説明

セシウム吸着剤およびその製造方法

【課題】 優れたセシウム吸着性能を有するフェロシアン化金属化合物を効率的に担持させたセシウム吸着剤と、その製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物から得られた成形物からなるセシウム吸着剤である。さらに、不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物との混合物を成形した後に、この成形物を加熱することで固化させることを特徴とするセシウム吸着剤の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセシウム吸着剤およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、セシウム吸着能が高く、多量な廃液から効率的にセシウムを除去することができるセシウム吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用済み燃料の再処理施設のような原子力利用に関連した施設から発生する廃液中から、放射性セシウムの回収および除去について様々な方法が検討されている。放射性セシウムは、ウラン235等の核分裂反応によって生成するが、半減期が長く、かつ溶出しやすいアルカリ金属であるため、原子力施設の各種処理液に含まれている。放射性セシウムを含む廃液や処理水が、海水やため池などに流出した場合には、共存する多量なナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属およびカルシウムなどのアルカリ土類金属が含まれるため、効率的に放射性セシウムを取り除く方法が切望されている。
【0003】
海水のように他の金属イオンが多く共存する液体から、放射性セシウムを取り除くための手段として、フェロシアン化金属化合物がセシウム吸着能力に優れることは、よく知られている。しかしながら、一般的にフェロシアン化金属化合物は微粉末であるため、そのままの形状で吸着剤として使用するのは困難である。そのため、多孔質の構造をした物質などにフェロシアン化金属化合物を担持させて使用することが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、水に難溶なフェロシアン化金属化合物を活性炭の細孔内に沈着させた可燃性セシウム吸着剤を使用することが記載されている。
また、特許文献2には、セシウムの吸着能が高く、多孔性担体の細孔内に銅塩系水溶性ヘキサシアノ鉄(II)酸塩を担持したセシウム分離材について記載されている。
しかしながら、特許文献1における活性炭の細孔内に沈着するフェロシアン化金属化合物の割合が少ないため、活性炭の単位体積あたりのフェロシアン化金属化合物の担持量が少なく、そのためフェロシアン化金属化合物が担持された活性炭は、セシウムの吸着処理の能力が低く、特に多量の処理液に含まれるセシウムを吸着処理する場合には、処理時間を長く設定する必要があるなど吸着効率が悪く、実用的な面では不十分である。さらにセシウムを含む溶液を処理すると沈着していた微細なフェロシアン化金属またはそのイオン化物が溶出する恐れがある。
同じように、特許文献2のヘキサシアノ鉄(II)酸銅担持多孔性樹脂においても、多孔性樹脂に担持するヘキサシアノ鉄酸銅の割合が少なく、特に多量の処理液についてセシウムを吸着処理する場合には、吸着効率が悪く、実用的な面では不十分であると共にセシウムを含む溶液を処理すると、沈着していた微細なフェロシアン化金属またはそのイオン化物が溶出する恐れがある。
【0005】
また、特許文献2においては担体に用いる多孔性体が多孔性樹脂である場合と多孔性シリカゲルである場合が記載されている。一方、放射性セシウムは発熱性核種であることから、吸着材中の濃度が上昇すると発熱するため、樹脂製担体は極めて低濃度の吸着に留めるか、吸着後にきわめて低い温度で保管するか、樹脂分を焼却除去した後に無機物で再度固化するなどの処理が必要となり好ましくない。このため無機担体であるシリカゲルは吸着後の処理が容易である点で優れているが、汚染水に浸すと水を吸収してシリカゲルが崩壊しやすく、ろ過材などとして用いると通液抵抗の増大や場合によってはカラムの破損につながる恐れがある。
【0006】
上記のとおり、特許文献1および2に記載されたフェロシアン化金属化合物の担持方法では、多量なフェロシアン化金属化合物を担持することができないため、セシウムの吸着効率、すなわち原子力施設の各種処理液からのセシウム除去処理能力の面で、実用上十分に満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−207839号公報
【特許文献2】特開平11−76807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の状況を鑑み、高いセシウム吸着性能を有するフェロシアン化金属化合物が効率的に含まれたセシウム吸着剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物から得られる成形物が、上記課題を解決するセシウム吸着剤となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、請求項1に記載のセシウム吸着剤は、不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物からなるセシウム吸着剤である。
【0011】
請求項2に記載のセシウム吸着剤は、金属酸化物が、粒子径が5〜30nmの無水珪酸を含むコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1に記載のセシウム吸着剤である。
【0012】
請求項3は、不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物および/または金属酸化物分散液を混合させて得られた混合物を成形した後、加熱固化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセシウム吸着剤の製造方法である。
【0013】
請求項4は、金属酸化物の前駆体に、不溶性フェロシアン化金属化合物を加えて分散させた状態で反応させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセシウム吸着剤の製造方法である。
【0014】
請求項5は、請求項3または請求項4に記載の製造方法で得られたセシウム吸着剤を、金属アルコキシドを含有する溶液に浸漬させた後、さらに加熱することを特徴とするセシウム吸着剤の製造方法である。
【0015】
請求項6は、金属アルコキシドが、シリコンテトラエトキシド、シリコンテトラメトキシドおよびそれらの部分加水分解縮合物のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載のセシウム吸着剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセシウム吸着剤は、セシウム吸着能量に優れており、多量なセシウム含有廃液から短時間でセシウムを除去処理することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における不溶性フェロシアン化金属化合物とは、2価以上のアルカリ土類以外の金属を含む塩類もしくはフェロシアン化物イオンを含む塩類もしくは酸とを反応させて得られる、水に難溶なフェロシアン化金属化合物であり、特に限定なく使用できる。
例えば、一般式M[Fe(CN)6](Mは金属成分などを示す)で表されるフェロシアン酸の金属化合物である、フェロシアン化鉄、フェロシアン化鉄アンモニウム、フェロシアン化鉄カリウム、フェロシアン化鉄ナトリウム、フェロシアン化銅、フェロシアン化銅カリウム、フェロシアン化コバルト、フェロシアン化コバルトカリウム、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化ニッケルカリウムなどが例示されるが、組成式Fe(III)4[Fe(II)(CN)63で表されるフェロシン化第二鉄および組成式NH4Fe(III)[Fe(II)(CN)6]で表されるフェロシアン化第二鉄アンモニウムが、入手容易な点から、特に好ましく使用できる。
【0018】
本発明における金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいはシリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物をあげることができるが、特に限定なく使用できる。また2種類以上を併用してもよい。
【0019】
金属酸化物微粒子として用いる場合は、粒子径が1〜100nmである金属酸化物微粒子が、フェロシアン化金属化合物との結合性に優れているので好ましい。
また、表面に水酸基(ヒドロキシ基)を有するものが、加熱などによる脱水反応による架橋硬化が期待できることから好ましい。具体的にはチタンノール基、アルミナール基、シラノール基を有す金属酸化物微粒子、あるいはチタニア、アルミナ、シリカ、ジルコニアから成る微粒子で表面に水酸基(ヒドロキシ基)を有す金属酸化物微粒子が使用できる。例えばチタニア微粒子としては東亞合成株式会社製、商品名ハイチタンA−1、アルミナ微粒子としては日産化学工業株式会社製の商品名アルミナゾル520、ジルコニア微粒子としてはナノユースZR−30BFが挙げられる。
特に、水を分散媒として、水中に分散されたコロイド状の分散液が、分散し易く、配合作業の際に微粉末の飛散もないため取扱いが容易であることから好ましい。必要であれば有機溶剤を分散媒に置き換えたり、水と併用しても良い。
かかる金属酸化物微粒子の中でもコロイダルシリカが最も典型的であり、かつ放射性セシウムを吸着除去後のセシウム吸着除去剤をガラス固化による廃棄物の処分が行いやすことから好ましい。
【0020】
また、固体粉末で提供されている金属酸化物微粒子を用いる場合は、固体微粉末同志を混合すると両者を均一に混合することが困難であるため、水などの溶媒を使用することで、不溶性フェロシアン化金属化合物と混合物を形成することができる。
【0021】
本発明で好ましく使用される金属酸化物としては、粒子径が5〜30nmである無水珪酸(シリカ微粒子)が、水または有機溶剤中にコロイド状に分散されたコロイダルシリカである。 前記水分散型および有機溶剤分散型のコロイダルシリカのいずれもが使用可能であるが、水分散型の方が好ましい。水分散型のコロイダルシリカの場合、シリカ微粒子の表面に多数の水酸基が存在するため、不溶性フェロシアン化金属化合物と強固に結合するためにより強固な成形体が得られる。
さらに、水分散型コロイダルシリカとしては、酸性水溶液型と塩基性水溶液分散型に分かれ、いずれも使用できるが、不溶性フェロシアン化金属化合物はpHが10以上の塩基性雰囲気やpH1以下の酸性雰囲気により分解しやすいため、pHが2から9の範囲のものを使用するのが好ましい。
また、硬化触媒選択の多様性、金属アルコキシドの適切な加水分解、縮合状態の観点から、酸性水溶液分散型コロイダルシシカが好ましく使用される。好ましいpH範囲を外れているものでも、酸あるいは塩基を添加してpHを好ましい範囲に調整することで使用することができる。
【0022】
具体的なコロイダルシリカとして、市販品をそのまま使用することが可能であり、例えば、酸性水溶液中で分散させた市販品として、日産化学工業株式会社製のスノーテックスO(商品名)、触媒化成工業株式会社製のカタロイドSN(商品名)、また、塩基性水溶液中で分散させた市販品として、日産化学工業株式会社製のスノーテックスC(商品名)、スノーテックス30(商品名)およびスノーテックス40(商品名)、触媒化成工業株式会社製のカタロイドS30(商品名)およびカタロイドS40(商品名)が挙げられる。
さらに有機溶媒に分散させた市販品として、日産化学工業株式会社製のMA−ST(商品名)、IPA−ST(商品名)、NBA−ST(商品名)など、また、触媒化成工業株式会社製のOSCAL1132(商品名)、OSCAL1232(商品名)などが挙げられる。
【0023】
金属酸化物の前駆体を用いる場合はケイ酸アルカリ塩や金属アルコキシドを使用することが出来る。
本発明で使用するケイ酸アルカリ塩のアルカリは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ジルコニウムなどが挙げられ、オルトケイ酸アルカリ塩、メタケイ酸アルカリ塩であっても良い。これらのうちの1種または2種以上が使用可能である。またそれらの水和物も含まれる。
ケイ酸ナトリウムの場合には、例えば、JIS K 1408に規定されている1号(SiO2/R2O=1.9〜2.3)、2号(SiO2/R2O=2.4〜2.7)、3号(SiO2/R2O=2.9〜3.4)の水ガラス、1種のメタケイ酸ナトリウム(SiO2/R2O=0.95〜1.05)、2種のメタケイ酸ナトリウム(SiO2/R2O=0.9〜1.1)、オルトケイ酸ナトリウム(SiO2/R2O=0.48〜0.52)などが挙げられる。
(SiO2/R2O)はアルカリケイ酸塩の酸化物換算のモル比のことでMRと表記されることがある。
【0024】
ケイ酸アルカリ塩を酸の存在下で加水分解し、得られるシリカヒドロゾルをゲル化して乾燥する工程の途中で不溶性フェロシアン化金属化合物を加えることで、金属酸化物のシリカゲルに不溶性フェロシアン化金属化合物を複合することが出来る。例えば、水ガラスと呼ばれるケイ酸ソーダの水溶液に、硫酸に分散させた不溶性フェロシアン化金属化合物を加えて得られたシリカヒドロゾルを、ゲル化して洗浄を経て乾燥することで、不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物からなる混合物を形成することが出来る。
【0025】
前記金属アルコキシドとしては特に限定されるものではないが、Si、Al、ZrおよびTiから選ばれた金属の低級アルコキシドなどが挙げられる。低級アルコキシドの例としては、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、ならびにこれらの異性体であるイソプロポキシド、 sec−ブトキシド、t−ブトキシドなどが挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を使用できる。
金属アルコキシドの具体例としては、シリコンテトラエトキシド (エチルシリケート) 、シリコンテトラメトキシド (メチルシリケート)、シリコンテトラブトキシド (ブチルシリケート)、プロピルシリケート、アルミニウムトリイソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド等が挙げられる。これらの中でもシリコンテトラメトキシドおよびシリコンテトラメトキシドが好ましい。
【0026】
金属アルコキシドに少量の水および/または酸を添加して多量体とした金属アルコキシドの部分加水分解縮合物も、金属アルコキシドに代えて、またはこれと混合して使用することができる。部分加水分解物を使用すると、塗布後の皮膜形成が促進されることから好ましい。金属アルコキシドに少量の水および/または酸を添加して多量体とした金属アルコキシドの部分加水分解縮合物の具体例としては、エチルポリシリケート例えばコルコート株式会社製、商品名:エチルシリケート40、メチルポリシリケート例えばコルコート株式会社製、商品名:メチルシリケート51、ブチルポリシリケート等が挙げられる。
また、金属アルコキシドと併用してメチルアルコールなどのアルコール類を使用することが好ましい。
【0027】
さらに必要に応じて、アルコキシシラン溶液に硬化触媒および加水分解に必要な水を添加することができる。かかる硬化触媒としては、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、コハク酸等の脂肪族カルボン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩が挙げられる。具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸コリン、酢酸ベンジルトリメチルアンモニウムなどが好ましく使用できる。
また、塩酸、硫酸、りん酸などの無機塩、水酸化ナトリウムなどの無機塩基、アンモニア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドなども使用できる。
【0028】
本発明のセシウム吸着剤は、不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物または金属酸化物の前駆体を混合して成形することで得られるものである。セシウム吸着能を上げるために、セシウム吸着剤中の不溶性フェロシアン化金属化合物の割合は5〜95質量%であることが好ましく、さらに好ましくは10〜85質量%である。
一方、金属酸化物には、セシウム吸着剤を処理水に浸漬した際の保型性を向上させる効果があるため、セシウム吸着剤中の金属酸化物は5〜95質量%であることが好ましく、さらに好ましくは15〜90質量%である。
不溶性フェロシアン化金属化合物の割合が質量5%未満であると、セシウム吸着能が劣る恐れがあり、一方、95質量%を超えると、金属酸化物の割合が少なくなるため、耐水性や混合物がもろくなり硬度が不十分になる恐れがある。
【0029】
さらに、本発明のセシウム吸着剤には、流動調整などの目的で他の成分を加えることもできる。例えば、ガラス、アルミナ、ベントナイト、雲母、ゼオライトを含む各種粘土鉱物、セルロース系の流動改質剤、発泡剤および消泡剤などが例示される。
【0030】
本発明における不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物の混合方法については、特に限定がなく公知の混合方法が利用できる。出来る限り均一に混合することが望ましいので、成形する前に予めニーダーなどの混練機を用いて混合することが好ましい。
【0031】
本発明のセシウム吸着剤は、前記フェロシアン化金属化合物と金属酸化物の混合物を成形させてから使用することが好ましい。
成形方法として特に限定はないが、例えば、セラミック業界において一般的に使用されている湿式成形法、ダイプレス成形、射出成形、押出成形および鋳込み成形などが挙げられる。これらの中でも、量産性に優れていることから、ダイプレス成形、射出成形および押出成形が好ましく利用される。
【0032】
本発明のセシウム吸着剤としては、ペレット、パイプ、球状、不定形状またはハニカムの形状に成形されたものが、セシウム吸着剤の取り扱いを容易にして、処理水の流通抵抗を下げるなどの面から好ましい。
【0033】
本発明のセシウム吸着剤は、成形を含む製造工程で乾燥を行い加熱固化する。加熱条件は前記フェロシアン化金属化合物の分解温度以下であれば、特に限定されないが、十分加熱するために、70℃〜130℃で1時間〜20時間加熱することが好ましい。
なお、フェロシアン化第二鉄アンモニウムの分解温度は、空気存在下のTG/DTA(重量/示差熱分析装置)を用いたところ約270℃であった。
【0034】
さらに、成形品の硬度を上げるため、および成形品からのフェロシアン化金属化合物微粒子の脱落やフェロシアン化物イオンの溶出を防止するため、成形品を金属酸化物の前駆体である金属アルコキシド溶液に浸漬させた後にろ過し、脱水重縮合反応によって反応を進めて使用することが好ましい。
金属アルコキシドには、水またはアルコールに溶解して塗布すると、加水分解により酸化物に転化されて金属酸化物からなる被膜を形成するため、本発明において、金属酸化物粒子を結合する働きがあると推定する。
なお、金属アルコキシド溶液への浸漬方法、ろ過方法および加熱条件について特に限定なく、公知の方法が適用できる。
【0035】
前記加熱処理により得られたセシウム吸着剤は、そのまま吸着塔に充填でき、セシウム吸着剤を充填した吸着塔に、セシウムを含有する溶液を供給してセシウム吸着剤と接触させることにより、溶液からセシウムが除去処理される。
セシウム吸着剤と廃液を接触させる条件には特に限定はないが、溶液中のセシウム濃度に応じて、吸着剤の充填量、廃液流量など条件を適時選定することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例によってこの発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
不溶性フェロシアン化金属化合物のフェロシアン化第二鉄アンモニウム(大日精化株式会社製商品名:MILORI BLUE 905)800gと金属酸化物微粒子のコロイダルシリカ分散液(日産化学工業株式会社製商品名:スノーテックスO)1000g(固形分として200g)を卓上ニーダーで混合して、10分間混練りした。
上記混練りして得られた混合物を、押し出し成型機により直径2mmの円筒形ペレット形状として、通風乾燥機で150℃にて3時間加熱した。これを処理剤1とする。
評価のために予め塩化セシウムをCs濃度が10ppmとなる様に人工海水(日本製薬株式会社製商品名:ダイゴ人工海水SP)と超純水装置(アドバンテック東洋株式会社製商品名:RFU554CA)を用いて得られた超純水を用いて調整し、模擬汚染水を調整した。
上記処理剤1の1gと上記模擬汚染水100mlを、100mlのポリ容器に入れて、振とう機(ヤマト科学株式会社製商品名:WATER BATH INCUBATOR MODEL BT−3)で目盛2にて48時間振とうさせた後に、メンブランフィルターでろ過した。
上記ろ過により得られたろ液1gに硝酸1mlを加えた後に、超純水により100倍に薄め、さらにその希釈液2gに硝酸0.2ml加えた後に超純水にて10倍に薄めて分析液を得た。
分析液をICP質量分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製商品名Agilento7500cs)を使用して、予め調整した模擬汚染水をCs濃度標準液として検量線を求め、処理剤1を入れた試料のCs濃度を定量した結果、Cs濃度は0.22ppmであり、セシウムの97.8%が除去された。次に別途で量り取った上記ろ過により得られたろ液1gに、硫酸第一鉄七水和物3gを、100mlメスフラスコに加え、水80mlを加えた後に硫酸1mlを加えて均一に溶解した後に純水を加えて全体を100mlにした硫酸第一鉄水溶液0.5mlを20mlメスフラスコに入れて、純水で全体を20mlに調整した。30分後、UV−VIS分光光度計(日本分光株式会社製V−550)を用いて波長720nmの吸光度を測定し、予めフェロシアン化カリウム水溶液を用いて作成した検量線との比較でフェロシアン化物イオン濃度を定量したところ、フェロシアン化イオンは1.4mg/Lであった。
また、処理剤1の1gを100gの模擬汚染水に浸漬させ、前記振とう機にセットした後、目盛2で48時間振り混ぜて、破壊の有無を目視で観察した結果、破壊は起こらなかったが、少し亀裂が観察された。
【0037】
<実施例2>
金属アルコキシドであるエチルポリシリケートならびにテトラエトキシシランとエタノールから成るエチルシリケート40(コルコート株式会社製商品名)1000gとメタノール1000gからなる溶液を調整し、この溶液に上記実施例1で得られた処理剤1の1000gを浸漬して2時間放置した後、ろ過により余分な溶液を取り除き、処理剤1に溶液が含浸されたものを、再び通風乾燥機で120℃にて3時間加熱し処理剤2を得た。
実施例1と同じ方法で処理剤2を入れた試料のCs濃度を定量した結果、Cs濃度は0.43ppmであり、セシウムの95.7%が除去された。フェロシアン化イオンは0.4mg/Lであった。 また、模擬汚染水に浸すことによる処理剤の割れなどの破壊は起こらなかった。
【0038】
<実施例3>
フェロシアン化第二鉄アンモニウムをヘキサシアノ鉄(II)酸 鉄(III)(和光純薬工業株式会社輸入・販売)に変えた以外は、実施例1と同じ方法で処理剤3を得た。
次に処理剤3について、実施例1と同じ方法で、処理剤3を入れた試料のCs濃度を定量した結果、Cs濃度は0.20ppmであり、セシウムの98.0%が除去された。また、模擬汚染水に浸すことによる処理剤の割れなどの破壊は起こらなかった。
【0039】
<実施例4>
フェロシアン化第二鉄アンモニウムを、フェロシアン化コバルト(SELION OY製商品名:CsTreat)に変えた以外は、実施例1と同じ方法で処理剤4を得た。
次に処理剤4について、実施例1と同じ方法で、処理剤4を入れた試料のCs濃度を定量した結果、Cs濃度は0.15ppmであり、セシウムの99.5%が除去された。また、模擬汚染水に浸すことによる処理剤の割れなどの破壊は起こらなかった。
【0040】
<実施例5>
実施例2で得られた処理剤2を内径3cmの円筒形カラムに体積が100mlになるように充填した。次に充填した処理剤を500mlのビーカーに一旦取出し、セシウムを含まない人工海水(日本製薬株式会社製商品名:ダイゴ人工海水SP)100mlを加えて、軽く撹拌しながら処理剤の表面や処理剤間に付着した気泡を取り除いた。
次に、ビーカー内の処理剤と人工海水を処理剤層に空気が溜まらないように注意しながら充填した。この時点でカラム内の人工海水の液面は処理剤層より約3cm上になった。
次にチューブポンプ(古江サイエンス(株)製、商品名RP−ASB)を使って、実施例1と同じ方法で調製したセシウムを10ppm含む模擬汚染水をカラム内に注ぎ込んだ。カラムに注ぎ込む模擬汚染水の流量は空間速度(SV値)1、10の2通りで行い、1時間後にカラム下部から流出してきた水を採取して、実施例1と同様の方法でICP−質量分析装置によるセシウムの分析を行った。SV=1の場合にカラム下部から得られた除染水のセシウム濃度は0.01ppm以下であり、セシウム除去率は99.99%以上、SV=10の場合にカラム下部から得られた除染水のセシウム濃度は1.0ppmであり、セシウム除去率は90%であり、フェロシアン化イオンは0.4mg/Lであった。また、模擬汚染水に浸すことによる処理剤の割れなどの破壊は起こらなかった。
【0041】
<実施例6>
不溶性フェロシアン化金属化合物のフェロシアン化第二鉄アンモニウム(大日精化株式会社製商品名:MILORI BLUE 905)800gと金属酸化物微粒子のコロイダルシリカ分散液(日産化学工業株式会社製商品名:スノーテックスO)1000g(固形分として200g)を卓上ニーダーで混合して、10分間混練りした。
上記混練りして得られた混合物を、アルミ製の皿状の容器に厚みが約5mmになる様に流し込み、通風乾燥機で70℃にて6時間、続いて130℃にて3時間加熱した。室温に戻した後に、解砕機にて砕き、振動ふるい機で微粉と粗大物を除いて、2〜3mmの不定形状の粒子を得た。
その不定形状の粒子を、金属アルコキシドであるメチルポリシリケートならびにテトラメトキシシランとメタノールから成るエチルシリケート51(コルコート株式会社製商品名)1200gとメタノール300g、水230gからなる溶液を調整し、この溶液に浸漬して2時間放置した後、ろ過により余分な溶液を取り除き、溶液が含浸されたものを、通風乾燥機で110℃にて4時間加熱した。得られたものを、60℃の純水1200gに浸漬して1時間後に、ろ過により水を抜いた。続いて20℃の純水1200gを入れては抜きを3回実施し、充分に水を抜き出した後に120℃で乾燥したものを処理剤5とする。
また実施例3と同じ方法でCs濃度を定量した結果、Cs濃度は0.08ppmでありセシウムの99.2%が除去された。フェロシアン化イオンは0.2mg/Lであった。模擬汚染水に浸すことによる処理剤の割れなどの破壊は起こらなかった。
【0042】
<実施例7>
4Nの硫酸20リットルに試薬のフェロシアン化鉄第二鉄(ACROS社)を216g分散させ、ケイ酸ソーダ(MR3.3)シリカ濃度18%の水溶液20リットルを加えて混合し反応させることでシリカヒドロゾルを生成させ、1時間放置した。これを水洗し硫酸ナトリウムを除去した後、これに28重量%アンモニア水を加えてpH8.0とし、引き続きこのスラリーを80℃で12時間保って熟成を行って粒子径が0.5mm〜2mmのフェロシアン化鉄複合化シリカ粒子を得た。濾別後に、通風乾燥機で120℃、12時間乾燥を行った。得られたフェロシアン化鉄複合シリカ粒子の表面積は、450m2/g、細孔容積0.8ml/gであった。これに30℃、湿度95%の空気を24時間通気した。前記フェロシアン化鉄複合化シリカ粒子を1000g秤量し、実施例6と同様に金属アルコキシドであるメチルポリシリケートならびにテトラメトキシシランとメタノールから成るメチルシリケート51(コルコート株式会社製商品名)1200gとメタノール300g、水230gからなる溶液を調整し、この溶液に浸漬して2時間放置した後、ろ過により余分な溶液を取り除き、溶液が含浸されたものを、通風乾燥機で110℃にて4時間加熱した。得られたものを、60℃の純水1200gに浸漬して1時間後に、ろ過により水を抜いた。続いて20℃の純水1200gを入れては抜きを3回実施し、充分に水を抜き出した後に120℃で乾燥したものを処理剤6とする。
また実施例3と同じ方法でCs濃度を定量した結果、Cs濃度は0.07ppmであり、セシウムの99.3%が除去された。フェロシアン化イオンは0.2mg/Lであった。模擬汚染水に浸すことによる処理剤の割れなどの破壊は起こらなかった。
【0043】
<比較例1>
前記特許文献2である特開平11−76807号公報に従って、約2〜3mm径の不定形粒子状の乾燥シリカゲル(愛知珪曹工業株式会社製シリカゲルID型:細孔容積0.95ml)の2gを共栓付き三角フラスコに秤取したのち、振り混ぜながらヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液(濃度22.7重量%、以下同じ)を滴下し、全体がわずかに湿りを帯び流動性がなくなる状態にした。
次いで、エタノール20mlを添加し、振り混ぜたのち、エタノール中に析出するヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムの乳濁液をデカンテーションにより分離する処理を2回繰り返した。乳濁液を蒸留することにより過剰のヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム(0.033g)とエタノールを回収した。
乳濁液を除去した残留部分は、エタノールを減圧下で完全に留去して、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム沈殿を担持したシリカゲルとの複合物を得た。
次に、担持されたヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムに対して8.0倍モルの塩化銅(II)を含むエタノール溶液20mlを添加し、常温で24時間振り混ぜて反応させた。速やかに反応が進み、シリカゲルはただちに暗赤紫色に呈色したが、外部溶液中への沈殿生成は24時間後でも僅少であった。反応後、シリカゲルの部分を、ろ別したのち、60℃で6時間加熱処理して熟成した。なお、ろ過は容易であった。
放冷後、水でデカンテーションにより銅イオン不検出まで十分水洗し、常温で風乾して、不溶性ヘキサシアノ鉄(II)酸塩が担持したと思われる処理剤7を2.4g(乾燥重量換算)得た。
本比較例1で使用したシリカゲルは大きさがおよそ2〜3mmの不定形粒子であるが、この水洗工程中に、処理剤がおよそ0.1〜1mmくらいの大きさに割れて崩壊した。
以下、実施例1で得られた処理剤1の代わりに処理剤7に変えた以外は、実施例1と同じ方法でCs濃度を定量した結果、Cs濃度は0.15ppmであり、セシウムの98.5%が除去された。フェロシアン化イオンは2mg/Lであり水質汚濁防止法の排水基準値の1mg/L以下を大きく上回った。また、模擬汚染水に浸すことにより処理剤はさらに崩壊が進行した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願発明におけるセシウム吸着剤は、セシウム吸着能量に優れており、多量なセシウム含有廃液から短時間でセシウムを除去処理することが可能であるため、原子力利用に関連した施設から発生するセシウムを含む廃液や、原子力利用に関連した事故災害によって飛散したセシウムを含む土壌や除染に使用した洗浄水、セシウムを含む廃棄物を焼却した際の灰の洗浄水やそれを埋め立てた処分場の浸出水、特にセシウム以外の他の金属イオンが多く共存する液体からのセシウム除去処理剤として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物からなるセシウム吸着剤。
【請求項2】
金属酸化物が、粒子径5〜30nmの無水珪酸を含むコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1に記載のセシウム吸着剤。
【請求項3】
不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物および/または金属酸化物分散液を混合させて得られた混合物を成形した後、加熱固化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセシウム吸着剤の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物の前駆体に、不溶性フェロシアン化金属化合物を加えて分散させた状態で反応させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセシウム吸着剤の製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の製造方法で得られたセシウム吸着剤を、金属アルコキシドを含有する溶液に浸漬させた後、さらに加熱することを特徴とするセシウム吸着剤の製造方法。
【請求項6】
金属アルコキシドが、シリコンテトラエトキシド、シリコンテトラメトキシドおよびそれらの部分加水分解縮合物のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載のセシウム吸着剤の製造方法。

【公開番号】特開2013−29498(P2013−29498A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138523(P2012−138523)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】