説明

セメント混和材及びセメント組成物

【課題】
貯蔵設備や冷却設備などの特別な設備を必要とせず、硬化不良を起こすことなく、水和熱低減効果が十分に持続するセメントの水和熱低減手段の提供を目的とする。
【解決手段】
融点が40〜80℃の被覆材で尿素を被覆したセメント混和材を提供する。また、上記被覆材がパラフィンであるセメント混和材を提供する。さらに、これらのセメント混和材とセメントとを含有してなるセメント組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野において使用されるセメント混和材及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートなどのセメント硬化体が硬化する時には、セメントの水和反応による発熱が生じる。この水和発熱は、一般には練り混ぜ後2〜3日で最高温度に達し、断面の大きな部材(マスコンクリート)や単位セメント量の多いコンクリートなどの場合は、最高温度が80℃以上に達する場合もある。その結果、硬化体の外部と内部との間に温度差が生じて硬化体に部分的なひずみやひび割れが発生する。あるいは、硬化体の温度が急激に上昇した後、降下するときの応力で硬化体に熱応力ひび割れが発生するなどの問題が生じる場合がある。このようなひび割れはセメント硬化体の耐久性を低下させる要因となるため、発熱量を低減するために、従来は以下のような方法が用いられていた。
【0003】
普通ポルトランドセメントに比べて水和発熱量が低い低熱ポルトランドセメントあるいは中庸熱ポルトランドセメントを使用することで、マスコンクリートなどにおける温度上昇を抑制することができる。しかしながら、レディミクストコンクリート工場では、セメント貯蔵設備上の制約などから低熱あるいは中庸熱セメントを常備しておくことが難しいという問題があった。
【0004】
セメントの一部を高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどで代替する方法がある。しかし、初期強度の発現が小さく、型枠の脱型が遅れるなどの問題があった。
【0005】
液体窒素や氷等を用いて、練り混ぜ時、または練り混ぜ後のコンクリートを冷却する方法、あるいはコンクリートに使用する骨材を練り混ぜ前に冷却する方法がある。しかし、これらの方法では低温状態が長く維持できず、施工時間が限定されること、さらに、施工現場ごとに特殊な冷却設備が必要となるなどの問題があった。
【0006】
クエン酸やグルコン酸などの有機酸、あるいはデキストリンなどの水和遅延効果のある成分をセメント組成物に混入する方法がある。デキストリンは、一般に化工澱粉と呼ばれ、澱粉を加水分解したものである。デキストリンをコンクリートに添加すると、コンクリートの温度上昇に従い、コンクリート中の水に徐々に溶解しながらセメントの水和を抑制する。これらの水和遅延効果のある成分をセメント組成物に混入すると、水和熱の発生を遅延または緩やかにする効果により水和発熱量を低減することができる。しかし、過大な水和遅延により硬化不良が生じたり、コンクリートがおかれる環境条件(放熱条件)によっては所要の水和発熱量の低減効果が得られないという問題があった。
【0007】
さらに、尿素の加水分解反応に基づく吸熱反応を利用し、尿素をセメント組成物に混入することで水和熱に起因した温度上昇を低減する方法がある(特許文献1に付加的効果として記載、非特許文献1及び2参照)。しかし、尿素の加水分解反応は、尿素が水と接触すると極めて急速に進むため、練り混ぜ時から(尿素と水が接触してから)短時間しか温度低減効果が得られず、十分な効果を発揮させるためには尿素の添加量が多く必要になるなどの問題があった。また、尿素は吸湿性が高いため、保存や取扱いが難しいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−156978号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「高流動コンクリートの水和熱低減に関する研究」、コンクリート工学年次論文報告集、第17巻第1号、1995年、p87−p92
【非特許文献2】「尿素を用いたコンクリートの諸特性」、コンクリート工学年次論文報告集、第29巻第1号、2007年、p639−p644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、貯蔵設備や冷却設備などの特別な設備を必要とせず、硬化不良を起こすことなく、水和熱低減効果が十分に持続するセメントの水和熱低減手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、融点が40〜80℃の被覆材で尿素を被覆したセメント混和材を提供する。また、上記被覆材がパラフィンであるセメント混和材を提供する。さらに、これらのセメント混和材とセメントとを含有してなるセメント組成物を提供する。
【0012】
吸熱作用を有する尿素を所定の融点の被覆材で被覆することにより、セメント組成物と水とを混合したときに、被覆された尿素は、直ちには水と接触しない。セメントの水和熱によりコンクリートの温度がある程度以上に上昇した後に被覆材が溶融して尿素と水が接触し、尿素の加水分解による吸熱作用によって、水和熱を低減する効果を発揮する。そのため、セメントの水和反応を大きく遅延させることなく、コンクリートが発熱するタイミングに応じて効果的に水和熱を低減することができる。
【0013】
なお、本発明の説明において、コンクリートとは、特に限定しない時は、モルタルやセメントペーストを含む広い概念を示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸熱作用を有する尿素を所定の融点の被覆材で被覆することにより、コンクリートの温度がある程度以上に上昇した後に被覆材が溶融し、尿素と水が接触して水和熱を低減する効果を発揮するため、セメントの水和反応を大きく遅延させることなく、コンクリートが発熱するタイミングに応じて効果的に水和熱を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】練り上がり後のセメントペースト温度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用する尿素は、化学式(NH22COで表される窒素化合物であり、試薬や工業薬品など公知のものを使用することができる。尿素の粒径は100〜1000μm程度が好ましい。粒径が小さいと被覆材が多量に必要になり、粒径が大きいと被覆が困難になる場合があるため好ましくない。
【0017】
尿素の配合量は、セメント100重量部に対して尿素が5〜15重量部とするのが好ましい。尿素が5重量部未満では十分な水和熱低減効果が得られない場合があり好ましくない。15重量部を超えると十分な水和熱低減効果を発揮した上に余剰が生じ、不経済となるため好ましくない。
【0018】
本発明で使用する被覆材は、常温では固体で、温度が上昇すると、40℃に達する前に溶融し始め、80℃で完全に溶融するものであることが望ましい。すなわち、セメントの水和熱によるコンクリート温度の上昇に従い、コンクリート温度が40℃に達する前に被覆された尿素の放出が始まり、80℃に達するまでに放出が完了することが望ましい。したがって、被覆材の融点が40〜80℃であることが好ましい。50〜70℃であれば、より好ましい。
【0019】
被覆材は、上記の融点を有するものであれば、特に限定されないが、入手や扱い易さから、パラフィンやワックス等の非揮発性炭化水素化合物が好ましく、特にパラフィンが適当な融点を有し、好ましい。
【0020】
尿素を被覆材で被覆する方法は限定するものではないが、溶融した被覆材中に尿素を分散してから冷却固化後に粉砕する方法や、気中懸濁被覆法などの方法が好適に利用できる。気中懸濁被覆法は、気中懸濁している芯粒子に壁膜剤を含むコーティング溶液を噴霧することにより、芯粒子の表面にコーティングを進行させ皮膜を形成させるものである。適度な粒度に調整した尿素を芯粒子とし、加温溶融した被覆材をコーティング溶液として用いることで、尿素を被覆材で被覆したセメント混和材を製造することができる。
【0021】
尿素に対する被覆材の割合が少ないと皮膜が薄くなり、練り混ぜ時に皮膜が破損しやすくなるため好ましくない。逆に被覆材の割合が多すぎるとセメント混和材中の尿素の割合が少なくなり、セメント混和材の添加量が多くなるため不経済である。そのため、尿素に対する被覆材の割合は、尿素100重量部に対し被覆材20〜80重量部が好ましい。なお、尿素は吸湿性が高い材料であるため、尿素を被覆材で被覆することで、保存や取扱いを容易にできるという利点もある。
【0022】
本発明のセメント混和材の使用量は特に限定されるものではないが、前述のとおり、セメント100重量部に対してセメント混和材に含有される尿素が5〜15重量部となるようにセメント混和材を使用するのが好ましい。
【0023】
本発明のセメント組成物は、上記セメント混和材とセメントを混合して製造する。使用するセメントは特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカを混合した各種混合セメント、あるいはエコセメントなどを使用することができる。また、減水剤、消泡剤、増粘剤、膨張材、収縮低減剤、シリカフュームや石灰石微粉末等、砂や砂利等の骨材などを、本発明の目的を阻害しない範囲で使用できる。混合方法は特に限定されるものではなく、パン型ミキサー、傾胴ミキサー、オムニミキサー、ホバートミキサーなど公知のミキサー等が使用できる。
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これによって本発明を限定するものではない。
【0025】
〔使用材料〕
セメント(太平洋セメント社製):普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント
尿素(関東化学 純度98%)
パラフィン(和光純薬工業 融点42〜44℃、52〜54℃、62〜64℃)
デキストリン(日澱化学 20℃における冷水可溶分50重量%)
【0026】
〔実施例〕
表1に示す配合比率で、湯せん80℃で溶融したパラフィンに尿素を分散し、20℃に冷却して固化した後、フードプロセッサー(テスコム社製 TK430)を用いて粉砕して本発明のセメント混和材を調整した。普通ポルトランドセメントに対し、調整したセメント混和材(A〜E)及び水を添加し、ホバート型万能ミキサーを用いて3分間混練してセメントペーストを調整し、円筒形デュワー瓶(内径85mm、容量1リットル)に充填してセメントペースト温度を72時間測定した。セメントペーストの配合割合を表2に、セメントペースト温度の測定結果を表3に、実施例1〜3の練り上がり後のセメントペースト温度の経時変化を図1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
〔比較例1〜3〕
普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントのそれぞれ100重量部に対し水を40重量部添加して3分間混練し、実施例と同様にデュワー瓶を用いてセメントペースト温度を72時間測定した。セメントペーストの配合割合を表2に、セメントペースト温度の測定結果を表3に、練り上がり後のセメントペースト温度の経時変化を図1に示す。
【0029】
〔比較例4、5〕
尿素を被覆なしに、普通ポルトランドセメント100重量部に対し10、20重量部添加し、水を40重量部添加して3分間混練し、実施例と同様にデュワー瓶を用いてセメントペースト温度を72時間測定した。セメントペーストの配合割合を表2に、セメントペースト温度の測定結果を表3に示す。
【0030】
〔比較例6〜8〕
デキストリンを普通ポルトランドセメント100重量部に対し0.5、1、2重量部添加し、水を40重量部添加して3分間混練し、実施例と同様にデュワー瓶を用いてセメントペースト温度を72時間測定した。セメントペーストの配合割合を表2に、セメントペースト温度の測定結果を表3に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
図1及び表3に示すように、普通ポルトランドセメントを単独で使用した比較例1では、最高温度が92.5℃に達しており、最高温度と練り上がり温度の温度差も69.8℃と大きくなっている。これに対し、実施例1〜7は、いずれも最高温度が80℃以下であり、かつ最高温度と練り上がり温度の温度差が60℃以下に抑えられている。本発明のセメント混和材の添加量を増すほど、この水和熱抑制効果は大きくなっており、セメント混和材(種類A)をセメント100重量部に対して12重量部配合した実施例2では、中庸熱ポルトランドセメントを単独で使用した比較例2よりも水和熱抑制効果が大きい。また、セメント混和材(種類A)をセメント100重量部に対して16重量部配合した実施例3では、低熱ポルトランドセメントを単独で使用した比較例3に近い水和熱抑制効果が発揮されている。
【0034】
一方、普通ポルトランドセメントに対して被覆なしに尿素を配合した比較例では、尿素の配合量が10重量部(比較例4)の場合は、最高温度と練り上がり温度の温度差が60℃以上であり、水和熱抑制効果が十分とは言えず、尿素の配合量が20重量部(比較例5)の場合は、最高温度到達時間の材齢が50時間を超えており、セメントの水和反応が大きく遅延していると考えられる。
【0035】
また、普通ポルトランドセメントに対してデキストリンを配合した比較例6〜8では、材齢が72時間を超えても最高温度に到達せず、水和反応が著しく遅延していると考えられる。これに対して、実施例1〜7は、いずれも最高温度到達時間の材齢が32時間未満となっており、本発明のセメント混和材は、セメントの水和反応を大きく遅延させることなく、水和熱を効果的に抑制していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のセメント混和材及びセメント組成物は、セメントの水和反応を大きく遅延させることなく、水和発熱量を効果的に低減できるため、土木・建築分野における単位セメント量の多いコンクリートやマスコンクリートなどに適用することにより、温度ひび割れの発生を抑制できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が40〜80℃の被覆材で尿素を被覆したセメント混和材。
【請求項2】
被覆材がパラフィンである請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメント混和材とセメントとを含有してなるセメント組成物。

【図1】
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