説明

スリップリング装置

【課題】 組立ての効率化と製品寿命の長期化を図る。
【解決手段】 第1基板の導電環に対して相対回転自在に設けられた第2基板に固定的に支持され、第1基板の導電環に摺接する各摺動接点は、導電性のボール部材と、該ボール部材を導電環に向けて付勢する導電性の弾性部材とにより構成され、ボール部材と弾性部材は、ボール部材の一部が外部に突出するようにボール部材を受け止める複数の孔を備えた摺動接点保持部材により保持され、ボール部材は、孔から外部に突出する一部が第1基板の導電環に摺接しつつ導電環上を転動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動ジョイント部における固定側と回転側との間での電力の供給と電気信号の伝達を行うスリップリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スリップリング装置には、固定部材と回転部材との間で同時に複数の電気的な接続を行うために、固定部材と回転部材のいずれか一方に複数の導電環を設けた端子保持基板と、固定部材と回転部材の他方に導電環と接触するように複数の摺動接点を設けた端子保持基板とにより構成されるものがある。この種のスリップリング装置の摺動接点としては、例えば、添付の図8に示すような、導電環を有する固定側の端子保持基板80に対して弾力的に接触するように回転側の端子保持基板90に取付けられた金属の薄い板ばねで構成された摺動接点91が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−116249
【特許文献2】実開昭63−131086
【特許文献3】実開平6−83553
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来のスリップリング装置は、複数の摺動接点が金属の薄い板ばねで構成されているため、装置を組立てる際には、薄い板ばねを変形させることがないように注意しながら組立てなければならいという作業効率の悪さがある。また、設計時には、一回転方向へ延出させた板ばねの先端片面を接点として導電環に接触させる構造のため、回転方向の優位性を考慮しなければならない。更に、作動時には、導電環と摺動接点との間の摺動摩擦による接触部相互の摩耗が大きく、とくに高速作動時には接点の飛び跳ねにより電気接続の遮断が生じる等、種々の問題があった。
【0005】
また、導電環側の端子保持基板の端子や摺動接点を備えた端子保持基板の端子に外部機器を接続するには、外部機器のリード線を基板上の個々の端子に直接はんだ付けしており、作業効率が悪かった。
【0006】
そこで本発明は叙上のような従来品の諸問題に鑑み創出されたもので、構造、組立てが簡単で安定した作動を得ることができ、製品寿命の長期化を図ることができるスリップリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にあっては、相対的に可動な二つの外部機器の一方に電気的に接続される第1基板と、前記二つの外部機器の他方に電気的に接続される第2基板とからなり、前記第1基板は、第1の面
に同心円状に配置された複数の導電環と、第2の面に配置された前記複数の導電環をそれぞれ対応する複数の第1端子に接続する配線パターンとを有し、前記第2基板は、前記第1基板に対して相対的に回転自在に設けられ、前記第1基板の前記第1の面と対向する面に、前記複数の導電環とそれぞれ摺動接触可能に配置された複数の摺動接点と、該複数の摺動接点をそれぞれ対応する第2端子
に接続する配線とを有するスリップリング装置において、前記第2基板の前記複数の摺動接点は、導電性の複数のボール部材と、該複数のボール部材をそれぞれの対応する前記導電環に向けて付勢する複数の導電性の弾性部材とにより構成され、前記ボール部材と弾性部材は、前記ボール部材の一部が外部に突出するように前記ボール部材を受け止める複数の孔を備えた摺動接点保持部材により保持され、前記ボール部材は、前記孔から外部に突出する一部が前記第1基板の前記導電環と接していることを特徴とする。
【0008】
前記スリップリング装置は、軸方向一端に開口を備えた壁面を有し、軸方向他端が開放されたアウタケースと、該アウタケース内に同アウタケースに対して回転自在に収容され、軸方向一端の壁面を前記アウタケースの前記開口から露出させたインナケースとを含み、前記第1基板は前記アウタケースの開放端を閉塞するように前記アウタケースに取付けられ、前記第2基板及び前記摺動接点保持部材は前記インナケース内に同インナケースと一体に回転可能に収容されている
【0009】
前記第1基板は、該第1基板上に、外部機器をコネクタ接続可能なコネクタを備えており、前記第1端子 (16a) は前記第1基板上のコネクタ内に設けられている。
【0010】
前記第2基板は、該第2基板上に、前記複数の摺動接点をそれぞれ対応する複数の第2端子に接続する配線パターンと、外部機器をコネクタ接続可能なコネクタとを備えており、前記第2端子は前記第2基板上のコネクタ内に設けられている。
【0011】
前記インナケースは、前記アウタケースの前記開口から露出する壁面に窓を備え、前記第2基板上のコネクタは前記インナケースの前記窓から外部機器をコネクタ接続可能な位置に配設されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスリップリング装置は、導電環との摺動接点部材を金属の板ばねから導電性のあるボール部材と弾性部材との組み合わせに代えたことで、組立ての効率化を図ることができ、回転方向の優位性がなくなり、高速回転にも安定した接触が得られる。しかもボール部材が導電環上を転動することにより接触部の摩耗が最小限に抑えられるため、長い製品寿命を得ることができる。また、基板上にコネクタを設けたことにより、外部機器の基板への接続にはんだ付けが不要になり、ワンタッチでのコネクタ接続ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るスリップリング装置全体の分解斜視図である。
【図2】(a)は図1のスリップリング装置の上面側の斜視図、(b)は同底面側の斜視図である。
【図3】図2(a)の III−III線に沿った縦断面図である。
【図4】(a)は第1基板の平面図、(b)は同底面図である。
【図5】(a)は第2基板の平面図、(b)は同底面図である。
【図6】(a)は摺動接点保持部材の平面図、(b)は同底面図である。
【図7】摺動接点と第1基板又は第2基板との接触状態を示す概略断面図である。
【図8】従来のスリップリング装置の摺動接点と第1基板又は第2基板との接触状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0015】
図面中、1はスリップリング装置、3はアウタケース、4はインナケース、5はカバープレート、10は第1基板、20は第2基板、22は摺動接点、28は摺動接点保持部材である。
【0016】
図1〜6において、インナケース4を収納するアウタケース3は、図1中軸方向上端3aの壁面31に開口31aを備え、軸方向下端3bは開放されている。この開放端3bは第1基板10により閉塞される。第1基板10の下面10bはカバ‐プレート5により覆われている。
【0017】
インナケース4は図中軸方向上端4aに窓41aを備えた壁面41を有し、軸方向下端4bは開放されている。窓41aを備えた壁面41はアウタケース3の開口31aから露出している。壁面41には、軸心に沿って延びるスリーブ42が設けられており、スリーブ42を貫通する孔42aには不図示の軸が挿通され、インナケース4はこの軸と一体にアウタケース3に対して相対的に回転する。インナケース4内には第2基板20と摺動接点保持部材28が収納されている。摺動接点保持部材28は上面28aが第2基板20と対面し、その下面28bはインナケース4の下の開放端4b側にあって、第1基板10の上面10aと対面している。第2基板20と摺動接点保持部材28は、図5及び図6に示されるように、それぞれの外周縁の一部に切欠23c、28cを有している。これらの切欠は、インナケース4の周壁内面の突部(不図示)と係合し、第2基板20と摺動接点保持部材28のインナケース4との一体回転を確保している。
【0018】
図4に明示されるように、第1基板10は、上面10aに同心円状に配置された複数の導電環12とその外縁部15に複数の端子16aを有し、下面10bには上面10aの前記導電環12の各一を前記端子16aの各一に1対1の関係で電気的に接続する配線パターン14を有する。第1基板10がアウタケース3の開放端3bを閉塞したとき、アウタケース3の外側に位置する上面10aにコネクタ16が取付けられており、端子16aはこのコネクタ16の中に収められている。コネクタ16は、このスリップリング装置1を相対的に可動な二つの外部機器の一方と電気的に接続するのに使用される。尚、コネクタ16は、スリップリング装置1の設置位置によっては第1基板10の下面10bに取付けられてもよい。
【0019】
第1基板10は、インナケース4のスリーブ42が貫通する中央孔13aと、、第1基板10がアウタケース3の開放端3bに取付けられる際に、第1基板10へのカバ‐プレート5の取付けを兼ねてネジ7が挿通される取付け孔13bと、スリップリング1自体を外部機器に固定する際に固定具が挿通される固定孔13cとを有する。
【0020】
図5に示される第2基板20には、下面20b側に第1基板10の導電環12の各一と摺動接触可能に複数の摺動接点22が配置される。下面20b上には、これらの摺動接点22と電気的に接続可能に配線パターン24bが設けられている。また、第2基板20の上面20aには複数の端子26aと、これらの端子26aを複数の摺動接点22の各一に配線パターン24bを介して1対1の関係で電気的に接続する配線パターン24aとが設けられている。第2基板20の上面20aにはコネクタ26が取付けられており、端子26aはこのコネクタ26の中に収められている。
【0021】
このコネクタ26は、図2(a)から分かるように、アウタケース3の開口31aから露出するインナケース4の上端壁面41に設けられた窓41aに臨む位置にあり、コネクタ26には、このスリップリング装置1を相対的に可動な二つの外部機器の他方がワンタッチでコネクタ接続される。
【0022】
第2基板20は、インナケース4のスリーブ42が貫通する中央孔23aと、インナケース4に摺動接点保持部材28を取付ける際にネジ6が挿通される挿通孔23bを有する。
【0023】
第2基板20の下面20b側に配置された複数の摺動接点22は、図1に示される如く、導電性の高いボール部材22aと、各ボール部材22aを導電環12に向けて付勢する導電性の高い弾性部材22bとの複数の組により構成される。ボール部材22aには黄銅製のボールに銀メッキを施したもの、弾性部材22bには青銅製のコイルスプリングに銀メッキを施したものがそれぞれ好適である。しかし、ボール部材22aを鋼鉄製とし、弾性部材22bにピアノ線のコイルスプリングを用いてもよい。通常はボール部材22aにはニッケルメッキ、コイルスプリングにはオイルテンパ線などが使用されるが、本発明においては、通常と異なり、両部材ともに銀メッキ等を施すなどにより優れた導電性を得るための処理を施すことが好ましい。
【0024】
ボール部材22aは第1基板10の導電環12と接触しつつ導電環12上を転動可能に、また弾性部材22bは軸方向一端において第2基板20の下面20bの配線パターン24bと、他端においてボール部材22aと接した状態で、摺動接点保持部材28により保持される。
【0025】
図6及び7から分るように、摺動接点保持部材28には、ボール部材22aと弾性部材22bとの組を保持する摺動接点保持孔29が導電環12の数に対応する個数だけ摺動接点保持部材28を上下に貫通して形成されている。摺動接点保持孔29は、ボール部材22aと弾性部材22bが投入される第2基板20側の開口29aを含む孔径がボール部材22aの球径より若干大きく形成されている。一方、第1基板10側の開口29bは、孔径がボール部材22aの球径よりも若干小さく形成されている。これによりボール部材22aは、第1基板10側の開口29bから落下すること無く摺動接点保持孔29内に受け止められ、その一部のみが開口29bから外部に突出し、この外部に突出したボール部材22aの一部が第1基板 (10) の導電環 (12) との接触しつつ導電環 (12) 上を転動する。
【0026】
摺動接点保持部材28は、また、インナケース4のスリーブ42が貫通する中央孔50と、摺動接点保持部材28をインナケース4に取付ける際に使用される取付け孔60とを有する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
摺動接点部材を金属の板ばねからボール部材と弾性部材との組に代えたことにより組立ての機械化も可能となり、回転方向の優位性がなくなり高速回転時にも安定した配線接続が得られるため、産業用ロボット、人型ロボット等の関節部動作の自由度の向上及び高速化に貢献できる。
【符号の説明】
【0028】
1…スリップリング装置 3…アウタケース
4…インナケース 10…第1基板
12…導電環 14…配線パターン
16…コネクタ 16a…第1端子
20…第2基板 22…摺動接点
22a…ボール部材 22b…弾性部材
24…配線パターン 26…コネクタ
26a…第2端子 28…摺動接点保持部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に可動な二つの外部機器の一方に電気的に接続される第1基板と、前記二つの外部機器の他方に電気的に接続される第2基板とからなり、前記第1基板
は、第1の面に同心円状に配置された複数の導電環と、第2の面に配置された前記複数の導電環をそれぞれ対応する複数の第1端子に接続する配線パターンとを有し、前記第2基板は、前記第1基板に対して相対的に回転自在に設けられ、前記第1基板の前記第1の面と対向する面に、前記複数の導電環とそれぞれ摺動接触可能に配置された複数の摺動接点と、該複数の摺動接点をそれぞれ対応する第2端子に接続する配線とを有するスリップリング装置において、
前記第2基板の前記複数の摺動接点は、導電性の複数のボール部材と、該複数のボール部材をそれぞれの対応する前記導電環に向けて付勢する複数の導電性の弾性部材とにより構成され、前記ボール部材と弾性部材は、前記ボール部材の一部が外部に突出するように前記ボール部材を受け止める複数の孔を備えた摺動接点保持部材により保持され、前記ボール部材は、前記孔から外部に突出する一部が前記第1基板の前記導電環と接していることを特徴とするスリップリング装置。
【請求項2】
前記スリップリング装置は、軸方向一端に開口を備えた壁面を有し、軸方向他端が開放されたアウタケースと、該アウタケース内に同アウタケースに対して回転自在に収容され、軸方向一端の壁面を前記アウタケースの前記開口から露出させたインナケースとを含み、
前記第1基板は前記アウタケースの開放端を閉塞するように前記アウタケースに取付けられ、前記第2基板及び前記摺動接点保持部材は前記インナケース内に同インナケースと一体に回転可能に収容されていることを特徴とする請求項1に記載のスリップリング装置。
【請求項3】
前記第1基板は、該第1基板上に、外部機器をコネクタ接続可能なコネクタを備えており、前記第1端子は前記第1基板上のコネクタ内に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスリップリング。
【請求項4】
前記第2基板は、該第2基板上に、前記複数の摺動接点をそれぞれ対応する複数の第2端子に接続する配線パターンと、外部機器をコネクタ接続可能なコネクタとを備えており、前記第2端子は前記第2基板上のコネクタ内に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスリップリング。
【請求項5】
前記インナケースは、前記アウタケースの前記開口から露出する壁面に窓を備え、前記第2基板上のコネクタは前記インナケースの前記窓から外部機器をコネクタ接続可能に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のスリップリング。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−114817(P2013−114817A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258095(P2011−258095)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【特許番号】特許第5043229号(P5043229)
【特許公報発行日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(592101138)シンデン株式会社 (4)