説明

セパレータおよびその製造方法、並びに非水電解質電池

【課題】エネルギー密度の低下を可及的に抑制しつつ、異常加熱した際の安全性に優れた非水電解質電池を構成し得るセパレータとその製造方法、および該セパレータを有する非水電解質電池を提供する。
【解決手段】150℃で実質的に変形しない繊維状物またはイオン透過性の多孔質膜を構成要素に含むセパレータであって、ガーレー値で表される透気度が室温での値の3倍以上になる温度が、80〜130℃の温度範囲にあることを特徴とするセパレータである。上記セパレータは、融点が80〜130℃である有機微粒子を含有することが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で高温時の寸法安定性に優れたセパレータ、およびこれを用いてなり、高温環境下においても安全な非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電池の一種であるリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。携帯機器の高性能化に伴ってリチウムイオン電池の高容量化が更に進む傾向にあり、安全性の確保が重要となっている。
【0003】
現行のリチウムイオン電池では、正極と負極の間に介在させるセパレータとして、例えば厚みが20〜30μm程度のポリオレフィン系の多孔性フィルムが使用されている。また、セパレータの素材としては、電池の熱暴走温度以下でセパレータの構成樹脂を溶融させて空孔を閉塞させ、これにより電池の内部抵抗を上昇させて短絡の際などに電池の安全性を向上させる所謂シャットダウン効果を確保するため、融点の低いポリエチレンが適用されることがある。
【0004】
ところで、こうしたセパレータとしては、例えば、多孔化と強度向上のために一軸延伸あるいは二軸延伸したフィルムが用いられている。このようなセパレータは、単独で存在する膜として供給されるため、作業性などの点で一定の強度が要求され、これを上記延伸によって確保している。しかし、このような延伸フィルムでは結晶化度が増大しており、シャットダウン温度も、電池の熱暴走温度に近い温度にまで高まっているため、電池の安全性確保のためのマージンが十分とは言い難い。
【0005】
また、上記延伸によってフィルムにはひずみが生じており、これが高温に曝されると、残留応力によって収縮が起こるという問題がある。収縮温度は、融点、すなわちシャットダウン温度と非常に近いところに存在する。このため、ポリオレフィン系の多孔性フィルムセパレータを使用するときには、充電異常時などに電池の温度がシャットダウン温度に達すると、電流を直ちに減少させて電池の温度上昇を防止しなければならない。空孔が十分に閉塞せず電流を直ちに減少できなかった場合には、電池の温度は容易にセパレータの収縮温度にまで上昇するため、内部短絡による発火の危険性があるからである。
【0006】
このように、セパレータの構成フィルムに必要な強度の確保と、電池の安全性を向上させるのに十分に低いシャットダウン温度の確保を両立し、且つ高温での熱収縮の問題を回避することを、単独の膜で達成することは困難である。
【0007】
他方、上記のような単層構成の単独膜ではなくセパレータを複合膜とすることで、高温での収縮を改善する提案もなされている。例えば、特許文献1〜3には、融点の低いポリマー(ポリエチレンなど)に、融点の高いポリマー(ポリプロピレンなど)を混合してなる複合膜や、融点の低いポリマーのフィルムや不織布と、融点の高いポリマーのフィルムや不織布とを貼り合わせた複合膜でセパレータを構成する技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、こうした複合膜では薄膜化が困難なため、エネルギー密度の低下を引き起こす他、製造工程が複雑になり製造コストの増大を引き起こすといった問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平5−74436号公報
【特許文献2】特開平5−251069号公報
【特許文献3】特開平5−331306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エネルギー密度の低下を可及的に抑制しつつ、異常加熱した際の安全性に優れた非水電解質電池を構成し得るセパレータおよびその製造方法、並びに該セパレータを有する非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成し得た本発明のセパレータは、150℃で実質的に変形しない繊維状物またはイオン透過性の多孔質膜を構成要素に含むセパレータであって、ガーレー値で表される透気度が室温での値の3倍以上になる温度が、80〜130℃の温度範囲にあることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のセパレータは、下記(1)または(2)の構成を有することを特徴とするものである。例えば、下記(1)または(2)の構成を採用することで、上記の特性(ガーレー値で表される透気度が室温での値の3倍以上になる温度が、80〜130℃の温度範囲にあるという特性)を確保できる。
(1)150℃で実質的に変形しない繊維状物(A)と、融点が80〜130℃である有機微粒子(B)を含有する;
(2)150℃で実質的に変形しないイオン透過性の多孔質膜(C)と、融点が80〜130℃である有機微粒子(B)を含有する。
【0013】
なお、本発明でいう「150℃で実質的に変形しない」とは、上記の繊維状物(A)の場合には、これにより構成され、セパレータを形成するためのシート状物の形態で、上記のイオン透過性の多孔質膜(C)の場合には、その形態で、後記のイオン透過性のシート状物の場合には、その形態で、軟化などによる実質的な寸法変化が生じないことをいい、具体的には、150℃(またはそれ以下の温度)でのシート状物や多孔質膜の長さの変化、すなわち室温での長さに対する収縮の割合(収縮率)が5%以下のものをいう。
【0014】
本発明のセパレータの製造方法は、下記(I)または(II)の工程を有することを特徴とする。
(I)150℃で実質的に変形しないイオン透過性のシート状物に、融点が80〜130℃の有機微粒子(B)を含む液状組成物を塗布または含浸させた後、有機微粒子(B)の融点以下の温度で乾燥する;
(II)150℃で実質的に変形しない繊維状物(A)と、融点が80〜130℃の有機微粒子(B)を含有する液状組成物を、基板上に塗布し、有機微粒子(B)の融点以下の温度で乾燥した後、該基板から剥離する。
【0015】
更に、本発明のセパレータを有する非水電解質電池も、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エネルギー密度の低下を可及的に抑制しつつ、異常加熱した際の安全性に優れた非水電解質電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のセパレータは、150℃で実質的に変形しない繊維状物(A)または多孔質膜(C)を構成要素として含むものであり、80〜130℃の温度(または、それ以上の温度)に曝されたときに、セパレータの空隙[繊維状物(A)で形成されるシートにおける繊維状物(A)間の空隙〔前記シートが有機微粒子を含むものにおいては、繊維状物(A)と有機微粒子または有機微粒子同士の空隙も含む〕、または多孔質膜(C)の空孔]が閉塞される。よって、本発明のセパレータを有する非水電解質電池では、内部温度が異常に上昇した際に、上記の空隙閉塞現象が生じ、セパレータのイオン透過性が減少して、正極−負極間を流れる電流値が減少するといったシャットダウン現象が効果的に起こり得るため、電池の安全性が確保される。また、セパレータにこのような構成を採用することで、従来のような複合膜で構成されるセパレータ(例えば、特許文献1〜3)とは異なり、セパレータの厚みや抵抗値の増大も抑え得るため、電池のエネルギー密度の低下を可及的に抑制することもできる。
【0018】
本発明のセパレータにおける上記の空隙閉塞現象は、例えば、セパレータの透気度を表わすガーレー値により評価することが可能であり、具体的には、以下の測定法によって80〜130℃の温度範囲において測定されるガーレー値が、加熱前(室温で測定したガーレー値)の3倍以上、より好ましくは10倍以上である。セパレータを、恒温槽中で80℃でセパレータを10分間保持し、取り出した後徐冷して、80℃まで温度上昇させたときのガーレー値を測定する。以後、5℃刻みで150℃まで温度を上昇させ、それぞれの温度でセパレータを10分間保持した後、同様にしてガーレー値を測定する。なお、ガーレー値の測定は、JIS P 8117に準拠した方法で行われ、0.879g/mmの圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数で示される。また、完全にシャットダウンが生じて空気が透過しなくなった場合は、ガーレー値は無限大となる。
【0019】
上記の特性を有する本発明のセパレータでは、融点が80〜130℃の有機微粒子(B)を含有していることが好ましい。すなわち、セパレータが80〜130℃(またはそれ以上の温度)に曝されたときに、有機微粒子(B)が溶融してセパレータの空隙が閉塞されるため、上記のシャットダウン効果がより確実に確保できる。よって、この場合、上記のガーレー値で評価される本発明のセパレータにおける空隙閉塞現象が発現する温度(ガーレー値が加熱前の3倍以上となる温度)は、有機微粒子(B)の融点以上130℃以下となる。
【0020】
また、セパレータの主体をなす繊維状物(A)または多孔質膜(C)は、例えば150℃でも実質的に変形しないために、シャットダウンが起こった後、更に20℃以上セパレータの温度が上昇しても、その形状が安定に保たれるため、例えば従来のポリエチレンの多孔性フィルムで構成されるセパレータで生じていた熱収縮に起因する短絡の発生が防止される。
【0021】
上記の空隙閉塞現象を発現することができ、また上記の耐熱変形性を有するセパレータのより具体的な態様としては、上記(1)または(2)の態様が挙げられる。
【0022】
上記(1)の態様に係るセパレータは、150℃で実質的に変形しない繊維状物(A)と、融点が80〜130℃の有機微粒子(B)を含有している。繊維状物(A)は、多数が集合して、これらのみにより、または有機微粒子(B)と混合されて、シート状物(例えば、不織布)を形成してセパレータの主体となるものであり、実質的なセパレータとしての役割、すなわち、イオンを透過させて電池反応自体は確保しつつ、正極と負極の間を仕切って短絡の発生を防止する役割を担うものである。
【0023】
また、上記(2)の態様に係るセパレータは、150℃で実質的に変形しない多孔質膜(C)と、融点が80〜130℃の有機微粒子(B)を含有している。多孔質膜(C)はセパレータの主体となるものであり、実質的なセパレータとしての役割、すなわち、上記(1)の態様における繊維状物(A)と同じ役割を担うものである。
【0024】
なお、(1)の態様、(2)の態様のいずれにおいても、セパレータの厚みは3μm以上、より好ましくは5μm以上であって、50μm以下、より好ましくは30μm以下であることが望ましい。セパレータが薄すぎると、シャットダウンが十分でなく、安全性向上効果が小さくなるか、または、膜としての強度が低くなりすぎて、取り扱いが困難になることがあり、他方、厚すぎると、電池としたときのエネルギー密度が小さくなる傾向にある。
【0025】
また、セパレータの空隙率としては、20%以上、より好ましくは30%以上であって、70%以下、より好ましくは60%以下であることが望ましい。セパレータの空隙率が小さすぎると、イオン透過性が小さくなることがあり、また、空隙率が大きすぎると、セパレータの強度が不足することがある。なお、セパレータの空隙率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、次式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P = Σ aρ /(m/t)
ここで、上記式中、a:質量%で表した成分iの比率、ρ:成分iの密度(g/cm)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm)、t:セパレータの厚み(cm)、である。
【0026】
上記と同様にして測定されるガーレー値で示されるセパレータの透気度は、30〜300secであることが望ましい。透気度が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、他方、小さすぎると、セパレータの強度が小さくなることがある。また、セパレータの強度としては、直径が1mmのニードルを用いた突き刺し強度で50g以上であることが望ましい。かかる突き刺し強度が小さすぎると、リチウムのデンドライト結晶が発生した場合に、セパレータの突き敗れによる短絡が発生する虞がある。
【0027】
(1)の態様、(2)の態様とも、セパレータは有機微粒子(B)を含有しているが、この有機微粒子(B)は、いずれの態様においても同じものが使用できる。この有機微粒子(B)は、融点が80〜130℃のものである。このような融点を有する有機微粒子(B)をセパレータに含有させることで、電池の内部温度が上昇してセパレータが80〜130℃(または、それ以上)の温度に曝されたときに、この有機微粒子(B)が溶融してセパレータの有する空隙を閉塞することで、内部抵抗が増大して電池の安全性が確保される。なお、ここでいう有機微粒子(B)の融点は、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度を意味している。
【0028】
有機微粒子(B)としては、融点が80〜130℃であり、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後述する電解液や、セパレータ製造の際に使用する該有機微粒子(B)を含有する液状組成物に用いる溶媒に安定であれば、特に制限はない。具体的な有機微粒子(B)の構成材料としては、ポリエチレン(PE)、エチレン由来の構造単位が85モル%以上の共重合ポリオレフィン、またはポリオレフィン誘導体(塩素化ポリエチレンなど)、ポリオレフィンワックス、石油ワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。上記共重合ポリオレフィンとしては、エチレン−ビニルモノマー共重合体、より具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、またはエチレン−エチルアクリレート共重合体が例示できる。また、ポリシクロオレフィンなどを用いることもできる。有機微粒子(B)は、これらの構成材料の1種のみを有していてもよく、2種以上を有していても構わない。これらの中でも、PE、ポリオレフィンワックス、またはエチレン由来の構造単位が85モル%以上のEVAが好適である。また、有機微粒子(B)は、構成成分として、上記の構成材料の他に、必要に応じて、樹脂に添加される公知の各種添加剤(例えば、酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0029】
(1)の態様、(2)の態様のいずれにおいても、有機微粒子(B)は、セパレータの構成成分の全体積中、30体積%以上、より好ましくは40体積%以上であることが好ましい。有機微粒子の体積比率をこのようにすることで、上記のシャットダウン特性を、より確実なものとすることができる。なお、有機微粒子(B)の体積比率の上限は、例えば80体積%であることが好ましい。
【0030】
有機微粒子(B)の大きさとしては、その粒径がセパレータの厚みより小さければ良いが、セパレータの厚みの4/3〜1/100の平均粒径を有することが好ましく、具体的には、平均粒径が0.1〜20μmであることが好ましい。有機微粒子(B)の粒径が小さすぎると、微粒子の隙間が小さくなることによってイオンの伝導パスが長くなり、電池特性が低下することがある。また、有機微粒子(B)の粒径が大きすぎると、隙間が大きくなってデンドライトによる短絡といった問題が生じることがある。なお、ここでいう有機微粒子(B)の平均粒径は、レーザー散乱粒度分布径(HORIBA社製「LA−920」)を用い、微粒子を水に分散させて測定した数平均粒子径である。
【0031】
本発明のセパレータの(1)の態様における繊維状物(A)は、150℃で実質的に変形せず、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に下記に詳述する電解液や、セパレータ製造の際に使用する有機微粒子(B)を含有する液状組成物も用いる溶媒に安定であれば、特に制限はない。なお、本発明でいう「繊維状物」とは、アスペクト比[長尺方向の長さ/長尺方向に直交する方向の幅(直径)]が4以上のものを意味している。本発明に係る繊維状物(A)のアスペクト比は、10以上であることが好ましい。
【0032】
繊維状物(A)の具体的な構成材料としては、例えば、セルロース、セルロース変成体(カルボキシメチルセルロースなど)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)など]、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂;ガラス、アルミナ、シリカなどの無機材料(無機酸化物);などが挙げられる。繊維状物(A)は、これらの構成材料の1種を含有していてもよく、2種以上を含有していても構わない。また、繊維状物(A)は、構成成分として、上記の構成材料の他に、必要に応じて、公知の各種添加剤(例えば、樹脂である場合には酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0033】
繊維状物(A)の直径は、セパレータの厚み以下であれば良いが、例えば、0.01〜5μmであることが好ましい。径が大きすぎると、繊維状物同士の絡み合いが不足して、これらで構成されるシート状物の強度、延いてはセパレータの強度が小さくなって取り扱いが困難となることがある。また、径が小さすぎると、セパレータの空隙が小さくなりすぎて、イオン透過性が低下する傾向にあり、電池の負荷特性を低下させてしまうことがある。
【0034】
セパレータ(シート状物)中での繊維状物(A)の存在状態は、例えば、長軸(長尺方向の軸)の、セパレータ面に対する角度が平均で30°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。
【0035】
(2)の態様において、セパレータの主体をなす多孔質膜(C)は、微細な空孔を多数含有し、イオン透過性を有するフィルム(シート状物)で、150℃で実質的に変形せず、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に電解液や、セパレータ製造の際に使用する有機微粒子(B)を含有する液状組成物に用いる溶媒に安定であれば、特に制限はない。多孔質膜は、例えば、下記の構成材料(樹脂)と、特定の溶剤で溶解し得る材料(多孔質化剤)とを混合し、これをシート化した後に該溶剤で多孔質化剤を抽出することによって空孔を形成する溶剤抽出法や、該構成材料(樹脂)に微粒子を混合し、これをシート化して乾式または湿式延伸することで微粒子の周囲にクラックを発生させて、これを空孔とする延伸法などで製造されたものが使用できる。
【0036】
多孔質膜(C)の構成材料としては、PP、ポリアラミド、ポリエステル(PET、PEN、PBTなど)、ポリイミドなどの樹脂が挙げられる。多孔質膜(C)は、これらの構成材料の1種を含有していてもよく、2種以上を含有していても構わない。また、多孔質膜(C)は、構成成分として、上記の構成材料の他に、必要に応じて、公知の各種添加剤(例えば、樹脂である場合には酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0037】
(1)の態様、(2)の態様のいずれにおいても、セパレータは、有機微粒子(B)以外の微粒子(D)を含有していてもよい。このような微粒子(D)としては、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に電解液や、セパレータ製造の際に使用する有機微粒子(B)を含有する液状組成物に用いる溶媒に安定であり、また、電池の作動電圧範囲において酸化還元といった副反応をせず、少なくとも130℃まで安定な微粒子であればよい。
【0038】
このような微粒子(D)の具体例としては、以下の無機微粒子や有機微粒子が挙げられ、これらを1種単独で、または2種以上を同時に使用できる。無機微粒子(無機粉末)としては、例えば、酸化鉄、SiO、Al、TiO、BaTiOなどの酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;モンモリロナイトなどの粘土微粒子;などが挙げられる。また、金属微粒子;SnO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物微粒子;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質微粒子;などの導電性微粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記の非電気伝導性の無機微粒子を構成する材料や、後記の架橋高分子微粒子を構成する材料など)で表面処理することで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。
【0039】
また、有機微粒子(有機粉末)としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子微粒子が例示できる。また、これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、上記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、であってもよい。
【0040】
さらに微粒子(D)は、上記例示の無機微粒子や有機微粒子をコアとし、これに融点が80〜130℃である樹脂[例えば、有機微粒子(B)の構成材料として例示した各種樹脂]をシェルとして複合化したコアシェル構造の複合微粒子であってもよい。
【0041】
微粒子(D)の粒径[有機微粒子(B)と同じ測定法で測定される数平均粒子径]は、0.001μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、15μm以下、より好ましくは1μm以下のものが推奨される。
【0042】
また、セパレータを構成する繊維状物(A)同士をシート状物とするために結着したり、繊維状物(A)で構成されるシート状物または多孔質膜(C)と有機微粒子(B)や微粒子(D)を結着する目的で、セパレータはバインダ(E)を含有していても良い。バインダ(E)としては、電気化学的に安定且つ電解液に対して安定で、更に繊維状物(A)や有機微粒子(B)などを良好に接着できるものであれば良いが、例えば、分子内にポリエチレン構造(メチレン鎖)を有する樹脂が好適に使用される。すなわち、有機微粒子(B)としては、上述の通り、ポリエチレン構造を分子内に有するポリオレフィンが好適であるが、このような有機微粒子の場合には、バインダとして分子内にポリエチレン構造を有する樹脂を用いることにより、良好な接着性が得られる。具体的には、EVA(酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリレート共重合体、フッ素系ゴムなどが挙げられ、これらを単独で、または2種以上を同時に使用することができる。なお、これらバインダ(E)を使用する場合には、後記するセパレータ形成用の液状組成物の溶媒に溶解するか、または分散させたエマルジョンの形態で用いることができる。
【0043】
本発明のセパレータの製造方法としては、例えば、上記(I)および(II)の方法が採用できる。(I)の方法は、150℃で実質的に変形しないイオン透過性のシート状物に、融点が80〜130℃の有機微粒子を含む液状組成物(スラリーなど)を塗布または含浸させた後、該有機微粒子の融点以下の温度で乾燥する製造方法である。
【0044】
(I)の方法でいう「シート状物」には、繊維状物(A)で構成されたシート状物(不織布など)および多孔質膜(C)が該当する。具体的には、上記例示の各材料を構成成分に含む繊維状物の少なくとも1種で構成され、これら繊維状物同士が絡み合った構造を有する不織布などの多孔質シート;微細な空孔を多数含有する多孔質フィルム(所謂微多孔フィルム、微多孔膜);などが挙げられる。より具体的には、紙、PP不織布、ポリエステル不織布(PET不織布、PEN不織布、PBT不織布など)などの不織布;PP多孔質膜、ポリアラミド多孔質膜、ポリエステル多孔質膜(PET多孔質膜、PEN多孔質膜、PBT多孔質膜など)、ポリイミド多孔質膜などの多孔質膜(微多孔膜);などが例示できる。
【0045】
本発明のセパレータを形成するための上記液状組成物は、有機微粒子(B)や、必要に応じて、微粒子(D)、バインダ(E)などを含有し、これらを溶媒(分散媒を含む、以下同じ)に分散させたものである[バインダ(E)については溶解していてもよい]。液状組成物に用いられる溶媒は、有機微粒子(B)や微粒子(D)を均一に分散でき、また、バインダ(E)を均一に溶解または分散できるものであれば良いが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフランなどのフラン類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;などの有機溶媒が好適である。なお、これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加しても良い。また、バインダ(E)をエマルジョンとして使用する場合などでは、水を溶媒としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
【0046】
上記液状組成物では、有機微粒子(B)、微粒子(D)、バインダ(E)を含む固形分含量を、例えば10〜40質量%とすることが望ましい。
【0047】
なお、有機微粒子(B)や微粒子(D)が単独で接着性を有する場合には、これらがバインダ(E)を兼ねることもできる。この場合、液状組成物としては、例えば、有機微粒子(B)の水分散体(エマルジョン)が使用可能であり、例えば、これをシート状物に直接塗布などすることができる。この際には、有機微粒子(B)や微粒子(D)は、該粒子同士が連なった構造をとり得る。
【0048】
なお、シート状物が、紙、PP不織布、ポリエステル不織布などの不織布のように、繊維状物で構成されるものであって、特にその空隙の開口径が比較的大きい場合(例えば、空隙の開口径が5μm以上の場合)には、これが電池の短絡の要因となりやすい。よって、この場合には、有機微粒子(B)の一部または全部がシート状物の空隙内に存在する構造とすることが好ましい。シート状物の空隙内に有機微粒子(B)を存在させるには、例えば、上記した液状組成物をシートに含浸させた後、一定のギャップを通し、余分の液状組成物を除去した後、乾燥するなどの工程を用いればよい。
【0049】
本発明のセパレータの(II)の製造方法は、上記液状組成物に、更に繊維状物(A)を含有させ、これをフィルムや金属箔などの基材上に塗布し、有機微粒子(B)の融点未満の温度で乾燥した後に、該基材から剥離する方法である。すなわち、繊維状物(A)のシート化と有機微粒子(B)などを含有させる操作を同時に行う方法である。なお、(II)の方法で使用する液状組成物は、繊維状物(A)を含有させることが必須である点を除き、(I)の方法で用いる液状組成物と同じである。また、(II)の方法で得られるセパレータにおいても、繊維状物(A)で形成されるシート状物の空隙内に、有機微粒子(B)の一部または全部が存在する構造とすることが望ましい。
【0050】
また、本発明のセパレータは、上記の構造に限定されるものではない。例えば、有機微粒子(B)は、個々に独立して存在していなくてもよく、互いに、または、繊維状物(A)や多孔質膜(C)に、一部が融着されていても構わない。また、繊維状物(A)や多孔質膜(C)は、全体として上記の「150℃で実質的に変形しない」ものであればよく、例えば、有機微粒子(B)の代わりに、繊維状物(A)や多孔質膜(C)の構成材料の一部が、80℃以上130℃以下の温度で融解するものであっても構わない。
【0051】
本発明の非水電解質電池は、本発明のセパレータを有していれば特に制限はなく、従来公知の構成、構造が採用できる。なお、本発明の非水電解質電池には、一次電池と二次電池が含まれるが、以下には、特に主要な用途である二次電池の構成を例示する。
【0052】
非水電解質電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0053】
正極としては、従来公知の非水電解質電池に用いられている正極であれば特に制限はない。例えば、活物質として、Li1+xMOで(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mnなど)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物;LiMnなどのリチウムマンガン酸化物;LiMnのMnの一部を他元素で置換したLiMn(1−x);オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe);LiMn0.5Ni0.5;Li(1+a)MnNiCo(1−x−y)(−0.1<a<0.1、0<x<0.5、0<y<0.5);などを適用することが可能であり、これらの正極活物質に公知の導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの結着剤などを適宜添加した正極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げたものなどを用いることができる。
【0054】
正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0055】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けても良い。
【0056】
負極としては、従来公知の非水電解質電池に用いられている負極であれば特に制限はない。例えば、活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si,Sn、Ge,Bi,Sb、Inなどの元素およびその合金、リチウム含有窒化物、または酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどの結着剤などを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる他、上記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、若しくは集電体上に形成したものを用いても良い。
【0057】
負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、また、下限は5μmであることが望ましい。
【0058】
負極側のリード部も、正極側のリード部と同様に、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極剤層(負極活物質を有する層)を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、この負極側のリード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けても良い。
【0059】
電極は、上記の正極と上記の負極とを、本発明のセパレータを介して積層した積層体や、更にこれを巻回した電極巻回体の形態で用いることができる。
【0060】
電解液としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイト、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの1種のみからなる有機溶媒、あるいは2種以上の混合溶媒に、例えば、LiClO、LiPF 、LiBF 、LiAsF 、LiSbF 、LiCFSO 、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などのリチウム塩から選ばれる少なくとも1種を溶解させることによって調製したものが使用される。このリチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0062】
実施例1
有機微粒子(B)として、PEの水分散液(三井化学製ケミパールW−700)2000gとエタノール800gとを容器に入れ、スリーワンモーターで1時間攪拌して分散させ、均一なスラリーとした。このスラリー中に、厚み:15μmのPP製不織布(ニッポン高度紙社製)を通し、引き上げ塗布によりスラリーを塗布した後、乾燥して、厚み:20μmのセパレータを得た。なお、このセパレータの断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、図2に示すように、不織布の空隙内に有機微粒子(B)が存在していることが確認できた。
【0063】
実施例2
実施例1と同じスラリーに、更に、微粒子(D)としてアルミナ(Al)微粒子[住友化学社製「スミコランダムAA04(商品名)」]:300gを加え、スリーワンモーターで3時間撹拌して分散させ、均一なスラリーとした。このスラリー中に、厚み:28μmのPBT製不織布(タピルス社製)を通し、引き上げ塗布によりスラリーを塗布した後、乾燥して、厚み:35μmのセパレータを得た。なお、このセパレータの断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、不織布の空隙内に有機微粒子(B)が存在していることが確認できた。
【0064】
実施例3
バインダ(E)として、EVA(酢酸ビニル由来の構造単位が34モル%、日本ユニカー社製):100g、およびトルエン:6000gを容器に入れ、均一に溶解するまで室温にて撹拌した。さらに有機微粒子(B)として、PE粉末[住友精化社製「フロービーズLE1080(商品名)」]:1000gを加え、ディスパーで、2800rpmの条件で1時間攪拌して分散させた。これに、微粒子(D)としてPP粉末[セイシン企業社製「PPW−5(商品名)」]:1000gを加え、ディスパーで、2800rpmの条件で3時間撹拌して、均一なスラリーとした。このスラリーを、アプリケーターを用いて、ギャップを50μmにして厚みが25μmの紙(ニッポン高度紙製)上に摺り切り塗布し、トルエンを除去して、厚み:35μmのセパレータを得た。
【0065】
実施例4
バインダ(E)として、エチレン−エチルアクリレート共重合体(エチルアクリレート由来の構造単位が20モル%、日本ユニカー社製):200g、およびトルエン:6000gを容器に入れ、均一に溶解するまで室温にて撹拌した。さらに有機微粒子(B)として、EVAエマルジョン[住化ケムテックス社製「スミカフレックス S850Ha(商品名)」]:1000gを加え、ディスパーで、2800rpmの条件で1時間攪拌して分散させた。これに、微粒子(D)としてアルミナ微粒子[住友化学社製「スミコランダムAA04(商品名)」]:300gを加え、ディスパーで、2800rpmの条件で3時間撹拌して分散させ、均一なスラリーとした。このスラリーを、アプリケーターを用いて、ギャップを50μmにして厚みが15μmのPP製不織布(ニッポン高度紙社製)上に摺り切り塗布し、トルエンを除去して、厚み:20μmのセパレータを得た。
【0066】
実施例5
有機微粒子(B)として、EVAの水分散体[三井化学製「ケミパール V200」(商品名)]:100g、および微粒子(D)として、アルミナ微粒子[住友化学社製「スミコランダムAA04(商品名)」]:15gを容器に入れ、均一になるまで室温にて撹拌し、スラリーを得た。このスラリーを、アプリケーターを用いて、ギャップを50μmにして厚みが15μmのポリイミド製微多孔膜(宇部興産社製)上に摺り切り塗布し、水を除去して、厚み:25μmのセパレータを得た。
【0067】
実施例6
バインダ(E)として、EVAエマルジョン(酢酸ビニル由来の構造単位が20モル%、住化ケムテックス社製「住化フレックス S850HQ」):100g、有機微粒子(B)として、PEディスパージョン[フタバファインケミカル社製「フェニックスFT−100(商品名)」]:3000gを加え、ディスパーで、2800rpmの条件で1時間攪拌して分散させて均一なスラリーとした。このスラリーに、繊維状物(A)として、アルミナ繊維[電気化学工業社製「デンカアルセン B100(商品名)」]:100gを加え、均一になるまで室温にて撹拌した。このようにして得られたスラリーを、ダイコーターを用いて、塗布厚:50μmでPET基材上に塗布し、乾燥した後、PET基材から剥離して厚み:15μmのセパレータを得た。セパレータの断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、アルミナ繊維のアスペクト比は10以上であり、また、セパレータ面に対する平均角度は10°以下であった。
【0068】
<セパレータの加熱特性>
実施例1〜6のセパレータを、150℃の恒温槽内に30分放置し、セパレータの収縮率を測定した。また、比較用のセパレータ(比較例1)として、20μmの厚みのPE製微多孔膜も150℃の恒温槽内に30分放置し、実施例1〜6のセパレータと同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】
収縮率の測定は、次のようにして行った。4cm×4cmに切り出したセパレータ片を、クリップで固定した2枚のステンレス板で挟みこみ、150℃の恒温槽内に30分放置した後に取り出し、各セパレータ片の長さを測定し、試験前の長さと比較して長さの減少割合を収縮率とした。
【0070】
また、温度上昇に伴うガーレー値の変化を以下の条件で測定した。室温で上記測定法によりガーレー値を測定した後、恒温槽中で80℃でセパレータを10分間保持し、取り出した後徐冷して、80℃まで温度上昇させたときのガーレー値を測定した。以後、5℃刻みで150℃まで温度を上昇させ、それぞれの温度でセパレータを10分間保持した後、同様にしてガーレー値を測定した。上記測定から、加熱前(室温)、加熱後(150℃)のガーレー値とその比、および、ガーレー値が加熱前の3倍以上になった温度(上昇温度)を求め表1に示した。更に、実施例1、実施例3および比較例1のセパレータの、ガーレー値の温度に対する変化を図1に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から、以下のことが分かる。従来品に相当する比較例1のセパレータでは、熱収縮率が大きく、これを用いた電池では、内部温度が150℃に達するまでの間に、セパレータの収縮が生じて、正極と負極が接触することによる短絡の虞がある。これに対し、実施例1〜6のセパレータでは、熱収縮が殆ど見られず、目視レベルでは実質的に変形が生じていない。よって、これらを用いた電池では、内部温度が150℃に達しても、セパレータによって正極と負極との接触が十分に妨げられて、短絡の発生が防止され得る。更に、実施例1〜6のセパレータでは、恒温槽での加熱前に対して、加熱後ではガーレー値(透気度)が100〜130℃の温度範囲で3倍以上に増大している。よって、これらを用いた電池では、内部温度が上昇する過程で、セパレータのイオン透過性が低下することによって電流の流れが妨げられ、安全性が確保され得る。これに対し、比較例1の非水電解質電池では、ガーレー値の上昇し始める温度が高く、シャットダウン応答性が劣っている。
【0073】
実施例7
<正極の作製>
正極活物質であるLiCoO:80質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、およびバインダであるPVDF:5質量部を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、活物質塗布長が表面280mm、裏面210mになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して、長さ280mm、幅43mmの正極を作製した。さらにこの正極のアルミニウム箔の露出部にタブ付けを行った。
【0074】
<負極の作製>
負極活物質である黒鉛:90質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合して負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に、活物質塗布長が表面290mm、裏面230mmになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整し、幅45mmになるように切断して、長さ290mm、幅45mmの負極を作製した。さらにこの負極の銅箔の露出部にタブ付けを行った。
【0075】
<電池の組立て>
上記のようにして得られた正極と負極とを、実施例1のセパレータを介して渦巻状に巻回して巻回電極体とした。この巻回電極体を押しつぶして扁平状にし、大日本印刷製ラミネートフィルム外装材内に装填し、電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:2の体積比で混合した溶媒に、LiPFを1.2mol/lの濃度で溶解させた溶液)を注入し、真空封止を行って非水電解質電池を作製した。
【0076】
実施例8〜12、比較例2
セパレータを、実施例2〜6または比較例1のものに変更した他は、実施例1と同様にして非水電解質電池を作製した。
【0077】
実施例7〜12および比較例2の非水電解質電池について、電気化学的評価(放電容量割合)を行った。結果を表2に示す。
【0078】
<放電容量割合>
これらの電池について、0.2Cでの定電流充電(4.2Vまで)と4.2Vでの定電圧充電による充電(定電流充電と定電圧充電の合計時間15時間)の後、3.0Vまで、0.2Cまたは2Cで放電を行い、2Cでの0.2Cに対する放電容量割合(負荷特性)を求めた。
【0079】
【表2】

【0080】
なお、表2中、「PI」はポリイミドを、「EEA」はエチレン−エチルアクリレート共重合体を意味している。
【0081】
表2から分かるように、実施例7〜12の非水電解質電池では、放電容量割合が比較的良好で実用レベルにあった。また、実施例7〜12および比較例2の非水電解質電池を150℃で30分放置した後分解し、セパレータの寸法変化を観察したところ、比較例2の電池のセパレータは大きな熱収縮を示したのに対し、実施例7〜12の電池のセパレータは、実質的に寸法変化がなく、高温での安全性が大幅に向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1、実施例3および比較例1の各セパレータにおけるガーレー値の温度に対する変化を示すグラフである。
【図2】実施例1で作製したセパレータの縦断面の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150℃で実質的に変形しない繊維状物またはイオン透過性の多孔質膜を構成要素に含むセパレータであって、ガーレー値で表される透気度が室温での値の3倍以上になる温度が、80〜130℃の温度範囲にあることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
融点が80〜130℃である有機微粒子を含有する請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
150℃で実質的に変形しない繊維状物と、融点が80〜130℃である有機微粒子を含有することを特徴とするセパレータ。
【請求項4】
上記有機微粒子の一部または全部が、上記繊維状物で構成されているシート状物の空隙内に存在している請求項3に記載のセパレータ。
【請求項5】
上記繊維状物は、セルロース、セルロース変成体、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ガラス、アルミナ、シリカよりなる群から選択される少なくとも1種の材料を、構成成分に含むものである請求項1〜4のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項6】
150℃で実質的に変形しないイオン透過性の多孔質膜と、融点が80〜130℃である有機微粒子を含有することを特徴とするセパレータ。
【請求項7】
上記多孔質膜は、ポリプロピレン、ポリアラミド、ポリエステル、ポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の材料を、構成成分に含むものである請求項6に記載のセパレータ。
【請求項8】
構成成分の全体積中、30体積%以上が上記有機微粒子である請求項2〜7のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項9】
上記有機微粒子は、ポリエチレン、ポリオレフィンワックス、石油ワックス、カルナバワックス、エチレン由来の構造単位が85モル%以上の共重合ポリオレフィン、またはポリオレフィン誘導体を構成材料に含むものである請求項2〜8のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項10】
上記共重合ポリオレフィンが、エチレン−ビニルモノマー共重合体である請求項9に記載のセパレータ。
【請求項11】
上記エチレン−ビニルモノマー共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、またはエチレン−エチルアクリレート共重合体である請求項10に記載のセパレータ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のセパレータを有することを特徴とする非水電解質電池。
【請求項13】
150℃で実質的に変形しないイオン透過性のシート状物に、融点が80〜130℃の有機微粒子を含む液状組成物を塗布または含浸させた後、該有機微粒子の融点未満の温度で乾燥することを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項14】
上記シート状物は、紙、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布、ポリプロピレン多孔質膜、ポリアラミド多孔質膜、ポリエステル多孔質膜、ポリイミド多孔質膜よりなる群から選択される少なくとも1種のシート状物である請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
150℃で実質的に変形しない繊維状物と、融点が80〜130℃の有機微粒子を含有する液状組成物を、基材上に塗布し、該有機微粒子の融点未満の温度で乾燥した後、該基材から剥離することを特徴とするセパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−164761(P2006−164761A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354850(P2004−354850)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】