説明

セキュリティデバイス及びラベル付き物品

【課題】特殊な視覚効果を有し、潜像を可視化したときに明るい像を表示するセキュリティデバイスを提供する。
【解決手段】本発明のセキュリティデバイス10は、固化した液晶材料からなり、第1及び第2主面を備え、長さ方向が揃い且つ前記長さ方向と交差する方向に隣り合った複数の溝が各々に設けられた1つ以上の単位領域を前記第1主面が含んだ液晶層14と、前記第1主面を被覆した光透過層15と、前記光透過層15を間に挟んで前記第1主面と向き合うか又は前記第2主面と向き合ったホログラム又は回折格子を含んだ反射層12とを具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
偽造防止には、潜像を利用することがある。潜像は、特許文献1に記載されているように、液晶材料を使用して形成することができる。例えば、固化した液晶材料からなり、遅相軸の向きが異なる複数の領域を含んだ層を形成する。そして、この液晶層の背面側に反射層を設置する。
【0003】
このようにして得られるセキュリティデバイスを液晶層側から肉眼で観察した場合、先の領域を互いから区別することはできない。そして、偏光子を介してこのセキュリティデバイスを観察すると、先の領域は、それらの遅相軸と偏光子の光透過軸とが為す角度に応じた明るさの相違を生じる。即ち、先の領域が形成している潜像は、偏光子を介して観察することにより可視化する。
【0004】
液晶材料を使用して形成した潜像は、それ自体の存在が悟られ難い。加えて、この潜像は、機械読み取りが可能であるだけでなく、偏光フィルムなどの偏光子を用いることにより、即ち、大きな装置を使用することなしに可視化することができる。そのため、液晶材料を使用した偽造防止技術は、高い関心を集めている。
【特許文献1】特開2003−251643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなセキュリティデバイスには、特殊な視覚効果を有していることが望まれる。また、このようなセキュリティデバイスには、可視化した像を高い精度で判別可能であることが要求される。例えば、明るい像をセキュリティデバイスに表示させることができれば、高い判別精度を達成できる。
【0006】
本発明の目的は、特殊な視覚効果を有し、潜像を可視化したときに明るい像を表示するセキュリティデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、固化した液晶材料からなり、第1及び第2主面を備え、長さ方向が揃い且つ前記長さ方向と交差する方向に隣り合った複数の溝が各々に設けられた1つ以上の単位領域を前記第1主面が含んだ液晶層と、前記第1主面を被覆した光透過層と、前記光透過層を間に挟んで前記第1主面と向き合うか又は前記第2主面と向き合ったホログラム又は回折格子を含んだ反射層とを具備したことを特徴とするセキュリティデバイスが提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、第1側面に係るセキュリティデバイスと、前記セキュリティデバイスを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、特殊な視覚効果を有し、潜像を可視化したときに明るい像を表示するセキュリティデバイスが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係るセキュリティデバイスを概略的に示す平面図である。図2は、図1に示すセキュリティデバイスのII―II線に沿った断面図である。
【0012】
図1及び図2において、X方向は、セキュリティデバイス10の主面に平行な方向である。Y方向は、セキュリティデバイス10の主面に平行であり且つX方向に対して垂直な方向である。Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。
【0013】
このセキュリティデバイス10は、例えば、真正品であることが確認されるべき物品に支持させる表示体である。セキュリティデバイス10は、基材11と反射層12と中間層13と液晶層14と保護層15とを含んでいる。セキュリティデバイス10の前面は、保護層15側の面である。
【0014】
基材11は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)フィルムなどの樹脂からなるフィルム又はシートである。基材11は光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。また、基材11は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。基材11は、省略することができる。
【0015】
反射層12は、基材11の前面の全体を被覆している。反射層12は、基材11の前面の一部のみを被覆していてもよい。或いは、反射層12は、基材11の背面を少なくとも部分的に被覆していてもよい。この場合、基材11は、反射層12に対応した位置の少なくとも一部で光透過性とする。そして、この場合、典型的には、基材11として、反射層12に対応した位置の少なくとも一部で透明なものを使用する。
【0016】
反射層12は、光散乱性を有していてもよく、光散乱性を有していなくてもよい。また、反射層12は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0017】
反射層12は、ホログラム又は回折格子を含んでいる。反射層12は、ホログラム及び回折格子の一方のみを含んでいてもよく、それらの双方を含んでいてもよい。
【0018】
ホログラムは、例えば、体積ホログラム、即ちリップマンホログラムであるか又は表面レリーフホログラムなどである。回折格子は、例えば、平面格子又はブレーズド格子である。
【0019】
反射層12が体積ホログラムを含んでいる場合、反射層12は、干渉縞が屈折率及び透過率などの光学特性の分布として3次元的に記録された層であってもよい。或いは、反射層12は、そのような干渉縞が3次元的に記録された光透過層と、その背面と向き合った金属層とを含んでいてもよい。
【0020】
反射層12がレリーフ構造を有しているホログラム又は回折格子を含んでいる場合、反射層12は、表面にレリーフ構造が設けられた金属層であってもよい。或いは、反射層12は、隣り合う誘電体層間で屈折率が異なり且つ界面にレリーフ構造が設けられた誘電体多層膜を含んでいてもよい。
【0021】
反射層12は、その全体に亘って光学的特性が均一であってもよい。或いは、反射層12は、Z方向に垂直な方向に隣り合い且つ光学的特性が互いに異なる複数の部分を含んでいてもよい。
【0022】
ここでは、一例として、反射層12は体積ホログラムを含んでおり、その全体に亘って光学的特性が均一であるとする。なお、そのような体積ホログラムの製造方法については、後で説明する。
【0023】
液晶層14は、反射層12の前面と向き合っている。液晶層14は、液晶材料を固化してなる。典型的には、液晶層14は、流動性を有する重合性液晶材料を紫外線又は熱により硬化させてなる高分子複屈折性層である。
【0024】
液晶層14は、メソゲンの配向状態が異なる複数の液晶部分141乃至143を含んでいる。ここでは、一例として、メソゲンは、液晶部分141ではX方向に略平行に配向し、液晶部分142ではY方向に略平行に配向し、液晶部分143では配向していないこととする。
【0025】
液晶部分141乃至143は、潜像を形成しており、この潜像は、偏光子を用いて特定の条件のもとで観察したときに可視化する。配向状態が異なる部分を含んだ液晶層を形成する方法、及び、潜像の視覚効果については、後で説明する。
【0026】
中間層13は、反射層12と液晶層14との間に介在している。中間層13は、光透過性を有しており、典型的には透明である。中間層13は、典型的には、光学的に等方性である。
【0027】
中間層13は、例えば樹脂を含んでいる。中間層13は、反射層12と液晶層14との密着を向上させる役割を果たす。
【0028】
中間層13の材料としては、例えば熱可塑性樹脂などの樹脂を使用することができる。中間層13が含んでいる樹脂又はその材料としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又はビニル樹脂を、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0029】
中間層13は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。中間層13は、省略することができる。
【0030】
保護層15は、液晶層14の前面を被覆している。保護層15は、光透過性を有している光透過層であり、典型的には透明である。この場合、保護層15は、無色透明であってもよく、有色透明であってもよい。保護層15は、典型的には、光学的に等方性である。
【0031】
保護層15は、液晶層14などの損傷や光劣化を生じ難くして、セキュリティデバイス10が表示する像の劣化を抑制する保護層としての役割を果たす。保護層15は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0032】
保護層15は、例えば樹脂からなる。保護層15の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は紫外線若しくは電子線硬化樹脂を、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0033】
このセキュリティデバイス10は、例えば以下の方法により製造することができる。まず、反射層12の製造方法について説明する。
【0034】
図3は、体積ホログラムの製造装置の一例を概略的に示す図である。
この製造装置20は、レーザなどの光源(図示せず)と光学系とを含んでいる。光学系は、ビームスプリッタ(図示せず)と、ミラー及び/又はプリズム(図示せず)と、レンズ21及び22と、拡散板23とを含んでいる。
【0035】
ビームスプリッタは、レーザが放出したレーザビームを2つのレーザビームL0へと分割する。ミラー及び/又はプリズムは、これらレーザビームL0をそれぞれレンズ21及び22へと導く。
【0036】
レンズ21は、干渉縞を記録すべき感光性材料層12’の前面と向き合っている。レンズ21の光軸と感光性材料層12’の法線とは角度αを為している。レンズ21は、一方のレーザビームL0を発散光である記録用参照光Lref1へと変換し、この参照光Lref1で感光性材料層12’の前面を照明する。
【0037】
レンズ22は、拡散板23を間に挟んで感光性材料層12’の背面と向き合っている。レンズ22の光軸と感光性材料層12’の法線とは角度βを為している。レンズ22は、他方のレーザビームL0を発散光へと変換し、この発散光で拡散板23の一方の主面を照明する。拡散板23は、その他方の主面から散乱光である物体光Lobjを射出し、この物体光Lobjで感光性材料層12’の背面を照明する。
【0038】
反射層12は、例えば、この装置20を用いて、感光性材料層12’に干渉縞を3次元的に記録することにより得られる。ここでは、一例として、感光性材料層12’を基材11上に形成し、図3に示す装置20を用いて、基材11と反射層12との積層体を製造することとする。
【0039】
次に、液晶層14と保護層15との積層体を製造する。例えば、まず、一方の主面が領域A1乃至A3を含んだ保護層15を形成する。領域A1乃至A3は、それぞれ液晶部分141乃至143に対応している。
【0040】
領域A1及びA2の各々には、長さ方向が揃い且つこの長さ方向と交差する方向に隣り合った複数の溝が設けられている。領域A1では、溝の長さ方向は、X方向に略平行である。領域A2では、溝の長さ方向は、Y方向に略平行である。領域A3は、平坦面である。このような構造を採用すると、後で詳しく説明するように、領域A1及びA2に対応した位置でメソゲンが溝の長さ方向に沿って配向した液晶層14が得られる。
【0041】
ここで、領域A1及びA2の各々に採用可能な構造及びその形成方法について詳しく説明する。
領域A1及びA2の各々には、例えば、複数の溝を幅方向に等間隔で平行に並べた構造を採用することができる。
【0042】
これら溝は、互いに平行でなくてもよい。但し、これら溝が平行に近いほど、液晶部分141及び142の各々において、メソゲンの長軸が揃い易くなる。これら溝が為す角度は、例えば5°以下とし、典型的には3°以下とする。
【0043】
領域A1及びA2の各々において、これら溝は、縦横に並べてもよい。また、溝の長さは、互いに等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。また、長さ方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。更に、幅方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。例えば、領域A1及びA2の各々には、互いに長さが等しい溝を縦横に並べてもよい。或いは、領域A1及びA2の各々には、様々な長さの溝をランダムに並べてもよい。
【0044】
保護層15は、例えば、感光性樹脂材料に、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法や、電子ビームによってパターンを描画する方法により形成することができる。或いは、表面レリーフ型ホログラムの製造で行われているように、複数の線状凸部を設けた金型を樹脂に押し付けることにより形成することができる。例えば、保護層15は、図示しない基材上に形成された熱可塑性樹脂層に、複数の線状凸部が設けられた原版を、熱を印加しながら押し当てる方法、即ち、熱エンボス加工法により得られる。或いは、保護層15は、図示しない基材上に紫外線硬化樹脂を塗布し、これに原版を押し当てながら基材側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、原版を取り除く方法により形成することも可能である。
【0045】
これらの方法によれば、1つの面内に溝の長さ方向が異なる複数の領域を形成することができる。また、これらの方法によると、1つの面内に溝の深さ、幅、及び/又は溝などが異なる複数の領域を形成することもできる。
【0046】
先の原版は、例えば、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法、電子ビームによってパターンを描画する方法、又はバイトによって切削する方法により得られた母型の電鋳を行うことにより得られる。保護層15に上記のような多様性をもたせない場合は、ラビング処理などの配向処理を行ってもよい。
【0047】
これら溝の深さは、例えば、0.05μm乃至1μmの範囲とする。また、溝の長さは、例えば、0.5μm以上とする。溝のピッチは、例えば0.1μm以上であり、典型的には0.75μm以上である。また、溝のピッチは、例えば10μm以下であり、典型的には2μm以下である。メソゲンを高い秩序度で配向させるには、溝のピッチは小さいことが有利である。
【0048】
液晶層14は、例えば、上述した方法により形成した保護層15上に形成する。液晶層14は、液晶材料を固化してなる。
【0049】
例えば、保護層15上に、流動性を有する光重合性ネマチック液晶材料を塗布する。保護層15に液晶材料を塗布すると、液晶材料のメソゲンは溝の長さ方向に沿って並ぶ。なお、必要な場合には、加熱によってメソゲンの配向を促す。次いで、メソゲンの配向状態をほぼ維持したまま液晶材料を固化させる。例えば、液晶材料に紫外線を照射して、それらの重合を生じさせる。
【0050】
メソゲンの配向状態をほぼ維持したまま液晶材料を固化させると、メソゲンの配向状態が異なる液晶部分141乃至143が得られる。この例では、メソゲンがX方向に配向した液晶部分141と、メソゲンがY方向に配向した液晶部分142と、メソゲンが配向していない液晶部分143とが得られる。
【0051】
メソゲンの配向方向についての屈折率は異常光線屈折率neであり、この配向方向と直交する方向についての屈折率は常光線屈折率noである。そして、屈折率neは屈折率noより大きい。それゆえ、液晶部分141の遅相軸はX方向と平行であり、進相軸はY方向と平行である。また、液晶部分142の遅相軸はY方向と平行であり、進相軸はX方向と平行である。そして、液晶部分143は、光学的に略等方性である。
【0052】
また、このような方法により得られる液晶層14の保護層15との対向面には、保護層15の表面に設けられた複数の溝に対応して、複数の線状凸部が設けられている。複数の溝をそれらの幅方向に等しい間隔で略平行に並べた構造を領域A1及びA2に採用した場合、液晶層14と保護層15との屈折率の差を十分に大きくすることにより、液晶層14の表面に設けられた線状凸部又は溝で回折格子を構成することができる。複数の溝をそれらの幅方向に不規則な間隔で略平行に並べた構造を領域A1及びA2に採用した場合、液晶層14と保護層15との屈折率の差を十分に大きくすることにより、液晶層14の表面に設けられた線状凸部又は溝で一方向性拡散パターンを構成することができる。なお、この一方向性拡散パターンは、線状凸部又は溝の長さ方向に垂直な面内での拡散能が、液晶層14の主面に垂直であり且つ線状凸部又は溝の長さ方向に平行な面内での拡散能と比較してより大きい光拡散特性、即ち、光散乱異方性を示すパターンである。
【0053】
ここでは、一例として、領域A1及びA2の各々は、複数の溝をそれらの幅方向に等しい間隔で略平行に並べた構造を採用していることとする。そして、ここでは、液晶層14と保護層15との屈折率の差は十分に小さく、液晶部分142乃至144の各々に設けられた線状凸部又は溝は、回折格子及び一方向性拡散パターンの何れも構成していないこととする。
【0054】
以上のようにして、液晶分子又はメソゲンの長軸の向きが固定化された液晶層23を得る。なお、ここでは、液晶層23の材料としてネマチック液晶材料を用いているが、コレステリック液晶材料やスメクチック液晶材料を用いてもよい。また、液晶層23の材料は、熱重合性であってもよい。この場合、液晶材料は、加熱によって硬化させてもよい。
【0055】
次に、液晶層14と保護層15との積層体を、基材11と反射層12との積層体と貼り合せる。例えば、液晶層14及び反射層12の少なくとも一方の上に接着剤層を形成し、この接着剤層を間に挟んで先の積層体を貼り合せる。これにより、中間層13を形成すると共に、図1及び図2に示すセキュリティデバイス10を得る。
【0056】
次に、このセキュリティデバイス10が表示する画像について説明する。まず、反射層12を照明したときに生じる現象について説明する。
【0057】
図4は、図3に示す方法により製造した体積ホログラムが、再生用参照光で照明することにより画像を再生する様子を概略的に示す図である。
【0058】
図4において、参照符号31は、再生用参照光Lref2として白色光を放出する光源を示している。また、図4において、反射層12は、図3に示す方法により製造した体積ホログラムである。
【0059】
反射層12の前面を、以下のように再生用参照光Lref2で照明する。即ち、再生用参照光Lref2の広がり角及び入射角を、それぞれ図3を参照しながら説明した記録用参照光Lref1の広がり角及び入射角と等しくする。こうすると、反射層12は、図3を参照しながら説明した物体光Lobjとほぼ等しい再生光Lrprを射出角βで射出する。
【0060】
これから明らかなように、この反射層12は、特定の条件のもとでは高い反射率を示し、その他の条件のもとでは反射率が低い。即ち、この反射層12は、高い反射率を示す照明条件が制限されており、この条件で照明した場合に反射光としての再生光Lrprを観察可能な角度範囲が制限されている。
【0061】
そして、再生光Lrprを観察可能な角度範囲は、図3に示す拡散板23の大きさ、及び、拡散板23と感光性材料層12’との距離に応じて変化する。再生光Lrprを観察可能な角度範囲を小さくすると、再生光Lrprはより高強度となる。
【0062】
また、再生光Lrprの射出角βは、図3に示す物体光Lobjの入射角βと等しい。即ち、再生光Lrprの射出角βは、物体光Lobjの入射角βによって制御できる。
【0063】
次に、図1及び図2に示すセキュリティデバイス10に白色光を照射し、これを肉眼で観察した場合に見える画像について説明する。ここでは、反射層12の前面及び背面並びにその背面側に位置した物体の反射率は、それらによる反射を無視できる程度に十分に小さいことを仮定する。例えば、セキュリティデバイス10は吸収率が大きな着色層、例えば黒色層を反射層12の背面側に更に含んでいるか、又は、セキュリティデバイス10は反射率が小さな物品に支持されていることとする。
【0064】
なお、白色光とは、可視領域内の全ての波長の非偏光からなる光である。また、図1及び図2並びに他の図面において、参照符号101乃至103は、セキュリティデバイス10をZ方向に平行な境界に沿って分割することにより得られる表示部を表している。具体的には、セキュリティデバイス10のうち、液晶部分141に対応した部分が表示部101であり、液晶部分142に対応した部分が表示部102であり、液晶部分143に対応した部分が表示部103である。
【0065】
セキュリティデバイス10に白色光を照射し、これを肉眼で観察した場合、図1に示すように、表示部101乃至103は互いからの判別が不可能又は困難である。これについて、より詳細に説明する。
【0066】
表示部101に入射した照明光としての白色光は、図2に示す保護層15と液晶部分141とをこの順に透過する。液晶部分141の前面には複数の溝が設けられているが、液晶層14と保護層15との屈折率の差は十分に小さい。従って、この入射光は、理想的には散乱及び回折の何れも生じることなく、保護層15と液晶部分141とをこの順に透過する。
【0067】
液晶部分141を透過した光は、中間層13を透過し、反射層12に入射する。反射層12は、斜め方向に入射した光の一部から図4を参照しながら説明した再生光Lrprを生成し、残りの光を透過させる。反射層12を透過した光は、反射層12の背面側に位置した物体によって吸収される。
【0068】
再生光Lrprは、中間層13と液晶部分141と保護層15とをこの順に透過する。観察者は、観察角度が特定の範囲内にある場合には再生光Lrprを知覚し、観察角度が先の範囲外にある場合には再生光Lrprを知覚しない。
【0069】
従って、再生光Lrprを観察可能な角度範囲内では、表示部101は、再生光Lrprに由来する色に見える。再生光Lrprを観察できない角度範囲内では、表示部101は、暗色、例えば黒色に見える。
【0070】
表示部102は、表示部101とはメソゲンの配向方向が異なっているが、観察者はその違いは知覚できない。また、表示部102は、表示部101とは溝の長さ方向が異なっているが、先に説明した通り、液晶層14と保護層15との屈折率の差は十分に小さい。従って、表示部102は、表示部101と同じ色に見える。
【0071】
表示部103は、溝が設けられておらず、メソゲンが配向していない点で、表示部101とは異なっている。観察者は、メソゲンの配向状態の違いを知覚できない。従って、表示部103は、表示部101と同じ色に見える。
【0072】
このように、表示部101乃至103は、同じ色に見える。従って、セキュリティデバイス10に白色光を照射し、これを肉眼で観察した場合、図1に示すように、表示部101乃至103は互いからの判別が不可能又は困難である。
【0073】
次に、偏光子を介してセキュリティデバイス10を観察した場合に見える画像について説明する。ここでは、一例として、偏光子として直線偏光フィルムを使用することとする。
【0074】
図5は、図1及び図2に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の一例を概略的に示す平面図である。
【0075】
図5では、図1及び図2に示すセキュリティデバイス10と吸収型の直線偏光フィルム50とを、偏光フィルム50側からセキュリティデバイス10を見た場合に、偏光フィルム50の透過軸がX方向に対して時計回りに45°の角度を為すように重ねている。そして、図5では、X方向に垂直であり且つZ方向に対して傾いた方向から偏光フィルム50の前面を照明し、偏光フィルム50を介してセキュリティデバイス10をZ方向から観察した場合を想定している。この場合、図5に示すように、表示部101乃至103は互いからの判別が不可能又は困難である。これについてより詳細に説明する。
【0076】
偏光フィルム50に照明光として白色光を照射すると、直線偏光フィルム50は、その透過軸に平行な偏光面(電場ベクトルの振動面)を有する直線偏光を透過させ、その透過軸に垂直な偏光面を有する直線偏光を吸収する。
【0077】
表示部101に入射した直線偏光は、図2に示す保護層15と液晶部分141とをこの順に透過する。液晶部分141では、メソゲンはX方向と略平行に配向している。即ち、偏光フィルム50側から見て、液晶部分141の遅相軸は、偏光フィルム50の透過軸に対して反時計回りに45°回転させた方向に平行である。従って、先の直線偏光は、液晶部分141を透過することにより右円偏光又は右楕円偏光へと変換される。
【0078】
これら右円偏光及び右楕円偏光は、中間層13を透過し、反射層12に入射する。反射層12は、X方向に垂直であり且つZ方向に対して傾いた方向から入射した光を反射しない。従って、表示部101は、暗色、例えば黒色に見える。
【0079】
表示部102と表示部101とは、溝の長さ方向が90°異なり、メソゲンの配向方向が90°異なっている点でのみ相違している。従って、表示部102は、表示部102と同様に暗色、例えば黒色に見える。
【0080】
表示部103は、表示部101とは、溝が設けられておらず、メソゲンが配向していない点でのみ相違している。従って、表示部103は、表示部102と同様に暗色、例えば黒色に見える。
【0081】
このように、表示部101乃至103は、暗色、例えば黒色に見える。従って、図5に示すように、表示部101乃至103は、互いからの判別が不可能又は困難である。
【0082】
なお、反射層12が何れの方向から照明しても高い反射率を示す場合、図5を参照しながら説明したように偏光フィルム50とセキュリティデバイス10とを重ねてこれを観察すると、表示部101及び102は表示部103から容易に判別できる。例えば、反射層12が鏡面を有しており、Z方向から偏光フィルム50を照明し、偏光フィルム50を介してZ方向からセキュリティデバイス10を観察することを仮定する。この場合、表示部101及び102は同じ色に着色して見え、表示部103は銀白色に見える。
【0083】
図6は、図1及び図2に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の他の例を概略的に示す斜視図である。
【0084】
図6には、観察方向をX方向に垂直な面内でZ方向に対して照明方向とは逆向きに傾けたこと以外は、図5を参照しながら説明したのと同様の条件のもとで観察可能な像を描いている。この場合も、反射層12は入射光を反射しない。従って、表示部101乃至103は、暗色、例えば黒色に見える。それゆえ、表示部101乃至103は、互いからの判別が不可能又は困難である。
【0085】
図7は、図1及び図2に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の更に他の例を概略的に示す斜視図である。
【0086】
図7には、セキュリティデバイス10及び偏光フィルム50を、それらの法線の周りで90°回転させたこと以外は、図6を参照しながら説明したのと同様の条件のもとで観察可能な像を描いている。このような観察条件のもとでは、照明光の入射角を適宜設定すると、反射層12は入射光を回折し、回折光を反射光として射出する。従って、以下に説明するように、表示部101乃至103が形成している潜像が可視化する。
【0087】
偏光フィルム50に照明光として白色光を照射すると、直線偏光フィルム50は、その透過軸に平行な偏光面を有する直線偏光を透過させ、その透過軸に垂直な偏光面を有する直線偏光を吸収する。
【0088】
表示部101に入射した直線偏光は、図2に示す保護層15と液晶部分141とをこの順に透過する。この直線偏光は、液晶部分141を透過することにより右円偏光又は右楕円偏光へと変換される。
【0089】
これら右円偏光及び右楕円偏光は、中間層13を透過し、反射層12に入射する。反射層12は、Y方向に垂直な方向から入射角αで入射する光を回折し、Y方向に垂直な方向に射出角βで回折光を左円偏光及び左楕円偏光として射出する。
【0090】
この反射光としての左円偏光及び左楕円偏光は、中間層13と液晶部分141と保護層15とをこの順に透過する。この反射光は、液晶部分141を透過することにより、その波長に応じて、直線偏光、楕円偏光又は円偏光へと変換される。
【0091】
従って、表示部101からの反射光のうち、一部の波長域の光成分のみが偏光フィルム50を透過し、観察者はこの透過光を知覚する。それゆえ、表示部101は、着色して見える。
【0092】
表示部102では、表示部101と同様に、液晶層14は複屈折性を有している。従って、表示部101に関する説明から明らかなように、表示部102も着色して見える。但し、表示部102は、表示部101とはメソゲンの配向方向が異なっている。そのため、表示部102は、表示部101とは異なる色に見える。
【0093】
表示部103では、表示部101及び102とは異なり、液晶層14は複屈折性を有していない。従って、表示部103は、偏光面が偏光フィルム50の透過軸に対して平行な直線偏光を反射光として射出する。それゆえ、例えば反射層12が射出する回折光が白色光である場合には、表示部103は白色に見える。
【0094】
このように、表示部101乃至103は、異なる色に見える。従って、図7に示す観察条件のもとでは、表示部101及び102を表示部103から容易に判別することができ、加えて、表示部101を表示部102から判別することが可能である。
【0095】
上記の通り、このセキュリティデバイス10は、特殊な条件のもとで観察した場合にのみ潜像が可視化する。即ち、このセキュリティデバイス10は、特殊な視覚効果を有しており、潜像が記録されていることを悟られ難い。
【0096】
加えて、このセキュリティデバイス10は、潜像を可視化したときに、明るい像を表示する。従って、可視化した像を高い精度で判別可能である。
【0097】
図7を参照しながら説明した光学的特徴は、例えば、偏光フィルム50を使用すれば、目視によって確認することができる。また、図7を参照しながら説明した光学的特徴は、例えば、以下の装置を用いることにより確認することができる。
【0098】
図8は、判別装置の一例を概略的に示す図である。
この判別装置30は、光源31と偏光子50とイメージセンサ32と図示しない処理部及び出力部とを含んでいる。図8には、判別対象物の一例として、セキュリティデバイス10を描いている。
【0099】
光源31は、偏光子50に、再生用の参照光である照明光Lref2を照射する。照明光Lref2は、例えば自然光としての白色光である。
【0100】
偏光子50は、例えば直線偏光フィルムである。偏光子50は、セキュリティデバイス10の全体又は表示部101及び102並びにそれらの周囲の部分に向けて直線偏光を射出する。そして、偏光子50は、セキュリティデバイス10からの反射光の一部を、再生光Lrprとしてイメージセンサ32に向けて射出する。
【0101】
イメージセンサ32は、再生光Lrprが受光面上に形成する再生画像を読み出し、画像データを処理部へと出力する。
【0102】
処理部は、例えば、画像データを処理して、出力部の動作を制御する制御信号を生成する。例えば、処理部は、イメージセンサ32が出力した画像データを必要に応じて画像処理し、これを予め記憶している参照データと比較する。そして、処理部は、画像データと参照データとが一致している場合には第1制御信号を出力部へと出力し、それらが相違している場合には第2制御信号を出力部へと出力する。或いは、処理部は、イメージセンサ32が出力した画像データから、制御信号又はその一部として映像信号を出力部へと出力する。
【0103】
出力部は、処理部による制御のもとで、オペレータが知覚可能な情報を出力する。出力部は、例えば、再生光Lrprがイメージセンサ32の受光面上に形成する再生画像に対応した画像を表示するディスプレイであるか、又は、画像データと参照データとの一致及び/又は不一致をオペレータに知らせるランプ若しくはブザーである。オペレータは、この情報に基づいて、判別対象物がセキュリティデバイス10であるか否かを確認する。
【0104】
セキュリティデバイス10を又はセキュリティデバイス10と偏光子50とを、Z方向に平行な軸の周りで90°回転させ、この状態で再生画像の読み出し等を更に行ってもよい。この状態では、セキュリティデバイス10は、図6を参照しながら説明した画像を表示する。従って、例えば、この状態でイメージセンサ32が出力した画像データを必要に応じて画像処理し、これを予め記憶している参照データと比較することにより、判別対象物がセキュリティデバイス10であるか否かをより高い精度で判別することができる。
【0105】
上述した説明では、反射層12は体積ホログラムを含んでおり、その全体に亘って光学的特性が均一であることを想定している。反射層12の一部と他の一部とで光学的特性を異ならしめた場合、以下の方法により、判別対象物がセキュリティデバイス10であるか否かを判別することができる。
【0106】
なお、以下の説明では、一例として、反射層12は、図4を参照しながら説明した条件のもとで参照光Lref2を照射した場合に、反射層12のうち表示部101内に位置した部分は再生光Lrprとして赤色光を射出し、反射層12のうち表示部102内に位置した部分は再生光Lrprとして緑色光を射出するように設計されているとする。再生光Lrprのスペクトルは、反射層12に使用する感光性材料の収縮又は膨張を考慮しつつ、図3を参照しながら説明した物体光Lobj及び参照光Lref1の記録波長を最適化することにより制御できる。
【0107】
図9は、判別装置の他の例を概略的に示す図である。
図9に示す判別装置30は、イメージセンサ32の代わりに2つの光検出器32a及び32bを含んでいること以外は、図8に示す判別装置30とほぼ同様である。光検出器32aは、表示部101からの反射光に対応した再生光Lrpraを検出する。そして、光検出器32bは、表示部102からの反射光に対応した再生光Lrprbを検出する。
【0108】
処理部は、例えば、光検出器32a及び32bが出力した色データを、予め記憶している第1及び第2参照データとそれぞれ比較する。そして、これら比較の結果に基づいて、上述した第1又は第2制御信号を出力部へと出力する。このようにして、例えば、判別対象物がセキュリティデバイス10であるか否かを判別する。
【0109】
なお、図9に示す判別装置30では、1つの光源31が放出する照明光Lref2のうち、一部Lref2aを表示部101の照明に利用し、他の一部Lref2bを表示部102の照明に利用している。判別装置30は、光源31の代わりに、照明光Lref2aを放出する光源と照明光Lref2bを放出する光源とを含んでいてもよい。
【0110】
図10は、図9に示す判別装置の一方の光検出器が検出するスペクトルの一例を示すグラフである。図11は、図9に示す判別装置の他方の光検出器が検出するスペクトルの一例を示すグラフである。
【0111】
図10及び図11において、横軸は波長を示し、縦軸は輝度を示している。また、図10において、実線La1は、照明光として白色光を照射した場合に光検出器32aが検出する再生光Lrpraのスペクトルの一例を示している。破線La2は、図9に示す配置においてセキュリティデバイス10から中間層13と液晶層14と保護層15とを省略し、照明光として先の白色光を照射した場合に光検出器32aが検出する光のスペクトルの一例を示している。そして、図11において、実線Lb1は、照明光として先の白色光を照射した場合に光検出器32bが検出する再生光Lrprbのスペクトルの一例を示している。破線Lb2は、図9に示す配置においてセキュリティデバイス10から中間層13と液晶層14と保護層15とを省略し、照明光として先の白色光を照射した場合に光検出器32bが検出する光のスペクトルの一例を示している。
【0112】
光検出器32aが検出する再生光Lrpraのスペクトルは、反射層12のうち表示部101内に位置した部分の反射特性と、液晶部分141と偏光子50との組み合わせの吸収特性とに依存している。同様に、光検出器32bが検出する再生光Lrprbのスペクトルは、反射層12のうち表示部102内に位置した部分の反射特性と、液晶部分142と偏光子50との組み合わせの吸収特性とに依存している。
【0113】
この例では、表示部101及び102に対応した各々の位置で、反射層12が大きな反射率を示す波長域における吸収率が、他の波長域における吸収率と比較して小さい設計を採用している。従って、光検出器32aは、図10に示すように高い輝度の赤色光を検出し、光検出器32bは、図11に示すように高い輝度の緑色光を検出する。それゆえ、図9に示す判別装置30では、光検出器32a及び32bの感度が低い場合であっても、表示部101及び102に特有な色をそれぞれ検出することができる。
【0114】
なお、図9に示す判別装置30では、光検出器32a及び32bの代わりに、図8を参照しながら説明したイメージセンサ32を使用してもよい。また、図8に示す判別装置30では、イメージセンサ32の代わりに、図9を参照しながら説明した光検出器32a及び32bを使用してもよい。
【0115】
上述したセキュリティデバイス10には、様々な変形が可能である。
例えば、上述した溝を領域A1及びA2に設ける代わりに、光透過層としての中間層13と液晶層14との界面に設けてもよい。この場合、保護層15は省略することができる。或いは、セキュリティデバイス10には、以下の構造を採用してもよい。
【0116】
図12は、一変形例に係るセキュリティデバイスを概略的に示す断面図である。
このセキュリティデバイス10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1及び図2を参照しながら説明したセキュリティデバイス10と同様の構成を有している。即ち、このセキュリティデバイス10では、領域A2に設けられている溝の長さ方向はX方向に略平行であり、それゆえ、液晶部分142の遅相軸はX方向と略平行である。そして、液晶部分142は、液晶部分A1と比較してより薄い。即ち、このセキュリティデバイス10では、液晶部分141及び142は、遅相軸の向きが等しく、リターデイションが異なっている。
【0117】
このセキュリティデバイス10は、肉眼で観察した場合並びに図5及び図6を参照しながら説明した条件のもとで観察した場合には、表示部101乃至103が形成している潜像が可視化することはない。そして、このセキュリティデバイス10は、図7を参照しながら説明した条件のもとで観察した場合には、液晶部分141乃至143のリターデイションの相違に起因して、表示部101乃至103が形成している潜像が可視化する。具体的には、表示部101乃至103は異なる色に見える。
【0118】
ここで、表示部101及び102が異なる色に見える理由について、数式を参照しながら説明する。
【0119】
液晶層のリターデイションReは、下記等式(1)に示すように、液晶層の膜厚dとその複屈折性Δnとに依存する。
Re=Δn×d …(1)
ここで、Δn=ne−noである。
【0120】
一対の直線偏光フィルムをそれらの透過軸が直交するように向かい合わせ、それらの間に液晶層をその光学軸が直線偏光フィルムの透過軸に対して角度θを為すように介在させる。一方の直線偏光フィルムをその法線方向から波長λの光で照明した場合、液晶層に入射する光の強度をI0とし、他方の直線偏光フィルムを透過する光の強度をIとすると、強度Iは、下記等式(2)で表すことができる。
I=I0×sin2(2θ)×sin2(Re×π/λ) …(2)
等式(2)から明らかなように、透過光の強度Iが最大値を示す波長λは、リターデイションReに依存している。そして、等式(1)に示すように、リターデイションReは、液晶層の膜厚dとその複屈折性Δnとに依存している。即ち、透過光の強度Iが最大値を示す波長λは、液晶層の膜厚dに依存する。従って、表示部101及び102が異なる色に見える。
【0121】
なお、図12を参照しながら説明した構造は、図1及び図2を参照しながら説明した構造と組み合わせてもよい。
【0122】
以上説明したように、このセキュリティデバイス10は、特殊な条件のもとで観察した場合にのみ潜像が可視化するため、潜像が記録されていることを悟られ難い。そして、このセキュリティデバイス10は、潜像を可視化したときに明るい像を表示するため、可視化した像を高い精度で判別可能である。即ち、このセキュリティデバイス10は、偽造され難く、判別が容易である。従って、このセキュリティデバイス10は、優れた偽造防止効果を提供する。
【0123】
例えば、このセキュリティデバイス10とこれを支持した物品とを含んだラベル付き物品を真正品とした場合、真正であるか否かが未知の物品が上述した特徴の1つ以上を示さないときには、その物品は非真正品であると判断することができる。即ち、真正であるか否かが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別することができる。従って、例えば、有価証券、銀行券、身分証明書などの証明書、及びクレジットカードなどの印刷物や美術品などの高級品の偽造を防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の一態様に係るセキュリティデバイスを概略的に示す平面図。
【図2】図1に示すセキュリティデバイスのII―II線に沿った断面図。
【図3】体積ホログラムの製造装置の一例を概略的に示す図。
【図4】図3に示す方法により製造した体積ホログラムが、再生用参照光で照明することにより画像を再生する様子を概略的に示す図。
【図5】図1及び図2に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の一例を概略的に示す平面図。
【図6】図1及び図2に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の他の例を概略的に示す斜視図。
【図7】図1及び図2に示すセキュリティデバイスと直線偏光フィルムとを重ねた場合に観察可能な像の更に他の例を概略的に示す斜視図。
【図8】判別装置の一例を概略的に示す図。
【図9】判別装置の他の例を概略的に示す図。
【図10】図9に示す判別装置の一方の光検出器が検出するスペクトルの一例を示すグラフ。
【図11】図9に示す判別装置の他方の光検出器が検出するスペクトルの一例を示すグラフ。
【図12】一変形例に係るセキュリティデバイスを概略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0125】
10…セキュリティデバイス、11…基材、12…反射層、12’…感光性材料層、13…中間層、14…液晶層、15…保護層、20…製造装置、21…レンズ、22…レンズ、23…拡散板、30…判別装置、31…光源、32…イメージセンサ、32a…光検出器、32b…光検出器、50…偏光フィルム、101…表示部、102…表示部、103…表示部、141…液晶部分、142…液晶部分、143…液晶部分、A1…領域、A2…領域、A3…領域、L0…レーザビーム、La1…実線、La2…破線、Lb1…実線、Lb2…破線、Lobj…物体光、Lref1…記録用参照光、Lref2…再生用参照光、Lref2a…照明光、Lref2b…照明光、Lrpr…再生光、Lrpra…再生光、Lrprb…再生光、α…角度、β…角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固化した液晶材料からなり、第1及び第2主面を備え、長さ方向が揃い且つ前記長さ方向と交差する方向に隣り合った複数の溝が各々に設けられた1つ以上の単位領域を前記第1主面が含んだ液晶層と、
前記第1主面を被覆した光透過層と、
前記光透過層を間に挟んで前記第1主面と向き合うか又は前記第2主面と向き合ったホログラム又は回折格子を含んだ反射層と
を具備したことを特徴とするセキュリティデバイス。
【請求項2】
前記第1主面は前記単位領域を複数含み、前記液晶層のうち、前記複数の単位領域の1つに対応した第1液晶部分は、前記複数の単位領域の他の1つに対応した第2液晶部分とは前記長さ方向及び/又は厚さが異なっていることを特徴とする請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項3】
前記反射層のうち前記複数の単位領域にそれぞれ対応した複数の部分は光学的特性が互いに等しいことを特徴とする請求項2に記載のセキュリティデバイス。
【請求項4】
前記反射層のうち、前記第1液晶部分に対応した部分は、前記第2液晶部分に対応した部分とは反射スペクトルが異なっていることを特徴とする請求項2に記載のセキュリティデバイス。
【請求項5】
前記反射層は、前記ホログラム又は回折格子として体積ホログラムを含んだことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のセキュリティデバイス。
【請求項6】
前記反射層は、前記ホログラム又は回折格子としてレリーフ構造を含んだことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のセキュリティデバイス。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のセキュリティデバイスと、前記セキュリティデバイスを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−288328(P2009−288328A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138269(P2008−138269)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】