにより、ヨーク連結体13、14の水平移動を案内するようになっている。
【0025】次に、本実施例のスリップフォーム装置1の作用について説明する。
【0026】塔状構造物2は既に述べたように、上方にいくにしたがって凹部16の壁長さが短くなっており、その結果として全体の周長が短くなる。そのため、各ヨーク3を断面中心に向けて水平移動させる必要がある。
【0027】本実施例のスリップフォーム装置1においては、各ヨーク3を個別に移動するのではなく、これらを相互に連結して構成したヨーク連結体13、14を、図5の矢印に示すようにガイドレール26に沿って水平移動する。
【0028】なお、図5を図3と比較すればよくわかるように、ヨーク連結体13は、ヨーク連結体14と徐々に近づいていき、やがて対向するヨーク3同士が干渉するが、その前に図5(b) に示すようにヨーク連結体14を部分的に解体し、ヨーク連結体13側にあるヨーク3および水平トラス14を取り外しておく。
【0029】図6は、水平移動を完了した状態の各ヨーク連結体を示したものであり、図5(b) の状態からヨーク連結体14をさらに解体し、ヨーク連結体13側にあるヨーク3および水平トラス14を取り外してあるのがわかる。
【0030】以上説明したように、本実施例のスリップフォーム装置によれば、周長の変化に対応するために各ヨークを個別に移動させるのではなく、高さ方向に曲率が変化しない範囲ごとにヨークを連結してヨーク連結体とし、かかるヨーク連結体を上段ビーム体に設けたガイドレールに沿って水平移動するようにしたので、各ヨークを個別に移動、制御していた従来の装置に比べてヨークの移動およびその精度管理がずっと楽になり、ヨークの動きも安定する。
【0031】また、同じヨーク連結体に属するヨーク同士においては互いにトラスで連結してあるため、スパンは変化せず、したがって、スパン調整を行う必要がない。そのため、スパン調整を原因として発生するコンクリート面の段差を大幅に低減することができる。
【0032】本実施例では、本発明のスリップフォーム装置を糸巻き型の塔状構造物に適用した場合について説明したが、かかる塔状構造物以外にもさまざまな形状の構造物に適用することができる。
【0033】図7は、適用可能な他の塔状構造物の例を示したものであり、図7(a) は、曲率が零すなわち平らな壁部分31および32からなる正八角形状の断面からスタートし、上昇するにつれて、曲率一定のままで壁部分31の長さは変化しないが壁部分32の長さが徐々に短くなるので、全体として周長が短くなっていき、頂部においては壁部分32の長さが零となって正方形断面となる例である。
【0034】かかる場合には、各壁部分31および32ごとにヨークを連結してヨーク連結体とするとともに、実施例で説明したと同様の2つの十字を45゜ずらしたような形状のガイドレールを上段ビーム体に設け、かかるガイドレールに沿ってヨーク連結体をそれぞれ水平移動するようにすればよい。なお、互いに干渉するヨークは、実施例で説明したように順次解体して取り除けばよい。
【0035】図7(b) は、零でない所定の曲率をもつ壁部分33と曲率が零の壁部分34とを交互につないだ構造物で、上昇するにつれて、それぞれ曲率一定のままで壁部分33の長さは変化しないが壁部分34の長さが徐々に短くなるので、全体として周長が短くなっていく例である。
【0036】かかる場合にも、図7(a) と同様にしてヨーク連結体を移動させればよい。
【0037】
【発明の効果】以上述べたように、本発明のスリップフォーム装置は、設計上の壁位置に沿って配置された所定数のヨークを、前記設計上の壁の曲率が高さ方向に沿って実質的に変化しない範囲ごとに相互に連結して形成された複数のヨーク連結体と、当該複数のヨーク連結体をそれぞれ所定の方向に水平移動可能な水平移動用ジャッキと、前記複数のヨーク連結体の上に所定のローラーを介して支持され、当該ヨーク連結体の水平移動を案内するガイドレールを当該移動方向に沿って配設した上段ビーム体とを備えたので、設計断面形状が複雑でかつ周長が高さ方向に変化する場合であっても、各ヨークを所定の精度でかつ容易に水平移動することができるとともに、ヨーク間のスパン調整箇所を減らすことができる。
【0038】
【図面の簡単な説明】
【図1】(a) は本実施例に係るスリップフォーム装置1の鉛直断面図、(b) はスリップフォーム装置1が構築する塔状構造物2の水平断面図。
【図2】ヨーク周辺を示す詳細鉛直断面図。
【図3】図2のA―A線に沿う水平断面図。
【図4】図2のB―B線に沿う水平断面図。
【図5】ヨーク連結体を移動している段階での平面図。
【図6】ヨーク連結体の移動が完了した段階での平面図。
【図7】塔状構造物の変形例を示す平面図。
【符号の説明】
1 スリップフォーム装置
2 塔状構造物
3 ヨーク
5 上段ビーム体
12 水平トラス
13、14 ヨーク連結体
23 ローラー
24 水平移動用ジャッキ
25 ガイド
26 ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】 設計上の壁位置に沿って配置された所定数のヨークを、前記設計上の壁の曲率が高さ方向に沿って実質的に変化しない範囲ごとに相互に連結して形成された複数のヨーク連結体と、当該複数のヨーク連結体をそれぞれ全体中心に向けて水平移動可能な水平移動用ジャッキと、前記複数のヨーク連結体の上に該複数のヨーク連結体で支持されるように所定のローラーを介して配設され、前記ヨーク連結体の水平移動を案内するガイドレールが該水平移動の方向に沿って配設された上段ビーム体とを備え、前記複数のヨーク連結体のうち、同じヨーク連結体に属するヨーク同士を該ヨーク間でスパンの変化が発生しないように構成したことを特徴とするスリップフォーム装置。
【請求項2】 前記複数のヨーク連結体のうち、同じヨーク連結体に属するヨーク同士を水平トラスを介して相互に連結した請求項1記載のスリップフォーム装置。
【請求項3】 前記ヨーク連結体を部分的に解体して前記ヨーク及び前記水平トラスを取り外すことができるように構成した請求項2記載のスリップフォーム装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【特許番号】特許第3448983号(P3448983)
【登録日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【発行日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−240566
【出願日】平成6年9月8日(1994.9.8)
【公開番号】特開平8−74418
【公開日】平成8年3月19日(1996.3.19)
【審査請求日】平成13年4月2日(2001.4.2)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【参考文献】
【文献】特開 昭56−85065(JP,A)
【文献】特開 昭62−248755(JP,A)