説明

セメントクリンカー及びこれを用いた固化材

【課題】産業廃棄物、一般廃棄物等の廃棄物・副産物を原料として大量に使用したセメントクリンカーを用いた場合でも、改良地盤等からの6価クロムの溶出を低減できるとともに、改良地盤の強度発現性などの性能が低下せず、かつ製造原価の上昇を抑制することのできるセメントクリンカー及び固化材を提供する。
【解決手段】水硬率(H.M.)が2.20〜2.45、3CaO・SiO2含有量が61質量%以上、4CaO・Al2O3・Fe2O3含有量が6〜14質量%で、4CaO・Al2O3・Fe2O3のX線回折角(2θ)が12.1°のピークの半値幅が0.2°以上0.25°以下であり、かつブレーン比表面積3000〜4500cm2/gに粉砕した際のハンターLab表色系におけるb値が8.5以上であるセメントクリンカー、並びにこれを用いた固化材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化材(地盤改良材)等に使用された場合に、6価クロムの溶出を抑制することのできるセメントクリンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント産業においては、産業廃棄物、一般廃棄物等の廃棄物・副産物を原料として大量に使用したセメントクリンカーの開発が行われている(特許文献1)。
前記廃棄物・副産物には、クロムが含まれているものがあり、これらを原料としてセメントクリンカーを製造すると、得られるセメントクリンカー中に6価クロムが含まれることになる。このようなセメントクリンカーを粉砕して固化材として使用した場合、6価クロムが溶出し、水質汚染や土壌汚染等を引き起こす可能性がある。
【0003】
上記のようなセメントクリンカーを固化材等に使用する際、6価クロムの溶出量を低減する方法として、従来、セメントに、チオウレア系化合物等のキレート化合物、さらには硫酸塩類を含有させる方法(特許文献2)や、セメント系固化材に、石炭又は亜炭の粉末、さらには硫酸第一鉄等を混合する方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
しかしながら、このような6価クロムの溶出を低減する技術においては、以下に示す問題があった。
キレート化合物、硫酸第一鉄等の硫酸塩類や、石炭又は亜炭の粉末等を混合させる場合には、それらの材料の入手、所定量の添加及び専用サイロの手当て等に費用がかかるため、製造原価や流通経費が嵩むという問題が生じる。また、石炭又は亜炭の粉末を混入させた固化材を使用すると、一般に改良地盤の強度発現性が悪くなるという欠点がある。
【特許文献1】特開2004−352516号公報
【特許文献2】特開2002−60751号公報
【特許文献3】特開2001−139948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、産業廃棄物、一般廃棄物等の廃棄物・副産物を原料として大量に使用したセメントクリンカーを用いた場合でも、改良地盤等からの6価クロムの溶出を低減できるとともに、改良地盤の強度発現性などの性能が低下せず、かつ製造原価の上昇を抑制することのできるセメントクリンカー及び固化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意検討した結果、セメントクリンカーの水硬率(H.M.)や鉱物組成(3CaO・SiO2(以降、C3Sと称す)含有量、4CaO・Al2O3・Fe2O3(以降、C4AFと称す)含有量)、C4AFの特定のX線回折ピークの半値幅や粉砕物の色を規定することにより、廃棄物・副産物を原料として大量に使用した場合でも、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、水硬率(H.M.)が2.20〜2.45、3CaO・SiO2含有量が61質量%以上、4CaO・Al2O3・Fe2O3含有量が6〜14質量%で、4CaO・Al2O3・Fe2O3のX線回折角(2θ)が12.1°のピークの半値幅が0.2°以上0.25°以下であり、かつブレーン比表面積3000〜4500cm2/gに粉砕した際のハンターLab表色系におけるb値が8.5以上であることを特徴とするセメントクリンカーを提供するものである。
そして、前記セメントクリンカーにおいては、全クロム含有量が50〜150mg/kgで、全クロムに対する全6価クロムの割合が60質量%以下であることが好ましい。
また、本発明は、前記セメントクリンカーを用いた固化材を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメントクリンカーは、産業廃棄物、一般廃棄物等の廃棄物・副産物を原料として大量に使用しても、改良地盤等からの6価クロムの溶出を低減できるとともに、強度発現性などの性能低下を防止することができる。
また、本発明では、キレート化合物、硫酸第一鉄等の硫酸塩類、石炭又は亜炭の粉末や高炉スラグ粉末等の入手、所定量の添加及び専用サイロの手当て等が必要ないので、セメント製造原価の上昇を抑制することができる。
さらに、本発明のセメントクリンカーは、産業廃棄物、一般廃棄物等を原料として使用することができるので、廃棄物の有効利用の促進にも貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のセメントクリンカー及び固化材について説明する。
本発明のセメントクリンカーは、水硬率(H.M.)が2.20〜2.45のものである。水硬率(H.M.)が2.20未満では、改良地盤からの6価クロムの溶出を低減することが困難となる。また、改良地盤の強度発現性も低下する。水硬率(H.M.)が2.45を越えると、f-CaO含有量が増加する傾向にあり、セメントとしての性能が低下する。
なお、水硬率(H.M.)は、廃棄物の有効利用の促進、6価クロムの溶出低減や改良地盤の強度発現性等の観点から、2.25〜2.43が好ましく、2.30〜2.40がより好ましい。
【0010】
また、本発明のセメントクリンカーは、C3S含有量が61質量%以上、C4AF含有量が6〜14質量%のものである。ここで、セメントクリンカー中のC3S、C4AF含有量は、ボーグの式より算出した値である。C3S含有量が61質量%未満では、改良地盤からの6価クロムの溶出を土壌環境基準(0.05mg/l)以下に低減することが困難となる。また、改良地盤の強度発現性も低下する。C4AF含有量が6質量%未満では、クリンカリングが悪くなり、セメントクリンカーの製造が困難となる。C4AF含有量が14質量%を越えると、セメントクリンカーが溶融する可能性があり、セメントクリンカーの製造が困難となる。さらに、改良地盤からの6価クロムの溶出を土壌環境基準(0.05mg/l)以下に低減することが困難となるうえ、改良地盤の強度発現性も低下する。
なお、C3S含有量は、廃棄物の有効利用の促進、6価クロムの溶出低減や改良地盤の強度発現性等の観点から、62〜80質量%が好ましく、63〜78質量%がより好ましい。C4AF含有量は、セメントクリンカーの製造上の問題や、廃棄物の有効利用の促進、6価クロムの溶出低減や改良地盤の強度発現性等の観点から、7〜12質量%が好ましく、8〜10質量%がより好ましい。
【0011】
また、本発明のセメントクリンカーは、C4AFのX線回折角(2θ)が12.1°のピークの半値幅が0.2°以上0.25°以下のものである。本発明において、半値幅とは正式名称を半値全幅(Full Width Half Maximum)と言い、測定半値幅から装置の光学系に起因する広がりの係数(格子ひずみのない結晶子サイズの十分な大きさの標準試料の半値幅)を差し引いた値である。なお、半値幅は、セメントクリンカー粉砕物(ブレーン比表面積が3100〜3300cm2/gのもの)をサリチル酸−メタノール処理して、カルシウムシリケート相を除去した後、測定するものとする。試料についてはセメントクリンカーを測定することが好ましいが、セメントについても適用することが可能である。
上記半値幅が0.2°未満では、改良地盤からの6価クロムの溶出を低減することが困難となる。半値幅が0.25°を越えるものについては製造が困難である。
なお、C4AFのX線回折角(2θ)が12.1°のピークの半値幅は、セメントクリンカーの製造上の問題や、6価クロムの溶出低減や改良地盤の強度発現性等の観点から、0.2°以上0.23°以下が好ましい。
【0012】
また、本発明のセメントクリンカーは、ブレーン比表面積が3000〜4500cm2/gに粉砕した際のハンターLab表色系におけるb値が8.5以上のものである。該b値が8.5未満では、改良地盤からの6価クロムの溶出を低減することが困難となる。
なお、b値は、6価クロムの溶出低減等の観点から、8.6〜10.0が好ましく、8.7〜9.5がより好ましい。
【0013】
本発明のセメントクリンカーにおいては、6価クロムの溶出抑制や、産業廃棄物、一般廃棄物等の廃棄物・副産物の有効利用の促進の観点から、全クロム含有量が50〜150mg/kg(より好ましくは55〜140mg/kg、特に好ましくは60〜130mg/kg)で、全クロムに対する全6価クロムの割合が60質量%以下(より好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下)であることが好ましい。
全クロム含有量が50mg/kg未満のものは製造することが困難であり、また、産業廃棄物、一般廃棄物等の廃棄物・副産物の原料としての使用量が少なくなる。全クロム含有量が150mg/kgを越えると、改良地盤からの6価クロムの溶出を低減することが困難となる場合がある。
全クロムに対する全6価クロムの割合が60質量%を越えると、改良地盤からの6価クロムの溶出を低減することが困難となる場合がある。
なお、6価クロムの含有量は、JCAS I−51により規定された方法で測定された、注水後直ちに溶解する6価クロム量を指している場合が多いが、C3Sなどのクリンカー鉱物に固溶して、水と接してもすぐには溶出してこないが、セメントの水和が進むと溶出してくる6価クロムも存在する。そこで、本発明においては、注水後直ちに(10分以内)溶出する6価クロム(以降、水溶性6価クロムと称す)、水溶性6価クロムとクリンカー鉱物中に固溶している6価クロムをあわせて全6価クロムという。
【0014】
本発明のセメントクリンカーの製造方法を説明する。
本発明のセメントクリンカーは、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料として製造することができる。ここで、産業廃棄物としては、例えば、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等)、建設廃材、コンクリート廃材、ボーリング廃土、各種焼却灰(例えば、石炭灰、焼却飛灰、溶融飛灰等)、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰等が挙げられる。一般廃棄物としては、例えば、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。建設発生土としては、例えば、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土、さらに廃土壌等が挙げられる。
産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土以外の原料としては、一般のポルトランドセメントクリンカー原料、例えば、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料;珪石、粘土等のSiO2原料;粘土等のAl2O3原料;鉄滓、鉄ケーキ等のFe2O3原料を使用することができる。従って、例えば、廃棄物原料中にカルシウムが不足する場合には、その不足分を調整するために、石灰石等を混合して用いることができる。
なお、本発明においては、廃棄物の有効利用を促進する観点から、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上の原料を、セメントクリンカー1ton当たり、250〜700kg使用することが好ましい。
【0015】
本発明のセメントクリンカーは、上記のような産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上とそれ以外の原料を、目的とするセメントクリンカーが得られるような割合で混合した後、ロータリーキルンを用い(1)生成中(焼成中)のクリンカーと炎が直接接するように焼成する(以降、炎膜焼成と称する)、又は(2)可燃性物質共存下でクリンカーを焼成する、又は(3)可燃性物質共存下で、生成中(焼成中)のクリンカーと炎が直接接するように焼成した後、400℃以下になるまで40℃/min以上の冷却速度で冷却することにより、製造することができる。
【0016】
各原料を混合する方法は特に制限されず、慣用の装置等を用いて行うことができる。燃料は、主燃料である石炭の他、燃料代替廃棄物、例えば廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。
焼成温度は1300〜1500℃で焼成時間は10〜120分間であるのが好ましい。
【0017】
炎膜焼成によってロータリーキルンを用いて行う方法としては、キルンバーナーの角度を下向きにする、キルンバーナーを下部に設置する、あるいはキルンバーナーに加えて補助バーナーを設置する等の方法が挙げられる。
この場合、キルンバーナーの角度や設置位置、補助バーナーの角度、設置位置、燃料使用量を調整して、セメントクリンカーと炎の接する割合を変更することにより、水溶性6価クロムの含有量、全6価クロム量を調整することができる。すなわち、キルンバーナーの角度をより下向きにするほど焼成中のセメントクリンカーと炎の接触する割合は大きくなり、水溶性6価クロムの含有量、全6価クロム量は減少する。また、キルンバーナーの設置位置を下にするほどセメントクリンカーと炎の接触する割合は大きくなり、水溶性6価クロムの含有量、全6価クロム量は減少する。
【0018】
可燃性物質共存下でクリンカを焼成する方法としては、例えば、ロータリーキルン内に、可燃性物質(コークス、活性炭、廃木材、廃プラスチック、重油スラッジ、都市ゴミ等の廃棄物を圧縮・固形化した廃棄物固形塊等)を供給する方法等が挙げられる。可燃性物質は、ロータリーキルンの出口側あるいはロータリーキルンの途中から供給することが好ましく、また、ロータリーキルン用の主燃料に比べて燃焼速度の遅いもの、あるいは主燃料と同様の燃焼速度を有しかつ主燃料よりも粗い粒の可燃性物質を使用することが好ましい。
可燃性物質は、粒径が0.1〜20mmのものを使用するのが好ましい。可燃性物質の粒径が小さいと、焼成中の極初期で燃えきってしまうため、水溶性6価クロムの含有量を低減できず、改良地盤からの6価クロムの溶出を低減することが困難となる。一方、粒径が大きいとセメントクリンカー中に未燃焼状態の可燃性物質が多量に残存し、強度低下の原因になる場合がある。
可燃性物質は、セメントクリンカー1ton当たり50kgまで使用することができる。50kgまで吹き込めば、セメントクリンカー中の水溶性6価クロム量はほとんどゼロに近づき、それ以上吹き込んでも効果は変わらない。
なお、本発明においては、可燃性物質共存下で炎膜焼成を行うこともできる。
【0019】
焼成後、セメントクリンカーを400℃以下になるまで40℃/min以上の冷却速度で冷却する。400℃までの冷却速度が遅いと、セメントクリンカー中の3価クロムが、空気中の酸素により6価クロムに酸化されるので好ましくない。一方、セメントクリンカーの温度が400℃以下になると、セメントクリンカー中の3価クロムが空気中の酸素により6価クロムに酸化される可能性は極めて小さくなるので、400℃以下になるまでは40℃/min以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
なお、400℃以下まで冷却された後の焼成物の冷却速度は、特に限定するものではない。
【0020】
セメントクリンカーを40℃/min以上の冷却速度で冷却する方法としては、(1)エアークエンチングクーラーを使用して冷却する方法の他、(2)セメントクリンカーを水中に投入して冷却する方法やセメントクリンカーに散水して冷却する方法などが挙げられる。
ここで、エアークエンチングクーラーは、セメントクリンカーがクーラーグレート上を移動しており、この下部に、複数個の空気室があり、冷却空気がこれらの空気室からクーラーグレートの孔を通って供給されセメントクリンカーを冷却するもので、冷却空気量を調整することにより、セメントクリンカーを400℃以下になるまで40℃/min以上の冷却速度で冷却することが可能になる。
【0021】
本発明の固化材は、上記セメントクリンカーを用いたものであり、具体的には、早強ポルトランドセメントや、さらに石膏、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、珪石粉末や石灰石粉末を含むものも固化材として使用できる。
また、水硬率(H.M.)2.20〜2.45、ケイ酸率(S.M.)1.3〜2.3、鉄率(I.M.)1.3〜2.8に調整したセメントクリンカー粉砕物と石膏を含むセメントや、さらに高炉スラグ粉末、フライアッシュ、珪石粉末、石灰石粉末を含むものも固化材として使用できる。
本発明の固化材においては、改良地盤の強度発現性等から、石膏をセメントクリンカー粉砕物100質量部に対してSO3換算で2〜15質量部(より好ましくは3〜13質量部)含むことが好ましい。石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏やこれらの混合物を用いることができる。
【0022】
本発明において、固化材のブレーン比表面積は、改良地盤の強度発現性や耐久性、さらには固化材のコスト等から、2500〜5000cm2/g(より好ましくは3000〜4500cm2/g)であることが好ましい。
固化材の製造は、上記セメントクリンカーを粉砕し石膏を添加するか、又はセメントクリンカーと石膏を同時に粉砕して製造することができる。高炉スラグ粉末、フライアッシュ、珪石粉末や石灰石粉末を使用する場合は、前記固化材にさらにこれらの粉末を添加混合すれば良い。
【0023】
本発明の固化材の添加量は、対象土の性状や施工条件、固化処理した土の要求強度にもよるが、一般には、対象土1m3当り50〜350kgが好ましく、100〜300kgがより好ましい。
本発明の固化材の使用方法は、1)対象土に固化材を粉体のまま添加・混合するドライ添加と、2)水を加えてスラリーとして添加・混合するスラリー添加、が可能である。2)のスラリー添加の場合の水/固化材(質量)比は、0.5〜1.5が好ましく、0.6〜1.0がより好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら制限されるものではない。
【0025】
実施例1(セメントクリンカーの製造)
表1に示す化学組成の石灰石、珪石、建設発生土、石炭灰、鉄原料(リサイクル品)を原料として、表2に示す水硬率、鉱物組成、全6価クロム・全クロム含有量のセメントクリンカーを製造した。
なお、焼成は、ロータリーキルンを用いて、以下の方法で焼成した。
(1)キルンバーナーに加えて補助バーナーを用いることによって炎膜焼成する。
(2)ロータリーキルン内に、可燃性物質(粒径1.6mmの石炭コークス)をクリンカー出口か らクリンカー1ton当たり30kg供給して、可燃性物質共存下で焼成する
(3)キルンバーナーに加えて補助バーナーを用い、さらに可燃性物質共存下(可燃性物質の 種類と供給量は前記(2)と同じ)で炎膜焼成する。
(4)通常のキルンバーナーのみを用いて通常の焼成(ロータリーキルン内に可燃性物質を供 給せず)を行う。
また、セメントクリンカーの冷却は、以下の方法で行った。
(a)セメントクリンカーを水中に投入して冷却する。
(b)エアークエンチングクーラーの冷却空気量を調整して、セメントクリンカー温度が350 ℃になるまでは50℃/minの冷却速度で冷却する。
(c)エアークエンチングクーラーの冷却空気量を調整して、セメントクリンカー温度が350 ℃になるまでは30℃/minの冷却速度で冷却する。
各セメントクリンカーの焼成条件及び冷却条件を表2に併記する。なお、セメントクリンカーの焼成温度は1350〜1500℃で行った。
【0026】
また、各セメントクリンカーのC4AFのX線回折角(2θ)が12.1°のピークの半値幅及びハンターLab表色系におけるb値を表2に併記する。
なお、本発明において、C4AFのX線回折ピークの半値幅は、各セメントクリンカーを粉砕後(ブレーン比表面積3200cm2/g)、サリチル酸−メタノール処理して、カルシウムシリケート相を除去した後測定した。XRDチャートの測定にはブルカーAXS社製D8(18kW、高速検出器付き)を使用し)を使用し、解析ソフトにDIFFRAC EVAを用いた。b値は、分光色差計(日本電色(株)社製・ CP6R−2000DP型)を使用して測定した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
実施例2(固化材の製造)
実施例1で得られた各セメントクリンカー100質量部に、無水石膏(ブレーン比表面積4000cm2/g)を10質量部混合し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が3400±50cm2/gとなるように同時粉砕して、固化材を製造した。
各固化材を関東ローム(含水比100%)に260kg/m3添加した。材齢7日の改良地盤からの6価クロムの溶出量を環境省告示46号法に準拠して測定した。また、材齢7日の改良地盤の一軸圧縮強度を地盤工学会の試験方法(JGS 0511−2000)に準拠して測定した。
結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、本発明で規定するセメントクリンカー(No.1、4、5、6、7、11、12、13、14)を使用した固化材では、改良地盤からの6価クロムの溶出量が少なく、クリンカー中の全クロム量が多い場合であっても改良地盤からの6価クロムの溶出量を0.05(mg/l)以下とすることができる。また、改良地盤の強度発現性も良好である。
一方、本発明で規定する以外のセメントクリンカー(No.2、3、8、9、10、15、16、17)を使用した固化材では、改良地盤からの6価クロムの溶出量が多く、クリンカー中の全クロム量が少ない場合であっても、改良地盤からの6価クロムの溶出量を0.05(mg/l)以下にすることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬率(H.M.)が2.20〜2.45、3CaO・SiO2含有量が61質量%以上、4CaO・Al2O3・Fe2O3含有量が6〜14質量%で、4CaO・Al2O3・Fe2O3のX線回折角(2θ)が12.1°のピークの半値幅が0.2°以上0.25°以下であり、かつブレーン比表面積3000〜4500cm2/gに粉砕した際のハンターLab表色系におけるb値が8.5以上であることを特徴とするセメントクリンカー。
【請求項2】
全クロム含有量が50〜150mg/kgで、全クロムに対する全6価クロムの割合が60質量%以下である請求項1記載のセメントクリンカー。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のセメントクリンカーを用いた固化材。

【公開番号】特開2010−64905(P2010−64905A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230366(P2008−230366)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】