説明

セミカルバジド又はカルボヒドラジドの存在下における(3−ヒドロキシ)プロピオンアルデヒドの発酵による製造方法

本発明の主題は、アルデヒド並びにその酸化−及び還元生成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明の主題は、アルデヒド並びにその酸化−及び還元生成物の製造方法である。
【0002】
背景技術
アルデヒドを酵素によって製造する方法は、文献中にしばしば記載されている。
例えば、WO2009001304は、13−ヒドロペルオキシド−リアーゼの協力下での多不飽和脂肪酸からのアルデヒドの製造方法を記載する。
3−メチルブタナールの獲得のための生化学的経路は、Smit et al.,Appl. Microbiol. Biotechnol., 2009, 81, 987-999に記載されている。
メタノール−オキシダーゼ及びカタラーゼ(ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、カンジダ(Candida)、又はトルロプシス(Torulopsis)由来)を用いた、アルコールからのアルデヒドの製造はUS5783429に説明されている。キシレン−又はアルカンモノオキシゲナーゼの適用下では、WO2001031047によれば芳香族アルデヒド誘導体が獲得される。
【0003】
3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド(3HPA)は、アクリル酸、ポリマー及びプラスチックの工業的製造のための重要なモノマーへと、並びに、同様に有用なアクリル酸エステルへと反応させられる。3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドから誘導可能である更なる有用な生成物は、1,3−プロパンジオール(還元により)、3−ヒドロキシプロピオン酸(酸化により)及びアクロレイン(脱水により)である。従来市販の供給源が3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドのために提供されていないので、グリセリンからの、特にロイテリンの形にある3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの製造が集中的に研究される。
【0004】
80年代の終わりに既に、Talarico及びDobrogosz, Antimicrob. Agents Chemother., 1989, 33, 674-679は、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)を用いてグリセリンから3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドを発酵により製造することを記載する。
2制限の使用下の類似の方法はUS5413960に記載されている。
【0005】
DK180099は、グリセリンの連続的供給及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM12246の使用を伴う方法を開示する。
【0006】
Doleyres et al . , Appl Microbiol Biotechnol. 2005 Sep ; 68 (4) :467-74は、様々な成長条件下のL.ロイテリATCC 53608中の3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの製造方法を記載し、かつ、この生体触媒の繰り返した使用が強力に減少する活性のために可能でないことを示す。
【0007】
CN1778935は、セミカルバジドの存在下のクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)DSM2026を用いたグリセリン溶液の一工程発酵を記載する。
【0008】
US4962027は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)NRRL B-4011による好気的二工程発酵における3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの製造方法を記載し、その際、第一工程においてまず細胞マス及びグリセリン−デヒドラターゼを産生し、第二工程においてセミカルバジドの存在下でグリセリンを3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドへと反応させる。
【0009】
EP1669457は、(特に)K.ニューモニエを用いて、補酵素B12の添加下で、細胞/基質比を高めることによって3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドをほぼ定量的な収率においてバイオテクノロジーによる製造を記載する。
【0010】
全ての記載の方法は、収率及び変換率が低い点で共通している。さらに、記載の方法においては、常に、生体触媒の提供のための多くの手間が必要であり、これは次いで短い耐用時間しか示さず、すなわち、引き続き短時間だけしか使用できない。
【0011】
本発明の課題は、したがって、背景技術の記載の欠点を克服する方法を提供することであった。
【0012】
発明の詳細な説明
意外なことに、以下に記載の方法は本発明により課せられた課題を解決できることが見出された。
【0013】
本発明の主題は、したがって、
次の方法工程
A)好ましくは水溶液のビシナールジオールとヒドロ−リアーゼとを接触させる工程、
B)方法工程A)において形成されたアルデヒド及びヒドロ−リアーゼを分離する工程、
C)方法工程B)から得られたヒドロ−リアーゼを用いて、方法工程A)及びB)を少なくとも1回繰り返す工程、及び場合によって
D)形成されたアルデヒドを単離する工程
を含むアルデヒドの製造方法であって、
アルデヒドと結合を形成する化合物の存在下で実施することを特徴とする製造方法である。
【0014】
本発明の更なる主題は、前述の方法により得られたアルデヒドの酸化−及び還元生成物の製造方法である。
【0015】
本発明の方法の利点は、使用されるアルコールに対するアルデヒドに関するほぼ定量的な収率、生体触媒として使用されるヒドロ−リアーゼの長い耐用時間及びその反復可能性である。これによって、連続方法の方式が可能になる。
本発明の方法の更なる利点は、形成されたアルデヒドに対して、生体触媒として使用されるヒドロ−リアーゼの副活性、例えばアルデヒドのアルコールへの更なる還元の抑制の必要がないことである。
本発明の更なる利点は、本発明の方法が、大部分が酸素の排除下又は減少下で作業できる手段を提供することにあり、これによって、例えば生成物の、腐食及び不所望な酸化が減少されることができ、より簡易な装置構造が可能になり、かつ、エネルギーが節約されることができ、並びに、バイオテクノロジー反応器のガス曝露の他の知られている問題、例えば泡形成が抑制されることができる。
【0016】
本発明の関連において「アルデヒド」との概念下では、同様に、アルデヒドの水和物及びダイマー、並びに、これら化合物の混合物が理解され、並びに3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの場合には例えばロイトリンである。全ての記載のパーセント(%)は、他のことが記載されていない限りは、質量パーセントである。
【0017】
ヒドロ−リアーゼとしては、本発明の方法においては、ECクラス4.2.1.Xに列記されている酵素が使用されることができる。
ここでは特に、補酵素B12に依存しないで活性がある、すなわち、補酵素B12又はこの物質のための代替物質/類似物、例えばコリノイド、コバラミンの存在なしでもヒドロ−リアーゼ活性を有するヒドロ−リアーゼが、本発明の方法にとっては好ましい。このようなヒドロ−リアーゼの例示的な代表物は、WO200814864から認識できる。
【0018】
本発明の方法において好ましく使用されるヒドロ−リアーゼは、グリセリン−デヒドラターゼ又はジオール−デヒドラターゼ並びにプロパンジオール−デヒドラターゼ(EC 4.2.1.30, EC 4.2.1.28)である。この関連において、特に、属クレブシエラ(Klebsiella)、シトロバクター(Citrobacter)、クロストリジウム(Clostridium)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、エンテロバクター(Enterobacter)、カロラマトール(Caloramator)、サルモネラ(Salmonella)及びリステリア(Listeria)の群から選択される微生物から単離可能なグリセリン−デヒドラターゼ、特に好ましくは種クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、シトロバクター・ニューモニエ(Citrobacter pneumoniae)、クロストリジウム・パスツリアナム(Clostridium pasteurianum)、ラクトバチルス・ライヒマニ(Lactobacillus leichmannii)、クロストバクター・インテルメディウム(Citrobacter intermedium)、ラクトバチラス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)、クロストリジウム・パスツリアヌム(Clostridium pasteurianum)、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)、カロラマトール・ビテルベンシス(Caloramator viterbensis)、ラクトバチルス・コリノイデス(Lactobacillus collinoides)、ラクトバチルス・ヒルガルディ(Lactobacillus hilgardii)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)及びリステリア・イノキュア(Listeria innocua)の群から選択される微生物から選択されるグリセリン−デヒドラターゼが本発明の方法において使用される。
【0019】
使用されるグリセリン−デヒドラターゼは好ましくは、pduC, pduD, pduE, pddA, pddB, pddC, dhaB, dhaC, dhaE及びラクトバチラス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)ATCC55730からのgldABC遺伝子からなる群から選択される遺伝子によりコードされる。好ましくは、さらに、WO-A-2004/056963に記載のグリセリン−デヒドラターゼ変異体SHGDH22の使用であり、これはWO2004056963において開示された配列番号322を有する。グリセリン−デヒドラターゼのためのこれらの及び更なる適した遺伝子のヌクレオチド配列は、例えば、"Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes"(KEGGデータバンク)、National Library of Medicine (Bethesda, MD, USA)のNational Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータバンク、又はEuropean Molecular Biologies Laboratoriesのヌクレオチド配列データバンクから取り出すことができる。
【0020】
ジオール−デヒドラターゼと関連して、本方法において特に属クレブシエラ(Klebsiella)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)、クロストリジウム(Clostridium)、ラクトバチラス(Lactobacillus)、サルモネラ(Salmonella)、シトロバクター(Citrobacter)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、アセトバクテリウム(Acetobacterium)、ブルセラ(Brucella)及びフソバクテリウム(Fusobacterium)の群から選択される微生物から単離可能な、特に好ましくは種クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)、クロストリジウム・グリコリクム(Clostridium glycolicum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)及びリステリア・イノキュア(Listeria innocua)の群から選択される微生物から単離可能なジオール−デヒドラターゼを使用することが好ましいことがある。
【0021】
プロパンジオール−デヒドラターゼと関連して、本方法において特に属シトロバクター(Citrobacter)、クロストリジウム(Clostridium)、クレブシエラ(Klebsiella)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)及びサルモネラ(Salmonella)の群から選択された微生物から単離可能な、特に好ましくは種クロストバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)、クロストリジウム・グルコリカム(Clostridium glycolicum)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・コリノイデス(Lactobacillus collinoides)、プロピオニバクテリウム・フロデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)及びサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)の群から選択された微生物から単離可能なプロパンジオール−デヒドラターゼを使用することが好ましいことがある。
【0022】
本発明の方法において使用されるヒドロ−リアーゼが、ビタミンB12依存性酵素である場合には、方法工程A)をグリセロール−デヒドラターゼ−リアクティバーゼ(Reaktivase)−活性又はジオール−デヒドラターゼ−リアクティバーゼ−活性を有する酵素又は酵素複合体の存在下で実施することが好ましいことがあり、というのも、ヒドロ−リアーゼは、場合によってはこのビタミンの結合により不活化されることがあるからである。このようなリアクティバーゼは例えばMori et al . , J. Biol. Chem. 272:32034 (1997)に記載されている。好ましくは、相応するヒドロ−リアーゼが単離される生物から単離されるリアクティバーゼが使用される。適したジオール−デヒドラターゼ−リアクティバーゼは、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)(GenBank番号: AAC15871, AF017781; GenBank番号: AAC15872, AF017781)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)(GenBank番号: AAB84105, AF026270; GenBank番号: AAD39008, AF026270)及びラクトバチルス・コリノイデス(Lactobacillus collinoides)(GenBank番号: CAD01092, AJ297723; GenBank番号: CAD01093, AJ297723)から、適したグリセロール−デヒドラターゼ−リアクティバーゼはクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)(WO2008137403参照)から知られている。
本発明により本方法において使用されるヒドロ−リアーゼは、当業者に知られている全ての入手形態で使用できる。したがって、使用されるヒドロ−リアーゼは単離された酵素として、例えば組み換え発現系から単離されたものとして、又は酵素複合体の成分として使用できる。好ましく使用されるのは、完全細胞リアクター(Ganzzellreaktor)の形態にあるヒドロリアーゼであり、すなわち、このヒドロ−リアーゼは生物学的細胞、好ましくはヒドロ−リアーゼを発現する細胞中に存在する。
【0023】
このヒドロ−リアーゼを有する細胞は、ヒドロ−リアーゼを既に野生型として発現するか、又はこの種類はヒドロ−リアーゼの活性をこの遺伝子工学的変更によって初めて有するように遺伝子工学的に変更されていることができる。野生型ヒドロ−リアーゼ含有細胞として、本発明の方法においては、ヒドロ−リアーゼが単離可能である微生物として上述した細胞が使用できる。
【0024】
適したヒドロ−リアーゼを含有し、かつ、本発明の方法において使用できる遺伝子工学的に変更した細胞は、例えばWO2008148640に記載され、この開示は本願では明示的に取り込まれる。
【0025】
さらに、細胞がアルデヒドから副生成物を還元により形成する傾向、特に発生するアルデヒドが相応するアルコールへ還元する傾向を、この細胞の相応する遺伝子工学的改変により減少させることが好ましいことができる。例えば、本発明の方法で製造すべきアルデヒド3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの場合には、その野生型に比較して酵素E1(これは、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドを1,3−プロパンジオールへと還元できる)の減少した活性を有する細胞が使用されることができる。酵素E1(1,3−プロパンジオール−デヒドロゲナーゼ、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド−レダクターゼ、1,3−プロパンジオール:NAD+−オキシドレダクターゼ又はプロパン−1,3−ジオール:NAD+−1−オキシドレダクターゼ;EC 1.1.1.202)は、反応3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド+NAD(P)H→1,3−プロパンジオール+NAD(P)+を触媒作用する。このような酵素は、例えば、GenBank登録番号AP007281.1, EDX43365.1, BAG24545.1, ABQ82306.1, ABO43839.1, EEI08979.1, EEI 66346.1 , EEI73647.1, EEJ92522.1, EEI0 9194.1, EEI73500.1, ABQ83973.1又はBAG26138.1を有するタンパク質である。
【0026】
この記載からは、本発明の方法において使用されるそれぞれのヒドロリアーゼ含有細胞について相応するオキシドレダクターゼが同定され、かつ、その活性はその野生型に比較して減少される。
【0027】
使用される記載「酵素の減少した活性」は、好ましくは、少なくとも0.5倍、特に好ましくは少なくとも0.1倍、さらに好ましくは少なくとも0.01倍、さらにいっそう好ましくは少なくとも0.001倍、最も好ましくは少なくとも0.0001倍減少した活性が理解される。所定の酵素の活性の減少は、例えば、狙いを定めたか又は指向していない突然変異によって、競合性又は非競合性阻害剤の添加によって、又は、所定の酵素の合成の減少のための当業者に知られている他の処置によって行われることができる。
【0028】
狙いを定めた突然変異による酵素E1の活性の減少のためには、例えば、指向したノックアウトが考慮され、この場合に例えば目的遺伝子のプロモーター活性配列、目的遺伝子の活性(酵素の触媒作用機能のために必要な)領域、又は全目的遺伝子が欠失されるか、外来DNAで置換されるか、又は外来DNAで中断される。さらに、当業者には、遺伝子サイレンシングの様々な技術が知られており、これはアンチセンス−核酸又は低分子干渉RNA(siRNA)を介して特異的に個々の遺伝子の転写又は翻訳を減少するか又は完全に抑制すらする。この抑制は選択された系に応じて一過的に行われるか、誘導可能であるか又は構成的に存在することができる。同様に当業者には、狙いを定めて個々の点突然変異を目的遺伝子中に配置できる方法が知られている。さらに、当業者には、酵素E1の減少した活性を有する細胞を引き続き選択するために、指向していない突然変異を目的遺伝子中に配置できる方法が知られている。したがって、このような突然変異は、例えば遺伝材料の複製の際の天然の失敗率により又は物理的若しくは化学的害毒物、例えばUV光、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホナート、含硝硫酸、ヒドロキシアミン又は4−ニトロキノリン−1−オキシドに対する細胞の曝露により、作動されることができる。
【0029】
本発明により本方法において使用されるヒドロ−リアーゼ含有細胞は、生細胞又は死細胞であることができ、その際生細胞が好ましい。
ヒドロ−リアーゼとして使用される、生きている、ヒドロ−リアーゼ含有細胞を本方法の間に、成長のために必要な物質を供給した適した培地中に維持することが好ましいことがある。但し、酸素の供給に関してはこれを制限することが好ましいことがあることが判明した。したがって、ヒドロ−リアーゼとして使用される、生きている、ヒドロ−リアーゼ含有細胞を方法工程A)において微嫌気(mikroanaerob)又は嫌気条件下で使用することが好ましい。微嫌気又は嫌気条件は好ましくは、ヒドロ−リアーゼとして使用される、生きている、ヒドロ−リアーゼ含有細胞を取り囲む培地が溶解した酸素に関する含有量を、全培地に対して1mg/L未満、好ましくは0.5mg/L未満、特に0.1mg/L未満を有することにより特徴付けられる。この条件は例えば、この細胞を取り囲む培地が付加的に空気又は酸素によってガス曝露(begasen)されない、すなわち、貫流されず、かつ場合によって付加的にこの反応バッチを取り囲む容器が十分に空気密に閉鎖されることにより達成されることができる。
【0030】
方法工程B)において実施すべきアルデヒド及びヒドロ−リアーゼの分離を簡易に実施することができるためには、ヒドロ−リアーゼが担体に固定化していることが好ましい。ヒドロ−リアーゼが、遊離(frei)の、単離された酵素として使用される場合には、当業者には酵素固定化のための様々な方法が提供され、これは例えばエポキシド−活性化した担体材料に対するカップリング及び文献中に記載される方法であり、例えば次のものである:Mateo et al . Advances in the design of new epoxy Supports for enzyme immobilization-stabilization, Biochem Soc Trans. 2007 Dec;35(Pt 6) :1593-601及びBalcao et al . , Bioreactors with immobilized lipases: State of the art, Enzyme Microb Technol. 1996 May 1; 18 (6) : 392-416。
ヒドロ−リアーゼとしてヒドロ−リアーゼ活性を有する細胞が使用される場合には、細胞の固定化のために当業者に知れている方法が適用されることができ、これは例えばアルギン酸カルシウム法である。特にDE102007031689に記載の、シロキサンを基礎とする方法、並びに市販されているLentikat液体を用いた細胞の固定化はこの関連において特に適している。
【0031】
本発明の方法において、方法工程A)において置換及び非置換ビシナールジオールが使用されることができる;好ましくはこの置換基はカルボキシル−、アミノ−、エステル−、イソシアナート及びヒドロキシル基を含む群から選択されており、その際OHが特に好ましい。本発明の方法においては好ましくは炭素−鎖長2〜20個、特に2〜12個、特に好ましくは2〜6個の炭素原子を有するビシナールジオールが使用される。好ましい、本発明の方法において使用されるビシナールジオールには、特に糖及び糖アルコールであって3〜6個の炭素原子を有するもの、例えばソルビトールが属する;特に好ましくはこの関連において1,2−プロパンジオール、エチレングリコール及びグリセリンである。
特にグリセリンは本発明の方法においてビシナールジオールとして使用され、このため、得られるアルデヒドは3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドである。グリセリンの他に特に1,2−プロパンジオールも使用され、その際プロパナールがアルデヒドとして得られる。このアルデヒドは、進んで行われる(bereitwillig)引き続く不均化によりn−プロパノール及びプロピオン酸へと変換されることができる。
ビシナールジオールは方法工程A)において、全反応混合物に対して、濃度範囲0.01質量%〜50質量%、好ましくは0.2質量%〜20質量%で使用される。
【0032】
方法工程B)において、方法工程A)において形成されるアルデヒド及びヒドロ−リアーゼが分離される。
特に担体に固定されたヒドロ−リアーゼの分離は、この場合に、当業者に知られた分離方法、例えば遠心分離を用いて行われる。方法工程A)においてヒドロ−リアーゼとしてヒドロ−リアーゼ含有細胞が使用された場合に考えられるのは、例えば適したフィルターを用いた、例えば20〜200kDaの範囲にある排除サイズを有するフィルターを用いた、アルデヒドからの細胞の分離である。遠心分離、適した沈殿装置又はこれら装置の組み合わせの使用も考えられ、その際、細胞の少なくとも一部をまず沈殿により分離し、引き続き細胞を部分的に取り除いたアルデヒドを限外濾過又は遠心分離装置に供給することが特に好ましい。
【0033】
このようにして分離された細胞は、これが複数の相次いで実施される分離工程において得られた場合には、場合によって精製され、かつ直接的に方法工程A)に再度供給されることができる。しかし、ヒドロ−リアーゼ含有細胞を方法工程A)の新たな実施前にさらに洗浄することが好ましいことが判明でき、その際、この洗浄は好ましくは既に、方法工程A)において使用されたのと同じ培地を用いて行われる。
特に好ましくは、この洗浄は方法工程A)において使用される培地を用いて、グルコースの付加的な添加下で行われる;これによって、好ましい方式で本来のバイオトランスフォーメーションの間にアルデヒドから誘導される副生成物の形成を抑制できる。
細胞の洗浄のためにこれらは例えば適した容積にある方法工程A)において使用される培地中に再懸濁され、引き続き前記した分離方法により、特に濾過、沈殿又は遠心分離により、又はこの処置の組み合わせによりこの培地が取り除かれることができる。類似の洗浄過程は同様に担体に固定化したヒドロ−リアーゼに対して使用可能である。
【0034】
同様に、方法工程B)において行うべきアルデヒド及びヒドロ−リアーゼの分離は、アルデヒドと結合を形成する化合物が担体に固定化されていることにより容易化されることができる。例えば、ここではヒドロゲンスルフィットを負荷したイオン交換樹脂、例えばAmberlite(R) CG400又はAmberlite(R) IRA400 (Rohm and Haas)が考慮される。
【0035】
生体触媒を新たに新規なビシナールジオールを用いてアルデヒドの製造に利用するために、方法工程A)及びB)を分離されたヒドロ−リアーゼを用いて少なくとも1回繰り返すことが本発明に必須である。
【0036】
本発明の方法の好ましい代替的な一実施態様において、方法工程A)、B)及びC)は連続的に実施される。これは様々な経路で実現可能である:
ヒドロ−リアーゼは固定相として固定化して存在し、かつ、ビシナールポリオール及びアルデヒドと結合を形成する化合物を含有する培地はこの固定化されたヒドロ−リアーゼを貫流し、かつ方法工程A)によりこれと接触させられる。この発生したアルデヒドは移動相として固定相から分離され、このことは方法工程B)におけるアルデヒド及びヒドロリアーゼの分離に相応する。この連続的にヒドロ−リアーゼに対して新規に与えられるビシナールジオールは、方法工程B)から得られたヒドロ−リアーゼを用いた方法工程A)及びB)の繰り返しに相応する。
代替的に、アルデヒドと結合を形成する化合物は固定相として固定化して存在できる。ビシナールポリオール及びヒドロ−リアーゼは培地中に含有されており、したがって、方法工程A)により接触させられ、かつ、固定化した、アルデヒドと結合を形成する化合物を貫流し、その際、この形成されたアルデヒドは固定相に残存する。ヒドロ−リアーゼは固定相を離れ、このことは方法工程B)におけるアルデヒド及びヒドロ−リアーゼの分離に相応し、かつ、例えばループ型反応器の形で新たに新規のビシナールジオールと一緒に固定相に与えられる。
連続的に運転される本発明の方法の更なる一態様は、アルデヒドと結合を形成する化合物もヒドロ−リアーゼも固定化して固定相として存在するように構成されている。ビシナールポリオール含有培地は固定相を貫流し、したがって、ヒドロ−リアーゼと方法工程A)により接触する。この形成されるアルデヒドはアルデヒドと結合を形成する化合物により固定相に結合し、したがって、方法工程B)に応じてヒドロ−リアーゼから分離されている。この連続的に固定相に対して新規に与えられるビシナールジオールは、方法工程B)から得られたヒドロ−リアーゼを用いた方法工程A)及びB)の繰り返しに相応する。
【0037】
課せられた課題を解決するために、本発明の方法の間にアルデヒドと結合を形成する化合物が存在しなくてはならない。
アルデヒドと形成される結合は、化学結合の全ての知られた形態であることができ、例えば共有結合又はイオン結合、いわゆる弱い結合、例えば水素架橋結合又は静電相互作用により引き起こされる結合である。
好ましくは、アルデヒドと結合を形成する化合物はアルデヒドと共有結合を形成する。アルデヒドと結合を形成する化合物は多官能性であってよく、すなわち、化合物1分子あたり1より多くの結合がアルデヒドに対して形成されてよい。
適した、アルデヒドと結合を形成する化合物は、例えばヒドラジド、アミン、ヒドラジン、尿素化合物、ヒドロキシアミン、アルコール、メルカプタン、ヒドロゲン−スルフィット、スルフィット、メタビスルフィット及びピロスルフィットであり、その際、本発明の方法において好ましくはセミカルバジド[CAS 57-56-7]、カルボヒドラジド[CAS 497-18-7]及び亜硫酸ナトリウム[CAS 7757-83-7]が使用される。
【0038】
これは溶液中に遊離して、しかしまた担体に固定化しても使用されることができ、好ましくはこの関連において固定化していない、溶解した化合物であり、というのも、これはより効率的及びより迅速にアルデヒドと結合でき、したがって、不所望な副生成物を抑制できるからである。
本発明の方法が細胞を用いて実施される場合には、本発明により好ましくは、アルデヒドと結合を形成する化合物は細胞を取り囲む培地中へ添加される。
アルデヒドと結合を形成する化合物の混合物も使用できる。
本発明の方法においてビシナールジオール及びアルデヒドと結合を形成する化合物の官能基をモル比少なくとも1:1、好ましくは1:1.2、特に少なくとも1:1.5で使用することが好ましい。
【0039】
本発明の方法の方法工程D)において、形成されるアルデヒドは単離されることができ、その際単離のために、複雑な組成物からの低分子量物質の単離のために当業者に知られている全ての方法が考慮される。ここで例示的に、適した溶媒を用いた沈殿、適した溶媒を用いた抽出、複合体化、例えばシクロデキストリン又はシクロデキストリン−誘導体を用いた複合体化、結晶化、クロマトグラフィ法を用いた精製又は単離、又は容易に分離可能な誘導体へのアルデヒドの移行が挙げられる。方法工程D)における単離の一部は、アルデヒドと結合を形成する化合物を再度アルデヒドから分離することであってもよい。
【0040】
これは、当該結合に応じて、当業者に自体公知の方法により達成される。したがって、例えばアルデヒドとセミカルバジド又はカルボヒドラジドの間の結合は酸によって開裂されることができる;アルデヒド及びアルデヒドと結合する化合物並びにAmberlite(R) CG400又はAmberlite(R) IRA400からの複合体は例えば塩濃度を高める(例えば1MのNaCl又はNaHCO3/Na2CO3(0.15M/0.075M)からの系)ことにより分離されることができる。さらに、アルデヒドと、アルデヒドと結合する化合物との間の結合は熱処理により解離されることがある。
【0041】
導入部で挙げた課題の解決のためには、以下の方法工程を含む、アルデヒドの酸化−又は還元生成物の製造方法も更に寄与する:
I)前記した、ビシナールジオールからのアルデヒドの製造方法を用いたアルデヒドを提供する工程、
II)還元、酸化、不均化又は脱水により、場合によっては不飽和還元−又は酸化中間生成物を獲得しつつ、前記アルデヒドを化学反応又は生体触媒反応する工程、及び場合によって
III)還元、酸化又は付加により、前記方法工程II)において得られる還元−又は酸化中間生成物を更なる化学反応又は生体触媒反応する工程。
アルデヒドの酸化−又は還元生成物は、化合物、例えば場合によって不飽和カルボン酸、カルボン酸誘導体、アミン、イソシアナート、アセタール、ニトリル及びオキシムを含む。
【0042】
方法工程II)の還元−又は酸化中間生成物は、したがって既に、アルデヒドの所望の還元−又は酸化生成物であってよい。
【0043】
まず、方法工程I)においてアルデヒドを前記のアルデヒド製造方法を用いて提供し、その際、これは場合によって、この方法との関連において前述したように、精製されていてよい。
方法工程II)においてアルデヒドは次いで、還元、酸化、不均化又は脱水によって還元−又は酸化中間生成物を獲得しつつ、化学的又は生体触媒的に変換されることができ、特に、方法工程I)において得られるアルデヒドが3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドである場合には、1,3−プロパンジオール(1,3−PDO)(還元)、アクロレイン(脱水)又は3−ヒドロキシプロピオン酸(酸化)を獲得しつつ、変換されることができる。この場合に、3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドのアクロレインへの反応についての詳細は特に、Journal of the Chemical Society, 1950, 490-498頁においてHall及びSternにより記載され、その一方で3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドからの1,3−プロパンジオールの製造についての詳細は特にUS 5,334,778から取り出すことができる。3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドからの3−ヒドロキシプロピオン酸の製造は、再度、特にUS 6,852,517に記載されている。方法工程I)において得られるアルデヒドが1,2−プロパンジオールからのプロパナールである場合には、次いで、1−プロパノール及びプロピオン酸が、プロパナールの進んで行われる不均化によりバイオトランスフォーメーション培地中で発生することができる(Sriramulu, D. D.; Liang, M. ; Hernandez-Romero, D.; Raux-Deery, E.; Lunsdorf, H.; Parsons, J. B.; Warren, M. J. & Prentice, M. B. J. Bacteriol. , 2008, 190, 4559-4567)。
【0044】
場合によって、方法工程II)において得られる還元−又は酸化中間生成物は更なる方法工程III)において化学的に又は微生物学的に還元、酸化又は付加によりさらにいっそう反応させられることができる。特にここで方法工程II)において得られるアクロレインの、酸化によるアクリル酸への反応が考慮され、これは次いで場合によってなお更なる方法工程IV)においてラジカルによりアクリル酸を基礎とするポリマーの形成下で反応させられることができる。ここで特に、適した架橋剤の存在下での、吸水性ポリアクリラートの形成下での場合によって部分中和されたアクリル酸のラジカル重合が考慮され、これは「Superabsorber」と呼ばれることもある。アクロレインのアクリル酸への化学的酸化及びこのようにして得られるアクリル酸の引き続くラジカル重合は特にWO-A-2006/136336に記載されている。
さらに、方法工程II)において得られるアクロレインの、酸化的エステル化によるアクリル酸エステルへの反応が同様に考慮され、これは次いで場合によってなお更なる方法工程IV)においてラジカルによりアクリル酸エステルを基礎とするポリマーの形成下で反応させられることができる。
【0045】
上で説明した刊行物により、本発明の方法から得られるアルデヒドの好ましい還元−又は酸化生成物は、したがって、物質1,3−プロパンジオール、1−プロパノール、アクロレイン、3−ヒドロキシプロピオン酸、プロピオン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル及びアクリル酸又はアクリル酸エステルを基礎とするポリマーであり、その際、方法工程I)において得られるアルデヒドは3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドである。
【0046】
以下に記載の実施例においては、本発明は例示的に記載され、この場合に、その適用範囲が全体的な発明の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかである本発明は実施例に挙げられた実施形態が限定されることはない。以下の図面は本発明の構成要素である:
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、バイオトランスフォーメーションサイクルの経過における、固定化したL.ロイテリ細胞を用いたグリセリンの反応の際のグリセリン、3HPA及び1,3−PDOの濃度経過を示す図である。
【図2】図2は、7回のバイオトランスフォーメーションサイクルの経過における及び捕捉物質としてのセミカルバジドの存在下での、固定化したL.ロイテリ細胞を用いたグリセリンの反応の際のグリセリン、3HPA及び1,3−PDOの濃度経過を示す図である。
【図3】図3は、7回のバイオトランスフォーメーションサイクルの経過における及び捕捉物質としてのセミカルバジドの存在下での、固定化したL.ロイテリ細胞を用いたグリセリンの反応の際の3HPAの蓄積収量を示す図である。
【図4】図4は、10回のバイオトランスフォーメーションサイクルの経過における及び捕捉物質としてのカルボヒドラジドの存在下での、固定化したL.ロイテリ細胞を用いたグリセリンの反応の際のグリセリン、3HPA及び1,3−PDOの濃度経過を示す図である。
【図5】図5は、10回のバイオトランスフォーメーションサイクルの経過における及び捕捉物質としてのカルボヒドラジドの存在下での、固定化したL.ロイテリ細胞を用いたグリセリンの反応の際の3HPAの蓄積収量を示す図である。
【図6】図6は、L.ロイテリ細胞を用いたグリセリン又は1,2−プロパンジオールのバイオトランスフォーメーションの際のグリセリン及び1,2−プロパンジオールの濃度の時間経過を示す図である。
【図7】図7は、スルフィットの添加なしの固定化したL.ロイテリ細胞を用いたグリセロールの7つの相次いだバイオトランスフォーメーションの際の3HPA、グリセリン及び1,3−PDOの濃度の経過を示す図である。
【図8】図8は、亜硫酸水素ナトリウムの添加ありの固定化したL.ロイテリ細胞を用いたグリセロールの7つの相次いだバイオトランスフォーメーションの際の3HPA、グリセリン及び1,3−PDOの濃度の経過(本発明による)を示す図である。
【図9】図9は、野生型L.ロイテリ細胞を用いたグリセリンのバイオトランスフォーメーションの際の3HPA、グリセリン及び1,3−PDOの濃度の時間経過を示す図である。
【図10】図10は、遺伝子工学的に改変されたL.ロイテリ細胞を用いたグリセリンのバイオトランスフォーメーションの際の3HPA、グリセリン及び1,3−PDOの濃度の時間経過を示す図である。
【0048】
実施例:
実施例1:ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)の培養
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)の培養を、20mMグリセリン添加を有する嫌気化したMRS培地(DeMan, Rogosa及びSharpeによるラクトバチラスのための培地)(MRSG20)中で、閉鎖した適した容器中で80rpmで行った。この培地MRSG20(組成[1リットルあたりの記載];10g プロテオースペプトンNr.3(Roth)、8gのウシ抽出物(Roth)、4gの酵母抽出物(VWR)、1.5mLのグリセリン(Roth)、1mLのTween80(Roth)、40mLの塩溶液[10g/Lのリン酸水素二カリウム(Roth)、250g/Lの酢酸ナトリウム−三水和物(Roth)、100g/Lのクエン酸水素二アンモニウム(Roth)、10g/Lの硫酸マグネシウム−七水和物(Roth)、2.5g/Lの硫酸マンガン−四水和物(Roth)])を、嫌気化及びオートクレーブ処理(20分、121℃で)後に、25mLのグルコース−溶液(4mol/l)と混合した。
予備培養物1(50mL)のために、凍結培養物(Kryo-Kultur)を使用した。このために、さらに6%(w/v)のスキムミルク粉末及び10%(v/v)グリセリンを含有するMRS培地中のL.ロイテリSD2112を−80℃で貯蔵した。ストック培養物の製造のために、オーバーナイト培養物(10mL MRS培地)を1:1でこのストック溶液と混合する。この予備培養物を1%の接種材料として使用し、かつ33℃でインキュベーションした。15時間後にこのバッチから第2の予備培養物(50mL)1%で接種し、9時間37℃でインキュベーションした。これは再度、主培養物(2回、1L)のために1%の接種材料として用いた。15時間後に33℃でこの細胞を回収した。
このために2リットルを遠心分離処理(4000g;20℃;10分)し、この上清を捨て、この両方の生じるペレットを1リットルの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(KPP;K2HPO4+KH2PO4(Roth))中でpH7で再懸濁した。新たな遠心分離を同じ条件下で行った。この上清を新たに捨て、細胞ペレットを0.1M KPP中でpH7で1g対1mlの比で再懸濁し、N2下で貯蔵した。この懸濁液を引き続く固定化のために利用した。
【0049】
実施例2:ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)の固定化
固定化のために実施例1に記載の細胞懸濁液20mLを〜35℃で温度処理したLentikat-Liquid(R) (GeniaLab)と混合し、このLentikatをLentiKat(R)-Printer (GeniaLab)を用いて製造し、かつ残留湿分28%に乾燥させた。LentiKat-Stabilizer(R) (GeniaLab)中での再膨潤(Rueckquellung)後に、この固定物を少なくとも2時間無酸素雰囲気中で300rpmでLentikats の安定化のためにLentiKat-Stabilizer(R)中で撹拌した。この分離され、かつ2回0.1M KPPを用いてpH7で洗浄した固定物を3%で15時間にわたり33℃で固定してMRSG20中で完全充填した1Lフラスコ中でガス交換のための手段を用いて再生した。培地からの固定物の分離後に(好気条件)これを2回0.1M KPP(pH7)で洗浄した。
【0050】
実施例3:HPLCを基礎とする、グリセリン及び1,3−プロパンジオールの定量化
グリセリン及び1,3−プロパンジオール(1,3−PDO)の定量化のために各1mlの細胞懸濁液中でバイオマスを遠心分離(10分、16100g、4℃)により分離し、かつ、40μlの培養物上清を、9μmの粒径を有するAminex HPX-87H 300 x 7.8 mm分離カラム(Bio-Rad Laboratories GmbH, Muenchen)を備えたShimadzu-HPLCシステム(オートサンプラー SIL-10AT, ポンプLC-10AT, 脱気機DGU-3A, 屈折率検出器RID-10A, UV検出器SPD-10A, 炉CTO-10A, コントローラーSCA-10A-VP)の使用下で、かつ予備カラム(HPX-87H, 30 x 4.6 mm)の使用下で分析した。分析すべき物質をアイソクラティックに5mM硫酸からの移動相を用いて0.6ml/分20分の流速で40℃で溶出した。この同定を、参照物質の滞留時間との比較により行った(Sigma-Aldrich Chemie GmbH, Steinheim)。この培養物上清中の化合物の濃度をピーク表面積の比較を介して、前もって外部標準を用いて作成した校正直線を用いて計算した。
【0051】
実施例4:固定化したラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)を用いたグリセリンから3HPAへの反応(比較例)
実施例2に応じて製造した、L.ロイテリで負荷した固定物を10%(20g、1リットルあたり2gの乾燥細胞の濃度に相応)でバイオトランスフォーメーションにおいてガラス発酵器(全容積500ml)中で200mlの反応緩衝液を用いて使用した。後者のものは、嫌気化され、かつ、35℃で予備温度処理された0.1M KPP(pH7)からなった。一定のpH値7に調節及び一定の温度35℃に調節した後に、この反応を8mLの98%グリセリン(Roth, 反応混合物中の500mMの濃度に相応)の添加によって開始させた。このサンプリングを1時間にわたり10分毎、引き続き2時間にわたり30分毎行った。グリセリン及び副生成物の濃度をHPLCを用いて実施例3に応じて測定した。
3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの定量化を、Doleyres et al.による比色分析試験を用いて行った(Production of 3-hydroxypropionaldehyde using a two-step process with Lactobacillus reuteri, Applied Microbiology and Biotechnology, Vol. 68, 2005, 467-474頁)。
〜100分の反応時間後に、遊離な細胞の場合も、また同様に固定化した細胞の場合も、グリセリンの変換はもはや観察されることができなかった。
グリセリン、3HPA及び1,3−PDOの濃度経過は図1に挙げられている。バイオトランスフォーメーションの間に1.29gの3HPAが発生した。この反応混合物を細胞又は固定物から分離し、別個に4℃で貯蔵した。グリセリンから3HPA及び副生成物への反応は、前記した分析に応じて行い、〜25%であった。細胞又は固定物の再使用の場合にはグリセリンから3HPAへの変換は確認されることができなかった。
【0052】
実施例5:固定化したラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)を用い、かつセミカルバジドの存在下におけるグリセリンから3HPAへの反応、本発明による
実施例2に応じて製造した、L.ロイテリで負荷した固定物を10%(20g、1リットルあたり2gの乾燥細胞の濃度に相応)でバイオトランスフォーメーションにおいてガラス発酵器(全容積500ml)中で200mlの反応緩衝液を用いて使用した。これは、0.1M KPP(pH7)並びに500mMセミカルバジドからなり、かつ、嫌気化されており、並びに、35℃の反応温度に予備温度調節されていた。一定のpH値7及び一定の温度35℃に調節した後に、この反応を8mLの98%グリセリン(Roth;反応混合物中500mMの濃度に相応)の添加によって開始させた。この反応混合物からのサンプルの取り出し及び分析を実施例4に記載のように行った。
150分間の反応時間後に、この反応培地を固定物から分離し、新たに嫌気化した、予備温度調節した反応培地(0.1M、KPP pH7、500mMのセミカルバジドを有する)を添加した。前記したように、更なるバイオトランスフォーメーションサイクルを実施した。全部で7つの相次ぐサイクルを固定物の中間貯蔵なしに実施した。グリセリン、3HPA及び1,3−PDOについての濃度経過は図2に挙げられている;図3は、3HPAに関する蓄積収量を示す。グリセリンから3HPAへの反応を捕捉物質としてのセミカルバジドを用いて、前記した分析に応じて行い、最初の5サイクルにおいては〜55%までだけであった;更なる2サイクルにおいてこの収量は連続的に減少した。
【0053】
実施例6:固定化したラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)を用い、かつカルボヒドラジドの存在下におけるグリセリンから3HPAへの反応、本発明による
実施例2に応じて製造した、L.ロイテリで負荷した固定物を10%(20g、1リットルあたり2gの乾燥細胞の濃度に相応)でバイオトランスフォーメーションにおいてガラス発酵器(全容積500ml)中で200mlの反応緩衝液を用いて使用した。これは、0.1M KPP(pH7)並びに520mMカルボヒドラジドからなり、かつ、嫌気化されており、並びに、35℃の反応温度に予備温度調節されていた。一定のpH値7及び一定の温度35℃に調節した後に、この反応を8mLの98%グリセリン(Roth;反応混合物中の500mMの濃度に相応)の添加によって開始させた。この反応混合物からのサンプルの取り出し及び分析を実施例4に記載のように行った。
180分間の反応時間後に、この反応培地を固定物から分離し、新たに嫌気化した、予備温度調節した反応培地(0.1M、KPP pH7、520mMのカルボヒドラジドを有する)を添加した。前記したように、更なるバイオトランスフォーメーションサイクルを実施した。全部で10回の相次ぐサイクルが固定物の中間貯蔵なしに実施された;グリセリン、3HPA及び1,3−PDOについての濃度経過は図4に挙げられている;図5は、3HPAに関する蓄積収量を示す。
グリセリンから3HPA及び副生成物への反応を捕捉物質としてのカルボヒドラジドを用いて、前記した分析に応じて行い、全10サイクルにおいて〜95%であった。
【0054】
実施例7:遊離のラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)を用いた、硫黄含有化合物の存在下におけるグリセリンから3HPAへの反応、本発明による
実施例1に応じて製造した細胞を、1000ミリモーラーのグリセリン溶液中に懸濁し、この結果全細胞濃度2.2×1010CFU/mlが生じた。硫黄含有化合物(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム又はピロ亜硫酸ナトリウム;それぞれ終濃度100mmol/Lでもって反応溶液中にある)の添加後に、この懸濁液を120分間インキュベーションし、その際、この混合物を連続的な窒素流の導通により酸素不含に維持した。第1表に列記される、120分の進行後に生じる3HPA及び1,3−PDOの濃度並びに細胞生存率は、硫黄含有化合物の添加による達成可能な3HPA濃度の向上並びに細胞生存率の減少の低下を説明する。
第1表
【表1】

【0055】
実施例8:固定化したラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)を用いた、カルボヒドラジドの存在下での1,2−プロパンジオール又はグリセリンからプロパナール又は3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドへの反応、本発明による
実施例1に応じて製造した細胞を、それぞれ500ミリモーラーのグリセリン溶液又は500ミリモーラーの1,2−プロパンジオール溶液中に懸濁し、この結果全細胞濃度2.2×1010CFU/mlが生じた。反応溶液中100mmol/Lの終濃度を有するカルボヒドラジドの添加後に、この懸濁液を120分間インキュベーションし、その際、この混合物を連続的な窒素流の導通により酸素不含に維持した。図6に説明される、グリセリン及び1,2−プロパンジオールの濃度経過は、この両方の物質の等価なトランスフォーメーションを説明する。
【0056】
実施例9:固定化したラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)細胞を用いた、硫黄含有化合物の存在下及びグルコールの洗浄溶液への添加下の、グリセリンから3HPAへの反応、本発明による
実施例2に応じて製造された、L.ロイテリで負荷された固定物を、20%(4mL)バイオトランスフォーメーションにおいてガラス発酵機中で20mLの反応溶液と共に使用した。これは、80mmol/Lグリセリンを含有し、かつ、30℃への温度調節後に一定のpH値5に調節された(比較例及び本発明による実施例)。本発明によるバッチ中にはこの反応溶液は更に亜硫酸水素ナトリウム(50mmol/Lの終濃度に応じて)が添加された。バイオトランスフォーメーションサイクル(30分)の経過後にこの固定物を濾別し、30分間の期間にわたりMRSG20(実施例1参照)中で再生し、新たに、記載のように反応溶液中で使用する。この記載の方式では、全部で7回のグリセリンの反応が実施される。ヒドロゲンスルフィットの添加なしに各トランスフォーメーション工程において10mmol/Lの1,3−PDOが形成される(図7)一方で、亜硫酸水素ナトリウムの添加の場合には1,3−PDO−濃度の減少が観察されることができる(図8)。
【0057】
実施例10:遊離の、遺伝子工学的に改変されていないか又は改変されているラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)を用いた、グリセリンから3HPAへの反応、本発明による
野生型細胞又は、オキシドレダクターゼ遺伝子の欠失により産出された細胞を250ミリモーラーのグリセリン溶液中に懸濁し、この結果、そのつど1.2×1010CFU/mlの全細胞濃度が生じた。120分のバイオトランスフォーメーションの過程における濃度経過が示すように、L.ロイテリ野生型の使用の場合には20分間のバイオトランスフォーメーションの後に形成される3HPAは1,3−PDOの形成のために分解され(図9)、その一方で3HPAから1,3−PDOへの変換はオキシドレダクターゼ−遺伝子の欠失により産出した細胞の使用の場合には妨げられる(図10)。
【0058】
実施例11:3HPA含有発酵搬出物からのアクロレインの製造、本発明による
実施例4−6に応じて得られる発酵−搬出物から、酸性触媒作用を通じて高められた温度でアクロレインを獲得することができた。このために、発酵搬出物の一部を比1:100で水で希釈し、3部の37%塩酸と混合し、0.5h37℃でインキュベーションした。この場合に形成されるアクロレインはDL−トリプトファン−溶液(Fluka、0.01mol/Lトリプトファン、0.05mol/L塩酸中)の添加及び37℃(0.5h)の新たなインキュベーション後に、着色アダクトを形成し、これは比色分析によって560nmでのその吸収により定量化されることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の方法工程
A)ビシナールジオールとヒドロ−リアーゼとを接触させる工程、
B)方法工程A)において形成されたアルデヒド及びヒドロ−リアーゼを分離する工程、
C)方法工程B)から得られたヒドロ−リアーゼを用いて方法工程A)及びB)を少なくとも1回繰り返す工程、及び場合によって
D)形成されたアルデヒドを単離する工程
を含むアルデヒドの製造方法であって、
アルデヒドと結合を形成する化合物の存在下で実施することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
方法工程A)におけるヒドロ−リアーゼがグリセリン−デヒドラターゼであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
方法工程A)において使用されるヒドロ−リアーゼが担体に固定化されていることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
方法工程A)においてヒドロ−リアーゼとしてヒドロ−リアーゼ活性を有する細胞を使用することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
細胞が、その野生型に対して減少した活性のオキシドレダクターゼを有し、これがアルデヒドを還元することができることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
方法工程A)においてビシナルジオールがグリセリン又は1,2−プロパンジオールであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
方法工程A)におけるビシナールジオールが、全反応混合物に対して、0.01質量%〜50質量%、好ましくは0.2質量%〜20質量%の濃度範囲において使用されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
方法工程A)、B)及びC)を連続的に実施することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
アルデヒドと結合を形成する化合物としてセミカルバジド[CAS 57-56-7]、カルボヒドラジド[CAS 497-18-7]又は亜硫酸ナトリウム[CAS 7757-83-7]を使用することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
本発明による方法においてビシナールジオール及びアルデヒドと結合を形成する化合物の官能基をモル比少なくとも1:1、好ましくは少なくとも1:1.2、特に少なくとも1:1.5で使用することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
方法工程:
I)請求項1から10のいずれか1項記載の方法によりアルデヒドを提供する工程、
II)還元、酸化、不均化又は脱水により、場合によって不飽和の還元−又は酸化中間生成物を獲得しつつ、前記アルデヒドを化学反応又は生体触媒反応させる工程、及び場合によって
III)還元、酸化又は付加により、前記方法工程II)において得られる還元−又は酸化中間生成物を更なる化学反応又は生体触媒反応させる工程
を含む、アルデヒドの酸化−又は還元生成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−525824(P2012−525824A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508987(P2012−508987)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055683
【国際公開番号】WO2010/127970
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】