説明

セメントの製造方法、セメント組成物、およびセメント硬化体

【課題】セメントに含まれる前記粉砕助剤の量が製造ロット間で変動しにくく、かつ、セメントに含まれる半水石膏の割合が製造ロット間で変動しにくく、しかも、セメント組成物の物性の製造ロット間の変動を抑制し得るセメントの製造方法を提供することを一の課題とする。また、物性の製造ロット間の変動を抑制し得るセメント組成物を提供することを他の課題とする。また、前記セメントが用いられた、物性の製造ロット間の変動を抑制し得るセメント硬化体を提供することを別の課題とする。
【解決手段】沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下でセメントクリンカと石膏とを粉砕して粉砕物とする粉砕工程と、前記粉砕物を熱処理する熱処理工程とを実施するセメントの製造方法等による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの製造方法、該セメントの製造方法により製造されたセメントが用いられたセメント組成物、および、該セメントの製造方法により製造されたセメントが用いられたセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントの製造方法としては、セメントクリンカと石膏とを粉砕助剤の存在下で粉砕し、粉砕した粉砕物からセメントを製造する方法などが知られている。具体的には、例えば、粉砕助剤としてジエチレングリコールが採用されたセメントの製造方法が知られている。
【0003】
また、粉砕効率をより向上させるべく、粉砕助剤としてジエチレングリコールより分子量の大きいエチレングリコール類が採用されたセメントの製造方法も知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、この種のセメントの製造方法は、製造されたセメントを含むセメント組成物の物性が製造ロット間で変動しやすいという問題を有している。具体的には、水が混合されたセメント組成物の流動性が製造ロット間で変動したり、また、このセメント組成物が用いられた、モルタルやコンクリートなどのセメント硬化体の強度が製造ロット間で変動したりし得る。
【0005】
以上のように、従来のセメントの製造方法は、製造されたセメントを含むセメント組成物の物性や、該セメント組成物が用いられた硬化体等の物性が製造ロット間で変動しやすく、その物性が安定しにくいという問題を有している。
【0006】
【特許文献1】特開平02−298366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対して、本願の発明者は、セメント組成物の物性や該セメント組成物が用いられた硬化体等の物性が製造ロット間で変動しやすい原因について、次のような点に着目した。即ち、まず、従来のセメントの製造方法では、セメントクリンカと石膏との粉砕に伴う熱などによって、粉砕助剤として添加された分子量の比較的小さいエチレングリコール類が揮発し得るうえに、その揮発量の制御が困難であるため、得られるセメント組成物に含まれている粉砕助剤の量が製造ロット間で変動しやすく、そのために、斯かるセメント組成物が用いられたモルタルやコンクリート等のセメント硬化体は、強度などの物性が製造ロット間で変動しやすくなるという点に着目した。さらに、従来のセメントの製造方法では、セメントクリンカと石膏との粉砕に伴う熱などによって、石膏が半水石膏へと変化し得るものの、粉砕時における温度の管理が困難で温度が比較的変動し得るものであるため、得られるセメント組成物に含まれている二水石膏と半水石膏との割合が製造ロット間で変動しやすく、そのために、斯かるセメント組成物が用いられたモルタルやコンクリート等のセメント硬化体は、強度などの物性が製造ロット間で変動しやすくなるという点に着目した。
【0008】
本発明は上記のような従来技術の問題点などに鑑みてなされたものであり、セメントに含まれる前記粉砕助剤の量が製造ロット間で変動しにくく、かつ、セメントに含まれる半水石膏の割合が製造ロット間で変動しにくく、しかも、セメント組成物の物性の製造ロット間の変動を抑制し得るセメントの製造方法を提供することを一の課題とする。また、物性の製造ロット間の変動を抑制し得るセメント組成物を提供することを他の課題とする。また、前記セメントが用いられた、物性の製造ロット間の変動を抑制し得るセメント硬化体を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明は、沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下でセメントクリンカと石膏とを粉砕して粉砕物とする粉砕工程と、前記粉砕物を熱処理する熱処理工程とを実施することを特徴とするセメントの製造方法を提供する。
【0010】
本発明に係るセメントの製造方法によれば、前記粉砕工程において沸点が250℃以下の粉砕助剤を用いるため、前記粉砕工程の後に実施する前記熱処理工程において前記粉砕物が熱処理されることにより、前記粉砕助剤が揮発し、製造されたセメントに粉砕助剤が残存しにくい。しかも、前記熱処理により二水石膏を半水石膏にさせることができる。
【0011】
本発明のセメントの製造方法は、前記熱処理の時間が30分以上であり、且つ前記熱処理の温度が150〜200℃であることが好ましい。前記熱処理の時間が30分以上であることにより、前記粉砕助剤がより揮発しやすくなり、製造されたセメントに粉砕助剤がより残存しにくくなるという利点がある。また、前記熱処理の温度が150℃以上であることにより、前記粉砕助剤をより揮発させ残存させにくくすることができ、より確実に二水石膏を半水石膏にさせることができるという利点がある。また、前記熱処理の温度が200℃以下であることにより、それ以上温度を上げなくとも前記粉砕助剤が揮発して残存しにくくなり、半水石膏が無水石膏へとさらに変化することを抑制できるという利点がある。
【0012】
また、本発明のセメントの製造方法は、前記粉砕助剤がエチレングリコール又はジエチレングリコールであることが好ましい。前記粉砕助剤がエチレングリコール又はジエチレングリコールであることにより、より効率良く所望の粒子径の粉砕物を得ることができ、前記粉砕工程における粉砕物の凝集をより抑制できるという利点がある。
【0013】
また、本発明のセメントの製造方法は、前記セメントクリンカ100重量部に対する前記粉砕助剤の量が0.01〜0.06重量部であることが好ましい。前記セメントクリンカ100重量部に対する前記粉砕助剤の量が0.01重量部以上であることにより、粉砕時の効率がより向上し得るという利点があり、0.06重量部以下であることにより、前記粉砕助剤がより残存しにくくなるという利点がある。
【0014】
また、本発明のセメントの製造方法は、前記熱処理の熱源としてセメント製造設備の排熱を利用することが好ましい。前記熱処理の熱源としてセメント製造設備の排熱を利用することにより、比較的低コストで前記熱処理工程が実施できるという利点がある。
【0015】
本発明は、セメントクリンカと石膏とを沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下で粉砕した粉砕物を熱処理して製造したセメントが用いられていることを特徴とするセメント組成物を提供する。
【0016】
本発明は、セメントクリンカと石膏とを沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下で粉砕した粉砕物を熱処理して製造したセメントが用いられていることを特徴とするセメント硬化体を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るセメントの製造方法によれば、沸点が250℃以下の前記粉砕助剤を揮発させ、残存させにくくさせることができ、しかも二水石膏を半水石膏にさせることができる。しかも、半水石膏がさらに無水石膏へと変化することを抑制できる。従って、本発明のセメントの製造方法は、セメントに含まれる前記粉砕助剤の量が製造ロット間で変動しにくく、かつ、セメントに含まれる半水石膏の割合が製造ロット間で変動しにくく、しかも、セメント組成物の物性の製造ロット間の変動を抑制し得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るセメントの製造方法は、沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下でセメントクリンカと石膏とを粉砕して粉砕物とする粉砕工程と、前記粉砕物を熱処理する熱処理工程とを実施する。
【0019】
以下、本実施形態のセメントの製造方法について説明する。
【0020】
本実施形態のセメントの製造方法は、粉砕、乾燥、混合したセメントの粉体原料を焼成、冷却したセメントクリンカを調製するセメントクリンカ調製工程と、沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下で前記セメントクリンカと石膏とを粉砕して粉砕物とする粉砕工程と、前記粉砕物を熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で熱処理された前記粉砕物を冷却し、所定の粒子径を有するものに分級し、必要に応じてさらに混合材を混合してセメントとする後処理工程とを実施する。
【0021】
前記セメントクリンカ調製工程は、粉砕、乾燥、混合したセメントの粉体原料を焼成、冷却したセメントクリンカを調製する工程である。前記セメントクリンカ調製工程では、従来公知の方法を採用して、セメントクリンカを調製する。
【0022】
前記粉砕工程は、沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下でセメントクリンカと石膏とを粉砕して粉砕物とする工程である。
【0023】
前記粉砕工程において沸点が250℃以下の粉砕助剤を用いるため、前記粉砕工程の後に実施する前記熱処理工程において前記粉砕物が熱処理されることにより、前記粉砕助剤が揮発し、製造されたセメントに粉砕助剤が残存しにくい。
【0024】
前記粉砕助剤は、沸点が250℃以下であれば特に限定されないが、前記粉砕工程において揮発しにくく残存して粉砕助剤として機能し得るという点で、沸点が150℃以上であることが好ましい。
【0025】
前記粉砕工程における粉砕時の温度は、特に限定されないが、前記セメントクリンカ調製工程で調製されたセメントクリンカが十分冷却しないうちに前記粉砕工程で用いられたり、粉砕時の摩擦などによって熱が発生したりするため、通常、100〜200℃程度となる。
【0026】
前記粉砕助剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類を用いることができ、さらには、これらグリコール類のモノアルキルエーテル、これらグリコール類のモノアセテートなどが用いられ得る。前記粉砕助剤としては、前記グリコール類単独のもの、又は、前記グリコール類が2種以上混合されているものなどを用いることができる。
【0027】
また、前記粉砕助剤は、エチレングリコール又はジエチレングリコールであることが好ましい。エチレングリコール又はジエチレングリコールであることにより、より効率良く所望の粒子径の粉砕物を得ることができ、前記粉砕工程における粉砕物の凝集をより抑制できるという利点がある。
【0028】
前記セメントクリンカは、前記セメントクリンカ調製工程で調製されたものであり、通常、石灰石、粘土、ケイ石、酸化鉄などを含んでいる。
【0029】
前記石膏は、硫酸カルシウムを含むものであれば特に限定されない。前記石膏としては、二水石膏、半水石膏、無水石膏などが例示され、このうちの1種が単独で含まれているもの、又は、複数種が混合されて含まれているものなどが挙げられる。なお、前記石膏の量は、製造されたセメントが硬化されるときの硬化速度を調整するために、適宜調整される。
【0030】
前記粉砕工程では、前記セメントクリンカ100重量部に対する前記粉砕助剤の量が0.01〜0.06重量部であることが好ましく、0.02〜0.04重量部であることがより好ましい。前記セメントクリンカ100重量部に対する前記粉砕助剤の量が0.01重量部以上であることにより、粉砕時の効率がより向上し得るという利点があり、0.02重量部以上であることにより、さらに粉砕時の効率が向上し得るという利点がある。また、0.06重量部以下であることにより、前記粉砕助剤がより残存しにくくなるという利点があり、0.04重量部以下であることにより、前記粉砕助剤がさらに残存しにくくなるという利点がある。
【0031】
前記熱処理工程は、前記粉砕物を熱処理する工程である。前記熱処理の温度は、150℃以上であることが好ましい。前記粉砕物を150℃以上で熱処理することにより、前記粉砕助剤を揮発させ、残存させにくくでき、しかも二水石膏を半水石膏にさせることができる。また、それ以上温度を上げなくとも前記粉砕助剤が揮発して残存しにくくなるという点で、前記熱処理の温度は、250℃以下であることが好ましい。また、半水石膏がさらに無水石膏へと変化することを抑制できるという点で、前記熱処理の温度は、200℃以下であることが好ましい。
【0032】
なお、前記熱処理工程における熱処理の温度より、前記粉砕助剤の沸点の方が高くなる場合もあり得るが、前記粉砕助剤は、熱処理における温度において揮発し得る蒸気圧を有する。即ち、粉砕される粉砕物は、粒子状であり比較的比表面積が大きく、前記粉砕助剤は、その粒子状粉砕物の表面に存在するため、前記熱処理工程において揮発しやすい環境におかれる。従って、前記粉砕助剤は、前記熱処理工程における熱処理の温度よりその沸点が高い場合であっても、前記熱処理工程において揮発して蒸発し得る。
【0033】
前記熱処理の時間は、30分以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。前記熱処理の処理時間が30分以上であることにより、前記粉砕助剤をより揮発させやすくでき、粉砕助剤を製造されたセメントにより残存させにくくできるという利点がある。また、1時間以上であることにより、前記粉砕助剤をさらに揮発させやすくでき、粉砕助剤を製造されたセメントにさらに残存させにくくできるという利点がある。また、それ以上温度を上げなくとも前記粉砕助剤が揮発して残存しにくくなり、しかも、半水石膏がさらに無水石膏へと変化することを抑制できるという点で、前記熱処理の処理時間は、2時間以下であることが好ましい。
【0034】
なお、前記熱処理の熱源としてセメント製造設備の排熱を利用することが好ましい。前記熱処理の熱源としてセメント製造設備の排熱を利用することにより、比較的低コストで前記熱処理工程が実施できるという利点がある。
【0035】
前記粉砕工程及び前記熱処理工程については、通常、前記粉砕工程が終了した後、前記熱処理工程を実施する。前記粉砕工程は、前記粉砕物の粒子が所望の大きさまで粉砕された時点で終了し、その後前記熱処理工程を実施する。
【0036】
前記後処理工程では、前記熱処理工程で熱処理された前記粉砕物を冷却し、所定の粒子径を有するものに分級し、必要に応じてさらに混合材を混合してセメントとすることができる。
【0037】
本実施形態のセメントの製造方法は、従来公知の一般的な手段によって実施できる。即ち、従来公知の一般的なセメント製造用の設備を用いて実施できる。
【0038】
次に、本発明のセメント組成物の一実施形態について説明する。本実施形態のセメント組成物は、上記実施形態のセメントの製造方法で製造されたセメントが用いられている。
【0039】
本実施形態のセメント組成物には、上記実施形態のセメントが含まれている。本実施形態のセメント組成物としては、例えば、上記実施形態のセメントの粉状物、セメントペースト、モルタル用組成物、コンクリート用組成物などが挙げられる。詳しくは、前記セメントペーストは、前記セメント、前記ポリカルボン酸系分散剤、及び水などが混合されてなる。前記モルタル用組成物は、前記セメント、前記ポリカルボン酸系分散剤、及び細骨材(砂)などが混合されてなる。前記コンクリート用組成物は、前記セメント、前記ポリカルボン酸系分散剤、粗骨材(砂利)、及び細骨材(砂)などが混合されてなる。
【0040】
また、本発明は、好ましくは、ポリカルボン酸系分散剤が含まれているセメント組成物を提供する。
前記ポリカルボン酸系分散剤は、前記粉砕物を水に分散しやすくし、分散された前記粉砕物が凝集することを抑制し、また、水和時におこるセメント粒子の凝集を防ぎ粒子相互を分散させるためのものである。加えて、セメント組成物の流動性などの物性又は該セメント組成物が用いられた硬化体の強度などの物性の変動を抑制するために、その配合量を調整して用いられ得るものである。
このように、前記ポリカルボン酸系分散剤は、セメント組成物又は該セメント組成物が用いられた硬化体の各種物性を所望のものとするための重要な性能を有するものである。これに対して本発明は、セメント組成物に残存する粉剤助剤の量が製造ロット間で安定化されているため、各種物性を調整すべく配合される前記ポリカルボン酸系分散剤の配合量も安定化され得る。従って、前記ポリカルボン酸系分散剤が含まれている本発明のセメント組成物は、分散性等が優れていると同時に、製造ロット間の物性の変動が抑制され得る。さらに付言するならば、セメント組成物等の物性に対して大きな影響を与えうる前記ポリカルボン酸系分散剤の配合量を製造ロット間で調整する必要性が低くなり、前記ポリカルボン酸系分散剤が含まれている本発明のセメント組成物は、結果として物性が安定し得る。
【0041】
前記ポリカルボン酸系分散剤は、分散剤としてだけでなく、例えば、AE剤(Air Entraining剤)、減水剤としても機能し得るものである。前記ポリカルボン酸系分散剤としては、通常は前記セメント組成物にごく少量配合され得る混和剤として知られているポリカルボン酸系高性能AE減水剤も挙げられる。該ポリカルボン酸系高性能AE減水剤は、ごく少量でも性能を発揮できるその性能ゆえに、通常、セメント組成物に対して1%未満の量で分散、空気泡混入、減水などの性能を発揮する反面、その量がわずかでも変動するとセメント組成物の物性等に大きな変化を与え得るものである。
【0042】
前記ポリカルボン酸系分散剤としては、例えば、オレフィンマレイン酸共重合物、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合物、アリルエーテルマレイン酸エステル系等のポリカルボン酸系化合物を含むものなどが挙げられる。また、ポリカルボン酸系化合物を含むものであれば、前述したような機能を有する分散剤として市販されているものでなくとも、例えば、高性能AE減水剤として各種市販されているもの(10〜30%の水溶液)も用いられ得る。
【0043】
前記ポリカルボン酸系分散剤の添加量は、特に限定されず、前記セメント組成物や該セメント組成物が硬化されたものを所望の物性とすべく適宜調整される。
【0044】
なお、前記ポリカルボン酸系分散剤は、通常、前記粉砕物が水などと混合されて前記セメント組成物が調製されるときに配合されるものである。
【0045】
本実施形態のセメント組成物は、従来公知の一般的な手段によって製造することができる。
【0046】
次に、本発明のセメント硬化体の一実施形態について説明する。本実施形態のセメント硬化体は、上記実施形態のセメントの製造方法で製造されたセメントが用いられている。好ましくは、ポリカルボン酸系分散剤が含まれている。該ポリカルボン酸系分散剤としては、上記記載のポリカルボン酸系分散剤が挙げられる。
【0047】
本実施形態のセメント硬化体としては、例えば、前記モルタル用組成物が硬化されてなるモルタル、前記コンクリート用組成物が硬化されてなるコンクリートなどが挙げられる。
【0048】
本実施形態のセメント硬化体は、従来公知の一般的な手段によって製造することができる。
【0049】
本発明は、上記例示のセメントの製造方法、セメント組成物、セメント硬化体に限定されるものではない。
また、一般のセメントの製造方法、セメント組成物、セメント硬化体において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(試験例1〜20)
普通ポルトランドセメントクリンカと、二水石膏と、粉砕助剤としてのジエチレングリコールとをボールミルに入れて粉砕し、粉砕工程を実施した。二水石膏の添加量は、セメントクリンカに対してSO3換算で2.0±0.2%とし、ジエチレングリコールの添加量は、セメントクリンカに対して0.02〜0.04%とした。なお、粉砕時の温度は120〜150℃とした。
次に、粉砕された粉砕物を180℃で1時間熱処理し、熱処理工程を実施した。
なお、粉砕物は、粉末度がブレーン比表面積で3300±200cm2/gに調整した。このようにして、ロット数20のセメント組成物(セメントクリンカ及び石膏の粉砕物と粉砕助剤とでなる)を製造した。
【0052】
(試験例21〜40)
熱処理工程において、120℃で1時間熱処理した点以外は、試験例1〜20と同様にしてセメント組成物を製造した。
【0053】
(試験例41〜60)
熱処理工程を実施しなかった点以外は、試験例1〜20と同様にしてセメント組成物を製造した。
【0054】
<粉砕助剤残存量の評価>
製造したセメントに対して加熱脱着処理を行うことにより粉砕助剤を熱分解することなく抽出物として抽出し、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析により粉砕助剤の残存量を測定した。測定方法の詳細は、以下の通りである。
<粉砕助剤残存量の評価(標準試料)>
普通ポルトランドセメントクリンカとジエチレングリコールと二水石膏とを上記試験例と同様にして粉砕して、粉砕物を調製した。ジエチレングリコールの量の異なる3試料を標準試料として調製した。
<粉砕助剤残存量の評価(装置)>
加熱脱着導入システム:Gerstel社製 TDSA2、TDS2、CIS4
GC/MS:Agilent社製 6890GC/5973MSD
*TDSA2は専用オートサンプラー
*TDS2は加熱脱着システム
*CIS4は冷却注入システム
<粉砕助剤残存量の評価(分析条件)>
(1)TDS2、CIS4条件
TDS2流量モード:スプリットレスモード
TDS2脱着温度:20℃(0.5分)→60℃/分→250℃(3分)
TDS2脱着流量:48ml/分
CIS4注入モード:スプリットレスモード
CIS4温度:−150℃(1分)→12℃/分→250℃(5分)
(2)GC(ガスクロマトグラフ)条件
キャピラリーカラム:HP−INNOWAX(長さ30m、内径0.25mm、
膜圧0.25μm)
キャリアガス流量:1.6ml/分(コンスタントフロー)
オーブン温度:70℃(1分)→20℃/分→180℃(0分)→10℃/分→
240℃(3分)
(3)MS(質量分析)条件
イオン化法:EI法、70eV
スキャン範囲:m/z=29〜550
トランスファーライン温度:240℃
イオン源温度:230℃
四重極温度:150℃
<粉砕助剤残存量の評価(定性分析および定量分析)>
得られた質量スペクトルから、ジエチレングリコールを同定した。また、標準試料を測定して得られたピーク面積の平均値から検量線を作成した。この検量線を用いてジエチレングリコールを定量した。
【0055】
<二水石膏の半水化率の評価>
示差走査熱量計により二水石膏の半水化率を測定した。測定方法の詳細は、以下の通りである。
試料容器としては直径0.5mmのピンホールを開けたアルミニウム製の密封容器を用い、試料としては35mg程度を秤量したセメントを用いた。水容器に40μLの水を入れ、昇温速度を5℃/分として測定を実施した。
二水石膏から半水石膏への脱水に伴う吸熱ピークと、半水石膏から無水石膏への脱水に伴う吸熱ピークとから、次式(1)を用いてセメント中の石膏の半水化率を求めた。
r=(H−G/3)/H×100・・・(1)
ここに、r:半水化率(%)
H:半水石膏から無水石膏への脱水ピーク(J/g)
G:二水石膏から半水石膏への脱水ピーク(J/g)
【0056】
<モルタルの配合と練り混ぜ方法>
試験例で製造したセメント組成物を用いた。砂として社団法人セメント協会が販売しているJIS標準砂を採用し、1バッチの練り混ぜにつき1350g(1袋)を用いた。水セメント比0.30、砂セメント比0.85とし、練り混ぜは、JIS R 5201に規定されているミキサーを使用して、20±2℃の実験室で行った。粉砕物と砂とを低速で30秒空練りした後に練り混ぜ水を加え、低速で120秒、高速で120秒練り混ぜた。なお、ポリカルボン酸系分散剤として、高性能AE減水剤である竹本油脂社製の「チューポールHP−8」(商品名)を用いた。ポリカルボン酸系分散剤の配合量は、次に述べる流動性の評価結果に応じて調整した。
【0057】
<流動性の評価>
所定のモルタルフロー(250±10mm)を得るために必要な高性能AE減水剤(ポリカルボン酸系分散剤)の添加量を測定した。
【0058】
<強度発現性の評価>
所定のモルタルフローに調整したモルタルについて、JIS R 5201に準じて強さ試験を行い、材齢1日におけるモルタルの圧縮強度を求めた。
【0059】
試験例1〜20、試験例21〜40、及び試験例41〜60について、粉砕助剤残存量、二水石膏の半水化率、高性能AE減水剤の必要添加量、及び、材齢1日の圧縮強度の結果をそれぞれ表1〜3に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表1〜表3から、粉砕物を熱処理する熱処理工程を実施した試験例1〜20及び試験例21〜40においては、試験例41〜60と比べて、セメントに含まれる前記粉砕助剤の量が製造ロット間で変動しにくく、かつ、セメントに含まれる半水石膏の割合が製造ロット間で変動しにくいことが認識できる。また、モルタル用組成物の流動性及びモルタルの強度が変動しにくく、安定していることが認識できる。このことから、特に試験例1〜20では、粉砕助剤が粉砕時に揮発して、ほとんどが残存しないために、モルタル用セメント組成物およびそのモルタル硬化体の物性が安定するものと考えられる。また、モルタル用セメント組成物に配合されるポリカルボン酸系分散剤の量も安定し、結果としてこのセメント組成物が用いられたモルタル硬化体の物性が安定するものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が250℃以下の粉砕助剤の存在下でセメントクリンカと石膏とを粉砕して粉砕物とする粉砕工程と、前記粉砕物を熱処理する熱処理工程とを実施することを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理の時間が30分以上であり、前記熱処理の温度が150〜200℃であることを特徴とする請求項1記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
前記粉砕助剤がエチレングリコール又はジエチレングリコールであることを特徴とする請求項1又は2記載のセメントの製造方法。
【請求項4】
前記セメントクリンカ100重量部に対する前記粉砕助剤の量が0.01〜0.06重量部であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のセメントの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の熱源としてセメント製造設備の排熱を利用することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のセメントの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のセメントの製造方法により製造されたセメントが用いられていることを特徴とするセメント組成物。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載のセメントの製造方法により製造されたセメントが用いられていることを特徴とするセメント硬化体。