説明

セメント向け高炉水砕スラグの選別方法及びセメント組成物の製造方法

【課題】高炉で得られた高炉水砕スラグのなかから、高い活性度指数のセメントが得られるスラグを精度よく選別する。
【解決手段】高炉水砕スラグ中のMnO含有率が低いほどセメントの活性度指数が高くなることを見出しなされたもので、高炉で得られた高炉水砕スラグから活性度指数が高いセメント向けスラグを選別するに際し、スラグ中MnO含有率が低いほど活性度指数が高くなり、好ましくはそれに加えて、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]が高いほど活性度指数が高くなる品質指標を選別基準に用いて、セメント向けスラグを選別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉で得られた高炉水砕スラグからセメント向けスラグを選別するための方法及びこの選別方法を利用したセメント組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント原料として、高炉水砕スラグが広く利用されている。従来、セメント原料に供する高炉水砕スラグは、セメントの品質管理上その塩基度がある一定以上でなければならないとされており、セメント向け高炉水砕スラグの選別は、JISに定められたスラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO](以下、単に「塩基度」という)を指標として行われている。従来、セメント向けの高炉水砕スラグの塩基度を高めるための技術として、例えば、特許文献1などが提案されている。
【特許文献1】特開平8−337448号公報
【0003】
ところで、高炉水砕スラグをセメント原料とする場合、セメントの品質面での重要な要素は、活性度指数が十分に高いことである。この活性度指数とは、モルタル試験により、高炉水砕スラグ(微粉末)と普通ポルトランドセメントを1:1で配合した高炉セメントの圧縮強度A(N/mm)と、普通ポルトランドセメントの圧縮強度B(N/mm)をそれぞれ測定し、その測定値に基づき下式で算出されるものである。この活性度指数が大きいほど、高炉水砕スラグはセメント向けとして好適なものであると言える。
活性度指数(%)=(A/B)×100
このため従来では、塩基度を指標としてセメント向け高炉水砕スラグを選別する場合、規格となる高炉セメントの活性度指数の下限値を用いて、塩基度の下限値を決めている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らが調査したところでは、モルタル材齢7日、28日の活性度指数との関係では、高炉水砕スラグの塩基度は各高炉毎にある程度は整理できるもののばらつきが大きく、異なる高炉で製造される高炉水砕スラグを比較評価できるものではなかった。また、同一の塩基度でも、製造される高炉が異なると活性度指数は異なっていた。
また、活性度の阻害成分であるTiO濃度の影響を考慮した塩基度指標が用いられることもあるが、このような塩基度指標を用いたとしても若干相関が良くなる程度であった。
【0005】
以上のように、塩基度に基づいてセメント向け高炉水砕スラグを選別する場合、高炉水砕スラグの塩基度と高炉セメントの活性度指数との相関はばらつきが大きいため、塩基度の下限が高めに設定されており、このため活性度指数は十分高いにもかかわらず、セメント向けには不合格と判定される高炉水砕スラグは相当量あり、セメント向け高炉水砕スラグの歩留まりを悪くしていた。
このような問題に対して、高炉セメントの活性度を塩基度よりも精度よく推定できる品質指標を用いて選別を行うことができれば、セメント向け高炉水砕スラグの歩留まりを向上できるが、従来、そのような品質指標や選別方法は知られていない。
【0006】
したがって本発明の目的は、高炉で得られた高炉水砕スラグのなかから、高い活性度指数のセメントが得られるスラグを精度よく選別することができる選別方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような選別方法を利用したセメント組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高炉水砕スラグの製造条件、性状及び化学組成と高炉水砕スラグを用いたセメントの活性度指数との関係を調査・検討した。その結果、高炉水砕スラグを用いたセメントの活性度指数は、スラグの製造条件や性状とはほとんど関係がなく、一方において、その活性度指数はスラグ中のMnO含有率と最も相関が高いこと、具体的にはスラグ中MnO含有率が低いほど活性度指数が高くなる傾向があることが判った。したがって、スラグ中MnO含有率が低いほど指標値が高くなる品質指標(活性度指数の指標となる品質指標)を選別基準に用いて、セメント向けスラグを選別することにより、高い活性度指数の高炉セメントが得られる高炉水砕スラグを精度よく選別できることが判った。
【0008】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]高炉で得られた高炉水砕スラグから活性度指数が高いセメント向けスラグを選別するに際し、活性度指数の指標となる品質指標であって、スラグ中MnO含有率が低いほど指標値が高くなる品質指標を選別基準に用いて、セメント向けスラグを選別することを特徴とする、セメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
[2]上記[1]の選別方法において、選別基準に用いる品質指標は、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]が高いほど指標値が高くなる品質指標であることを特徴とする、セメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
【0009】
[3]上記[2]の選別方法において、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]とスラグ中MnO含有率[MnO](mass%)に基づいて下記(1A)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別することを特徴とする、セメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO …(1A)
但し α:0.7〜1.3
【0010】
[4]上記[2]の選別方法において、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]と、スラグ中MnO含有率[MnO](mass%)と、スラグ中TiO含有率[TiO](mass%)に基づいて下記(1B)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別することを特徴とする、セメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO−β×TiO …(1B)
但し α:0.7〜1.3
β:0.05〜0.5
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの選別方法において、スラグ中MnO含有率が0.7mass%以下であることを特徴とする、セメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
【0011】
[6]スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]とスラグ中MnO含有率[MnO](mass%)に基づいて下記(1A)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別し、該選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO …(1A)
但し α:0.7〜1.3
【0012】
[7]スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]と、スラグ中MnO含有率[MnO](mass%)と、スラグ中TiO含有率[TiO](mass%)に基づいて下記(1B)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別し、該選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO−β×TiO …(1B)
但し α:0.7〜1.3
β:0.05〜0.5
[8]上記[6]又は[7]の製造方法において、スラグ中MnO含有率が0.7mass%以下であることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセメント向け高炉水砕スラグの選別方法によれば、活性度指数の指標となる品質指標であって、スラグ中MnO含有率が低いほど指標値が高くなる品質指標を選別基準に用いることにより、高炉で得られた高炉水砕スラグのなかから、高い活性度指数のセメントが得られるスラグを精度よく選別することができる。このため、セメント向け高炉水砕スラグの歩留まりを従来に較べて大きく向上させることができる。
また、本発明のセメント組成物の製造方法によれば、高炉で得られた高炉水砕スラグのなかから、高い活性度指数のセメントが得られるスラグを精度よく選別し、高品質のセメント組成物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のセメント向け高炉水砕スラグの選別方法は、高炉で得られた高炉水砕スラグから活性度指数が高いセメント向けスラグを選別するに際し、活性度指数の指標となる品質指標であって、スラグ中MnO含有率が低いほど指標値が高くなる品質指標を選別基準に用いて、セメント向けスラグを選別するものである。
一般に、高炉水砕スラグには、原料鉱石や副原料由来のMnOが不可避的に0.7mass%以下程度の含有率で含まれている。本発明では、このように高炉水砕スラグ中にごく少量含まれるMnOの含有率がセメントとした場合の活性度指数と高い相関を有し、スラグ中MnO含有率が低いほどセメントの活性度指数が高くなることを見出したものである。
【0015】
本発明で選別基準として用いる品質指標は、スラグ中MnO含有率が低いほど指標値が高くなる指標であればよいが、そのなかでも、さらにスラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO](以下、単に「塩基度」という)が高いほど指標値が高くなる指標であることが好ましい。さきに述べたように、スラグの塩基度自体は活性度指数との相関がそれほど高くないが、本発明者らが検討したところによれば、品質指標をMnO含有率だけでなく塩基度を考慮したものとすることにより、活性度指数との相関がより高くなることが判った。
また、高炉水砕スラグ中のMnOは高炉原料から不可避的に混入する成分であるため実質的に濃度調整ができないのに対して、高炉操業上の制約はあるものの、スラグの塩基度は、石灰石やドロマイトを焼結工程で配合したり、高炉の炉頂から投入することによりある程度調整可能な条件であり、したがって、活性度指数の操作因子となり得るため、品質指標にスラグの塩基度を加味することはこの面でも有利である。
【0016】
また、本発明のより具体的な選別方法では、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]とスラグ中MnO含有率[MnO](mass%)に基づいて下記(1A)式により求められる品質指標Bmを用い、この品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別する。これにより、高い活性度指数のセメントが得られるスラグを特に精度よく選別することができる。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO …(1A)
但し α:0.7〜1.3
【0017】
また、スラグ中のTiOは活性度の阻害成分であることから、さらにTiO含有率を考慮した品質指標を用いれば、活性度指数との相関をより高めることができる。すなわち、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]と、スラグ中MnO含有率[MnO](mass%)と、スラグ中TiO含有率[TiO](mass%)に基づいて下記(1B)式により求められる品質指標Bmを用い、この品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別することが好ましい。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO−β×TiO …(1B)
但し α:0.7〜1.3
β:0.05〜0.5
なお、この品質指標Bmは、TiO含有率が比較的高いスラグ(例えば、TiO含有率:1mass%以上)をセメント向けに選別する場合に、特に有効である。
【0018】
前記(1A)式及び(1B)式における係数αは、セメント原料として用いる際に高炉水砕スラグに対して混合するポルトランドセメント(クリンカー+せっこう)の水和特性に応じて決められる。MnOはセメントの水和反応阻害物質として働くが、高炉水砕スラグと混合するポルトランドセメントの水和特性により、MnOの水和反応に対する影響の大小が若干異なるからである。このため係数αは、混合するポルトランドセメントの水和特性に応じ、0.7〜1.3の範囲において活性度指数のばらつきが最も小さくなるような値に設定される。
【0019】
また、前記(1B)式における係数βも、セメント原料として用いる際に高炉水砕スラグに対して混合するポルトランドセメント(クリンカー+せっこう)の水和特性に応じて決められる。TiOもMnOと同様にセメントの水和反応阻害物質として働くため、高炉水砕スラグと混合するポルトランドセメントの水和特性により、TiOの水和反応に対する影響の大小が若干異なる。但し、TiOの水和反応への影響はMnOよりも小さく、このため係数βは、混合するポルトランドセメントの水和特性に応じ、0.05〜0.5の範囲において活性度指数のばらつきが最も小さくなるような値に設定される。
前記品質指標Bm、品質指標Bmの下限値は、規定される活性度指数の下限値(活性度指数の最低保証値)に応じて決められる。
【0020】
以下、本発明に関して行った試験結果について説明する。
出銑毎に管理された高炉水砕スラグを微粉末製造工場のミルで粉砕して高炉水砕スラグ微粉末とし、この各高炉水砕スラグ微粉末を用いたセメントの活性度指数(材齢7日、材齢28日)を測定した。そして、この活性度指数と高炉水砕スラグ微粉末の塩基度、MnO含有率及び本発明で用いる品質指標Bm(Bm、Bm)との相関を調べた。
【0021】
使用した高炉水砕スラグが得られた高炉の操業条件、スラグの水砕条件は、以下のとおりである。
・溶銑製造量:1.1〜1.2万t/日
・スラグ比:290〜300kg/t
・溶銑温度:1485〜1525℃
・吹製水温度:58〜80℃
・水砕中の水/スラグ:9〜25
出銑毎に400〜500t発生する高炉水砕スラグを取り分けて管理し、微粉末製造工場へ運搬した。この微粉末製造工場では、高炉水砕スラグを粉砕能力50t/Hの竪型ローラーミルを用い、目標ブレーン値:4350±100cm/gとして粉砕処理した。同一出銑の高炉水砕スラグから「せっこう無添加」と「せっこう4mass%添加」の2種類の高炉水砕スラグ微粉末を製造した。
【0022】
表1に各高炉水砕スラグの成分組成を、また、表2に各高炉水砕スラグ微粉末の塩基度、MnO含有率、TiO含有率、本発明で用いる品質指標Bm(Bm、Bm)及び活性度指数(材齢7日、材齢28日)を示す。なお、表2のMnO含有率、TiO含有率は、表1に示したスラグ組成としての含有率である。
活性度指数の評価は、JIS A 6206:1997「コンクリート用高炉スラグ微粉末」の付属書に記載されている「高炉スラグ微粉末のモルタルによる活性度指数およびフロー値比の試験方法」に準拠して行った。
品質指標Bmについては、α=1.0とする下記(1A)式で求めた。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−1.0×MnO …(1A)
また、品質指標Bmについては、α=1.0、β=0.13とする下記(1B)式で求めた。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−1.0×MnO−0.13×TiO …(1B)
この試験において混合したポルトランドセメントでは、α=1.0、β=0.13が活性度指数のばらつきが最も小さくなる最適値であった。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
図1(a),(b)は、表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数を塩基度で整理して示したものである。これによれば、塩基度と活性度指数との間には大概の相関は認められるが、同一塩基度でも活性度指数のばらつきは、せっこう無添加の場合には材齢7日で12.7%、材齢28日で9.0%、せっこう添加の場合には材齢7日で11.5%、材齢28日で11.1%であり、いずれも10%を超える大きなばらつきがある。また、スラグの塩基度が低くても高塩基度の場合と同程度の活性度指数となる場合もあり、スラグの塩基度と活性度指数の相関は必ずしも明確ではない。
なお、活性度指数のばらつきは、以下のように定義した。各品質指標と活性度指数のデータから、回帰分析により直線回帰式を求める。例えば、図1(a)では、材齢7日、材齢28日それぞれのプロットの中心を通る太線が直線回帰式となる。この直線回帰式から上下に最も離れた活性度指数を示す点を通る回帰直線と平行な直線を引き、その2直線の間の活性度指数の差を“ばらつき”とした。これは図2〜図4についても同様である。
【0026】
図2(a),(b)は、表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数をMnO含有率で整理して示したものである。これによれば、図1の塩基度の場合に較べ、MnO含有率と活性度指数との相関はかなりはっきりしている。すなわち、MnO含有率が低いほど活性度指数が高いという相関が認められる。この結果から、MnO含有率が低いほど活性度指数が高くなる品質指標を選別基準に用いれば、セメント向けスラグを高精度に選別できることが判る。また、図1の結果を考慮すると、品質指標にMnO含有率だけでなくスラグの塩基度を加えることにより、活性度指数との相関がより高くなることも判る。
【0027】
図3(a),(b)は、表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数を品質指標Bmで整理して示したものである。これによれば、品質指標Bmと活性度指数の関係は明確であり、品質指標Bmが高いほど活性度指数が高く、同一品質指標Bmにおける活性度指数のばらつきは、せっこう無添加の場合には材齢7日で4.9%、材齢28日で5.3%、せっこう添加の場合には材齢7日で6.4%、材齢28日で9.0%であり、いずれも塩基度でのばらつきの4〜8割程度と小さい。したがって、この品質指標Bmによりセメントの活性度指数が精度よく推定でき、高い活性度指数のセメントが得られるスラグを精度よく選別できることが判る。
【0028】
さらに、図4(a),(b)は、表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数を品質指標Bmで整理して示したものである。これによれば、活性度指数との相関はさらに高まり、同一品質指標Bmにおける活性度指数のばらつきは、せっこう無添加の場合には材齢7日で4.9%、材齢28日で5.5%、せっこう添加の場合には材齢7日で6.1%、材齢28日で9.4%であり、せっこう無添加の場合はBmと同様にばらつきは小さくなる。したがって、この品質指標Bmによれば活性度指数をより精度よく推定でき、高い活性度指数のセメントが得られるスラグをさらに精度よく選別できることが判る。
【0029】
ここで、例えば、活性度指数の下限値(最低保証値)を、「せっこう無添加」の場合に材齢7日活性度≧60%、材齢28日活性度≧85%、「せっこう4mass%添加」の場合に材齢7日活性度≧65%、材齢28日活性度≧85%とすると、各品質指標を用いてスラグ選別を行った場合の歩留まりは次のようになる。
すなわち、図1に示す塩基度を品質指標とする場合は、材齢7日の方が材齢28日の場合よりも高い塩基度で活性度指数の下限値未満となるため、材齢7日の活性度指数から塩基度の下限値が決まる。図1から、塩基度の下限値は、せっこう無添加、せっこう添加ともに1.85となる。この場合、測定例18点から歩留まりを計算すると、せっこう無添加では72%、せっこう添加では67%となる。
【0030】
これに対して、図3に示す品質指標Bmを用いる本発明法の場合には、Bmの下限値は、せっこう無添加では1.41、せっこう添加では1.42となる。この場合、測定例18点から歩留まりを計算すると、せっこう無添加、せっこう添加のいずれの場合も89%となる。
また、図4に示す品質指標Bmを用いる本発明法の場合には、Bmの下限値は、せっこう無添加では1.32、せっこう添加では1.34となる。この場合、測定例18点から歩留まりを計算すると、せっこう無添加、せっこう添加のいずれの場合も89%となる。
以上のように、本発明法によれば、活性度指数を精度よく推定してスラグを選別できることから、これまで活性度指数が十分高いにも関らず不合格品と判定されていた高炉水砕スラグを合格品として選別することができ、セメント向け高炉水砕スラグの歩留まりを従来法(塩基度を指標する選別法)に較べて大幅に向上させることができる。
【0031】
次に、品質指標Bm、Bmを求めるための(1A)式、(1B)式の係数α,βについて、それらの好適範囲を調べた結果を示す。
表1の高炉水砕スラグを用い、品質指標Bm、Bmの係数α、βを種々変えて、活性度指数のばらつきと歩留まりを調べた。表3に、品質指標Bm、Bmに用いた係数α,β、活性度指数のばらつき、各品質指標の許容下限値、その下限値に設定した場合の歩留まりを示す。なお、各品質指標の許容下限値は、どのケースでも材齢28日よりも材齢7日の方が大きくなったため、材齢7日の値を採用した。
表3によれば、品質指標Bmにおいてα:0.7〜1.3、品質指標Bmにおいてα:0.7〜1.3、β:0.05〜0.5とすることにより、材齢7日、材齢28日のいずれにおいても、活性度指数のばらつきが小さく、高い歩留まりが得られている。
【0032】
【表3】

【0033】
次に、以上述べた選別方法を利用したセメント組成物の製造方法について、説明する。
このセメント組成物の製造方法では、さきに述べたような品質指標Bm又は品質指標Bmを用いた選別方法によりセメント向けスラグを選別し、この選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合することによりセメント組成物を製造するものである。すなわち、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]とスラグ中MnO含有率[MnO](mass%)に基づいて下記(1A)式により求められる品質指標Bmを用い、この品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別し、この選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合することでセメント組成物を製造するものである。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO …(1A)
但し α:0.7〜1.3
【0034】
また、好ましくは、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]と、スラグ中MnO含有率[MnO](mass%)と、スラグ中TiO含有率[TiO](mass%)に基づいて下記(1B)式により求められる品質指標Bmを用い、この品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別し、この選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合することでセメント組成物を製造するものである。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO−β×TiO …(1B)
但し α:0.7〜1.3
β:0.05〜0.5
【0035】
ここで、選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合してセメント組成物を得る場合の粉砕、混合の手順は任意であり、例えば、スラグにクリンカーとせっこうを加えて混合粉砕してもよいし、スラグ、クリンカー及びせっこうを別々に若しくは適宜組み合わせて粉砕した後、それらを混合するようにしてもよい。
このようなセメント組成物の製造方法に適用する高炉水砕スラグの選別方法の内容はさきに述べたとおりであり、高い活性度指数のセメントが得られるスラグを精度よく選別できることから、高品質のセメント組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数を塩基度で整理して示したグラフ
【図2】表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数をMnO含有率で整理して示したグラフ
【図3】表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数を品質指標Bmで整理して示したグラフ
【図4】表2に示す各高炉水砕スラグ微粉末について、活性度指数を品質指標Bmで整理して示したグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉で得られた高炉水砕スラグから活性度指数が高いセメント向けスラグを選別するに際し、活性度指数の指標となる品質指標であって、スラグ中MnO含有率が低いほど指標値が高くなる品質指標を選別基準に用いて、セメント向けスラグを選別することを特徴とする、セメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
【請求項2】
選別基準に用いる品質指標は、スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]が高いほど指標値が高くなる品質指標であることを特徴とする、請求項1に記載のセメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
【請求項3】
スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]とスラグ中MnO含有率[MnO](mass%)に基づいて下記(1A)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別することを特徴とする、請求項2に記載のセメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO …(1A)
但し α:0.7〜1.3
【請求項4】
スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]と、スラグ中MnO含有率[MnO](mass%)と、スラグ中TiO含有率[TiO](mass%)に基づいて下記(1B)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別することを特徴とする、請求項2に記載のセメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO−β×TiO …(1B)
但し α:0.7〜1.3
β:0.05〜0.5
【請求項5】
スラグ中MnO含有率が0.7mass%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のセメント向け高炉水砕スラグの選別方法。
【請求項6】
スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]とスラグ中MnO含有率[MnO](mass%)に基づいて下記(1A)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別し、該選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO …(1A)
但し α:0.7〜1.3
【請求項7】
スラグの塩基度[(CaO+AlO+MgO)/SiO]と、スラグ中MnO含有率[MnO](mass%)と、スラグ中TiO含有率[TiO](mass%)に基づいて下記(1B)式により求められる品質指標Bmを用い、該品質指標Bmの下限値を設定してセメント向けスラグを選別し、該選別されたスラグとクリンカー及びせっこうを混合することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
Bm=(CaO+AlO+MgO)/SiO−α×MnO−β×TiO …(1B)
但し α:0.7〜1.3
β:0.05〜0.5
【請求項8】
スラグ中MnO含有率が0.7mass%以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載のセメント組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247715(P2008−247715A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94665(P2007−94665)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(302060993)千葉リバーメント株式会社 (2)
【Fターム(参考)】