説明

セメント混和剤、セメント組成物及びモルタル硬化体材料

【課題】モルタルその他のセメント組成物において、紙繊維をエノール化する過程で副生する残渣物を細骨材組成の一部として配合し、新たな軽量化建築用材その他の実用材料を提供する。
【解決手段】セメント混和剤であって、細骨材100重量部のうち5〜20重量部の割合で紙繊維のエタノール化処理残渣物を配合してなるものである。ここで、紙繊維のエタノール化処理残渣物は、裁断紙その他の古紙由来の紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生した未反応固形残渣物であって、セルロースおよび/またはヘミセルロースからなるものである。また、このセメント混和剤を配合したモルタルその他のセメント組成物、及び気中養生又は水中養生により硬化させたモルタル硬化体材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和剤、セメント組成物及びモルタル硬化体材料に係り、詳しくは、紙繊維のエタノール化処理残渣物を含有するセメント混和剤、及び該セメント混和剤を配合したセメント組成物、並びにこれらをモルタルの配合条件に適用して硬化させたモルタル硬化体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維状体(植物由来の繊維を含む)をセメント混和剤として配合したセメント組成物及びその硬化体が知られている(特許文献1〜4を参照)。
【0003】
ここでは、概してフレッシュ性状での流動性や硬化性状での曲げ強度特性の改善を目的としている。
【0004】
また、製紙過程で副生するペーパースラッジを軽量骨材とする外壁パネルが提案されている(特許文献5を参照)。ペーパースラッジはセルロース質を多量に含有するが、自然水(非処理水)を利用するため細菌付着に起因する悪臭の発生という問題がある。
【0005】
さらに、微生物由来のセルロース(誘導体)を用いてセメント組成物の性状(特にブリーディングの抑制や強度特性)を改善しようとするものがある(特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−314199号公報
【特許文献2】特開2004−75409号公報
【特許文献3】特開2001−192253号公報
【特許文献4】特開平7−187738号公報
【特許文献5】特開平9−100614号公報
【特許文献6】特開2000−103661号公報
【0007】
こうしたなかで、本発明者らは、裁断紙エタノール化後に出る残渣物を細骨材として利用して、少なくとも建設用材として適用可能なセメント混和剤及びセメント組成物並びにモルタル硬化体材料の研究・開発を進めてきた。残渣物の添加・混入に関しては、モルタルの配合条件が核心となるので、以下、この種のモルタルを残渣モルタルという。
【0008】
すなわち、残渣物を普通モルタルに混入して残渣モルタルを作製し、モルタル中のセメントペーストを介して、ある程度の強度を持つ残渣モルタル硬化体に生まれ変わらせることができると構想してきた。
【0009】
これを実証するために、残渣モルタル硬化体の力学的特性を試験し、建築用材としての適用可能性を検討した。少なくとも建築用材としての力学的特性が確認できれば、その特性に応じた製品に応用できるからである。例えば、その軽量性から利用先としてブロックなどの成型製品とすることが有望である。ここで建築用材としての適用可能性は、一つは建築構造材として、もう一つは非構造材で内装材としてである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明が解決しようとする課題は、残渣モルタルの配合条件等を見出し、フレッシュ状態及び硬化状態での性状(物性を含む)を検証することにより、少なくとも建築用材として適用可能な材料開発に根拠を与えることである。
【0011】
本発明は、後述の実験的事実により得られた知見及び成果に基づき、本発明を完成するに至ったものであって、紙繊維のエタノール化処理残渣物を含有するセメント混和剤、及び該セメント混和剤を配合したセメント組成物、並びにこれらをモルタルの配合条件に適用して硬化させたモルタル硬化体材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題を解決するために第1の発明は、セメント混和剤であって、細骨材100重量部のうち5〜20重量部の割合で配合され、紙繊維のエタノール化処理残渣物からなることを特徴とするものである。
【0013】
第2の発明は、モルタルその他のセメント組成物であって、細骨材100重量部のうち、紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生する未反応固形残渣物を5〜20重量部配合してなることを特徴とするものである。
【0014】
第3の発明は、モルタル硬化体材料であって、標準的なモルタル配合における細骨材100重量部のうち、紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生する未反応固形残渣物を5〜20重量部配合し、混練り後、気中養生又は水中養生してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
後述の各実施例において確認されるように、本発明は、残渣物の細骨材への配合において適切な残渣物重量比を調整することにより、少なくとも建築用構造材又は建築用非構造材として選択的に使用可能な力学的特性を獲得することができるので、新たな実用材の開発に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における水中養生(●▲)による残渣物重量比とフロー値の関係を示すデータプロットである。
【図2】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と密度の関係を示すデータプロットである。
【図3】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と曲げ強度の関係を示すデータプロットである。
【図4】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と圧縮強度の関係を示すデータプロットである。
【図5】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と最大曲げ歪量の関係を示すデータプロットである。
【図6】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と最大圧縮歪量の関係を示すデータプロットである。
【図7】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による曲げ強度と最大曲げ歪量の関係を示すデータプロットである。
【図8】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による圧縮強度と最大圧縮歪量の関係を示すデータプロットである。
【図9】糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比とヤング係数の関係を示すデータプロットである。
【図10】残渣物重量比とフロー値の関係を示すデータプロットである。
【図11】糖化後(*1)における養生比較による残渣物重量比と密度の関係を示すデータプロットである。
【図12】糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と密度の関係を示すデータプロットである。
【図13】糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と試験体の重量軽減比の関係を示すデータプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の本発明の実施形態は、上記のセメント混和剤において、紙繊維のエタノール化処理残渣物が、裁断紙その他の古紙由来の紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生する未反応固形残渣物であって、セルロースおよび/またはヘミセルロースからなるものである。
【0018】
第2の本発明の実施形態は、上記のセメント組成物において、紙繊維が裁断紙その他の古紙由来のものであり、未反応固形残渣物がセルロースおよび/またはヘミセルロースである。
【0019】
第3の本発明の実施形態は、上記のモルタル硬化体材料において、紙繊維が裁断紙その他の古紙由来のものであり、未反応固形残渣物がセルロースおよび/またはヘミセルロースである。
【実施例】
【0020】
本発明の各実施例を実験的事実に基づき以下に説明する。当然のことながら、本発明の保護範囲を逸脱しない限り、実施例材料に何ら限定されるものではない。
【0021】
1.実験目的
水セメント比(C/W) 60%、セメントと砂を1:2の割合で作ったモルタル(JIS R 5210に準拠)を基準として、細骨材100重量部に対して糖化後及び糖化・発酵・蒸留後の残渣物〔実施例セメント混和剤に同じ〕を0〜50重量部(以下、単に%表示する)の5%刻みでモルタル中に混合して出来上がるセメント組成物〔以下、残渣モルタルという〕を三連型枠の中に入れて気中養生と水中養生の試験体を作製し28日間養生後〔実施例モルタル硬化体材料に同じ;以下、残渣モルタル硬化体〕、曲げ試験と圧縮試験を行い、その力学的特性についてまとめる。
【0022】
上記の残渣物は、紙繊維のエタノール化処理残渣物である。より詳しくは、裁断紙その他の古紙由来の紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生する未反応固形残渣物であって、セルロースおよび/またはヘミセルロースからなるものである。
【0023】
2.実験計画
まず、供試モルタルは上記の標準配合比(JIS R 5210に準拠)で作製する。そのモルタル中に細骨材重量に対する残渣物の割合を0%〜50%、5%刻みの11種の残渣モルタル試験体を作製し、その強度試験を28日後に行う。その際、残渣物は糖化後のものと、糖化・発酵・蒸留後のものを用いた。残渣物の違いによる試験体も併せて作製した。その力学的特性の比較も併せて行うものとする。
【0024】
(2.1)試験体作製及び試験体数
試験体は、モルタルを組成する各材料を配合後混練し、三連型枠挿入後、気中養生と水中養生を施すことにより作製した。
【0025】
試験体の寸法は、幅40mm×縦40mm×長さ160mm であり、1種類について気中養生・水中養生のそれぞれ3体ずつで11種類、計66体を作製した。試験体の作製方法は、まずセメント 600gと細骨材(以後、砂と呼ぶ)を1200g天秤で正確に計る。計測後、普通モルタルは、水を 360g計り、それらをステンレス製のポールに入れて3〜5分程度よく混練する。
【0026】
また、残渣物混入の場合は、標準モルタル配合に、さらに砂1200gの5%〜50%、5%刻み、すなわち60g、 120g、 180g、 240g、 300g、 360g、 420g、 480g、 540g、 600gの10種類の残渣物を計りポールに入れて上述と同じ方法で残渣モルタルを作製する。残渣物の重量は水を除いた純粋なものを用いている。出来上がった、残渣モルタルは三連型枠に入れて、24時間気中養生後、1種類に3体ずつ脱型して気中養生と水中養生に分けて試験前日まで養生した。
【0027】
(2.2)試験方法
試験体は4週間(28日)経過後、気中養生ものと水中から引き揚げた試験体の表面を良く拭き、それぞれの重量と寸法を計測し、記録する。その後、曲げ試験用は試験体中央下端にストレインゲージを貼り、円柱テストピースは2枚を圧縮用、2枚をポアソン用に貼った。貼付けたストレインゲージは歪測定器に取り付けて、曲げ試験及び圧縮試験を行った〔図示省略〕。実験結果及びフロー値は下記に示すとおりである。
【0028】
3.実験結果
以上のような実験方法によって残渣モルタル硬化前のフレッシュモルタル時の軟らかさを表すフロー値の測定値及び残渣モルタル硬化体の曲げ試験と圧縮試験を行った結果は下記のとおりである。
【0029】
すなわち、図1には残渣モルタルの中の残渣物重量比によるフレッシュモルタルの軟らかさを示すフロー値、すなわちモルタルの広がりの関係を示した。
【0030】
また、図2には試験体重量を密度で表わし、残渣物重量比による密度比較を示した。さらに、気中養生と水中養生による曲げ強度と残渣物重量比の関係及び圧縮強度と残渣物重量比の関係をそれぞれ図3及び図4に示した。
【0031】
図5及び図6には気中養生と水中養生の残渣物重量比による曲げ歪量及び圧縮歪量の関係をそれぞれ示した。
【0032】
図7に養生比較による曲げ強度と最大曲げ歪量の関係、図8に養生比較による圧縮強度と最大圧縮歪量の関係、及び図9に養生比較による残渣物重量比とヤング係数の関係をそれぞれ示した。
【0033】
4.考察及び比較検討
その実験結果を踏まえて次のように考察される。
【0034】
(4.1)フロー試験
図10に示すように糖化後の場合、残渣物重量比0%は 140mmから 230mmに広がったのに対し、残渣物重量比5%は 110mmから 220mmであった。すなわち、軟度については殆ど同じ傾向であった。それに対し残渣物重量比10%−25%は80mmから 140mm〜100mm と急激に広がりが小さくなった。さらに、残渣物重量比30%〜50%については、殆ど広がりはなかった。
【0035】
図1は糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)の残渣モルタルのフロー試験結果の比較したものである。それによると、残渣物重量比5%では殆ど差が無かったが、それ以外の残渣物重量比では糖化・発酵・蒸留後(*2)の残渣モルタルの方が糖化後(*1)の残渣モルタルより軟らかさが大きい。これは、糖化・発酵・蒸留後(*2)の残渣モルタルの方が軟らかくする作用があったものと考えられる。
【0036】
(4.2)試験体の密度比較
図11は通常のモルタルに残渣物をセメント量に対して5%刻みで0%〜50%まで混入して求めた糖化後(*1)の残渣物重量比に対する密度変化である。水中養生は▲で表わし、気中養生は△で表わした。図11からわかるように、水中養生及び気中養生ともに残渣物重量比が大きくなると密度は小さくなる傾向を示した。ここで、水中養生では残渣量が増加すると、ほぼ直線的に減少傾向を示した。それに対し、気中養生では残渣物重量比が0%〜20%までは、ほぼ直線的に推移するが25%で若干高くなり、30%〜35%では急激に0.0005[g/mm3] 程度小さくなり、それ以降はほぼ同一の密度で推移した。最終的に(45%以上で)、水中養生では0.0003[g/mm3] 程度の密度減少に対し、気中養生では 0.00076[g/mm3] 程度の密度減少であった。
【0037】
図12は通常のモルタルに残渣物をセメント量に対して5%刻みで0%〜50%まで混入して求めた糖化・発酵・蒸留後(*2)の残渣物重量比に対する密度変化である。水中養生は●で表わし、気中養生は○で表わした。図12からわかるように、水中養生及び気中養生ともに残渣物重量比が大きくなると密度は小さくなる傾向を示した。また、水中養生と気中養生を比較すると、気中養生の方が水中養生より小さくなることがわかった。この結果の相違は、気中養生では試験体内の水分(余剰水)の蒸発と残渣物重量比増加が寄与する軽量化の促進であり、水中養生では残渣物重量比増加のみが寄与する軽量化の促進であると認められる。
【0038】
図1において、水セメント比60%の普通モルタルは水のようになりフローテーブルの直径 300mmを超えてしまうので、このグラフの中には印を記していない。
【0039】
それに対して残渣物重量比が5%〜20%では 210mm〜126mm と急速にモルタルが固くなる傾向を示すが、それ以降の20%〜50%では 130mm前後でほぼ横ばいに推移する傾向を示した。すなわち、残渣物重量比が0%から20%へ混入量が増加すると残渣モルタルは急速に硬くなり、混入量(残渣物重量比)が20%を超えるとほぼ一定の固さで推移することがわかった。
【0040】
また、図2の糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)との比較では、水中養生(●▲)では糖化・発酵・蒸留後(*2)の方が若干密度が小さくなるが、その差は小さい。それに対して気中養生(○△)では残渣物重量比30%以降でかなり大きな差が生じた。従って、30%以降では糖化後(*1)の残渣モルタルの方が密度が小さくなることがわかった。
【0041】
(4.3)各試験体の曲げ強度比較
図3は残渣物重量比を0%〜50%とした糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)のそれぞれの残渣モルタルについて曲げ強度を比較したものである。水中養生は●と▲で表わし、気中養生は○と△で表わした。
【0042】
図3からわかるように、糖化後(*1)の水中養生(▲)、気中養生(△)とも残渣物重量比が0%〜35%と大きくなるに従って小さくなる傾向を示した。その後、水中養生(●)では35%〜45%において若干の増加傾向を示した。気中養生(○)では、ほぼ一定であったが、曲げ強度は非常に小さい。
【0043】
また、糖化・発酵・蒸留後(*2)の残渣モルタルは残渣物重量比が0%〜15%までは、ほとんど曲げ強度は減少せず、20%〜50%と増加させると徐々に減少する傾向を示した。特に、5%と15%は普通モルタルよりも曲げ強度が大きくなった。また、残渣物重量比20%〜30%の場合でも4N/mm2 〜5N/mm2 と強度がかなりみられることがわかった。
【0044】
糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)との曲げ強度比較では、図3より水中養生は糖化・発酵・蒸留後(*2)の方(●)が全体的に小さい。それに対して気中養生では残渣物重量比30%まではほぼ近似しているが、それ以降は糖化後(*1)の方(△)が若干小さくなっている。
【0045】
(4.4)各試験体の圧縮強度比較
図4からわかるように、糖化後(*1)の残渣モルタルの残渣物重量比に対する圧縮強度は、水中養生(▲)及び気中養生(△)ともに0%〜20%で急激に小さくなるが、それ以降は、水中養生(▲)がほぼ一定になるのに対し、気中養生(△)ではさらに小さくなることがわかった。
【0046】
また、糖化・発酵・蒸留後(*2)は残渣物重量比が0%〜50%と増加すると、圧縮強度は急激に減少する傾向を示した。しかし、5%〜10%の5%で15 N/mm2減少を示したが、10%〜15%までは18 N/mm2〜20N/mm2 もあり、実用的には使用可能な範囲にあることがわかった。20%以降においては圧縮強度が 15N/mm2以下になり実用的には適さないことがわかる。
【0047】
図4の糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)の比較では気中養生(〇△)は非常によく似た関係が得られたが、水中養生(●▲)では糖化・発酵・蒸留後(*2)の方(●)が若干大きく出ている。しかし、全体的な傾向の差は殆ど見られなかった。
【0048】
(4.5)曲げ歪量の比較
図5は気中養生(〇△)・水中養生(●▲)における糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)の最大曲げ歪量と残渣物重量比の関係を表したものである。
【0049】
図5より糖化後(*1)では気中養生(△)の場合、残渣物重量比が0%〜50%と大きくなるごとに最大曲げ歪量は小さくなる傾向を示した。それに対し水中養生(▲)の場合、0%〜35%にかけて同様な傾向であったが、35%〜40%で2200μまで急激に増大し、50%値では 500μ程度まで減少した。
【0050】
糖化・発酵・蒸留後(*2)では気中養生(〇)の場合、残渣物重量比が0%〜10%で曲げ歪量は増大するが、15%値では 500μ以下に減少し50%まで殆ど変化はなかった。それに対し水中養生(●)の場合、残渣物重量比が0%〜15%で曲げ歪量は増大するが、20%値で 500μ以下に減少し50%までは 200μ〜 800μ範囲で変動した。
【0051】
(4.6)圧縮歪量の比較
図6は糖化後(*1)の気中養生(△)と糖化・発酵・蒸留後(*2)の水中養生(●)におけるの最大圧縮歪量と残渣物重量比の関係を表したものである。図から理解されるように、糖化後(*1)の気中養生(△)では残渣物重量比が0%〜50%と大きくなるごとに最大圧縮歪量は若干小さくなる傾向を示したが、その差はわずかである。それに対して糖化・発酵・蒸留後(*2)の水中養生(●)では残渣物重量比が35%で大きく減少するが、全体としては残渣物重量比が0%〜50%と高くなると増加する傾向を示した。両養生とも残渣物重量比が増加すると靭性が増加する傾向がみられ、その原因は繊維中のセルロースが影響しているものと考えられる。
【0052】
(4.7)曲げ強度と曲げ歪量の関係
図7は糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)における気中養生(○△)と水中養生(●▲)の曲げ強度と最大曲げ歪量の関係を表したものである。その図より、両養生とも糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)に関係なく、曲げ強度が増加するほど最大曲げ歪量も増加する傾向が見られた。
【0053】
(8)圧縮強度と圧縮歪量の関係
図8は糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)における気中養生(△)と水中養生(●)の圧縮応力度と最大圧縮歪量の関係を表したものである。その図から糖化後(*1)の気中養生(△)では圧縮強度が増加すると最大圧縮歪量は若干増加する傾向を示した。
【0054】
それに対して、糖化・発酵・蒸留後(*2)の水中養生(●)では圧縮強度が増加しても圧縮歪量は増加しない傾向を示した。この原因は、水中養生の場合、セメントと水が水和反応して圧縮強度が気中養生よりも増加し、さらに残渣物に水分が含まれるため気泡のような役割をするものと考えられる。そのため靭性が増加すると考えられ、水中養生は強度も靭性もあるといえる。一方、気中養生は紙質の水分が経過日数と共に減少するため体積が縮小し、空隙ができ圧縮強度と共に靭性も減少するものと考えられる。
【0055】
以上のとおり、残渣モルタル硬化体の圧縮強度は残渣物重量比が15%までの範囲なら気中及び水中に関らず 18N/mm2以上の圧縮強度が得られることから、モルタルとして使用可能範囲であるがわかった。また、圧縮歪量もほぼ普通モルタルと同程度以上であることがわかった。このことから、残渣物重量比は5%〜15%の範囲で有効である。
【0056】
(4.9)残渣モルタル硬化体の剛性について
図9は、糖化・発酵・蒸留後(*2)の残渣モルタル硬化体のヤング係数を残渣物重量比の関係で表したものである。その結果、残渣モルタル硬化体の剛性を表すヤング係数は、気中養生(○)では残渣重量比に応じて小さくなっているが、水中養生(●)では5%〜15%の範囲で剛性低下が見られなかったが、20%以後は急激な剛性低下を示している。これらのことから、気中・水中養生とも、5%〜15%の範囲の剛性であれば残渣モルタル硬化体として床材などの構造用材に使用可能であると考える。また、20%〜30%の範囲の残渣モルタルは剛性が若干小さいが内装壁に使用可能といえる。
【0057】
5.まとめ
糖化後及び糖化・発酵・蒸留後の残渣物は普通モルタル中に残渣物重量比(細骨材重量に対する残渣物重量の割合)で残渣物を混入して残渣モルタルとして用いた場合、それぞれのフレッシュな残渣モルタルや残渣モルタル硬化体の力学的性質にどのような影響を与えるのかについて比較検討を行った。また、糖化後及び糖化・発酵・蒸留後の残渣物を用いて作製した残渣モルタル硬化体の強度比較を行い、どちらの残渣物の方が力学的特性に有利に作用するかを合わせて比較検討を行った。
【0058】
その結果、次のことがわかった。
(1)フレッシュ残渣モルタルは糖化後よりも糖化・発酵・蒸留後のものを用いた方が軟らかい残渣モルタルが作製できることがわかった。
(2)密度比較では、水中養生が気中養生よりも密度が増加することがわかった。それは残渣モルタル硬化体にかなりの水分が気中養生よりも多量に含まれているためと考えられる。
(3)曲げ強度及び圧縮強度とも残渣物重量比が増加すると、それに比例して強度が減少することが確認された。その割合は、水中養生では、糖化後の残渣モルタル硬化体が強度を増加させる作用がみられたが、気中養生では糖化後及び糖化・発酵・蒸留後の強度差は殆どなかった。
(4)残渣モルタル硬化体の剛性を表すヤング係数は、気中養生では残渣重量比に応じて小さくなっているが、水中養生では5〜15%の範囲で剛性低下が見られなかった。すなわち、構造体に使用可能な範囲と考えられる。
(5)靭性は、基本的には曲げ強度が増加すると、それに比例して靭性は増加するが、圧縮強度は今日が増加してもそれが靭性増加に繋がらないことがわかった。
【0059】
以上のことから建築用材として用いる場合は2つ考えられる。一つは構造材として、もう一つは非構造材(例えば内装材)としての実用可能性である。
【0060】
上記した力学的特性のとおり、糖化後と糖化・発酵・蒸留後における残渣モルタルの配合条件(実験結果の範囲内)では、構造材として用いる場合は残渣物重量比が0%〜15%範囲、また、内装材等の非構造材として用いる場合は0%〜30%範囲でそれぞれ使用可能な強度と靭性が得られた。
【0061】
さらに、残渣物を配合することによる材料の軽量化が図れる。図13に、糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)における養生比較による残渣物重量比と試験体の重量軽減比の関係を示すように、気中養生(〇△)では糖化後(*1)及び糖化・発酵・蒸留後(*2)ともに普通モルタル重量に比して残渣物重量比15%で10%重量軽減、同30%で14%重量軽減、同35%以上では35〜36%重量軽減となっている。
【0062】
一方、水中養生(●▲)では糖化後及び糖化・発酵・蒸留後(*2)ともに残渣物重量比15%で6%重量軽減、同30%で10%重量軽減、同35%以上では12〜13%重量軽減となっている。
【0063】
また、糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)における残渣物の重量軽減(比)への寄与は、残渣物重量比30%までは気中養生(○△)、水中養生(●▲)ともに殆ど変わらないが、35%以上では糖化後の気中養生において大幅に重量軽減(軽量化)している。
【0064】
以上のことから、残渣物を通常に(上記実用材として)用いる場合、糖化後(*1)と糖化・発酵・蒸留後(*2)で気中養生、水中養生ともに殆ど差はなく、その重量軽減量(軽量化の効果)はそれぞれ10〜15%であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明材料は、残渣物の細骨材への配合において適切な残渣物重量比をもってすれば、構造材及び内装材(非構造材)として選択的に使用可能であり、新たな軽量化建築用材として有用である。
【符号の説明】
【0066】
*1 糖化後
*2 糖化・発酵・蒸留後

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタルその他のセメント組成物において、
細骨材100重量部のうち5〜20重量部の割合で配合され、紙繊維のエタノール化処理残渣物からなることを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】
紙繊維のエタノール化処理残渣物が、裁断紙その他の古紙由来の紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生した未反応固形残渣物であって、セルロースおよび/またはヘミセルロースからなるものである請求項1記載のセメント混和剤。
【請求項3】
モルタルその他のセメント組成物において、
細骨材100重量部のうち、紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生した未反応固形残渣物を5〜20重量部配合してなることを特徴とするセメント組成物。
【請求項4】
紙繊維が裁断紙その他の古紙由来のものであり、未反応固形残渣物がセルロースおよび/またはヘミセルロースからなるものである請求項3記載のセメント組成物。
【請求項5】
モルタル硬化体材料において、
標準的なモルタル配合における細骨材100重量部のうち、紙繊維を原料とするバイオエタノールの生産過程で副生した未反応固形残渣物を5〜20重量部配合し、混練り後、気中養生又は水中養生してなることを特徴とするモルタル硬化体材料。
【請求項6】
紙繊維が裁断紙その他の古紙由来のものであり、未反応固形残渣物がセルロースおよび/またはヘミセルロースからなるものである請求項5記載のモルタル硬化体材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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