説明

セメント添加材及びセメント組成物

【課題】セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、強度発現性の低下が小さいセメント添加材及び該セメント添加材を添加してなるセメント組成物を提供する。
【解決手段】SiO2量が40〜75質量%、CaO量が5〜55質量%、Al2O3量が5〜30質量%で、ガラス化率が50質量%以上である加熱物を粉砕してなるセメント添加材、及びセメントに対して前記セメント添加材を内割で50質量%以下含有するセメント組成物。
セメント添加材は、さらに石膏を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度低下の小さいセメント添加材及び該セメント添加材を添加してなるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、経済成長、人口の都市部への集中に伴い、産業廃棄物や一般廃棄物等が急増している。従来、これらの廃棄物の大半は、焼却によって十分の一程度に減容化して埋め立て処分されているが、近年、埋め立て処分場の残余容量が逼迫していることから、新しい廃棄物処理方法の確立が緊急課題になっている。
セメント産業では産業廃棄物や一般廃棄物を原料として多く使用しており、今後さらなる使用量の増大が求められている。しかしながら、産業廃棄物や一般廃棄物は天然原料に比べてAl2O3分に富むため、単純にこれらの使用量を増大すると、セメントクリンカー中の3CaO・Al2O3が増大し、モルタルやコンクリートとして使用した場合に水和熱の増加、流動性の悪化等を引き起こす。この課題に対処するため、産業廃棄物等をより多く原料として使用できる焼成物を製造し、これをセメント添加材として使用することが考えられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−171154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、ガラス化率が10%以下のゲーレナイトをセメント添加材として使用するものであるが、セメントへの添加量が内割で10〜50質量%と大きくなると、セメント組成物の長期強度発現性が極端に低下するため、セメントへの添加量が制限されるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明においては、産業廃棄物、一般廃棄物や建設発生土等を原料としたものであって、セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、強度発現性の低下が小さいセメント添加材及び該セメント添加材を添加してなるセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の化学組成と特定の鉱物組成を有する加熱物の粉砕物であれば、セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、セメント組成物の強度発現性の低下が小さくなることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、SiO2量が40〜75質量%、CaO量が5〜55質量%、Al2O3量が5〜30質量%で、ガラス化率が50質量%以上である加熱物を粉砕してなるセメント添加材を提供するものである。また、本発明は、セメントに対して、前記セメント添加材を内割で50質量%以下含有するセメント組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント添加材は、産業廃棄物、一般廃棄物等を原料として用いることができるので、廃棄物の有効利用の促進にも貢献することができる。また、本発明のセメント添加材は、セメントへの添加量を10質量%以上とした場合であっても、セメント組成物の強度発現性の低下を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用する加熱物は、SiO2量が40〜75質量%、CaO量が5〜55質量%、Al2O3量が5〜30質量%で、ガラス化率が50質量%以上のものである。
加熱物中のSiO2量、CaO量及びAl2O3量が上記範囲外では、原料としての廃棄物の使用量が少なくなったり、セメント組成物の流動性や強度発現性の低下が大きくなることがあるので好ましくない。加熱物中のSiO2、CaO及びAl2O3の好ましい量は、原料としての廃棄物の使用量や、セメント組成物の流動性や強度発現性等から、SiO2量が55〜73質量%、CaO量が8〜35質量%、Al2O3量が10〜25質量%である。
なお、本発明で使用する加熱物においては、SiO2、CaO及びAl2O3以外の成分(具体的には、Fe2O3、MgO、TiO2、SO3やアルカリ等)を、8質量%以下(より好ましくは7質量%以下)含むことは差し支えない。
【0009】
本発明で使用する加熱物は、ガラス化率が50質量%以上(より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上)のものである。ガラス化率を高くすることにより、セメント組成物の強度発現性を向上させることができる。ガラス化率が50質量%未満では、セメント組成物の強度発現性が大きく低下することがある。
なお、ガラス以外の結晶質鉱物としては、アノーサイトやゲーレナイト等のアルミノ珪酸塩化合物の他に、メリライト、石英、ウォラストナイト、ランキナイト、ムライト、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、エーライト、ビーライト、アルミネート及び、フェライト等が混在することがある。
ガラス化率や結晶質鉱物は、例えば、粉末X線回折に基づく検量線法や粉末X線回折に基づくプロファイルフィッティング法(リートベルト解析法等)により測定することができる。
【0010】
なお、本発明で使用する加熱物においては、セメント組成物の強度発現性等から、CaO/SiO2質量比は0.1〜0.8が好ましく、0.15〜0.5がより好ましい。
また、セメント組成物の強度発現性等から、加熱物の塩基度は0.2〜1.7が好ましく、0.3〜1.5がより好ましい。
【0011】
本発明で使用する加熱物は、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とし、これを加熱することにより製造することができる。産業廃棄物としては、例えば石炭灰;生コンスラッジ、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥;ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、建設廃材、コンクリート廃材などが挙げられ;一般廃棄物としては、例えば下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。建設発生土としては、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土、さらには廃土壌等が挙げられる。
また、一般のポルトランドセメントクリンカー原料、例えば、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料、珪石、粘土等のSiO2原料、粘土等のAl2O3原料、鉄滓、鉄ケーキ等のFe2O3原料も使用することができる。
【0012】
これらを加熱する際の加熱温度は、1100〜1250℃、特に1150〜1250℃であるのが、加熱工程の熔融相の状態が良好であり、ガラス化率を50質量%以上にできるので好ましい。加熱に用いる装置は特に限定されず、例えばロータリーキルンや電気炉等を用いることができる。ロータリーキルンで加熱する際には、燃料代替廃棄物、例えば廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。
なお、本発明で使用する焼成物は、該加熱物を急冷することにより、ガラス化率を高めることができる。急冷の方法としては、加熱直後の加熱物を水中に投入して冷却する方法や加熱直後の加熱物に散水して冷却する方法等が挙げられる。
【0013】
本発明のセメント添加材は、前記加熱物の粉砕物、又は前記焼成物の粉砕物と石膏とからなるものである。
加熱物の粉砕方法は特に制限されず、例えばボールミル等を用い、通常の方法で粉砕すれば良い。加熱物の粉砕物は、ブレーン比表面積が3000〜7000cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
石膏のブレーン比表面積は、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から、2500〜10000cm2/gであることが好ましい。石膏としては、特に制限されず、例えば二水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明のセメント添加材においては、石膏の含有量は、セメント組成物の強度発現性、水和熱や流動性の観点から、加熱物の粉砕物100質量部に対してSO3換算で6質量部以下が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0015】
本発明のセメント組成物は、上記セメント添加材とセメントを混合することにより得られるものである。セメントとしては、普通ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメントやフライアッシュセメント等の混合セメントを使用することができる。
セメント添加材の添加量は、セメントに対して、内割で50質量%以下が好ましく、廃棄物原料の有効活用や、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減、流動性や強度発現性の観点から、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。セメント添加材の添加量が、セメントに対して、内割で50質量%を越えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
【0016】
また、本発明のセメント組成物には石膏を配合することができ、セメント組成物中に全SO3換算で1.0〜5.0質量%、特に1.5〜4.0質量%、更に1.8〜3.0質量%配合するのが、一般的な凝結性状が得られるので好ましい。
【0017】
本発明のセメント組成物は、セメント添加材とセメントを混合して製造することができるが、その方法は特に制限されず、例えば、ポルトランドセメントクリンカー、加熱物、石膏の配合成分を、混合した後粉砕するか、あるいは各成分を粉砕した後に混合しても良い。また、加熱物又は加熱物と石膏を粉砕して得られたセメント添加材を、セメントクリンカー粉砕物やポルトランドセメントや混合セメントと混合して製造することもできる。得られるセメント組成物は、ブレーン比表面積が2500〜4500cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.実施例1
(1)加熱物の製造:
石灰石と石炭灰の混合物(石炭灰の含有量43質量%)を、電気炉を用いて1190℃で30分間加熱後、室温で放置(空冷)して、加熱物1を製造した。
また、上記混合物を、電気炉を用いて1190℃で30分間加熱後、加熱物を水中に投入して冷却(急冷)して、加熱物2を製造した。
該加熱物の化学組成は、SiO2:60.1質量%、CaO:21.9質量%、Al2O3:13.9質量%、Fe2O3:1.6質量%、MgO:0.8質量%、R2O:0.7質量%、TiO2:0.8質量%で、
鉱物組成は、加熱物1は、ガラス相:76質量%、石英:9.0質量%、アノーサイト:15質量%で、加熱物2は、ガラス相:90質量%、石英:3.7質量%、アノーサイト:6.3質量%であった。
【0019】
(2)セメント添加材の製造
上記加熱物1又は2を、ブレーン比表面積3200±20cm2/gに粉砕して、セメント添加材A(空冷品)とセメント添加材B(急冷品)を製造した。
【0020】
(3)セメント組成物の製造と評価
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)に、上記セメント添加材A又はBを内割で20質量%添加・混合して、セメント組成物を製造した。
得られたセメント組成物について、材齢7日及び28日のモルタル圧縮強さを、「JIS R 5201」に従って測定した。
なお、参考として、純薬合成したゲーレナイト(ブレーン比表面積4000cm2/gでガラス化率0質量%:特許文献1に記載のセメント添加材)を、内割で20質量%添加・混合したセメント組成物についても、材齢28日のモルタル圧縮強さの測定を行なった。
その結果、
(A)本願発明のセメント添加材Aを添加・混合したセメント組成物の圧縮強さは、
材齢7日:35.2(N/mm2)、材齢28日:49.5(N/mm2)であった。
また、(B)本願発明のセメント添加材Bを添加・混合したセメント組成物の圧縮強さは、
材齢7日:37.5(N/mm2)、材齢28日:53.0(N/mm2)であった。
一方、(C)普通ポルトランドセメントの圧縮強さは、
材齢7日:43.1(N/mm2)、材齢28日:57.3(N/mm2)であった。
また、(D)ゲーレナイト粉砕物を添加・混合したセメント組成物の圧縮強さは、
材齢28日:43.0(N/mm2)であった
【0021】
2.実施例2
(1)セメント添加材Cの製造
実施例1で製造した加熱物1をブレーン比表面積6050cm2/gに粉砕して、セメント添加材Cを製造した。
【0022】
(2)セメント組成物の製造と評価
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)に、上記セメント添加材Cを内割で20質量%添加・混合して、セメント組成物を製造した。
得られたセメント組成物について、材齢7日及び28日のモルタル圧縮強さを、「JIS R 5201」に従って測定した。
その結果、
(E)本願発明のセメント添加材Cを添加・混合したセメント組成物の圧縮強さは、
材齢7日:37.6(N/mm2)、材齢28日:53.5(N/mm2)であった。
【0023】
3.実施例3
(1)加熱物の製造:
石灰石と石炭灰の混合物(石炭灰の含有量41質量%)を、電気炉を用いて1250℃で30分間加熱後、室温で放置(空冷)して、加熱物3を製造した。
該加熱物3の化学組成は、SiO2:69.6質量%、CaO:13.3質量%、Al2O3:12.3質量%、Fe2O3:1.4質量%、MgO:0.7質量%、R2O:0.7質量%、TiO2:0.7質量%で、
鉱物組成は、ガラス相:82質量%、石英:18質量%であった。
【0024】
(2)セメント添加材Dの製造
上記加熱物3をブレーン比表面積4500cm2/gに粉砕して、セメント添加材Dを製造した。
【0025】
(3)セメント組成物の製造と評価
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)に、上記セメント添加材Dを内割で10質量%添加・混合して、セメント組成物を製造した。
得られたセメント組成物について、材齢7日及び28日のモルタル圧縮強さを、「JIS R 5201」に従って測定した。
なお、参考として、純薬合成したゲーレナイト(ブレーン比表面積4000cm2/gでガラス化率0質量%:特許文献1に記載のセメント添加材)を、内割で10質量%添加・混合したセメント組成物についても、材齢28日のモルタル圧縮強さの測定を行なった。
その結果、
(F)本願発明のセメント添加材Dを添加・混合したセメント組成物の圧縮強さは、
材齢7日:39.2(N/mm2)、材齢28日:52.0(N/mm2)であった。
一方、(C)ゲーレナイト粉砕物を添加・混合したセメント組成物の圧縮強さは、
材齢28日:48.7(N/mm2)であった
【0026】
上記のように、本発明のセメント添加材を使用したモルタルでは、強度発現性の低下が小さかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2量が40〜75質量%、CaO量が5〜55質量%、Al2O3量が5〜30質量%である加熱物を粉砕してなるセメント添加材であって、
上記加熱物のガラス化率が50質量%以上であることを特徴とするセメント添加材。
【請求項2】
加熱物の粉砕物100質量部に対して、石膏をSO3換算で6質量部以下含有する請求項1記載のセメント添加材。
【請求項3】
セメントに対して、請求項1又は2に記載のセメント添加材を内割で50質量%以下含有するセメント組成物。
【請求項4】
石膏を、SO3換算で1.5〜5質量%含有する請求項3記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2011−230949(P2011−230949A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101585(P2010−101585)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】